逮捕③緊急逮捕
問い:逮捕状がまだ無いのに先に捕まえてよいのは、どんなときか。捕まえた後に何をしなければならないか。
骨組み
- 13類型の位置:裁判官の審査が 通常逮捕=事前/現行犯逮捕=無し/緊急逮捕=事後。緊急逮捕は審査を後回しにするだけ=逮捕状(裁判官の裁判)は要る
- 2誰が・何を():検察官・検察事務官・司法警察職員(司法巡査も)。実体=重い罪・十分な理由・急速を要し/手続=理由を告げて逮捕 → 直ちに逮捕状を求める → 発せられなければ直ちに釈放
- 3合憲性(最大判昭30):合憲。厳格な制約の下、重い犯罪のみ・緊急やむを得ない場合に限りと限定し、逮捕後直ちに裁判官の審査を受けることを条件とすれば、憲の趣旨に反しない(判決文の末尾に「補足意見があるほか裁判官全員一致の意見」)。どういう理論構成で憲と両立するかは法廷意見に無い(補足意見が述べる)
- 4現行犯逮捕との違い:罪の限定(緊急=重い罪だけ/現行犯=原則無いが軽微事件はで制限)・理由の告知(現行犯は不要)・事後の逮捕状請求(現行犯は無い)
- 5重い罪:死刑・無期・長期3年以上の拘禁刑に当たる罪=法定刑で測る(可否は法定刑で異なる)。従犯も正犯の法定刑で(減軽前)
- 6十分な理由:通常逮捕の相当な理由より濃い嫌疑。公訴提起に足りる程度までは要らない。証拠に基づき、特定の犯罪の犯人だと捜査機関が確信をもてる程度
- 7急速を要し:すぐ逮捕しなければ逃亡・罪証隠滅の可能性が高く、かつ逮捕状を請求する時間的余裕が無い。自首した者でも要件を満たせば緊急逮捕できる。実体の要件を欠いたら通常逮捕の可否を検討
- 8理由の告知:逮捕のときに、被疑事実の要旨と急速を要する事情の両方(詳細までは要らない)。逮捕状を示す際で足りる、ではない
- 9直ちに請求・誰が:無駄な時間が無かったといえること。請求者に制限は無い(検察事務官・司法巡査も)。警部以上の限定は通常逮捕()の警察官たる司法警察員だけ。犯罪捜査規範120条(昭和32年国家公安委員会規則第2号)は請求する者を定めるが、警察内部の分担の定めで、法律上の請求者の制限ではない
- 10釈放・逃走しても:被疑者を釈放したときも請求する(犯罪捜査規範120条3項)。引致の後、請求の前に逃走されても、直ちに請求する(解説書の説明。120条3項の文言は釈放だけ)
- 11審査の第1段:①実体の要件は逮捕時の事情で見る=逮捕後の事情(後で得た嫌疑の資料など)で補わない(後の自白で救われない)。②告知・直ちに請求の手続を守ったかも見る
- 12審査の第2段:発付時の事情で、通常逮捕の要件(逮捕の理由・必要性)を見る。どちらの段が崩れても逮捕状は出ない → 直ちに釈放
- 13緊急執行との区別(・):緊急執行=発付済みの逮捕状を前提に、その執行をする手続(手元に無く示せない+急速を要する → 被疑事実の要旨と逮捕状が発せられている旨を告げて逮捕 → できる限り速やかに示す)。緊急逮捕=逮捕状を求めずに先に捕まえ、後で請求する手続
- 14逮捕状が出ている事件の緊急逮捕(見解):Ⅰ=許されない/Ⅱ=要件さえ備われば許される。Ⅱへの批判=二重逮捕の危険
色の札は出どころ:条文 判例 学説。条文番号は押すと条文、丸い札(出題)は押すと過去問の肢と正答が出ます。短答は「判例の立場」を問うので、判例と学説を混ぜない。
1逮捕3類型の中の位置条文
- 3つの型は、裁判官の審査がいつあるかで分かれる:通常逮捕()=裁判官があらかじめ発する逮捕状で/現行犯逮捕・準現行犯逮捕(・)=審査しない/緊急逮捕()=逮捕の後から審査。
