恐喝罪と権利行使
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第16章 個人的法益⑤|財産に対する罪②(詐欺・恐喝・横領・背任・盗品・毀棄) ⑨/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
前回の受けから
図:「欺く」を「脅す」に替えたら
前回まで、詐欺罪を8本かけて見てきました。相手を欺いて、その気にさせて、財物や利益を手放させる罪でしたね。今日は、その鎖の入口を1つだけ取り替えます。「欺く」ではなく「脅す」だったら、どうなるでしょうか。それは、恐喝罪になりそうですね。今日から、恐喝罪に入ります。1つ、考えてみてください。お金を貸した相手が、いつまでも返してくれません。腹を立てたAは、Bにこう言いました。「返さないなら、周りに言いふらすぞ」。Bは怖くなって、貸した分だけをAに返しました。Aは、自分が貸したお金を取り戻しただけですよね。それでも犯罪になるんですか。実は、これは犯罪になりえます。しかも、単純な話ではありません。正当な言い分があっても、脅して取り立てれば恐喝になりうる。この答えは、2段階で考える必要があります。今日の後半で、じっくり見ていきましょう。まずは、恐喝罪そのものの骨格から固めていきます。
交付罪としての恐喝——249条
図:盗取罪と交付罪、恐喝はどちらか
まず、条文を見ましょう。
条文刑法249条
刑法249条(恐喝) 1項:人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。 2項:前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
恐喝罪は、詐欺罪と同じ性質を持つ罪だからです。財産犯総論の回で見た区別、覚えていますか。占有移転が相手の意思に反するなら盗取罪、相手の意思に基づくなら交付罪、というものでしたね。窃盗・強盗は盗取罪、詐欺・恐喝は交付罪でした。恐喝罪は、暴行・脅迫で相手を畏怖させ、その畏怖した状態で、相手自身に財物や利益を手放させる罪です。恐喝罪は、強盗と詐欺のちょうど中間に位置する罪だと考えてください。手段は強盗側、手放させ方は詐欺側です。この2つの軸を、これから1つずつ確認していきます。
図:客体には不動産も含まれる
次に、客体です。1項の財物には、実は不動産も含まれます。窃盗・強盗は、その場で持ち去る罪なので、客体は動産に限られます。ところが恐喝罪は、相手に手放す判断をさせる罪です。相手が土地の明渡しに応じるように仕向けても、恐喝罪は成立しうる、ということです。判例も、不動産を財物に含めています。2項の財産上の利益は、詐欺罪と同じく、債務の免除や役務の提供などを幅広く含みます。
強盗との境——1本の目盛り
図:一般人を基準にした客観的な物差し、もう一度
ここで、強盗罪の回で確認した物差しを思い出しておきましょう。この物差しが、今日もそのまま効いてきます。
図:恐喝罪と強盗罪をつなぐ1本の目盛り
恐喝罪の暴行・脅迫は、財物や利益を手放させるための手段として使われ、しかも相手の反抗を抑えつけるところまではいかない強さのもの、と定義されます。ただし、暴行罪・脅迫罪はこの目盛りには乗りません。財物や利益を交付させる手段として使われて初めて、恐喝罪と強盗罪の目盛りが始まります。その目盛りの中で、反抗を抑圧するには至らない力が恐喝罪です。そして、反抗を抑圧するに足りる力になると、強盗罪に切り替わります。同じ「お金をよこせ」でも、夜道で刃物を突きつけて言えば、一般人なら抵抗できません。これは強盗です。職場で「出さないと、あのミスを上司にばらすぞ」と言われたら、怖くはあっても、抵抗する余地は残ります。これが恐喝です。
この物差しを境に、恐喝と強盗が分かれます。今日からは、恐喝罪の側に立って、その先を見ていきます。
暴行・脅迫の意義——脅迫罪との違い
図:恐喝の暴行・脅迫は何を指すか
