共同正犯の中止・予備罪の中止(中止犯 後編)
2つの事例で、中止犯を共同正犯と予備罪に広げて答案に書き切る回(後編)。事例1は、詐欺を二人で進める途中で乙だけが引き返す場面。乙の「自己の意思により」を責任減少説から肯定し、共同正犯が「犯罪を中止した」といえるには共同者の実行の阻止か結果の防止が要るとして、打ち明けで取引をやめさせた乙は認める。中止の効果は責任の個別判断から乙だけに及び、甲は障害未遂にとどまる。事例2は、強盗の準備をして実行前にやめた場面。判例は予備罪の中止を認めないが、不均衡と責任の減少から43条ただし書の準用を肯定し、減免は既遂罪の刑を基準に、重ければ予備罪の刑による。強盗予備罪は免除の規定がないため、準用で免除の余地が生まれる。
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事例1
図:甲・乙・丙の関係
2つの事例を、それぞれ答案の最後まで書き切ります。まず、1つ目です。甲は、古物の取引で知り合った乙と相談して、無名の画家が最近描いた掛け軸を、江戸時代の名家の真筆と偽り、収集家の丙に300万円で売りつけることにしました。市価は数万円です。役割は、甲が売り手として来歴を説明し、乙が鑑定の専門家を装って、真筆だと保証することでした。当日、3人はホテルのラウンジで会います。甲が「祖父から譲り受けた江戸時代の真筆です」と説明し、乙が「私が見ても間違いなく真筆です」と保証しました。丙はすっかり信じて、「ぜひ買いたい。代金の300万円は明日、現金でお渡しする」と答えます。ラウンジには他の客がまばらにいるだけで、2人の話に注意を向ける者も、丙が疑う様子もなく、取引は順調に進んでいました。
ところが、そのとき乙は、丙が嬉しそうに掛け軸を眺める姿を見て、人をだまして金を得ようとしている自分が恥ずかしくなり、続けることに耐えられなくなりました。乙は丙に、「申し訳ありません。先ほどの保証も甲の説明も、すべて嘘です。この掛け軸は最近描かれたもので、価値は数万円です」と打ち明けます。甲は、「乙は何を言っているのか。真筆に間違いない」と言い繕おうとしました。しかし、丙は乙の言葉を信じて、「それなら取引はやめる」と言い、掛け軸を甲に返して席を立ちます。甲は、続けても丙を信じさせることはできないと考えて、掛け軸を持ってその場を去りました。丙は、何も支払っていません。1つ目の問いは、これだけです。甲と乙の罪責を論じなさい。
詐欺未遂罪の共同正犯の成立
図:答案の頭の順、共同正犯の成立から先に
前編と同じで、中止犯に入る前に、まず甲と乙に何の罪が成立するのかを書き終えます。中止犯は、成立した犯罪の刑を軽くする仕組みだからです。乙がやめたのは、実行の途中です。いったん成立した詐欺未遂罪が、なかったことになるわけではありません。
条文刑法60条
刑法60条(共同正犯)
二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
条文刑法246条1項
刑法246条1項(詐欺)
人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。
条文刑法250条
刑法250条(未遂罪)
この章の罪の未遂は、罰する。
60条が共同正犯、246条1項が詐欺罪、250条が、この章の罪の未遂を罰する規定です。甲と乙は、掛け軸を真筆と偽って300万円をだまし取ることを相談しています。そして、甲は来歴を偽って説明し、乙は専門家を装って保証しました。欺く行為を、2人で分担して実行しています。共同して犯罪を実行したといえます。この欺く行為で、丙は真筆だと信じ、代金を交付する現実的な危険が生じました。詐欺罪の実行に着手しています。他方で、丙は代金を交付しておらず、詐欺罪は遂げられていません。ですから、甲と乙には、詐欺未遂罪の共同正犯が成立します。ここまでは短く済ませて、本題に移ります。
