訴訟の主体②——検察官・被告人・弁護人
訴訟の主体のうち人=検察官・被告人・弁護人を整理する回。検察官の客観義務と一体の原則、訴訟能力と責任能力の区別、被告人国選(憲37条3項)と被疑者国選(37条の2)の違いを押さえる。
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第1章 刑事訴訟法の基礎 ④/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
1. 検察官——当事者なのに「公正」 〔短答・論文共通〕
検察官は公訴権を独占する当事者です。被告人を訴追する一方当事者という点ではイメージ通りですが、もう一つの顔があります。
図:検察官の地位——当事者かつ公益の代表者
条文にある「公益の代表者」という言葉が核心です。検察官はただ勝てばよいのではなく、被告人に有利な証拠であっても隠さず法廷に提出する義務を負います。これを客観義務といいます。この性質から、検察官は裁判官に準ずる「準司法官」とも呼ばれます。
【条文】検察庁法4条(検察官の職務) 検察官は、刑事について、公訴を行い、裁判所に法の正当な適用を請求し、且つ、裁判の執行を監督し、又、裁判所の権限に属する事項について、利害関係人の請求により又は職権で、法律の定めるところにより審判に参与する。その他、公益の代表者として他の法令がその権限に属させた事務を行う。
図:検察庁法4条——公益の代表者
2. 検察官の組織——独任制と一体の原則 〔短答〕
検察官の組織には一見矛盾する2つの性質があります。
図:独任制と一体の原則の関係
- 独任制:検察官は一人一人が自分の名前で国の権限を行使できる「官庁」です。
- 検察官一体の原則:全国のどの検察官も同じ基準で動かなければなりません。A検事は起訴、B検事は不起訴では不公平ですから、上司の命令にも従います。
この矛盾を整理する格言が「ペンは拘束されるが、口は拘束されない」です。起訴状などの書面(ペン)は組織の決裁に従います。しかし法廷での口頭の判断(口)は各自の良心で自由です。
3. 被告人——訴訟能力と責任能力は別物 〔短答〕
訴訟の第二の当事者が被告人です。まず呼び名から確認します。起訴される前は被疑者、起訴された後が被告人です。起訴によって名前が変わり、検察官と対等の当事者になります。
図:被疑者と被告人——起訴で名前が変わる
ここで2つの能力を区別することが重要です。
図:訴訟能力と責任能力の対比
- 責任能力:犯行のとき善悪を判断できたか。刑法上の話で、欠けば無罪になります。
- 訴訟能力:現在、裁判を理解して自分を守れるか。手続上の能力であり、責任能力とは別物です。
訴訟能力を欠いた場合の結論は「無罪」ではありません。
【条文】刑事訴訟法314条1項(公判手続の停止) 被告人が心神喪失の状態に在るときは、検察官及び弁護人の意見を聴き、決定で、その状態の続いている間公判手続を停止しなければならない。(後略)
図:刑事訴訟法314条1項——公判手続の停止
条文どおり、心神喪失の状態にあるときは公判手続を停止して回復を待ちます。責任能力がなければ無罪、訴訟能力がなければ停止——ここは定番のひっかけです。
4. 弁護人——なぜ単なる代理人でなく「保護者」か 〔短答〕
弁護人は民事の弁護士(訴訟代理人)とは異なり、刑事では「保護者」の地位を持ちます。
図:弁護人——単なる代理人を超えた保護者
相手は国家権力です。被疑者・被告人は身柄を拘束され法律の知識もない状態に置かれます。この不利を埋めるために、弁護人は単なる代理人を超えた保護者として機能します。
【条文】憲法34条(弁護人依頼権) 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
図:憲法34条——捕まったその場で弁護人に依頼する権利
