事後強盗の共犯と昏酔強盗
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第15章 個人的法益④|財産に対する罪①(総論・窃盗・強盗) ⑫/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
前回の受けから・設例
図:窃盗をしていない人に、なぜ強盗の罪が
前回、事後強盗罪の骨組みを見ました。主体の限定、時間の限定、目的の限定という、3つの歯止めでしたね。今日は、その骨組みを前提に、ある設例から始めます。窃盗犯人Aが、財物を得て逃げている途中、偶然出会った友人Bに事情を話しました。Bは、追いかけてきた被害者に、Aと一緒に暴行を加えました。Aに事後強盗罪が成立するのは当然です。問題は、暴行にだけ関わったBです。窃盗をしていない人がなぜ強盗の罪を負いうるのか、これが今日の入口です。この問題は、事後強盗罪という犯罪の正体をどう見るかによって、結論が大きく変わってきます。
結合犯説
図:窃盗罪と暴行罪・脅迫罪がくっついた犯罪、と見る
以前、共犯のところで、途中から犯罪に加わった人が、加わる前の部分まで背負うか、という話をしたのを覚えていますか?後から来た人が、先に起きた出来事を、自分の犯罪をやり遂げる道具として使ったといえるかどうかで決まる、という枠組みでした。まず考えられるのが、事後強盗罪を、窃盗罪と暴行罪・脅迫罪がくっついた犯罪、つまり236条の強盗罪と同じ結合犯だと見る立場です。この立場では、Bの罪責は、まさにさっき思い出してもらった承継的共同正犯の問題として処理されます。後行者が、先行者の行為及びこれによって生じた結果を、自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思のもと、現にこれを利用したかどうか、という枠組みです。
多くの場合、Bは、Aが得た財物を守り、Aとともに逃げるために暴行に加わっていますから、積極的利用が認められ、事後強盗罪の共犯が肯定されやすくなります。ただ、この結合犯説には、見過ごせない難点があります。事後強盗罪を、窃盗罪と暴行罪・脅迫罪の結合犯だと考えると、窃盗の段階から、すでに事後強盗罪という1つの犯罪の実行に入っている、という理屈になりかねません。236条の強盗罪では、暴行や脅迫に及んだ時点で、すでに未遂犯が成立する扱いでしたね。同じ理屈を結合犯にも当てはめると、事後強盗の目的をもって窃盗に着手した段階で、もう事後強盗罪の未遂犯が成立しかねません。
たとえばAが、見つかったら殴ってでも逃げるつもりで、店の棚の財布に手を伸ばした瞬間です。外から見れば、まだ誰にも手を上げていない、ただの窃盗の着手です。それなのに、心の中の目的だけで、強盗の未遂という重い評価が前倒しされてしまいます。これが、結合犯説の難点です。
身分犯説への転換
図:窃盗犯人という身分を持つ者だけが正犯になれる犯罪、と見る
この難点を避けるために、事後強盗罪を、結合犯ではなく、身分犯だと見る立場が有力です。窃盗犯人であることを、事後強盗罪という犯罪を実現できる特別な地位、つまり身分だと見る立場です。この立場に立つと、窃盗という行為そのものは事後強盗罪を構成する要素ではなく、その罪を犯しうる資格を得るための行為にすぎない、と位置づけられます。窃盗の段階で事後強盗罪の未遂が生じるという、結合犯説の難点を避けられます。そして、身分の無いBがどう扱われるかは、以前学んだ、共犯と身分の問題として処理することになります。65条の話です。
ただ、身分犯説に転換しても、これで答えが1つに決まるわけではありません。ここに、もう1段、対立があります。事後強盗罪を身分犯だと考えたとき、この身分は、罪そのものを作る身分でしょうか、それとも、刑の重さだけを動かす身分でしょうか。使われるのは1項か、それとも2項でしょうか。少し考えてみてください。
不真正身分犯説と真正身分犯説
図:罪を作る身分(1項)か、刑を動かす身分(2項)か
条文刑法65条
