訴訟の主体②検察官と司法警察職員
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骨格訴える権限を、誰に、どこまで持たせるか
- 1 最初に動く:第一次的な捜査機関は司法警察職員。検察官の捜査は二次的・補充的。
- 2 警察の中の線:令状の請求(緊急逮捕後の逮捕状を除く)と、逮捕後の釈放・送致は司法警察員だけ。逮捕状の請求は、さらに指定された警部以上に限る。
- 3 検察官の組織:検察庁は裁判所と対になる4段階。検察官は5種類。
- 4 検察官の立場:行政官で、令状を出す「司法官憲」ではない。行政官なのに司法に密着する、という特殊性から、①独任制 ②身分保障 ③検察官同一体 ④法務大臣の個別の指揮は検事総長のみ。
- 5 権限:捜査 → 公訴の提起(独占)→ 公訴の維持 → 裁判の執行。「公益の代表者」から客観義務の議論。
- 6 警察との関係:独立の捜査機関で原則は協力(192条)。捜査は公訴のためにあるので、193条の指示・指揮に従う義務があり、194条の懲戒・罷免の訴追(求め)で担保。
⚠ 警察官である司法警察員のうち、逮捕状を請求できるのは指定された警部以上だけ/「上下関係ではない」は原則の話で、193条4項の従う義務はある/執行指揮は確定した刑だけでなく勾留状などにも及ぶ
最初に動くのは司法警察職員
事件が起きたとき、まず捜査するのは司法警察職員です。検察官も自ら捜査できますが、位置づけは二次的・補充的です。
- 第一次的な捜査機関:犯罪の疑いをかけられ捜査の対象になっている人を被疑者といいます。司法警察職員(捜査をする警察官など)は、犯罪があると思料する(=犯罪があると考える。犯罪の嫌疑がある)とき、犯人と証拠を捜査します(189条2項)。逮捕・捜索・差押え・取調べなど、多くの権限を持ちます。
- 例:空き巣の被害届を受けた警察官が、現場で指紋を採り、近所で聞き込みをする → 司法警察職員としての捜査です。
189条|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:警察官は、それぞれ、他の法律又は国家公安委員会若しくは都道府県公安委員会の定めるところにより、司法警察職員として職務を行う。2項:司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。
- 検察官:どんな犯罪でも自ら捜査できます(191条1項・検察庁法6条1項)。ただし刑事訴訟法上は、警察の捜査を補う立場です(第6節)。
- 補充的=ふつうは、警察が捜査して事件を検察官に送り、検察官は起訴するかを決めるのに足りない点を自ら調べ足します。必要と認めれば、最初から自分で捜査することもできます(191条1項)。
(1) 司法警察活動と行政警察活動
| 司法警察活動 | 行政警察活動 | |
|---|---|---|
| 中身 | 犯罪の捜査(証拠の収集)と被疑者の逮捕 | それ以外(犯罪の予防・鎮圧、交通の取締りなど) |
| 根拠の例 | 刑事訴訟法(189条2項など) | 警察官職務執行法(職務質問など) |
- 分け方:警察の仕事(警察法2条1項)を、活動の中身で分けます。犯罪の前か後かでは分けません。
- 例:交番の警察官が、朝は通学路で交通の取締りをし(行政警察)、昼は空き巣の被害届を受けて指紋を採り、聞き込みをする(司法警察)。人ではなく、活動の中身で決まります。
- 職務質問(警職法2条1項):特定の犯罪に限らず、これから起きそうな犯罪の予防のためにも行えるので、捜査より対象が広く、行政警察活動として区別することができます。既に行われた犯罪について質問することもできますが、それで特定の犯罪の嫌疑が明らかになり、捜査に移ったと認められる段階からは、刑事訴訟法の適用があると考えることができます。
- 刑事訴訟法の場面になると、捜査のルール(逮捕や捜索には原則として裁判官の令状が要る、など)に従って進めることになります。
