逮捕③緊急逮捕——令状は後から求める逮捕
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第2章 捜査 ⑭/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
令状はまだ無い、それでも捕まえてよいか

それを取りに行くあいだに逃げられてしまいます。場合によっては、良いとされています。答えは3つです。罪が重いこと。嫌疑が濃いこと。待てない事情があることです。そのかわり、逮捕した後、必ず裁判官の審査を受けます。しかも、その審査では、捕まえた瞬間に3つがそろっていたかを問われます。中身に入りましょう。
逮捕3類型の最後の1つ

これまで、逮捕には3つの型があると話してきました。令状による事前審査が通常逮捕。審査そのものを省くのが現行犯逮捕と準現行犯逮捕でした。令状はまだ無いけれど、後から必ず取りに行く逮捕。緊急逮捕です。審査を後回しにするだけで、消してはいません。これで、逮捕3類型の最後の1つが閉じます。
210条1項・2項——2段に分かれる要件

まず、緊急逮捕の根拠条文を見ましょう。
条文刑事訴訟法第210条第1項・第2項
刑事訴訟法第210条第1項・第2項——緊急逮捕 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。 第二百条の規定は、前項の逮捕状についてこれを準用する。
実は、2つの塊に分かれます。前半は、逮捕するその瞬間に要るもの。後半は、逮捕した後に要るものです。前半の中身は、重い罪。十分な理由。急速を要すること。理由の告知。この4つです。直ちに逮捕状を求める手続。そして発せられなければ直ちに釈放。この2つです。前半は、裁判官を待たずに捕まえてよい根拠。後半は、飛ばした審査を必ず取り戻す仕掛けです。だから、前半だけ満たしても、後半をやらなければ違法です。2項は、200条を準用すると定めています。200条は、逮捕状に書く中身、例えば被疑者の名前や罪名の決まりです。書き方は、通常逮捕の令状と同じ枠組みなんです。
憲法33条と合憲性

以前、憲法33条を全文で確認しましたね。
条文日本国憲法第33条
日本国憲法第33条——令状主義 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
この一文には、緊急逮捕という言葉が出てきません。だから、緊急逮捕は違憲ではないかという疑いが生まれます。違憲だとする見方もあります。ただ、最高裁は合憲だと判断しました。
判例最高裁判所大法廷・昭和30年12月14日判決(刑集9巻13号2760頁・百選A3)
最高裁判所大法廷判決——緊急逮捕の合憲性 罪状の重い一定の犯罪のみについて、緊急已むを得ない場合に限り、逮捕後直ちに裁判官の審査を受けて逮捕状の発行を求めることを条件とし、被疑者の逮捕を認めることは、憲法三三条規定の趣旨に反するものではない。
理由を、3つに分けられます。1つ目。罪状の重い一定の犯罪だけに限ること。これが210条の重い罪の限定に対応します。緊急やむを得ない場合に限ること。これが、急速を要するという要件に対応します。逮捕後直ちに裁判官の審査を受けて、逮捕状を求めることを条件とすること。これが、直ちに逮捕状を求める手続に対応します。空き巣という重い罪で、男は店を出ようとしている。そして捕まえた後、すぐ裁判官に逮捕状を求める。この形です。以前見たとおり、憲法33条が令状を求めるのは、捕まえる前に、中立な第三者の目を通すためでした。緊急逮捕は、その目を消すのではなく、すぐ後ろにずらすだけ。しかも、ずらしてよい場面を、重い罪と待てない事情に絞っています。
どんな逮捕も合憲になるわけではありません。この判決が認めたのは、条件をそろえた緊急逮捕という仕組みです。条件を欠いた一つひとつの逮捕まで、正しいとしたわけではありません。そこを確かめるのが、後で見る裁判官の審査です。
現行犯逮捕との違い
図:罪の限定理由の告知事後の令状請求という3点で緊急逮捕と現行犯逮捕を比較する対比板
もう1つ手前の回とも比べておきます。令状が要らないという点では似ていますが、中身は違います。現行犯は、目の前で罪が行われていて、人違いのおそれが小さい。指輪の男は、3日もたっているので、現行犯にも準現行犯にも当たりません。犯行を見ていない分を、罪を重いものに絞り、理由を告げさせ、後から裁判官に見せることで埋めているんです。まず、罪の限定です。現行犯逮捕は罪名に限定がありません。死刑・無期・長期3年以上の拘禁刑に当たる罪だけです。理由の告知です。現行犯逮捕にはこの要件がありません。3つ目が、いちばん大きな違いです。
現行犯逮捕は、逮捕した後に令状を求める手続がありません。この後の裁判官の審査が、緊急逮捕にしか無い山場になります。
罪の重さは法定刑で測る