43条ただし書の文言
図:43条の条文
条文刑法43条
刑法43条(未遂減免)
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
乙に当てるのは、前編と同じ、43条ただし書です。文言は2つ、「自己の意思により」と「犯罪を中止した」でした。上から順に当てます。1つ目の「自己の意思により」は、前編の規範で書きます。立て直しません。
図:前編の規範、「自己の意思により」
⭐ 論文で書く規範:中止犯の「自己の意思により」
中止犯の必要的減免の根拠は責任の減少にあるところ、責任が減少するのは、外部的事情に強いられることなく自ら中止した場合である。
そこで、犯罪の完成を妨げる外部的事情によらずに中止した場合には、「自己の意思により」といえると解する。
(規範(責任減少説))
カードの1つ目の文は、前編と同じ理由です。刑が必ず減軽か免除になるのは、自分から思いとどまったことで、その人を責める程度が下がるからです。外からの事情に強いられてやめたのなら、責める程度は下がりません。基準には、外からの事情を本人がどう受け止めたかで決める折衷説もあります。ただ、この事例は、外部的事情が全くない場面ですから、前編と同じく、折衷説で書いても結論は同じです。あてはめです。乙が打ち明けたとき、ラウンジには他の客がまばらにいるだけで、2人の話に注意を向ける者はいませんでした。丙も、乙の保証を疑っていません。取引は順調で、完成を妨げる事情は見当たりません。そのうえで、乙は、丙が嬉しそうに掛け軸を眺める姿を見て、自分が恥ずかしくなり、自分からやめる決意をしています。外部的事情によらずに中止したといえますから、乙の中止は、「自己の意思により」したものです。
問題提起
図:次の文言、「犯罪を中止した」
次に、2つ目の文言です。乙は、丙に真相を打ち明けています。これで、乙は「犯罪を中止した」といえるのでしょうか。単独犯なら、前編で見たとおり、場面ごとに要る行為が決まっていました。ですが、乙は、甲とともに欺く行為を分担した共同正犯です。単独犯のように、自分の行為をやめるだけで足りるのか。ここで、問題が立ちます。「犯罪を中止した」といえるか、と書き出します。
規範
図:前編の規範、「犯罪を中止した」
規範を立てる前に、前編の規範を、見直します。
⭐ 論文で書く規範:中止犯の「犯罪を中止した」
中止犯の必要的減免の根拠は責任の減少にあるから、結果発生の危険がいまだ生じていなければ、以後の実行を放棄する不作為で「犯罪を中止した」といえる。
もっとも、危険が既に生じていれば、結果発生防止に向けた真摯な努力をしたときに、「犯罪を中止した」といえると解する。
(規範(責任減少説))
ここで、1つ考えます。乙が丙に何も告げず、黙って席を立つだけだったとします。甲はそのまま続けて、丙は翌日に代金を払ってしまう。このとき乙は、「犯罪を中止した」といえるでしょうか?答えは、いえない、です。自分の行為はやめても、相方の行為で結果が起きてしまうなら中止とはいえない。その感覚が、この回の規範の出発点です。共同正犯の中止を学んだ回で見た規範を、答案の形にします。
図:規範カード|共同正犯の「犯罪を中止した」
⭐ 論文で書く規範:共同正犯の「犯罪を中止した」
中止犯の必要的減免の根拠は責任の減少にあるところ、共同正犯では共同者の行為による結果も自己に帰属するから、自分の行為をやめるだけでは責任が減少したとはいえない。
そこで、共同正犯の一人が「犯罪を中止した」といえるには、他の共同者の実行行為を阻止し、又は結果の発生を防止することを要すると解する。
(規範(通説で立てる))
図:単独犯と共同正犯、要る行為の違い
