刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#20

捜査の端緒②所持品検査——どこまで触れて、どこから捜索か

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第2章 捜査 ⑩/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

2条1項に、「所持品」は無い

職務質問の枠組みを見た回で確認した警職法2条1項が「停止させて質問する」までしか書いていないことをハイライトする板

職務質問の枠組みを見た回で、警職法2条1項が警察官に与えていた権限は、質問することの他に何だったか、思い出せますか?もう一度、条文をそのまま出してみましょう。

条文警察官職務執行法第2条1項

警察官職務執行法第2条1項——質問 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる

この条文の中で警察官ができると書かれている動作を、指で辿ってみてください。「所持品」「調べる」「検査する」——そういう言葉は、一文字も出てきません。省略されているわけではなく、条文の文言そのものに無いんです。ここが、今日の出発点です。

明文はどこにもない——探しても、無い

警職法2条4項と銃刀法24条の2第1項の要件を並べ、どちらも道端のバッグには届かないことを示す対比板

では、探してみましょう。警察官が、職務質問の相手に対して所持品を調べることを認めた条文は、現行法にいくつあるでしょうか。実は、たった2つしかありません。1つ目は、職務質問の回で見た条文です。

条文警察官職務執行法第2条4項

警察官職務執行法第2条4項——凶器の所持の調べ 4 警察官は、刑事訴訟に関する法律により逮捕されている者については、その身体について凶器を所持しているかどうかを調べることができる

でも、よく見ると、「逮捕されている者」が前提です。だから、この条文は道端の職務質問には届きません。銃砲刀剣類所持等取締法、略して銃刀法の24条の2です。

条文銃砲刀剣類所持等取締法第24条の2第1項

銃砲刀剣類所持等取締法第24条の2第1項——提示・開示 第二十四条の二 警察官は、銃砲刀剣類等を携帯し、又は運搬していると疑うに足りる相当な理由のある者が、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して他人の生命又は身体に危害を及ぼすおそれがあると認められる場合においては、銃砲刀剣類等であると疑われる物を提示させ、又はそれが隠されていると疑われる物を開示させて調べることができる。

ただし、対象は銃砲刀剣類——銃やナイフの疑いがある人に限られます。しかも、方法も限られています。「提示させ、又は開示させて調べる」——本人にやらせる方法だけです。銃刀類の疑いがなければ使えず、使えても、本人に出させる方法しか認めていません。

警職法2条4項は逮捕前提、銃刀法24条の2は銃刀類限定かつ提示・開示の方法限定で、どちらも道端の職務質問には届かないという結論をまとめた板

整理すると、こうなります。逮捕前提の4項も、銃刀類限定で方法も縛られた24条の2も、道端で職務質問中の相手のバッグには届きません。ここまでで、「明文が無い」という事実に、自分の手でたどり着きました。地図にすると、こうです。①明文が無いことは、いま自分の手で確かめました。②この先で、判例がそこに橋を架けます。③その橋には限度があり、天秤で測ります。そこに橋を架けたのが、次に見る判例です。

判例が置いた橋——付随行為

明文が無いことを認めたうえで、質問という権限に所持品検査を付随させる論法を示す板 図:明文が無いことを認めたうえで、質問という権限に所持品検査を付随させる論法を示す板

最高裁も、実は同じ疑問から出発しています。判旨を、そのまま読んでみましょう。

判例最判昭53・6・20 刑集32巻4号670頁

所持品検査という付随行為——判例が置いた橋 警職法は、その二条一項において同項所定の者を停止させて質問することができると規定するのみで、所持品の検査については明文の規定を設けていないが、所持品の検査は、口頭による質問と密接に関連し、かつ、職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為であるから、同条項による職務質問に附随してこれを行うことができる場合があると解するのが、相当である。

