訴訟の主体②検察官と司法警察職員——訴追する側は誰か
国が人を裁判にかけるとき、動くのは2つの機関——訴追する側の全体像を「訴える権限を、誰に、どこまで持たせるか」という1つの問いで通す回。第一次的な捜査機関は司法警察職員であること(刑訴法189条2項)、警察の中の司法警察員と司法巡査の権限差(令状請求は199条2項・218条5項、釈放と送致は203条。逮捕状請求はさらに公安委員会が指定する警部以上に限られる)、検察庁と裁判所の4層の対応、検察官の5種類(検察庁法3条)、一人ひとりが官庁として判断する独任制と、上命下服・事務引取移転権で組織を束ねる検察官同一体の原則が「責任」と「平等」という別の価値を守っていること、公益の代表者(検察庁法4条)をめぐる客観義務論争、法務大臣の指揮権が個々の事件では検事総長のみに限られる理由(検察庁法14条)、検察官と司法警察職員は上下ではなく協力関係であること(192条)と一般的指示・一般的指揮・具体的指揮の使い分け(193条)、捜査から裁判の執行まで4段階に伸びる検察官の権限まで。
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第1章 総論 ⑤/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
訴える側は誰か
図:訴える側と守る側ボード
前回は、裁判所が「事件ごとに選ばせない」ことで公平を作っている、という話でした。今回の主役はその逆側です。一人ひとりが独立して判断することを認めたうえで、組織として統一する——検察官の話です。
訴訟の主体のうち、残りは訴える側と守る側。分量が大きいので2回に分けます。今回は訴える側で、被疑者・被告人と弁護人は次回に回します。
今回見るのは5つです。①最初に動くのは誰か ②警察の中でも権限が分かれていること ③検察官とは何者か ④その一枚岩に、政治はどこまで手を入れられるか ⑤検察と警察は上下関係なのか。バラバラに見えて、全部が「訴える権限を、誰に、どこまで持たせるか」という1つの問いにつながります。
最初に動くのは誰か
図:第一次的捜査機関ボード
まず、最初に動く人からです。条文を見てください。
条文刑訴法189条1項・2項
刑事訴訟法第189条 1項 警察官は、それぞれ、他の法律又は国家公安委員会若しくは都道府県公安委員会の定めるところにより、司法警察職員として職務を行う。 2項 司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。
「犯罪があったらしいと考えたとき」という意味です。言葉は硬いですが、中身はシンプルです。ここで押さえてほしい事実が1つあります。捜査の主役は検察官だと思われがちですが、条文の上でまっさきに動くのは、司法警察職員のほうです。ドラマの印象と違いますよね。実際に現場へ駆けつけ、証拠を集め、犯人を追うのは、まず警察の仕事です。検察官が出てくるのは、もう少しあとの段階になります。そこにも整理があります。犯罪の証拠を集めたり、被疑者を逮捕したりする活動が司法警察活動です。交通整理やパトロールのように、犯罪がまだ起きていない場面での活動は行政警察活動と呼ばれ、区別されます。
今日扱うのは、このうち司法警察活動の側——事件の捜査です。捜査全体の仕組みは、また別の回でじっくり扱います。
一般司法警察職員と特別司法警察職員
図:一般と特別の司法警察職員ボード
実は、それだけではありません。刑訴法190条は、森林や鉄道のような特別の分野を担当する司法警察職員も定めています。つまり、警察官でない人でも捜査を担当することがあります。ふだん警察官が担当する職員を一般司法警察職員、それ以外の特定の分野を担当する職員を特別司法警察職員と呼びます。その分野の仕事をしている人の方が、犯罪を見つける機会が多く、専門知識も活かせるからです。例えば、海上保安官は海の上で起きる事件を、労働基準監督官は職場の労災隠しのような事件を担当します。今日は名前だけ知っておいてください。特別司法警察職員が実際にどう動くかは、この回では扱いません。
司法警察員と司法巡査——重い判断を誰に負わせるか
図:司法警察員と司法巡査の権限差ボード
次は、警察の中の話です。刑訴法は、司法警察職員を、権限の重さで司法警察員と司法巡査の2段階に置いています。そこが今日のポイントです。例えば、逮捕状を請求する権限や、逮捕した被疑者を釈放したり検察官に送ったりする権限は、重い判断を持つ司法警察員だけに認められています。現場に立つ司法巡査は、単独では決めず、司法警察員のもとで手足として捜査に加わります。どちらも、人の自由を奪ったり解いたりする入口の判断です。現場で最初に動く人と、その判断に責任を持つ人を分けておくことで、勢いだけで進まないようにしているんです。
