盗品等に関する罪の保護法益・客体・行為
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第16章 個人的法益⑤|財産に対する罪②(詐欺・恐喝・横領・背任・盗品・毀棄) ⑱/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
盗んでいないのに、なぜ罰されるのか
図:腕時計を盗まれた人と、もらった友人
前に、盗品を預かった人が、頼まれて売って、代金を勝手に使ってしまった場面を、横領罪の話として見ました。あのとき、盗品を預かった点には、別の罪の入口がある、と言いました。今日が、その本拠地です。設例です。Aさんが、腕時計を盗まれました。盗んだのはB。BはこのあとCという友人に会います。Cは、その腕時計が盗まれた物だと知っています。Cが、Bから、腕時計をただでもらう。あるいは、預かる。運んでやる。買い取る。売り先を探してやる。Cは、自分では何も盗んでいません。盗んでいないCも、罰されます。しかも不思議なことに、ただでもらうCより、預かったり運んだりするCの方が、刑が重いのです。もらう方が得をしているはずなのに、です。答えを先に少しだけ言います。この罪が何を守っているのかが分かると、ほとんどの論点が、同じ物差しで解けます。今日は、その物差しを作るところから始めます。
256条の構造
図:刑法256条
条文刑法256条
刑法256条(盗品譲受け等) 盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物を無償で譲り受けた者は、三年以下の拘禁刑に処する。 2 前項に規定する物を運搬し、保管し、若しくは有償で譲り受け、又はその有償の処分のあっせんをした者は、十年以下の拘禁刑及び五十万円以下の罰金に処する。
条文を読みます。1項は、ただで譲り受けた者で、3年以下の拘禁刑です。2項は、運搬した者、保管した者、有償で譲り受けた者、有償の処分のあっせんをした者で、10年以下の拘禁刑及び50万円以下の罰金です。2項に注目してください。窃盗罪は、10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金でした。窃盗は、どちらか一方です。ところが、2項は、拘禁刑と罰金の両方を科します。併科です。拘禁刑の上限は窃盗と並び、罰金は選べません。盗んだ本人と、ほぼ同じか、それ以上に重いのです。5つの行為のうち、無償譲受けだけが軽く、あとの4つは同じ重さです。理由を一言で先に言うと、あとの4つは、盗んだ人のために物を動かしたり換金を手伝ったりして、被害者が取り戻すのを難しくし、盗みを割に合うものにしてしまうからです。この理由は、この罪が何を守っているかを見ると、はっきりします。次に見ます。なお、ここで登場人物を整理しておきます。腕時計の持ち主のA、盗んだ本人のB、そして関わったC。Bの盗みのように、盗品等を生み出した元の犯罪を、本犯と呼びます。それをした人のことも、本犯と言います。この罪の主体になるのは、三人目のCです。盗んだB自身が、盗んだ物を持っているだけでは、この罪の主体にはなりません。
何を守るのか——追求権
図:保護法益の比べ方
保護法益、つまり何を守る罪なのかを考えます。まず、Aさんの立場に立ってください。腕時計を盗まれました。Aさんにはまだ、その腕時計を取り戻す道が残っています。盗んだBに返せと言えますし、いま持っているCに返せと言えます。Aさんが、被害物を取り戻せる権利、これを追求権と呼びます。Cが腕時計を預かったり、遠くへ運んだり、転売したりすると、Aさんはその腕時計に手が届かなくなります。取り戻す道が、遠く細くなるのです。この罪は、その追求権を守る罪だと考えるのが、判例と通説の追求権説です。判例を読みます。
判例最高裁判所第二小法廷決定(昭和34年2月9日)・刑集13巻1号76頁
回復を請求する権利 賍物に関する罪は、被害者の財産権の保護を目的とするものであり、被害者が民法の規定によりその物の回復を請求する権利を失わない以上、その物につき賍物罪の成立することあるは原判示のとおりである。
賍物とは、盗品のことです。判旨の言葉は、被害者が、その物の回復を請求する権利、です。追求権という言葉そのものは、判旨には出てきません。学説が、この権利を追求権と呼んでいる、ということです。判旨が言っているのは、この権利を失わない以上、罪が成立しうる、というところまでです。そこから、権利を失えば成立しない、と考えるのが、追求権説からの帰結です。ここが、後で客体の限界を考える手がかりになります。他の考え方も、名前と着眼点だけ押さえておきます。違法状態維持説は、本犯が作った違法な財産状態を、そのまま維持させる点を重く見ます。利益関与説は、本犯の不法な利益の分け前にあずかる点を重く見ます。事後従犯説は、盗品を買ってくれる人がいることで、本犯を助長する点を重く見ます。