重い罪かどうかは、何で測ると思いますか。実際に科される刑ではありません。測るのは、法定刑です。ここで、1つ考えてほしい場面があります。空き巣に入る家が留守になる時間帯だけを教えた人がいるとします。情報を教えただけで、現場には一切関わっていません。犯罪になります。実行を手助けした、幇助犯です。従犯として扱われます。空き巣は窃盗罪です。刑の上限、つまり長期は10年。3年以上なので、重い罪に入ります。
条文刑法第63条
刑法第63条——従犯減軽(要旨) 従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。
それでも、判断は減軽前の法定刑、つまり正犯の法定刑で行います。従犯であることは、この判断では無視して構いません。疑うに足りる理由の段階で足ります。有罪の確定は求められていません。軽くするのは、刑を決めるときの話です。捕まえる時点では、誰が手助け役で、刑がどこまで軽くなるかは、まだ決まっていません。だから、罪そのものに法律が定めた刑で線を引きます。例えば暴行罪は、上限が2年。この罪では、緊急逮捕はできません。
「十分な理由」——相当な理由より濃い嫌疑

210条の「十分な理由」に進みます。以前見た、通常逮捕の嫌疑の言葉を思い出せますか?「相当な理由」です。この人がこの犯罪をした、と絞られたうえで、疑いに理由があることでした。この2つ、濃さが違います。「十分な理由」のほうが、より濃い嫌疑を求めます。有罪判決や公訴提起が確実だというレベルまでは求められません。何らかの証拠に基づいて、特定の犯罪の犯人だと捜査機関が確信をもてる程度です。防犯カメラに、似た服装の人が映っていただけ。これなら疑う理由はあっても、確信までは持てません。でも、被害届どおりの指輪を持ち込み、カメラの顔とも一致した。ここまでそろえば、確信をもてる程度といえます。
審査を先送りする分だけ、現場に求める濃さも上がります。
「急速を要し」——待てない事情

もう1つの要件、「急速を要し」です。すぐに逮捕しなければ、被疑者が逃げるか、証拠を隠したり壊したりする、つまり罪証を隠滅する可能性が高い場合をいいます。もう1つ、逮捕状を請求する時間的な余裕が無いことも必要です。男は代金を受け取って、店を出ようとしています。逮捕状を取りに行く間に、行方が分からなくなる。これが急速を要する場合です。逆に、男の名前も住所も分かっていて、逃げる様子も無い。それなら逮捕状を取りに行けるので、通常逮捕を使います。時間さえあれば通常逮捕で済むはずだからです。緊急逮捕は、あくまで通常逮捕が間に合わない場合の手段です。
告げる「理由」の中身

210条は、逮捕のときに「理由を告げて」と定めています。告げるべきことは2つあります。被疑事実の要旨と、急速を要する事情です。両方そろって、初めて足ります。詳細な事実関係までは求められません。逮捕される人が、どんな事実でなぜ急ぐのかを理解できる程度です。現行犯逮捕はその場で明白だから不要でした。緊急逮捕は現場を見ていない分、告知で補います。
「直ちに」逮捕状を求める

逮捕した後、「直ちに」逮捕状を求めなければなりません。通常逮捕と違って、請求できる人に制限がありません。ですが、緊急逮捕は、検察事務官や司法巡査でも請求できます。請求は「直ちに」しなければならないからです。請求できる人の到着を待っていたら、時間がたってしまいます。
条文犯罪捜査規範第120条第1項・第3項(要旨)
犯罪捜査規範第120条第1項・第3項——緊急逮捕状の請求(要旨) 緊急逮捕状の請求は、指定司法警察員又は当該逮捕に当たつた警察官がこれを行うものとする。緊急逮捕した被疑者を釈放したときにおいても、緊急逮捕状の請求をしなければならない。
刑事訴訟法の条文ではありません。犯罪捜査規範は、法律ではなく実務の決まりです。この規範は、指定を受けた司法警察員か、その逮捕に当たった警察官が請求する、と定めています。さっきの「制限が無い」という話とは矛盾しません。法律上は、制限が無い。実務では、誰が請求するかを決めて整えている。層が違います。請求するまでに、無駄な時間が無かったと言えることです。請求が要らなくなる、ということにはなりません。釈放した場合や逃走した場合でも、請求はしなければなりません。捕まえたこと自体は、もう起きています。その逮捕が正しかったかを、裁判官に確かめてもらわなければならないからです。
裁判官の2段階審査