刑法65条 1項「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功したときは、身分のない者であっても、共犯とする。」 2項「身分によって特に刑の軽重があるときは、身分のない者には通常の刑を科する。」
まず、事後強盗罪の中身は暴行罪・脅迫罪であって、それを窃盗犯人という身分のある者が犯したときに刑が重くなる類型にすぎない、と見る立場があります。不真正身分犯説です。この立場では、65条2項が適用されます。共犯と身分の回で見たとおり、判例・通説は、2項が不真正身分犯の成立と科刑をまとめて定めていると読みます。ですから、Bに成立するのは、最初から暴行罪・脅迫罪にとどまります。保護している中身のずれ、これがこの立場に対する批判です。加重類型というのは、同じ罪の重い版のことです。以前見た保護責任者遺棄罪は、単純遺棄罪の重い版でした。どちらも人を見捨てる罪で、守っている中身は同じです。ところが、暴行罪・脅迫罪は非財産犯、事後強盗罪は財産犯で、守っている中身がそもそも違います。重い版・軽い版という関係を見出すのは無理がある、という批判です。そこで、暴行罪・脅迫罪と事後強盗罪は罪質が異なる以上、事後強盗罪は、窃盗犯人にしか実現し得ない、独立した罪だと見るのが妥当だとする立場が出てきます。真正身分犯説です。
65条1項により、暴行・脅迫から関与しただけのBにも、事後強盗罪の共犯が成立します。これも以前見たとおり、判例・多数説は、1項の「共犯」に共同正犯も入ると考えますから、Aと一緒に暴行したBは、共同正犯になります。事後強盗罪をどの立場で捉えるかについては、実は最高裁判例がありません。ここが、今日いちばん注意してほしいところです。最高裁による決着はなく、学説の対立が続いています。判例があると思い込みやすいところです。ただ、65条1項・2項の一般論そのものは、以前確立した判例で決着していましたが、事後強盗罪をどちらに位置づけるかは、また別の話です。判例が確立している場面と、最高裁の決着がないまま学説の議論が続いている場面を、混同しないようにしてください。
図:3説の対比——Bの罪責はどう変わるか
ここで、3つの見解を対比しておきましょう。結合犯説では、Bの罪責は承継的共同正犯の問題として処理されます。不真正身分犯説では、Bには暴行罪・脅迫罪の共犯が成立するにとどまります。真正身分犯説では、Bにも事後強盗罪の共犯が成立します。窃盗をしていないBに、なぜ強盗の罪が成立しうるのか、という冒頭の違和感は、この理論対立そのものが答えなんです。窃盗犯人という地位を、どう法的に評価するかで、答えが変わります。
本罪の未遂
図:決め手は暴行の結果ではなく、窃盗の既遂・未遂
結合犯説の難点は、本罪の未遂がいつ始まるか、という問題でした。ここからは、本罪そのものの未遂・予備を見ます。まず未遂です。本罪の未遂も罰します。今日は、そのルールを、判例で裏づけます。
判例最高裁判所判決(昭和24年7月9日・刑集3巻8号1188頁)
最高裁判所判決——窃盗未遂による準強盗の擬律 窃盗未遂犯人による準強盗行為の場合は、準強盗の未遂を以つて問擬すべきものであることは当然であるにかゝわらず、原審はその擬律において刑法第二三八条同第二三六条を適用し、以つて準強盗の既遂をもつて問擬したのは違法である。
判決文の「準強盗」は、ここでは238条の事後強盗のことです。「擬律」「問擬」は、どの条文を当てはめて何罪として扱うか、という意味です。原審は、238条と236条を当てはめて既遂だと扱い、裁判所はこれを違法だと判断しました。決め手は、前回見たとおりです。強盗罪の既遂は、財物を取ったかどうかで決まりました。本罪も強盗として扱う以上、財物を取れたか、つまり窃盗が既遂かどうかで測ります。具体例で確認しましょう。窃盗既遂犯が、逮捕を免れる目的で暴行・脅迫をすれば、本罪は既遂です。反対に、窃盗未遂犯が、同じ目的で暴行・脅迫をすれば、本罪は未遂にとどまります。
本罪の目的、逮捕を免れる、取り返されるのを防ぐ、罪跡を隠滅する、これらが達成できたかどうかは、本罪の既遂・未遂とは無関係です。窃盗の既遂・未遂だけが、この結論を決めます。
