勾留①要件と勾留質問
問い:裁判官は、何を確かめ、どんな手続を踏んで、被疑者の勾留を決めるか。
骨組み
- 1勾留とは:被疑者=起訴される前の人、被告人=起訴された後の人。被疑者の勾留は、検察官の請求を受けた裁判官が勾留状を出して続ける身体拘束()。目的=逃亡・罪証隠滅の防止(被疑者勾留は捜査を前提とする拘束)
- 2請求と逮捕前置:勾留を請求できるのは検察官だけ(警察の司法警察員は不可)。逮捕が先=逮捕せずにいきなり被疑者を勾留することはできない
- 3被告人の条文を使う():請求を受けた裁判官は裁判所・裁判長と同一の権限=・・などが準用される。ただし保釈は除く=被疑者に保釈は無い
- 4被告人勾留との違い:被告人の勾留は裁判所の職権=検察官の勾留請求は無い。第1回公判期日までは裁判官が行う()
- 5勾留の理由():相当な嫌疑+1〜3号のどれか1つ(「かつ」ではない)。逃亡・罪証隠滅は逮捕では必要性の問題、勾留では理由そのもの=積極的に認められなければ勾留できない
- 61号 住居不定:現実にどこで起臥寝食しているか(実際にどこで寝起きし暮らしているか)で判断(住民票の住所でも、寄りつかなければ住居不定)。住居を黙秘し所持品等からも分からない場合も含む
- 7軽微事件():30万円(刑法等以外は当分の間2万円)以下の罰金・拘留・科料の事件は住居不定の場合に限る=法定刑で差がある。通常逮捕と違い出頭不応は入らない
- 82号① 対象:犯罪事実に限らない。違法性・責任を阻却する事実(正当防衛・心神喪失等)と重要な情状事実(刑の重さを左右する事情=動機など)も含む
- 92号② 方法:本人が自ら行う場合に限らず、第三者と通じて行う場合(第三者に命じ・指示してさせる場合など)も含む。共犯事件・組織的な事件は認められやすい
- 102号③④ 現実的・主観的可能性:どちらも要る=隠滅する意図だけでは足りない。おそれの程度は必要性の段でも効く
- 113号 逃亡:生活状況(勤務の安定・家族)と処罰を免れる目的(罪責の重大さ・前科)。同種前科も肯定方向に考慮できる
- 12勾留の必要性():必要がなくなれば取り消す=請求時にも要件と考えられている。おそれの程度が大きくないとき、被疑者の不利益等を考えて否定されうる=この段では有無だけでなく程度まで考慮する(解説書)
- 13最決平26・11・17:本件では(前科前歴なし・逃亡のおそれなし)、必要性を左右するのは罪証隠滅の現実的可能性の程度とされた。原々審の判断は不合理とはいえないのに、原決定は「可能性もある」と言うだけで程度について異なる判断をした理由を示さなかった → 原決定取消し・準抗告棄却
- 14勾留質問():被疑事件を告げ陳述を聴いた後でなければ勾留できない(逃亡した場合を除く)。非公開・検察官・弁護人に立会権なし(書記官が立ち会う)。延長には勾留質問の定めが無い。先行する逮捕手続の適法性も審理する
- 15告知と教示(〜):弁護人選任権と国選の選任請求権を告げる。弁護人があるときは不要(2項ただし書)。申出先・資力申告書等を教示
- 16勾留状か釈放命令か():速やかに勾留状(24時間などの時間制限は無い)。理由が無いとき等は裁判官が直ちに釈放を命じる
- 17勾留の場所:原則は刑事施設(拘置所)。代えて警察の留置施設に留置できる=実務はほとんどこちら(代用監獄問題)。勾留場所の変更を求めて準抗告できる
色の札は出どころ:条文 判例 学説。条文番号は押すと条文、丸い札(出題)は押すと過去問の肢と正答が出ます。短答は「判例の立場」を問うので、判例と学説を混ぜない。
1勾留とは何か条文学説
- 呼び名:起訴される前の人は被疑者、起訴された後の人は被告人。起訴された後の勾留は被告人の勾留と呼ばれる。この回で扱うのは被疑者の勾留。
- 勾留=検察官の請求を受けた裁判官が勾留状を出して続ける身体拘束()。逮捕に引き続き、より長い期間、身体の自由を拘束する強制処分。
- 期間:勾留の請求をした日から10日以内に公訴を提起しないときは、検察官は直ちに釈放()。延長は通じて10日まで()。
- 目的(解説書):被疑者の勾留も被告人の勾留も、逃亡・罪証隠滅の防止を目的とする身体拘束で、基本的に同じ。ただし被疑者の勾留は捜査を前提とした拘束である。
| 段階 | 誰が・何をするか |
|---|---|
| 逮捕 | 捜査機関が、短い時間(48・24・72時間)身柄を確保する |
| 勾留請求 | 検察官が裁判官に勾留を求める(など) |
| 勾留質問 | 裁判官が被疑者に直接会い、被疑事件を告げ、陳述を聴く(項目14) |
| 勾留状/釈放命令 | 要件がそろえば速やかに勾留状。欠ければ直ちに釈放を命じる(項目16) |
- 「被疑者の勾留は、取調べをするための身体拘束である」(目的は逃亡・罪証隠滅の防止。捜査は前提)
