逮捕④逮捕後の手続——48時間・24時間・72時間
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第2章 捜査 ⑭/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
手錠がかかった瞬間、時計が動き出す

その瞬間から、捜査機関に渡された時間が動き始めます。逮捕で一段落ではありません。むしろ、ここからしなければならないことが山ほどあります。時計は何本かあって、それぞれ動き出すタイミングが違います。全部足せばいい、と考えたくなる所が、今日いちばんの引っかかりです。単純な足し算にはなりません。もう1つ、時間より先に渡さなければならないものが3つあります。中身に入りましょう。
3つの入り口が、ここで1本に合流する

これまで、逮捕には3つの入り口があると話してきました。入り口の要件は、3つとも別々です。捕まえた後の手続は、どの入り口を通ってもほとんど同じ形に合流します。入り口がどれであれ、そこにいるのは「まだ有罪と決まっていない人」だからです。だから、本人に理由を知らせ、言い分を聞き、期限を切って次の判断者に渡す、という仕組みは同じで済みます。告知と弁解、時間の制限、そして守れなかったときの効果。この3つの層で進めます。
引致——判断できる人の元へ直ちに

まず、いちばん最初の一歩、引致からです。引致とは、身体の自由を拘束した人を、決められた場所へ強制的に連れて行くことでしたね。
条文刑事訴訟法第202条
刑事訴訟法第202条——引致 検察事務官又は司法巡査が逮捕状により被疑者を逮捕したときは、直ちに、検察事務官はこれを検察官に、司法巡査はこれを司法警察員に引致しなければならない。
自分で決められないのは、弁解を聞いて留置の要否を決めることが、一定の経験を積んだ立場の人だけに任されているからです。検察事務官や司法巡査は、判断できる人の元へ、直ちに連れて行く役割です。通常逮捕で司法巡査が捕まえたなら、直ちに司法警察員の元へ引致します。この後の告知・弁解の主体は、引致を受けた司法警察員です。
告知と弁解の機会——203条

ここからが、今日の中心の条文です。
条文刑事訴訟法第203条第1項
刑事訴訟法第203条第1項 司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
分けると、やることは3つです。1つ目、犯罪事実の要旨を告げること。2つ目、弁護人を選任できる旨を告げること。3つ目、弁解の機会を与えることです。何を疑われているか、言い分を言える場があるか、弁護人を頼めるか。この3点は、この後の手続でも繰り返し出てきます。留置の必要がなければ直ちに釈放。あれば、身体を拘束された時から48時間以内に、検察官へ送致する手続をします。留置の必要と逮捕の必要性とは、見る時点が違います。逮捕状のときは、捕まえてよいか。ここでは、弁解を聞いた今も、拘束を続ける必要があるかを見直します。
検察官に実際に届くまでは求められていません。求められているのは、48時間以内に送る手続を済ませることです。この違いが、後で数字を動かすときに効いてきます。すでに弁護人がいれば、選任権の告知は重ねてしなくてよく、まだいなければ、弁護士や弁護士会を指定して申し出る方法と、国選弁護人を請求できることまであわせて教える決まりになっています。弁解の内容は、書面にまとめて残します。弁解を聞いて書面に残すこの手続を、弁解録取と呼びます。引き渡しを受けた後も同じです。犯罪事実の要旨と、弁護人を選任できることを告げた上で、弁解の機会を与えます。
憲法34条と「告知・弁解・防御の機会」