保護法益の考え方の違いで変わるのは、客体の限界です。被害者がもう取り戻せなくなった物を、なお盗品等と見るかどうか。追求権説は、取り戻せなくなった物は客体ではない、と見ます。だから、後で見る場面が、追求権説からは一貫して説明できます。
事後従犯的性格
図:事後従犯的性格
1問、思い出してください。実行行為が終わったあとに、本犯を助けた人は、幇助犯になりますか?なりません。幇助は、実行行為が終わるまでの手助けだったからです。では、Bが盗み終わったあとに、腕時計を買い取ってやったCはどうでしょう。Cは、盗みの共犯ではありません。それでも、何もしなくてよいとは言えません。共犯のところで、実行行為が終わったあとの援助は幇助にならず、これを事後従犯と呼びました。そして、その援助は、別の罪の正犯として問われうる、と言いました。盗品等に関する罪は、その別の罪の一つです。本犯が終わったあとに、その本犯を助ける関わり方を、独立の罪にしているのです。これを、事後従犯的性格と呼びます。なぜ、これが問題なのでしょうか。盗んだ物を、預かってくれる人、買ってくれる人がいれば、盗みは割に合います。盗んだ人は、次も盗みやすくなります。つまり、後から助けることが、本犯を助長し、次の犯罪を誘い出すことにつながるのです。これで、冒頭の疑問に答えが出ます。運搬、保管、有償譲受け、あっせんは、盗んだ人の換金や保持を、実際に手伝います。追求権をはっきり遠ざけますし、本犯を強く助長します。だから重いのです。ただで受け取るだけの無償譲受けは、この助長の度合いが比べて弱いので、軽く扱われます。罰金まで重ねて科すのは、盗品の取引の多くがもうけ目当てだからです。拘禁刑に加えて財産の面でも割に合わなくして、手を出させないようにしているのです。
ここは論文で論点になりうるところです。
客体——何が盗品等か
図:盗品等になる物・ならない物
次は、客体です。条文は、盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得された物、と書いています。盗品だけではありません。詐欺でだまし取った絵画も、恐喝で脅し取った現金も、横領した物も入ります。だから、盗品ではなく、盗品等、と呼びます。逆に、賄賂として受け取った現金や、賭博で得た金銭は入りません。収賄罪や賭博罪は、財産に対する罪ではないからです。もう一つ。本犯は、構成要件に該当して違法であれば足ります。有責でなくても構いません。例えば、責任能力のない年少者が盗んだ物も、盗品です。年少者を罰することはできませんが、Aさんの腕時計が違法に奪われ、Aさんが取り戻せることは変わりません。親族相盗例で、本犯の刑が免除された場合も、同じです。家族の間の盗みについて、刑を免除する244条でした。前に見たとおり、244条は刑を外すだけで、盗みが犯罪として成立したことまでは消しません。だから、奪われた物は盗品のままです。どちらも、Bの側を罰せるかどうかの話で、Aさんが取り戻せるかどうかとは関係がありません。追求権が判断の中心にある、と考えると、すっきり説明できます。
追求権が届かなくなる場面
図:別の物に変わったら
問題です。Bが盗んだ腕時計を、まったく別の物、例えば高級な万年筆と交換してしまいました。その万年筆を預かったCに、盗品等保管罪は成立するでしょうか。追求権から、一言で考えてください。追求権は、その物に向かう権利です。その物が別の物に変われば、権利は届きません。これが、同一性を失った場合です。盗んだ腕時計を売った代金は、客体ではありません。盗んだ現金で買った別の物も、客体ではありません。反対に、盗んだ現金そのものは、両替をしても客体のままだ、とされます。金銭は、どのお札かという物の個性ではなく、金額で扱われる物だからです。盗んだ1万円札を千円札10枚に替えても、盗まれた1万円は、形を変えてそのまま手元にあります。これに対して、腕時計を売った代金は、買った人から新しく受け取った、別のお金です。腕時計の代わりに手に入れた物であって、盗まれた物そのものではありません。付合、つまり盗んだ物がほかの物にくっついて一体になってしまう場合や、加工、つまり材料に細工をして新しい物に作り替えてしまう場合などで、被害者の所有権自体が他人に移ってしまうようなときも、追求できなくなる、という同じ筋で考えます。
図:善意取得で道が閉じる
次は、善意取得です。設例です。Aさんは、詐欺で絵画をだまし取られました。だました本犯者のBは、その絵画を、事情を知らないCに売りました。Cは善意で、しかも過失がありません。そのCから、事情を知っているDが、絵画を買いました。Dは盗品等有償譲受け罪でしょうか。
