刑事訴訟法 ゼロから刑事訴訟法#18

強制採尿(身体への侵入・令状の種類)

強制採尿を扱う回。絶対禁止ではなく真にやむを得ない最終手段として許容されること(最決昭55・10・23)、令状は条件付捜索差押許可状によること、採尿場所への連行も令状の効力で可能なことを押さえる。

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第2章 捜査 ⑬/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

1. 前提——身体への侵入と3つの令状

「体を調べる」にも段階がある。

  • ① 着衣のまま外から探る=捜索(捜索差押許可状)。侵害は比較的軽い。
  • ② 裸にして傷跡を見る・体内の目視等=検証身体検査令状(刑訴218①後段)で行う。
  • ③ 体に針を刺し血を採る等の侵襲=鑑定処分鑑定処分許可状(医学的処置)。
  • 通説は侵害の程度で、判例は行為の性質で区別。強制採尿はこの枠を超える独自処理(条件付捜索差押許可状)。

2. 第1の問い——そもそも許されるか(可否)★論文

強制採尿は身体への侵入+屈辱感=重大な人権侵害だが、絶対禁止ではない(身体検査でも同程度の侵害がありうる)。判例は真ん中に線を引く=真にやむを得ない場合の最終手段としてのみ許容。考慮要素は次の4つ+配慮。

  • ① 事件の重大性 ② 嫌疑の存在 ③ 証拠の重要性とその取得の必要性 ④ 適当な代替手段の不存在。
  • + 身体の安全と人格の保護のための十分な配慮。
  • #6の比例(必要性=アクセル/侵害=ブレーキ)の最も重い場面版。

3. 本丸——どの令状か(性質×直接強制の2目盛り)★論文

令状選び=2つの目盛りを両方満たすものを探す(道具箱から正しい工具を選ぶ)。

  • 目盛りA=処分の性質(探す/見る/分析)。目盛りB=抵抗されても無理やりできるか(直接強制が届くか)
  • 強制採尿は本人が暴れる前提=力が届かない令状は実戦で使えない(Bが効く)。
観点鑑定処分許可状説鑑定処分許可状+身体検査令状 併用説条件付捜索差押許可状説(判例・実務)
性質(目盛りA)○ 体内の医学的行為=分析に近い○ 同左○ 尿=体内の証拠物=捜索・差押え
直接強制(目盛りB)✕ 鑑定受託者に権限なし(225④が172不準用)○ 身体検査令状で222①→139が届く○ 捜索差押えとして届く
人権配慮身体検査令状側で対応○「医師の方法」の条件で補う(218⑨)
評価/批判実効性なし=暴れたら採れない令状2枚は便宜的すぎる2目盛りを一枚で満たす=採用

4. なぜ条件付捜索差押許可状か

  • 尿を「体内にある証拠物(モノ)」と捉え直す(財布を飲み込んだ犯人の財布も“押収すべき物”のまま)。
  • だから性質は捜索・差押え+直接強制も届く。残る人権配慮は令状の条件で補う。
  • 最決昭55・10・23:体内の尿を犯罪の証拠物として強制採取する行為は捜索・差押えの性質を有する→捜索差押令状による。右令状には「医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠」。
  • 条件の根拠=刑訴218条9項「裁判官は、身体の検査に関し、適当と認める条件を付することができる。」(※2026-05-21施行の令和7年法39号で旧6項→9項・「附する」→「付する」)

5. 直接強制のリレー——鑑定処分説の弱点

  • 身体検査令状=検証の一種→222条1項が139条(直接強制)を準用→力が届く。
  • 鑑定受託者(225条4項)は172条を準用しない→139条にもつながらない=直接強制不可
  • ※裁判所が選ぶ「鑑定人」は172経由で届くが、捜査機関依頼の「鑑定受託者」は届かない。
  • 結論=鑑定受託者は直接強制できない=だから鑑定処分許可状説は実効性で負ける。
  • 刑訴139条「裁判所は、身体の検査を拒む者を過料に処し、又はこれに刑を科しても、その効果がないと認めるときは、そのまま、身体の検査を行うことができる。」

6. 連行——病院まで連れて行けるか

強制採尿は危険を伴う=設備のある病院等で行う必要がある。

  • 逮捕・勾留済みなら拘束の効力で当然連行可。問題は身柄不拘束の被疑者。
  • 最決平6・9・16:任意同行が事実上不可能なら、強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで連行でき、必要最小限度の有形力も行使できる。令状に連行先を記載することも許される(望ましい)。
  • 逮捕状は不要=連行は令状にひっついた付随的処分(採尿という本番は病院という会場がないと開けない=令状の効力に含めて読む)。