軸は、前編と同じ、責任の減少です。1つ目の文から見ます。共同正犯の特徴は、一部実行全部責任でした。共同者のした行為による結果も、自分の責任として帰属します。たとえるなら、2人で1つの蛇口を開けた場面です。自分が手を離しても、相方が開けている限り、水は流れ続けます。ですから、自分の行為をやめただけでは、結果への道を自分で断ったことになりません。責任が減ったとはいえないのです。2つ目の文は、そこから出る基準です。自分の手を離すだけでは足りないなら、水を止めるしかありません。相方の実行を止めるか、結果が生じないようにすることが要ります。
単独犯は、危険がまだ生じていなければ、実行をやめるだけで足りました。危険が既に生じていれば、真摯な努力が要りました。場面で、要る行為が分かれていたのです。共同正犯は、他の実行者が続ける限り、結果は起きます。ですから、どちらの場面でも、やめるだけでは足りず、阻止か防止が要ります。言葉を分けておきます。阻止は、共同者がこれから行う実行を止めることです。防止は、すでに行われた実行の結果が生じないようにすることです。どちらかを満たせば足ります。
あてはめ
図:何を見るか、乙の打ち明けの効果
あてはめです。ここが、この事例の山場で、いちばん厚く書きます。最初に考えます。この基準で、事実のどこを見ればよいでしょうか?答えは、乙が何をしたかだけでなく、それが甲の実行と結果に、何をもたらしたかを見る、です。
図:生の事実を拾い、評価し、当てる
事実を拾います。丙が信じて、「明日、現金で渡す」と答えた直後に、乙は、「先ほどの保証も甲の説明も、すべて嘘です。価値は数万円です」と丙に打ち明けました。甲は、「真筆に間違いない」と言い繕おうとしました。けれども、丙は乙の言葉を信じて取引をやめ、掛け軸を甲に返して席を立ちました。丙は、何も支払っていません。評価します。乙の打ち明けは、丙の思い違いを解く行為です。これによって、甲が続けようとした欺く行為は、封じられました。これが阻止です。そして、丙が代金を交付するという結果も、生じずに済みました。これが防止です。
自分の保証を撤回するだけなら、自分の行為をやめたにすぎません。乙は、甲の欺く行為を止める結果にまで、自分で動いています。要件に当てます。乙は、他の共同者の実行行為を阻止し、結果の発生を防止しました。ですから、乙は「犯罪を中止した」といえます。なお、前編で見た、結果が別の原因で防がれた場合の因果関係の問題は、この事例では起きません。乙の打ち明けが、実際に取引をやめさせているからです。
問題提起
図:乙の中止の効果は、甲にも及ぶか
乙に、43条ただし書の中止犯が成立するとします。次の問題は、その効果です。必要的減免は、共同正犯の甲にも及ぶのでしょうか。効果の条文には、誰に及ぶのかの書き分けがありません。ですから、人的な範囲が、問題になります。
規範
図:規範カード|中止犯の効果の人的範囲
⭐ 論文で書く規範:中止犯の効果の人的範囲
中止犯の必要的減免の根拠は責任の減少にあるところ、責任は行為者ごとに個別に判断すべきものである。
そこで、必要的減免の効果は、「犯罪を中止した」といえる者だけに生じ、他の共同者には及ばないと解する。
(規範(通説で立てる))
軸は、ここでも責任の減少です。1つ目の文は、責任は人ごとに測る、ということです。結果が共同者に帰属することと、責任が減ることは、別の問いです。結果の帰属は、2人で結果への道を作った、という事実の問題です。乙が後から引き返しても、その事実は消えませんから、共同者に連帯して及びます。これに対して、責任の減少は、自分から引き返したことで、その人を責める程度が下がるか、という問題です。引き返したのは乙で、甲ではありません。甲が丙をだます行為を続けようとしているのに、乙が止めたからといって、甲の責任が減るとはいえません。2つ目の文は、そこからの結論です。必要的減免の効果は、「犯罪を中止した」といえる者にだけ生じます。中止できなかった共同者は、障害未遂です。条文でいえば、43条本文で、刑を任意に減軽できるにとどまります。中止した者が複数いるときは、各人について要件を見ます。
