刑法ゼロから刑法#39

被害者の承諾の有効要件——同意があっても、罪になるとき

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第6章 違法性 ④/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

前回の到達点を受ける——今日の問い

今日の問い——④に落ちたとき、何を検討するのか 図:今日の問い——④に落ちたとき、何を検討するのか

前回、被害者の承諾には、4つの効き方があると学びました。では、前回の4つのうち、どれを検討するのが今日の続きでしょうか?違法性阻却の類型に落ちたときだけ、根拠論に乗せる、という話でしたね。今日は、その根拠論の中身に入ります。根拠論が正しいとして、具体的に何を検討すれば違法性が阻却されるのか、です。今日はそこを、要件として取り出します。

要件は6つ、ただし立場で数が変わる

要件は3つか6つか——立場で数が変わる 図:要件は3つか6つか——立場で数が変わる

被害者の承諾で違法性が阻却されるには、いくつかの要件を満たす必要があります。その要件の数は、立場によって変わります。法益性欠如説は、承諾があれば守るべき法益が無くなる、という結果無価値論からの説でしたね。社会的相当性説は、行為無価値論から出てきた説です。板を見てください。左の3つは、両方の立場に共通する要件です。本人が自分で手放せる利益か、その承諾がちゃんとしたものか、行為より前にあったか、です。この3つは、どちらの立場でも欠かせません。行為者が承諾を認識していること、承諾が外部的に表示されていること。そして、行為態様が社会的に相当であることです。相手がその承諾を知っていたか、承諾が外から見える形だったか、やり方が行き過ぎでないか、です。この3つは、行為無価値論からだけ加わります。

結果無価値論の答案なら3つ、行為無価値論の答案なら6つになります。立場を言わずに数だけ書くと、根拠を分かっていないと思われます。冒頭で立場を宣言してから、その立場が要求する数の要件を順番に検討します。4つ目から6つ目を見るときに、まとめてお話しします。

①個人的法益であること

①個人的法益であること——効いているのは処分権の有無 図:①個人的法益であること——効いているのは処分権の有無

まず1つ目、個人的法益であることです。承諾が意味を持つのは、被害者本人が処分できる法益に限られます。自分の物として手放すかどうかを、自分で決められる利益のことです。国家的法益や社会的法益は、本人が承諾しても意味を持ちません。保健所の監視員Xが、飲食店を営むAの店に立入検査に入ろうとしました。面倒に思ったAは、Xに「多少手荒くしてもいいから、帰ってほしい」と言いました。根負けしたXは、「まあ、いいですよ」と答えてしまいました。そこで、Aは、Xの体を押して外に出しました。では、Aの行為は公務執行妨害罪に問われないでしょうか。

条文刑法95条1項

刑法95条1項(公務執行妨害及び職務強要) 公務員職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

条文を確認しましょう。守っているのは、公務員個人の気持ちではありません。公務が円滑に行われるという、国の利益です。Xには、この利益を手放す権限がありません。やめると言った点も、結論は変わりません。条文が守るのは、始めようとする場面から終わるまでの職務です。しかも検査を中断させたのは、A自身の行為です。だから押されたその瞬間も、Xはまだ職務を執行している最中だと評価されます。Aの行為は、Xの同意の有無にかかわらず、公務執行妨害罪の構成要件に当たります。まず法益の性質を確認する視点が、答案でも欠かせません。

「本罪の保護法益は個人的法益ではないから、承諾は意味を持たない」と位置づけます。逆に、個人的法益であれば、承諾は意味を持ちえます。次の要件に進みましょう。

②承諾自体が有効であること——承諾能力・真意・動機の錯誤

②承諾が有効であること——3つの視点 図:②承諾が有効であること——3つの視点

2つ目は、承諾自体が有効であることです。まず、承諾能力が要ります。その承諾が何を意味するかを、理解して判断できる力のことです。小学生のAが、深く考えずに高価なゲーム機をXに「あげるよ」と言った場合です。次に、真意も要ります。本心からの承諾かどうか、です。Aが寝ぼけたまま、「いいよ、持ってって」と口走った場合です。承諾能力と真意、この2つは比較的分かりやすいと思います。3つ目の、動機に錯誤がないことが、今日いちばん重い山場です。動機の錯誤とは、承諾した理由、つまり動機の部分に、勘違いがある場合のことです。

夜、空き巣を働くつもりのXが、A宅の玄関で「こんばんは」と声をかけました。Aは近所の顔見知りだと思い込み、「どうぞ、お上がりください」と答えました。Xは、そのまま家に上がり込みました。Aの返事は、有効な承諾でしょうか。「上がっていい」という言葉自体はありますが、Aは、Xが泥棒だとは思っていません。ここで、前に間接正犯のところで見た判例に戻ります。