まず正面から、明文が無いことを認めています。「口頭による質問と密接に関連し」「職務質問の効果をあげるうえで必要性、有効性の認められる行為」だから、という理由です。条文にある権限——質問すること——の付属品として、条文に無い行為を引き込む論法です。宅配便にたとえるのは、いい発想ですね。たとえば、宅配便のドライバーは、荷物を届けるとき、頼まれていなくてもインターホンを鳴らします。「荷物を届ける」という仕事に、当然に付随する行為だからです。所持品検査も、同じ発想で、質問という仕事に付随させています。所持品検査は、インターホンよりも重い行為です。そこが、次に見る批判の急所です。

その橋への批判——なぜ疑問視されるのか

内ドアを押し開ける行為(不可欠)と所持品検査(不可欠とは言いがたい)を対比し、学説からの批判を示す板

学説からは、この論法に、批判も向けられています。別の回で見る、ホテルの部屋のドアを押し開ける行為は、質問を続けるために不可欠です。一方、所持品検査は、見せてもらえなくても、質問を続けること自体はできます。鞄を開けなくても、質問を続けることはできてしまう——つまり、不可欠とまでは言いがたいんです。「密接な関連」「必要性、有効性」という言葉だけで、踏み込みました。この踏み込みには、批判も少なくありません。

論文で書く規範:学説からの批判——密接な関連・必要性だけで踏み込んでよいか 質問の実施・継続に不可欠な行為とは異なり、所持品検査は不可欠とまでは言いがたい。それにもかかわらず「密接な関連」「必要性、有効性」という言葉だけで付随行為に含めた最高裁の論法には、学説からの批判も少なくない。 (学説の整理)

なぜ疑問視されるのか、その理由まで、持ち帰ってください。「お名前を教えてください」と尋ねるのは、質問そのものですよね。一方「財布を見せてください」は、見せてもらえなくても質問自体は続けられます。所持品検査は、まさにこちら側に立っています。

三つの関門——原則・例外・限度

原則の中に例外、例外の中に限度が入る入れ子の三段構造を示す板 図:原則の中に例外、例外の中に限度が入る入れ子の三段構造を示す板

では、この橋を渡った先に何があるのか、続きを読んでいきましょう。実は、これは「並列の3つ」ではありません。「入れ子の3段構え」です。原則を、まず例外がひっくり返し、その例外を、限度がまた締め直します。段ボール箱の中に、また箱が入っている——いいたとえです。まず1段目、原則です。

論文で書く規範:原則——承諾があれば適法 所持品検査は、任意手段である職務質問の附随行為として許容されるのであるから、所持人の承諾を得て、その限度においてこれを行うのが原則であることはいうまでもない。 (判例型(最判昭53・6・20))

話が終わるなら簡単なんですが——ここで最高裁は、続けます。

論文で書く規範:例外——承諾が無くても余地がある しかしながら、職務質問ないし所持品検査は、犯罪の予防、鎮圧等を目的とする行政警察上の作用であつて、流動する各般の警察事象に対応して迅速適正にこれを処理すべき行政警察の責務にかんがみるときは、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、所持品検査においても許容される場合があると解すべきである。 (判例型(最判昭53・6・20))

「捜索に至らない程度」で、「強制にわたらない」範囲なら、承諾が無くてもできる余地を開きました。なぜ、そこまでして余地を開くのか。承諾が無ければ一切だめ、と貫くと、目の前で動いている事態に、その場で対応できなくなるからです。そこに歯止めをかけるのが、3段目、限度です。

論文で書く規範:限度——比例衡量で締め直す もつとも、所持品検査には種々の態様のものがあるので、その許容限度を一般的に定めることは困難であるが、所持品について捜索及び押収を受けることのない権利は憲法三五条の保障するところであり、捜索に至らない程度の行為であつてもこれを受ける者の権利を害するものであるから、状況のいかんを問わず常にかかる行為が許容されるものと解すべきでないことはもちろんであつて、かかる行為は、限定的な場合において、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容されるものと解すべきである。 (判例型(最判昭53・6・20))