あてはめ
図:乙と甲を分けて当てる
あてはめは、人ごとに分けます。乙は、実際に甲の実行を阻止して、結果を防いだ本人です。必要的減免の効果は、乙に生じます。次に、甲です。甲は、乙の打ち明けの後も、「真筆に間違いない」と言い繕って、欺く行為を続けようとしています。自分で阻止したことも、防止したこともありません。丙が取引をやめたのは、乙の打ち明けによるものです。ですから、甲は「犯罪を中止した」といえず、乙の効果は甲に及びません。もう1つ、甲の側の「自己の意思により」も見ておきます。甲が断念したのは、丙が取引をやめた以上、続けても信じさせることはできないと考えたからです。これは、犯罪の完成を妨げる外部的事情に、強いられた断念です。規範は、さきほどのとおりで、書き直しません。この点でも、甲の断念は「自己の意思により」したものとはいえません。
図:乙と甲の比較
乙と甲で結論が分かれるのは、やめた理由と、阻止・防止の有無が違うからです。甲は、障害未遂にとどまります。
変形
図:変形、手を引くだけ
比較のために、もう1つの場面を見ます。乙が、「俺は降りる」とだけ言って席を立ち、丙には何も告げずに去ったとします。残った甲は、翌日、丙から300万円を受け取りました。乙は、自分の行為をやめただけで、甲の実行を阻止も、結果を防止もしていません。「犯罪を中止した」といえず、中止犯になりません。そして、結果は発生していますから、乙も、詐欺罪の既遂の共同正犯の責任を負います。
図:判例、阻止せず放任した者
判例最判昭24・12・17
共謀者の実行を放任した者
その共謀者……が……金員を強取することを阻止せず放任した以上、……被告人のみを中止犯として論ずることはできないのであつて、被告人としても……本件強盗既遂の罪責を免れることを得ないのである。
判例にも、同じ結論のものがあります。共謀者が実行するのを阻止せず放任した以上、その者だけを中止犯として論ずることはできない、と述べています。これは、規範の出典ではなく、規範を使った帰結の見本です。ここで押さえるのは、実行に着手した後は、席を立っても中止犯にならないという点です。着手の前から問題になりうる、共犯関係の解消、つまり共犯関係からの離脱は、別の型の問題で、この回では扱いません。
結論と罪数
図:事例1の結論
結論です。甲には、詐欺未遂罪の共同正犯が成立しますが、障害未遂ですから、刑は任意に減軽されうるにとどまります。乙にも、詐欺未遂罪の共同正犯が成立し、中止犯にあたるので、刑は必ず、減軽されるか免除されます。罪数です。甲と乙の一連の欺く行為は、同一の被害者に対するものですから、それぞれ詐欺未遂罪一罪です。他の罪は成立しません。
事例2
図:甲と丁、準備だけで終わった経過
2つ目の事例です。甲は、事業に失敗して生活に困っていました。近所の精肉店の店主の丁が、毎週金曜日の閉店後、その週の売上金を入れた手提げ金庫を持って、人通りの少ない裏路地を通って帰宅することを知ります。甲は、その路地で丁を待ち伏せして、背後から取り押さえ、麻ひもで手足を縛って、金庫を奪う計画を立てました。甲は、計画に使うため、インターネット通販で、目出し帽、軍手、麻ひもを購入します。さらに、2回にわたって現場の裏路地を訪れ、街灯の位置と人通りを確かめました。実行を予定していた金曜日の朝、甲は、強盗が被害を受ける店主の生活を壊してしまう重大な犯罪であることを考え直し、やめようと決意します。購入した目出し帽などを処分し、その日、現場には行きませんでした。計画は誰にも知られておらず、警察に疑われている様子もなく、丁の帰宅の経路や時刻にも、変わりはありませんでした。後日、甲が友人にこの話を打ち明けたことから、事が発覚しました。問いは、これだけです。甲の罪責を論じなさい。
