電子計算機使用詐欺罪と準詐欺罪
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第16章 個人的法益⑤|財産に対する罪②(詐欺・恐喝・横領・背任・盗品・毀棄) ⑧/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
現金には一度も触れていない
図:窃盗でも詐欺でもないなら、無罪なのか
少し前の、錯誤を扱った回を思い出してください。自動販売機に金属片を入れて商品を取り出したら、あるいは、盗んだキャッシュカードでATMから現金を引き出したら、何罪になるんでしたか?詐欺ではなく、窃盗でした。機械には心が無いので錯誤が起きず、財物を機械から取れば窃盗で拾える、という話でした。では、こんな場面はどうでしょうか。他人の口座から自分の口座へ、ネットバンキングの操作画面だけで数字を動かしたとします。現金には一度も触れていません。現金を取っていないなら、窃盗ではないですよね。相手をだましたわけでもないから、詐欺でもない。だとすると、無罪ということになるんですか。そう思えますよね。でも、無罪にはなりません。この穴を埋めるために作られたのが、電子計算機使用詐欺罪です。今日は、詐欺の鎖のどの輪が欠けると、どの条文に移るのか、という1本の物差しで見ていきます。
機械と利益の組み合わせにあく穴
図:財物なら窃盗で拾える。では利益なら
詐欺罪が成立するには、相手が錯誤に陥ることが必要でした。機械には心が無いので、機械を欺いても錯誤は起きません。だから、機械を不正に操作しても詐欺罪にはなりません。財物なら、冒頭で確かめたとおり窃盗で拾えます。ところが、あのネットバンキングの場面のように、機械の不正操作で得たのが現金という財物ではなく、口座の残高のような、財産上の利益だったらどうでしょうか。財物ではないから、窃盗の条文の「財物」にも当たらない気がします。窃盗罪の条文は財物としか書いていないので、財産上の利益だけをこっそり得る行為には使えません。財産犯の入口の回で見たとおり、財産上の利益をこっそり盗む行為、いわゆる利益窃盗は、そもそも処罰する条文がありません。
機械を不正に操作して財産上の利益を得るという行為は、詐欺罪にも窃盗罪にも当てはまらない、処罰の隙間になっていました。この隙間を埋めるために新しく作られたのが、これから見る条文です。
246条の2の全文と要件
図:前条(246条)に規定するもののほか
条文刑法246条の2
刑法246条の2(電子計算機使用詐欺) 前条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。
この条文の頭に「前条に規定するもののほか」とあります。前条とは246条、つまり詐欺罪です。詐欺罪では対応できない場面を補う条文だ、と条文自身が宣言しているわけです。分解すると、こうなります。まず、対象は人の事務処理に使われる電子計算機です。銀行のシステムや、決済のシステムを思い浮かべてください。そこに、行為は2つのパターンがあります。1つ目は前段で、虚偽の情報や不正な指令を与えて、財産権の得喪や変更に関わる不実の電磁的記録を作ることです。電磁的記録とは、コンピュータの中に残るデータのことです。財産権の得喪や変更に関わる記録とは、たとえば口座の残高のように、誰がいくら持っているかを決めるデータを指します。2つ目は後段で、そうした虚偽の電磁的記録を、人の事務処理の用に供する、つまり、仕事の処理に使わせることです。
2つの違いは、次の項目で具体例を使って区別します。最後に、得られるものは、財産上不法の利益に限られます。現金という財物そのものは含まれません。なお、246条の2の未遂も、詐欺罪と同じく処罰されます。「この章の罪の未遂は、罰する。」という250条は、この章に置かれた罪すべてに及びます。246条の2も、この章の中にあるので、未遂は罰せられます。
前段——まだ無い記録を新しく作らせる
図:実体の無い入金を、入力させて記録を作らせる
