放火罪①——「公共危険罪」という1本の軸/108現住建造物・焼損=独立燃焼説・客体の一個性(108・109・115・112・113)
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第13章 公共の安全に対する罪 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
公共危険罪という軸——保護法益と危険犯の分類 〔短答・論文共通〕

まず放火罪の保護法益。覚えてほしい言葉があります。「不特定または多数人の生命・身体・財産」。そこが大事。放火って、一度燃え始めたら誰に及ぶか分からない。だから保護する対象が、「不特定または多数人」。それでも、罪になります。これが「公共危険罪」という考え方なんです。現実に誰かが死傷しなくても、危険が生じたこと自体が犯罪。殺人は「人が死んだ」という現実の侵害が要る。でも放火は。だから自分の家を燃やしても、公共の危険が生じれば罪になる。危険が公共に及ぶかどうか。それが全ての出発点です。

次が、危険犯の分類。これが放火罪全体の地図です。放火罪の中で、どう振り分けるか分かりますか。正解です。完璧な覚え方ですね。だから108は抽象的危険犯。現住建造物を燃やせば、危険は擬制される。だから109①も抽象的危険犯。そこです。自己所有の非現住建造物は、公共の危険が具体的に発生しないと罰せない。自分の山の中の小屋を燃やして、誰にも危険が及ばないなら、109②は不成立。「よって公共の危険を生じさせた」と書いてある。具体的危険犯です。この分類表を頭に入れて、108の中身に入りましょう。
108条 現住建造物等放火罪——全文カード 〔短答・論文共通〕

108条。現住建造物等放火罪の全文です。「死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑に処する」。個人的法益の罪と違って、最も重い結果に至る危険がある。だから刑も最重です。どちらか一方を満たせば108が成立します。「現に人がいる」の方が、現在建造物。別々の概念です。正文は「住居に使用し」です。語順に注意してください。
108条——現住性・現在性・「人」の定義 〔短答・論文共通〕

現住建造物の定義です。判例で確認します。「起臥」は寝起きのこと。要するに、生活の場として使われているか。学校は昼間は人がいますが、深夜は誰もいない。宿直室があれば現住建造物です。夜間も「日常使用」しているので。現住建造物のままです。放火した瞬間の状態で決めるんじゃない。日常使用という実態で決める。「放火時に人がいるときだけ重い」としたら、人がいない深夜を狙えばいつでも軽い罪で済む。公共危険罪として類型的に重い危険がある建物——それが現住建造物。「犯人・共犯者以外の者」という意味です。犯人だけが居住する建造物は、現住建造物に当たらない。大判昭和4・6・13。居住者全員を殺害してから放火した場合も、非現住になります。これらはひっかけ問題で頻出です。「人」=犯人以外、と押さえておいてください。
客体の一個性——複合建造物の現住性判断 〔論文の骨格〕

いい設例ですね。これが、客体の一個性という論点です。どちらになるかが、論点です。なぜ現住建造物が重く処罰されるか、分かりますか。公共の危険に加えて、建造物内の人への直接の危険。それがあるから最重です。その観点から、2つの基準を立てます。一つ目。物理的に一体になっているなら、延焼して現住部分に及ぶ可能性がある。延焼可能性があれば、蔵だけ燃やしても本館の人への危険がある。二つ目。物理的に離れていても、機能的に一体ならどうか。たとえば、ワイヤーで吊り上げられて物理的な一続きの床はないエレベーター。でも、エレベーターは住民が毎日乗り降りする。機能的に住居部分と一体です。社会通念上一個の建造物かどうかで、総合的に判断します。

判例を2本見ます。まず最決平成1・7・14。社務所や守衛詰所は、現住建造物。社殿は礼拝のための非現住の建物。非現住の社殿に放火した。でも裁判所は108を適用しました。回廊でつながり物理的に一体。現住部分への延焼可能性がある。全体が一個の現住建造物。不燃性の集合住宅。エレベーターのかご側壁、約0.3平方メートルを焼損した事案です。でも、現住建造物等放火罪が成立しました。エレベーターは、住民が毎日乗り降りする場所。住居部分への出入りに不可欠、つまり玄関の延長です。物理的には独立した空間ですが、機能的一体性で補いました。この2判例で、①延焼可能性と②機能的一体性の2軸が確立されました。
📝 論文の型

論文の型を確認します。客体の一個性。太字のキーワードだけ。「延焼可能性」「機能的一体性」「社会通念上一個の現住建造物」。復元の鎖を辿ってみましょう。まず、なぜ現住建造物が重く処罰されるか。だから現住性の判断は、人への危険の有無から行う。物理的一体性が弱くても。それを総合して、社会通念上一個の現住建造物か判断する。

答案の型です。共用エレベーターの設例でやります。エレベーター(非現住非現在部分)への放火について、108条が成立するか、です。エレベーターは物理的には独立。でも住民の日常的な出入りに不可欠。逐語で覚えるのは太字キーワードだけ。あとは趣旨から復元してください。
焼損の意義——独立燃焼説 〔論文の骨格〕