必要性・緊急性と、害される個人の法益との権衡を見て、相当な限度でのみ許される、という締め方です。なぜ、開けた余地をまた締めるのか。所持品を勝手に捜索されない——これは憲法35条が保障する権利だからです。捜索に至らない行為でも、その権利を削ります。任意処分の限界を見た回の判例も、「必要性、緊急性などをも考慮したうえ、具体的状況のもとで相当と認められる限度」と述べていました。同じ物差しが、ここでも使われています。声をかけて「軽く触りますね」と、上着の外側にそっと触れるのは、どうですか。捜索にも強制にも、至らなそうです。例外の範囲内、承諾が無くても許される側です。では、無言でいきなり鞄をひったくって中を検めるのは。

限度を超えて、違法側に落ちます。同じ「承諾なし」でも、天と地ほど違います。ここでよくある誤答が、原則だけ覚えて、例外と限度を落とす答案です。3段とも、順番に開けてください。

落ちたらどうなるか——二階建てはそのまま

捜索に至るか強制にわたれば警職法2条3項違反で直ちに違法になるという二階建ての結論を再掲する板

では、この限度を超えて、「捜索」に至るか、「強制」にわたったら、どうなるでしょうか。1階=強制処分に当たるか、2階=任意処分として比例原則を満たすか。あの2段は、今日もそのままです。「捜索」に至るか、「強制」にわたるかは、1階の話です。それが起きれば、1階で「強制処分」と判定された、ということです。警職法2条3項に反して、直ちに違法です。条文を出しますね。

条文警察官職務執行法第2条3項

警察官職務執行法第2条3項——意に反する連行・答弁強要の禁止 3 前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない

「刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り」——この文言が効いてきます。強制は、刑事訴訟法という法律の定めがあって初めてできる——条文自身が、そう書いています。2条1項にあるのは、停止させて質問することまででしたね。そこから先の強制は、書かれていません。だから1階に落ちた瞬間、拠りどころがありません。令状を取っても、何とかなりません。職務質問には、令状で救う道が、そもそも用意されていません。令状は法律が認めた権限があって、初めて使える制度です。捜査には令状主義という受け皿が用意されています。でも所持品検査には、さっき確かめた通り明文がそもそもありません。

乗せる先が無いから、令状で救うこともできません。新しい道具は何も作りません。二階建ての回で渡したこの道具が、そのまま効いてきます。

「捜索」と「強制」は別の物差し

「捜索」は行為そのものの性質、「強制」は行為に伴う圧力という別の物差しであることを示す対比板

ここで、もう一度、さっきの限度の文言を見てください。「捜索」と「強制」、2つの言葉が並んでいます。実は、別の物差しです。ここを雑に読むのが、この回でいちばん危ないところです。「捜索」は、行為そのものの性質を問います。刑訴法が定める強制処分としての捜索と、同視できるかどうかです。施錠されたケースをこじ開ける、中を一つ一つ探る——そういう行為です。「強制」は、行為に付いてくる圧力を問います。相手の意思を制圧する強要的な言動や、抵抗を排除する有形力の行使があったかどうかです。友達の部屋にたとえるのは、いい発想です。友達が自分で引き出しを開けて見せるのと、「開けろよ」と強く言われて仕方なく開けるのは、別の話ですよね。

前者に近いのが「捜索」、後者に近いのが「強制」です。具体で刻んでおきましょう。警察官が、自分では相手の所持品に触れていなくても、怒鳴りつけて出させたり、押さえつけて出させたりすれば、それは「強制」にわたります。

論文で書く規範:「捜索」と「強制」——別の物差し 「捜索」が問うのは行為の中身——刑訴法が定める強制処分としての捜索そのものと重なるかどうかという一点。これに対して「強制」が問うのは、たとえ捜索まで至らなくても、相手の意思を押しつぶすような言葉や、抵抗を封じる実力の行使が付いてきたかどうかという一点。判例は2つの言葉を並べただけで定義しておらず、両者を区別しない見解もある。 (通説型(判例は2語を並べるにとどまる))

