刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#4

訴訟の主体①裁判所

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骨格その事件を、何人で・誰が・どこで裁くのか

  • 1 登場人物:訴訟の主体=裁判所・検察官・被告人。「裁判所」は組織(官署)か、事件を担当する裁判機関か。条文の主語(裁判所・裁判長・裁判官)で権限の持ち主が分かる。
  • 2 何人で:地裁は原則1人。3人の合議体になるのは、法律が決める法定合議と、合議体が決定する裁定合議。判事補は原則1人で裁けない。
  • 3 誰なら裁いてはいけないか:公平な裁判所=偏りのおそれのない組織・構成(判例)。
    • 除斥=法律上当然に外れる/忌避=検察官・被告人・弁護人の申立て→決定/回避=裁判官の申立て→決定。
    • 忌避は手続の外の要因を扱う制度(判例)。訴訟指揮への不満は、それだけでは理由にならず、異議・上訴で争う。
  • 4 どこで:法律が事件の重さ(事物管轄)と場所(土地管轄)で候補を決める。候補が複数あれば検察官が選ぶ。関連事件はまとめられる。
  • 5 管轄を外れたら:原則として移送せず管轄違いの判決(329条)。土地管轄だけは被告人の申立てが要り、証拠調べの開始まで(331条)。

⚠ 「事件が起きた時点で全部決まっていて、誰も動かせない」ではない(法律が枠と手続を決め、その中で検察官が選び、被告人が争い、裁判所が移す)/忌避は弁護人も申し立てられる/刑事にも、管轄のある裁判所どうしの移送はある

登場人物と「裁判所」の意味

手続の主体は裁判所・検察官・被告人の3者です。「裁判所」は、組織の意味と、事件を担当する裁判機関の意味を区別します。

言葉誰を指すか
訴訟の主体裁判所・検察官・被告人の3者。厳密な数え方では、弁護人は被告人の補佐役として3者に含めません(防御に関与しないという意味ではない)
当事者厳密には検察官・被告人の2者。判断する裁判所は入りません。弁護人を含めて使うことも多い言葉です
訴訟関係人条文が実際に使う言葉(46条など)。被告人・検察官・弁護人など。裁判所・裁判官は含みません
  • 「当事者」は条文の言葉ではない:刑訴法に、検察官と被告人を「当事者」と呼ぶ規定はありません(「合意の当事者」など別の意味で出てくるだけ)。条文によく出るのは「訴訟関係人」です。
    • 例:「刑訴法は検察官と被告人を『当事者』と定めている」は誤りです。
「裁判所」の意味中身
国法上①官署東京地方裁判所のような役所としての裁判所。訴訟上の特別な権限は持ちません
国法上②裁判官の集合体裁判官会議のように、司法行政を担う集まり
訴訟法上:裁判機関その事件を担当する裁判官の集まり=受訴裁判所。刑訴法の「裁判所」の多くはこの意味です
  • 区別が効く場面:297条の「裁判所」が証拠調べの順序を決めるのは、その事件を担当する裁判官(受訴裁判所)という意味です。東京地方裁判所という役所が決めるのではありません。

  • 条文の主語の書き分け:主語を見れば、権限を持つのが誰かが分かります。

主語権限を持つ範囲例
裁判所裁判機関全体(合議体なら3人で評議して決める)証拠調べの範囲・順序・方法を定める(297条)
裁判長合議体の中の1人公判期日の指定(273条)、訴訟指揮(294条)=公判期日で審理の進め方を決める
裁判官個々の裁判官請求を受けて逮捕状を出す(199条2項)
  • 令状は「裁判官」が出す:令状は、捜査機関の請求を受けて、受訴裁判所(事件を担当する裁判所)とは別に、個々の裁判官が出します(第2節(3)の受任裁判官)。起訴の前は、そもそも受訴裁判所がありません。
    • 例:捜索差押えの条文(218条)の主語は、捜索する検察官などの捜査機関です。裁判官は「裁判官の発する令状により」と、令状を出す側として出てきます。捜査のための令状を出すのは裁判官で、裁判所ではありません。