強盗予備罪の成立
図:答案の頭の順、予備罪の成立から先に
この事例も、先に、何の罪が成立するかを確定します。
条文刑法237条
刑法237条(強盗予備)
強盗の罪を犯す目的で、その予備をした者は、二年以下の拘禁刑に処する。
237条は、強盗予備罪です。予備とは、強盗の実行を可能にし、容易にする準備行為のことです。甲は、強盗の確定的な目的のもと、目出し帽、軍手、麻ひもを購入し、現場を2回下見しています。強盗の実行を可能にし、容易にする準備行為です。ですから、この時点で、強盗予備罪が成立します。実行に役立つ準備なら、足ります。他方で、甲は、丁を取り押さえてもいませんし、金庫を奪ってもいません。強盗罪の実行には、着手していません。この回で扱うのは、予備罪が成立した後に、実行の着手を自分の意思でやめた場合です。道具を買おうとしてやめたのなら、予備罪自体が成立せず、別の話になります。
問題提起
図:直接適用はできない、では準用は
甲は、実行予定日の朝にやめました。しかし、43条ただし書は、犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者を定める、43条本文の例外です。甲は着手していませんから、43条ただし書を直接適用することはできません。ここは、争いがありません。そこで、予備罪の中止に、43条ただし書を準用できるか、が問題になります。予備の中止を学んだ回で見た問題です。準用というのは、本来の対象ではない場面に、条文を当てはめて使うことです。
規範
図:判例、予備罪には中止未遂の観念を容れない
答案は、判例から書きます。強盗予備の事案で、最高裁は、準用を認めませんでした。
判例最大判昭29・1・20
強盗予備の事案、中止未遂の主張
……予備罪には中止未遂の観念を容れる余地のないものであるから、被告人の所為は中止未遂であるとの主張も亦採ることを得ない。
判決は、この結論を、1文で述べているだけです。理由は示していません。条文から言えるのは、ただし書が、実行の着手を前提にしている、という文言までです。ですが、この結論には、2つの批判があります。1つ目は、不均衡です。準用を否定すると、実行に着手した後に中止した者には、刑の免除の余地があります。ところが、着手する前に引き返した者には、それがありません。より早く思いとどまった者のほうが、不利になるのです。2つ目は、責任の減少です。中止犯の必要的減免の根拠は、責任の減少でした。予備罪が成立した後でも、自分の意思で実行の着手をやめたなら、責任は減ります。着手の前か後かで、その点は変わりません。ですから、答案は、判例の結論を示したうえで、「しかし」と受けて、準用を認めます。
図:規範カード|予備罪の中止=43条ただし書の準用
⭐ 論文で書く規範:予備罪の中止=43条ただし書の準用
中止犯の必要的減免の根拠は責任の減少にあるところ、予備罪の成立後に任意に実行の着手をやめた者にも責任の減少が認められ、準用を認めなければ、実行の着手後に中止した者には免除の余地があるのに、着手前に中止した者にはそれが無いという不均衡が生じる。
そこで、予備罪の中止にも、43条ただし書を準用できると解する。
(規範(判例は否定・準用肯定説で立てる))
カードの1つ目の文が、2つの批判をまとめたものです。2つ目の文が結論で、準用を認めます。準用を認めるかどうかの実益は、予備罪の規定によって変わります。
図:予備罪の免除規定の有無
条文刑法201条
刑法201条(予備)
第百九十九条の罪を犯す目的で、その予備をした者は、二年以下の拘禁刑に処する。ただし、情状により、その刑を免除することができる。