ただし、この2つを区別しない見解もあります。判例自身は、2つの言葉を並べただけで、定義はしていません。「捜索」そのものの中身は、別の回でじっくり扱います。今日は、問いの形だけ、持ち帰ってください。

段階の梯子——どこまでが当然か

外部観察から着衣のポケットに手を差し入れるまで、所持品検査の強さが6段階で上がっていく梯子を示す板

では、実際の所持品検査を、強さの順に並べてみましょう。1段目、外部から観察して質問する。2段目、任意に開披を求めて、承諾を得て確認する。この2段は、職務質問の一環として、当然に許されます。3段目、承諾なしに外部から触れる。4段目、承諾なしにチャック等を開ける。5段目、承諾なしにバッグ等に手を差し入れる。6段目、承諾なしに着衣のポケット等に手を差し入れる。この段の上がり方が、次に見る天秤の、左の皿そのものになります。

天秤に目盛りを入れる

左の皿に触れ方の踏み込み具合と警察官の出方、右の皿に疑いの濃さ・犯罪の重さ・凶器の疑い・挙動の不審さ・代替手段の有無を乗せた天秤の目盛り板

ここで、任意処分の限界を見た回で確認した天秤を、もう一度呼び出します。覚えていますか。左の皿と右の皿には、それぞれ何を乗せましたか?左の皿の権利侵害と、右の皿の捜査の必要性が釣り合えば相当性あり——適法でした。ただし、職務質問の枠組みを見た回で、右の皿は一度載せ替えましたね。職務質問の天秤では、右の皿は「捜査の必要性」ではなく、まだ起きていない犯罪の予防まで含む、もっと広い必要性でした。今日の目盛りも、そちらに乗ります。所持品検査用の目盛りです。左の皿には、2つ。さっきの梯子が、そのまま1つ目に入ります。

外から触れる→バッグを開ける→バッグに手を入れる→着衣のポケットに手を入れる、の順に、重くなります。ポケットの外から触れるだけなら、左の皿はまだ軽いほうです。ポケットに手を入れて探ると、左の皿は一気に重くなります。この重さの差が、このあと見る2つの事件の明暗を分けます。警察官の出方です。いきなり強く出たか、説得を重ねてから強めたか。①どれだけ疑いが濃いか。②その犯罪の重さ。③凶器を持っている疑い。④挙動の不審さ。⑤いま調べるほかに——手がないかです。

論文で書く規範:天秤の目盛り——所持品検査版 左の皿には、①触れ方の踏み込み具合(外から触れる→バッグを開ける→バッグに手を入れる→着衣のポケットに手を入れる、の順に重くなる)と②警察官の出方を、右の皿には①どれだけ疑いが濃いか②その犯罪の重さ③凶器を持っている疑い④挙動の不審さ⑤いま調べるほかに手がないかを乗せる。 (集積型(個別事案の判断の積み重ねから学説が整理))

この中でも、③と⑤が、この回いちばんの決め手になります。薬物のような違法な物件を持っている疑いにすぎない場合には、相当性を欠くと判断されることが多い、という経験則があります。花火大会の入り口を想像してください。刃物らしき反応があれば、少し強めに調べても納得できますよね。「ただの飲み物かも」程度の疑いで、無理やり鞄を開けさせるのはやりすぎです。この目盛りを、実際に2つの事件で動かしてみましょう。

事案①——バッグのチャックを開けた事件

銀行強盗の情報から緊急配備、職務質問、説得、開披、緊急逮捕までの時系列を示すフロー板

1つ目の事件です。自分たちの言葉で、時系列を追ってみましょう。猟銃とナイフを使った銀行強盗が発生し、犯人が逃走中との情報が入りました。緊急配備を敷いて、検問を始めました。そこへタクシーの運転手から、通報が入ります。若い男2人から乗車を求められたが断り、後続の白い車に乗ったかもしれない、というものでした。間もなく、その方向から、手配された人相に似た男2人を乗せた白い乗用車が通りかかります。でも、2人とも黙秘を続け、後部座席のアタッシュケースとボーリングバッグの開披を拒み続けました。その前に、まず近くの営業所で約30分、開披を求めましたが拒否は変わらず、警察官が取り囲むようにして警察署へ連れて行きました。