2勾留を請求できるのは検察官だけ・逮捕が先条文判例
- 被疑者の勾留を裁判官に請求するのは検察官(・)。司法警察員(警察の側の捜査官)には勾留を請求する権限が無い。
- 逮捕前置:逮捕せずに、いきなり被疑者を勾留することはできない。も「前三条の規定による勾留の請求」(逮捕に続く請求)を受けた裁判官、と書く。
- 逮捕状の審査では、裁判官は被疑者本人に会わない。裁判官が被疑者に直接会うのは勾留が初めて(勾留質問)。
- 逮捕そのものには不服を申し立てる手続が無い(最決昭57・8・27=逮捕に関する裁判は準抗告の対象にならない)。拘束が長くなる勾留の段階で、裁判官が審査する。
出題被疑者の勾留の請求は、司法警察員と検察官のいずれもがなし得る(×)
- 「被疑者の勾留の請求は、司法警察員も検察官もすることができる」
3被疑者の勾留に「被告人」の条文を使う()条文
- :前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
- ・・は、本来、裁判所が被告人を勾留する場面の条文。によって、被疑者の勾留にも準用される(解説書の言い方)。
- ただし書:保釈は除く=被疑者の勾留には保釈が無い。保釈は起訴された後(被告人の勾留)の制度。
出題裁判官は、勾留の継続による健康上・社会生活上の不利益があれば、勾留中の被疑者を保釈できる(×)
出題保釈は、被疑者の勾留には無いが、被告人の勾留にはある(○)
出題保釈は、被疑者・被告人のどちらの勾留にもある(×)
- 「裁判官は、勾留の継続により被疑者が受ける健康上又は社会生活上の不利益がある場合、勾留中の被疑者を保釈することができる」
- 「保釈は、被疑者の勾留と被告人の勾留のいずれについても認められる」
4被告人の勾留との違い条文
- 被告人の勾留は、のとおり「裁判所は…これを勾留することができる」=裁判所が職権でする。検察官の勾留請求という手続は、被疑者の勾留にだけある。
- 起訴された後、第1回の公判期日までは、勾留に関する処分は裁判官が行う()。それ以後は受訴裁判所。
- 受訴裁判所=起訴された事件の審理(公判)を受け持つ裁判所。の「裁判所」は、起訴された事件を審理する裁判体としての裁判所。これに対し、被疑者の勾留を決めるのは、勾留の請求を受けた個々の裁判官()。
| 被疑者の勾留 | 被告人の勾留 | |
|---|---|---|
| 勾留状を出すか判断する | 裁判官 | 受訴裁判所(第1回公判期日までは裁判官) |
| 検察官の勾留請求 | ある(これが無いと始まらない) | 無い(職権) |
| 保釈 | 無い | ある |
出題勾留状を出すか判断するのは、被疑者の勾留は裁判官、被告人の勾留は第1回公判期日までを除き受訴裁判所(○)
出題検察官による勾留請求は、被疑者・被告人のどちらの勾留にもある(×)
出題検察官は起訴の際に被告人の勾留を請求でき、裁判所は検察官の請求がなければ被告人を勾留できない(×)
- 「検察官は、逮捕勾留されていない被疑者について公訴を提起する際、勾留請求権に基づいて、裁判官にその勾留を請求することができる」(公訴の提起=起訴。起訴すれば被告人の勾留になり、それは裁判所の職権でする=検察官の勾留請求は無い)
- 「裁判所は、検察官の請求がなければ、被告人を勾留することができない」
5勾留の理由:相当な嫌疑+1〜3号のどれか1つ()条文
- :裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
一 被告人が定まつた住居を有しないとき。
二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。 - 要素①=柱書の相当な嫌疑。文言は通常逮捕()と同じ「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」。
- 要素②=1〜3号のどれか1つ(「各号の一にあたるとき」)。住居が定まっていても、罪証隠滅か逃亡のどちらかがあれば足りる。
| 逮捕(通常逮捕) | 勾留 | |
|---|---|---|
| 逃亡・罪証隠滅のおそれの位置 | 逮捕の必要性の問題 | 勾留の理由(1〜3号)そのもの |
| どこまで求めるか | 明らかに逮捕の必要がないときだけ却下(ただし書・刑事訴訟規則143条の3) | 1〜3号のどれかが積極的に認められなければ勾留できない |
住居が定まり、証拠は押収済みで働きかける相手もおらず、家族と同居して定職もある → 逮捕状は出ても、勾留では1〜3号のどれも積極的に認められず、却下の方向。
出題住居の定まった被疑者は、罪証隠滅のおそれ「かつ」逃亡のおそれがあるときに限り勾留できる(×)