- 緊急逮捕は、審査を省くのでも先に取るのでもない=後回しにするだけで、消していない。逮捕の後に直ちに逮捕状を求め、裁判官が逮捕状を出すかを判断する(裁判官の裁判が要る)。
出題司法警察員が緊急逮捕する場合は、裁判官の裁判が要る(○)
- 「緊急逮捕は令状なしの逮捕なので、現行犯逮捕と同じく裁判官の裁判は要らない」
2緊急逮捕の骨格:誰が・何を()条文
- :検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
- 司法警察職員=司法警察員と司法巡査 → 司法巡査も緊急逮捕できる。検察官も緊急逮捕できる。
- :(逮捕状に書く事項=被疑者の氏名・住居、罪名、被疑事実の要旨など)を準用 → 緊急逮捕の後に出る逮捕状も、書く中身は通常逮捕の逮捕状と同じ。
- 緊急逮捕された場合のその後の手続は、通常逮捕(の逮捕)の場合の規定を準用する()。
| 実体の要件(逮捕する時点) | 手続 |
|---|---|
| ①重い罪(死刑・無期・長期3年以上の拘禁刑に当たる罪) | ①理由を告げて逮捕する |
| ②罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由 | ②直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をする |
| ③急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができない | ③逮捕状が発せられないときは、直ちに釈放する |
- 実体の要件は、裁判官を待たずに捕まえてよい根拠。手続は、飛ばした審査を必ず取り戻す仕掛け。実体の要件を満たしても、手続を守らなければ違法。
出題司法巡査が緊急逮捕することは許されない(×)
出題検察官は被疑者を緊急逮捕できる(○)
- 「司法巡査が緊急逮捕することは許されない」
3憲と合憲性(最大判昭30・12・14)条文判例
- 憲:何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
- 問題の所在:令状の例外として書かれているのは現行犯だけ。緊急逮捕は文面上の例外に入っていない → 違憲とする見方もある。
- 最高裁(大法廷):合憲。判決はの要件(重い罪・充分な理由・急速を要し令状を求められない・理由の告知・直ちに逮捕状を求める・発せられなければ釈放)を並べたうえで、こう述べた:
- かような厳格な制約の下に、罪状の重い一定の犯罪のみについて、緊急已むを得ない場合に限り、逮捕後直ちに裁判官の審査を受けて逮捕状の発行を求めることを条件とし、被疑者の逮捕を認めることは、憲法三三条規定の趣旨に反するものではない
| 判決が挙げた限定・条件 | 対応するの要件 |
|---|---|
| 罪状の重い一定の犯罪のみ | 重い罪の限定 |
| 緊急已むを得ない場合に限り | 急速を要し、逮捕状を求めることができない |
| 逮捕後直ちに裁判官の審査を受けて逮捕状の発行を求める | 直ちに逮捕状を求める手続 |
- 前の2つは「のみ」「限り」の限定、3つ目(逮捕後直ちに裁判官の審査)に「条件とし」がかかる。十分な理由・理由の告知も、その前に置かれた「厳格な制約」に入っている(表の3つだけで、嫌疑や告知は関係ない、という読み方は誤り)。
- 法廷意見(全員一致。補足意見が付いているだけ)は、厳格な制約と限定・条件を挙げて合憲としたが、どういう理論構成で憲と両立するのか(令状による逮捕の一種と見るのか、現行犯に準ずると見るのか)は述べていない。それを述べたのは補足意見:
| 意見 | 中身 |
|---|---|