条文刑法113条
刑法113条(予備)
第百八条又は第百九条第一項の罪を犯す目的で、その予備をした者は、二年以下の拘禁刑に処する。ただし、情状により、その刑を免除することができる。
殺人予備の201条と、放火予備の113条には、ただし書があって、情状による刑の免除ができます。準用の有無で、結論が大きくは動きません。これに対して、さきほどの237条には、免除の規定がありません。ですから、強盗予備では、準用を認めるかどうかが、免除の余地を決めます。
図:準用の可否のあてはめ
あてはめです。強盗予備罪は、刑の免除を定める規定を持ちません。準用を認めなければ、甲に免除の余地はありません。甲は、強盗予備罪の成立後に、自分の意思で実行の着手をやめています。ですから、甲の予備罪の中止に、43条ただし書を準用できます。
準用の要件を当てる
図:前編の規範、「自己の意思により」
準用を認める以上、43条ただし書の文言を、順に当てます。その前に、1つ確認します。前編で見た、結果発生の危険がまだ生じていないとき、どんな行為で「犯罪を中止した」といえましたか?答えは、以後の実行を放棄する、つまり、続けるのをやめる不作為で足りる、でした。この事例では、その前段の規範を使います。まず、1つ目の文言です。
⭐ 論文で書く規範:中止犯の「自己の意思により」
中止犯の必要的減免の根拠は責任の減少にあるところ、責任が減少するのは、外部的事情に強いられることなく自ら中止した場合である。
そこで、犯罪の完成を妨げる外部的事情によらずに中止した場合には、「自己の意思により」といえると解する。
(規範(責任減少説))
甲の計画は、誰にも知られておらず、警察に疑われている様子もありません。丁の帰宅の経路や時刻も変わらず、甲は強盗を実行できる状態にありました。それでも、甲は、被害を受ける店主の生活を壊す重大な犯罪だと考え直して、やめています。外部的事情によらずに中止しましたから、「自己の意思により」したものといえます。
図:前編の規範、「犯罪を中止した」の前段
⭐ 論文で書く規範:中止犯の「犯罪を中止した」(前段)
中止犯の必要的減免の根拠は責任の減少にあるから、結果発生の危険がいまだ生じていなければ、以後の実行を放棄する不作為で「犯罪を中止した」といえる。
(規範(責任減少説))
2つ目の文言です。予備の段階では、結果発生の危険は、まだ生じていません。ですから、以後の実行を放棄する不作為で、足ります。甲は、購入した目出し帽などを処分し、予定日に現場へ行きませんでした。実行の着手を放棄しています。「犯罪を中止した」といえます。
問題提起
図:どの刑を基準に減免するか
準用を認めるとして、最後の問題です。どの刑を基準に、減軽又は免除するのか。強盗罪の刑でしょうか。それとも、強盗予備罪の刑でしょうか。
規範
図:規範カード|予備罪の中止=基準となる刑
⭐ 論文で書く規範:予備罪の中止=基準となる刑
法律上の減軽は一度しかできないところ(68条)、予備罪の刑はすでに既遂罪の刑を減軽したものと解されるから、これをさらに減軽することは相当でない。
そこで、減免は既遂罪の刑を基準に行うが、減軽した刑が予備罪の刑より重くなるときは、予備罪の刑による。
(規範(既遂罪基準説で立てる))
条文刑法68条
刑法68条(法律上の減軽の方法)
法律上刑を減軽すべき一個又は二個以上の事由があるときは、次の例による。
一 死刑を減軽するときは、無期又は十年以上の拘禁刑とする。
二 無期拘禁刑を減軽するときは、七年以上の有期拘禁刑とする。
三 有期拘禁刑を減軽するときは、その長期及び短期の二分の一を減ずる。
四 罰金を減軽するときは、その多額及び寡額の二分の一を減ずる。
五 拘留を減軽するときは、その長期の二分の一を減ずる。
