盗品等に関する罪の故意・他罪との関係・親族間の特例
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第16章 個人的法益⑤|財産に対する罪②(詐欺・恐喝・横領・背任・盗品・毀棄) ⑲/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
預かった後で、盗品と知ったら
図:預かった後で知った・母親だった
前回の腕時計の設例を思い出してください。持ち主のA、盗んだB、関わったC。盗品と知って関わったCは、罰されました。今日は、その続きです。新しい場面です。CはBから、腕時計を預かりました。盗んだ物だとは知りません。ところが1週間後、Bが打ち明けます。「あの時計、実は盗んだ物なんだ」。それでもCは、預かり続けました。Cは罰されるでしょうか。打ち明けられる前の預かりと、打ち明けられた後の預かり。この二つを同じに扱えるかどうかが、分かれ目です。もう一つあります。そのCが、実はBの母親だったらどうでしょう。息子をかばう母親と、赤の他人。同じ扱いでよいのでしょうか。答えを少しだけ言います。1つ目は、追求権を難しくするのはいつか、で決まります。2つ目は、なぜ刑を免除するのか、で決まります。物差しは2本です。今日は、この2本で全部解きます。
故意——盗品かもしれない、で足りる
図:故意の程度
まず故意です。この罪は、盗品等であることの認識が必要です。ただし、確実に知っている必要はありません。判例を読みます。
判例最高裁判所第三小法廷判決(昭和23年3月16日)
未必の故意で足りる 賍物故買罪は賍物であることを知りなからこれを買受けることによつて成立するものであるが、その故意が成立する為めには必すしも買受くべき物が賍物であることを確定的に知つて居ることを必要としない或は賍物であるかも知れないと思いながらしかも敢てこれを買受ける意思(いわゆる未必の故意)があれば足りるものと解すべきである
賍物故買とは、盗品を買う罪のことです。判旨は、盗品だと確定的に知っている必要はない、盗品かもしれないと思いながら、あえて買う意思があれば足りる、と言っています。これが未必の故意です。設例です。Cは、時価の半分以下の値段で、腕時計を売りつけられました。安すぎる、ひょっとして盗品ではないか、と思いました。それでも、盗品でも構わないと買いました。確信はありません。しかしCには故意があります。盗品かもしれないと気づいた時点で、思いとどまる機会がありました。それを自分で手放して買ったのなら、確実に知って買った人と、責める理由は変わらないからです。故意の回で見た、未必の故意の考え方です。逆に、疑う事情がなく、正規の品だと信じて買ったのなら、故意はありません。分かれ目は、盗品であっても構わないと思っていたかどうかです。もう一つ。誰が、いつ、どんな罪で手に入れた物か、までは知らなくて構いません。盗品等であるという点を、かもしれないと認識していれば足ります。持ち主が取り戻しにくくなるのは、誰の盗みであっても、盗品を引き受けること自体によるからです。1問です。Cは、確信はなかったものの、安すぎて疑いながら腕時計を買いました。故意はあるでしょうか?
盗品かもしれないと思いながら、あえて買っているので、未必の故意があり、故意は認められます。
途中で盗品と知ったら
図:預かった後で知った
ここが今日の山場です。冒頭の設例に戻ります。Cは、盗品と知らずにBの腕時計を預かりました。この時点では、保管罪は成立しません。故意がないからです。問題は、1週間後に事情を知り、なお預かり続けた分です。問いは1本です。追求権を難しくするのは、物が移る瞬間だけか、持ち続けることもか。追求権とは、Aさんが被害物を取り戻す権利でした。
図:途中知情の二つの立場
否定説から見ます。物が移る瞬間だけを見る考え方です。理由は二つあります。一つ目。譲受けなど、他の類型は、物が移る時点の認識で判断しています。保管もそれに並べるべきだ、ということです。二つ目。Aさんの取り戻しを難しくするのは、Cのもとへ占有が移ったこと自体です。その時点でCは何も知りませんでした。だからCは無罪、となります。肯定説は、持ち続けることも見ます。判例もこの立場です。この立場の理由は二つあります。一つ目。預かった後もCが保管を続ければ、腕時計は見つかりにくくなり、Bも処分しやすくなります。取り戻しを難しくし続けているのです。これは追求権の面です。二つ目。保管は、本犯を事後に助ける性格を持ちます。事後従犯的性格です。知った後も預かり続けることは、Bを助け続けることにほかなりません。