- 例:「過去の犯罪にかかわる活動は、全部司法警察」は誤り → 少し前に近くで起きたひったくりの犯人と服装が似た人を呼び止めて質問する段階では、警職法2条1項の職務質問=行政警察活動です。質問で嫌疑がはっきりし、捜査に移れば刑事訴訟法の場面になります。
(2) 一般司法警察職員と特別司法警察職員
| 種類 | 誰か | 根拠 |
|---|---|---|
| 一般司法警察職員 | 警察庁・都道府県警察の警察官 | 189条1項 |
| 特別司法警察職員 | 森林・鉄道その他特別の事項を担当する職員(例:海上保安官、労働基準監督官) | 190条が「別に法律で」定めると委ね、各法律が定める |
- なぜ置くのか:その分野で働く人の方が、仕事の中で犯罪に気付く機会が多く、専門知識も捜査に活かせるからです。
- 根拠:190条は、特別司法警察職員を「別に法律で」定めると委ねるだけで、誰が当たるかは決めていません。決めているのは、各分野の法律です。
- 例:労働基準監督官が、残業代の不払いを繰り返す会社を調べ、事件を検察官に送る → 労働基準法102条が「この法律違反の罪について…司法警察官の職務を行う」と定めています。
警察の中の線:司法警察員と司法巡査
警察官のうち、令状の請求(緊急逮捕後の逮捕状を除く)と、逮捕した被疑者の釈放・送致ができるのは司法警察員だけです。逮捕状の請求は、さらに指定を受けた警部以上に絞られます。
- 2つの区別:司法警察職員は、司法警察員と司法巡査に分かれます(39条3項の括弧書き)。司法巡査は、司法警察員を補助して捜査します。
- なぜ分けるのか:令状を裁判官に求めるか、逮捕した人を留置し続けるか、という入口の判断を責任を持つ人に負わせ、現場の勢いだけで進まないようにしています(緊急逮捕は例外。理由は下の緊急逮捕の項目)。
- 表の前提:警察官のうち、巡査部長以上が司法警察員、巡査が司法巡査です(くわしくは下の「誰が司法警察員か」)。
- 表の「検察事務官」:検察官を補佐し、その指揮を受けて捜査もする職員です(第3節)。
| できること | 指定を受けた警部以上の司法警察員 | それ以外の司法警察員(巡査部長・警部補、指定を受けていない警部以上) | 司法巡査 | 検察事務官 |
|---|---|---|---|---|
| 逮捕状の請求(199条2項) | ○ | × | × | × |
| 逮捕状による逮捕(199条1項) | ○ | ○ | ○(直ちに司法警察員へ連れて行く=引致・202条) | ○(直ちに検察官へ引致・202条) |
| 捜索差押許可状などの請求(218条5項) | ○ | ○ | × | ○ |
| 緊急逮捕と、その後の逮捕状の請求(210条1項) | ○ | ○ | ○ | ○ |
| 逮捕後の釈放・送致の判断(203条) | ○ | ○ | ×(司法警察員が判断) | ×(検察官が判断・204条) |
- 検察官は、令状の請求も逮捕も、すべてできます。
- 逮捕状の請求(199条2項):逮捕状を出すのは裁判官で、捜査機関はそれを求める(請求する)側です。請求できるのは検察官と司法警察員で、警察官である司法警察員は、公安委員会が指定する警部以上の者に限られます(括弧書き)。
- 逮捕は人の身体の自由を奪う処分なので、請求する人を絞って慎重さを担保している、と考えられます。
- 例:「巡査部長は司法警察員だから、逮捕状を請求できる」は誤り → 巡査部長は警部より下なので、請求できません。
199条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)2項:裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。次項及び第二百一条の二第一項において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。ただし、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
- 捜索差押許可状などの請求(218条5項):請求できるのは検察官・検察事務官・司法警察員で、階級の限定はありません。