六 科料を減軽するときは、その多額の二分の一を減ずる。
1つ目の文です。68条は、法律上の減軽の方法を定めています。減軽は、一度しかできません。予備は、実行の着手よりずっと手前の、準備の段階です。ですから、強盗予備罪の刑は、はじめから強盗罪の刑より大きく軽くしてあります。予備罪の刑は、すでに強盗罪の刑を軽くしたものと見られるわけです。それを、さらに中止で減らすのは、二度目の減軽になってしまいます。2つ目の文は、そこからの基準です。出発点は、既遂罪の刑です。強盗罪の刑を減軽して、予備罪の刑と比べます。減軽した刑が予備罪の刑より重ければ、予備罪の刑による、という形です。そうしないと、自分から思いとどまった者のほうが、思いとどまらずに予備で終わった者より重く処罰されてしまうからです。予備罪の刑そのものを基準にする見方や、免除だけを認める見方もあります。ですが、答案は、既遂罪の刑を基準にして書きます。
図:基準となる刑の計算
あてはめは、計算です。強盗罪の刑は、236条1項で、5年以上の有期拘禁刑です。有期拘禁刑の上限は、12条1項で、20年です。これを減軽すると、68条3号で、長期と短期を2分の1ずつ減じます。長期は、20年の2分の1で10年。短期は、5年の2分の1で2年6か月です。つまり、2年6か月以上10年以下の拘禁刑になります。他方、強盗予備罪の刑は、237条で、2年以下の拘禁刑です。刑の軽重は、10条2項で、長期の長いほうが重い刑です。長期は、減軽した強盗罪の刑が10年、予備罪が2年です。予備罪の刑のほうが軽いわけです。ですから、強盗罪の刑を減軽した刑は、予備罪の刑より重く、予備罪の刑による、と書きます。
結論と実益
図:事例2の結論
結論です。甲には、強盗予備罪が成立します。ただし、予備罪の中止として、43条ただし書が準用され、刑は必ず、減軽されるか免除されます。減軽する場合も、科されるのは、237条の刑、2年以下の拘禁刑にとどまります。ですから、準用の実益は、免除の余地が生まれる点にあります。
完成答案
図:完成答案:第1 詐欺未遂罪の共同正犯の成否
こちらが、事例1の完成答案です。共同正犯の成立から結論まで、ここまで書いてきた順のまま並べています。1枚目は、共同正犯の成立から詐欺未遂罪の共同正犯の成否を確かめる部分です。
図:完成答案:第2 乙の中止犯の成否①
続いて、乙の「自己の意思により」の項です。外部的事情のない場面で、自らの決意による中止と当てます。
図:完成答案:第3 乙の中止犯の成否②
「犯罪を中止した」の項です。ここが山場です。共同正犯の規範を立て、打ち明けが甲の欺く行為の阻止と結果の防止にあたるとして、乙の中止を認めます。
図:完成答案:第4 効果の人的範囲
効果の人的範囲です。責任は個別に判断するとして、中止の効果は乙だけに及び、甲は障害未遂にとどまるとします。
図:完成答案:事例1の結論と、強盗予備罪の成否
まず、事例1の結論です。そして、ここから事例2の完成答案に入ります。続くのは、強盗予備罪の成立を確かめる部分です。
図:完成答案:第7 準用の可否
準用の可否です。判例の結論を示してから、不均衡と責任の減少を理由に、準用を認める流れです。
図:完成答案:準用する43条ただし書の2文言
準用の要件です。「自己の意思により」と「犯罪を中止した」を、順に当てはめています。
図:完成答案:減免の基準と、全体の結論
最後に、基準となる刑と、全体の結論です。既遂罪の刑を基準にしつつ、減軽した刑が予備罪の刑より重くなるときは予備罪の刑によるとして、強盗予備罪の中止として結びます。
前編(単独犯の中止犯)は、中止犯の任意性・中止行為・因果関係(前編)にまとめています。
参照条文
- 刑法43条
- 刑法60条
- 刑法246条
- 刑法250条
- 刑法237条
- 刑法201条
- 刑法113条
- 刑法68条