刑法ゼロから刑法 論文

監禁罪の保護法益と被害者の意識の書き方

行き先を偽ってVを車に乗せ、後部ドアを内側から開かない状態にして走った甲について、監禁罪の成否を答案に書き切る回。Vは自分から乗り込み、到着まで気づいていない。まず最決昭33・3・19 により、監禁は人を一定の区域場所から脱出できないようにして自由を拘束することで、偽計によって被害者の錯誤を利用する場合も含むとして、甲の行為を監禁の行為にあたるとする。次に、監禁罪の保護法益を可能的自由と解し、被害者が自由の侵害を意識している必要はないとする規範を立て、発進した午前9時5分ごろから監禁にあたり、拘束は出られる状態に戻った到着時に終わるとして、監禁罪(220条後段)の成立を導く。現実的自由説なら本件は不成立になる。変形として、行き先と施錠を承知のうえで同意して乗った場合は、どちらの説でも監禁罪は成立しない。

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ゼロから刑法 論文/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事例

日曜の朝の経過 図:日曜の朝の経過

日曜の午前9時20分ごろです。一般道の幹線道路を、乗用車が時速約60キロで走っています。後部座席には、50代の男性がいて、窓の外を眺めています。この男性は、隣の市の釣り具の即売会に向かっていると信じています。ところが、その後部ドアは、車内側のレバーを引いても開かない状態になっています。運転席の男だけが、それを知っています。この場面に至るまでを、順に見ます。登場するのは、30代の会社員の甲と、50代で釣りが趣味のVです。甲は車を持っています。甲は、Vにお金を貸していて、返済をめぐって折り合いがついていません。甲は、Vを知人Dの山あいの工房に連れて行って、話をつけようと考えました。Vが行き先を知れば応じないだろうと考えて、行き先を偽ることにします。午前9時ごろ、甲は、V宅の前で、Vに言いました。隣の市の大型店で、中古の釣り具の即売会がある。一緒に見に行かないか。往復で半日あれば足りる。実際には、即売会はありません。Vは、これを信じて同意し、甲の車の後部座席に乗り込みました。午前9時5分ごろ、甲は運転席に座り、運転席のスイッチで、後部ドアのチャイルドロックを作動させます。後部ドアは、車内側のレバーでは開かず、運転席のスイッチでしか解除できない状態になりました。Vは、これに気づきません。甲は、車を発進させます。そこから午前9時45分ごろまで、甲は一般道の幹線道路を走り、信号で数回停車しました。そのあいだ、一度もロックを解除していません。Vは、窓の外を眺めて、即売会に向かっていると信じ続けました。「降ろして」とは言わず、ドアを開けようともしませんでした。

午前9時45分ごろ、車は、Dの工房の駐車スペースに着きます。甲がロックを解除して、Vは降りました。Vは、工房の看板を見て、はじめて、即売会に行くのではなかったと気づきます。

甲とVの関係 図:甲とVの関係

関係を、図で整理します。甲が、Vを乗せて走っています。行き先を偽ったのも甲です。Vが気づいたのは、午前9時45分ごろです。甲は、後部ドアが内側から開かない状態にしてVを乗せていることを分かっていました。Dの工房に着くまで、Vを降ろすつもりもありませんでした。Vが即売会を信じていることも、分かっていました。問いは次の1つです。甲の罪責のうち、午前9時ごろから午前9時45分ごろまでの、Vを車に乗せて走った行為について、監禁罪の成否を論じなさい。ただし、Dの工房に着いた後の甲の行為は除きます。

罪名と条文の特定

答案は、甲が何をしたかから書き出します。甲がしたのは、Vを車の後部座席に乗せて、降りられない状態で走ることです。どの罪を検討するかを決める前に、逮捕と監禁の区別を確認します(解説 #13-1 逮捕罪・監禁罪——「自由」の意味で結論が変わる)。逮捕と監禁は、何で区別するのでしょうか。人の身体を直接拘束するのが逮捕で、間接的に拘束するのが監禁です。逮捕は、羽交い締めのように、人の身体を直接押さえつけて動けなくすることです。監禁は、身体には触れずに、閉じ込めるなどして、間接的に自由を奪うことです。甲は、Vの身体を直接つかんで押さえてはいません。車内にいる状態にして、自由を奪っています。ですから、逮捕ではなく、監禁を検討します。どちらにあたるかで、次に意味を詰める条文の言葉が決まります。条文を見ます。

条文刑法220条

刑法220条(逮捕及び監禁)
不法に人を逮捕し、又は監禁した者は、三月以上七年以下の拘禁刑に処する。

成立要件は条文どおりで、不法に、人を、監禁したこと、です。「不法に」は、警察官が法律に基づいて逮捕する場合のように、違法性が消える場合があることを示す言葉です。本件には、そうした事情はありません。甲の行為には、気になる点が2つあります。1つ目。Vは、自分から車に乗り込んでいます。それでも、監禁といえるのか。2つ目。Vは、道中ずっと、自由を奪われていることに気づいていません。監禁といえるために、被害者が気づいている必要があるのか。この順に見ます。