ここは、逮捕や捜索を扱う回で、毎回この区別が効いてきます。今日は道具として受け取っておいてください。ここで注意が必要です。階級で自動的に決まるわけではありません。国家公安委員会や都道府県公安委員会が指定した警察官が、司法警察員とされます。警察を外から管理するために置かれている委員会です。重い判断を誰に任せるかを、警察の中だけで決めさせない、という形になっています。よく言われる「巡査部長以上が司法警察員」という説明は、実務上おおむねそうなっている、というだけです。刑訴法や警察法のどこにも、「巡査部長以上」という数字そのものは書かれていません。決めているのは、あくまで公安委員会の指定です。
条文の言葉でも確認しておきましょう。逮捕状の請求は、199条2項で検察官または司法警察員だけに認められています。緊急逮捕の場合の逮捕状請求だけは例外的に司法巡査にも認められますが、それ以外の令状は司法警察員だけです。しかも、司法警察員なら誰でも請求できるわけではありません。199条2項は、警察官である司法警察員については、公安委員会が指定する警部以上の者に限る、と定めています。司法警察員であることと、逮捕状を請求できることは、イコールではありません。捜索や差押えの令状の請求も、218条5項で、検察官・検察事務官・司法警察員に限られます。
前に見た203条——あの条文の主語が、まさに司法警察員でした。逮捕した被疑者を釈放するか、検察官に送るかを決めるのも司法警察員の仕事です。司法巡査だけの判断では決められません。
検察庁という組織——裁判所とペアの4層構造
図:検察庁の4層構造対応表ボード
ここから、検察官の話に入ります。まず、検察官が所属する組織——検察庁からです。実は裁判所と同じように、4段階の組織になっています。最高検察庁・高等検察庁・地方検察庁・区検察庁の4種類です。しかも裁判所と対応しています。最高検察庁は最高裁判所、高等検察庁は高等裁判所、地方検察庁は地方裁判所と家庭裁判所、区検察庁は簡易裁判所と、それぞれペアで置かれています。検察官の行う事務を統括する場所が検察庁で、その組織の形が、そのまま裁判所の4段階と対応しています。検察官の仕事の中心は、裁判所に対して公訴を提起し、その裁判に立ち会うことだからです。訴え出る先の裁判所が分かれている以上、訴える側も同じ4段階で置いておかないと、どの検察官がどの裁判所に出るのかが決まりません。家庭裁判所の事件をどう扱うかは、少年事件の回で扱います。
検察官の5種類とキャリア
図:検察官5種類の階級とキャリアボード
では、検察官そのものを見ましょう。条文を見てください。
条文検察庁法3条
検察庁法第3条 検察官は、検事総長、次長検事、検事長、検事及び副検事とする。
ピラミッドをイメージして整理しましょう。全国の検察官の頂点に立つのが検事総長——最高検察庁のトップです。その検事総長を補佐するのが次長検事——同じく最高検察庁に属しています。各高等検察庁のトップが検事長です。「次長検事」と「検事長」は字が似ているので要注意です。次長検事は最高検察庁、検事長は高等検察庁——庁が一段違います。検察庁法3条の並びも、検事総長・次長検事・検事長の順でした。そして、各地方検察庁のトップが検事正です。検事正のような一定の官職には、一級の検事が就きます。検事にも一級・二級の区別があるということです。細かい昇格の基準は、今日は深追いしません。
原則として司法修習を終えた人などが、検事として任命されます。副検事は、主に区検察庁で勤務し、比較的軽い事件を担当します。実は、検事とは別の任用ルートも用意されています。検察庁法上、一定の実務経験を積んで選考を経れば、副検事になる道が用意されています。検事とは別のルートがある、という事実だけ押さえてください。検察官の周りで働く職員もいます。検察事務官です。検察庁には検察事務官が置かれ、上官の命令を受けて事務を担当したり、検察官を補佐してその指揮を受け捜査を行ったりします。罰金の徴収や記録の管理といった事務も担います。
ここは区別が必要です。逮捕状を請求できるのは検察官と司法警察員だけで、検察事務官にはできません。ただし、発付された令状を執行することは、検察事務官にもできます。頼む人と、実際に動く人は別、という整理です。ほかに専門的な技術を担う検察技官もいますが、名前だけ知っておいてください。
独任制の官庁——一人ひとりが国の機関