それが論点です。学説が分かれています。3つの説。まず、効用喪失説。建物の重要部分が焼失して、本来の効用を失った状態。次に燃焼説。重要部分が損壊の程度に達すること。でも判例・通説は、もっと早い段階を既遂にします。独立燃焼説です。「火が媒介物を離れて目的物に移り、目的物が独立して燃焼を継続する状態」。大判大正7・3・15。たとえば古新聞。ベランダの柱に古新聞を積んで火をつけた場合。新聞が燃えているだけなら、まだ「媒介物」が燃えているだけ。そこが独立燃焼。その瞬間が既遂です。最判昭和25・12・14では、目的物の一部が独立燃焼を始めれば既遂と確認されています。一部が独立燃焼を始めれば十分。放火罪は公共危険罪だからです。独立燃焼を始めたら、もうその瞬間から公共の危険が発生している。効用喪失説や燃焼説は、放火罪の財産的な側面、つまり「物が損なわれること」ばかり重視している。でも放火の保護法益には生命・身体も入っている。独立燃焼説が、公共危険罪の趣旨に最もよく合っている。
論文の型:焼損の意義=独立燃焼説(houka_shoson) 〔論文〕

論文の型です。焼損の意義、独立燃焼説。そこと「独立燃焼説」が逐語のキーワードです。放火罪は公共危険罪——危険が発生した時点で既遂——目的物が独立燃焼を始めれば公共の危険発生——その状態が「焼損」。判例は大判大正7・3・15と最判昭和25・12・14。この2つを押さえておきましょう。

雑誌が燃えて、畳が焦げた程度で鎮火。規範が独立燃焼説。あてはめは。「焼損」にあたらない。既遂不成立。108条の未遂として112条が適用されます。そこが採点ポイントです。
109条 非現住建造物等放火罪——全文カード 〔短答・論文共通〕

次、109条。非現住建造物等放火罪です。全文を確認します。108との大事な違いが2つ。一つ目、客体を見てください。108にはありましたよね。「建造物、汽車、電車、艦船又は鉱坑」と。汽車・電車は、常に誰かが乗っている可能性が高い。だから、汽車・電車は108の「現に人がいる」に含まれるとして108で処理する趣旨です。もう一つの差異。109の適用要件は「住居に使用せず、かつ、現に人がいない」、両方が否定されることです。「人の日常使用あり」か「今人がいる」のどちらかで108になります。109は最後の受け皿ですね。「前項の物が自己の所有に係るとき」。六月以上七年以下の拘禁刑。ここが具体的危険犯の証拠です。公共の危険が具体的に発生しなければ、自己所有の非現住建造物の焼損は不可罰。
108か109かの振り分けフロー 〔短答・論文共通〕

振り分けフローを整理します。建造物を見たとき、まず聞くのは。YES→108。NO→次の問い。YES→108。どちらもNO、つまり非現住非現在になって初めて109の検討。YES→109①。抽象的危険犯。焼損で既遂です。焼損だけでは足りない。公共の危険の発生も必要。ただし書で不可罰の余地がある。自己所有でも、差押えを受けたり保険をかけたりしているものは他人所有の例によります。自己所有なのに、実質的に他の利害関係者の保護が必要だから。
115条——差押え等に係る自己の物の特例 〔短答〕

115条の全文です。それを焼損したときは、他人の物を焼損した者の例による。差押えた債権者、物権者、賃借人、保険会社——これらの利益を守るため。民法改正で追加された文言です。現行条文で確認しておいてください。
公共の危険の意義 〔短答・論文共通〕

答案定型があります。「一般人の印象からみて、不特定または多数人の生命・身体・財産に対する危険を感じさせる状態」。物理的に計測して危険かどうかではなく、一般人が見て「怖い、危ない」と感じる状態かどうか。逆に言えば、実際に危なくても一般人が危険を感じない状況なら、公共の危険は生じていない、という判断もありえます。認識が必要かどうか、つまり故意の内容として公共の危険の認識が要るかは、#67で扱います。109②と110②で理由が異なるので、まとめて対比したほうが効率的です。答案定型を一言で押さえてください。「一般人の印象からみて危険を感じさせる状態」。
未遂・予備(112条・113条) 〔短答〕

112条・113条です。109②は含まれていません。具体的危険犯の自己所有の場合は未遂を処罰する規定がないんです。108または109①目的の予備を罰します。2年以下の拘禁刑。予備の段階では任意的に免除できます。総論でやりましたね。媒介物への点火で着手です。ここでは結論だけ。
短答ひっかけ

整理します。犯人だけが住む家や、居住者全員を殺害した後の家は、非現住。日常使用の実態で決まる。放火時の状態では決まらない。延焼可能性と機能的一体性で社会通念上一個の現住建造物かを判断。最決平1・7・14と最決平1・7・7。移火プラス独立燃焼の2要件。目的物の一部が独立燃焼を始めれば既遂。大判大7・3・15と最判昭25・12・14。115の特例で、自己所有でも差押え等があれば他人所有の例。七つ目、108と109①の未遂・予備を罰する(112・113)。
今日の地図(保存版)

まとめます。危険犯の分類。条文に「公共の危険」があれば具体的危険犯。なければ抽象的危険犯。108現住性。たまたま無人でも現住。「人」は犯人以外。最決平1・7・14が物理的一体性、最決平1・7・7が機能的一体性。目的物の一部が独立燃焼を始めれば既遂です。大判大7・3・15と最判昭25・12・14。公共の危険の意義は、一般人の印象から危険を感じさせる状態。よく整理できましたね。
次回予告——#67 放火罪② 〔予告〕

次は枝の部分。自動車や家財道具に火をつけて公共の危険を生じさせた場合。延焼して被害が拡大した場合の加重規定です。そして、一番の論点。公共の危険の「認識」要否。109②と110②で、理由づけが違うんです。まとめて対比すると理解が深まります。第13章 放火の罪を2回でまとめます。