共犯関係の解消
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第9章 共犯 ⑫/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
受け直し——今日は解消から
図:前回の結論と、今日・次回の順番
前回、致命傷を与えたのがA・Bどちらの暴行によるものか分からなくても、一部実行の全部責任によって、2人とも強盗致死罪の共同正犯になりうる、という話をしました。今日扱うのは共犯関係の解消、つまり、一部実行の全部責任という効果が及ぶのを、途中で止められるか、という話です。設例から入ります。
問題の所在——翻意した者は、実行された罪を負うのか
図:2人で強盗を共謀し、住居に侵入したところで1人が離れた
設例です。AとBが、強盗をしようと共謀しました。2人で被害者の住居に侵入したところで、Aが怖くなって「もうやめる、先に帰る」と言い、その場を離れました。残ったBは、そのまま住人から金品を奪いました。帰ったAが、Bの実行した強盗の罪まで負うのか。これが、今日の問いです。もし共犯関係の解消が認められれば、Aはその後にBが実行した強盗の罪までは負いません。認められなければ、一部実行の全部責任によって、Aも強盗の共同正犯です。この落差があるからこそ、どんな場合に解消が認められるのかが、真剣に問題になります。先に答えの形だけ言っておくと、決め手は「やめる」と言ったかどうかではなく、Aが作り出した因果性が実際に切れたかどうかです。まず、その要件の根っこにある考え方から確認します。
解消の要件の根っこ——因果性を、途中で切れるか
図:共同正犯が責任を負う理由は、何でしたか?
ここで1つ、一部実行の全部責任を扱った回で確認したことを思い出してください。共同正犯が、自分がやっていない結果まで責任を負う理由は、何でしたか?相互利用補充関係のもとで、結果に対して物理的または心理的な因果性を及ぼしているから、でした。共同正犯は、結果への因果性があるからこそ責任を負います。だとすれば、その因果性が実際に切れているなら、それ以後の結果について責任を負ういわれはありません。共犯関係の解消とは、この因果性を途中で断ち切れるか、という問題なんです。「もうやめる」という言葉そのものに効果があるのではなく、その言葉によって、実際に因果性が断たれたと言えるかどうかが問題になります。この後、実行の着手の前と後に分けて、その中身を見ていきます。
着手前の解消(原則)——表明と了承
図:着手前は、表明と了承で足りるのが原則
⭐ 論文で書く規範:着手前の解消(原則) 実行の着手より前であれば、①他の共謀者へ離脱の意思を表明し、②相手がそれを了承したという2点がそろうだけで、共犯関係の解消は原則として肯定される。 (規範(通説で立てる))
実行の着手より前であれば、原則として、2つが揃えば解消が認められます。1つは、他の共謀者に対して、離脱する意思を表明すること。もう1つは、他の共謀者がそれを了承することです。たとえば、まだ実行に着手する前の段階では、共謀者どうしを結びつけているのは、主に「一緒にやろう」という心理的なつながりです。1人が離れる意思をはっきり示し、残りの者もそれを受け止めて自分たちだけで続ける意思を固め直したのなら、その時点で、心理的なつながりはいったん切れたと見てよい、という理屈です。表明も了承も、はっきり言葉にする必要はありません。明示でなくてよく、黙示でもよいとされています。下級審には、黙示でもよいとしたものがあります。たとえば、はっきり「抜ける」と言わずに姿を消した者について、残りの者がそれに気づき、自分たちだけでやると決めて続けたなら、黙って離れ、黙って受け止めた、と評価できる余地がある、ということです。
着手前の解消(例外)——凶器提供者・首謀者
図:表明と了承だけでは足りない者
⭐ 論文で書く規範:着手前の解消(例外) 凶器の提供など物理的な影響を及ぼした者や犯罪の首謀者は、表明・了承だけでは足りず、その後の犯行を防止する措置まで取らない限り、解消は認められない。 (規範(通説で立てる))
ただし、この表明・了承だけでは足りない者もいます。犯行に使う凶器を提供した者と、犯罪の首謀者です。たとえば、凶器を提供した者は、心理的なつながりだけでなく、道具という形で物理的な因果性も及ぼしています。凶器がそのまま現場に残っている以上、口で「やめる」と言っただけでは、その物理的な影響は消えません。首謀者は、計画を持ちかけ、他の共謀者を巻き込んだ張本人です。首謀者が生んだ心理的な後押しは、本人が黙ったくらいでは他の共謀者の中から消えないほど強い、と考えられます。凶器を提供した者と首謀者に課される、表明・了承より重い要件が、それ以後の犯行を防止する措置です。凶器を提供した者なら、その凶器を回収すること。首謀者なら、他の共謀者を強く説得して思いとどまらせることが、その例です。表明し、了承されるだけでなく、自分が生んだ因果性を、自分の手で断ち切る行動まで求められるということです。
