逮捕②現行犯逮捕・準現行犯逮捕
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
令状が要らない逮捕
逮捕には原則として令状が要ります。それでも、目の前で人が殴られていれば、警察官は令状を待たずにその場で捕まえます。
- 令状が要らない場合がある:いま罪が行われている、または行われた直後なら、令状なしでその場で捕まえられます。
- なぜその場合だけ要らないのか:誤って別の人を捕まえてしまうおそれが、とても小さいからです。
- この1つの物差しが、この回の全部につながります。
(1) 逮捕の3類型
| 型 | 誰が判断するか | この回で扱うか |
|---|---|---|
| 通常逮捕(原則) | 裁判官が、逮捕状を出す前に審査する | 扱わない |
| 現行犯逮捕・準現行犯逮捕(例外①) | 逮捕する人自身(誰でもよい) | 扱う |
| 緊急逮捕(例外②) | 逮捕する人自身(逮捕した後で令状を請求する) | 扱わない |
なぜ現行犯だけ例外なのか(憲法33条)
令状主義の例外は、憲法33条の「現行犯として逮捕される場合を除いては」という一文に置かれています。
- 明白性:罪がいま行われているか、行われた直後なら、犯罪と犯人が明白です。
- 誤認逮捕のおそれ:明白なので、別の人を間違えて捕まえるおそれが小さくなります。
- 緊急の必要:その場で捕まえなければ、逃げられてしまいます。
- だから:裁判官の事前審査を省いてよい、という発想です。
| 通常逮捕 | 現行犯逮捕 | |
|---|---|---|
| 人違いを防ぐのは | 裁判官が事前に審査する | その場の状況そのものが、審査の代わりになる |
33条|日本国憲法 第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
現行犯人(212条1項)
212条1項は、現行犯人を2つの形で定めています。
(1) 「現に罪を行い」と「現に罪を行い終つた」
- 現に罪を行い:いま犯罪を実行している最中の者です。
- 犯罪が最後まで完成した既遂でも、実行に着手したが完成しなかった未遂でも構いません。
- 現に罪を行い終つた:罪を終えた瞬間だけでなく、その直後の者も含みます。
212条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
(2) 「直後」の物差し
どこまでが「直後」かは、時間と場所の近さで測ります。
- 時間的接着性・場所的接着性:罪を終えてから、時間と場所がどれだけ近いかです。
- 目安:一律の基準はありませんが、せいぜい30〜40分程度です。
- 時間と場所が離れるほど、犯罪と犯人の明白性は薄れます。
- 何を測るのか:逮捕する人自身から見て、犯罪と犯人が明白かどうかです。ここが現行犯の中心です。
- 犯行の瞬間を見ていなくてもよい:その場の状況から、逮捕する人にとって「この人が犯人だ」と明白なら足ります。
- ただし、被害者の話だけを頼りにするのでは足りません(第8節)。
(3) 「直後」の具体例
| 内容 | 結論 | |
|---|---|---|
| 適法な例 | 住居侵入の直後、通報を受けた警察官が、現場から約30メートルの場所で発見した | 直後と認められ、現行犯逮捕は適法 |
| 時間切れの例 | 万引きで、代金を払わず店の外に出た後、見失って時間が経った | 明白性が薄れ、現行犯逮捕はできなくなる |
| 追跡が続く場合 | 現行犯人と認めて追い始め、見失わずに追い続けている | 数十分以内なら現行犯逮捕できる。数時間離れたら、ふつうは準現行犯(1号)で考える |
- 万引きの補足:窃盗は、商品を取った時点で既遂です。
- それでも実務では、代金を払わず店を出たときのように、犯行が誰の目にも明確になるまで待つことが多いです。
- 追跡する人の交代:途中で追う人が代わっても構いません。
- 例:漁業監視船が密漁船を見つけて追ったが、船足が遅いので、近くにいた民間の漁船に頼んで追跡を引き継いだ。漁船は約3時間追い続けた。
- 判例は、監視船も漁船も、現行犯逮捕をするために追跡を続けたのだから、213条に基づく適法な現行犯逮捕の行為だとしました。
- 引き継いだのは私人です。誰でも逮捕できるという213条(第4節)が、ここでも効いています。
- この判例の読み方:現行犯逮捕に取りかかった追跡が、途切れずに続いた場面です。
- 「直後」の目安そのものが数時間に延びる、という意味ではありません。