| 斎藤裁判官の補足意見 | 憲の「現行犯として逮捕される場合を除いては」は、合理的な逮捕等を令状の保障から外す趣旨 → 除外される場合に緊急逮捕も含まれる。逮捕状が発せられなかったときでも、逮捕そのものは合憲 |
| 小谷・池田裁判官の補足意見 | 現行犯が除外されるのは、急速を要し嫌疑が明白だから。緊急逮捕はそれに準ずる場合=憲の除外の枠内。さらに、直ちに逮捕状を求めて発せられれば、逮捕状による逮捕と見ることも妨げない。逮捕状が発せられなければ、逮捕は効力を失う |
- 斎藤裁判官の補足意見:
- 右憲法三三条の除外の場合には、刑訴二一二条一項の現行犯逮捕の場合は勿論同条二項のいわゆる準現行犯逮捕の場合及び同法二一〇条のいわゆる緊急逮捕の場合をも包含するものと解するを相当とする。
- 小谷・池田裁判官の補足意見:
- 被疑者を拘束してから直ちに裁判官の逮捕状を求めて逮捕状が発せられたときは、なお且つ逮捕状による逮捕と認めることを妨げないとも解される
- 判決が合憲としたのは、の規定(条件をそろえた緊急逮捕という仕組み)。一つひとつの緊急逮捕が要件を欠けば、その逮捕は違法になる(それを確かめる場の一つが、項目11・12の審査)。
- 「最高裁の法廷意見は、緊急逮捕は全体として令状による逮捕に準じるから合憲である、という理論構成を示した」(法廷意見はどういう理論構成で両立するかを述べていない)
- 「最高裁は、緊急逮捕の形をとった逮捕はすべて合憲であるとした」(合憲としたのは規定=仕組み)
4現行犯逮捕との違い条文
- 現行犯逮捕()・準現行犯逮捕(=各号のどれかに当たり、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められる者)は、目の前の状況から犯罪と犯人が明白で、人違いのおそれが小さい → 令状が要らない。
- 緊急逮捕は犯行を見ていない分を、罪の重さ・理由の告知・事後の審査で埋め合わせている。
| 現行犯逮捕(準現行犯を含む) | 緊急逮捕 | |
|---|---|---|
| 罪の限定 | 原則無し。ただし30万円(刑法等以外の罪は当分の間2万円)以下の罰金・拘留・科料に当たる罪は、住居・氏名が明らかでないか逃亡のおそれがあるときに限る() | 死刑・無期・長期3年以上の拘禁刑に当たる罪だけ |
| 理由の告知 | 要らない(規定が無い) | 要る |
| 事後の逮捕状請求 | 無い | 必ず要る(裁判官の審査) |
| 逮捕できる人 | 何人でも() | 検察官・検察事務官・司法警察職員 |
軽犯罪法違反(拘留・科料の罪)の現行犯でも、住所・氏名が分かっていて逃げるおそれも無ければ、現行犯逮捕はできない=現行犯にも罪の軽重による制限がある。
出題準現行犯人として逮捕するには、逮捕の理由を告げなければならない(×)
出題現行犯人として逮捕する際、あらかじめ犯罪事実の要旨を告げなければならない(×)
関連間がないと認められなくても充分な理由・急速を要すれば現行犯逮捕できる/私人は急速を要する場合に限り理由を告げて逮捕できる(×)
- 「司法巡査は、甲を準現行犯人として逮捕するに当たり、甲に逮捕の理由を告げなければならない」(告知は緊急逮捕の要件)
- 「私人は、急速を要する場合に限り、その理由を告げた上で現行犯人を逮捕することができる」
- 「現行犯逮捕には、罪の重さによる制限が一切無い」()
5要件①重い罪:法定刑で測る条文
- 重い罪かどうかは、実際に科される刑ではなく法定刑(法律がその罪に定めた刑の幅)で測る。基準は長期(上限)が3年以上か。
- だから緊急逮捕の可否は、法定刑の軽重によって異なる。
| 罪 | 長期 | 緊急逮捕 |