実は、防止する措置まで求められるのは、凶器を提供した者と首謀者だけではありません。心理的な影響がそれほど強くない、ごく平均的な共謀者であっても、状況次第では、この防止する措置まで必要になることがあります。 では、住居侵入まで済ませたうえで、電話1本で「やめる、先に帰る」とだけ伝えて離れた場合、因果性は遮断されているといえるでしょうか?表明はしていて、相手もそれを聞いています。しかし、住居侵入まで済ませている以上、表明と了承だけでは足りないのではないか、と考えるのが正しい方向です。実際に、この場面が最高裁で争われました。
山場——住居侵入後・強盗着手前の解消
図:見張り役の電話1本と、その後に残った物理的因果性
事案はこうです。被告人を含む共犯者数名が、住居に侵入して強盗をすることを共謀しました。共犯者の一部が、家人の在宅する住居に実際に侵入した後、見張り役の共犯者が、住居内にいた共犯者に電話をかけ、「犯行をやめた方がよい、先に帰る」と一方的に伝えました。被告人は、それ以上、それ以後の犯行を防止する措置を取ることなく、見張り役らと一緒にその場を離れました。残された共犯者らは、そのまま強盗を実行しました。強盗の実行、つまり暴行や財物の奪取に着手する前の離脱です。表明もされていますし、住居内の共犯者もその内容を知っています。それでも、最高裁は共犯関係の解消を認めませんでした。
判例最決平21・6・30
決定(住居侵入後・強盗着手前の解消) 被告人が離脱したのは強盗行為に着手する前であり、たとえ被告人も見張り役の上記電話内容を認識した上で離脱し、残された共犯者らが被告人の離脱をその後知るに至ったという事情があったとしても、当初の共謀関係が解消したということはできず、その後の共犯者らの強盗も当初の共謀に基づいて行われたものと認めるのが相当である。
決定文が指摘しているのは、被告人が「格別それ以後の犯行を防止する措置を講ずることなく」離脱した、という点です。因果性の物差しで読み解くと、こう考えられます。仲間の一部がすでに住居に入り込み、侵入口まで確保された状態は、そのまま現場に残っています。電話で伝えて立ち去っただけでは、その状態を作った因果性は断ち切られていない、ということです。住居侵入まで実行済みという具体的な事情があったために、電話で伝えて離れるだけでは足りず、防止する措置まで求められた、と読むことができます。逆に、冒頭の設例で、AとBがまだ住居に入る前、計画を話し合っただけの段階でAが「もうやめる」と伝え、Bもそれを受け止めて自分だけでやると決めたのなら、残っているのは心理的なつながりだけなので、表明と了承で足りるのが原則です。要件は、立場の種類で機械的に決まるのではなく、その時点でどれだけの因果性が残っているかで決まる、ということがよく分かる事案です。
着手前の要件まとめ
図:着手前の解消の要件
着手前の解消の要件を整理します。原則は、離脱の意思の表明と、他の共謀者による了承の2つです。ただし、凶器を提供した者や首謀者はもちろん、心理的な影響がそれほど強くない、ごく平均的な共謀者であっても、状況次第では、3つ目として、それ以後の犯行を防止する措置まで必要になります。原則2つ、場合によっては3つ目まで、という形です。次は、実行の着手より後に離脱した場合を見ます。
着手後の解消——原則、認めない
図:着手後は、防止する措置まで要る
⭐ 論文で書く規範:着手後の解消 実行の着手後は、表明・了承だけでは足りず、それ以後の犯行を防止する措置まで取ったときに限り、例外的に解消が認められる。 (規範(通説で立てる))
実行に着手した後は、話が変わります。実行の着手により、法益侵害の現実的な危険が、すでに発生しています。ですから、原則として、共犯関係の解消は認められません。着手後は、常に、表明・了承に加えて、それ以後の犯行を防止する措置を講じてはじめて、例外的に解消が認められます。なぜかと言えば、実行に着手した以上、その行為が生んだ危険は、口で「やめる」と言うだけでは消えないからです。凶器提供者や首謀者に求められていたのと同じ、防止する措置が、着手後は全員に求められることになります。着手前の例外が、着手後は原則になる、という関係です。実際に、着手後の解消が争われた判例を見てみます。
判例——実行に着手した後の離脱
図:「おれ帰る」とだけ言って、防止措置を取らずに立ち去った
事案はこうです。AとBは、Vの態度に憤慨し、Vに対して暴行を加える意思を通じ合ったうえで、1時間から1時間半ほどにわたり、竹刀や木刀でVの顔面等に暴行を加えました。Bは現場を立ち去りましたが、その際、「おれ帰る」とだけ言い、それ以上、それ以後の暴行を防止する措置は取りませんでした。その後、Aが単独でさらに暴行を加え、Vは死亡しました。致命傷が、Bが帰る前の暴行によるものか、帰った後のAの暴行によるものかは、証拠上断定できませんでした。決定文の中の「被告人」が、このBです。暴行はすでに始まっていたので、実行の着手後の離脱です。最高裁は、ここでも解消を認めませんでした。
判例最決平1・6・26
