刑法ゼロから刑法#135

事後強盗罪と窃盗の機会

印刷用PDFを開く

第15章 個人的法益④|財産に対する罪①(総論・窃盗・強盗) ⑪/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

前回の受けから

順序が、逆転します 図:順序が、逆転します

前回までで、236条1項の強盗罪、2項の強盗罪が終わりました。どちらも、暴行・脅迫があって、反抗が抑圧されて、それから財物や利益を得る、という順番でした。1つ、考えてみてください。窃盗犯が、盗んだ物を持って逃げている途中で、追いかけてきた人を殴ったとします。実は、暴行罪でも強盗罪でもありません。第3の答えがあります。以前、強盗罪①の回で、こう予告していました。「取り返されないための暴行なら、事後強盗という別の罪になります」。今日、その中身に入ります。今日の犯罪は、これまでの強盗と、順序がまるごと逆転しています。順序が逆になると、処罰の範囲が広がりすぎるおそれがあります。そこで238条には、誰が、いつまで、何のために、という3つの歯止めがかかっています。

238条の全文カードと主体

窃盗が、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる 図:窃盗が、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる

まず、条文です。

条文刑法238条

刑法238条(事後強盗) 窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。

条文の「罪跡」は、犯行の痕跡のことです。238条自体には、法定刑が書かれていません。この規定は、要件を満たしたときに、236条の強盗罪と同じ法定刑を適用する、という効果を定めているんです。条文の主語を見てください。「窃盗が」となっています。窃盗罪の実行に着手した者を指します。ここで大事なのは、窃盗が既遂でも未遂でも構わない、ということです。ただし、ここに落とし穴があります。窃盗が未遂にとどまっていた場合、そのあとどれほど巧みに暴行を加えて逃げおおせたとしても、事後強盗罪自体は未遂にとどまります。

事後強盗罪の既遂・未遂は、暴行・脅迫の結果ではなく、窃盗の既遂・未遂によって決まるんです。強盗罪の既遂は、財物を取ったかどうかで決まりました。本罪も強盗として扱う以上、財物を取れたか、つまり窃盗が既遂かどうかで測るわけです。例えば、窃盗が既遂に達した犯人が、逮捕を免れる目的で暴行したものの、結局逮捕されてしまったとします。この場合でも、窃盗が既遂である以上、事後強盗罪は既遂です。

事後強盗罪の意義

なぜ、強盗として重く扱うのか 図:なぜ、強盗として重く扱うのか

本罪の暴行・脅迫は、財物の奪取そのものに向けられていません。財物は、もう手に入れたあとだからです。この点だけを見れば、事後強盗罪は、本来「強盗罪の一種」とは言いにくい犯罪です。冒頭の、追いかけてきた人を殴る場面のように、窃盗犯人が現場を離れる際には、暴行・脅迫を加えることが多い、という実態があります。この実態に着目して、人身の保護を図るために、あえて「強盗として論ずる」という重い扱いにした、と解するのが多数説です。だからこそ、これから見る要件は、処罰範囲を無限に広げないための歯止めとして働きます。

行為——程度と相手方

反抗を抑圧するに足りる程度・相手方は被害者に限らない 図:反抗を抑圧するに足りる程度・相手方は被害者に限らない

次に、暴行・脅迫の中身を見ます。本罪も、強盗として処理される以上、暴行・脅迫は、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度であることを要します。236条と同じ物差しを、そのまま使います。もう1つ、相手方の範囲も見ておきましょう。被害者に限りません。本罪の目的、たとえば逮捕を免れる目的を遂げるのに、障害となりうる者であれば足ります。ですから、窃盗の被害者本人だけでなく、犯人を追いかけてきた通行人や、駆けつけた警察官も含まれます。

窃盗の機会の継続中——本罪最重要の要件

容易に発見・取り返され・逮捕され得る状況か 図:容易に発見・取り返され・逮捕され得る状況か

ここから、本罪でいちばん難しく、そして、いちばん試験でよく問われる要件に入ります。窃盗と暴行・脅迫を、ひとまとまりの強盗として扱う以上、暴行・脅迫は「窃盗の機会の継続中」に行われたことを要します。窃盗が終わったあと、いつまで「事後強盗になりうる状態」が続くか、という時間的な枠のことです。だから、この要件は、処罰範囲を区切る、いちばん重要な歯止めなんです。判例は、次の物差しで判断しています。窃盗犯人が「被害者等から容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕され得る状況」であったかどうか。なぜこの物差しなのか。さきほど、本罪を重く扱う理由は、窃盗犯人が取り返しや逮捕から逃れようとして、暴行・脅迫に出やすいという実態でした。そうだとすれば、その危険が続いているのは、まだ見つかって、取り返されたり捕まったりしうる間だけです。だから、その状況が続いているかどうかで、機会の終わりを決めるわけです。

