刑法ゼロから刑法#37

違法性阻却事由——推定を覆すもの・法定と超法規

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第6章 違法性 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

前回の到達点を受ける——今日の問い

今日の問い——推定を覆す事情を、どう探すか 図:今日の問い——推定を覆す事情を、どう探すか

前回、行為無価値論から出てきた説を、覚えていますか?社会的相当性説、でしたね。今日は、違法性阻却事由の全体像を組み立てます。構成要件に当たった行為について、実際の答案で何をするか。その手順です。今日を見終えると、答案の書き出し方が変わります。

違法性阻却事由の意義——推定を覆すもの

推定を覆す——構成要件の違法性推定機能 図:推定を覆す——構成要件の違法性推定機能

前に、夜道でAがXに殴りかかり、Xが突き飛ばした事案を見ましたね。この事案を、違法性という第二の関門の入口から、もう一度見てみましょう。Xの行為は、傷害罪の構成要件に当たります。ここで、構成要件には大事な性質があります。構成要件は、違法で責任のある行為の典型的な型として作られています。なぜ、そう言えるのか、少し立ち止まってみましょう。構成要件は、これまでの事件から、違法で責任のある行為の型を、抜き出して作られています。だから、この型に当たれば、多くの場合、本当に違法で責任がある行為です。

だから、構成要件に当たった時点で、違法性はすでに推定されています。まだ確定はしていないけれど、いったんそう扱ってよい、という状態です。あの回でも、構成要件の働きの1つとして出てきました。今日は、そこから答案の手順を作ります。ゼロから「これは違法だ」と証明することではありません。やることは1つだけです。この推定を覆す特別な事情が無いかを探すことです。違法性阻却事由です。今日、これを詳しく見ていきます。そこは、言い方に注意が要ります。阻却事由が無くても、違法性を新しく認定するわけではありません。最初からあった推定が、覆らずに残るだけです。

「新しく認定する」と「推定が残る」は、同じではありません。積極的に理由を挙げて違法性を基礎づける作業は、最初から要りません。答案でも、やることは、阻却事由の有無を検討することだけです。悪い例から、見てみましょう。「構成要件に該当し、違法性も認められる」と、先に言い切ってしまう書き方です。この書き方は、違法性を基礎づける理由が、どこにも示されていません。正しい順番は、こうです。「構成要件に該当し、違法性阻却事由も見当たらないから、違法性が認められる」。この手続きの有無が、採点でも見られています。

「阻却」の意味——そもそも違法ではなかった

「阻却」の意味——取り消しではない 図:「阻却」の意味——取り消しではない

多くの人が、そこでつまずきます。「後から取り消す」という理解は、よくある勘違いです。「違法性を阻却する」というのは、後から違法性を消すことではありません。そもそも、その行為は違法の側に立っていなかった、という意味です。たとえば、健康診断を想像してみてください。検査の結果、「要精密検査」の通知が来ました。ここまでは、何かに引っかかった状態です。そして、詳しく調べてもらったら。実は、最初から病気ではなかったと分かりました。治ったのではありません。最初から、病気ではなかったんです。Xの行為も、いったん違法になってから治るのではありません。阻却事由があると分かった瞬間に、そもそも違法でなかったと評価し直されることになります。

ここを取り違えると、違法性の説明が、時間の順番でおかしくなります。

違法性阻却の一般的根拠——なぜそう言えるか

一般的根拠の詳論——なぜその説が出てくるのか 図:一般的根拠の詳論——なぜその説が出てくるのか

前回、法益権衡説と、社会的相当性説という、2つの説の名前を見ました。今日は、なぜその説が出てくるのかを、詳しく見ます。前回の言葉を1つ、確かめます。「違法性の実質」。結果無価値論は、違法性の実質を、法益侵害という結果に置きました。だから、阻却するかどうかも、結果の中身だけで決めます。大きい法益を守るためなら、それと同じか、より小さい法益を犠牲にしてもよい。これが、法益権衡説の中身です。守られたXの身体と、犠牲になったAの身体を、天秤に乗せて比べます。釣り合っている、つまり犠牲になったほうが大きくない。だから阻却される、という説明です。

