毀棄・損壊の罪の「損壊」の意義・文書毀棄・建造物損壊
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第16章 個人的法益⑤|財産に対する罪②(詐欺・恐喝・横領・背任・盗品・毀棄) ⑳/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
壊れていないのに、損壊?
図:二つの問い・自分の申請書と公園のトイレ
不法領得の意思の回で出した、隣人の表札を川に投げ捨てる設例を、覚えていますか。奪って自分の得にしようとしたわけではないので、窃盗罪ではなく、器物損壊罪の範囲に落ちる、という話でした。今日は、その壊す側の罪の中身に入ります。問いを二つ出します。一つ目。自分で書いた申請書を役所に出し、その後、窓口で取り返して破りました。自分で書いた紙です。罪になるでしょうか。なるなら、何年以下の刑でしょうか。二つ目。公園のトイレの外壁に、スプレーで大きく落書きをしました。壁は1ミリも壊れていません。それでも、建造物を損壊した罪になるでしょうか。
どちらも、直感と結論が逆になります。答えを決める物差しは1本だけです。その物の効用、つまり、その物が本来の役目を果たせること。今日は、この1本で全部解きます。
毀棄・損壊の罪とは
図:毀棄及び隠匿の罪の位置
刑法の第40章は、毀棄及び隠匿の罪です。258条から264条まで並んでいます。今日はこのうち、258条、259条、260条を扱います。残りの条文は、次の回にまわします。この罪は、財産犯のうち、自分の物にする意思がない罪です。不法領得の意思を欠く、と言います。以前に見た、権利者排除意思と利用処分意思のうち、特に利用処分意思がありません。物を経済的用法に従って利用または処分する気がない、ということです。なぜ軽いのでしょうか。窃盗は、奪って自分の得にしようとする動機、つまり利欲犯的な性格があるから重い、という説明でした。ただ壊す、ただ隠すだけの行為には、この動機がありません。窃盗は10年以下なのに、器物損壊は3年以下です。この差が出るのは、そのためです。壊された物は、取り戻しても元には戻りません。それでも刑が軽いのは、損害の大きさではなく、この動機の有無で線が引かれているからです。
預かっている他人の物を、腹いせに壊したらどうなりますか。自分の物にする気はないので、毀棄罪でしょうか。そこが注意点です。自分が占有を預かった他人の物を捨てたり壊したりすると、横領罪になりえます。横領の回で見たとおり、判例は、横領の不法領得の意思には、利用処分意思を要しない、としています。預かった信頼を裏切る点は、使った場合と変わらないからです。預かった腕時計を川に捨てても、横領です。つまり、分かれ目は、壊す前にその物を預かっていたかどうかです。預かった人が捨てれば、任された物に、所有者でなければできない扱いをしたことになります。そこが、ただ壊すだけの人との違いです。毀棄罪が働く典型は、他人が占有している物を壊す場面や、占有を取らずに壊す場面です。壊すからといって、いつも毀棄罪とは限りません。
「毀棄」「損壊」の意義——効用を害する
図:物理的損壊説と効用侵害説の違い
毀棄と損壊の意味から決めます。条文には「毀棄」や「損壊」とだけ書かれていて、意味は書かれていません。判例と通説の答えを、先に示します。
⭐ 論文で書く規範:【規範】毀棄・損壊の意義 毀棄・損壊とは、物理的に損壊する場合に限らず、物の効用を害する一切の行為をいう。隠匿も、毀棄に含まれる。 (規範(判例・通説の定義)——効用侵害説)
これを効用侵害説といいます。効用とは、その物が本来の役目を果たせること、です。時計なら、時を知らせること。時計は壊れていなくても、電池を抜けば、役目は果たせません。効用が害された、といえます。対立するのが物理的損壊説です。物の形を変える、なくす、つまり物理的に壊すことだけが毀棄・損壊だ、という立場です。この立場では、隠したり汚したりは含まれません。効用侵害説の理由は二つあります。一つ目は、財産としての価値は、使えることにある、という点です。例えば、他人のノートパソコンを、持ち主が絶対に見つけられない山奥に置いてきたとします。パソコンは無傷ですが、持ち主はもう使えません。壊された場合と、持ち主が受ける損害は同じです。二つ目は、物理的損壊に限ると、隠す行為や汚す行為が漏れる、という点です。守るべき利益は使えることなので、使えなくする行為は、同じ扱いにするのが自然です。物理的損壊説からは、処罰範囲が広がりすぎる、という批判が出ます。これに対して、効用侵害説も、何でも入るわけではありません。効用を害する、つまり使えなくなる、という限定があります。物に触れただけ、少し汚しただけで、使い方に支障がなければ入りません。この限定は、あとの限界事例で確かめます。隠す行為が窃盗と違う点も、確認しておきます。窃盗は、自分の得にしようとする意思があります。隠して使えなくするだけで、自分の得にする気がなければ、窃盗ではなく毀棄です。
