公務執行妨害罪の職務・暴行・妨害結果の書き方(前編)
水道局の職員Bが検針のためメーターボックスの蓋を開けようとかがみ込んだところ、甲がBの目の前で杭を突き立てて蓋を割り、破片がBの足元に飛び散ったが、Bは予定どおり検針を終えた事例で、公務執行妨害罪(95条1項)を答案に書き切る回。「職務」は保護法益(職務の円滑な実施)から公務のすべてを含み、強制力を向けない非権力的公務・現業的公務も入る(最判昭53・6・29)。「執行するに当たり」は職務と時間的・場所的に接着し実質的に一体性があれば足りる(最判昭45・12・22)。物に対する有形力も、間接的に公務員の身体に物理的な影響を与えるなら「暴行」にあたる(最判昭26・3・20を出発点に絞って立てる)。現実の妨害結果は不要で、妨害するに足りる暴行があれば足りる(最判昭33・9・30)。職務の適法性は1行で認定。器物損壊罪(261条)と観念的競合(54条1項前段)。変形として、Bが20メートル離れた塀の陰にいて何も伝わらなければ「暴行」にあたらず不成立になることを確かめる。
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事例
図:出来事の時系列
市の水道局は、市の条例に基づいて、毎月の定例の検針日に、職員が各家庭の水道メーターの数字を読み取り、使用量を確認しています。検針は市の職員が直接行います。読み取った数字を携帯端末に入力する作業で、住民に何かを命じたり、強制的に実施したりする仕事ではありません。月曜の午前10時ごろです。水道局の職員Bが、この月の検針のために、市内の一戸建てに住む40代の男性、甲の家の前に来ました。道路沿いにある、メーターボックスの前です。Bは検針用の携帯端末を手に持ち、メーターボックスの樹脂製の蓋を開けようとして、かがみ込みました。蓋は市の物です。蓋にはまだ手を掛けておらず、メーターの数字も読んでいません。そこへ、先月の水道料金の請求額に腹を立てた甲が、検針を妨げてやろうと思い、庭にあった園芸用の鉄の杭を持って、門から出てきました。長さは約1メートルです。甲は、Bの目の前、Bから約1メートルのところで、杭の先を蓋に力いっぱい突き立て、蓋を割りました。
図:甲とBと蓋の関係
蓋は大きな音を立てて割れ、破片がBの足元に飛び散りました。Bは思わず一歩下がっています。杭はBに当たっておらず、甲はBの体に触れていません。甲は、Bが水道局の検針に来たことを知っていました。Bにけがはありません。Bは、割れた蓋の破片を脇に寄せ、メーターの数字を読み取って端末に入力し、予定どおり検針を終えました。問いは次の1つです。甲の罪責について、公務執行妨害罪の成否を中心に論じなさい。ただし、業務妨害罪は除きます。甲は、Bの体に指一本触れていません。仕事も予定どおり終わっています。それでも、Bの目の前で、検針の対象を突き割りました。これは公務執行妨害罪になるのでしょうか。
検討の順番
図:甲とBと蓋の関係
甲の相手は、市の職員です。公務員の仕事を邪魔した事案ですから、まず公務執行妨害罪を見ます。条文を確認します。
条文刑法95条1項
刑法95条1項(公務執行妨害及び職務強要) 公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
成立要件は条文どおりです。公務員が、職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えたこと。順に当てます。公務員、職務、職務を執行するに当たり、暴行です。本件に脅迫はありません。条文には書かれていませんが、成立の条件になる要素がもう1つあります。職務の適法性です。以前の回で、書かれざる構成要件要素と呼んだものです。これは、「執行するに当たり」の後で、1行だけ当てます。問題として立つのは4つです。強制力を向けない仕事でも「職務」か。仕事に取りかかる直前でも「執行するに当たり」か。体に触れていないのに「暴行」か。仕事が予定どおり進んでも成立するか。順に見ていきます。
「公務員」と「職務」
図:甲とBと蓋の関係
最初は「公務員」です。条文を確認します。
条文刑法7条1項
刑法7条1項(公務員) この法律において「公務員」とは、国又は地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう。
Bは、市の水道局の職員です。市は地方公共団体ですから、Bは「公務員」にあたります。ここは認定するだけで、争いはありません。次は「職務」です。Bの仕事は検針で、メーターの数字を読み取って端末に入力する仕事でした。相手に強制力を向けて行う仕事ではありません。強制力とは、相手の意思に反しても押し切れる物理的な実力のことです。こうした強制力を行使しない仕事、非権力的公務も、95条1項の「職務」にあたるのか。これが問題になります。逮捕や差押えのような強制力を使う仕事だけを思い浮かべるのは自然です。規範は、こうです。