一方、行為無価値論は、違法性の実質を、行為にも置きました。行為の中身が要ります。行為が、社会的に見て相当な範囲内であれば、阻却される。これが、社会的相当性説です。Xの反撃という行為そのものが、社会的に見て相当だったかを見ます。殴りかかられて、とっさに突き飛ばした。その行為の中身が、相当性の判断材料になります。その具体的な中身は、これから見る条文の4つと、それぞれを扱う回で、正面から出てきます。今日は、その理由づけがどこから出てくるかまでを押さえてください。そこが今日の核心です。違法性の実質をどこに置いたかが、阻却の理由づけの形を、そのまま決めています。

同じ説の、別の呼び方です。結果だけを実質と見れば、結果の量だけで判断が決まります。行為も実質に含めれば、行為の中身までが、判断に加わります。それを確かめたのが、前回のもう1つの事案でした。Aの手首が折れる結果は同じで、Xは罰される事案でしたね。これが、一般的根拠を「なぜそう言えるか」まで持つ意味です。

法益権衡説と社会的相当性説の違い——比べるのは結果か、行為も含めるか 図:法益権衡説と社会的相当性説の違い——比べるのは結果か、行為も含めるか

ここまでの違いを、比べる材料という切り口で、もう一度整理しましょう。法益権衡説が比べるのは、守られた法益と、犠牲になった法益。結果だけです。行為そのものの中身まで、比べる材料に含めます。この違いが、今後の各論点でも、効いてきます。

違法性阻却事由の種類——法定4つと、その外

法定の違法性阻却事由——刑法が定める4つ 図:法定の違法性阻却事由——刑法が定める4つ

ここからは、この一般的根拠が、実際にどこで使われるかを見ます。刑法は、違法性阻却事由として、条文の中に4つを規定しています。3か条なのに4つある、というのが今日いちばん間違えやすいところです。前回、35条を見ましたね。この条文は、実は2つに分かれます。法令行為が前段、正当業務行為が後段です。法令行為は、法令が「やってよい」と認めている行為です。正当業務行為は、仕事としてされる行為のうち、正当と認められるものです。それから、36条1項の正当防衛。そして、今日はじめて条文を見る、緊急避難があります。

条文刑法37条1項

刑法37条1項(緊急避難) 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

今日、見てほしいのは、「罰しない」までの本文の部分だけです。行き過ぎた避難行為をどう扱うか、という別の論点です。緊急避難そのものを扱う回で、正面から見ます。危難を避けるため、やむを得ずにした行為が。生じた害の程度を超えなければ、罰しない。ここまでで十分です。これで、法定の違法性阻却事由が、揃いました。35条が前段と後段で2つ、36条1項で1つ、37条1項本文で1つ。合わせて4つです。板でも、条項まではっきり書いておきます。

超法規的違法性阻却事由——条文の外にも道はある 図:超法規的違法性阻却事由——条文の外にも道はある

実際、収まりません。ここで、さっきの一般的根拠が効いてきます。条文の4つのどれにも当てはまらなくても。違法性阻却の一般的根拠、法益権衡説や社会的相当性説の考え方をみたすなら。違法性は阻却されえます。これを、超法規的違法性阻却事由と呼びます。一般的根拠の議論は、趣味で学説を並べていたわけではありません。条文の外へ出るための足場だったんです。ここが、今日いちばん大事な背骨です。根拠を満たすかどうかの吟味こそが、重要な歯止めです。一般的根拠を満たさなければ、超法規的にも阻却されません。

たとえば、Xが、通行人と肩がぶつかっただけの相手に、殴りかかって反撃したとします。法益権衡で見ても、肩がぶつかった程度の不利益と。殴られてケガをする不利益は、釣り合いません。社会的相当性で見ても、この反撃は、社会が許容する範囲を超えています。だから、この行為は、超法規的にも阻却されません。根拠を満たすかどうかの吟味があってはじめて、条文の外へ出られます。

条文の外の一例——追いかけて取り返す 図:条文の外の一例——追いかけて取り返す

たとえば、こんな場面を考えてみましょう。Aが、何者かに財布をひったくられました。犯人は、そのまま走って逃げていきます。たまたま近くにいたXが、追いかけて、財布を取り返しました。Xの行為は、法定の4つ、どれにも当てはまりません。でも、一般的根拠に照らせば、阻却される余地があります。今日は、枠があるということだけを示します。自救行為のように、条文の外にある枠の中身は、正当行為を扱う回の続きで、正面から扱います。楽しみにしていてください。