署でもなお、黙秘は続きました。承諾のないまま、警察官がボーリングバッグのチャックを開けると、大量の紙幣が見えました。引き続き開けようとしましたが施錠されていたため、ドライバーでこじ開けると、帯封付きの札束が見えました。その場で、強盗被疑事件として緊急逮捕されました。

警察官Aと対象者Bの間で職務質問から説得を経てバッグの開披に至る流れを示す関係図 図:警察官Aと対象者Bの間で職務質問から説得を経てバッグの開披に至る流れを示す関係図

警察官Aと、対象者Bの2人だけで、シンプルです。職務質問→説得→開披、という順番だけです。アタッシュケースのこじ開けがどこに入るか——そこが、今日いちばんの誤読ポイントです。少しあとで、正面から扱います。まず、バッグの開披の結論を先に見てみましょう。

あてはめ①——チャック開披は適法

重大な犯罪・凶器所持の疑い・不審な挙動という必要性の高さと、チャックを開けて一べつしただけという侵害の小ささを天秤に乗せた当てはめ板

最高裁は、この事案に、さっきの三段を実際に当てはめました。

判例最判昭53・6・20 刑集32巻4号670頁

バッグのチャックを開けた事件——チャック開披は相当 これを本件についてみると、所論のB巡査長の行為は、猟銃及び登山用ナイフを使用しての銀行強盗という重大な犯罪が発生し犯人の検挙が緊急の警察責務とされていた状況の下において、深夜に検問の現場を通りかかつたA及び被告人の両名が、右犯人としての濃厚な容疑が存在し、かつ、兇器を所持している疑いもあつたのに、警察官の職務質問に対し黙秘したうえ再三にわたる所持品の開披要求を拒否するなどの不審な挙動をとり続けたため、右両名の容疑を確める緊急の必要上されたものであつて、所持品検査の緊急性、必要性が強かつた反面、所持品検査の態様は携行中の所持品であるバツグの施錠されていないチヤツクを開披し内部を一べつしたにすぎないものであるから、これによる法益の侵害はさほど大きいものではなく、上述の経過に照らせば相当と認めうる行為であるから、これを警職法二条一項の職務質問に附随する行為として許容されるとした原判決の判断は正当である。

一べつ——ちらっと見ただけ、ということです。侵害は大きくありません。しかも、説得を尽くしても黙秘が続き、代替手段がありません。必要性が、強く出ています。だから、相当と認めうる行為——適法という結論です。

誤読を正す——アタッシュケースは別の受け皿

所持品検査の枠とは別に、逮捕に伴う捜索・差押えの枠へ乗り換えたことを矢印で示す誤読訂正板

アタッシュケースのこじ開けが所持品検査として適法になったか——そこが、この回でいちばん誤読されるところです。答えは、「いいえ」です。判旨を、そのまま読んでみましょう。

判例最判昭53・6・20 刑集32巻4号670頁

バッグのチャックを開けた事件——アタッシュケースは別の受け皿 前記ボーリングバツグの適法な開披によりすでにAを緊急逮捕することができるだけの要件が整い、しかも極めて接着した時間内にその現場で緊急逮捕手続が行われている本件においては、所論アタツシユケースをこじ開けた警察官の行為は、Aを逮捕する目的で緊急逮捕手続に先行して逮捕の現場で時間的に接着してされた捜索手続と同一視しうるものであるから、アタツシユケース及び在中していた帯封の証拠能力はこれを排除すべきものとは認められず

理屈はこうです。バッグの適法な開披で、もうその時点で、緊急逮捕できるだけの要件が整っていました。そのうえで、逮捕の現場で、時間的に接着してこじ開けが行われた。だから、逮捕に伴う捜索・差押えと同一視できる、という理屈です。逮捕したその現場では、令状が無くても捜索・差押えができる——という、別の受け皿です。途中で、受け皿が乗り換わっています。レシートの割引にたとえられます。会員証の割引で会計したのに、あとから「これはクーポンの割引だった」と言われるようなものです。逮捕に伴う捜索・差押えの中身——どんな要件で、どこまで及ぶか——は、別の回でじっくり扱います。