⭐ 論文で書く規範:公務執行妨害罪の「職務」の範囲 本罪の保護法益は公務員の職務の円滑な実施にあるところ、非権力的公務もしくは現業的公務であっても、この法益は害される。そこで、「職務」には公務のすべてが含まれると解する。 (規範(最判昭53・6・29))
図:規範カード|「職務」の範囲
カードは2文です。第1文は理由です。この罪が守っているのは、公務員個人ではなく、公務が円滑に行われることです。強制力を使わない仕事でも、邪魔をされれば、仕事は滞ります。検針のように、現場で手を動かす公務を、現業的公務と呼びます。強制力を向けない点で、非権力的公務と同じ側の仕事です。これも同じです。だから、この法益は害される。第2文が結論で、「職務」には公務のすべてが含まれます。強制力を向けるかどうかは、守るかどうかの分かれ目ではありません。最高裁は、次のように述べています。
判例最判昭53・6・29 刑集32巻4号816頁
「職務」の範囲を述べた判決 同項にいう職務には、ひろく公務員が取り扱う各種各様の事務のすべてが含まれるものである
公務員が取り扱う各種各様の事務のすべて、です。力を使う仕事に限っていません。あてはめです。Bの検針は、市の条例に基づいて水道局の職員が行う公務で、住民に強制力を向けない非権力的公務です。検針が妨げられれば、使用量を確認するという市の仕事の円滑な実施が害されます。ですから、Bの検針は「職務」にあたります。
「職務を執行するに当たり」
図:出来事の時系列
次は「職務を執行するに当たり」です。甲が蓋を突き割ったとき、Bは蓋を開けようとかがみ込んだところで、まだ蓋に手を掛けておらず、数字も読んでいませんでした。検針は、始まっていません。それでも「職務を執行するに当たり」といえるのか。規範は、こうです。
⭐ 論文で書く規範:「職務を執行するに当たり」の範囲 「執行するに当たり」とは、本来の職務の執行中だけでなく、これと時間的・場所的に接着し、実質的に職務との一体性が認められる場合を含むと解する。 (規範(最判昭45・12・22))
図:規範カード|「職務を執行するに当たり」の範囲
カードは1文です。仕事の最中だけでなく、その前後でも、時間と場所が近く、職務の続きとして切り離せない関係にあれば含まれる、という意味です。一体性とは、そういうことです。守りたいのは、公務の円滑な実施です。仕事に取りかかる直前に邪魔をされても、その仕事の円滑さは害されます。最高裁は、次のように述べています。
判例最判昭45・12・22 刑集24巻13号1812頁
「職務を執行するに当たり」の範囲を述べた判決 その保護の対象となるべき職務の執行というのは、漫然と抽象的・包括的に捉えられるべきものではなく、具体的・個別的に特定されていることを要するものと解すべきである …… 具体的・個別的に特定された職務の執行を開始してからこれを終了するまでの時間的範囲およびまさに当該職務の執行を開始しようとしている場合のように当該職務の執行と時間的に接着しこれと切り離し得ない一体的関係にあるとみることができる範囲内の職務行為にかぎつて、公務執行妨害罪による保護の対象となるものと解するのが相当である
前半は、どの職務なのかを特定せよ、という話です。勤務時間中なら何をしていても執行中だ、とは言えません。後半は、執行を開始してから終了するまでに加えて、まさに開始しようとしている場合のように、時間的に接着し、切り離せない一体的な関係にある範囲まで、と述べています。境界で考えます。Bが検針を終えて、道具を片づけ、庁舎の机で別の書類を整理している場面なら、時間も場所も検針から離れています。今回のBは、そのメーターの前に立ち、蓋を開けようとしています。ここは入る側です。事実を当てます。まず、どの職務かを特定します。この日の、甲方前のメーターの検針です。次に、甲が蓋を割った時点のBの位置と体勢です。Bは、そのメーターの前に立ち、端末を手に持って、蓋を開けようとかがみ込んでいました。検針するその場所で、蓋を開けて数字を読む直前という段階です。ですから、本来の職務である検針と、時間的・場所的に接着しています。検針の続きとして切り離せませんから、実質的に職務との一体性も認められます。よって、「職務を執行するに当たり」にあたります。
職務の適法性
図:甲とBと蓋の関係