「監禁」の意味と偽計

1つ目から見ます。条文の「監禁」が何を指すのかは、条文には書かれていません。最高裁が、次のように述べています。

判例最決昭33・3・19 刑集12巻4号636頁

偽計による監禁を認めた決定
刑法二二〇条一項にいう「監禁」とは、人を一定の区域場所から脱出できないようにしてその自由を拘束することをいい、その方法は、必ずしも所論のように暴行又は脅迫による場合のみに限らず、偽計によつて被害者の錯誤を利用する場合をも含むものと解するを相当とする。

決定の言葉を、噛み砕きます。監禁とは、人を、ある場所から出られないようにして、自由を拘束することです。そして、その方法は、暴行や脅迫に限りません。偽計、つまり、うそで相手に思い違いを作り、その思い違いを利用する場合も含みます。甲の事案に当てはめます。1つ目は、一定の区域場所です。甲の車の車内が、これにあたります。2つ目は、脱出できないようにしたかどうかです。後部ドアは、車内側のレバーでは開かず、運転席のスイッチでしか解除できません。そのうえで、車は、午前9時5分ごろから午前9時45分ごろまで、走り続けました。Vは、車の中から、自分の力では出られません。3つ目は、方法です。Vが乗り込んだのは、甲が、即売会がある、と偽ったからです。Vは、行き先について思い違いをしていて、甲は、その思い違いを利用しています。偽計によって被害者の錯誤を利用する場合にあたります。

Vは自分から乗っています。それでも、自由を奪ったことになるのか。なります。監禁で奪われるのは、外へ出られる状態です。その状態を力ずくで作っても、うそで作っても、Vが車から出られないことに変わりはありません。ですから、Vが自分の足で乗ったことは、結論を動かしません。4つ目は、故意です。甲は、後部ドアが開かない状態にしていること、Vが即売会を信じていることを分かったうえで、降ろすつもりなく発進しています。故意があります。以上から、甲の行為は、偽計によってVの錯誤を利用して、Vを一定の区域場所から脱出できないようにして、その自由を拘束するものです。監禁の行為にあたります。ただ、Vは、それに気づいていません。次は、この点です。

保護法益と被害者の意識

2つ目です。Vは、午前9時45分ごろに工房の看板を見るまで、行き先を偽られたことにも、後部ドアが開かないことにも、気づいていません。監禁といえるために、被害者が気づいている必要があるのか。これは、監禁罪が守っているものを、どう考えるかで決まります。守られているのは、身体活動の自由です。その意味を、2通りに考えられます。1つ目は、可能的自由説です。移動しようと思えば移動できる、という可能性そのものが、守られているとみます。2つ目は、現実的自由説です。現実に移動しようと思ったときに、移動できることが必要だとみます。答案では、前者で書きます。規範は、こうです。

⭐ 論文で書く規範:監禁罪の保護法益と被害者の意識
身体活動の自由の中身は、行動しようと思えば行動できることにある。そうすると、監禁罪が守るのは潜在的または可能的自由であり、この自由は、被害者が意識していなくても侵害されうる。したがって、「監禁」にあたるために、被害者が自由の侵害を意識している必要はないと解する。
(規範(通説で立てる))

規範カード|監禁罪の保護法益と被害者の意識 図:規範カード|監禁罪の保護法益と被害者の意識

カードの「潜在的または可能的自由」は、2つの言い方を並べたもので、どちらも、いま見た可能的自由説の言う、移動しようと思えば移動できる自由のことです。なぜ、可能的自由説で書くのか。出て行こうと思えばいつでも出て行ける。その選択肢を持っていること自体に、価値があるからです。その状態が奪われた時点で、自由はもう損なわれています。本人が気づいているかどうかは、関係がありません。逆の場合を考えます。現実的自由説に立つと、閉じ込められている間、被害者が気づかなければ、監禁罪にならなくなります。気づかれないように閉じ込めるほど、罪が成立しにくくなってしまいます。これは、不合理です。2つの見解の違いを、表にして並べます。

2つの見解の対比 図:2つの見解の対比

現実的自由説に立つと、本件のVは、降りようと思わないまま工房に着いたので、現実の自由は侵害されていません。Vが気づいたのは、ロックが解除されて降りた後で、降りようと思ったときに出られなかった場面は、一度もありません。監禁罪は成立しません。可能的自由説では、次に見るとおり、午前9時5分ごろから成立します。ここで結論が分かれます。事実を拾って、確かめましょう。観点だけを、表にして示します。