何人で裁くか:単独体と合議体

地方裁判所は原則1人で裁きます。3人の合議体になるのは、法律が決める法定合議と、合議体が決定する裁定合議です。

  • 単独体=1人の裁判官で構成する裁判体/合議体=複数(原則3人)で構成する裁判体。
裁判所構成
地方裁判所原則は単独体(裁判所法26条1項)。26条2項の事件は3人の合議体
簡易裁判所常に単独体
高等裁判所常に合議体。原則3人、内乱の第1審は5人(裁判所法18条2項)
最高裁判所常に合議体(大法廷は全員、小法廷は3人以上)

(1) 法定合議と裁定合議(裁判所法26条2項)

  • 原則:地方裁判所は1人の裁判官で事件を扱います(26条1項)。3人の合議体になるのは、26条2項の号に当たる事件だけです。
号種類中身
2号法定合議死刑・無期・短期1年以上の拘禁刑(令和の改正で懲役・禁錮を一本化)に当たる罪。ただし強盗など括弧書きで除かれた罪がある
4号法定合議他の法律が合議体と定めた事件(刑訴法では、忌避の申立ての決定(23条)など)
1号裁定合議「合議体で審理・裁判する」と合議体で決定した事件。法律は決定の要件を定めていません
  • 裁定合議の決め方:1人で扱うはずの事件でも、その地裁の合議体(3人)が「この事件は3人で扱う」と決定すれば、合議体で扱います。どんな事件をそうするかは法律に要件が無く、裁判所の判断に任されています。

  • 2号の線引き:法定刑の下限(短期)が1年以上かどうかで決まります。上限が有期の拘禁刑なら、どれだけ重くても、下限が1年未満なら2号に当たりません(死刑・無期がある罪は、それだけで2号)。

    • 例:他人の空き倉庫に放火した(非現住建造物等放火=2年以上の拘禁刑)→ 短期1年以上なので法定合議=3人。自分の倉庫なら(6月以上7年以下)原則どおり1人。
    • 例:詐欺(10年以下の拘禁刑)→ 上限が重くても、短期1年以上ではないので1人。
  • 2号の括弧書き:強盗などは、短期1年以上でも2号から除かれ、原則どおり1人です。ただし1号の裁定合議はできます。

    • 例:強盗(5年以上)→ 重いが括弧書きで除外=原則1人。ただし1号の裁定合議で3人にできます。「2号に無い=必ず1人」ではありません。
  • 裁判員裁判:死刑・無期拘禁刑に当たる罪などの事件は、26条とは別に、原則として裁判官3人と裁判員6人の合議体で扱います(裁判員法2条)。裁判員=事件ごとに国民の中から選ばれ、裁判官と一緒に事実の認定・法令の適用・刑の重さを判断する人です。

    • 例:殺人(死刑・無期を含む)→ 2号の事件ですが、裁判員裁判の対象なので、原則として裁判官3人+裁判員6人で裁きます。

26条(一人制・合議制)(抜粋)|裁判所法 第三編 下級裁判所 第二章 地方裁判所(23〜31条)1項:地方裁判所は、第二項に規定する場合を除いて、一人の裁判官でその事件を取り扱う。2項:次に掲げる事件は、裁判官の合議体でこれを取り扱う。ただし、法廷ですべき審理及び裁判を除いて、その他の事項につき他の法律に特別の定めがあるときは、その定めに従う。一 合議体で審理及び裁判をする旨の決定を合議体でした事件二 死刑又は無期若しくは短期一年以上の拘禁刑に当たる罪(刑法第二百三十六条、第二百三十八条又は第二百三十九条の罪及びその未遂罪、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)第一条ノ二第一項若しくは第二項又は第一条ノ三第一項の罪並びに盗犯等の防止及び処分に関する法律(昭和五年法律第九号)第二条又は第三条の罪を除く。)に係る事件四 その他他の法律において合議体で審理及び裁判をすべきものと定められた事件3項:前項の合議体の裁判官の員数は、三人とし、そのうち一人を裁判長とする。