まず、前段の具体例です。実際には入金の実体が無いのに、オンラインシステムの端末を操作させて、あたかも入金があったかのような情報を電子計算機に与え、口座残高の記録を書き換えさせる場面を考えます。この「虚偽の情報」の意味を、実際に判断した裁判例があります。信用金庫の支店長が、個人の債務の返済に困り、部下の職員に命じて、実体の無い入金処理をオンライン端末に入力させ、口座残高の電磁的記録を書き換えさせた事案です。
図:支店長が部下に命じて、実体の無い入金を入力させる
判例東京高等裁判所判決(平成5年6月29日)
「虚偽の情報」の意義 刑法二四六条の二の「虚偽ノ情報」とは、電子計算機を使用する当該事務処理システムにおいて予定されている事務処理の目的に照らし、その内容が真実に反する情報をいうものであり、本件のような金融実務における入金、振込入金(送金)に即していえば、入金等に関する「虚偽ノ情報」とは、入金等の入力処理の原因となる経済的・資金的実体を伴わないか、あるいはそれに符合しない情報をいうものと解するのが相当である。
この事案では、実体の無い入金処理を入力させているので、まさにこの物差しに当てはまり、前段の成立が認められました。支店長は支店のお金を管理する立場にありました。それでも判決は、お金の受け入れが無いのに特定の口座へ入金する権限は、支店長を含め誰にも無いと述べています。そして虚偽かどうかの決め手は、銀行のシステムが、入力された数字の裏に本物のお金の動きがあることを前提に動いている点、つまり数字の裏付けの有無です。この物差しを裏側から見ると、面白い対比が浮かびます。同じ支店長が、正式な稟議を経ずに、独断で不良な貸付を実行した場合を考えてみてください。この貸付は、法律上は有効な貸付として実行されているので、その入金情報自体は、経済的・資金的な実体を伴っています。だから「虚偽の情報」にはあたらず、電子計算機使用詐欺罪は成立しません。ただし、その貸付の判断自体が任務に背くものであれば、別に背任罪の成否が問題になります。
裏付けの無い数字を新しく作らせれば前段、裏付けのある取引の判断自体が不当なら別の罪、という切り分けです。前段の手段には、虚偽の情報のほかに、「不正な指令」もあります。これは、そのシステムが本来予定していない命令のことで、たとえば、振込のプログラムに手を加えて、他人の口座の端数が自動で自分の口座に移るように処理させる場面です。どちらも、裏付けの無い数字を新しく作らせる点で、同じ前段にあたります。
前段の別の型——他人のカード番号を機械に入力する
図:カード番号をシステムに入力し、利用権を取得する
もう1つ、前段の類型を見ておきます。窃取したクレジットカードの名義人氏名や番号を使って、決済代行業者の電子計算機に入力送信し、名義人本人が電子マネーを購入したとする虚偽の情報を与えた事案です。
判例最高裁判所決定(平成18年2月14日)
クレジットカード番号の冒用と246条の2 被告人は、本件クレジットカードの名義人による電子マネーの購入の申込みがないにもかかわらず、本件電子計算機に同カードに係る番号等を入力送信して名義人本人が電子マネーの購入を申し込んだとする虚偽の情報を与え、名義人本人がこれを購入したとする財産権の得喪に係る不実の電磁的記録を作り、電子マネーの利用権を取得して財産上不法の利益を得たものというべきであるから、被告人につき、電子計算機使用詐欺罪の成立を認めた原判断は正当である。
そして、ここで取得しているのは、電子マネーの利用権という財産上の利益です。現金という財物ではありません。ここで、前回のクレジットカード詐欺の回を思い出してください。他人名義のカードを、加盟店の店員に示して商品を受け取る場面がありましたね。同じ「他人のカードを不正に使う」行為でも、店員という人をだまして商品を受け取れば246条、決済システムという機械に番号を入力するだけで人の判断を介さずに利益を得れば246条の2前段になります。人が介在するかどうかで、当てはまる条文が変わる、という好例です。
後段——既にある虚偽の記録を使う
図:既に書き換え済みの記録を、機械に読み込ませて使う