- 追跡が続いていても、数時間離れた後の逮捕は、一般には準現行犯(212条2項1号・追呼)として検討します。
現行犯人は誰でも逮捕できる(213条)
現行犯逮捕には、通常逮捕とまったく逆の特徴がもう1つあります。逮捕できる人の範囲です。
- 何人でも:警察官に限らず、一般の人(私人)でも、逮捕状なしで現行犯人を逮捕できます。
- 通常逮捕との違い:通常逮捕では、逮捕状を請求できるのは、検察官と警部以上の司法警察員に限られていました。
- なぜ広げるのか:理由は同じで、誤認逮捕のおそれが小さいからです。
- 誰が捕まえても間違えにくいので、捜査機関に限る理由がそもそもありません。
213条|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。
(1) 私人逮捕の後始末(214条・215条)
私人が現行犯人を捕まえた後、自分の手元に留めておくことはできません。
- 私人:逮捕した人を、直ちに検察官か司法警察職員へ引き渡さなければなりません(214条)。
- 司法巡査:引き渡しを受けたときは、速やかに司法警察員のもとへ連れて行きます(引致・215条1項)。
- 司法巡査は、1人では重い判断をせず、司法警察員のもとで動く警察官です。私人逮捕の後始末にも、この区別が効いています。
214条|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)検察官、検察事務官及び司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなければならない。
215条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:司法巡査は、現行犯人を受け取つたときは、速やかにこれを司法警察員に引致しなければならない。
準現行犯人(212条2項)
「直後」を過ぎても、一定の手がかりがあれば、現行犯人とみなす制度があります。これが準現行犯人です。
- みなす:本当は現行犯人ではない者を、法律上、現行犯人と同じに扱うことです。
- だから準現行犯人も、213条により、誰でも逮捕状なしで逮捕できます。
- 条文の要件:条文が定めるのは、次の2つです。
- 罪を行い終わってから間がないと明らかに認められること(時間的・場所的接着性)
- 1号から4号のどれかに当てはまること
- 解釈で加わる要件:現行犯逮捕と同じ理由から、さらに次の2つも要るとされています。
- 逮捕する人にとって、犯罪と犯人が明白であること
- 緊急に逮捕する必要性があること(第10節)
- 準現行犯逮捕の適否は、この4つを順に当てはめて検討します。
(1) 「直後」と「間がない」
| 現行犯(直後) | 準現行犯(間がない) | |
|---|---|---|
| 時間的・場所的接着性 | 目安 約30〜40分(一律ではない) | 目安 約3〜4時間(緩和される・一律ではない) |
| 追加の要件 | 不要 | 212条2項1〜4号のどれかに当たること |
- 引き換え:時間が緩む代わりに、目に見える客観的な手がかりを求められます。
- 理由:時間が空くほど、その間に別の人と取り違えるおそれが増えます。その分を、手がかりで埋めさせるためです。
- 例:ひったくりの2時間後、盗まれたのと同じバッグを抱えて走る人を見つけた。これは2号の手がかりです。
- 手ぶらで歩いているだけなら、2時間後に準現行犯人として逮捕することはできません。
- 緩くなった制度ではなく、引き換えのある制度です。
(2) 4つの号(追呼・贓物・証跡・誰何)
| 号 | 内容 | 補足 |
|---|---|---|
| 1号 | 犯人として追呼されている | 追いかけられていることです。声を出さず黙って追われている場合も含みます。追う人が交代しても構いません |
| 2号 | 贓物、または犯罪に使ったと明らかに思われる兇器などを持っている | 贓物=盗品などです。準現行犯人と認める時点で持っていれば足ります。逮捕の時点で持っている必要はなく、警察官に見つかってから投げ捨て、その後に逮捕された場合も当たります |
| 3号 | 身体か服に、犯罪の顕著な証跡がある | 例:傷害事件の後、けがをしている人や、返り血を浴びた服を着ている人。服は身につけている必要があり、自宅に隠した血の付いた服では当たりません |
| 4号 | 誰何されて逃げようとする | 誰何=相手が誰かを確かめることです。「待て」と声をかけられて逃げた場合や、声をかけられなくても警察官がいると気づいて逃げる場合も含みます |
