刑法ゼロから刑法#100

同意殺人と普通殺人罪の区別

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第12章 個人的法益①|生命・身体に対する罪 ④/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

前回までの確認——202条という枠

前回の到達点 図:前回の到達点

同意は刑を軽くすることはできますが、犯罪そのものを消すことはできません。生命は、失われれば取り返しがつかず、本人の意思も二度と働きません。だから同意があっても、他人が命を奪う行為は適法になりません——前回そう見ましたね。今日はその続きです。前回の冒頭で出した3つの場面、覚えていますか?覚えています。1つめ、不治の病の友人に頼まれて薬を飲ませた場面。2つめ、追死する気がないのに「一緒に死のう」と言って毒を渡した場面。3つめ、何も分かっていない幼い子に毒を飲ませた場面でしたね。前回は「202条という枠がある」というところまでしか答えていません。今日は、この3つのどれが202条にとどまり、どれが199条に戻るのかを、はっきりさせます。

普通殺人罪との境目——どこまでが同意か

3つの視点、どれか1つ欠けても、同意ではなくなる(4つめはその裏返し) 図:3つの視点、どれか1つ欠けても、同意ではなくなる(4つめはその裏返し)

ここからが今日の山場です。普通殺人罪との境目は、自殺関与罪なら被害者による自殺の決意があったか、同意殺人罪なら殺人への同意があったか、で引かれます。では、その決意や同意が認められるには、何が要るでしょうか。今から見る4つの視点を使えば、その理由がはっきり言えるようになります。1つずつ潰していきましょう。

①死の意味を分かっていたか

分かっていなければ、それは「自殺」ではない 図:分かっていなければ、それは「自殺」ではない

1つめの視点は、死ぬということの意味を、本人が分かっていたかどうかです。死ぬということの意味を理解していない幼児や、判断能力を欠く人を、言葉巧みに誘って死なせた場合、それはそもそも「自殺」とはいえません。判例も、古くからこの立場を示しています。この場合、死の意味を理解していない相手は、行為者にとって道具のようなものです。本人が自分の手で飲んだという形をとっていても、実際には行為者自身が手を下したのと同じに評価されます。総論で見た間接正犯の考え方が、ここでそのまま働きます。冒頭の3つめの場面は、これで199条だと言えます。死の意味を理解していない子どもを利用して死なせているので、殺人罪の間接正犯として、199条にあたります。この視点を1つ外すだけで、6か月以上7年以下だった刑が、死刑を含む刑にまで跳ね上がります。

②自由に決めたか——任意性

判例最決平16・1・20(刑集58巻1号1頁)

命令に応じるほかない状態に置いて飛び込ませた事案 命令に応じる以外の行動を選べない精神状態に置いたうえで、死亡の現実的危険性の高い行為に及ばせた

命令に従う以外の選択肢を奪われた状態 図:命令に従う以外の選択肢を奪われた状態

2つめの視点は、自由な状態で決めたかどうか、任意性です。ある判例を見てみましょう。行為者が、自殺させて保険金を取得する目的で、極度に服従させていた被害者に、車ごと海に飛び込むよう命じた事案です。被害者は命令に従い車ごと海に転落しましたが、途中で漁船に這い上がり、一命を取り留めました。被害者は、自分の意思で車を運転して飛び込んでいますよね。それでも、行為者が手を下したことになるんですか。なります。ここが大事なところです。判例は、単に「自殺の決意が本人の自由な意思に基づいていなかったから同意にならない」という消極的な言い方をしているのではありません。命令に応じる以外の行動を選べない精神状態に被害者を置いたうえで、死亡の現実的な危険性の高い行為に及ばせたことをもって、行為者自身の殺人罪の実行行為だと構成しています。

1つめの視点で見た間接正犯の型が、ここでもう一度出てきます。被害者の身体は、行為者の道具として動いたにすぎない、という構成です。単なる意思決定の自由の話ではなく、殺人罪の実行行為そのものが行為者の側にある、という点を落とさないでください。保険金を得る目的で被害者を死なせようとしていたことも、この結果を「自己の犯罪」として実現する意思があったことを示しています。この構成を採るからこそ、被害者が自分で車を運転していても、行為者自身の殺人罪として結果を評価できます。だからこの事案は、被害者が生き延びたことで殺人未遂になります。同意が無効だというだけの説明では、行為者自身の殺人罪だ、という結論までは出てきません。

この事案では被害者が生存したので、殺人未遂罪にあたります。任意性という視点を外すだけで、やはり199条の領域に戻ります。

③本当にそう思っていたか——真意

判例最判昭33・11・21(刑集12巻15号3519頁)

追死を誤信させた心中と嘱託・承諾の効力 要するに被害者の自由な真意に基かない場合は刑法二〇二条にいう被殺者の嘱託承諾としては認め得られない。 → 本件は通常の殺人罪に該当する