ここが、今日いちばんの山場です。逮捕状の請求を受けた裁判官は、2段階で審査します。まず、緊急逮捕そのものが適法だったかを審査します。逮捕したその瞬間の事情だけを見ます。見てはいけません。ここが、この回でいちばん強い引っかかりです。逮捕した時点では十分な理由がなかったのに、逮捕した後の取調べで自白した、とします。逮捕状は出ません。逮捕の時点で要件を欠いていた以上、後から嫌疑が固まっても救われません。210条は、十分な理由がある場合に、逮捕できると書いています。理由が要るのは、捕まえるその時なんです。もし後の自白で足りるなら、薄い疑いのまま先に捕まえて、取調べで固める、ということができてしまいます。それでは、要件を絞った意味がなくなります。
2段目は別の話です。1段目が適法だったとしても、裁判官は続けて、逮捕状発付の時点で通常逮捕と同じ理由と必要性があるかを審査します。以前見た通常逮捕の回の、逮捕の必要性です。逃亡のおそれや、罪証を隠滅するおそれがあるか、でしたね。急速を要し、は、そのおそれが差し迫っていて、逮捕状を待つ時間が無いか。必要性は、そもそも身柄を押さえる意味があるか。2段目で見るのは、こちらです。今度は、発付するその時点の事情です。逮捕状は、ここから先も身柄を確保しておくための根拠になるからです。これから先の根拠なので、出す時点で、理由と必要性が残っていなければなりません。
1段目が適法でも、2段目で逮捕状は出ません。直ちに釈放です。1段目は逮捕の瞬間、2段目は発付の瞬間。どちらか一方でも崩れれば、逮捕状は出ません。先に捕まえてよいのは、その瞬間に、重い罪・濃い嫌疑・待てない事情がそろっていたときだけ。後からの審査が、それを確かめます。
2つの設例で確認する

2つの設例で、この2段階を確認しましょう。1つ目。逮捕した時点では十分な理由が無かったが、逮捕後の取調べで自白した場合。指輪の男で言えば、カメラの顔と照らし合わせる前に、質店の前にいたというだけで捕まえ、取調べで空き巣を認めた場合です。これは、1段目で否定されます。逮捕した時点では、逮捕の理由も必要性もあったが、その後に消えた場合。例えば、指輪の男を適法に捕まえた後、本当の犯人が別に見つかり、男は何も知らずに指輪を預かっていただけだと分かった場合です。必要性だけが消えることもあります。男の身元と住所が確かめられ、指輪も押収されて、逃げるおそれも証拠を隠すおそれも、明らかに無くなった場合です。
逮捕状は出ません。ただし、否定される段階が違います。逮捕の瞬間は適法でした。崩れたのは、2段目です。どちらの段階で崩れたのかを、答案でも書き分けてください。
緊急執行との区別

最後に、名前が似ている制度を整理しておきます。緊急執行は、令状はもう出ています。違います。緊急逮捕は、令状がまだありません。緊急執行は、手元に無くて示せないだけ。発付そのものは終わっています。だから、逮捕の後の手続も違います。できる限り速やかに令状を示すだけです。逮捕の後、あらためて令状を請求します。この一線を、混同しないでください。
今日の地図(保存版)

今日渡した柱を、振り返りましょう。1つ目。令状なしで捕まえてよいのは、重い罪、濃い嫌疑、待てない事情がそろったときだけ。そのかわり、後から必ず裁判官の審査を受けます。「十分な理由」は「相当な理由」より濃い嫌疑ですが、有罪の確信までは要りません。裁判官の審査は2段階です。逮捕の時点で要件が欠けていたら、後から自白が取れても救われません。2段目の審査で、逮捕状を出さないと判断します。捕まえた瞬間は、適法でした。でも、発付する時点では、もう逮捕の理由がありません。次に扱うのは、逮捕した後に続く手続です。逮捕には、時間の制限もかかってきます。
参照条文
- 刑事訴訟法第210条第1項・第2項
- 日本国憲法第33条
- 刑法第63条
- 犯罪捜査規範第120条第1項・第3項(要旨)