用語です。文書には毀棄、建造物や物には損壊、動物には傷害、という言葉が使われます。客体で言葉を使い分けているだけで、中身は同じです。物の効用を害する、という一点です。1問です。他人の契約書を、破らずに、書棚の裏に落として、取り出せないようにしました。紙は1枚も破れていません。毀棄にあたるでしょうか?破っていなくても、契約書として使えなくしているので、効用を害しています。隠匿も毀棄に含まれるので、毀棄にあたります。
公用文書等毀棄罪——258条
図:刑法258条
文書から見ます。最初は、公務所で使っている文書を守る条文です。
条文刑法258条
刑法258条(公用文書等毀棄) 公務所の用に供する文書又は電磁的記録を毀棄した者は、三月以上七年以下の拘禁刑に処する。
公務所の用に供する文書、または電磁的記録を毀棄した者は、3か月以上7年以下の拘禁刑です。公務所とは、官公庁など、公務員が職務を行う所です。電磁的記録は、以前に業務妨害の回で見たとおり、紙ではなく、データの形の記録です。紙だけでなく、データも守られます。同じ回で見たとおり、記録そのものを使えなくすれば文書毀棄、コンピューターへの加害で業務を妨げれば234条の2です。「公務所の用に供する文書」とは何でしょうか。判例はこう言います。公務所において現に使用し、または使用に供する目的で保管している文書を総称する、と。作成者や作成の目的は関係ありません。
図:自分の申請書でも
冒頭の一つ目です。Aさんは、自分で申請書を書いて、役所に出しました。役所が受け取って保管し、事務に使っています。この時点で、その申請書は、公務所の用に供する文書です。作ったのは私人のAさんですが、関係ありません。258条には、他人の、という限定がありません。誰が書いたかも、誰の物かも、要件ではありません。自分で書いた申請書でも、役所が使っている以上、Aさんは、もう自由に破れません。窓口で取り返して破れば、公用文書等毀棄罪で、3か月以上7年以下の拘禁刑です。冒頭の一つ目の答えは、7年以下です。公文書と公用文書は、別の概念です。公文書は、文書偽造の罪の言葉で、公務員が職務上作った文書、という作成者の側から決まります。公用文書は、作成者を問わず、公務所が使っている、という使われ方の側から決まります。市役所が保管する私人の申請書は、私文書ですが、公用文書です。公文書の定義そのものは、文書偽造の罪の回で扱います。判例を一つ見ます。国鉄の駅の助役が、白墨で列車の遅れのお詫びを書いた急告板を、待合室に掲示しました。それを外して、文字を黒板拭きで消した事件です。原審は、何かを証明するための文書ではないとして、器物損壊にしました。最高裁は、258条としました。お知らせの掲示も、駅の仕事に使われている文書です。何かを証明する文書でなくても、公務所が使っていれば足ります。作成の途中でも保護されます。取調べで、捜査官が被疑者の言い分を書き取っている途中の弁解録取書を、被疑者がひったくって破った事件があります。最高裁は、作成中でも、文書としての意味と内容を備えるに至っていれば客体になる、としました。書きかけでも、意味と内容が備われば、公務所はもうそれを使えます。使える物を壊せば、効用が害されます。さらに、違法な取調べの中で作られていた供述録取書、つまり取調べで話した内容を書き取った書面が、客体になるかが争われた事件があります。読みます。
判例最高裁判所第一小法廷判決(昭和57年6月24日)