本罪の予備
図:「強盗の目的」に、事後強盗の目的を含むか
条文刑法237条
刑法237条(強盗予備) 強盗の罪を犯す目的で、その予備をした者は、二年以下の拘禁刑に処する。
次に、本罪の予備罪が成立するかを見ます。237条は、強盗の罪を犯す目的で予備をした者を処罰しています。たとえば、空き巣に入る前に、見つかったら脅して逃げるつもりで、刃物を用意しておく、という場面です。237条の「強盗」に事後強盗が含まれるかには、争いがあります。237条が先に置かれ、238条が後に置かれている、という条文の並び順に着目して、237条が言う「強盗」は236条の強盗だけを指し、事後強盗はそこに含まれない、とする否定説があります。条文の並び順から読む見解です。しかし、238条は「強盗として論ずる」と定めています。この条文自体が、事後強盗を強盗の一種として扱うと宣言している以上、237条にいう「強盗」にも、事後強盗を含むと読むほうが素直です。判例も、この立場を採っています。
判例最高裁判所決定(昭和54年11月19日・刑集33巻7号710頁)
最高裁判所決定——事後強盗を目的とする予備罪の成否 刑法二三七条にいう「強盗ノ目的」には、同法二三八条に規定する準強盗を目的とする場合を含むと解すべきであつて、これと同旨の原判断は正当である。
237条の「強盗ノ目的」には、238条の事後強盗を目的とする場合も含まれる、という判断です。条文の並び順だけでは、事後強盗を予備罪の対象から外す理由にはならない、ということですね。
昏酔強盗239条
図:昏酔させて盗む、もう1つの強盗
ここまでは、238条の事後強盗でした。第15章の最後に、238条とは別の理由で強盗として扱われる、もう1つの類型を見ておきます。239条、昏酔強盗です。
条文刑法239条
刑法239条(昏酔強盗) 人を昏酔させてその財物を盗取した者は、強盗として論ずる。
睡眠薬や麻酔薬、アルコールなどの作用によって、正常な意識のはたらきが、一時的にせよ長く続くにせよ、乱された状態にすることをいいます。眠り込ませる場合も、意識がぼんやりする場合も、どちらも含まれます。酔って寝ている人から盗む場面は、初学者がいちばん誤解しやすいところです。239条が要求しているのは、犯人が被害者を昏酔状態に「させ」たこと、つまり、犯人自身がその状態を作り出す行為です。
図:「昏酔させて」と「昏酔に乗じて」の区別
すでに被害者が、自分でお酒を飲んで眠ってしまっていた、という状態を、犯人がたまたま見つけて、財布だけ盗んでいった場合は、犯人は昏酔させていません。この場合、本罪は成立しません。犯人が薬を飲ませて眠らせた、というように、犯人自身が昏酔という状態を作出した場合にだけ、239条が適用されます。
昏酔強盗の未遂・予備
図:238条と同じ扱い
最後に、昏酔強盗の未遂・予備を確認します。本罪の未遂も罰します。たとえば、薬で眠らせたけれど、財布を取る前に家族が帰ってきた、という場合は、財物を取れていないので未遂です。予備についても、さっき見たのと同じ争いがあります。ただ、239条も「強盗として論ずる」と定めている点は238条と共通していますから、事後強盗と並行して考えれば、本罪についても予備罪の成立を認めるほうが筋が通ります。
今日の地図(保存版)
図:今日のまとめ
今日の内容を整理します。暴行・脅迫にのみ関与した者の罪責は、事後強盗罪の正体をどう見るかで決まります。結合犯説なら承継的共同正犯の問題、身分犯説に立つなら、不真正身分犯説で暴行罪等にとどまるか、真正身分犯説で事後強盗の共犯が成立するかが分かれます。本罪の未遂は、窃盗の既遂・未遂で決まる。これは、さっき見た判例で裏づけられていました。本罪の予備も、237条の「強盗」に事後強盗を含む、というのが判例の立場でした。そして239条、昏酔強盗は、犯人が昏酔状態を作り出したことを要する、という点が核心でした。
冒頭の設例、窃盗をしていないBの罪責も、この理論対立を通して答えが出せるようになりました。
参照条文
- 刑法65条
- 刑法237条
- 刑法239条