(2) なぜ重い事件は3人で裁くのか

  • 1人の判断:その人の見立ての癖が、そのまま結論に出ます。
    • 例:同じ証言を「落ち着いているから信用できる」と受け取る人も、「まとまりすぎて不自然だ」と受け取る人もいます。
  • 合議:評議(3人で意見を出し合い結論を決める場)で、受け取り方の違いが突き合わされます。
    • 原則:結論は過半数で決めます(裁判所法77条1項)。
    • 3つ以上に割れたとき(刑事・77条2項2号):被告人に最も不利な意見の数を、次に不利な意見の数に順に加えていき、過半数になったところで、その中で最も有利な意見によります。
      • 例:刑の重さが「拘禁刑5年・4年・3年」と1票ずつに割れた → どれも過半数になりません。最も不利な5年の1票を次に不利な4年に加えると2票で過半数 → その中で最も有利な「4年」になります。

(3) 合議体の中の役割と、裁判官の種類

呼び方中身
裁判長合議体の1人(裁判所法26条3項)。訴訟指揮権や法廷の秩序を守る権限を持つ
陪席裁判官残りの2人。裁判長と一緒に審理し、評議で意見を述べる対等な一員
受命裁判官合議体が、構成員の1人に検証など特定の行為をさせるときの、その裁判官
受託裁判官受訴裁判所から証人尋問などを頼まれた、別の裁判所の裁判官
受任裁判官令状を出すときのように、受訴裁判所とは独立して権限を行使する裁判官
  • 判事:判事補・検察官・弁護士などの職に通算10年以上あった人から任命される裁判官です(裁判所法42条)。1人で裁判できます。
  • 判事補:司法修習を終えた人から任命される若手の裁判官です(裁判所法43条)。
    • 原則として1人で裁判できません(裁判所法27条1項)。
    • 合議体に2人以上同時に入ることも、裁判長になることもできません(同条2項)。
      • 例:判事1人と判事補2人の合議体 → 組めません。
    • ただし、判決以外の裁判は1人でできます(刑訴法45条)。裁判=裁判所・裁判官の判断で、判決のほかに決定・命令があります。判決は有罪・無罪や管轄違いのように事件を締めくくる裁判で、原則として法廷での口頭弁論に基づいてします。決定・命令は手続の途中の判断が中心で、口頭弁論を要しません(刑訴法43条)。45条が、27条1項の言う「他の法律に特別の定」に当たります。
      • 例:当番の判事補が1人で逮捕状を出す → できます(逮捕状を出すのは判決ではない)。
    • 一定の経験を積み、最高裁の指名を受けた特例判事補は、この制限を受けません。

(4) 裁判官を支える人たち

  • 裁判所書記官:記録の作成・保管を担います(裁判所法60条)。法令・判例の調査も補助します。

    • 公判調書=公判で行われた手続を書記官が記録した書面です。公判期日の訴訟手続(どんな手続がどう行われたか)で公判調書に書かれたものは、公判調書によってだけ証明できます(ほかの証拠では証明できない・刑訴法52条)。手続があったかどうかの争いを、記録で決めるためです。
      • 例:控訴審で「第1審で被告人に最終陳述の機会が与えられなかった」と主張しても、公判調書に機会を与えた記載があれば、傍聴人の証言などでそれを覆すことはできません。
    • 書記官の列席は、公判廷が成り立つための要件です(282条2項)。いなければ開廷できません。公判で何が行われたかを公的に残せないと、あとから手続が正しかったかを確かめられないからです。
    • 裁判官の命令に従いますが、記録の作成・変更を正当でないと考えたときは、自分の意見を書き添えられます(裁判所法60条5項)。
    • 除斥・忌避の規定は、前審関与(20条7号)を除いて書記にも準用されます(刑訴法26条1項)。
  • 裁判所事務官:裁判所の事務を担います(裁判所法58条)。