まず、恐喝罪の「暴行」です。相手を畏怖させる性質があれば足り、身体に直接加える力である必要はありません。強さの上限が反抗抑圧に至らない程度なので、性質そのものも広く捉えられます。次に「脅迫」です。相手を畏怖させるに足りる害悪の告知をいいます。
図:脅迫罪の脅迫より、対象が広い
性質は同じですが、1つ大きな違いがあります。脅迫罪の脅迫は、加害の対象が本人か、その親族に限られていましたね。ところが、恐喝の脅迫には、そのような対象の限定がありません。たとえば、Aが「お前の友人に危害を加えるぞ」と告げて、Bから金品を交付させた場合を考えてみましょう。友人は親族ではないので、脅迫罪の対象からは外れます。ですが、恐喝罪の脅迫には、そのような限定がないのであたります。Bを畏怖させて財物を交付させるという目的にとって、加害の対象が誰であるかは重要ではないからです。判例も、友人や縁故者への加害の告知で足りるとしています。
適法行為の告知でも恐喝になる
図:告げる内容そのものは、適法でもよい
実は、告げる内容が適法な行為でも、恐喝罪は成立しえます。
判例最高裁判所判決(昭和29年4月6日・刑集8巻4号407頁)
最高裁判所判決——犯罪事実の通報を仄めかして口止料を得た事案 恐喝罪において、脅迫の内容をなす害悪の実現は、必ずしもそれ自体違法であることを要するものではないのであるから、他人の犯罪事実を知る者が、これを捜査官憲に申告すること自体は、もとより違法でなくても、これをたねにして、犯罪事実を捜査官憲に申告するもののように申し向けて他人を畏怖させ、口止料として金品を提供させることが、恐喝罪となることはいうまでもない。
他人の犯罪事実を知っている者が、警察に届け出るぞ、と仄めかして、口止め料を要求した事案です。通報すること自体は、誰でもできる適法な行為です。ですが、この判決は、害悪の実現そのものが違法である必要はない、と述べています。通報という適法な行為を材料にして相手を畏怖させ、口止め料を出させれば、恐喝罪が成立するということです。恐喝罪の脅迫にあたるかどうかは、告げた内容が適法か違法かではなく、それによって相手を畏怖させ、財物や利益を手放させる関係にあるかどうかで決まります。通報する自由はあっても、黙っている代わりにお金を出させる自由まではありません。適法な行為を、財物を手放させる脅しの道具に使った時点で、相手の自由な判断が押さえつけられているからです。
処分行為が要る——2項恐喝と2項強盗の違い
図:恐喝も交付罪、処分行為が要る
恐喝罪は交付罪ですから、詐欺罪と同じく、処分行為が必要です。恐喝によって畏怖しただけでは足りず、その畏怖に基づいて、被害者自身が財物や利益を終局的に手放す行為が無ければなりません。ここで、2項強盗の回で見た論点を思い出してください。
図:2項恐喝は処分行為が要る、2項強盗は要らない
ところが、2項恐喝は違います。恐喝罪はあくまで交付罪なので、財物であっても財産上の利益であっても、被害者自身の処分行為が必要です。たとえば、Bを脅して、Aへの借金の返済を免除させたとします。Bが「もう返さなくていい」と自分の意思で告げれば、それが処分行為です。恐喝でこの処分行為を得られなければ、2項恐喝は成立しません。盗取罪の側か、交付罪の側かという、今日の最初に見た軸が、ここでもそのまま効いています。
未遂と因果の4段——250条
図:恐喝から取得までの因果の4段
恐喝罪も、詐欺罪と同じ因果の流れを持っています。①恐喝、②畏怖、③処分行為、④取得という4段です。
条文刑法250条
刑法250条(未遂罪) この章の罪の未遂は、罰する。
この4段のどこで途切れたかで、未遂の扱いが変わってきます。ひとつの場面を見てみましょう。Aが、後輩のBに「金を貸してくれないなら、殴るぞ」と凄みました。ところがBは、Aを気の毒に思っただけで、特に怖がりませんでした。それでも、Bは同情から、いくらかのお金をAに渡しました。①の恐喝はありましたが、②の畏怖が生まれていません。畏怖の無いまま渡した処分行為は、恐喝罪が予定する因果の流れに乗っていないので、恐喝罪は未遂にとどまります。もう1つ、別の場面です。Aが、Bに「今度、何かおごってよね」と、冗談めかして言っただけだったとします。