判例最判昭和33年11月21日・刑集12巻15号3519頁(第二小法廷・昭和31年(あ)第2220号)

同意殺人罪の承諾の有効性が問われた事件 要するに被害者の自由な真意に基かない場合は刑法二〇二条にいう被殺者の嘱託承諾としては認め得られない。 → 本件は通常の殺人罪に該当する

判決の言葉そのものは、そうなっています。「動機の錯誤」という言葉は、判決には出てきません。整理するのは学説の側です。この判例は、同意殺人罪の成立要件としての承諾について判断したものです。この考え方を違法性阻却の場面にも及ぼすべきだ、という見方は有力です。ただ、判例そのものがそう述べたわけではありません。ちなみに今の空き巣の例は、前回の4つのパターンの、1つ目に当たる場面です。承諾が有効かどうかは、どのパターンでも先に問われます。そして、動機の錯誤で承諾が常に無効になるかも、実は争いがあります。

動機の錯誤——承諾は無効になるか 図:動機の錯誤——承諾は無効になるか

さっきの、Xが「こんばんは」と声をかけた例に戻りましょう。有効説は、文字どおり有効と考えます。Aは、家に人を入れるという行為そのものには、同意しています。だから、動機に錯誤があっても承諾の有効性には影響しない、という理由です。無効説は、逆に無効と考えます。Xの欺く行為によって引き出された承諾は、本心からのものとはいえない、とします。どちらの説を採るかで結論が変わります。答案では立場を明示して結論を出します。「侵入」の意味は各論の回で扱います。今日は、この論点があることだけ押さえてください。有力な教科書も、動機に錯誤がないことは必要というべきだろう、と留保つきで述べています。

争いがある論点だと知っておくことが大事です。

③承諾が行為の前に存在すること

③承諾は行為の前に——時間は戻らない 図:③承諾は行為の前に——時間は戻らない

3つ目は、承諾が行為より前に存在していることです。当たり前のようですが、ここでつまずく人が意外と多いんです。Xがふざけて、Aの背中を後ろから強くたたきました。Aは振り返りましたが、少し笑って「別に怒ってないよ、痛かったけど」と言いました。では、Xの行為は最初から適法だったことになるでしょうか。そこが、よくある誤解です。違法性があるかどうかは、行為の時点で決まります。Xが叩いた、その瞬間です。その時点で、Aの承諾はありませんでした。事後の許しは、量刑を考えるときの有利な事情にとどまります。答案では、承諾がいつ存在したかをはっきり認定してください。

④認識・⑤外部的表示——行為無価値論から加わる2つ

承諾があることを、行為者が知らなかったら 図:承諾があることを、行為者が知らなかったら

さっき、要件は6つか3つか、という話をしましたね。ここから、その理由に入ります。まず、具体例を見てください。Aは、実は「今日は本気で殴ってきてほしい」と思っていました。一言も、口に出しませんでした。XはそんなAの胸の内を知らないまま、いつもの喧嘩の延長で本気でAを殴りました。ここに、行為無価値論と結果無価値論の分かれ目があります。

社会的相当性は、行為者の主観も見る 図:社会的相当性は、行為者の主観も見る

行為無価値論は、行為が違法かを、結果だけでなく行為そのものの相当性で判断します。違法性の実質を見た回で、行為無価値論は主観も判断に入れる、と押さえました。だから、行為の相当性を判断するときは、行為者が何を認識していたかも見ます。Xの立場で考えてみましょう。Xは、Aの胸の内を知りません。その主観から見れば、Xの行為は社会的に相当だとは言いにくいです。だから、行為者が承諾を認識していることが、行為無価値論からの要件になります。さらに、行為者が認識できるには、承諾が外に見える形になっていないといけません。

だから、承諾が外部的に表示されていることも要件になります。ここで、前回の例を思い出してください。

2つの立場の対比——④⑤は要るのか、要らないのか 図:2つの立場の対比——④⑤は要るのか、要らないのか

Aが、Xに本気で殴ってみてくれと、口に出して頼んでいた例です。あの場合は、Xも承諾をはっきり認識していて、承諾も外部に表示されています。だから、行為無価値論からも、この2つはクリアできます。外から見えるか、見えないか。それが分かれ目です。結果無価値論は、行為の相当性ではなく、現に法益が失われたかだけを見ます。だから、Xがそれを知っていたかどうかは関係ありません。結果無価値論からは、この2つとも不要になります。行為無価値論からは、Xは条件を満たさないので違法性は阻却されません。結果無価値論からは、Aが現に承諾している以上、違法性は阻却されます。