図:独任制のイメージボード
ここから、検察官という仕事の特徴に入ります。検察官には、独任制という建て付けがあります。個々の検察官が、直接、国の権限を行使する官庁として活動する、という意味です。ふつうの行政機関は、大臣のような長だけが官庁で、部下の職員は補助する立場にすぎません。検察官は、これと作りが違います。なぜ、そうしたのか。起訴するかしないか、という判断は、その事件を自分で調べた人が責任を負う形でなければ機能しません。決裁の紙が上から下へ回るだけの仕組みでは、誰も責任を持ちません。この立場を支えるため、検察官には身分保障もあります。意思に反してその官を失ったり、職務を停止されたり、俸給を減額されたりしません——検察庁法25条です。
これは裁判官の身分保障と似ていますが、根拠は違います。裁判官の身分保障は憲法に書かれていますが、検察官の身分保障は検察庁法という法律に書かれています。検察官は「準司法官」と呼ばれることもありますが、憲法上の司法官そのものではなく、行政官である、という位置づけを押さえてください。
検察官同一体の原則——独任制と矛盾しない理由
図:独任制と同一体の対比ボード
今日いちばんの山場です。検察官は独任制ですが、同時に、上司の検察官の命令には従わなければなりません。これを検察官同一体の原則と呼びます。「バランスを取っている」で片付けず、もう一歩踏み込みましょう。独任制と同一体は、守っている価値が違います。独任制が守っているのは責任です。事件を自分で調べた人が、自分の名前で判断する。同一体が守っているのは平等です。同じような事件なのに、担当した検事によって起訴されたりされなかったりしたら、不公平になります。イメージしやすい例で考えましょう。チェーン展開している店を思い浮かべてください。各店舗の店長は、その日の仕入れや接客を自分の判断で決め、その店の責任を負います。
ただし、どの店に入っても同じ味・同じ基準の商品が出てくるのは、全店舗が同じマニュアルに従っているからです。この「同じ基準」を支える部分が、同一体にあたります。ただし、この喩えで説明できるのは、「同じ基準」までです。同一体には、上司が個別に指示し、担当そのものを引き取れる、というもう1つの面があります。条文でも確認しましょう。最高検の検事総長・次長検事、高検の検事長、地検の検事正から、それぞれの部下の検察官へと続く指揮監督の系統が、検察庁法7条から13条に定められています。検事総長・検事長・検事正は、部下の検察官の事務を自分で取り扱ったり、ほかの検察官に取り扱わせたりできます——引き取る権限と、ほかの検察官へ移す権限、あわせて事務引取移転権と呼ばれます。
担当検事が異動しても、事件そのものは検察庁という1つの組織が引き継いでいる、という発想です。事故や欠員のときの職務代行も、13条に定められています。そこが、今日の答えの中心です。「訴える権限を、誰に、どこまで持たせるか」——起訴するかどうかの判断は一人に絞って責任を作り、その判断の基準は組織で束ねて平等を作る。この2つを同時にやっているのが、検察官という仕組みです。
「公益の代表者」とは何か
図:公益の代表者と客観義務ボード
検察官の役割を、条文でもう1つ見ておきましょう。
条文検察庁法4条
検察庁法第4条 検察官は、刑事について、公訴を行い、裁判所に法の正当な適用を請求し、且つ、裁判の執行を監督し、又、裁判所の権限に属するその他の事項についても職務上必要と認めるときは、裁判所に、通知を求め、又は意見を述べ、又、公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行う。
ここが、学説でも議論がある部分です。公益の代表者だから、検察官には有罪を立証するだけでなく、被疑者や被告人の利益のためにも動く義務がある——これを客観義務と呼ぶ考え方があります。例えば、被告人に有利な証拠が見つかったとき、それを隠さず提出する、というようなことです。この考え方を強めると、検察官に、最初の回で見た適正手続主義——手続を正しく踏ませて人権を守る——の担い手という役割を負わせられます。警察の捜査をチェックしたり、訴える・訴えないの判断を統制したりする根拠になります。批判もあります。こうです——有利な証拠まで背負わせるほど、検察官は捜査の段階で強くなりすぎる。その結果、検察の捜査そのものが、はじめから有罪を前提に動きかねない、という指摘です。