一緒に死ぬと信じさせて、毒を渡す 図:一緒に死ぬと信じさせて、毒を渡す

3つめの視点は、真意です。この判例は、総論で間接正犯を見たときと、承諾の有効要件を見たときに、一度ずつ出てきたものです。判例は、決意や同意が本人の真意に基づいていること、つまり動機に錯誤がないことまで要求しています。判例で扱われた事案も、追死する気がないのに追死すると誤信させて、毒物を飲ませた偽装心中でした。判旨の要旨は、被害者の自由な真意に基づかない場合は、202条にいう嘱託・承諾としては認められない、というものです。Bが受け入れていたのは「2人で死ぬ」という前提です。ところが実際には、Aは最初から死ぬ気がありませんでした。前提となる動機の部分に、重大な食い違いがあります。

動機に食い違いがあれば常にそうなるわけではありません。そこは注意してください。判例が普通殺人罪だと判断したのは、追死すると誤信させたという、この事案の場面に限っての判断です。動機のどんな食い違いでも一律に同意が無効になる、というほど広い話ではありません。ここでは、一緒に死ぬという前提そのものが偽りだった、という重さを見てください。真意に基づかない同意は、同意として扱われません。冒頭の2つめの場面は、これで普通殺人罪だと言えます。

④欺いて、あるいは脅して

欺罔・威迫——3つの視点を裏から見る 図:欺罔・威迫——3つの視点を裏から見る

最後に4つめですが、これは新しい視点というより、1つめから3つめを裏側から見ただけの整理です。欺いて得た「はい」も、脅して得た「はい」も、同意とは扱いません。死の意味を誤解させる、自由を奪う、動機を誤信させる——どれも、欺罔や威迫という一言でまとめて言い表せます。3つの視点を裏から見た言い方として、覚えておいてください。

3つの問いを1枚に畳む

入口は同じ「はい」。出口は視点の数だけ分かれる 図:入口は同じ「はい」。出口は視点の数だけ分かれる

4つめは1つめから3つめの裏返しでしたから、判定で使うのは3つです。その3つを、1枚に畳みます。入口は同じです。本人が「死んでもいい」「殺してほしい」と言った。そこから3回、問いを重ねます。死の意味を理解していたか。自由な状態で決めたか。本当にそう思っていたか。どれか1つでもノーなら、普通殺人罪に戻るんですね。3つとも、イエスで通り抜けて初めて、202条にたどり着きます。冒頭の3つの場面をもう一度見てください。1つめ、不治の病の友人に頼まれた場面は、死の意味を理解し、自由な状態で、真意に基づいて頼んでいます。3つとも通り抜けます。

2つめは、真意のところで止まります。3つめは、死の意味のところで止まります。同じ「本人が受け取って飲んだ」という形でも、この3つの問いをどこまで通り抜けられるかで、結論がはっきり分かれます。

202条にとどまる場合と199条に戻る場合の対比 図:202条にとどまる場合と199条に戻る場合の対比

そして199条に戻る場合は、その形によっては、殺人罪の間接正犯として構成されます。

死ななくても罰する——未遂203

199条と202条、両方を1本の条文が受け止める 図:199条と202条、両方を1本の条文が受け止める

条文刑法203条

刑法203条(未遂罪) 「第百九十九条及び前条の罪未遂は、罰する。」

最後に203条です。殺人罪の回で、未遂のところで読んだ条文ですが、覚えていますか。「前条」というのは、202条のことでしたね。203条は、199条の未遂だけでなく、202条の未遂も罰しています。自殺関与罪であれば、Bが自殺行為を開始したのに死ななかった場合、同意殺人罪であれば、Aが手を下したのに死ななかった場合、どちらも未遂として処罰されます。例えば、Bの嘱託を受けたAが毒物を渡したのに、Bが結局それを飲まなかった場合。あるいは、Aが手を下そうとしたものの、Bが死ななかった場合。どちらも、202条の未遂として203条が受け止めます。

前回見た着手の話が、ここにつながります。自殺関与罪の着手は、Bが自殺行為を開始した時点でした。その時点を過ぎて、結果が生じなかった場合が未遂です。刑の減軽についても、未遂は刑を減軽することができるという43条本文の扱いが、199条のときと同じように働きます。

今日の地図(保存版)

今日の到達点 図:今日の到達点

今日を振り返ります。202条には4つの類型がありました。教唆と幇助で本人が自分の手で死ぬ自殺関与罪、嘱託と承諾で行為者が手を下す同意殺人罪。法定刑は6か月以上7年以下の拘禁刑で、199条よりはるかに軽いものでした。軽くなるのは、被害者の同意による違法性の減少。消えないのは、本人が同意していても、他人が命を奪う行為そのものが適法にならないからです。同意は刑を軽くすることはできても、犯罪そのものを消すことはできません。3つの視点で見ましたね。死の意味を理解していたか、自由な状態で決めたか、本当にそう思っていたか。この3つのどれか1つを欠くだけで、6か月以上7年以下だった刑が、死刑を含む199条の刑へ跳ね上がります。冒頭の3つの場面は、この3つの視点でそれぞれ理由が説明できるようになりました。

203条が、199条と202条の両方の未遂を受け止めています。今日の背骨をもう一度言います。同意は、刑を軽くすることはできても、犯罪を消すことはできません。

参照条文

  • 刑法203条

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