職務の適法性です。これは、条文に書かれていない要素です。守るのは公務の円滑な実施ですが、違法な職務まで、刑罰で守る理由はありません。だから、適法であることが求められます。Bの検針は、市の条例に基づく水道局の事務で、定例の検針日に、通常の方法で行われています。ですから、適法です。先へ進みます。
「暴行」
図:甲とBと蓋の関係
「暴行」に入る前に、前に確認したことを思い出してください。暴行罪の「暴行」は、何に向けられた不法な有形力のことでしたか?人の身体に向けられた不法な有形力です。公務執行妨害罪の「暴行」は、これより広く捉えます。以前の回で見たとおり、公務員が職務に使っている物や、公務員の手足となっている人に向けた力も、公務員に向けられた力とみます。本件で問題になるのは、物に向けた力です。どこまで広いのか。この事例で確かめます。甲は、Bの体に触れていません。杭もBに当たっていません。甲が力を加えたのは、メーターボックスの蓋です。公務員の身体に向けられた直接の有形力の行使がない場合も、「暴行」にあたるのか。規範は、こうです。
⭐ 論文で書く規範:公務執行妨害罪の「暴行」(間接暴行) 本罪の保護法益は公務員の職務の円滑な実施である。そして、物に対する有形力が間接的に公務員の身体に物理的な影響を与える場合にもこの法益は害されるから、「暴行」には、このような場合も含まれると解する。 (規範(間接暴行は最判昭26・3・20を出発点に、身体への物理的な影響で絞って立てる))
図:規範カード|「暴行」(間接暴行)
カードは2文です。第1文は、守るものの確認です。公務の円滑な実施です。第2文が、理由と結論です。目の前で物を壊され、その勢いや衝撃、音が体に伝われば、公務員は落ち着いて仕事ができません。体に当たっていなくても、仕事の円滑さは害されます。だから、物に対する力が、間接的に公務員の身体に物理的な影響を与えるなら、「暴行」に含まれます。物理的な影響とは、勢い、衝撃、音が体に伝わる、ということです。ただし、物を壊しさえすれば何でもよいわけではありません。体に何も伝わらないなら、害されるのは物だけです。最高裁は、次のように述べています。
判例最判昭26・3・20 刑集5巻5号794頁
間接暴行を認めた判決 公務員の職務の執行に当りその執行を妨害するに足る暴行を加えるものである以上、それが直接公務員の身体に対するものであると否とは問うところではない …… その暴行は間接には同事務官等に対するものと謂い得る
直接、公務員の身体に対するものかどうかは、問わない。そして、物に対する暴行でも、間接には公務員に対するものといえる。そういう言い方です。ただ、判例も、物に対する暴行を、間接には公務員に対するもの、と位置づけて認めています。公務員に向かう力であることは、外していません。物を壊しただけで、力が公務員に何も届かないなら、公務員に対するものとはいえません。そこで、この規範は、届いたかどうかを、身体への物理的な影響で確かめます。こう絞らないと、公務員の知らない所で物を壊し、後で仕事が手間取っただけでも、この罪になりかねません。では、事実から何を拾うか。観点だけを、表にして示します。
図:「暴行」について拾う観点
左は、甲が力を加えた物。真ん中は、その物とBの位置関係。右は、Bの身体への影響です。
図:「暴行」について事実で拾う
甲が力を加えた物は、検針の対象のメーターボックスの蓋です。杭の先で突き割りました。位置関係は、Bの目の前、約1メートルです。肝心なのは、Bの身体への影響です。蓋は大きな音を立てて割れ、破片が足元に飛び散りました。Bは思わず一歩下がっています。体が感じ取れる程度の影響が、Bに伝わっています。物に加えた力が、間接的に、Bの身体に物理的な影響を与えています。よって、甲の行為は「暴行」にあたります。公務員を直接殴った場合なら、「暴行」とは公務員に向けた不法な力の行使、という定義から認定すれば足ります。本件は体に触れていないので、今見た規範で書きます。
妨害結果は要るか
図:甲とBと蓋の関係
最後の問題です。Bは、割れた蓋の破片を脇に寄せ、予定どおり検針を終えました。仕事は、妨げられていません。公務執行妨害罪の成立には、現実に職務の執行が妨害されたことが必要なのか。規範は、こうです。
⭐ 論文で書く規範:公務執行妨害罪における妨害結果の要否 本罪の保護法益は公務員の職務の円滑な実施である。そして、職務の執行を妨害するに足りる暴行・脅迫があればこの法益は害されうるから、本罪の成立には、現実の妨害結果を必要としないと解する。 (規範(最判昭33・9・30))
図:規範カード|妨害結果の要否