有償譲受けなどは、受け取った瞬間に行為が完結します。だから、受け取る時点の認識で決まります。保管だけは、持ち続けるという性質の行為で、追求権を害する状態が続きます。この違いがあるので、途中知情は保管で問題になるのです。判例を読みます。
判例最高裁判所第一小法廷決定(昭和50年6月12日)
知った後の保管の継続 賍物であることを知らずに物品の保管を開始した後、賍物であることを知るに至つたのに、なおも本犯のためにその保管を継続するときは、賍物の寄蔵にあたるものというべきであり、原判決に法令違反はない。
賍物寄蔵は、現行法の保管にあたります。判旨は、保管を始めた後に盗品と知ったのに、なおも保管を続けるとき、保管に当たると言っています。判旨の言葉に注意してください。なおも本犯のために、その保管を継続するとき、とあります。判例は、本犯のためにという限定を付けています。本犯を助ける形で保管を続けるとき、ということです。前半の物差しの、事後従犯的性格が、判旨の言葉にも表れているのです。成立するのは、知った時点以後の保管です。最初の1週間は、故意がないので成立しません。追求権を難しくするのは、物が移る瞬間だけではなく、持ち続けることもです。これが判例の答えです。ここは論文で論点になりうるところです。
他の罪との関係——詐欺と恐喝
図:詐欺と恐喝
ここから、他の罪との関係を、順に四つ見ます。最初の二つは、結論が単純です。一つ目は詐欺です。あっせんをしたCが、盗品と知らない買主から、代金を受け取りました。買主から見れば、だまされて代金を払ったようにも見えます。しかし、詐欺罪は別に成立しません。代金を受け取ることは、あっせんという行為に、もともと含まれている当然の結果です。あっせん罪で罰するときに、すでに評価し尽くされているので、二重には罰しないのです。
図:脅して差し出させる
二つ目は恐喝です。Bから腕時計を預かっている友人のDがいます。Cは、その腕時計が盗品だと知りながら、Dを脅して、差し出させました。Dに対しては恐喝罪が成立します。同時に、Cは、対価を払わずに盗品を受け取ったので、盗品等無償譲受け罪が成立します。1個の行為が、恐喝罪と無償譲受け罪の二つの罪名に触れています。詐欺と違うのは、脅すことが、盗品を受け取ることに、もともと含まれていない点です。Dを脅したことは、無償譲受けでは評価しきれない、別の侵害だと説明されます。だから両方が成立します。1個の行為が複数の罪名に触れる場合なので、観念的競合です。科刑上一罪として扱うのでした。
本犯者自身と、共同正犯
図:盗んだ本人には成立しない
前回の復習です。盗品等に関する罪が守っているものは、何でしたか?被害者が取り戻す権利の追求権と、本犯を事後に助ける事後従犯的性格です。この物差しで、三つ目に入ります。盗んだ本人のBが、自分で腕時計を保管したり、運んだりした場合です。前回、Bはこの罪の主体にならないと予告しました。その答えです。Bには、盗品等に関する罪は成立しません。盗んだ人が、盗んだ物を持ち続けるのは、当然の成り行きです。その分は、窃盗罪の処罰の中で、すでに評価し尽くされています。罪数の回で見た、不可罰的事後行為です。Bに成立するのは、窃盗罪1罪だけです。盗品等の罪は別に成立しないので、二つの罪をどう数えるか、という問題自体が起きません。共同正犯も同じです。BとEが、二人で共同して盗みを実行しました。Eが後で、Bの手元から腕時計を預かって運んでも、Eに盗品等の罪はありません。共同正犯は、自ら本犯を実行した正犯です。Bと同じ立場だからです。境目に注意してください。Cが、盗みをそそのかしただけなら、教唆です。実行を共同したのなら、共同正犯です。前者は次に見るとおり、盗品等の罪が成立します。後者は成立しません。
盗みをそそのかした人
図:盗んでこい、買ってやる
四つ目です。Cが、Bに「盗んでこい、買ってやる」とそそのかしました。Bは盗み、Cはその腕時計を買い取りました。Cには何罪が成立するでしょうか。窃盗教唆罪と、盗品等有償譲受け罪の、両方が成立します。そして、二つの罪は併合罪です。判例は、吸収を否定しました。読みます。
判例最高裁判所第二小法廷判決(昭和24年7月30日)
吸収されない 窃盗教唆罪と賍物牙保罪とは別個独立の犯罪であるから同一人が「窃取して来れば売却してやる」と言つて他人に対し窃盗を教唆し且つその賍物の売却を周旋して牙保をしたときでも、それは窃盗教唆と賍物牙保の二罪が成立するのであつて後者が前者に吸収さるべきものではない