- 例:同じ巡査部長が、被疑者宅の捜索差押許可状を請求する → できます。身柄を取る令状の方が、請求できる人が絞られています。
- 逮捕後の釈放・送致(203条):逮捕した被疑者を釈放するか、事件を検察官に送る(送致)かを判断するのは司法警察員です。司法巡査は、逮捕したら直ちに司法警察員のもとへ連れて行きます(引致・202条)。
- 例:巡査が逮捕状を示して被疑者を逮捕した → 釈放も送致も自分では決めず、司法警察員に引致します。司法警察員が弁解の機会を与え、釈放するか、48時間以内に検察官へ送る手続をとるかを決めます(203条1項)。
- 緊急逮捕(210条1項):急ぐ場合に、先に逮捕して直後に逮捕状を求める仕組みです。主体は「司法警察職員」なので、司法巡査も含みます。
- 199条の請求は「これから逮捕してよいか」の事前の許可を求めるものですが、210条の請求は、もうした逮捕を裁判官に審査してもらうためのものです。210条は請求する人を限っておらず、請求は「直ちに」しなければなりません(逮捕状が出なければ直ちに釈放)。だから、逮捕した巡査自身も請求できます。
- 例:巡査が、数時間前の強盗の犯人と疑う十分な理由のある男を見つけ、逮捕状を求める時間が無いので、理由を告げて逮捕した → 巡査もでき、直後の逮捕状の請求も巡査がしてよい。「警部以上」の限定はかかりません。
- 誰が司法警察員か:刑事訴訟法は直接決めず、公安委員会(警察を管理する委員会)の定めに委ねています(189条1項「定めるところにより」)。
- 警察庁・管区警察局の警察官:国家公安委員会の規則が、巡査部長以上を司法警察員、巡査を司法巡査とします。特に必要があれば、警察庁長官・管区警察局長が巡査を司法警察員に指定できます。
- 都道府県警察の警察官:各都道府県公安委員会の定めによります(ほぼ同じ内容とされます)。
- 警察官の階級(警察法62条):警視総監・警視監・警視長・警視正・警視・警部・警部補・巡査部長・巡査の9つです。
検察庁と検察官の種類
検察庁は裁判所と対になる4段階で置かれ、検察官は検事総長から副検事までの5種類です。
| 検察庁 | 最高検察庁 | 高等検察庁 | 地方検察庁 | 区検察庁 |
|---|---|---|---|---|
| 対応する裁判所 | 最高裁判所 | 高等裁判所 | 地方裁判所・家庭裁判所(2条2項) | 簡易裁判所 |
- なぜ裁判所に合わせるのか(検察庁法2条・5条):検察官の仕事の中心は、裁判所に公訴を提起し、その裁判に立ち会うことです。訴える先に合わせないと、どの検察官がどの裁判所に出るかが決まりません。
- 例:「家庭裁判所に対応するのは区検察庁」は誤り → 地方検察庁が、地方裁判所に加えて家庭裁判所にも対応します(検察庁法2条2項)。
| 職名(検察庁法3条の順) | 何者か | 根拠(検察庁法) |
|---|---|---|
| 検事総長 | 最高検察庁の長。すべての検察庁の職員を指揮監督する | 7条1項 |
| 次長検事 | 最高検察庁で検事総長を補佐し、検事総長に事故があるとき・欠けたときは代わりに職務を行う | 7条2項 |
| 検事長 | 高等検察庁の長 | 8条 |
| 検事 | 一般の検察官。司法修習を終えた人などから任命される | 18条1項 |
| 副検事 | 区検察庁の検察官の職にだけ就く。一定の公務員経験などがある人が、選考を経てなる道もある | 16条2項・18条2項 |
- 紛らわしい名前:次長検事=最高検察庁、検事長=高等検察庁です。検事正は地方検察庁の長で、5種類とは別の職です。一級の検事を充てます(9条1項)。検察官には一級・二級の区別があり、検事総長・次長検事・検事長は一級、検事は一級か二級、副検事は二級です(15条)。
- 例:副検事は区検察庁の職にだけ就くので、副検事のまま検事正になることはありません。副検事を3年以上務めて考試(選考の試験)を経れば、二級の検事になる道があります(18条3項)。