📝 論文の型|強制採尿の可否と令状の種類

  • 【コア規範】(逐語暗記=太字キーワード)強制採尿は身体への侵入・屈辱感を伴うが絶対に許されないわけではなく、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、証拠の重要性と取得の必要性、適当な代替手段の不存在等に照らし、捜査上真にやむを得ないと認められる場合に、最終的手段として、被疑者の身体の安全と人格の保護のための十分な配慮の下に許容される〔最決昭55・10・23〕。体内の尿を犯罪の証拠物として強制的に採取する行為は捜索・差押えの性質を有するから、「医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない」旨の条件を付した捜索差押許可状による(218条9項)。
  • 【復元キー】①可否=絶対禁止ではない(要件を満たせば可) → ②要件=重大性・嫌疑・証拠の重要性と必要性・代替手段なし→真にやむを得ない最終手段+身体の安全と人格保護への配慮 → ③令状=尿は体内の証拠物=捜索・差押えの性質→条件付捜索差押許可状(218VI) → ④鑑定処分許可状説は直接強制不可で実効性を欠くから採らない/連行は令状の効力(平6・9・16)。
  • 【フル論証】強制採尿は身体への侵入・屈辱感を伴うが、強制処分として絶対に許されないわけではなく、被疑事件の重大性・嫌疑の存在・当該証拠の重要性とその取得の必要性・適当な代替手段の不存在等に照らし、捜査上真にやむを得ないと認められる場合には、最終的手段として、被疑者の身体の安全とその人格の保護のための十分な配慮の下に許容される(最決昭55・10・23)。体内の尿を犯罪の証拠物として強制的に採取する行為は捜索・差押えの性質を有するから、捜索差押許可状によるべきであり、これに「医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない」旨の条件を付して行う(218条9項)。鑑定処分許可状説は鑑定受託者に直接強制の権限がなく実効性を欠くから採らない。
  • 【事例】覚醒剤使用の嫌疑が濃厚な被疑者甲が、尿の任意提出を頑なに拒否した。捜査機関は甲の尿を証拠として確保するため強制採尿を行いたい。
  • 【問題提起】強制採尿は重大な人権侵害を伴うが、そもそも許されるか。許されるとして、いかなる令状によるべきか。
  • 【あてはめ】覚醒剤使用という重大事件で嫌疑も濃厚、体内の尿は使用立証の決定的かつ重要な証拠で取得の必要性が高い。甲は任意提出を頑なに拒み、ほかに代替手段がない。よって真にやむを得ない最終手段として、身体の安全と人格保護に配慮する限り許容。令状は、尿を体内の証拠物と捉え、医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせる旨の条件を付した捜索差押許可状(条件付捜索差押許可状)による。なお身柄不拘束で任意同行が事実上不可能なら、令状の効力として採尿に適する最寄りの場所まで連行でき、必要最小限度の有形力も行使し得る(最決平6・9・16)。

短答ひっかけ

  • 強制採尿の令状は捜索差押許可状(鑑定処分許可状でも身体検査令状でもない)。判例=最決昭55・10・23。
  • 鑑定処分許可状説の弱点=鑑定受託者に直接強制の権限がない(225④が172を準用しないため139条が及ばない)。
  • 身柄不拘束の連行に逮捕状は不要(強制採尿令状の効力=付随的処分・最寄りの採尿適地まで・必要最小限度の有形力)。最決平6・9・16。
  • 強制採血は尿と結論が一義でない(血液は“身体の一部”ゆえ議論が変わる=鑑定処分許可状+身体検査令状の併用説が有力/詳細は証拠法回へ送り)。
  • 可否の判例年月日は昭和55年10月23日(平成3年7月16日ではない)。

送り(回収先)

  • 強制採血・嚥下物の令状の詳細=第2章 捜査の補遺 or 第4章 証拠法回。
  • 直接強制の準用リレーの条文細部(172条・168⑥)=深入りしない(結論のみ)。
  • 違法な強制採尿で得た証拠の排除=第4章 証拠法の回(違法収集証拠排除法則)。
  • 次回 #19=第3章 公訴(公訴提起・起訴便宜主義・訴因=256③・312①の本格解説)。

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