「所持品検査だから何でも通る」という誤読を、ここで正しておきましょう。

事案②——上着のポケットに手を入れた事件

覚醒剤・売春の多発地帯での職務質問から降車要求、外部から触れる行為、ポケットに手を入れるまでの時系列を示すフロー板

2つ目の事件です。また、自分たちの言葉で追いましょう。パトロール中の警察官が、覚醒剤事犯や売春事犯の多発地帯で、路上に停車した車に気づきました。運転者と、遊び人風の男数名が話していました。パトカーが近づくと、車はすぐ発進し、ホテルの駐車場へ向かいました。不審な挙動と地域性から、売春の客引きの疑いで、職務質問を始めました。運転免許証の提示を求めたところ、車内に組の名前や賭博道具が見えました。落ち着きのない態度と、青白い顔色から、覚醒剤中毒の疑いも生じ、降車を求めました。提示を求めましたが拒否され、周囲の男が「お前らそんなことする権利あるんか」と食ってかかってきました。

応援の警察官が到着後、上着の右側内ポケットから、目薬とちり紙が出てきました。「ほかのポケットも触らせてもらう」と言って、上着とズボンを外から触ると、左側内ポケットに、刃物ではない固い物の感触がありました。でも黙ったままで、「それなら出してみるぞ」と言い、承諾がないまま左側内ポケットに手を入れて取り出すと——覚醒剤入りのビニール袋と、注射器でした。覚醒剤所持の現行犯人として逮捕されました。

警察官Aと対象者Bの間で外部から触れる行為までは許容され、ポケットに手を入れる行為から先が問題になることを示す関係図

警察官Aと、対象者Bです。ただし、途中の段階が違います。外部から触れる段階までは、職務質問に付随する行為として、問題なく許容されます。ポケットに手を入れて、取り出した——その先です。

あてはめ②——ポケットに手を入れた行為は違法

凶器の可能性が低く代替手段もあったという必要性の低さと、ポケットに手を入れて取り出したという侵害の大きさを天秤に乗せた当てはめ板

最高裁は、まず、さっきの三段と同じ基準を確認します。

判例最判昭53・9・7 刑集32巻6号1672頁

上着のポケットに手を入れた事件——同じ基準の確認 警職法二条一項に基づく職務質問に附随して行う所持品検査は、任意手段として許容されるものであるから、所持人の承諾を得てその限度でこれを行うのが原則であるが、職務質問ないし所持品検査の目的、性格及びその作用等にかんがみると、所持人の承諾のない限り所持品検査は一切許容されないと解するのは相当でなく、捜索に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り、たとえ所持人の承諾がなくても、所持品検査の必要性、緊急性、これによつて侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容される場合があると解すべきである(最高裁判所昭和五二年(あ)第一四三五号同五三年六月二〇日第三小法廷判決参照)。

同じ基準を、もう一度確認したうえで、この事件に当てはめます。

判例最判昭53・9・7 刑集32巻6号1672頁

上着のポケットに手を入れた事件——ポケットに手を入れた行為は違法 被告人の承諾がないのに、その上衣左側内ポケツトに手を差し入れて所持品を取り出したうえ検査した同巡査の行為は、一般にプライバシイ侵害の程度の高い行為であり、かつ、その態様において捜索に類するものであるから、上記のような本件の具体的な状況のもとにおいては、相当な行為とは認めがたいところであつて、職務質問に附随する所持品検査の許容限度を逸脱したものと解するのが相当である。