  • 裁判所調査官:裁判官の命令を受けて、事件の審理・裁判に必要な調査をします(裁判所法57条)。地方裁判所では知的財産・租税の事件に限られます。

誰なら裁いてはいけないか:公平な裁判所

「公平な裁判所」は、偏りのおそれのない組織・構成の裁判所のことです。おそれのある裁判官を、判決の前に、除斥・忌避・回避で外します。

  • 根拠:憲法37条1項が、被告人に「公平な裁判所」の裁判を受ける権利を保障しています。裁判官の独立(憲法76条3項)とともに、裁判所への信頼の土台です。
  • 判例(最大判昭23・5・26):「公平な裁判所の裁判」とは、偏りや不公平のおそれのない組織と構成を持つ裁判所による裁判のこと。個々の事件の中身が具体的に公正妥当な裁判、という意味ではありません。
    • 例:被害者本人が裁判官としてその事件を裁けば、判決の中身が偏っていたかに関わらず、組織として信用できません。
    • 例:「刑が重すぎる判決は、公平な裁判所の裁判ではないので憲法37条1項違反」は誤り → 判例は、刑が苛酷だという主張を、37条1項違反にはならないとして退けました。

37条(抜粋)|日本国憲法 第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。

(1) 除斥・忌避・回避

除斥(20条)忌避(21〜25条)回避(刑訴規則13条)
どんなとき20条の7つの類型に当たる除斥事由があるとき/不公平な裁判をするおそれがあるとき裁判官が、自分に忌避されるべき原因があると思うとき(回避しなければならない)
誰が動かすか申立て不要。法律上当然に外れる検察官・被告人。弁護人も被告人のために申し立てられる(被告人の明示の意思には反せない)裁判官自身が所属裁判所に申し立てる
誰が決めるか―所属裁判所の合議体など(簡裁の裁判官なら管轄地裁)。忌避された裁判官は加われない(23条)忌避と同じ裁判所(23条)の決定で外れる
  • 除斥と忌避の関係:除斥は申立てなしに当然に外れる建前ですが、除斥事由が見過ごされて裁判官が担当し続けることもあります。そのとき当事者は、除斥事由を理由に忌避を申し立て、外すよう求められます(21条1項前段)。見過ごされたまま判決に関与すれば、控訴の理由になります(377条2号)。
  • 除斥の7類型:①裁判官が被害者 ②被告人・被害者の親族(過去の親族も) ③被告人・被害者の法定代理人・後見監督人・保佐人など ④事件の証人・鑑定人になった ⑤被告人の代理人・弁護人・補佐人になった ⑥事件で検察官・司法警察員の職務をした ⑦前審の裁判など、その事件の前の裁判に関与した。
    • 前審=上訴された事件について、下の審級(第1審→控訴審→上告審)でされた裁判です。控訴審から見た第1審判決がその典型です。
    • 理由:これらの関係があれば、偏りのおそれが類型的に明らかだからです。
    • ⑦「前審」の例:第1審で判決をした裁判官が、異動先の高裁で同じ事件の控訴審を担当する → 前審の裁判に関与したので除斥です。
    • ⑦に当たらない例:起訴前の強制処分に関与し、起訴後・第1回公判前に保釈(保証金を納めさせて、勾留されている被告人の身柄の拘束を解くこと)の請求を却下した裁判官が、その事件の第1審を担当する → 判例は、理由を述べずに、除斥されないのは「勿論」で、忌避の理由も無いとしました(最大判昭25・4・12)。条文の「前審」は下の審級の裁判を指すので、起訴前の強制処分や第1回公判前の保釈の判断はこれに当たらない、と説明できます。
  • 忌避を申し立てられる人(21条):検察官と被告人です。弁護人も、被告人の明示の意思に反しない限り、被告人のために申し立てられます。
    • 例:「忌避を申し立てられるのは検察官と被告人だけ」は誤り → 弁護人も申し立てられます(21条2項)。第3節(2)の昭和48年の判例も、弁護人らの申立てでした。