時点ごとに拾う観点 図:時点ごとに拾う観点

左は、Vが車外へ出られるか。真ん中は、Vの意識。右は、監禁にあたるか。行は、2つの時点です。

時点ごとに事実で拾う 図:時点ごとに事実で拾う

午前9時5分ごろから見ます。甲が車を発進させた時点で、後部ドアは内側から開かず、車は走行中です。Vは、行動しようと思っても、車外へ出られません。Vは、即売会に向かっていると信じていて、気づいていません。けれども、行動しようと思えば行動できる状態、つまり可能的自由は、この時点で奪われています。Vの意識とは関係なく、監禁にあたります。午前9時45分ごろは、どうか。甲がロックを解除して、Vは降りました。出られる状態に戻っていて、Vは看板を見て気づきました。拘束は、ここで終わります。終わるのは、出られるようになったからで、気づいたからではありません。ですから、Vが気づいていなくても、午前9時5分ごろから、監禁にあたります。Vが気づいたのが午前9時45分ごろであることは、成立の時点を動かしません。

結論

甲の罪責の検討結果 図:甲の罪責の検討結果

結論です。甲には、Vを午前9時5分ごろから午前9時45分ごろまで車内に監禁したとして、監禁罪、刑法220条後段が成立します。刑は、3か月以上7年以下の拘禁刑です。

事実を1か所変える

変形の事実 図:変形の事実

事実を1か所変えて、結論が動く場面を見ます。変わるのは、乗る前のやりとりだけです。午前9時ごろ、甲は、Vに告げます。貸した金の返済について、知人Dの工房で話をつけたい。車の後部ドアは、内側から開かないようにしておく。話が終わるまで、途中では降りられない。それでもよければ乗ってくれ。Vは、納得して同意し、後部座席に乗り込みました。午前9時5分ごろ以降は、同じです。甲は、後部ドアのチャイルドロックを作動させて発進し、午前9時45分ごろにDの工房に着いて、解除しました。Vは、道中、車を止めて、とは頼まず、ドアを開けようともしませんでした。観点を、表にして示します。

変形で拾う観点 図:変形で拾う観点

左は、Vが承知した内容。真ん中は、Vの意思に反するか。右は、監禁罪の成否です。

変形で事実を拾う 図:変形で事実を拾う

Vが承知したのは、3つです。行き先がDの工房であること。後部ドアが内側から開かないこと。話が終わるまで降りられないこと。Vは、これらをすべて知ったうえで、自分の意思で応じています。監禁罪が守るのは、出ようと思えば出られる自由でした。Vは、降りられなくなることを承知のうえで、その自由を自分で使って、乗ることを選んでいます。Vの意思に反して拘束したとはいえず、自由を奪ったことにはなりません。ですから、「監禁」にあたらず、監禁罪は成立しません。基本事例との違いは、偽りの有無です。基本事例のVは、行き先を偽られ、その偽りを前提に乗り込みました。変形のVは、すべてを知ったうえで応じています。偽計によって被害者の錯誤を利用する場合ではありません。

説によって、この結論は変わるのか。変わりません。可能的自由説でも現実的自由説でも、Vが承知して同意しているなら、成立しません。次に、場面ごとに整理します。

場面ごとの結論の整理

場面ごとの結論の整理 図:場面ごとの結論の整理

3つの場面を、1枚の表にして並べます。1つ目は、行き先を偽られ、気づかないまま到着した場合です。可能的自由説では、発進した時点から成立します。現実的自由説では、成立しません。2つ目は、途中で気づいて、出してほしいと頼んだのに、無視された場合です。可能的自由説では、発進した時点から成立します。現実的自由説でも、気づいた時点から成立します。3つ目は、行き先も施錠も承知して、同意した場合です。どちらの説でも、成立しません。分かれ目は、2つです。被害者の意識を要するかどうか。そして、被害者が同意しているかどうかです。

完成答案

完成答案:問題の所在 図:完成答案:問題の所在

完成答案です。ここまでの検討を、試験で書く答案の形にしたもので、順番も、ここまで見てきた順と同じです。1枚目は、問題の所在です。監禁罪を検討することと、自分から乗ったVでも監禁といえるか、気づいていないVでも監禁といえるか、という2つの問いを、ここで立てています。

完成答案:偽計による監禁 図:完成答案:偽計による監禁

2枚目は、偽計による監禁です。自分から乗ったVでも監禁といえるか、という1つ目の問いの答えです。

完成答案:被害者の意識の要否 図:完成答案:被害者の意識の要否

3枚目は、被害者の意識の要否の、問題提起と規範です。気づいていないVでも監禁といえるか、という2つ目の問いです。

完成答案:あてはめ、結論 図:完成答案:あてはめ、結論

4枚目は、あてはめと、結論です。時点ごとに拾った事実を、規範に当てはめています。

参照条文

  • 刑法220条

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