212条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)2項:左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。一 犯人として追呼されているとき。二 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。三 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。四 誰何されて逃走しようとするとき。
(3) 号が重なるほど明白性は強まる
条文上は、1号から4号のどれか1つに当てはまれば足ります。ただし、号によって強さが違います。
- 重複:各号に重ねて当てはまるほど、犯罪と犯人の明白性は強まります。
- 4号単独は弱い:誰何されて逃げた、という事情だけでは、明白性は弱いとされます。
- 理由:逃げる理由は、犯罪と関係ない場合もあるからです。
- 例:職務質問(警察官が、怪しい様子の人を呼び止めて質問すること・警察官職務執行法2条1項)そのものを嫌がって逃げる人もいます。犯人だからとは限りません。
- だから:4号は、2号や3号と重なっていないと弱い、ということになります。
和光大学内ゲバ事件(準現行犯逮捕を適法とした例)
準現行犯逮捕で、現場を見ていない逮捕者が明白性をどう判断したかが分かる決定です。
- 事案
- 兇器準備集合・傷害の事件(いわゆる内ゲバ事件)から約1時間〜1時間40分後、いずれも現場から約4キロ離れた場所で、被疑者3人が発見・逮捕されました。
- 逮捕者は、逮捕の前に無線通報で得ていた犯人の特徴や状況を、判断資料の一部にしました。
- 3人とも、職務質問のため止まるよう求められると逃げ出しました(4号)。
- 1人は、追いついてみると腕に籠手(こて)を着けていました(2号)。残る2人は、靴や服が泥まみれで、1人は顔に新しい傷がありました(3号)。
- 結論:212条2項2号ないし4号に当たる者として、準現行犯逮捕は適法とされました。
- 決定は、この事実関係の下での事例判断です。
- 逮捕前に得ていた情報:準現行犯は、そもそも時間と場所が離れていることが前提です。逮捕の瞬間に見える状況だけで判断するのは難しいので、逮捕前に得ていた情報も、補助的な資料として使ってよいとされています。
- 事案の読み方:逮捕者が直接見ていない分を、無線情報と複数の号の重なりが補っていた、と読めます。
- 現場を見ていなくても、手がかりが積み重なれば足ります。
和光大学内ゲバ事件最高裁判所決定準現行犯逮捕を適法とした事例判断以上のような本件の事実関係の下では、被告人三名に対する本件各逮捕は、いずれも刑訴二一二条二項二号ないし四号に当たる者が罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるときにされたものということができるから、本件各逮捕を適法と認めた原判断は、是認することができる。
共謀共同正犯と準現行犯逮捕
実際に手を出していない人でも、準現行犯逮捕の対象になりえます。
- 共謀共同正犯:自分では手を下さなくても、一緒にやろうと合意し、その合意どおりに仲間が実行すれば、正犯として扱われるという刑法の考え方です。
- 例:路上で、仲間に「あいつを殴れ」とその場で指示し、仲間が殴った。指示した人は手を出していません。
- 対象になりうる理由:212条2項の「罪を行い」は、実行した人に限るとは書いていません。
- ただし要件は重い:指示しただけの人が、誰でも対象になるわけではありません。次の3つのすべてが、逮捕者にとって明白でなければなりません。
- 共謀(一緒にやる合意)
- 実行に準ずるほど大きな役割
- 合意どおりの実行
- なぜ重いのか:実行そのものを見ていない分、誤認のおそれが増えるからです。ここでも誤認のおそれの小ささが物差しです。
京都恐喝未遂事件(供述だけでは足りない)
距離も時間も近いのに、現行犯逮捕が違法とされた裁判例です。
- 事案
- 逮捕者は、恐喝未遂の被害者から、犯人の容ぼうなどを聞き取りました。
- その情報だけを頼りに、犯行から約20分後、現場から約20メートルの場所で被疑者を見つけました。
- 被害者に対面させて確認させただけで、現行犯逮捕しました。
- 結論:現行犯逮捕は違法とされました。準現行犯人の要件も満たしていません。
- 緊急逮捕なら:この事案は、緊急逮捕(逮捕した後で令状を請求する型)の要件は満たしていたと考えられています。現行犯・準現行犯の要件を欠くときは、続けて緊急逮捕を検討します。