21条|刑事訴訟法 第一編 総則 第二章 裁判所職員の除斥及び忌避(20〜26条)1項:裁判官が職務の執行から除斥されるべきとき、又は不公平な裁判をする虞があるときは、検察官又は被告人は、これを忌避することができる。2項:弁護人は、被告人のため忌避の申立をすることができる。但し、被告人の明示した意思に反することはできない。

  • 忌避の手続:申立てには原因を示します(刑訴規則9条)。申立てがあると、訴訟手続を止めます。ただし、簡易却下する場合と、急速を要する場合は止めません(同11条)。

  • 時期の制限(22条):事件について請求・陳述(法廷で証拠調べを求める・意見を述べるなど)をした後は、「不公平な裁判をするおそれ」を理由に忌避できません。原因を知らなかったとき、原因が後から生じたときは別です。

    • 制限されるのは「不公平のおそれ」を理由にする忌避だけです。条文の文言上、除斥事由を理由にする忌避は、この時期の制限を受けません。
    • 例:裁判長が被害者の勤める会社の元顧問だと初めから知っていたのに、罪状認否(起訴状が読み上げられた後、被告人・弁護人が起訴された事実を認めるか争うかを述べる場面)で陳述した後に「不公平のおそれ」を理由に忌避した → できません。陳述の後に初めて知ったのなら、できます。
  • 簡易却下(24条):忌避の申立ては、原則として忌避された裁判官が加わらない裁判所が決めます(23条3項)。ただし次の申立ては、決定で却下しなければならず、このときは忌避された裁判官本人も加わって却下できます(1人の裁判官なら、自分で却下の裁判ができる)。

    • ①訴訟を遅らせる目的だけでされたことが明らかな申立て ②22条に反する申立て ③規則の定める手続に反する申立て(原因を示さないなど)
    • 例:理由を示さずに忌避を申し立てた → 規則の手続に反する申立てとして、簡易却下の対象です。

(2) どこまでが「おそれ」か(判例)

事実昭和48年の事件

  • 傷害事件(弁護人がいないと開廷できない必要的弁護事件)の第1回公判で、被告人と弁護人が裁判長の在廷命令を無視して退廷しました。裁判長は再入廷を許さず、弁護人がいないまま審理を進めました。
  • 第2回公判で、弁護人らがこれらを理由に裁判長を忌避しました。地裁は24条で簡易却下、高裁はこれを取り消しましたが、最高裁は高裁の決定を取り消し、忌避の申立てを却下しました。
  • 忌避の目的(最決昭48・10・8):裁判官が当事者と特別な関係にある、手続の外ですでに事件について一定の判断を形成している、といった手続外の要因で公平な審判を期待できない場合に、その裁判官を外す制度です。
    • 例:裁判官が、被告人の経営する会社と私的な取引で争っている → 当事者との特別な関係=手続外の要因で、忌避の理由になりうる型です。
    • だから、手続の中での審理の方法・態度は、それだけでは直ちに忌避の理由になりません。不満は異議・上訴で争います。
      • 異議=証拠調べや裁判長の処分に不服な当事者が、その場で裁判所に申し立てる不服で、裁判所が決定で答えます(309条)。上訴=判決などに不服な当事者が、上級の裁判所に判断のし直しを求めることです(控訴・上告など)。
      • 例:証人尋問を裁判長に途中で打ち切られた → 手続の中の審理のやり方への不満です。忌避ではなく、異議(309条)などで争います。
忌避の理由判例判断
裁判長の訴訟指揮・法廷警察権の行使が不当最決昭48・10・8手続内の審理の方法・態度への不服は、それだけでは直ちに忌避の理由にならない。こうした申立ては受け容れられる可能性が全く無く、遅延と裁判の権威の失墜しかもたらさない、という一般論を本件に当てはめ、遅延目的のみの申立てとして24条で却下すべきとした
共犯者の事件(弁論の分離=共犯者を別々の手続で審理すること)を担当し、事件の内容を知っている最決昭60・12・20不公平な裁判をするおそれがあるとはいえない。理由は、当裁判所の判例(第3節(1)の昭和25年判決など)の趣旨に照らし明らか、とだけ述べた。説明としては、内容を知った(「知識を得ている」)だけでは、昭和48年決定の例にある「一定の判断を形成している」とまではいえない、と考えられる