- 検察事務官:検察官を補佐し、その指揮を受けて捜査もする職員です(検察庁法27条3項・刑訴191条2項)。できることは第2節の表のとおりです。
検察官の立場と4つの特徴
検察官は行政官で、令状を出す「司法官憲」ではありません。行政官なのに司法に密着して働く、という特殊性から、次の4つの特徴があります。
- 行政官:憲法33条・35条で令状を発する「権限を有する司法官憲」は裁判官で、検察官は当たりません。検察官は令状を請求する側です。
- 例:検察官がどれほど嫌疑を確信していても、自分で逮捕状を出すことはできません → 裁判官に請求します。
- それでも司法に密着:裁判官・弁護士と並ぶ法曹三者の一角として、司法権の行使に密着して働きます。
| 特徴 | 中身 | 条文 | 理由 |
|---|---|---|---|
| ①独任制 | 1人ひとりの検察官が、自分で国の権限を使う官庁として動く(ふつうの役所では、大臣などの長だけが官庁) | — | 司法権の行使に密着する特殊性 |
| ②身分保障 | 意思に反して、官を失わない・職務を停止されない・俸給を減額されない | 検察庁法25条 | 他からの圧迫を受けずに職務を行うため。裁判官に準じるが、憲法ではなく法律の保障 |
| ③検察官同一体の原則 | 上司の検察官の命に従う。検事総長・検事長・検事正は、部下の事務を自ら取り扱い、別の検察官に移せる(事務引取移転権・12条) | 7〜13条 | 職務は本来行政事務で、統一的な国家意思を反映させる必要がある |
| ④法務大臣の指揮監督 | 一般的な指揮監督はできるが、個々の事件の取調べ・処分は検事総長のみを指揮できる | 14条 | 大臣は国会に責任を負う/司法の公正を保つ |
- 4つの読み方:①独任制・②身分保障は、司法に密着する面に応じた仕組みと読めます。③同一体は、行政官である面(行政事務として統一する)に応じた仕組みです。④法務大臣の指揮監督は両面を持ち、一般的な指揮監督は行政官の面(国会への責任)、個々の事件は検事総長だけという制限は司法に密着する面(司法の公正)に応じます。
- 独任制:ふつうの役所では、職員が準備をしても、処分は大臣など長の権限で行われます。検察官は、1人ひとりが自分の名で処分できます。
- 例:地検の若手検事は、自分自身が官庁として、担当事件の公訴を提起できます。
- 身分保障の例外:65歳での退官(22条)、検察官適格審査会の議決による罷免(23条)、剰員(検察庁の廃止などで検事長・検事・副検事が余ったとき、法務大臣は俸給の半額を払って欠位を待たせることができる・24条)、懲戒処分(25条ただし書)。
- 例:「検察官は、どんな場合も意思に反して官を失わない」は誤り → 65歳で退官し、検察官適格審査会の議決で罷免されることがあり、懲戒処分なら意思に反しても不利益を受けます。
- 同一体の帰結:事務引取移転権を持つのは、検事総長・検事長・検事正です(12条)。
- 例:「次長検事も、部下の事件を引き取れる」は誤り → 12条に次長検事は入っていません。
- 担当が代わっても:検察官が代わっても、公判手続をやり直す必要はありません(やり直しが要るのは裁判官が代わったとき・315条)。事件を組織として引き継いでいるからです。
- 独任制と同一体は矛盾しないか:処分は担当の検察官が自分の名で行い(独任制)、その判断は上司の命と事務引取移転権で組織として統一されます(同一体)。この講座の整理(覚え方)として、独任制は責任(事件を調べた人が自分の名で判断する)を、同一体は平等(担当者で起訴・不起訴がばらつかない)を守る、と言い換えることもできます。
- 例:担当の検事は不起訴が相当と考え、上司の検事正は起訴すべきだと考えた → 担当の検事は上司の命に従う義務を負います。担当者が自分の判断を曲げられないときは、検事正が事件を自分で引き取るか、別の検事に担当させることができます(12条)。こうすれば、起訴すべきだと考える検察官が、自分の名で起訴することになります。
(1) 法務大臣の指揮権:ゼロでもなく、自由でもない
