勾留①要件と勾留質問——10日の身柄拘束を認める条件
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第2章 捜査 ⑮/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
あと10日、拘束させてください

「この人を、あと10日、拘束させてください」というお願いです。はいと言うだけではありません。裁判官は、いくつもの条件を確かめてから決めます。条件は大きく2段あります。1つは「疑う理由があるか」、もう1つは「本当に10日も拘束する必要があるか」です。理由があれば必要性も自動的にある、そう思いたくなりますが、今日いちばんの引っかかりがそこにあります。理由と必要性は、別のチェックです。もう1つ、裁判官は書類だけでは決めません。必ず、被疑者本人に会います。中身に入りましょう。
逮捕とは別物、勾留という拘束

これまで、逮捕から72時間以内に何が起きるかを見てきました。そして、逮捕は捜査機関が短時間、身柄を確保する措置でした。勾留は違います。裁判官が、もっと長い期間、身柄を拘束するかどうかを、直接判断します。一言でいえば、捜査を遂げるためです。ただ、逮捕状の審査は書類だけを見て決めます。裁判官が被疑者に直接会うのは、勾留が初めてです。争う場は、拘束が長くなる勾留の段階に置かれています。だからこそ、勾留の条件は、逮捕よりも厳しく作られています。求められるのは検察官だけです。警察官には、勾留を求める権限がありません。
そこから先、裁判官が何を見て何を確かめるか、というのが今日の中身です。在宅のまま捜査が進む事件には、そもそもこの被疑者の勾留がありません。起訴されて初めて、被告人としての勾留が問題になります。名前は違いますが、実は中身の条文を借りています。まず勾留の「理由」を、次に「必要性」を、最後に裁判官が直接会う手続を見ます。
なぜ「被告人」の条文を読むのか

ここからの条文には、ある共通のクセがあります。「被告人」と書いてある条文を、被疑者の話として読みます。
条文刑事訴訟法第207条第1項
刑事訴訟法第207条第1項 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
答えは、この条文にあります。勾留の請求を受けた裁判官は、その処分について、裁判所や裁判長と同一の権限を持ちます。起訴された後、被告人を勾留するのは、本来、裁判所や裁判長の権限です。60条や61条、87条は、もともとその場面の条文なんです。207条1項が、起訴前の裁判官にも同じ権限を与えています。この仕組みを、授権と呼びます。だから、被告人を主語にした条文を、そのまま被疑者にも読み替えて使えます。保釈は、起訴された後の制度だからです。ここでの「保釈は除く」は、その保釈の話です。では、この橋を渡って、60条を読みに行きましょう。
勾留の理由①相当な嫌疑