訴訟指揮・法廷警察権の当否と忌避最高裁判所決定忌避の目的元来、裁判官の忌避の制度は、……当該事件の手続外の要因により、当該裁判官によつては、その事件について公平で客観性のある審判を期待することができない場合に、当該裁判官をその事件の審判から排除し、裁判の公正および信頼を確保することを目的とするものであつて、その手続内における審理の方法、態度などは、それだけでは直ちに忌避の理由となしえないものであり、これらに対しては異議、上訴などの不服申立方法によつて救済を求めるべきであるといわなければならない。本件の当てはめ……それによつてもたらされるものが訴訟の遅延と裁判の権威の失墜以外にはない本件においては、右のごとき忌避申立は、訴訟遅延のみを目的とするものとして、同法二四条により却下すべきものである。

共犯者の事件を担当した裁判官の忌避最高裁判所決定共犯者の事件審理により被告人に対する事件の内容につき知識を得ているからといって、不公平な裁判をするおそれがあるものとはいえない。

  • 注意:実務で「不公平な裁判をするおそれ」が認定される可能性は極めて低い、とする解説書もあります。

どこで裁くか:管轄

管轄は、法律が事件の重さと場所で担当の候補を決めたものです。候補が複数あれば検察官が選びますが、選べるのは法律が認めた候補の中だけです。

  • 管轄:刑事裁判権を、法律の基準で各裁判所に分けたものです。管轄があることは訴訟条件の1つです。
    • 訴訟条件=裁判所が有罪・無罪の中身の判断に入るための条件です。欠けていれば中身を判断せずに手続を打ち切ります(管轄なら原則として管轄違いの判決=第5節)。
管轄何で決まるか
事物管轄事件の重さ・性質
土地管轄事件の場所
審級管轄審級ごとの流れ(控訴・上告)
関連事件の管轄関連する事件をまとめる特則(3条・6条)

(1) 事物管轄:重さで決まる

第一審の裁判所担当する罪条文(裁判所法)
地方裁判所原則:罰金以下の刑に当たる罪と、内乱に関する罪(刑法77〜79条)以外のすべての罪(選択刑の罪も含む)24条2号
簡易裁判所のみ罰金以下の刑に当たる罪(失火、過失傷害、過失致死、単純賭博など)33条1項2号
地裁・簡裁のどちらも選択刑として罰金がある罪など → どちらに起訴するかは検察官が決める33条1項2号
高等裁判所のみ内乱に関する罪(刑法77〜79条)16条4号
  • 罰金以下の刑に当たる罪:法定刑に拘禁刑が無く、罰金・拘留・科料だけの罪です。簡裁だけが扱います。
    • 例:失火(50万円以下の罰金のみ)→ 簡裁だけです。
  • 選択刑:1つの罪に拘禁刑と罰金の両方が定められ、どちらかを選ぶ形です。地裁にも簡裁にも起訴できます。
    • 例:万引き(窃盗=10年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)→ 選択刑に罰金があるので、簡裁にも地裁にも起訴できます。
    • 例:詐欺(拘禁刑のみ)→ 選択刑の罰金が無いので、簡裁には管轄が無く、地裁だけです。
  • 簡易裁判所の科刑制限:簡裁は原則として拘禁刑以上を科せません。窃盗など一部の罪だけ、3年以下の拘禁刑まで科せます(裁判所法33条2項)。
    • それを超える刑が相当なら、決定で地裁に移送します(同条3項・刑訴法332条)。「簡裁を選べば軽く済む」とは限りません。