違法な手続で作られつつあった文書 同条にいう公務所の用に供する文書とは、公務所において現に使用し又は使用に供する目的で保管している文書を総称するものであつて …… 本件供述録取書のように、これを完成させるために用いられた手段方法がたまたま違法とされるものであつても、原判示のように既にそれが文書としての意味、内容を備えるに至つている以上、将来これを公務所において適法に使用することが予想されなくはなく、そのような場合に備えて公務所が保管すべきものであるというべきであり、このような文書も刑法二五八条にいう公務所の用に供する文書にあたるものと解するのが相当だからである。
第一審は258条の罪を認めましたが、控訴審は、違法な手続で作られる文書は保護に値しない、として無罪にしました。最高裁は、この控訴審の判決を破棄しました。理由は、その文書が、既に文書としての意味と内容を備えているなら、将来、適法に使われる可能性があり、そのときに備えて公務所が保管すべき物だから、です。文書を作る手続の適法性ではなく、公務所が保管して使うものかどうか、で見ています。下限が3か月と、他の毀棄の罪より重いことにも意味があります。公務で使っている文書を壊すことは、単なる文書の損害にとどまらず、公務の遂行を妨げる面も持つから、と説明されます。公務所の文書が使えなくなると、困るのは持ち主一人ではなく、その文書で進むはずだった役所の仕事全体です。だから、同じ効用の害でも、刑が重くなっています。
私用文書等毀棄罪——259条
図:刑法259条
次は、公務所とは関係のない、私人どうしの文書です。
条文刑法259条
刑法259条(私用文書等毀棄) 権利又は義務に関する他人の文書又は電磁的記録を毀棄した者は、五年以下の拘禁刑に処する。
権利、または義務に関する他人の文書、または電磁的記録を毀棄した者は、5年以下の拘禁刑です。258条と違って、下限がありません。権利義務に関する文書とは、権利や義務の存在、発生、変更、消滅を証明する文書です。借用証書、契約書、領収書がその例です。これがなくなると、誰が誰にいくら請求できるのか、証明できなくなります。守る対象は、こうした証拠としての効用です。履歴書や転居届のように、単に事実を証明するだけの文書は、権利義務に関する文書ではありません。259条の客体にはなりません。私人が作る文書の偽造、つまり私文書偽造は、事実証明に関する文書まで守りますが、259条は、権利義務に関する文書に絞っています。この違いの本体も、文書偽造の罪の回で扱います。「他人の」というのは、持ち主が自分以外の人だ、ということです。作った人ではなく、持ち主で決まります。自分の物であっても、差押えを受けているなどの事情があれば、客体になる特例がありますが、それは次の回で扱います。259条は、親告罪です。告訴がなければ、公訴を提起できません。壊されたのは私人どうしの文書で、困るのは主に持ち主一人です。だから、処罰を求めるかどうかを、まず被害者の意思に任せている、と考えられています。258条は、役所の仕事全体が妨げられるので、告訴がなくても起訴できます。親告罪の範囲全体は、次の回で整理します。
文書の棲み分け
図:文書を振り分ける順序
文書の振り分けは、順番に見ていきます。最初に、公務所で使っている文書かどうか。はいなら258条です。違うなら、権利義務に関する他人の文書かどうか。はいなら259条です。どちらでもなければ、ただの他人の物として、器物損壊罪です。これは次の回で扱います。例です。役所が保管している私人の申請書は、最初の問いの答えが「はい」なので、258条です。他人が持っている借用証書は、二つ目の問いの答えが「はい」なので、259条です。他人が持っている履歴書は、どちらでもないので、器物損壊です。さきほどの駅の急告板が、器物損壊ではなく258条になる理由も、この順序で説明できます。
先に権利義務を見ても、結論が同じになる場面はあります。ただ、公務所の文書は、権利義務に関するかどうかを問わず、258条の対象です。先に権利義務を見ると、急告板のような文書を取り落とします。広い方、258条から見るのが安全です。
建造物等損壊罪——260条と建造物の一体性
図:刑法260条
三つ目は、建造物を守る罪です。条文を読みます。
条文刑法260条
刑法260条(建造物等損壊及び同致死傷) 他人の建造物又は艦船を損壊した者は、五年以下の拘禁刑に処する。よって人を死傷させた者は、傷害の罪と比較して、重い刑により処断する。