条文民法192条
民法192条(即時取得) 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
民法192条です。取引で、平穏、公然と動産の占有を始めた者が、善意で過失がなければ、その動産の権利を、即時に取得します。これを、即時取得、善意取得と言います。Cがこれに当たると、Cが権利者になり、Aさんは絵画を取り戻せなくなります。追求権が切れるのです。すると、絵画は、もう客体ではありません。後から買ったDが事情を知っていても、この罪は成立しません。盗まれた物や落とし物は、別に扱われます。
条文民法193条
民法193条(盗品又は遺失物の回復) 前条の場合において、占有物が盗品又は遺失物であるときは、被害者又は遺失者は、盗難又は遺失の時から二年間、占有者に対してその物の回復を請求することができる。
盗品と遺失物は、被害者が、盗まれた時から2年間は、占有者に回復を請求できます。この間は、追求権は生きています。だから、盗品なら、2年間はなお客体です。先ほどの判例は、民法の規定によって回復を請求する権利を失わない以上、と言っていました。2年間という期間そのものは民法193条の話であり、判例が期間まで示したわけではありません。ただ、この間は回復請求の権利が残っているので、判例の言う、権利を失わない場合に当たります。ところが、だまし取られた物や横領された物は、193条の対象ではありません。そのため、善意無過失の人が取得すれば、すぐに追求権が切れます。最後に、不法原因給付です。横領の回で見た、違法な目的に使ってほしいと預けた現金を、使い込まれた場面です。預けた人は、民法708条で、返せとは言えません。ここで、客体の条文の言葉に戻ります。財産に対する罪に当たる行為で領得された物、でした。ですから、この場面で本犯の横領や詐欺がそもそも成立しないと考えるなら、その物は、はじめから客体に入りません。ただし、判例は本犯を成立させています。横領の回では、返せと言えなくても所有権までは失っていない、として横領罪を認めました。詐欺の回でも、だまして財物への支配を奪った以上、詐欺罪は成立する、と見ました。本犯が成立する以上、判例の立場では、客体のままです。ここで押さえるのは、本犯が成立しない場合だけ、客体の外になる、ということです。
行為の五つの型
図:五つの行為
行為の五つの型を見ます。無償譲受けは、ただで引渡しを受けて取得することです。単に約束しただけでは足りず、引渡しを受けることが要ります。有償譲受けは、代金を払って取得することです。運搬は、頼まれて、場所を移すことです。保管は、頼まれて、預かることです。この二つは、頼まれてする行為で、有償か無償かは問いません。前に見た、盗品を預かった人は、ここに入ります。有償処分のあっせんは、売買や、質入れ、つまり物を担保に預けてお金を借りることなど、有償の処分を仲介することです。ここで大事なのは、処分が有償であればよい、という点です。あっせんの謝礼の有無は関係ありません。腕時計を買ってくれる人を紹介するのは、紹介料をもらわなくても、この罪に当たります。ところが、ただで引き取ってくれる人を紹介するのは、処分が無償なので、当たりません。
あっせんは、いつ成立するか
図:あっせんの三つの時点
あっせんについて、成立の時期が論点になります。設例です。Cが、腕時計を買ってくれそうなDに、買いませんか、と持ちかけました。Dと一緒にBのところへ向かう途中で、Cは逮捕され、売買は完成しませんでした。Cは、有償処分あっせん罪になるでしょうか。時間の順に並べます。第一に、あっせんの行為、つまり持ちかけ。第二に、売買契約の成立。第三に、盗品が本犯者から買主に移ること。どの時点で成立するかで、考え方が三つに分かれます。追求権から筋を通すなら、実際に盗品が移って、Aさんが取り戻しにくくなる第三の時点、と考えるのが自然です。これが、移転時説です。他には、第二の時点で成立する、契約成立時説があります。持ちかけだけでは早すぎ、盗品が移るまで待つのは遅すぎる、として間をとる考え方です。名前だけ押さえておけば、十分です。判例は、違います。第一の時点で成立します。判例を読みます。
判例最高裁判所第三小法廷判決(昭和26年1月30日)・刑集5巻1号117頁
あっせん罪の成立時期 被告人の右周旋行爲によつて未だ賍物の賣買は完成するに至らず、また本犯の被害者の賍物返還請求権行使を不能又は困難ならしめるおそれはなかつたとしても、尚行爲自体は既に賍物牙保罪の成立に必要な周旋行爲に該当するものと認めるを相当とする