33条(裁判権)(抜粋)|裁判所法 第三編 下級裁判所 第四章 簡易裁判所(32〜38条)1項:簡易裁判所は、次の事項について第一審の裁判権を有する。二 罰金以下の刑に当たる罪、選択刑として罰金が定められている罪又は刑法第百八十六条、第二百五十二条若しくは第二百五十六条の罪に係る訴訟

(2) 土地管轄:場所で決まる

基準(2条1項)意味
犯罪地犯罪事実が発生した土地。行為地と結果地が違えば両方
住所・居所民法どおりの意味。住所=生活の本拠(民法22条)。居所=生活の本拠とまではいえないが、ある程度続けて住んでいる場所
現在地公訴提起の時に、被告人が任意に、又は適法な強制によって現にいる場所(最判昭33・5・24)
  • どれか1つでも当てはまる地の裁判所に起訴できます。被告人が特定の裁判所を希望しても、それだけでは候補になりません。
  • 犯罪地:行為をした地と結果が出た地が違えば、どちらも犯罪地です。
    • 例:甲県から毒入りの菓子を郵送し、乙県で受け取った人が食べて死亡した → 甲県(行為地)も乙県(結果地)も犯罪地です。
  • 現在地:そこにいる理由は問いません。ただし、違法な強制でいさせられている場所は現在地になりません。
    • 例:検察官の呼出しに応じて東京に出頭し、そのまま東京で取調べを受けて起訴された → 東京が現在地になり、東京地裁に土地管轄があります(上の判例の事案)。
    • 例:違法な身柄拘束で連れてこられた土地 → 現在地にはなりません。

2条(抜粋)|刑事訴訟法 第一編 総則 第一章 裁判所の管轄(2〜19条)1項:裁判所の土地管轄は、犯罪地又は被告人の住所、居所若しくは現在地による。

(3) 関連事件:まとめて管轄できる

  • 関連事件(9条):①1人が数罪を犯したとき ②数人が共に同一又は別個の罪を犯したとき ③数人が通謀して各別に罪を犯したとき。犯人蔵匿・証拠隠滅・偽証・虚偽の鑑定通訳・盗品等に関する罪と、その本犯の罪も、共に犯したものとみなします(9条2項)。まとめられるのは、この関連がある場合だけです。
  • なぜまとめるのか:証拠が共通する事件を別々の裁判所で審理すると、同じ証人を二度調べ、事実の認定も食い違いかねないからです。
事物管轄が違う関連事件土地管轄が違う関連事件
まとめる上級の裁判所が併せて管轄できる(3条1項)1つに管轄がある裁判所が併せて管轄できる(6条)
分ける併せて審判する必要が無ければ、下級の管轄裁判所に移送できる(4条)―
  • 事物管轄が違うとき(3条1項・4条):上級の裁判所が両方を管轄でき、一緒に審理する必要が無ければ下級へ移送できます。
    • 例:1人が失火(簡裁のみ)と強盗(地裁のみ)を犯した → 上級の地裁が両方を管轄できます(3条1項)。一緒に審理する必要が無ければ、失火だけを簡裁に移送できます(4条)。
  • 土地管轄が違うとき(6条):1つの事件に土地管轄がある裁判所が、ほかの関連事件も併せて管轄できます。
    • 例:Aが盗んだ時計を、Bが盗品と知って買い取った → 盗品等に関する罪と本犯の罪は共に犯したものとみなされ、関連事件です。Aの事件に土地管轄がある裁判所は、Bの事件も併せて管轄できます。