他人の建造物、または艦船を損壊した者は、5年以下の拘禁刑です。後段には、致死傷の規定がありますが、それは最後に見ます。建造物とは、家屋その他これに類似する建築物のことです。一般には、屋根があり、壁や柱で支えられ、土地に定着していて、人が出入りできるもの、と説明されます。艦船は、軍艦と船舶です。他人のとは、持ち主が自分以外であること、をいいます。自分の物の特例は次の回で扱います。建造物として扱うかどうかは、刑にも影響します。建造物損壊は5年以下で、告訴は不要です。器物損壊は3年以下で、告訴が要ります。建物に付いている物を壊したとき、その物が建物の一部なら260条、ただの物なら器物損壊になります。この線引きが、争われるのです。玄関ドアの事件で、判例が枠組みを示しました。まず事案です。5階建ての市営住宅の1階の玄関ドアを、金属バットで叩いて、凹ませました。ドアは金属製の開き戸で、3個のちょうつがいで、外枠に固定されていました。修繕の見積りは2万5000円でした。読みます。
判例最高裁判所第一小法廷決定(平成19年3月20日)
建造物に取り付けられた物の一体性 建造物に取り付けられた物が建造物損壊罪の客体に当たるか否かは,当該物と建造物との接合の程度のほか,当該物の建造物における機能上の重要性をも総合考慮して決すべきものであるところ, …… 本件ドアは,住居の玄関ドアとして外壁と接続し,外界とのしゃ断,防犯,防風,防音等の重要な役割を果たしているから,建造物損壊罪の客体に当たるものと認められ,適切な工具を使用すれば損壊せずに同ドアの取り外しが可能であるとしても,この結論は左右されない。
図:建物と玄関ドアの結びつき
判旨は、二つの要素を総合して考える、としています。一つ目は、その物と建造物との接合の程度。二つ目は、その物の建造物における機能上の重要性。ドアは、外壁とつながり、外界とのしゃ断、防犯、防風、防音という、住居として欠かせない役割を果たしています。だから建造物の一部です。ドアは、工具を使えば取り外せますよね。それでも建造物の一部になるのですか。なります。判旨の最後の一文がそれです。適切な工具を使えば、損壊せずに取り外せるとしても、結論は左右されない、と言っています。取り外せるかどうかだけで決めるのではなく、建物の一部として、実際にどんな役目を担っているか、で決めるのです。役目が重ければ、簡単に外せても建物の一部です。逆側も押さえます。建物に置いてあるだけの物や、簡単に取り外して別の場所でも使う物のように、接合が弱く、建物での機能も重要でない物は、建造物の一部とはいえません。壊せば、器物損壊の側です。判例が線を引く言葉は、接合の程度と機能上の重要性の二つです。1問です。玄関ドアを叩いて凹ませました。ドアは取り外せる作りです。建造物損壊でしょうか、器物損壊でしょうか?
取り外せるかどうかだけでは決まりません。外壁と接続し、防犯や防音の重要な役割もあるので、建造物損壊罪の客体に当たります。ここは論文で論点になりうるところです。
「損壊」とは——壊れていなくても
図:壊れていなくても損壊になる例
冒頭の二つ目に戻ります。壁が壊れていなくても、損壊といえるのか。効用侵害説の考え方が、建造物にも当てはまります。建造物の損壊とは、建造物の効用を害する一切の行為です。壊れたかではなく、使えるかどうか、を見ます。判例を二つ読みます。最初は、ビラです。労働組合員が、公社の通信局の庁舎の壁、窓ガラス、扉、シャッターなどに、要求事項を書いたビラを、糊で貼りました。1回に約400枚ないし500枚から、約2500枚で、同じ場所の一面に、数枚から数百枚を、びっしり集中して貼っています。
判例最高裁判所第三小法廷決定(昭和41年6月10日)
ビラの多数貼付 ビラの枚数が一回に約四、五百枚ないし約二五〇〇枚という多数であり、貼付方法が同一場所一面に数枚、数十枚または数百枚を密接集中させて貼付したこと等原審の認定した事実関係のもとにおいては、右建造物の効用を減損するものと認められるから、刑法二六〇条にいう建造物の損壊に該当するとした原審の判断は、正当である。
判旨は、多数であること、密接集中して貼ったことを挙げて、建造物の効用を減損するので、損壊に当たる、と言っています。壁が壊れたかではなく、庁舎として使う上で支障が出たか、という見方です。二つ目は、冒頭の落書きの判例です。区立公園の公衆便所の白い外壁に、ラッカーのスプレーで、赤と黒のペンキを吹き付けました。反戦の文言などを、大きく書いたのです。読みます。
判例最高裁判所第三小法廷決定(平成18年1月17日)