- 中身:法務大臣は、検察官を一般に指揮監督できます。ただし個々の事件の取調べ・処分については、検事総長だけを指揮できます(検察庁法14条)。
- ゼロにしない理由:法務大臣は、検察権の行使について国会に責任を負います。統制がまったく無いと、選挙で選ばれていない組織が訴える権限を独り占めします。
- 自由にさせない理由:司法の公正を保つためです。政治家が現場の検察官を自由に動かせたら、政治家自身が絡む事件の捜査を止めさせることもできてしまいます。ただし書は個別の指揮を禁じるものではなく、相手を検事総長に絞るものです。
- 「検事総長のみ」:大臣が個別の事件に口を出すには、検察のトップである検事総長への指揮という形をとるしかなく、現場の担当検事に直接働きかけることはできません(防波堤)。
- 例:法務大臣が全国の検察官に「交通死亡事故の処理の基準をそろえるように」と一般的に示す → 一般的な指揮監督としてできます。大臣が地検の担当検事に直接「この議員の事件は不起訴にせよ」と伝える → 個々の事件の処分は検事総長しか指揮できないので、許されません。では大臣が検事総長に指揮したら → 14条ただし書の形としてはできます。実際に使われたのが下の造船疑獄の例です。
- 「検事総長のみ」:大臣が個別の事件に口を出すには、検察のトップである検事総長への指揮という形をとるしかなく、現場の担当検事に直接働きかけることはできません(防波堤)。
- 指揮監督できる範囲:14条は、対象を「第四条及び第六条に規定する検察官の事務」と書いています。公訴など4条の職務と、どんな犯罪も捜査できる6条の権限に関する事務です。
14条|検察庁法法務大臣は、第四条及び第六条に規定する検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができる。但し、個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみを指揮することができる。
- 実際の発動:1954年の造船疑獄での1度だけとされます。汚職事件の捜査で、検察が与党の幹事長を逮捕しようとしたのを、大臣が検事総長への指揮で止めさせました(結局、逮捕されませんでした)。大臣は政治責任を感じるとして、その後まもなく辞任しました。
- 個別の指揮は法律上できても、使えば大臣が政治責任を問われる、という例として語られます。
検察官の権限:捜査から執行まで
検察官の権限は、捜査・公訴の提起・公訴の維持・裁判の執行の4段階に及びます。
| 段階 | 検察官がすること | 条文 |
|---|---|---|
| 捜査 | 自ら捜査し、検察事務官を指揮できる。捜査に必要なら管轄区域の外でも職務を行える | 191条・195条 |
| 公訴の提起 | 起訴するかを決める(公訴権の独占)。嫌疑が十分でも、情状により起訴しない起訴猶予もできる。審判の対象(訴因)を起訴状で示す | 247条・248条・256条3項 |
| 公訴の維持 | 法廷で訴える側(原告官)として証拠を出し、法律の適用と刑についての意見を述べる(論告・求刑)。訴因の変更を請求する | 293条1項・312条1項 |
| 裁判の執行 | 執行が必要な裁判を指揮する。刑罰だけでなく、勾引状・勾留状などの強制処分も含む | 472条・70条1項 |
- 公訴権の独占:起訴するかどうかは、原則として検察官だけが決めます(247条)。
- 例:「起訴できるのは、どんな場合も検察官だけ」は誤り → 公務員の職権濫用などを検察官が不起訴にしたとき、告訴・告発をした人の請求で裁判所が審判に付す決定をすると、公訴の提起があったとみなされます(262条・267条)。
- 裁判の執行:裁判は出すだけでは実現しないので、執行を指揮する役が要ります。それが検察官です(472条)。
- 起訴された後の被疑者を被告人と呼びます。勾留状=被告人などの身体を拘束しておくための令状、勾引状=被告人などを裁判所などへ強制的に連れて来るための令状で、どちらも相手の意思に反しても行える強制処分です。