60条1項が、勾留の「理由」を定めています。
条文刑事訴訟法第60条第1項
刑事訴訟法第60条第1項 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。一 被告人が定まつた住居を有しないとき。二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
分けると、2つの要素です。1つ目は、柱書の「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」。これを、相当な嫌疑と呼びます。逮捕にも、相当な理由という要件がありました。勾留も、言葉は同じ「相当な理由」です。ただ、勾留は拘束が長く、逮捕の後で資料も集まっています。そのため、逮捕のときより、少し高い疑いが求められる、と考えられています。1号から3号までのうち、どれか1つにあたることです。3つとも満たす必要はありません。住居不定、罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれ。この3つのうち、どれか1つで足ります。通常逮捕の回では、逃亡や罪証隠滅のおそれは、「逮捕の必要性」として、「明らかに必要が無いとはいえない」程度で足りました。勾留は逆です。住居不定・罪証隠滅・逃亡のいずれかを、積極的に認められないと出ません。
発想は近いです。身柄拘束が長くなる分だけ、求められるハードルも上がります。1号から順に、見ていきましょう。
勾留の理由②住居不定
図:住民票の住所があっても寄りつかなければ住居不定になりうるという対比板
1号は、定まった住居を持たないときです。住民票の住所があるだけでは、足りません。例えば、住民票は実家に置いたまま、半年以上、友人の家を転々としていて、本人も「もう戻らない」と話している人がいます。この場合、住民票があっても、住居不定と判断される余地があります。何日か家に帰っていなくても、すぐ住居不定とは限りません。親と喧嘩して家を出て、3日間友人宅に泊まっていても、連絡が取れて、戻る意思もはっきりしていれば、住居不定とまでは言えません。住所を黙秘していて、持ち物からも分からない場合も、同じく住居不定に含まれます。
「軽微な事件だと勾留されない」というのは、半分だけ正しいです。通常逮捕で見た軽微事件の特則と同じ形の規定が、60条にもあります。30万円、刑法・暴力行為等処罰法・経済関係罰則整備法の罪以外は当分の間2万円、以下の罰金や拘留、科料にあたる軽い事件は、住居不定の場合に限って勾留できます。罰金や科料と並ぶ拘留は、刑罰の一種で、今日の勾留とは別物です。軽い事件は、住居不定でない限り、罪証隠滅や逃亡のおそれがあっても、勾留できません。通常逮捕と違って、出頭の求めに応じないことは、入っていません。
勾留の理由③罪証隠滅のおそれ
図:対象態様現実的可能性主観的可能性の4つの視点で罪証隠滅のおそれを見るという一覧板
2号は、実務でいちばん争われる号です。ここで最初に崩したい誤解があります。「否認しているから、罪証隠滅のおそれがある」とは、自動的には言えません。おそれは、「有るか無いか」だけでなく、「どれくらい現実的か」まで見ます。そのために、4つの視点を使います。1つ目は「対象」。何を隠すのかです。犯罪の事実だけでなく、責任を軽くする事情や、情状に関わる事実も含まれます。2つ目は「態様」。どうやって隠すのかです。本人が自分で動く場合だけでなく、第三者に頼んで動かす場合も含まれます。組織的な事件ほど、働きかける手段が増えます。3つ目は「現実的可能性」。本当に隠せる状況か、という客観的な見方です。
「主観的可能性」。本人に、隠す気があるかです。この4つを積み上げて、初めて「おそれ」の程度が見えます。否認は、主観面の手がかりにはなります。ですが、対象に触れられるか、現実に隠せる状況かという客観面が伴わなければ、おそれの程度は上がりません。具体例で見てみましょう。
おそれが高い設例・低い設例

2つの事件を並べます。どちらも、被疑者は否認しているとします。1つ目。会社員Aが、同僚Bと共謀して、経費の伝票を書き換えた疑いがあります。被害者にあたる担当者Cとは、今も同じ職場で毎日顔を合わせます。対象は伝票という書類。態様は、本人が破棄することも、Bに頼むこともできます。同じ職場にいるので、伝票にもCにも手が届きます。現実的可能性は高い。そこに否認という主観面の手がかりが重なります。2つ目。単独犯の器物損壊事件です。証拠になる防犯カメラの映像は、すでに警察が押収済みです。被害者である店舗のオーナーCとは、面識もなく、住所も知りません。
対象の証拠は、もう手元にありません。態様として働きかける相手も、探し出す手立てがありません。否認していても、客観面が伴わないので、現実的可能性は低いと判断されます。大事なのは、否認しているかどうかより、証拠に手が届く状況かどうかです。
勾留の理由④逃亡のおそれ
図:単身不安定な仕事重大事件の見込み処罰という逃亡のおそれを高める要素の板
3号は、逃亡のおそれです。大きく2つの方向から見ます。1つは、生活の状況です。単身か、仕事は安定しているか、交友関係はどうかです。もう1つは、処罰を免れたい動機の強さです。見込まれる刑が重いか、前科や前歴があるかです。高い例は、単身で仕事を転々としていて、実刑が見込まれる重大事件です。低い例は、家族と同居し、安定した職があり、罰金刑で終わる見込みの軽い事件です。重大事件は動機の一要素にすぎません。生活の状況と合わせて、積み上げて判断します。
勾留の必要性
図:87条1項の全文カードと拘束を続ける利益と被疑者の不利益を比べる必要性の板
ここまでは「理由」の話でした。ここからは「必要性」です。逮捕の必要性とは、中身が違います。逃亡や罪証隠滅のおそれは、勾留ではもう「理由」に入っているからです。終わりではありません。もう1段、別のチェックがあります。
条文刑事訴訟法第87条第1項
刑事訴訟法第87条第1項 勾留の理由又は勾留の必要がなくなつたときは、裁判所は、検察官、勾留されている被告人若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消さなければならない。
この条文が、「理由」と「必要」を並べて書いていることがポイントです。必要がなくなったら取り消す、ということは、請求の時点でも、必要性が要件として求められている、と読めます。通常は、理由があれば必要性も認められます。ただ、それが否定される場面があります。拘束を続けることの利益と、被疑者にかかる不利益を、比べます。仕事を失うこと、家族の生活に響くことなどです。とても軽い事件で、起訴猶予か罰金で終わる見込みなのに、勾留を続けたら解雇される、というケースです。この場合、理由があっても、必要性は否定されることがあります。
そもそも起訴できないことが明らかな場合も、必要性は無い方向に働きます。仕事を失うおそれがあるからといって、必要性がいつも否定されるとは限りません。さっきの伝票の事件のAも、会社員で、仕事を失う不利益は同じです。それでも、伝票にもCにも手が届く状況なら、拘束する利益の方が重く、必要性は認められやすくなります。理由のチェックを通っても、必要性で止まることがある。これが、二段構造の意味です。ここで、1つ質問です。否認していることは、それだけで、罪証隠滅のおそれが認められる理由になりますか?さっきの話だと、なりません。対象に触れられて、現実に隠せる状況じゃないと、否認だけじゃ足りないはずです。この感覚を、実際の最高裁の判断で確かめてみましょう。
判例が示す「程度」