憲法34条までさかのぼれます。
条文日本国憲法第34条前段
日本国憲法第34条前段 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。
203条の3点セットは、この憲法の一文を具体化したものなんです。「告知・弁解・防御の機会」を与えることが適正手続の根幹だと述べた判例があります。
判例最高裁判所大法廷・昭和37年11月28日判決〔第三者所有物没収事件〕(刑集16巻11号1593頁)
最高裁判所大法廷判決——告知・弁解・防御の機会 第三者の所有物を没収する場合において、その没収に関して当該所有者に対し、何ら告知、弁解、防禦の機会を与えることなく、その所有権を奪うことは、著しく不合理であつて、憲法の容認しないところであるといわなければならない。
逮捕の場面ではありません。第三者の持ち物を没収する場面で出た判断です。没収で奪われるのは持ち物、逮捕で奪われるのは身体の自由です。奪われるものは違っても、国が一方的に奪う前に、理由を知らせ、言い分を聞く、という筋は同じです。しかも身体の自由は、持ち物より重い。持ち物でも欠かせない筋なら、逮捕ではなおさらです。逮捕については、さっきの憲法34条が、理由を告げることと弁護人を頼めることを、直接書いています。この型は、この後の手続でも名前を変えて何度も出てきます。
弁解録取と被疑者取調べ——同じではない

弁解の機会と取調べは、同じではありません。中身が違います。まず、誰ができるかが違います。弁解の機会を与えられるのは、検察官と司法警察員だけ。取調べは、検察官・検察事務官・司法警察職員の誰でもできます。
条文刑事訴訟法第198条第1項・第2項
刑事訴訟法第198条第1項・第2項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。 前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
弁解の機会は、逮捕された被疑者だけが対象です。取調べは、在宅の被疑者にも使えます。取調べには、自分の意思に反して話す必要はない、という黙秘権の告知が条文で決まっています。弁解の機会には、この告知を求める条文がありません。条文の上では、要求されていません。実務では、弁解の機会でも黙秘権を告げていることが多いんです。弁解を聞く場と、取調べの場が、実際には区別しにくいからです。弁解を聞いているつもりが、実質的には取調べになっている、という場面がありえます。司法警察員が弁解を聞くうちに、「なぜ持ち去ろうとしたのか」と動機まで掘り下げ始めることがあります。それはもう、実質的には取調べです。名前ではなく中身で見る、という点は、任意同行が実質的には逮捕になっていないかを確かめた回と同じ発想です。
短答で問われたら、答えは「条文上、弁解の機会に黙秘権の告知は要求されていない」です。
48時間の時計——起算点は身体を拘束された時

ここで、時間の話に入ります。まず、シリーズの2本目、手続の全体像を見た回で、48時間・24時間・72時間という数字は一度渡しています。それぞれ、いつから数え始めるものでしたか?48時間は身体を拘束された時、24時間は検察官が受け取った時、72時間も身体を拘束された時からでした。今日は、数字の暗記はやり直しません。この起算点の違いを、一段深く見ます。そして、48時間以内に終えるべきことは、検察官へ実際に届けることではありません。この違いが、次に見る数字の話の出発点になります。
24時間の時計と、72時間という別の枠

検察官の方に移ります。
条文刑事訴訟法第205条第1項
刑事訴訟法第205条第1項 検察官は、第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。
送致された時ではなく、受け取った時からです。
条文刑事訴訟法第205条第2項
刑事訴訟法第205条第2項 前項の時間の制限は、被疑者が身体を拘束された時から七十二時間を超えることができない。
48足す24が72と一致するのは、中継、つまり送致から受理までがゼロ秒で終わった場合だけです。48時間は「送致する手続をする」までの時間です。手続を終えてから、実際に検察官が受け取るまでには、移動や事務の時間がかかります。72時間という外枠は、身体を拘束された時から動いていて、動かせません。受け取った時点で、もう48時間を過ぎていれば、過ぎた分だけ、検察官が実際に使える時間は、24時間より短くなります。72時間は、48時間と24時間を足して作られた数字ではありません。被疑者本人を主語にした、独立の上限です。
もし72時間が無ければ、中継に手間取った分だけ、拘束される本人の時間が際限なく延びてしまいます。72時間は、その延びを止める最終ラインです。
数字を動かしてみる——設例