次は後段です。前段が「まだ無い記録を新しく作らせる」行為だったのに対して、後段は「既に存在している虚偽の記録を使う」行為です。あるサービスのポイント残高を、あらかじめ何らかの方法で書き換えてしまった、改ざん済みの電子カードがあるとします。このカードを、店舗の読み取り端末に読み込ませて決済に使う場面です。読み取り端末という電子計算機に、その虚偽の記録を人の事務処理の用に供している、という後段の型にあたります。誰がその記録を書き換えたのかを問わず、既にある虚偽の記録だと知りながら使う行為自体が、後段の対象になります。ここで、以前、詐欺を事案に当てはめた回で見たキセル乗車を思い出してください。最低区間の切符で乗って、下車駅の改札で定期券を見せて出る場面でした。あのとき、見解が分かれるのは有人改札の場合に限られる、と確認しましたね。
自動改札機は機械なので錯誤に陥らず、詐欺の対立は起きようがない、という話でした。では、同じことを自動改札機でやったらどうなるか。その答えが、この後段です。乗車駅では最低区間の切符で入場し、下車駅の自動改札機には、下車駅を含む区間の定期券を投入して改札を通り、差額の運賃の支払を免れた事案で、高等裁判所が246条の2後段の成立を認めています。ただ、下車駅でそれを改札機に読み取らせると、この客は定期券の区間内の駅から乗ってきた、という情報を差し出すことになります。実際には、その区間の外の駅から乗ってきていますから、その乗車の情報が事実に反します。正規の運賃を払った乗車かどうかを判定する改札機の事務処理に、その虚偽の情報を使わせて差額の運賃の支払を免れた、つまり財産上の利益を得た、と見たわけです。有人改札なら、駅員という人をだましたかどうかで見解が割れました。自動改札機なら、相手は機械なので錯誤の輪がそもそも生じません。動いたのが運賃の支払を免れるという利益なので、246条の2に行き先が決まります。
財産上不法の利益に限る——財物との境目
図:客体は財産上の利益のみ。財物なら窃盗
ここで、246条の2が拾う対象を、もう一度確認しておきます。口座の引き出しや振替ができる地位、電子マネーやプリペイドカードの利用権のような、財産上の利益だけが対象です。機械から現金を取れば、窃盗罪の領域です。以前の回で見た、盗んだキャッシュカードでATMから現金を引き出す場面を思い出してください。あれは、財物である現金を機械から取得しているので、窃盗罪で処理されます。財物ならもともと窃盗で拾えるので、隙間は利益の側にしか無かった。だから、この条文が拾うのも、利益だけなんです。
246条・246条の2・窃盗の振り分け
図:人が介在するか、機械だけか、財物か利益か
ここまでの内容を、1つのフローにまとめます。人が介在して、欺罔行為から錯誤、処分行為までつながっていれば246条です。処分行為は、錯誤と処分行為の回で見たとおり、だまされた相手が自分の意思で財物や利益の支配を最終的に手放す行為でした。詐欺は、だまされた相手が自分で手放すから詐欺になる罪です。だから、手放す判断をする相手がいなければ、246条には乗りません。人の判断を介さず、機械だけを不正に操作して財産上の利益を得れば246条の2です。機械から現金などの財物を直接取得すれば、窃盗罪です。加盟店の店員という人に示せば246条、決済システムという機械に番号を入力するだけなら246条の2、ATMから現金を引き出せば窃盗、という具合に、同じ「他人のカードを不正に使う」行為でも、行き先が変わります。冒頭のネットバンキングの場面も、このフローに乗せれば答えが出ます。相手は機械で錯誤の輪が生じず、動いたのは残高という利益なので、246条の2です。詐欺の鎖のどの輪が欠けたかで、行き先の条文が決まるわけです。
248条の全文と要件
図:欺罔行為が無くても成立する受け皿
ここからは、もう1つの受け皿です。246条の2が、機械が相手で錯誤が起きない場合の受け皿だったのに対して、こちらは、相手は人だけれど、欺罔行為というほどの嘘には届かない場合の受け皿です。
条文刑法248条
刑法248条(準詐欺) 未成年者の知慮浅薄又は人の心神耗弱に乗じて、その財物を交付させ、又は財産上不法の利益を得、若しくは他人にこれを得させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。