人を畏怖させるに足りる程度の告知とは、とてもいえません。この場合、①の恐喝そのものが認められません。この場合は、未遂にすら至りません。①があって②か③で切れれば未遂、①自体が無ければ、恐喝罪の問題にすらならない。この違いを区別してください。
権利行使と恐喝——取り立ても犯罪になるのか
図:冒頭の設例に戻ります
ここからが、今日の山場です。冒頭の設例に戻りましょう。Aは、Bに貸したお金を、脅して取り立てました。Aには、正当な債権があります。ここは、2段階に分けて考える必要があります。1段階目は、構成要件に該当するかどうかです。あのときも、1段目で脅迫罪の構成要件に当てたうえで、2段目で、権利行使として正当かどうかを、違法性阻却で見ました。今日の取立ても、同じ形で進めます。
図:恐喝罪の保護法益は、占有そのもの
恐喝罪の保護法益を、所有権のような正当な権利、つまり本権と解すれば、正当な債権者の取立ては、はじめから構成要件に該当しないことになります。Bはもともと、その金額を払う義務を負っています。債権の範囲内で払わせる限り、Bは守られるべき権利を何も失っていない、という考え方です。しかし、自力救済は禁じられています。正当な権利があるからといって、自分の実力で取り立てることまで許されるわけではありません。だからこそ、恐喝罪の保護法益は、占有そのものと解するのが妥当です。Aに正当な債権があっても、Bの財産の占有を侵害している以上、恐喝罪の構成要件には該当します。
正当な債権者なら、いくら脅して取り立てても無罪になるのか?そこが2段階目、違法性阻却の話になります。
図:違法性阻却の3要件
構成要件に該当しても、①正当な目的があり、②権利の範囲内であり、③手段が社会的に相当であれば、正当行為として違法性が阻却される、というのが学説の整理です。
⭐ 論文で書く規範:【権利行使と恐喝の判例の基準】他人に対して権利を有する者が、その権利を実行することは、その権利の範囲内であり且つその方法が社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を超えない限り、何等違法の問題を生じないけれども、右の範囲程度を逸脱するときは違法となり、恐喝罪の成立することがあるものと解するを相当とする。 (規範(最判昭30・10・14))
判例は、権利の範囲内であり、かつ、その方法が社会通念上一般に忍容すべき程度、つまり相手が我慢して受け入れるべき程度を超えないことを基準にしています。この範囲を超えれば、違法となり、恐喝罪が成立することがあります。ただし、注意してほしいことがあります。判例が言葉にしているのは、権利の範囲内かどうかと、手段が社会通念上相当かどうかの2点です。学説のように「正当な目的」を独立の要件として掲げているわけではありません。この違いを、混ぜて覚えないようにしてください。
図:限度を超えれば、全額について恐喝罪
身体に危害を加える態度を示すなど、社会通念上一般に忍容すべき程度を超えた手段だと認定された事案でした。この場合、判例はこう述べています。
判例最高裁判所判決(昭和30年10月14日・刑集9巻11号2173頁)
最高裁判所判決——債権額にかかわらず全額について恐喝罪の成立を認めた事案 もとより、権利行使の手段として社会通念上、一般に忍容すべきものと認められる程度を逸脱した手段であることは論なく、従つて、原判決が右の手段によりDをして金六万円を交付せしめた被告人等の行為に対し、被告人CのDに対する債権額のいかんにかかわらず、右金六万円の全額について恐喝罪の成立をみとめたのは正当であつて、……