|---|---|---|
| 窃盗罪(刑法) | 10年 | できる |
| 傷害罪(刑法) | 15年 | できる |
| 住居侵入罪(刑法) | 3年 | できる(3年以上) |
| 死体遺棄罪(刑法) | 3年 | できる |
| 暴行罪(刑法) | 2年 | できない |
空き巣は、通常、住居侵入罪と窃盗罪の両方が成立する。どちらも対象に入る。殴ったがけがはさせなかった(暴行罪)なら、どれほど逃げそうでも緊急逮捕はできない。相手がけがをすれば傷害罪になり、対象に入る。
- 従犯(幇助犯):刑は正犯の刑を減軽する(刑法)。有期拘禁刑の減軽は長期・短期の2分の1(刑法3号)。
- それでも緊急逮捕の判断は、減軽前の法定刑=正犯の法定刑で行う。この判断では、従犯であることは無視してよい。
- は「…拘禁刑に当たる罪」=罪そのものの法定刑で線を引く書き方。参考:公訴時効でもが「加重し、又は減軽しない刑に従つて」と明文で定める(同じ発想)。
空き巣に入る家が留守になる時間帯だけを教えた人(住居侵入の幇助)。減軽すれば長期1年6月だが、住居侵入罪そのものの長期3年で測るので、緊急逮捕の対象に入る。
出題緊急逮捕の対象=死刑又は無期若しくは長期□年以上の罪(正答:3)
出題緊急逮捕の可否は、法定刑の軽重によって異ならない(×)
出題死体遺棄罪の幇助は対象罪に当たらないので、緊急逮捕は許されない(×)
- 「死体遺棄罪の幇助は、長期3年以上の罪に該当しないので、これによる緊急逮捕は許されない」
- 「長期5年以上の拘禁刑に当たる罪」(数字のすり替え)
6要件②十分な理由:相当な理由より濃い嫌疑条文学説
| 通常逮捕 | 緊急逮捕 | |
|---|---|---|
| 条文の言葉 | 相当な理由() | 十分な理由() |
| 濃さ | この人がこの犯罪をした、と絞られたうえで疑いに理由がある | それより濃い嫌疑 |
- 要らないもの:有罪判決や公訴提起ができるほどの確実性(逮捕の時点の判断だから)。
- 要るもの:何らかの証拠に基づいて、特定の犯罪の犯人だと捜査機関が確信をもてる程度。
- 判決の補足意見(小谷・池田)は、嫌疑は捜査機関の主観的判断では足らず、客観的妥当性のある充分な理由が要るとする → 「確信」は捜査官の思い込みで足りるという意味ではない。
- 犯罪の嫌疑は、当該捜査機関の主観的判断では足らず、客観的妥当性のある充分な理由の存する場合であるから、現行犯の場合に準じて考えられる明白な根拠をもち、裁判官の判断を待たないでも過誤を生ずるおそれがないものとしなければならない。
| 例(教材の基準に当てはめた例。どの事実で線を越えるかは事案による) | 十分な理由 |
|---|---|
| 防犯カメラに、似た服装の人が映っていただけ | 足りない(疑いのきっかけにはなっても、確信まではもてない) |
| 被害届どおりの指輪を質店に持ち込み、カメラの顔とも一致した | 足りる方向(確信をもてる程度に近づく) |
出題緊急逮捕の「充分な理由」とは、公訴を提起するに足りる程度の嫌疑をいう(×)
- 「『充分な理由』とは、公訴を提起するに足りる程度の嫌疑があることをいう」
- 「十分な理由と相当な理由は、同じ程度の嫌疑をいう」
7要件③急速を要し:待てない事情条文学説
- 「急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができない」=次の2つが両方そろうこと。
- ①すぐに逮捕しなければ、被疑者が逃亡するか罪証を隠滅する可能性が高い。②逮捕状を請求する時間的な余裕が無い。