- 例:「検察官が執行を指揮するのは、判決が確定した後の刑だけ」は誤り → 起訴後に裁判所が出した被告人の勾留状も、検察官の指揮で検察事務官や司法警察職員が執行します(70条1項)。
- 4段階すべてに関わる:司法警察職員の仕事の中心は捜査で、事件を審理する裁判所の出番は起訴の後です。4段階すべてに権限を持つのは検察官です。
4条|検察庁法検察官は、刑事について、公訴を行い、裁判所に法の正当な適用を請求し、且つ、裁判の執行を監督し、又、裁判所の権限に属するその他の事項についても職務上必要と認めるときは、裁判所に、通知を求め、又は意見を述べ、又、公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行う。
(1) 公益の代表者と客観義務
- 客観義務:検察官は「公益の代表者」(検察庁法4条)なのだから、有罪の立証だけでなく、被疑者・被告人の利益のためにも動く義務がある、という主張です。
| 客観義務を強調する見解 | 批判 | |
|---|---|---|
| 主張 | 検察官は、被疑者・被告人の利益のためにも動く義務がある | 捜査段階での検察官の権限が大きくなる |
| 狙い・帰結 | ①適正手続の保障を実現する役を担わせる ②警察の捜査を統制する ③検察官の訴追裁量の統制を正当化する | 検察の捜査が、かえって糾問的になる |
- 狙いの中身:
- ①適正手続=刑事手続は正しいやり方で行わなければならない、という考え方です(憲法31条)。検察官をその守り手にします。
- ②検察官を、警察の捜査が被疑者に不当なものになっていないかを見張る役にも就かせます。
- ③検察官は、嫌疑が十分でも起訴しない(起訴猶予・248条)など、起訴するかどうかに広い裁量を持ちます。客観義務があるとすれば、その裁量も被疑者の利益まで考えて公正に使うべきだ、と縛る根拠になります。
- 批判の筋道:客観義務を強調すると、捜査段階での検察官の権限が大きくなり、検察の捜査がかえって糾問的になる、という批判です。
- 糾問的な捜査=捜査機関が、被疑者の取調べを中心に事実を明らかにし、そのために強制処分の権限を使う捜査のあり方です(捜査のあり方をモデルで整理する議論=捜査構造論でいう「糾問的捜査観」に近い意味)。
- 「かえって」の意味:客観義務を強調して検察官に適正手続の守り手の役を担わせると、その結果として、捜査段階での検察官の権限が大きくなる。批判は、その大きくなった権限が、上の意味での糾問的な捜査を強める方向に働く、と見ます。被疑者を守らせるための考え方が逆向きに働く、という逆転を「かえって」と言っています。この批判は一文で紹介されるだけで、どういう経路で糾問的になるかまでは述べられていません。押さえるのは「守り手にする → 権限が大きくなる → 捜査が糾問的になる」という逆転の形です。
- 別の議論として(上の批判の理由として述べられたものではなく、問題にしている対象も客観義務ではありません)、捜査構造論を唱えた論者は、刑事政策的な考慮(情状を見て起訴猶予にするかどうかなど、本人の更生・再犯防止の観点から処分を考えること)まで検察官が全面的に担うことに消極的でした。その背景には、情状事実などの証拠まで集めることで捜査が膨らみ、身体拘束が使われやすくなることへの懸念と、捜査段階で事件の行方が決まってしまうことへの異議があった、と見られています。
- 注意:批判が問題にしているのは、検察の捜査のあり方(捜査が糾問的になること)です。訴える者と裁く者が同じという、裁判の形としての糾問主義とは、見ている場面が違います。
検察官と司法警察職員の関係
両者はそれぞれ独立の捜査機関で、原則は協力関係です。ただし捜査は公訴のためにあるので、検察官は指示・指揮ができ、司法警察職員はそれに従う義務があります。
(1) 原則は協力関係
- 協力(192条):検察官・都道府県公安委員会・司法警察職員の3者が、捜査について互いに協力します。検察官が警察を部下として使う、身分上の上下関係ではありません。