決定(実行の着手後の解消) 被告人が帰った時点では、Aにおいてなお制裁を加えるおそれが消滅していなかったのに、被告人において格別これを防止する措置を講ずることなく、成り行きに任せて現場を去ったに過ぎないのであるから、Aとの間の当初の共犯関係が右の時点で解消したということはできず、その後のAの暴行も右の共謀に基づくものと認めるのが相当である。
決定文は、Aによる制裁のおそれが、Bが帰った時点でもまだ消えていなかったことを指摘しています。Bは、そのおそれを取り除く措置を何も取らずに、成り行き任せで立ち去っただけです。実行に着手した後は、これでは足りません。ただし、この決定が判断したのは、防止する措置を何も取らなかった場合です。仮にBが、帰る前にAを押しとどめて暴行をやめさせるなど、制裁のおそれそのものを取り除いていたなら、着手後でも例外的に解消が認められる余地が残る、というのが先ほどの原則と例外の関係です。致命傷がどちらの暴行によるものか分からなくても、結論は変わりません。最高裁は、致命傷がどちらの暴行によるものであっても、結論は同じだと述べています。共犯関係が解消していない以上、Bにも、Aの暴行を含めた結果全体についての責任が及ぶからです。
着手前と着手後を比べる
図:着手前と着手後の違い——残っている因果性の量で要件が重くなる
着手前と着手後を、まとめて比べます。着手前は、原則として、表明と了承の2つで足ります。防止する措置まで要るのは、凶器提供者や首謀者、または今見たような具体的な事情がある場合だけです。着手後は、これが逆転し、常に、表明・了承に加えて防止する措置まで必要です。そして、この違いを生んでいるのは、要件の種類ではなく、その時点で残っている因果性の量です。着手前の平均的な共謀者は、まだ心理的なつながりだけが残っている段階なので、それを断てば足ります。凶器提供者・首謀者、住居侵入まで済ませていた先ほどの事案、それに着手後は、物理的な因果性や、強い心理的な因果性、あるいは現実の危険がすでに生まれてしまっているので、それを自分の手で断ち切る行動まで要るのです。
解消を認めた後に残る罪
図:不帰責になっても、不可罰とは限らない
共犯関係の解消が認められると、それ以後に他の共謀者がおこなったことや、その結果は、離脱者に帰責されません。ただし、それで離脱者が何の罪にも問われない、とは限りません。なぜなら、解消が断ち切るのは、離れた時点より後の因果性だけだからです。離れる前に自分がしたこと、たとえば一緒に準備したことや、実行に着手したことは、なかったことにはなりません。着手前に解消が認められた場合、離脱者に、実行された犯罪の未遂犯や既遂犯は成立しません。しかし、その犯罪に予備罪の処罰規定があるなら、離脱者について予備罪、またはその共同正犯が成立しないかが、別途問題になります。成立するなら、さらに、未遂の章で見た予備の中止、つまり予備罪が成立した後に実行の着手を任意にやめた場合の扱い、という論点に進みます。この中身は、別の回で扱います。
着手後に解消が認められた場合は、実行の着手がすでにある以上、離脱者には未遂罪の共同正犯が成立するにとどまります。そのうえで、共同正犯の中止未遂が成立しないかが問題になります。これも、別の回で扱います。今日押さえてほしいのは、解消が認められても、それで話が終わるとは限らない、という一点です。
設例の結論——2つのパターン
図:着手前パターンと着手後パターン、それぞれの結論
冒頭の設例に戻ります。AとBが強盗を共謀し、住居に侵入したところで、Aが「もうやめる、先に帰る」と言って離れ、Bがそのまま強盗を実行したという場面です。まず、Aが実行の着手より前、つまり暴行や財物の奪取に着手する前に離れたパターンを考えます。住居侵入という物理的因果性がすでに現場に残っている以上、表明と了承だけでは因果性は遮断されません。防止する措置を取っていない以上、解消は認められず、Aにも強盗の共同正犯が及びます。実行に着手した後で離れた場合は、なおのこと重い結論になります。実行の着手によって、すでに現実の危険が発生しています。原則として解消は認められず、Aが防止する措置を取らない限り、実行された結果まで責任を負います。
表明し、了承されるだけでは十分でない場面がある、という今日の筋が、この設例にもそのまま当てはまります。なお、この論点は、論文で論点になりうる場面です。
今日の地図(保存版)
図:今日の到達点
今日を振り返ります。共犯関係の解消は、共同正犯の処罰根拠である因果性を、途中で断ち切れるかという問題でした。着手前は、原則として表明と了承で足りますが、凶器提供者・首謀者、それに具体的な事情によっては、それ以後の犯行を防止する措置まで必要です。実行の着手によって現実の危険がすでに発生している以上、防止する措置を講じない限り、解消は認められません。そして、解消が認められた場合でも、予備罪や、未遂罪の共同正犯といった形で、なお検討すべきことが残ります。すべては、どれだけ因果性が残っているか、という1つの物差しから出てきます。最後に1つ、確かめてください。凶器を仲間に渡した者が、実行の着手前に「抜ける」と伝え、仲間も了承しました。これで共犯関係の解消は認められるでしょうか?
凶器が仲間の手に残っているので、表明と了承だけでは足りません。凶器を回収するなど、防止する措置まで要ります。