牙保とは、あっせんのことです。窃盗教唆と、盗品等の罪は、別個独立の犯罪です。だから二罪が成立し、後者が前者に吸収されることはない、と判示しています。では、牽連犯ではないのでしょうか。手段と結果の関係にありそうです。買うために、盗みをそそのかしたのですから。これも判例が答えています。
判例最高裁判所第二小法廷判決(昭和25年11月10日)
牽連犯にならない 刑法第五四条後段の牽連犯が成立するためにはある犯罪と他の犯罪との間に通常手段又は結果の関係があることが必要であつて、被告人が主観的にある犯罪を他の犯罪の手段として行つたということだけでは足りないのである。そうして窃盜教唆と賍物故買との間には通常手段又は結果の関係はないのであるから、被告人が賍物故買の手段として窃盜教唆を行つたものであつても牽連犯にあたるものでなく両者は併合罪の関係に立つものというべき
牽連犯には、客観的に、通常、手段と結果の関係があることが要りました。買うつもりでそそのかした、という本人の主観だけでは足りません。窃盗教唆と盗品等の罪の間には、通常の手段と結果の関係がないので、牽連犯ではなく、併合罪です。罪数の回で、牽連犯にならない例として挙げた、窃盗の教唆と盗品の有償譲受けが、まさにこの場面です。違いは処断刑に出ます。牽連犯なら科刑上一罪で、最も重い刑1つで処断します。併合罪なら、最も重い罪の刑の長期が加重されるので、より重くなりえます。幇助も同じ扱いです。Cが、Bの盗みを見張りで手伝い、後日、腕時計を買い取ったなら、窃盗幇助と有償譲受けの併合罪になります。ただし、判例が扱った事案は教唆で、幇助は通説の理解です。なぜ、本犯者のBとは扱いが違うのでしょうか。理由は追求権にあります。Bは、自分で盗んだので、その後の処理は盗みの中で評価済みです。ところが、教唆者や幇助者は、自分では盗んでいません。その物を後から受け取る行為は、盗みへの関与とは別に、Aさんの取り戻しを難しくする、新しい侵害を生みます。だから、別の罪として成立します。1問です。Bが、そそのかされずに自分で盗み、自分で保管したら、何罪ですか? Cがそそのかして盗ませ、買ったら、何罪ですか? 二つの違いを一言で答えてください。
ここは論文で論点になりうるところです。
257条——なぜ刑を免除するのか
図:刑法257条
後半に入ります。物差しを持ち替えます。なぜ刑を免除するのか、です。条文を読みます。
条文刑法257条
刑法257条(親族等の間の犯罪に関する特例) 配偶者との間又は直系血族、同居の親族若しくはこれらの者の配偶者との間で前条の罪を犯した者は、その刑を免除する。 2 前項の規定は、親族でない共犯については、適用しない。
1項は、前条、つまり256条の、盗品等に関する罪を犯した者が、配偶者との間、または、直系血族、同居の親族、これらの者の配偶者との間で犯した場合に、その刑を免除する、という規定です。これらの者の配偶者には、例えば、息子の妻が入ります。免除は、できる、ではなく、免除する、です。必ず免除されるので、必要的免除と呼びます。2項は、親族でない共犯には、1項を適用しない、という規定です。なぜ免除するのでしょうか。盗品等に関する罪は、本犯を事後に助ける性格を持っています。本犯者が親族なら、かばいたい、助けたい、という情が働きます。その情から手を貸した人を、他人と同じに責めるのは酷です。盗品に手を貸さない、という適法な行為を選ぶことを、期待しにくくなるからです。期待可能性が減る、つまり責任が減る、ということです。期待可能性は、責任の回で見たとおりです。責任の回で見た105条は、期待可能性が乏しい程度なので、免除することができる、と裁判所に委ねる書き方でした。257条は、同じ期待可能性の考え方でも、条文が、免除する、と言い切った、強い側の書き方です。免除されても、罪が成立しなくなるわけではありません。犯罪は成立し、刑だけが免除されます。
親族関係は、誰と誰の間か
図:母と息子の線
244条の復習です。親族相盗例の親族関係は、窃盗犯人と、だれとの間に必要でしたか?窃盗犯人と、占有者と所有者の、両方との間に必要でした。では257条は、だれとだれの間でしょうか。趣旨から考えます。かばう情が向かう先は、本犯者です。被害者のAさんではありません。だから、親族関係が必要なのは、本犯者のBと、盗品等の罪を犯した人の間です。それで足ります。冒頭の設例に戻ります。CがBの母親で、Aさんは赤の他人でも、Cの盗品等の罪は免除の対象になります。条文と趣旨からは、被害者との関係は問いません。判例もこの結論です。読みます。
判例最高裁判所第二小法廷決定(昭和38年11月8日)