ただ、この物差しを測るための手がかりが、2つあります。1つは、窃盗行為と暴行・脅迫との間の、時間的・場所的な接着性、つまり近さ。もう一方は、被害者側による追跡の有無です。ここが、多くの人が誤解するところです。「時間が経てば機会は終わる」「距離が離れれば機会は終わる」と、単純に考えてしまいがちです。ですが、実際の判例を見ると、時間の長さと結論が、一見逆に見える組み合わせが出てきます。

あてはめ①肯定事例

天井裏に潜み続けた、3時間後の暴行 図:天井裏に潜み続けた、3時間後の暴行

1つ目の事例です。Aが、被害者宅で指輪を盗んで、そのまま天井裏に潜んでいました。約3時間後、駆けつけた警察官に発見され、逮捕を免れようとして、Aは暴行を加えました。実際には、事後強盗罪が認められました。裁判所は、こう述べています。

判例最高裁判所決定(平成14年2月14日・刑集56巻2号86頁)

最高裁判所決定——被害者宅で窃取後、犯行現場の天井裏に潜んでいた事案 被告人は、上記窃盗の犯行後も、犯行現場の直近の場所にとどまり、被害者等から容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕され得る状況が継続していたのであるから、上記暴行は、窃盗の機会の継続中に行われたものというべきである。

ポイントは、時間の長さではなく、被告人が犯行現場の直近の場所にとどまり続けていた、という点です。現場から動かず、いつでも見つかりうる状態を保っていたので、場所的な接着性が非常に強かったんです。

あてはめ②否定事例

1km離れ、追跡もされなかった脅迫 図:1km離れ、追跡もされなかった脅迫

2つ目の事例です。Bが、被害者宅で財布などを盗んだあと、誰にも発見・追跡されることなく、約1km離れた場所まで移動しました。ところが、盗んだ現金が思ったより少なかったので、もう一度盗もうと、被害者宅に戻りました。見つかったBは、逮捕を免れるために脅迫しました。ですが、この事案では、事後強盗罪が否定されました。

判例最高裁判所判決(平成16年12月10日・刑集58巻9号1047頁)

最高裁判所判決——財布等を窃取後、追跡なく1km離れた場所まで移動した事案 被告人は、財布等を窃取した後、だれからも発見、追跡されることなく、いったん犯行現場を離れ、ある程度の時間を過ごしており、この間に、被告人が被害者等から容易に発見されて、財物を取り返され、あるいは逮捕され得る状況はなくなったものというべきである。そうすると、被告人が、その後に、再度窃盗をする目的で犯行現場に戻ったとしても、その際に行われた上記脅迫が、窃盗の機会の継続中に行われたものということはできない。

ここが、単純に「時間の長さ」で考えると混乱するところです。決め手は、誰にも追われずに、いったんその場を離れた、という点です。追跡が無かったことで、被告人はいったん安全圏に入ってしまいました。その時点で、窃盗の機会はいったん終了しています。あとから自分の意思で現場に戻ったとしても、終わった機会が生き返るわけではありません。

判断枠組みの補足——3km事例

1km・追跡なしと3km・追跡継続を比較する 図:1km・追跡なしと3km・追跡継続を比較する

2つの事例を比べてみましょう。窃盗の犯行現場から1km離れた場所まで、誰にも追われず移動した場合と、3km離れた場所まで、ずっと追いかけられながら移動した場合。どちらが「窃盗の機会」を抜け出しやすいでしょうか。距離が近い方でしょうか、それとも。距離が離れていても、追跡が続いていれば、機会はまだ続きます。被害者や警察官から追いかけられて、走って逃げていた窃盗犯人が、現場から3km離れた場所で、ついに追ってきた人を殴ったとします。それでも、追跡が継続していた以上、なお「容易に発見・逮捕され得る状況」は続いていたといえます。だから、この暴行も、窃盗の機会の継続中になされたものといえます。

距離ではなく、追跡の有無で決まる 図:距離ではなく、追跡の有無で決まる

この3つを並べると、決め手が見えてきます。時間や距離の長さそのものではなく、「まだ捕まりうる状況にあるか」という1本の物差しで測っているんです。

目的犯としての構造

3つの目的、達成は不要 図:3つの目的、達成は不要

もう1つ、限定原理があります。以前、目的犯という言葉を学んだとき、238条、事後強盗罪も同じ構造を持っている、とだけお伝えしていました。目的犯とは、どんな犯罪だったか、思い出せますか?目的犯というのは、故意だけでなく、もう1つ、条文が求める目的が無いと成立しない犯罪でしたね。238条の条文をもう一度見てください。「取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために」とあります。この3つの目的、①取り返されるのを防ぐ目的、②逮捕を免れる目的、③罪跡、つまり犯行の痕跡を隠滅する目的のうち、いずれかが無ければ、本罪は成立しません。

そして、ここが目的犯のポイントですが、これらの目的を、現実に達成することは要りません。例えば、窃盗既遂犯が、逮捕を免れる目的で暴行・脅迫を加えたけれど、結局、逮捕されてしまったとします。それでも、本罪の構成要件はすべて満たしているので、本罪は既遂です。目的を達成できたかどうかは、成立に関係ありません。