捕まったその場で弁護人に依頼する権利は、憲法34条が保障します。
【条文】憲法37条3項(弁護人依頼権・国選) 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
図:憲法37条3項——被告人の国選弁護権
起訴された被告人はいかなる場合にも弁護人を依頼でき、依頼できなければ国が付けます。判例も「実質的・有効な援助を受ける権利」と理解しています。
5. 国選弁護——被告人と被疑者で根拠が違う 〔短答〕
国選弁護は「いつ付くか」で2種類に分かれ、その根拠条文が異なることが最重要のひっかけです。
図:被告人国選と被疑者国選の比較
図:被告人国選・被疑者国選の整理表
被告人国選(起訴後)は憲法37条3項が直接の根拠です。
被疑者国選(起訴前)は憲法ではなく、法律である刑事訴訟法37条の2が定めた制度です。憲法37条は「被告人」のことしか書いていないからです。
【条文】刑事訴訟法37条の2第1項(被疑者の国選弁護人) 被疑者に対して勾留状が発せられている場合において、被疑者が貧困その他の事由により弁護人を選任することができないときは、裁判官は、その請求により、被疑者のため弁護人を付しなければならない。ただし、被疑者以外の者が選任した弁護人がある場合は、この限りでない。
図:刑訴37条の2——被疑者国選は法律の根拠
勾留状が出ている被疑者が、貧困などで弁護人を雇えないとき、裁判官が付けます。
必要的弁護についても確認します。弁護人なしでは裁判が始められない事件があります。
【条文】刑事訴訟法289条1項(必要的弁護事件) 死刑又は無期若しくは長期三年を超える拘禁刑に当たる事件を審理する場合には、弁護人がなければ開廷することができない。
図:刑訴289条——必要的弁護事件
死刑・無期、または長期三年を超える拘禁刑にあたる事件が対象です(2025年改正で懲役と禁錮が拘禁刑に一本化)。窃盗は上限十年の拘禁刑なので必要的弁護の対象に入ります。
短答ひっかけ
- 被疑者国選の根拠は憲法ではなく法律(刑訴37条の2)。憲法37条3項は「被告人」のみ。
- 訴訟能力を欠く→無罪ではなく公判手続の停止(刑訴314条1項)。無罪になるのは責任能力(刑法上)を欠く場合。
- 検察官の一体の原則≠服従のみ——ペンは拘束・口は自由。法廷での口頭発言は各自の良心による。
- 必要的弁護の対象は「長期三年を超える拘禁刑」。窃盗(上限十年)はここに入る。
- 弁護人は代理人でなく保護者。刑事と民事で地位が異なる点を混同しない。
📝 論文の型
- 該当なし(本回は訴訟主体の基礎整理回)
今日の地図(保存版)
図:まとめ地図——訴訟の主体②
- 検察官は当事者でありつつ公益の代表者=客観義務を負う(検察庁法4条)。
- 組織は独任制(一人一官庁)と一体の原則(全国統一基準)の調整=「ペンは拘束、口は自由」。
- 被告人:起訴前は被疑者・起訴後が被告人。責任能力(犯行時の善悪判断・刑法)と訴訟能力(現在の手続理解・刑訴)は別物。訴訟能力欠如→停止(刑訴314条1項)。
- 弁護人は保護者の地位。依頼権は憲法34条(逮捕時)・憲法37条3項(起訴後の被告人)が保障。
- 国選弁護の根拠:被告人国選=憲法37条3項、被疑者国選=刑訴37条の2(法律レベル)。
- 必要的弁護:長期三年超の拘禁刑にあたる事件は弁護人なしに開廷不可(刑訴289条1項)。
次回は #5「裁判所の種類と管轄」。事物管轄・審級管轄・土地管轄の三つを整理します。
参照条文
- 検察庁法4条(検察官の職務)
- 刑事訴訟法314条1項(公判手続の停止)
- 憲法34条(弁護人依頼権)
- 憲法37条3項(弁護人依頼権・国選)
- 刑事訴訟法37条の2第1項(被疑者の国選弁護人)
- 刑事訴訟法289条1項(必要的弁護事件)