- ①だけでは足りない:時間さえあれば通常逮捕で済むから。緊急逮捕は、通常逮捕が間に合わない場合の手段。
- 実体の要件(重い罪・十分な理由・急速を要し)を欠いても、それだけでその人を逮捕できないと決まるわけではない → 逮捕状を請求して通常逮捕ができるかを検討する(逃げる様子が無く住所も分かっているなら、通常逮捕でも「明らかに逮捕の必要がない」かが問題になりうる)。
- 被疑者が自分から出頭して自首しても、それだけで緊急逮捕が許されないことにはならない(要件を満たせばできる)。
| 盗まれた指輪を質店に持ち込んだ男 | 急速を要するか |
|---|---|
| 代金を受け取って店を出ようとしている。逮捕状を取りに行く間に行方が分からなくなる | 要する |
| 勤め先にいることが分かっていて、夕方までは動かない見込み | 要しない(令状を取りに行く時間がある → 通常逮捕を検討) |
| 急速を要し(逮捕時の要件) | 逮捕の必要性(項目12) | |
|---|---|---|
| 問うこと | 逃亡などのおそれが差し迫っていて、逮捕状を待つ時間が無いか | そもそも身柄を押さえる意味があるか(逃亡・罪証隠滅のおそれ) |
出題自首した強盗殺人の被疑者は、待たせて逮捕状を求められるので緊急逮捕は許されない(×)
- 「強盗殺人罪の被疑者が警察署に自ら出頭して自首した場合、警察署内に待たせて逮捕状を求めることができるので、緊急逮捕が許されることはない」
- 「逃亡のおそれが高ければ、逮捕状を取りに行く時間があっても、急速を要する」
8要件④理由の告知条文学説
- :「その理由を告げて被疑者を逮捕することができる」=告知は逮捕のとき。後で逮捕状を示す際に告げれば足りる、ではない。
- 告げる中身=①被疑事実の要旨と②急速を要する事情の両方。被疑事実の要旨だけでは足りない。
- 程度:詳細な事実関係までは要らない。逮捕される人が、どんな事実で、なぜ急ぐのかを理解できる程度。
- 現行犯逮捕では、その場で明白なので告知の規定が無い。緊急逮捕は、現場を見ていない分を告知で補う。
「窃盗の疑いで逮捕する」とだけ言い、急ぐ事情を一言も告げなかった → 告知が欠ける方向に働く(被疑者が、なぜ急ぐのかを理解できたか)。
出題緊急逮捕の理由の告知は、逮捕状を示す際にすれば足りる(×)
出題緊急逮捕で被疑者に告げなければならないのは、被疑事実の要旨だけ(×)
- 「緊急逮捕における逮捕の理由の告知は、被疑者に逮捕状を示す際にすれば足りる」
- 「緊急逮捕するに当たって、被疑者に対し告げなければならないのは、被疑事実の要旨だけである」
9「直ちに」逮捕状を求める:誰が請求するか条文学説
- 「直ちに」=請求するまでに無駄な時間が無かったといえること(どこまで許されるかは事案による)。
- 請求には、十分な理由と逮捕の必要性を示す資料を付ける(資料を付ける点は通常逮捕の請求と同じ=刑事訴訟規則143条。通常逮捕で示すのは相当な理由)。逮捕後にそれを作る時間は認められるが、必要最小限に限る。
- は「直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない」とだけ書き、請求できる者を限っていない → 検察事務官・司法巡査でも請求できる(直ちにしなければならないので、請求できる人の到着を待たせない)。
- 通常逮捕の逮捕状の請求は、検察官又は司法警察員。警察官たる司法警察員については、公安委員会が指定する警部以上の者に限る(のかっこ書き)=階級の限定がかかるのは警察官だけで、通常逮捕だけ。
| 層 | 誰が請求するか |
|---|---|
| 刑事訴訟法() | 制限なし:検察官・検察事務官・司法警察員・司法巡査のどれでも |