違法の客観性——視点と対象の区別

違法の客観性——視点と対象の区別 図:違法の客観性——視点と対象の区別

もう1つだけ、短く見ておきたい話があります。違法性の判断は、客観的に行われる、と言われます。行為者の人格から、いちおう離れて、行為それ自体を対象に判断する、という意味です。「この人は、普段どういう人柄か」までは見ません。あくまで、その行為そのものを見ます。責任の判断は、行為を行為者の人格と結びつけて、責められるかを問います。ここが、違いです。責任の中身は、責任を扱う回で正面から見ます。ここまでは、素直に分かると思います。どこがですか。前回、行為者の主観も見ました。そこが、まさに今日の弁別ポイントです。「客観的に判断する」というのは、判断対象が客観一色だという意味ではありません。

判断する視点が、客観的だ、という意味です。行為者の主観面や身分も、違法性の実質に影響するかぎり、判断の対象にはなります。Xが、身を守るつもりで突き飛ばしたのか、面白半分だったのか。そのつもりの違いが、行為が相当だったかの判断に入ってきます。この二段構えを押さえれば、前回の最後に見た主観的違法要素の話とも、矛盾しません。理論的には、やや抽象的な議論です。試験との関係では、重要度は高くありません。「視点と対象は別」、この一点だけ、押さえておいてください。

可罰的違法性の理論——超法規的阻却の実例

可罰的違法性——罰するに値する重さがあるか 図:可罰的違法性——罰するに値する重さがあるか

最後に、もう1つだけ、超法規的違法性阻却事由の実例を見ておきましょう。別の実例です。可罰的違法性という考え方を見ます。処罰に値する程度、という意味です。可罰的違法性とは、罰するに値する、違法性の重さのことです。具体的に、見てみましょう。ある人が、スーパーの試食コーナーに置かれた爪楊枝を、1本だけ持ち帰りました。爪楊枝は、店の所有物です。無断で持ち帰れば、窃盗罪の構成要件には、形式的に当たります。窃盗罪の中身は、窃盗罪を扱う回で見ます。今日は条文番号だけ触れます。この行為が、構成要件には当たっている。ここまでは、動きません。

処罰されません。爪楊枝1本を持ち帰った程度では、処罰に値する程度の違法性が無いからです。法定の4つには、もちろん当てはまりません。処罰に値する程度の違法性を欠く行為は、構成要件に該当しても、違法性が阻却される。こう考えておけば、試験対応としては十分だ、というこの講義の割り切りです。超法規的阻却事由という同じ枠の、別の中身です。そうとは限りません。ここに、境界線があります。たとえば、持ち帰ったのが爪楊枝ではなく、店の高級な万年筆だったら、話は変わります。実害の大きさが変われば、処罰に値する程度の違法性は、あると判断されます。

程度の問題である以上、線引きは、対象の実害次第です。

到達点——第二の関門の作業手順

到達点——第二の関門を、5つの手順で 図:到達点——第二の関門を、5つの手順で

今日、見てきたことを、1つの手順にまとめます。①構成要件該当性が、違法性を推定する。②違法性の段階では、推定を覆す事情だけを探す。③まず、条文に定められた4つに当たるかを見ます。35条前段、35条後段、36条1項、37条1項本文です。④当たらなくても、違法性阻却の一般的根拠をみたせば。この講義では社会的相当性説をみたせば、超法規的違法性阻却事由として阻却されえます。⑤その一例が、処罰に値する程度の違法性を欠く場合。つまり、可罰的違法性の理論です。この5つが言えれば、第二の関門の入口は通れます。第6章の残りは、今日作った地図の④の中身を、1つずつ埋めていく作業になります。

今日の地図さえ持っていれば、迷子になりません。

今日の地図(保存版)

今日の地図 図:今日の地図

今日を、振り返りましょう。構成要件に当たれば、違法性はいったん推定されます。やることは、推定を覆す事情を探すことだけでした。そもそも、違法の側に立っていなかった、という意味でした。この根拠論が、条文の外へ出るための足場になっていました。当たらなくても、一般的根拠をみたせば、超法規的違法性阻却事由として阻却されえます。そして最後に、違法の客観性。判断の視点は客観的でも、判断の対象には主観も入りうる、という二段構えでした。第6章の残りは、この地図の中身を、1つずつ埋める作業になります。まずは、法令行為と正当業務行為、35条の中身から始めます。

参照条文

  • 刑法37条1項

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