この批判は、前に見た糾問主義・弾劾主義の話につながります。弾劾主義は、訴える役目と裁く役目を別の人に分ける形でした。糾問主義は、その2つが同じ1人に集まっている形でしたね。そこです。有利な証拠まで検察官が判断して扱うということは、裁判所より先に「この人は有罪か」を検察官が決めていく形に近づきます。分けたはずの「訴える」と「裁く」が、事実上また一人に寄っていく——これが、糾問主義の色が強まる、という緊張関係です。この対立に、今日は決着をつけません。この問いは、違法収集証拠や、訴える権限の濫用を扱う回で、また出会います。今日は、この対立の構造だけ持ち帰ってください。
法務大臣の指揮権——ゼロでもフリーでもない理由
図:法務大臣の指揮権2段構えボード
検察官は行政官である、と言いました。行政官である以上、内閣、そして法務大臣の下にあります。とはいえ、法務大臣が検察官に何でも命令できるわけではありません。条文を見てください。
条文検察庁法14条
検察庁法第14条 法務大臣は、第四条及び第六条に規定する検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができる。但し、個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみを指揮することができる。
まず、なぜ大臣の統制がゼロではいけないかから考えましょう。もし民主的な統制がまったく無ければ、誰も選んでいない組織が、訴える権限を独占することになってしまいます。でも逆に、個々の事件を政治家が自由に動かせたら、政治家自身が絡む事件を、裁けなくなってしまいます。そこで、一般的な指揮監督はできても、個々の事件の取調べや処分については、検事総長のみを指揮できる、という形になっています。2段階の意味があります。1つは、現場の検事に法務大臣が直接電話をかけられない、という防波堤です。もう1つは、検事総長が指揮を受けた以上、その判断は表に出て、責任が問われる、という責任の可視化です。
この仕組み全体が、検察の政治からの独立性を守っています。なお、この4条・6条という限定にも意味があります。4条は今見た公訴などの職務、6条は、いかなる犯罪についても捜査できるという検察官の権限です。この2つの事務に関する指揮に限られます。戦後、実際に使われた例は、一度だけとされています。ある大きな汚職事件の捜査中、法務大臣が検事総長に指示を出し、大臣は直後に辞任しました——それほど重い判断だ、ということです。政治の統制を残しながら、使うときは必ず一点を通す——これが「ゼロでもフリーでもない」という形です。
検察官と司法警察職員は上下関係ではない
図:協力関係ボード
ドラマでは検察官が警察に指図しているように見えますが、そのイメージと、条文はズレています。見てください。
条文刑訴法192条
刑事訴訟法第192条 検察官と都道府県公安委員会及び司法警察職員とは、捜査に関し、互に協力しなければならない。
検察官、都道府県公安委員会、司法警察職員の3者が、捜査に関して互いに協力しなければならない、と定められています。上下関係ではなく、協力関係です。もう1つ条文を見ましょう。
条文刑訴法191条1項・2項
刑事訴訟法第191条 1項 検察官は、必要と認めるときは、自ら犯罪を捜査することができる。 2項 検察事務官は、検察官の指揮を受け、捜査をしなければならない。
ただし、位置づけには順序があります。第一次的な捜査機関は司法警察職員で、検察官の捜査は二次的・補充的なものです。ただ、補う立場といっても、何もしないわけではありません。公判で使える形の捜査になっているか——そこに責任を持つ立場から、検察官は司法警察職員に関わります。その具体的な形を、次に見ましょう。
3層の指示・指揮を見分ける
図:3層の指示指揮比較表ボード
検察官が司法警察職員に関わる形は、1つではありません。条文を見てください。
条文刑訴法193条1〜4項
刑事訴訟法第193条 1項 検察官は、その管轄区域により、司法警察職員に対し、その捜査に関し、必要な一般的指示をすることができる。この場合における指示は、捜査を適正にし、その他公訴の遂行を全うするために必要な事項に関する一般的な準則を定めることによつて行うものとする。 2項 検察官は、その管轄区域により、司法警察職員に対し、捜査の協力を求めるため必要な一般的指揮をすることができる。 3項 検察官は、自ら犯罪を捜査する場合において必要があるときは、司法警察職員を指揮して捜査の補助をさせることができる。 4項 前三項の場合において、司法警察職員は、検察官の指示又は指揮に従わなければならない。