手段が限度を超えた以上、正当な債権の範囲内で受け取った分も含めて、全額について恐喝罪が成立します。こう考えると分かりやすいです。Bが手放したお金は、借金の分も含めて、Bが占有していたお金です。それを1つの違法な脅しで丸ごと手放させた以上、債権の額で切り分けることはできません。行き過ぎた分だけが罪になる、と考えると読み違えます。判例は、権利行使を広く許しているのではありません。手段が相当性を欠いた瞬間、取立て全体が違法な恐喝行為に変わる、という厳しい帰結を示しています。反対に、たとえばAが「期限までに返さないなら、裁判を起こして請求する」と告げて、貸した分だけを返させた場合はどうでしょう。
権利の範囲内で、手段も社会通念上忍容すべき程度にとどまるので、違法の問題は生じず、恐喝罪は成立しません。身体への危害をちらつかせた判例の事案なら全額が恐喝、正規の手続を告げるだけなら不成立。線は、この間に引かれます。冒頭のAとBの場面も、この線で測ります。Aに正当な債権があっても、周りに言いふらすという脅しが、社会通念上忍容すべき程度を超えていれば、貸した金額そのままの範囲内であっても、恐喝罪が成立しえます。金額の正しさと、手段の相当性は、別の話だということです。なお、欺いて取り立てた場合、つまり権利行使と詐欺の関係も、同じように構成要件該当性から違法性阻却へという2段階で考えます。欺いて手放させても、Bが占有していた財産を、B自身の交付で失わせる点は、恐喝と変わらないからです。また、自力救済が禁じられているからこそ占有説を取る、という理由づけは、以前の回で見た自救行為の考え方ともつながっています。
自救行為の4要件とは、物差しが別です。自救行為は、正規の手続を待っていては回復が間に合わないという緊急性まで求める、条文の外の例外でした。今日見た学説の3要件も、判例の基準も、緊急性は問いません。学説は、権利の範囲内か、手段が社会的に相当かで、35条の正当行為に当たるかを測ります。ここは論文でも論点になりうる場面です。今日は、この2段階の考え方をしっかり押さえておいてください。
他罪との関係——吸収と観念的競合
図:手段は吸収、結果は別罪
最後に、他の罪との関係です。恐喝の手段として用いた暴行・脅迫は、恐喝罪に吸収され、暴行罪や脅迫罪が別に成立することはありません。ただし、その暴行によって、相手に傷害を負わせた場合は別です。
判例最高裁判所判決(昭和23年7月29日・刑集2巻9号1062頁)
最高裁判所判決——恐喝の手段として短刀で傷害を負わせたとして起訴された事案 右第一と第二との各事実が凡て証明されるならば、被告人は恐喝罪と傷害罪とにつき刑法第五十四条第一項前段の規定を適用して処断されなければならない。けだし、傷害行為は恐喝行為とは別個に、これの事前若しくは事後においてなされたのではなく、傷害行為がただちに恐喝行為の手段としてなされたと言うからである。
起訴された事実がすべて証明されれば、恐喝罪と傷害罪が成立し、54条1項前段の観念的競合として処断すべきだと述べています。暴行にとどまる限りは吸収されますが、傷害という重い結果が生じれば、傷害罪との観念的競合で扱われます。なお、公務員が恐喝的な手段で賄賂を受け取った場合の扱いは、賄賂罪の回で扱います。
今日の地図(保存版)
図:3罪対比表
今日の内容を、3罪の対比で整理しましょう。強盗罪は、反抗を抑圧するに足りる力で、被害者の意思に反して奪う盗取罪です。処分行為は不要で、客体は動産に限られます。恐喝罪は、反抗を抑圧するに至らない力で、被害者を畏怖させて手放させる交付罪でしたね。処分行為が必要で、客体には不動産も含まれます。詐欺罪は、暴行・脅迫を用いず、錯誤によって手放させる交付罪です。恐喝罪と同じく、処分行為が必要で、不動産も客体に含まれます。この3罪は、力の強さと、手放させ方という2つの軸で、きれいに並んでいます。正当な債権者の取立てでも、恐喝罪の構成要件には該当する。そのうえで、権利の範囲内で、手段が社会通念上忍容すべき程度にとどまれば違法ではない。手段がその程度を超えれば、債権の分も含めた全額について恐喝罪が成立する。この2段階の考え方を、覚えておいてください。これで、財産に対する罪のうち、交付罪の側は一区切りです。占有していた他人の物を、自分の物にしてしまう罪です。主体や客体から、順番に見ていきましょう。
参照条文
- 刑法249条
- 刑法250条