ここ、見逃さないでください。「捜索」ではなく「捜索に類する」です。強制処分としての捜索そのものには至らず、あくまで任意処分です。任意処分でも、比例原則の相当性を欠けば違法になる——2段階の理解です。ここで、実際に効いてきました。天秤に、実際に乗せてみましょう。左の皿——ポケットに手を入れて取り出した行為は、チャックの開披より、侵害の程度が大きいです。覚醒剤の嫌疑は濃厚です。でも、凶器の可能性は低く、なお説得を続けて提示を求める代替手段がありました。③凶器の疑いと、⑤代替手段の有無——どちらも、右の皿が軽くなりました。

だから、許容限度を逸脱した——違法、という結論です。

2つを並べる——同じ物差しが逆に振れる

チャック開披(適法)とポケットに手を入れた行為(違法)を並べ、決め手は凶器かどうかと代替手段の有無にあることを示す対比板

2つの事件を、並べてみましょう。何をしたか——チャックを開けて中を一べつしただけか、ポケットに手を入れて取り出したか。ここで、よくある誤解を確認しておきます。「プライバシー侵害が重いほうが、必ず負ける」という誤解です。単純にそれだけなら話は簡単なんですが、決め手は、実は右の皿——必要性の側にあります。この2つが、この回いちばんの看板です。

論文で書く規範:決め手は必要性の側——凶器かどうか、代替手段があったか 左の皿の踏み込みが深い所持品検査でも、凶器所持の疑いが強く代替手段が無ければ相当性が認められうる。反対に、薬物のような違法な物にとどまる疑いで、まだ他に手立てが残っている場合は、天秤は適法側には傾きにくい。 (学説の整理(経験則・集積型))

その経験則が、いま右の皿を軽くしています。では少し変えてみましょう。ポケットに刃物のような硬い感触があったのに、承諾なしで取り出した場合は、どうですか。③の凶器の疑いが強く出れば、代替手段が無い限り、右の皿は重くなります。同じ「ポケットに手を入れる」行為でも、結論が変わりうるんです。基準を丸暗記するのではなく、天秤に何を乗せるとどちらに倒れるか——それを、この2つの実例で体に入れてください。

「捜索」の輪郭——先の回の借りを返す

最高裁が「捜索」の語を一度も使っていないことと、学説が整理する探索的な行為・解錠開封という2つのメルクマールを示す板

ここで、少し前の回で開かずに送った判例を、開きます。自動車の内部を、懐中電灯を使い座席を動かすなどして丹念に調べた事件です。あのとき、中身は開きませんでした。今日、正面から開きます。この判例は、立場の違う3つの主語が重なっています。最高裁が言ったこと、原審が言ったこと、そして学説が整理したこと。この3つを、混ぜずに順に分けます。まず、最高裁が実際に述べたことを、そのまま読みます。

判例最高裁判所第三小法廷決定・平成7年5月30日(刑集49巻5号703頁)

自動車の中を調べた事件——最高裁が言ったことのすべて 警察官が本件自動車内を調べた行為は、被告人の承諾がない限り、職務質問に付随して行う所持品検査として許容される限度を超えたものというべきところ、右行為に対し被告人の任意の承諾はなかったとする原判断に誤りがあるとは認められないから、右行為が違法であることは否定し難い……

最高裁は、この決定の中で、「捜索」という言葉を、一度も使っていません。最高裁が明言した事実は、ありません。ただし、原審は違う言い方をしていました。一つ前の裁判所です。原審は、この行為を「その態様、実質等においてまさに捜索に等しい」と評価していました。最高裁は、それを否定していません。原審の評価を否定しないまま、「違法であることは否定し難い」とだけ述べています。「否定していない」=「認めた」と決めつけるのは、慎重に言う必要があります。これは、学説の理解として渡します——「原審が『捜索に等しい』と評価し、最高裁はそれを否定していない」という整理です。

ここは、この回でいちばん、主語を間違えやすい場所です。

2つのメルクマールの由来——アタッシュケースのこじ開けは最高裁自身が「捜索手続と同一視しうる」と述べた事案、自動車内部を丹念に調べた事件は一つ前の裁判所が「捜索に等しい」と評価し最高裁はそれを否定しなかった事案であることを示す板