「一般的指示」「一般的指揮」「指揮」と似た言葉が3つ並びますが、これは「強さの順」で並んでいるわけではありません。動かしている対象が違うんです。順番に見ていきましょう。1つ目、一般的指示——1項です。個別の事件ではなく、ルールを示します。書類の作り方や、送らなくてよい事件の範囲のように、捜査の規格を揃えるための指示です。さっき見た、法務大臣の「一般に指揮監督する」とは別の制度です。こちらは検察官から司法警察職員への話、あちらは法務大臣から検察官への話でした。2つ目は、一般的指揮——2項です。こちらは、その事件の役割分担や方針を示します。誰がどこを担当するか、という話です。例えば、同じ犯人の事件がいくつもの警察署にまたがっているとき、どの署がどこを調べるかを割り振る——そういう場面です。3つ目は、具体的指揮——3項です。これは、検察官が自ら捜査する場合に限られます。そのとき、司法警察職員を補助として使うための指揮です。例えば、検察官が自分で被疑者を取り調べているときに、足りない資料の収集を司法警察職員に手伝ってもらう——そういう形です。
ルールを揃えるのが一般的指示、事件の方針を示すのが一般的指揮、自分で捜査するときに補助として使うのが具体的指揮です。すべての場合に、司法警察職員はこれに従わなければならない——4項です。
従わないときの担保
図:194条の間接的担保ボード
では、司法警察職員が検察官の指示や指揮に従わなかったら、どうなるか。194条に定めがあります。正当な理由なく従わない場合、検事総長・検事長・検事正は、その職員を懲戒したり罷免したりできる権限を持つ人に対して、懲戒または罷免の訴追をすることができます。ここでの訴追は、起訴という意味ではありません。「処分してください」と求める、という意味です。ここは間接的です。警察官なら公安委員会のように、処分の権限を持つ人に対して求める、という形です。では、上下関係ではないのに、なぜ従わせられるのか。公訴を維持できる形の捜査でなければ、事件そのものが無駄になってしまうからです。身分の上下ではなく、目的から来る従属なんです。
検察官の権限は4つの段階に伸びている
図:検察官の権限4段階の時間軸ボード
最後に、検察官という仕事の全体像を見ましょう。検察官の権限は、大きく4つの段階に伸びています。1つ目は捜査——191条で見たとおり、自ら犯罪を捜査できます。2つ目は公訴の提起——事件を裁判にかけるかどうかを決める権限です。247条により、公訴を提起できるのは検察官だけです。これを公訴権と呼び、検察官が独占しています。冒頭の「訴える権限を、誰に、どこまで持たせるか」——その「誰に」の中心が、ここです。決めるのは検察官だけ。起訴・不起訴の判断の中身は、また別の回で深く扱います。なお、犯罪の嫌疑が十分でも、情状によって起訴しない判断——起訴猶予——もできます。248条です。前に見た訴因——審判の対象、つまり何の罪で裁くかの中身——を決めたり変更したりする権限——256条3項・312条1項——も、この検察官の手にあります。中身はまた別の回で扱います。3つ目は、公判維持です。法廷で訴える側の当事者——原告官として、証拠を提出したり、法律の適用や刑についての意見を述べたりします——論告・求刑と呼ばれる場面です。中身は公判を扱う回で見ます。4つ目は、裁判の執行です。判決が確定したあとの執行は、検察官の指揮のもとで行われます。472条です。
捜査から執行まで、検察官はずっと関わり続ける——そこが、今日の背骨です。裁判所は、起訴されるまで出てきません。警察は、起訴されると事件から退場します。でも検察官だけは、事件の最初から最後まで関わり続ける——刑事手続の全段階に関与する、唯一のプレイヤーなんです。
今日の地図(保存版)
図:まとめボード
今日渡した中身を、まとめます。最初に動くのは司法警察職員でした。その中でも、令状の請求や釈放・送致という重い判断は、司法警察員だけが持っていました。次に、検察官です。一人ひとりが独任制の官庁でありながら、検察官同一体の原則で組織として統一されています。その検察官の組織に、政治は無制限に手を出せません。個々の事件は検事総長のみを通す、という形で線が引かれていました。そのうえで、一般的指示・一般的指揮・具体的指揮という3層で、検察官は公訴という目的のために関わっていきます。
今日見てきた全部が、「訴える権限を、誰に、どこまで持たせるか」という1つの問いへの答えでした。次回は、その裏側——守る側です。被疑者・被告人、そして弁護人を見ていきます。
参照条文
- 刑訴法189条1項・2項
- 検察庁法3条
- 検察庁法4条
- 検察庁法14条
- 刑訴法192条
- 刑訴法191条1項・2項
- 刑訴法193条1〜4項