これが、前回見た対立が、今日、答案の結論として現れる場面です。だからこそ、答案の冒頭で自分の立場をはっきり宣言する必要があります。

⑥行為態様の相当性——同意傷害の限界

承諾があるだけで、足りるのか 図:承諾があるだけで、足りるのか

最後の要件、行為態様の相当性に入ります。⑥も、行為無価値論から加わる3つ目です。前回、行為無価値論からは承諾は一資料にすぎない、と押さえました。承諾だけでは結論が出ず、他の材料も見る、という意味でしたね。一資料である以上、行為のやり方そのものを、独立の要件として見ることになります。結果無価値論からは、法益が現に放棄されていれば足りるので、この要件は出てきません。そして、この要件は同意傷害の限界を画す、いちばん実務的な要件です。承諾を得たうえで、体を傷つける行為のことです。前回の、Aが本気で殴ってみてくれと頼んだ例を、少し変えてみましょう。Aが本気で殴ってくれと頼んだところ、Xは加減せず何発も殴り続けました。Aは、大けがを負いました。

承諾があるからといって、常に違法性が阻却されるわけではありません。

条文刑法204条

刑法204条(傷害) 人の身体を傷害した者は、十五年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

傷害罪の条文には、承諾についての記述がどこにもありません。だから承諾があっても、条文が直接、結論を出してくれるわけではないんです。承諾を得た動機や目的、手段や方法、そして部位や程度、この3系統を総合考慮します。加減せず何発も殴り続けたのは、手段・方法の点で行き過ぎと評価されるでしょう。実際にあった事件を見てみましょう。

判例最決昭和55年11月13日・刑集34巻6号396頁(第二小法廷・昭和55年(し)第91号)

保険金詐欺目的の承諾と、傷害罪の成否 被害者が身体傷害を承諾したばあいに傷害罪が成立するか否かは、単に承諾が存在するという事実だけでなく、右承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度など諸般の事情を照らし合せて決すべきものであるが、本件のように、過失による自動車衝突事故であるかのように装い保険金を騙取する目的をもつて、被害者の承諾を得てその者に故意に自己の運転する自動車を衝突させて傷害を負わせたばあいには、右承諾は、保険金を騙取するという違法な目的に利用するために得られた違法なものであつて、これによつて当該傷害行為の違法性を阻却するものではないと解するのが相当である。 → 再審請求に対する特別抗告を棄却する決定。承諾があっても違法性は阻却されないから、原判決の業務上過失傷害罪ではなく、より重い傷害罪が成立することになり、再審事由(無罪または軽い罪を認めるべき場合)にはあたらないとした。

共謀した仲間どうしで承諾のうえ、自動車を衝突させました。承諾があっても、違法性は阻却されませんでした。最高裁は、より重い傷害罪が成立することになる、と判断しました。承諾を得た目的そのものが違法だったことです。この判断は、後から裁判をやり直せるかが争われた場面で示されたものです。今日は、承諾の効力の部分だけ押さえてください。この事件では、下級審が共謀者の傷害はかなり軽かったと認定していたようです。でも、最高裁の判断は、傷害の軽さを理由にはしていません。理由は、あくまで承諾を得た目的の違法性です。目的が違法なら、傷害の程度が軽くても阻却は認められません。

承諾の存在を認定したあとに、動機・目的、手段・方法、部位・程度を順番に考慮します。①から⑥まで、揃いました。

到達点——①〜⑥のチェックリストとまとめ・送り

到達点——①〜⑥の検討手順 図:到達点——①〜⑥の検討手順

今日の内容を、1つの手順にまとめます。まず、①個人的法益であることを確認します。次に、②承諾自体が有効であることです。承諾能力、真意、そして動機に錯誤がないかを見ます。続いて、③承諾が行為の前に存在していたかを確認します。行為無価値論では、さらに3つ検討します。④行為者が承諾を認識していたかです。⑤その承諾が外部的に表示されていたかです。そして、⑥行為態様が社会的に相当だったかです。動機・目的、手段・方法、部位・程度から判断します。前回の5つの手順の、最後の1つが今日埋まりました。承諾を検討するときは、この手順で答案を組み立ててください。

今日の地図 図:今日の地図

今日を、振り返りましょう。結果無価値論なら3つ、行為無価値論ならさらに3つ加わって6つです。社会的相当性は、行為者の主観も込みで判断します。だから認識と表示が要ります。前回の対立が、要件の数という形で今日、目に見えましたね。承諾は一資料にすぎないので、行為のやり方そのものも要件になります。個人的法益であることと、行為の前に存在することも、忘れないでください。承諾の有効性では、動機の錯誤という論点があることも押さえてください。承諾があれば終わり、ではありません。まだ続きがあります。35条に準用される、残り3つが控えています。

それは、この続きの回で扱います。それが、今日いちばん大事な到達点です。

参照条文

  • 刑法95条1項
  • 刑法204条

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