居直り強盗との区別

同じ暴行でも、目的が違えば罪が変わる 図:同じ暴行でも、目的が違えば罪が変わる

この目的の話には、もう1段、区別すべき場面があります。窃盗犯人が、被害者に発見されたとします。ここで、犯人が何を目的に暴行・脅迫を加えるかで、成立する罪が変わります。3つの目的のいずれかに向いていれば、事後強盗罪が成立します。ですが、犯人が、これらの目的以外の目的、たとえば、新たに別の財物を奪ってやろうという目的で、暴行・脅迫を加えたとします。この場合は、事後強盗罪は成立せず、単に、236条1項の強盗罪として扱われます。これを、居直り強盗といいます。例えば、家で現金を盗んだ犯人が、家の人に見つかり、逃げるどころか包丁を突きつけて「金庫も開けろ」と脅した場面です。

居直り強盗は、事後強盗の一種じゃないんですか。そこが誤解しやすいところです。居直り強盗は、事後強盗ではありません。窃盗犯人が、開き直って、あらためて236条1項の強盗を行った、という扱いです。「窃盗犯人による暴行・脅迫」という、外から見た客観的な行為は同じでも、その暴行が何を目的としているかによって、当てはめる条文が変わるんです。

居直り強盗と窃盗罪の関係——混合包括一罪

1つの被害は、重い方の罪で1回だけ 図:1つの被害は、重い方の罪で1回だけ

居直り強盗について、もう1つ、罪数の処理を見ておきます。以前、1つの被害を二重に数えない、という考え方を見ましたね。今日の居直り強盗も、これと同じ構造があります。居直り強盗が既遂に達した場合、それより前に成立していたはずの窃盗罪と、あとから成立する強盗罪の関係が問題になります。さっきの例で、金庫の現金まで奪い取った場合です。先に盗んだ現金の窃盗と、金庫の現金の強盗を、どう数えるか、です。別々の2つの罪として、併合罪にはならないんですか。なりません。窃盗罪と強盗罪は、被害者ないし保護法益が実質的に同一であり、時間的・場所的にも接着しています。ですから、強盗罪の混合包括一罪として扱うのが、裁判例・通説です。罪数のところで見たとおり、窃盗罪と強盗罪という、種類の違う罪がまとまるので、「混合」と呼ぶのでしたね。1つの被害は、重い方の強盗罪で、1回だけ評価するわけです。

家の人に逃げられて、金庫の現金は取れなかった場合、つまり居直り強盗が未遂にとどまった場合はどうなるんですか。そこは、場合分けが要ります。さっきの、家で現金を盗んだ犯人が、家の人に見つかった場面で考えましょう。もし、犯人が「金庫の中身も奪ってやろう」という目的だけで殴りかかったなら、238条の目的、つまり取り返しを防ぐ・逮捕を免れる・罪跡を隠滅する、のどれにも当たりません。さっき見た限定原理のとおり、この目的が無ければ、事後強盗罪自体が成立しないんです。犯人が、金庫の中身を奪う目的と併せて、逃げおおせるために殴った、というように、238条の目的も同時に持っていた場合です。金庫の現金を奪う目的と、逮捕を免れる目的が、1つの暴行に重なっているケースですね。

このときには、238条の目的が含まれている以上、暴行・脅迫の相手方・程度・機会の継続中といった要件も満たせば、事後強盗罪の要件はすべて満たされます。そして、ここで、さっき確認した、既遂・未遂の決まり方を思い出してください。事後強盗罪の既遂・未遂は、暴行・脅迫の結果ではなく、窃盗の既遂・未遂で決まる、という話でした。最初の現金は、もう盗み終わっています。窃盗はすでに既遂ですから、金庫を奪う暴行が不発に終わっても、事後強盗罪は既遂です。その強盗未遂は、既遂となる事後強盗罪のなかに吸収されます。1つの暴行・脅迫から生じた強盗未遂と事後強盗を、別々に2つ数えるのではなく、事後強盗既遂として一括して評価する、というのが裁判例の扱いです。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ 図:今日のまとめ

今日の内容を整理しましょう。事後強盗罪は、財物の取得が先、暴行・脅迫があとという、順序が逆転した強盗類型でした。順序が逆になったせいで、3つの歯止めが必要になったんでしたね。1つ目は、主体の限定。窃盗の実行に着手した者だけが主体になれます。2つ目は、時間の限定。窃盗の機会の継続中でなければなりません。3つ目は、目的の限定。取り返しを防ぐ・逮捕を免れる・罪跡を隠滅する、のいずれかの目的が要ります。この目的が新たな財物の奪取に向けば、事後強盗ではなく、居直り強盗になります。冒頭の問い、覚えています。窃盗犯が、逃げる途中で追いかけてきた人を殴った場合、暴行罪でも強盗罪でもなく、第3の答え、事後強盗罪だったんですね。3つの歯止めを、すべて満たしたときに、その暴行は事後強盗として扱われます。

参照条文

  • 刑法238条

刑法 全体ロードマップへ →