公衆便所の外壁への落書き 以上の事実関係の下では,本件落書き行為は,本件建物の外観ないし美観を著しく汚損し,原状回復に相当の困難を生じさせたものであって,その効用を減損させたものというべきであるから,刑法260条前段にいう「損壊」に当たると解するのが相当であり,これと同旨の原判断は正当である。
判文が認定した事実には、従前と比べて不体裁で異様な外観になった、利用する人に抵抗感や不快感を与えかねない、管理者が一般の利用に供し続けるのは困難と判断した、というものがあります。さらに、水道水や洗剤では消えず、シンナーでも完全には消えず、完全に消すには再塗装が必要で、約7万円かかりました。だから、原状回復に相当の困難がある、という判断です。冒頭の二つ目の答えは、建造物損壊罪になる、です。5年以下です。壊れたかではなく、利用に支障が出たかで見ています。二つの判例に共通するのは、壁が壊れたかではなく、建物として使う上での支障で、効用の減損を認めている点です。落書きの判例では、利用への抵抗感や、そのまま利用に供し続ける困難さまで認定されています。逆側の線も確認します。判旨は、多数、密接集中、著しく、相当の困難、という限定の言葉を使っています。少数のビラ、簡単に剥がせる貼り紙、容易に消せる落書きは、効用を減損したとはいえず、損壊にならない方向です。ただし、何枚から、いくらからという数値の基準は、判例にありません。事案ごとに、利用への支障の大きさで見ます。落書きの判例には、疑問も出されています。美観や外観は、建物の効用に含まれるのか。文化財でもない公園のトイレで、効用が害されたと言えるのか、という疑問です。判例の立場は、判文のとおり、美観の汚損に加えて、利用への抵抗感や、原状回復の困難を認定して、効用の減損としたものです。批判は、美観を効用と見ることへの疑問として出されている、という位置づけです。ここは論文で論点になりうるところです。
建造物等損壊致死傷
図:260条後段の法定刑
最後は、260条の後段です。「傷害の罪と比較して、重い刑により処断する」と書かれています。数字は、以前に見た比べ方で出します。1問です。遺棄の罪の回を思い出してください。傷害の罪と比較して、重い刑とは、上限と下限をどう比べるのでしたか?上限どうし、下限どうしを別々に比べて、それぞれ重い方を採ります。建造物損壊の基本の刑と、傷害の罪を比べます。260条前段は5年以下としか書いていないので、下限は、有期拘禁刑そのものの下限である1か月です。遺棄の罪の回で見たとおり、傷害罪は1か月以上15年以下、傷害致死罪は3年以上の有期拘禁刑です。人を傷害した場合は、下限はどちらも1か月、上限は傷害罪の15年です。よって、1か月以上15年以下の拘禁刑です。人を死亡させた場合は、傷害致死罪の3年以上の有期拘禁刑が、上限も下限も重いので、それを採ります。3年以上の有期拘禁刑で、上限は20年です。これは結果的加重犯です。建造物を損壊して、その結果として、人が死傷した場合を重く処罰します。死傷という結果について、故意までは要りません。
今日の地図(保存版)
図:効用の物差しで解く、毀棄・損壊の罪①
まとめます。冒頭の二つの疑問の答えです。一つ目。自分で書いて役所に出した申請書を、窓口で取り返して破ると、公用文書等毀棄罪です。自分の書いた紙でも、役所が使っていれば、公務所の用に供する文書だからです。刑は3か月以上7年以下の拘禁刑です。二つ目。トイレの外壁への落書きは、壁が壊れていなくても、建造物損壊罪になりえます。外観を著しく汚し、原状回復が難しく、利用に支障が出て、効用が減損したといえるからです。刑は5年以下の拘禁刑です。毀棄・損壊とは、物の効用を害する一切の行為です。隠すことも入ります。この物差しで、三つの条文の守る物が分かれます。258条は、公務所が使っている文書です。作成者を問わず、下限は3か月です。259条は、権利義務に関する他人の文書です。事実証明の文書は入りません。親告罪で、5年以下です。260条は、他人の建造物を守ります。建物の一部かどうかは、接合の程度と機能上の重要性で決まり、取り外せても結論は左右されません。損壊は、壊れたかではなく、利用に支障が出たかで決まります。人が死傷したときは、傷害の罪と比較して、重い刑です。致傷は1か月以上15年以下、致死は3年以上、上限は20年です。
参照条文
- 刑法258条
- 刑法259条
- 刑法260条