牙保とは、あっせんのことです。判旨は、売買が完成せず、被害者の返還請求も、不能や困難にならなかったとしても、あっせんの行為自体が、すでに罪の成立に必要な周旋、つまり売買の仲立ちに当たる、と言っています。気をつけたいのは、これがあっせんについての判断だという点です。同じ持ちかけの段階でも、C自身が買い取る約束をしただけなら、まだ有償譲受け罪にはなりません。譲受けは、盗品を実際に受け取って、はじめて成立するからです。さらに、続けてこう述べています。
判例最高裁判所第三小法廷判決(昭和26年1月30日)・刑集5巻1号117頁
追求権だけで狭く解さない理由 賍物に関する罪を一概に所論の如く被害者の返還請求権に対する罪とのみ狹く解するのは妥当でない、(法が賍物牙保を罰するのはこれにより被害者の返還請求権の行使を困難ならしめるばかりでなく、一般に強窃盗の如き犯罪を助成し誘発せしめる危險があるからである)
ここが大事です。判例は、被害者の返還請求権を害するおそれがなくても成立する、と言い、その理由に、強盗や窃盗のような犯罪を助け、誘い出す危険を挙げています。追求権だけでは、狭く解しすぎだ、と言っているのです。先ほどの、事後従犯的性格が、ここで効いてきます。持ちかけた時点で、すでに本犯を後押ししているからです。のちの最高裁の判例も、被害者を相手方としたあっせんが成立することを認めています。被害者による盗品等の正常な回復を困難にするだけでなく、助長し誘発するおそれもある、という理由を挙げています。ですから、この論点は、追求権だけでは説明しきれません。追求権を主役の物差しとして、本犯の助長や誘発が、もう1本の物差しとして働く、ということです。ここは論文で論点になりうるところです。
被害者のもとへの運搬
図:返す口実で金を取る
あっせんでは、被害者の取り戻しを邪魔するおそれがなくても成立する場面を見ました。最後は、その反対向きに見える場面です。被害者のもとへ返しているのに、罪になるかどうかです。設例です。Cは、Aさんから頼まれて、Bのところから腕時計を取り返し、Aさんの家まで持っていきました。ただ、その返還を条件にして、Aさんから、多額のお金を受け取りました。被害者に返すだけなら、追求権は害されないはずです。それでも、運搬罪は成立するでしょうか。被害者の手元に戻したのだから罪にならない、と考えるのが、不成立説です。ところが、判例は成立を認めました。判例の言葉を読みます。
判例最高裁判所第一小法廷決定(昭和27年7月10日)・刑集6巻7号876頁(裁判要旨)
被害者のもとへの運搬 窃盗の被害者から賍物の回復を依頼されて、これを被害者宅に運搬返還したとしても、結局窃盗犯人に協力してその利益のために賍物の返還を条件に被害者をして多額の金員を交付せしめる等賍物の正常なる回復を困難ならしめた場合には賍物運搬罪が成立する。
大事なのは、正常な回復を困難にしたかどうか、です。返還を条件にして、被害者から多額のお金を取るなら、それは被害者のための運搬ではなく、窃盗犯人の利益のための運搬です。追求権という物差しで言えば、単に返すだけなら、追求権を害しません。ところが、返還を道具にしてお金を取るなら、被害者の正常な回復を妨げます。学説には、不成立説と、判例と同じ成立説の両方があります。試験では、どちらの立場でも構いません。結論を、理由と一緒に言えることが大事です。ここは論文で論点になりうるところです。
今日の地図(保存版)
図:追求権で解く、盗品等の罪
まとめます。冒頭の疑問の答えは、この罪は、盗まれた人が被害物を取り戻す権利、追求権を守り、本犯を後から助けて助長することを防ぐ罪だから、盗んでいなくても罰される、でした。256条は、1項が無償譲受けなら3年以下、2項が運搬、保管、有償譲受け、有償処分のあっせんで、10年以下の拘禁刑及び50万円以下の罰金の併科です。重いのは、追求権をはっきり遠ざけ、本犯を強く助長するからです。客体は、財産に対する罪で領得された物です。本犯は、構成要件に該当し違法であれば足ります。そして、追求権が届かなくなると、客体でなくなります。別の物に変わった場合、善意取得された場合、そして不法原因給付で本犯が成立しない場合です。ただし、盗品と遺失物は、2年間は取り戻せます。行為は五つです。運搬と保管は、頼まれてする行為で、有償無償を問いません。あっせんは、処分が有償であればよいです。あっせんは、あっせん行為の時点で成立します。理由は、追求権だけでなく、本犯の助長や誘発にもあります。被害者のもとへの運搬は、返還を道具にして正常な回復を困難にすれば、運搬罪が成立します。こうして、大半は追求権で解けます。ただし、被害者を相手方とするあっせんや、窃盗犯人の利益のための運搬のように、追求権だけでは説明しきれず、本犯の助長という物差しも働く場面があります。
参照条文
- 刑法256条
- 民法192条
- 民法193条