未成年者の知慮浅薄、または人の心神耗弱につけ込んで、財物を交付させたり、財産上の利益を得たりすれば成立します。客体は財物と利益の両方で、利益だけに限られる246条の2とは、ここが違います。
未成年者・知慮浅薄・心神耗弱・乗じて
図:「乗じて」=誘惑にかかりやすい状態を利用すること
条文の言葉を、1つずつ見ていきます。まず「未成年者」です。これは18歳未満の者を指します。次に「知慮浅薄」です。これは、知識が乏しく、思慮の足りないことを指します。「心神耗弱」は、精神の障害によって、通常の判断能力を備えていない状態です。「乗じて」は、誘惑にかかりやすい状態を利用すること、という意味です。ここが、詐欺罪との一番の違いです。詐欺罪は、相手を積極的に錯誤に陥らせる欺罔行為が必要でした。準詐欺罪は、そこまでは要求されません。相手がもともと持っている判断力の弱さに、つけ込むだけで足ります。なぜ嘘が無くても処罰するのか。判断力の弱い相手は、嘘をつかれなくても、自分の財産を守れないからです。嘘をつくまでもなく差し出させられる相手から財産を引き出すのは、だまし取るのと同じくらい、相手の財産を危うくします。法定刑も、詐欺罪と同じ十年以下です。
たとえば、小学生が持っている高価なゲーム機に目をつけて、「このお菓子と交換しよう」と持ちかけたとします。嘘は1つもついていません。でも、その子はゲーム機の値打ちを判断できず、言われるままに渡してしまいました。値打ちが分からないという判断力の弱さにつけ込んでいるので、248条の準詐欺罪です。
248条とほかの罪との境目
図:欺罔の程度の違い——欺罔があれば246条、処分できなければ窃盗
248条の位置づけを、周りの罪との境目で確認します。さっきの小学生の例で、「このゲーム機はもう壊れかけで、値打ちは無いよ」と嘘をついて渡させたらどうでしょうか。これは、錯誤に陥らせるだけの嘘、つまり欺罔行為です。相手が未成年者であっても、この場合は246条、つまり詐欺罪が成立します。248条は、あくまで欺罔行為に届かない場合の受け皿です。逆に、相手が意思能力、つまり自分のしていることの意味を分かる力をまったく欠いていて、財産的な処分の意味そのものを理解できない場合はどうでしょうか。たとえば、まだ物心のつかない幼い子どもから、手に持ったおもちゃを受け取る場面です。
処分行為は、自分の意思で財物の支配を手放す行為でした。手放すことの意味がまったく分からない相手は、その意思をそもそも持てません。準詐欺罪も、条文に「交付させ」とあるとおり、相手が自分で渡すことが前提の罪です。だから、おもちゃが子どもの手から移っても、それは相手の意思に基づく移転ではなく、相手の意思に反する移転です。処分行為が観念できない以上、詐欺罪にも準詐欺罪にもなりません。この場合は、窃盗罪として処理します。もう1つ、相手を昏酔させて財物を奪う場合もあります。これは、以前の回で見た昏酔強盗にあたります。判断力につけ込むだけの248条とは違い、相手の抵抗する力そのものを奪って財物を取るので、強盗として扱われます。なお、248条の未遂も罰せられます。250条は、この章の罪すべてに及ぶ規定だからです。
詐欺の章の締め——鎖のどこが欠けたか
図:詐欺の鎖のどこが欠けると、どの条文に移るか
詐欺罪は、欺罔行為、錯誤、処分行為、取得という4つの輪の鎖でした。今日見た2つの条文は、この鎖のどこかの輪が欠けたときに、代わりに出てくる条文です。相手が機械で、錯誤の輪がそもそも生じない場合、財産上の利益なら246条の2、財物なら窃盗です。欺罔行為というほどの嘘には届かず、判断力の弱さにつけ込むだけの場合は248条です。相手が意思能力を欠いていて処分行為が観念できない場合は窃盗、相手の抵抗する力そのものを奪えば昏酔強盗です。あの場面では、相手は機械で、動かしたのは口座の残高という財産上の利益です。だから詐欺にも窃盗にもならず、246条の2で処理します。これで、詐欺罪の章が一区切りです。強盗罪との境や、権利を行使する場面の扱いが中心です。
参照条文
- 刑法246条の2
- 刑法248条