事件は、地下鉄の車内での迷惑行為防止条例違反、いわゆる痴漢の事件でした。まず、勾留請求を受けた裁判官が、必要性は無いとして、請求を却下しました。これに対して、検察官が不服を申し立てました。審理した京都地方裁判所は、罪証隠滅のおそれがあるとして、勾留を認める方向に判断を覆しました。そこで、被疑者側が、さらに最高裁に不服を申し立てました。最高裁は、京都地裁の判断を取り消しました。つまり、最初の却下が、確定したんです。最高裁が重く見たのは、前科がなく、逃亡のおそれも否定されていて、被害者に接触する可能性が高いことを示す具体的な事情が、うかがわれない、という点でした。ここは、誤解しやすいところです。最高裁は、罪証隠滅のおそれが無い、と言ったのではありません。
勾留の理由はあることを前提にしたうえで、必要性の段階で、そのおそれがどのくらい現実的か、という程度を見たんです。
判例最高裁判所第一小法廷・平成26年11月17日決定〔迷惑行為防止条例違反被疑事件〕(集刑315号183頁)
最高裁判所第一小法廷決定——罪証隠滅の「現実的可能性」 被疑者は、前科前歴がない会社員であり、原決定によっても逃亡のおそれが否定されていることなどに照らせば、本件において勾留の必要性の判断を左右する要素は、罪証隠滅の現実的可能性の程度と考えられ、原々審が、勾留の理由があることを前提に勾留の必要性を否定したのは、この可能性が低いと判断したものと考えられる。本件事案の性質に加え、本件が京都市内の中心部を走る朝の通勤通学時間帯の地下鉄車両内で発生したもので、被疑者が被害少女に接触する可能性が高いことを示すような具体的な事情がうかがわれないことからすると、原々審の上記判断が不合理であるとはいえない……
この事件は、朝の通勤・通学の時間帯に、市の中心部を走る地下鉄の車内で起きたものでした。そして、被疑者が被害者に接触する可能性が高いことを示す具体的な事情は、うかがわれませんでした。だから、可能性は低いと見た最初の裁判官の判断は、不合理とはいえない、とされたんです。抽象的な可能性では足りず、現実に起こりうる程度が問われる。これが、この判例の持ち帰る一文です。抽象的な可能性なら、どんな事件にもあるからです。それで足りるなら、ほとんど誰でも勾留できてしまい、2段のチェックが意味を失います。この決定で、痴漢の事件なら勾留できないと決まったわけではありません。これは、この事件の事情のもとでの結論です。同じ痴漢の事件でも、被害者の連絡先を知っているなど、接触できる事情があれば、判断は変わりえます。
判断の順序を1本の型でまとめる
図:相当な嫌疑と1号から3号のどれか次に必要性の2段階を経て勾留可否が決まるフロー板
ここまでの話を、1本の型にまとめます。まず、相当な嫌疑があるか。なければ、そこで終わりです。1号から3号のどれかにあたるか。これもなければ終わりです。最後に、必要性があるか。無ければ、ここで止まります。どこか1つでも欠ければ、勾留はできません。
裁判官が直接会う——勾留質問