学説は、2つのメルクマール——判断の目印のことです——を整理しています。

論文で書く規範:「捜索」の2つのメルクマール ①ものが何かを確かめるだけでは終わらず、証拠になりそうな物が無いか一つひとつ暴いていくような探る動きであること。②鍵を開けたり封を切ったりする動きが伴えば、「捜索」に踏み込んだと見てよいこと。 (通説型(判例は「捜索」の語を用いていない))

学説が思いつきで決めた線ではありません。まず、施錠されたケースのこじ開けです。ここは最高裁自身が、逮捕に伴う捜索として「捜索手続と同一視しうる」と述べています。次に、今読んでいる車の事件です。ここでは最高裁は何も言っていません。一つ前の裁判所が「捜索に等しい」と評価し、最高裁はそれを否定しなかっただけです。学説は、この2つを並べて共通する形を抜き出したものです。どちらも、中身が何かを確かめるにとどまらず、閉じてあるものを開けて、中を暴いています。そこまで行けば、刑訴法が定める「捜索」と同視できる——だから、この2つが目印になります。

メルクマールを事案に当てる——施錠なしのチャック開披は非該当、施錠されたアタッシュケースのこじ開けは該当、自動車内部を丹念に調べる行為は探索的で該当に近づくことを示す当てはめ板

チャックは施錠されておらず、開けて内部を一べつしただけでした。1つ目のメルクマールに当たらないので、「捜索」には至りません。施錠されたものをこじ開ける——2つ目のメルクマールに当てはまります。ただし、あちらは所持品検査としてではなく、逮捕に伴う捜索・差押えとして適法になりました。1つ目のメルクマールに近づきます。だから、原審の評価にも、うなずける理由があります。エックス線で中を透視する検査は、荷物の外から中身を透視する行為が、「検証」——物の性質や状態を認識する処分——という別の類型の強制処分に当たるとされ、令状を取らなかったことが決め手でした。

別の類型の話です。ただ、底にあるものは同じです。外から見るだけでも、中身そのものを暴けば重い侵害になる——今日の1つ目のメルクマールと、同じ見方です。

自己診断——3つの事例で三つの関門を当てる

素直に見せた場合・問答無用で奪った場合・疑いだけで開けさせた場合という3つの事例に三つの関門と天秤を当てる自己診断板

では、今日渡した道具を、自分で使ってみましょう。3つの場面を出します。1つ目。「バッグを見せてください」と頼み、相手が素直に開けて見せました。1段目、原則の話で終わります。説得もせず、問答無用でリュックを奪って中を確認しました。承諾なく、説得の過程も無く、いきなり奪う行為は、強制にわたる可能性が高く、限度を超えます。覚醒剤の疑いだけで、財布を開けさせました。凶器ではなく薬物の疑いにすぎない場合、プライバシー侵害の程度が大きい所持品検査は、相当性を欠くと判断されることが多いんでしたね。事案の詳しさ次第ですが、単に「疑いがある」というだけでは、天秤は簡単には適法に傾きません。

この2つの道具、しっかり持ち帰ってください。

今日の地図(保存版)

今日渡したものをまとめた板 図:今日渡したものをまとめた板

最後に、今日渡したものを振り返りましょう。明文は無いこと。付随行為という橋。原則・例外・限度の三段。「捜索」と「強制」は別の物差しであること。天秤の目盛り。2つの実例の対比。そして、「捜索」の輪郭です。「捜索」そのものの定義や、逮捕に伴う捜索・差押えの中身は、別の回で扱います。次は、自動車検問です。走行中の車を次々に停めて調べる場面で、今日の道具がどう使われるかを見ます。明文が無くても、道具さえあれば、どんな場面にも当てはめられます。

参照条文

  • 警察官職務執行法第2条1項
  • 警察官職務執行法第2条4項
  • 銃砲刀剣類所持等取締法第24条の2第1項
  • 警察官職務執行法第2条3項

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