- 決め手:被害者の供述のほかに、逮捕者自身が確かめる手だてが無かったことです。
- 覚知:逮捕者が、自分の目や耳で直接つかむことです。
- なぜ供述だけではだめか:被害者の記憶違いや人違いを、その場の逮捕者は確かめようがないからです。そこが欠けると、誤認のおそれが小さいという、令状が要らない前提そのものが崩れます。
京都恐喝未遂事件京都地方裁判所決定供述のみに頼った現行犯逮捕被疑者を現行犯人として逮捕することが許容されるためには、被疑者が現に特定の犯罪を行い又は現にそれを行い終った者であることが、逮捕の現場における客観的外部的状況等から、逮捕者自身においても直接明白に覚知しうる場合であることが必要と解されるのであって、被害者の供述によること以外には逮捕者においてこれを覚知しうる状況にないという場合にあっては、……現行犯逮捕の如きは、未だこれをなしえないものといわなければならない。
(1) 2つの事件の対比
| 和光大学内ゲバ事件 | 京都恐喝未遂事件 | |
|---|---|---|
| 時間・距離 | 約1時間〜1時間40分後・約4キロ | 約20分後・約20メートル |
| 判断の資料 | 無線通報の情報+2号・3号・4号の重なり(補助的な資料+客観的な事由) | 被害者の供述だけ(逮捕者自身が確かめる手だてが無い) |
| 結論 | 適法 | 違法 |
- 一線:明白性の判断に供述を使えるかは、見解が分かれます。
- その場の客観的な状況だけで判断する見解と、客観的な状況を補う限りで供述も考えてよいとする見解(実務では多数とされる)があります。
- どちらの見解でも、供述だけで埋め合わせてはいけません。現行犯逮捕は、緊急逮捕と違って後から令状の審査も受けないので、認める範囲を厳しく絞るべきだからです。
- 結論が変わる場面:同じ20メートル・20分でも、現場から走り去る姿を警察官自身が見ていて、見失わずに追っていたなら、被害者の話が無くても明白です。現行犯逮捕できます。
- 決まるもの:距離や時間ではなく、逮捕者自身が何を見たかです。誤認のおそれの小ささを、逮捕者自身が言えるかどうかが分かれ目です。
軽微事件の現行犯逮捕の制限(217条)
現行犯人・準現行犯人に当たっても、逮捕できない場合があります。1つ目は、軽い罪の場合です。
| 通常逮捕(199条1項ただし書き) | 現行犯逮捕(217条) | |
|---|---|---|
| 対象となる罪 | 30万円(刑法・暴力行為等処罰法・経済関係罰則整備法の罪以外は、当分の間2万円)以下の罰金・拘留・科料に当たる罪 | 同じ |
| 追加で必要な事情 | 住居不定、または正当な理由のない不出頭 | 住居か氏名が明らかでない場合、または逃亡のおそれがある場合 |
- 拘留・科料:どちらも軽い刑です。拘留は1日以上30日未満の刑事施設への拘置、科料は1000円以上1万円未満の金銭の刑です(刑法16条・17条)。
- 理由(共通):軽い罪のために身体を拘束するのは、釣り合いが取れないからです。
- 「逃げそうにない軽い罪の人まで拘束しない」という発想は、通常逮捕と現行犯逮捕で共通しています。
- 条文の読み方:217条は、213条(誰でも令状なしで逮捕できる)からの規定を、この場合に限って使えるとしています。当たらなければ、現行犯逮捕はできません。
217条|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪の現行犯については、犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合に限り、第二百十三条から前条までの規定を適用する。
現行犯逮捕にも要る「逮捕の必要性」
逮捕できない場合の2つ目は、逮捕の必要性が無い場合です。令状が要らない逮捕にも、歯止めがあります。
- 通常逮捕では:明らかに逮捕の必要が無いと認めるとき、裁判官は逮捕状の請求を却下します(199条2項ただし書き)。
- 現行犯逮捕では:この要件を定める明文がありません。
- それでも要る:必要性が無くても逮捕できる、とは考えられていません。
- 理由:逮捕は、身体の自由を奪う強力な処分だからです。
- 現行犯逮捕は、その場で緊急に逮捕する必要があるからこそ認められる制度です。だから、逮捕の必要性は当然に要求されると解されています(解釈で補う)。
- 否定された例:軽微な交通違反で、被疑者の身元がすでに明らかな事案では、必要性に乏しいとされた例があります。