192条|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)検察官と都道府県公安委員会及び司法警察職員とは、捜査に関し、互に協力しなければならない。
- それでも関わる理由:捜査は、起訴・不起訴を適正に決め、公判を進めるためのものです。だから検察官は、公訴の目的に合った捜査になるよう、司法警察職員に関わります。
(2) 3つの指示・指揮(193条)
| 一般的指示(1項) | 一般的指揮(2項) | 具体的指揮(3項) | |
|---|---|---|---|
| 何を示すか | 事件を離れたルール(一般的な準則) | その事件の捜査方針や役割分担を、大まかに | その事件の個別の作業(捜索・差押え、逮捕の実施など)の補助 |
| 例 | 書類の作り方、検察官に送らなくてよい事件の範囲 | 検察官が自ら捜査する事件で、関係する警察署の担当を割り振る | 検察官が自ら捜査する事件で、捜索を警察官に手伝わせる |
- 一般的指示(1項):特定の事件を離れて、捜査の進め方のルールを前もって示します。
- 例:地検の検察官が、管内の警察にあらかじめ「被害額がごく小さく、被害の回復も済んだ一定の事件は、個別に送致しなくてよい」と示しておく → 1項の一般的指示。246条は捜査した事件の送致を原則としつつ、ただし書で「検察官が指定した事件」を外しています。
- 2項と3項の違い:どちらも個別の事件についての指揮です。大まかな方針・分担が一般的指揮、個々の作業の補助が具体的指揮です。3項は条文上「自ら犯罪を捜査する場合」に限られます。2項は条文上は場面を限っていませんが、基本書は、検察官が自ら捜査する事件で警察に協力を求める場面として説明しています。
- 2項の「一般的」は、作業ごとの細かな指揮ではなく、方針・分担を大まかに示す、という意味で使われています。
- 例:検察官が自ら捜査している贈収賄事件で、関係する2つの警察署に「A署は金の流れ、B署は関係者の聴取」と大まかに割り振る → 2項の一般的指揮。
- 例:同じ事件で、特定の警察官を指揮して、明朝の被疑者の事務所の捜索を手伝わせる → 3項の具体的指揮。警察官は従わなければなりません(4項)。
- 従う義務(4項):どの場合も、司法警察職員は従わなければなりません。
- 別の制度:検察官→司法警察職員の「一般的指示」と、法務大臣→検察官の「一般的な指揮監督」(第4節)は、別の制度です。
193条|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:検察官は、その管轄区域により、司法警察職員に対し、その捜査に関し、必要な一般的指示をすることができる。この場合における指示は、捜査を適正にし、その他公訴の遂行を全うするために必要な事項に関する一般的な準則を定めることによつて行うものとする。2項:検察官は、その管轄区域により、司法警察職員に対し、捜査の協力を求めるため必要な一般的指揮をすることができる。3項:検察官は、自ら犯罪を捜査する場合において必要があるときは、司法警察職員を指揮して捜査の補助をさせることができる。4項:前三項の場合において、司法警察職員は、検察官の指示又は指揮に従わなければならない。
(3) 従わないとき(194条)
- 懲戒・罷免の訴追:正当な理由なく従わず、必要と認めるとき、検事総長・検事長・検事正は、懲戒・罷免の権限を持つ者に「懲戒・罷免してください」と求められます。警察官なら、求める先は国家公安委員会・都道府県公安委員会です。
- 求められた側は、理由があると認めれば、懲戒・罷免しなければなりません(2項)。
- 例:県警の警察官が、正当な理由なく具体的指揮に従わない → 地検の検事正は、県の公安委員会に懲戒を求められます。公安委員会は、理由があると認めれば懲戒しなければなりません。
- 注意:ここでの「訴追」は起訴ではありません。検察官が自分で処分できるわけではない、間接的な担保です。
- 協力関係なのに、なぜ従わせられるのか:公訴を維持できる捜査でなければ、事件そのものが無駄になるからです。身分の上下ではなく、公訴という目的から来る従属です。