ここで、数字を動かしてみましょう。別の事件で考えます。警察官が逮捕状で逮捕してから、送致する手続を終えるまでに45時間かかりました。ここまでは違法ではありません。ただ、そこから検察庁が実際に受け取ったのは、逮捕から49時間目でした。ここで1つ、考えてほしいです。警察が45時間かけて送致の手続を終え、検察庁が49時間目に受理しました。検察官の持ち時間は、何時間残っていますか?24時間ではありません。72時間という外枠から、すでに経過した49時間を引いてください。検察官が使えるのは、24時間ではなく、残り23時間です。
1時間でも、意味は大きいです。移動には4時間かかりましたが、削られるのは、受理が48時間の線を越えた1時間だけです。いつでも短くなるわけではありません。送致の手続が40時間目、受理が44時間目なら、72から44を引くと28時間。24時間より長いので、外枠は届かず、24時間まるまる使えます。以前見た「48足す24は72で一致する」という説明とも、矛盾はしません。あちらは、中継にかかる時間を無視した基本形でした。受理が48時間の線を越えると、越えた分だけ検察官の持ち時間が短くなる。今日は、そこを一段深く見た、ということです。
誰が捕まえたかで、ルートが変わる

引き継ぎの経路は、誰が捕まえたかで変わります。経路は4通りです。順番に見ましょう。1つ目、司法警察員が自分で逮捕した場合。引致は不要で、そのままさっきの48時間ルートに入ります。検察事務官が逮捕した場合。まず202条で検察官へ引致します。
条文刑事訴訟法第204条第1項
刑事訴訟法第204条第1項 検察官は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者(前条の規定により送致された被疑者を除く。)を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。但し、その時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。
検察官が、身体を拘束された時から48時間以内に勾留請求します。204条には、203条の「送致する手続」がありません。すでに検察官の手元にいるので、送致という段階そのものが要らないんです。検察官が自分で逮捕した場合。これも同じく、直ちに48時間ルートに入ります。告知の中身は、203条と同じです。私人が現行犯人を捕まえたときどうするか、見ましょう。
条文刑事訴訟法第214条
刑事訴訟法第214条——私人による逮捕後の引渡し 検察官、検察事務官及び司法警察職員以外の者は、現行犯人を逮捕したときは、直ちにこれを地方検察庁若しくは区検察庁の検察官又は司法警察職員に引き渡さなければならない。
店員さんは、自分で留め置かず、直ちに検察官か司法警察職員へ引き渡します。
条文刑事訴訟法第216条
刑事訴訟法第216条——現行犯逮捕への準用 現行犯人が逮捕された場合には、第百九十九条の規定により被疑者が逮捕された場合に関する規定を準用する。
引き渡された人が司法警察員なら203条、検察官なら204条というふうに、受け取った側の立場に応じて、さっきの4通りのどれかに乗ります。通常逮捕も、緊急逮捕も、そして現行犯逮捕も、202条から206条までの手続に合流します。時間の起算点は、私人が捕まえた時、だと考えられています。216条で準用される条文が、「身体を拘束された時」から数えると書いているからです。店員さんが取り押さえた時点で、拘束はもう始まっています。受け取りが遅れても、警察の48時間は、店員さんが取り押さえた時からもう減り始めています。起算点が拘束の時に固定されている、という点で、さっきの72時間の外枠と同じ発想です。
時間を守れなかったら——直ちに釈放

最後に、時間を守れなかったらどうなるかを見ます。期限は、拘束を続けてよいかを次の判断者に確かめさせるための区切りでした。区切りまでに渡せなければ、拘束を続ける根拠がなくなります。48時間以内に送致の手続ができなければ、直ちに釈放。24時間以内に勾留請求できなければ、これも直ちに釈放です。
条文刑事訴訟法第206条第1項・第2項
刑事訴訟法第206条第1項・第2項 検察官又は司法警察員がやむを得ない事情によつて前三条の時間の制限に従うことができなかつたときは、検察官は、裁判官にその事由を疎明して、被疑者の勾留を請求することができる。 前項の請求を受けた裁判官は、その遅延がやむを得ない事由に基く正当なものであると認める場合でなければ、勾留状を発することができない。
やむを得ない事情は、極めて狭く解されています。天災や大きな事故で交通機関が止まった、というような場面が想定されています。事務所が混んで手が回らなかった、というくらいの理由なら、認められません。例外を広く認めると、期限そのものの意味がなくなってしまうからです。だから、ここは検察官が事情を疎明し、裁判官が本当にやむを得ないものだったかを確かめます。認めなければ、勾留状は出ません。そのときは、207条5項ただし書により、裁判官が、直ちに被疑者の釈放を命じます。
逮捕されている間、被疑者にできること