| 犯罪捜査規範120条1項 | 指定司法警察員(公安委員会が指定する警部以上の司法警察員)又はその逮捕に当たった警察官が行うものとする。指定司法警察員がいないときは、他の司法警察員たる警察官でもよい |
- 犯罪捜査規範は法律ではなく、国家公安委員会規則(昭和32年国家公安委員会規則第2号)=警察官が捜査で守る規則。法律は請求者を限らず、警察の中で誰が請求するかを決めている=層が違うので矛盾しない=警察内部の分担の定めで、法律上の請求者の制限ではない。
出題緊急逮捕状の請求も、警察官は指定された警部以上の司法警察員に限られる(×)
出題緊急逮捕後の逮捕状は、司法警察員も検察官も、検察事務官も司法巡査も請求できる(○)
- 「緊急逮捕状の請求は、警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限り、これを行うことができる」
- 「緊急逮捕後の逮捕状の請求は、司法巡査にはできない」
10釈放・逃走しても請求は要る条文学説
- 犯罪捜査規範120条3項:被疑者を緊急逮捕した場合は、逮捕の理由となつた犯罪事実がないこと若しくはその事実が罪とならないことが明らかになり、又は身柄を留置して取り調べる必要がないと認め、被疑者を釈放したときにおいても、緊急逮捕状の請求をしなければならない。
- 緊急逮捕された被疑者が、司法警察員に引致された後、逮捕状を請求する前に逃走してしまった場合も、司法警察員は直ちに逮捕状を求める手続をしなければならない(解説書の説明。予備H23-15イでも○。120条3項の文言は釈放だけで、逃走は書かれていない)。
緊急逮捕の直後に人違いと分かって釈放した → それでも緊急逮捕状を請求する。
出題引致後・請求前に逃走しても、直ちに逮捕状を求める(○)
- 「緊急逮捕した被疑者を釈放したときは、逮捕状を請求する必要はない」
- 「緊急逮捕した被疑者が逮捕状請求前に逃走したときは、逮捕状を請求する必要はない」
11裁判官の審査の第1段:逮捕時の事情で学説
- 逮捕状の請求を受けた裁判官は、まず緊急逮捕そのものが適法かを審査する。
- 実体の要件(特に十分な理由)は逮捕した時点の事情で判断する。逮捕後に生じた状況(後で得た嫌疑の資料など)は資料にしない → 逮捕時に十分な理由が無ければ、後の取調べで自白しても要件を満たさない。
- 手続もここで見る:理由を告げたか、直ちに請求したか。実体の要件がそろっていても、告知を欠いたり請求が遅れたりすれば、緊急逮捕は認められない。
- なぜ逮捕時か:は、十分な理由がある場合に、逮捕できると書く=理由が要るのは捕まえるその時。
質店の前にいたというだけで指輪の男を捕まえ、取調べで空き巣を認めた → 捕まえた瞬間に確信をもてる程度の嫌疑が無かった=第1段で否定。
要件はそろっていたが、逮捕後、別件の取調べを優先して半日請求しなかった → 第1段(手続)で否定される方向。
出題「充分な理由」の判断に、逮捕後に生じた状況を資料とすることは許されない(○)
- 「逮捕時に充分な理由が無くても、逮捕後の取調べで自白が得られれば、緊急逮捕状は発付される」
12裁判官の審査の第2段:発付時の事情で学説
- 第1段が適法でも、裁判官は続けて、逮捕状を発付する時点の事情で、通常逮捕の要件=逮捕の理由と逮捕の必要性があるかを審査する(事後審査の性格)。
- 必要性の物差しは通常逮捕と同じ:明らかに逮捕の必要がないと認めるときは発しない(ただし書。刑事訴訟規則143条の3=逃亡のおそれも罪証隠滅のおそれも無いなど)。
- どちらの段が崩れても逮捕状は出ない → 直ちに釈放()。