本犯と賍物に関する犯人との間 なお刑法二五七条一項は、本犯と賍物に関する犯人との間に同条項所定の関係がある場合に、賍物に関する犯人の刑を免除する旨を規定したものであるから、原判決が、たとい賍物に関する犯人相互の間に右所定の配偶者たる関係があつてもその刑を免除すべきでない旨を判示したのは正当である
判旨が言っているのは、本犯と盗品等の犯人の間に関係がある場合に免除する、ということです。そして、盗品等の罪の犯人どうしが夫婦であっても、免除すべきでないとした判断を、正当としています。射程は、犯人相互の親族関係では免除しない、というところまでです。
図:犯人どうしが夫婦でも
設例です。CとFが夫婦で、二人で腕時計を運搬しました。本犯者のBと、二人の間に親族関係はありません。この場合、夫婦であっても、免除されません。かばう相手のBとの関係がないからです。2項も見ておきます。Bの母のCと共同して腕時計を運搬した、Bと親族でないGがいたとします。Gには免除は及びません。免除されるのは、親族のCだけです。責任の減少は、人ごとに判断するからです。ここは論文で論点になりうるところです。
244条との違い——趣旨から説明する
図:244条と257条の違い
最後に、244条と並べます。244条は、法は家庭に入らず、という考え方でした。配偶者、直系血族、同居の親族との間なら、1項で刑を免除し、それ以外の遠い親族との間なら、2項で、告訴がなければ起訴できない、という2段構えでした。257条は、本犯者をかばう情から、期待可能性が減る、という考え方です。趣旨が違います。そして、趣旨が違うので、誰と誰の関係か、範囲、効果が、すべてずれます。誰と誰の関係か。244条は、家庭の中の財産のもめごとに、国家が立ち入らない、という考え方です。そのため、窃盗犯人と、被害者側の占有者、所有者の、双方との間に親族関係が必要でした。257条は、かばう情です。かばう対象は本犯者なので、本犯者との間で見ます。被害者は他人で構いません。範囲。257条は、これらの者の配偶者まで入ります。例えば、本犯者の息子の妻です。かばう情は、家族として近い、こうした人にも働きうる、と読めます。その一方で、244条の2項のような、遠い親族の規定はありません。遠い親族には、257条の特例は働きません。効果。244条は、遠い親族については、告訴がなければ公訴提起できません。家庭内の問題なので、遠い親族どうしは、被害者の意思に任せる、という考え方です。257条には、告訴の定めがありません。被害者は他人であり、免除するかどうかを被害者の意思に委ねる理由がないからだ、と趣旨からは読めます。共犯は同じです。どちらも、親族でない共犯には、特例が及びません。244条は、その人だけに関わる事情だから、257条は、責任の減少が人ごとだから、でした。理由の言い方は違いますが、どちらも人ごとに見る、という点でそろいます。
なお、盗品等に関する罪の外側には、マネー・ローンダリングの規制もあります。犯罪収益の隠匿や収受を処罰する、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律。そして、取引時の確認などを定める、犯罪による収益の移転防止に関する法律です。
今日の地図(保存版)
図:二本の物差しで解く、盗品等の罪②
まとめます。冒頭の二つの疑問の答えです。1つ目。盗品と知らずに預かり、後で知ってなお預かり続けた場合。判例は、知った以後の保管の継続に、保管罪の成立を認めます。持ち続けることも、追求権を難しくし続け、本犯を事後に助け続けるからです。ただし、判旨は、本犯のために保管を継続するとき、と述べています。2つ目。母親が息子をかばった場合。257条により、刑は必ず免除されます。かばう情から、期待可能性が減り、責任が減るからです。故意は、盗品かもしれないと思い、それでも構わない、という未必の故意で足ります。本犯の詳細まで知る必要はありません。他の罪との関係です。あっせん者が、事情を知らない買主から代金を受け取っても、詐欺は別に成立しません。持っている人を脅して交付させたなら、恐喝罪と無償譲受け罪の観念的競合です。本犯者自身と、その共同正犯には、盗品等の罪は成立しません。不可罰的事後行為です。盗みをそそのかした人、手助けした人には成立し、併合罪です。
図:免除の趣旨で解く、盗品等の罪②
257条です。親族関係は、本犯者と、盗品等の罪を犯した人の間に必要です。被害者との関係は問いません。判例は、犯人どうしが夫婦でも免除しないとしました。2項により、免除は、親族でない共犯には及びません。244条とは、趣旨が違うので、誰と誰の関係か、範囲、効果が、すべてずれます。
参照条文
- 刑法257条