ここで、少しさかのぼります。逮捕された直後、警察官や検察官は、被疑者に何を告げ、何を聞かなければならなかったか、思い出せますか?犯罪事実の要旨を告げて、弁護人を選任できることも告げて、弁解の機会を与える、という3点セットでした。今日の勾留質問は、それの2回目です。
条文刑事訴訟法第61条
刑事訴訟法第61条 被告人の勾留は、被告人に対し被告事件を告げこれに関する陳述を聴いた後でなければ、これをすることができない。但し、被告人が逃亡した場合は、この限りでない。
裁判官は、被疑者を裁判所に連れてこさせ、直接、被疑事件を告げます。そして、それに対する言い分を聴きます。この陳述を聴かなければ、勾留はできません。陳述を聴くのは、住む場所はあるか、仕事や家族はどうか、証拠に手が届くか、という理由と必要性の材料を、書類だけでなく、本人の言い分で確かめるためです。弁護人選任権と国選弁護人を請求できることを、あらためて告げます。まだ弁護人がいなければ、申し出る方法や、国選の手続まで教えます。理由を告げられ、弁護人を頼める、というあの型が、裁判官の前でももう一度繰り返されます。
原則として、検察官も弁護人も立ち会いません。裁判官が、被疑者本人と直接向き合って話を聴く、という場面なんです。
勾留状か、直ちに釈放か

勾留質問が終わると、裁判官は結論を出します。
条文刑事訴訟法第207条第5項
刑事訴訟法第207条第5項 裁判官は、第一項の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。ただし、勾留の理由がないと認めるとき、及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは、勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。
速やかに、勾留状を発します。勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じます。条文には、「必要」という言葉がありませんが、必要性が無いときも、ここに含めて読まれています。48時間や24時間を守れなかったときと、同じ「直ちに釈放」です。期限を守れないときも、要件を満たさないときも、行き着く先は同じ命令なんです。
勾留された後、どこにいるのか
図:拘置所が原則だが実務の多くは警察の留置施設いわゆる代用刑事施設だという対立板
刑事収容施設法には、勾留される人は刑事施設、つまり拘置所に収容する、という原則が定められています。法務省が管轄しています。
条文刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第15条第1項柱書
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第15条第1項柱書 第三条各号に掲げる者は、次に掲げる者を除き、刑事施設に収容することに代えて、留置施設に留置することができる。
この条文が、拘置所の代わりに、警察の留置施設に留め置くことを認めています。実務では、多くの人が、拘置所ではなく、警察の留置施設に収容されています。これを、代用刑事施設と呼びます。拘置所の数が少なく、取調べを進める側にとって、警察署にいてもらう方が都合がよい、という実務上の事情があります。批判もあります。取調べをする警察が、身柄も管理していると、自白を強いる圧力がかかりやすい、という指摘です。どちらが正しいかを決めるより、「なぜ論点になるのか」を持ち帰ってください。取調べる側と留め置く側が同じだと、力のバランスが崩れやすい、ということです。
取調べの録音・録画など、適正化の道具は別にあります。それは、また別のところで扱います。
今日持ち帰る3つのこと

今日の内容を振り返ります。1つ目。勾留には、「理由」と「必要性」という2段のチェックがあります。理由がそろっても、必要性がなければ勾留はできません。2つ目。いちばん争われる罪証隠滅のおそれは、「有るか無いか」だけでなく、「どれくらい現実的か」まで見ます。3つ目。裁判官は、書類だけで決めません。必ず、被疑者本人に会ってから決めます。これが勾留質問でした。もう1つだけ、触れておきたいことがあります。裁判官は、今日見た理由と必要性だけでなく、もう1つ、確かめることがあります。先にあった逮捕の手続が、本当に適法だったかどうかです。
逮捕が違法だったら、勾留にも響きます。ただ、なぜ響くのかは、また別のところで扱います。
参照条文
- 刑事訴訟法第207条第1項
- 刑事訴訟法第60条第1項
- 刑事訴訟法第87条第1項
- 刑事訴訟法第61条
- 刑事訴訟法第207条第5項
- 刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律第15条第1項柱書