| 設例 | 事情 | 結論 |
|---|---|---|
| ① | 逮捕時は十分な理由が無かったが、逮捕後の取調べで自白した | 第1段で否定 |
| ② | 逮捕時は適法。その後、本当の犯人が別に見つかり、男は事情を知らずに指輪を預かっていただけと分かった(理由が消えた) | 第2段で否定 |
| ③ | 逮捕時は適法。その後、身元と住所が確かめられ、指輪も押収されて、逃亡・罪証隠滅のおそれが明らかに無くなった(必要性だけが消えた) | 第2段で否定されうる |
出題発付には、直ちに請求したこと+逮捕時の緊急逮捕の要件+発付時の通常逮捕の要件の全部が要る(○)
- 「緊急逮捕が適法であれば、発付時に逮捕の必要性が無くなっていても、逮捕状は発付される」
- 「第2段の審査も、逮捕した時点の事情で判断する」
13緊急執行との区別(・)条文
- :逮捕状により逮捕するには、逮捕状を被疑者に示さなければならない。
- 緊急執行(がを準用):逮捕状を所持しないため示すことができない場合で、急速を要するときは、被疑者に被疑事実の要旨と逮捕状が発せられている旨を告げて逮捕できる。ただし、逮捕状はできる限り速やかに示さなければならない。
- 緊急執行は、発付済みの逮捕状を前提に、その執行をする手続。緊急逮捕は、逮捕状を求めずに先に捕まえ、後で逮捕状を請求する手続。
- 典型的な分かれ目は、逮捕状の発付が終わっているか(逮捕状が出ている事件で緊急逮捕をしてよいかは、項目14)。
| 緊急執行 | 緊急逮捕 | |
|---|---|---|
| 逮捕状 | 発付済みの逮捕状を前提に執行する(手元に無くて示せないだけ) | 逮捕状を求めずに捕まえる(典型はまだ無い事件。出ている事件で許されるかは項目14) |
| 逮捕のときに告げること | 被疑事実の要旨+逮捕状が発せられている旨 | 理由(被疑事実の要旨+急速を要する事情) |
| 逮捕の後 | できる限り速やかに逮捕状を示す | 直ちに逮捕状を請求する(裁判官の審査) |
出題逮捕状を所持せず示せない+急速を要する → 被疑事実の要旨と逮捕状が発せられている旨を告げて逮捕できる(○)
- 「緊急執行では、後で逮捕状を示すだけで、逮捕のときに告げることは無い」(要旨と発付の旨を告げる)
- 「緊急執行の後は、あらためて逮捕状を請求する」(それは緊急逮捕)
14逮捕状が出ている事件で緊急逮捕できるか学説
- 逮捕状が発付されている被疑事実について、緊急執行ではなく緊急逮捕をしてよいか。見解が2つある:Ⅰ=許されない/Ⅱ=緊急逮捕の要件さえ備わっていれば許される。
| Ⅰ 許されない | Ⅱ 要件があれば許される | |
|---|---|---|
| 根拠・批判 | —(出題の肢には挙がっていない) | 根拠:現行法上、逮捕状は裁判官の命令状とは解し難い/捜査官は逮捕状による逮捕の執行を義務付けられていない 批判:二重逮捕の危険を生じさせる |
| この見解から生じる問題 | 逮捕後できる限り速やかに逮捕状を示せないと予想されれば、緊急執行は相当でない → 手元に逮捕状を持たない司法警察員が指名手配の被疑者を見つけても、直ちに逮捕できないこともありうる | — |
| その問題への答え | ①逮捕状の呈示が遅れて制限時間内に勾留請求できなくても、で制限時間不遵守の免責を受けうる余地がある ②指名手配の被疑者については、逮捕状の発付を数通受けて要所に送付しておけば避けられる | — |
出題Ⅱ(二重逮捕の危険という批判/逮捕状は命令状でない・執行義務なし)
出題Ⅰ(直ちに逮捕できないこともある/の免責/数通の発付で回避)