何もできないわけではありません。
条文刑事訴訟法第39条第1項
刑事訴訟法第39条第1項 身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第三十一条第二項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。
弁護人や、弁護人になろうとする人とは、逮捕されているあいだも立会人なしで会えます。弁護士が警察署に来れば、店員さんに取り押さえられたその夜、48時間の時計が動いている最中でも、立会人なしで会えます。逮捕そのものへの不服には、大きな壁があります。
条文刑事訴訟法第429条第1項
刑事訴訟法第429条第1項 裁判官が次に掲げる裁判をした場合において、不服がある者は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消し又は変更を請求することができる。 一 忌避の申立てを却下する裁判 二 勾留、保釈、押収(電磁的記録提供命令(第百二条の二第一項第一号イに掲げる方法による提供を命ずるものに限る。)を含む。)、押収物の還付、電磁的記録提供命令(同号ロに掲げる方法による提供を命ずるものに限る。)又は第百二十三条の二第一項(第五百十三条第十項において読み替えて準用する場合を含む。)の規定による複写に関する裁判 三 鑑定のため留置を命ずる裁判 四 証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判 五 身体の検査を受ける者に対して過料又は費用の賠償を命ずる裁判
勾留や保釈は入っていますが、逮捕は入っていません。最高裁も、そう判断しました。
判例最高裁判所第一小法廷・昭和57年8月27日決定(刑集36巻6号726頁)
最高裁判所第一小法廷決定——逮捕への準抗告 逮捕に関す裁判及びこれに基づく処分は、刑訴法四二九条一項各号所定の準抗告の対象となる裁判に含まれないと解するのが相当である
最高裁の決定は、結論を示したものです。理由は、手続の作りから考えます。逮捕は、長くても72時間で終わります。不服を審査しているうちに、逮捕の時間は過ぎてしまいます。その代わり、逮捕に続く勾留は、請求の段階で裁判官が審査します。勾留には、準抗告もできます。争う場は、拘束が長くなる勾留の段階に置かれている、ということです。逮捕のあいだも、手ぶらではありません。弁護人とは会えますし、時間を守らなければ直ちに釈放、という歯止めも働いています。今日は、逮捕は準抗告の対象に含まれない、という一線だけ持ち帰ってください。
今日の地図(保存版)

今日渡した柱を、振り返りましょう。1つ目。逮捕の直後に必ず渡すのは、犯罪事実の要旨、弁解の機会、弁護人選任権の3つです。これは、憲法34条から来ている型でした。時間の数字は、起算点とセットで覚えます。72時間は、48時間と24時間を足した結果ではなく、独立した外枠です。時間を守れなければ直ちに釈放。例外の「やむを得ない事情」は、極めて狭くしか認められません。受理が47時間目なら、まだ48時間の手前です。72時間の外枠は届かないので、24時間まるまる使えます。そして、検察官が24時間以内に勾留を請求すると決めたら、その先には別の手続が待っています。
次に扱うのは、勾留を請求された後の話です。逮捕とは違う、もっと長い身柄拘束が始まります。
参照条文
- 刑事訴訟法第202条
- 刑事訴訟法第203条第1項
- 日本国憲法第34条前段
- 刑事訴訟法第198条第1項・第2項
- 刑事訴訟法第205条第1項
- 刑事訴訟法第205条第2項
- 刑事訴訟法第204条第1項
- 刑事訴訟法第214条
- 刑事訴訟法第216条
- 刑事訴訟法第206条第1項・第2項
- 刑事訴訟法第39条第1項
- 刑事訴訟法第429条第1項