管轄を外れたとき

管轄の無い裁判所に起訴すると、原則として移送はせず、管轄違いの判決で手続を打ち切ります。土地管轄だけは、被告人が申し立てたときに限ります。

  • 原則:管轄の無い裁判所に起訴されたら、判決で管轄違いを言い渡し、有罪・無罪を判断せずに手続を打ち切ります(329条)。民事のように管轄のある裁判所へ移送はしません。管轄という訴訟条件が欠けているからです(第4節)。
    • 中身の判断をしていないので、検察官は、管轄のある裁判所に起訴し直せます。民事のように裁判所が事件を送るのではなく、起訴をやり直す形になります。
  • 付審判:公務員の職権濫用などの罪で検察官が起訴しないとき、告訴・告発した人の請求を受けた裁判所が、決定で事件を地裁の審判に付す制度です(262条・266条2号)。
  • 管轄違いの例外:付審判の決定で地裁の審判に付された事件(329条ただし書。管轄違いにすると、付審判の手続をやり直すことになり煩雑だからだと説明されます)/高裁に特別権限の事件として起訴されたが、下級の裁判所の管轄と認めるとき → 決定で移送(330条)/土地管轄(331条・第5節(1))。
    • 例:高裁に内乱罪として起訴したが、地裁の管轄に属する事件だと認めた → 管轄違いの判決ではなく、決定で管轄裁判所に移送します(330条)。

329条|刑事訴訟法 第二編 第一審 第三章 公判 第五節 公判の裁判(329〜350条)被告事件が裁判所の管轄に属しないときは、判決で管轄違の言渡をしなければならない。但し、第二百六十六条第二号の規定により地方裁判所の審判に付された事件については、管轄違の言渡をすることはできない。

  • 管轄のある裁判所からの移送や、管轄の移転は、刑事にもあります(下の表)。
    • 例:「刑事では移送は一切ない」は誤り → 無いのは、原則として、管轄の無い裁判所から有る裁判所への移送です(例外が上の330条)。管轄のある裁判所どうしなら、19条・332条・4条の移送があります。
    • 例:事件への激しい抗議運動が続き、地元の裁判所では公平な審理が難しい → 管轄の移転を請求します(17条)。公平のために、管轄のほうを動かす制度です。
制度中身
移送(19条)もともと管轄を持っている裁判所どうしで事件を送る。適当と認めるとき、事物管轄を同じくする他の管轄裁判所へ。検察官・被告人の請求か職権で。証拠調べの開始後はできない
簡裁から地裁へ(332条)簡裁が、地裁で審判するのを相当と認めるとき(科刑制限を超える場合など)
関連事件の移送(4条)第4節(3)の表
管轄移転(17条)直近上級の裁判所(すぐ上の審級の裁判所)が決定で、管轄を別の裁判所に移す。管轄裁判所が裁判権を行えないとき、又はその地の民心などで裁判の公平を保てないおそれがあるとき。検察官は直近上級の裁判所に請求しなければならず、被告人も請求できる

(1) 土地管轄だけは被告人の申立てが要る

  • 前提:事物管轄・審級管轄は、裁判所が自分で調べ、無ければ管轄違いを言い渡します。
  • 土地管轄:被告人の申立てがなければ、管轄違いを言い渡せません(331条1項)。申立ては証拠調べの開始までです(同条2項)。
  • 理由:土地管轄は被告人の利益のための制度だからです。どの土地の裁判所に出向くかの負担を受けるのは被告人なので、被告人が「このままで構わない」なら、裁判所の側から打ち切る必要はありません。
    • 例:住所・犯罪地・現在地のどれとも関係のない地裁に起訴されたが、被告人は何も言わないまま証拠調べが始まった → もう管轄違いの申立てはできず、その地裁で判決まで進みます。

331条|刑事訴訟法 第二編 第一審 第三章 公判 第五節 公判の裁判(329〜350条)1項:裁判所は、被告人の申立がなければ、土地管轄について、管轄違の言渡をすることができない。2項:管轄違の申立は、被告事件につき証拠調を開始した後は、これをすることができない。

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