カードは2文です。第1文は、守るものの確認です。第2文が、理由と結論です。仕事を妨げるに足りる暴行や脅迫があれば、仕事の円滑さは、その時点で害されうる。ですから、結果として仕事が止まったかどうかは、要りません。公務員が動じずに仕事を続けたとしても、同じです。以前の回で見た、道に釘をまいたが、車が通る前に片づけられた例と、同じ発想です。車は無事に走れても、釘をまいた行為は、走行を妨げるに足りる行為でした。最高裁は、次のように述べています。
判例最判昭33・9・30 刑集12巻13号3151頁
妨害結果を要しないとした判決 公務執行妨害罪は公務員が職務を執行するに当りこれに対して暴行又は脅迫を加えたときは直ちに成立するものであつて、その暴行又は脅迫はこれにより現実に職務執行妨害の結果が発生したことを必要とするものではなく、妨害となるべきものであれば足りるものである
見るのは、結果が出たかではなく、暴行そのものです。その暴行が、その仕事を妨げるに足りるか。観点を、表にして示します。
図:妨害結果について拾う観点
左は、甲の暴行。真ん中は、検針への影響。右は、妨害するに足りるか、です。
図:妨害結果について事実で拾う
甲の暴行は、検針の対象の蓋を、Bの目の前で杭で突き割ったことです。検針への影響です。蓋が割れれば、メーターの数字を読み取る作業に支障が出ます。ですから、甲の暴行は、検針を妨げるに足りるものです。検針は最終的に予定どおり終わりましたが、それはBが破片を寄せて続けたからで、暴行の性質は変わりません。結果が出なかったことは、本罪の成立を妨げません。甲は、Bが水道局の検針に来たことを知り、妨げようと思って蓋を割っていますから、故意もあります。したがって、公務執行妨害罪、刑法95条1項が成立します。
事実を1か所変える
図:変形の事実
事実を1か所だけ変えて、結論が動く場面を見ます。変えるのは、甲が力を加えたとき、Bがその場にいたかどうかです。甲が蓋を突き割ったとき、Bは甲方の前におらず、20メートル離れた隣家のメーターを検針していました。Bは塀の陰にいて、蓋が割れる様子を見ておらず、割れる音も届きませんでした。甲は、Bが隣家にいるのを知ったうえで、Bが来る前に蓋を壊して、検針をできなくしてやろうと思っていました。Bは、そのあと甲方の前に来て、破片を寄せて検針を終えました。ほかは基本事例と同じです。観点を、表にして示します。
図:変形で拾う観点
上の段は基本事例、下の段は変形です。左から、Bの位置、Bの身体への影響、「暴行」にあたるか、公務執行妨害罪の成否です。
図:変形で事実を拾う
見るのは、これまでと同じ、物に加えた力が、Bの身体に何を伝えたか、です。変形では、Bは20メートル離れた塀の陰にいて、割れる様子も見ず、音も聞いていません。何も伝わっていません。守るものは、公務員の職務の円滑な実施でした。力がBの体に何も伝わっていなければ、その場で、Bの仕事の円滑さは害されません。あとで破片を寄せる手間が増えたのは、壊れた物の後始末で、Bに向けられた力ではありません。ですから、物理的な影響を与えたとはいえず、この規範からは、「暴行」にあたりません。公務執行妨害罪は成立しません。なお、公務員のいない所で物を壊す場面は、以前の回で見たとおり、判例が正面から答えていない場面です。答案では、今の規範に当てはめて、「暴行」にあたらないと結論づけます。
蓋は市の物ですから、他人の物を壊す罪、器物損壊罪の問題が残ります。ここでは、公務執行妨害罪の成否だけを見ています。2つの場面を、1枚の表に並べて整理します。
図:2つの場面の整理
決め手は、物に加えた力が、公務員の身体に物理的な影響を与えるか、です。基本事例は与えているので、「暴行」にあたります。変形は何も伝わっていないので、あたりません。
結論・罪数
図:甲の罪責の検討結果
結論です。甲には、公務執行妨害罪が成立します。法定刑は、3年以下の拘禁刑か、50万円以下の罰金です。甲の行為は、市の物である蓋を壊すものでもありますから、器物損壊罪、刑法261条にもあたります。ただし、杭で蓋を突き割ったのは1つの行為で、それが2つの罪名に触れています。1つの行為を2度罰することはしません。ですから、観念的競合、刑法54条1項前段となり、2つのうち最も重い刑で処断します。
完成答案
図:完成答案:公務員と職務
こちらが完成答案です。1枚目は、公務員と、職務です。
図:完成答案:執行するに当たり・適法性
2枚目は、職務を執行するに当たり、と、職務の適法性です。適法性は、1行で書いています。
図:完成答案:暴行
3枚目は、暴行です。
図:完成答案:妨害結果と故意
4枚目は、妨害結果と、故意です。
図:完成答案:結論
最後が、結論です。一つの行為が二つの罪にあたるので、罪数まで書いて締めくくります。
参照条文
- 刑法95条
- 刑法7条
- 刑法261条