- 「被疑者が定まった住居を有するときには、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があり、かつ、逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるときに限り、勾留することができる」
61号 住居不定条文学説
- 「定まつた住居」は、現実にどこで起臥寝食しているか(実際にどこで寝起きし、食事をして暮らしているか)で見る。住民票の住所に居住する権原があっても、それだけでは決まらない。
- 解説書の整理:住民票上の住居があっても、そこに寄りつかなければ住居不定。突発的な家出で転々としていても、確実な帰住先があれば、住居不定の程度は高くない(=住居不定に当たりにくい。当たらないとまでは言い切っていない)。住居を黙秘し、所持品等からも判明しない場合も含むと解される。
| 場面 | 事情 | 判断 |
|---|---|---|
| 帰る場所が実質ない | 住民票は実家のまま、半年以上ネットカフェや友人宅を転々とし、実家には寄りつかない | 住居不定に当たる |
| 一時的な外出 | 親と喧嘩して3日間友人宅に泊まった。戻る先は確か | 住居不定に当たりにくい(解説書の言い方は「程度は高くない」) |
| 住所が不明 | 住所を黙秘し、持ち物からも分からない | 住居不定に含まれる |
出題居住の正当な権原があれば、現実の起臥寝食の場所にかかわらず住民票の住所が「定まつた住居」に当たる(×)
- 「被疑者が、住民票記載の住所について、所有権、賃借権などのそこに居住する正当な権原を有している場合には、現実にどこで起臥寝食しているかにかかわらず、住民票記載の住所が『定まつた住居』に当たる」
7軽微事件は住居不定の場合に限る()条文
- :30万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律(大正15年法律第60号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和19年法律第4号)の罪以外の罪については、当分の間、2万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる事件については、被告人が定まつた住居を有しない場合に限り、第1項の規定を適用する。
- だから、勾留できる要件には事件の法定刑の軽重による差がある。軽微事件では、罪証隠滅や逃亡のおそれがあっても、住居不定でなければ勾留できない。
- 通常逮捕の特則(ただし書)は「定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合」。勾留の特則には出頭不応が入っていない。
- 「拘留」は罰金・科料と並ぶ刑罰の一種で、この回の「勾留」とは別物。
軽犯罪法違反(拘留又は科料)の被疑者に、定まった住居はあるが、出頭の求めに正当な理由なく応じない → 通常逮捕はできても、勾留は住居不定の場合に限られるので、この事情だけでは勾留できない。
出題30万円以下の罰金に当たる事件は、罪証隠滅・逃亡のおそれがあっても、住居不定でなければ勾留できない(○)
出題被疑者を勾留できる要件に、法定刑の軽重による差異は無い(×)
- 「被疑者を勾留することができる要件は、対象となっている事件の法定刑の軽重による差異が設けられていない」
- 「軽微事件でも、罪証隠滅と逃亡のおそれの両方があれば、住居不定でなくても勾留できる」
82号① 隠滅の対象:犯罪事実だけではない学説
- 罪証隠滅のおそれは、解説書の整理で①対象 ②方法 ③現実的可能性 ④主観的可能性の順に検討する(項目8〜10)。実務上、勾留の可否を決める重要な要素。
- ①対象:構成要件に当たる事実に限らない。違法性・責任を阻却する事実(正当防衛、心神喪失・心神耗弱の主張)も、重要な情状事実(犯罪が成り立つかではなく、刑の重さを左右する事情。例:動機の主張)も含む。
- だから、正当防衛や心神喪失を主張している、犯行自体は認めている、というだけで対象が無いことにはならない。情状事実は「重要な」ものに限る。
犯行は認めつつ「借金取りに脅されてやむなく」と動機を主張し、それが刑の重さを左右する → その動機をめぐる関係者の供述も隠滅の対象になりうる(「重要な」情状に限る)。
殴ったことは認めるが「先に刃物を向けられた」と正当防衛を主張 → 違法性を阻却する事実をめぐる証拠(目撃者の供述など)も隠滅の対象。「自白しているから2号は無い」とはならない。
出題犯罪の成立の証拠が収集済みで、動機の証拠にだけ隠滅のおそれがある場合は、2号の要件を満たさない(×)
- 「『罪証』とは犯罪の成否に関する証拠を意味するので、犯罪の動機に関する証拠にのみ隠滅のおそれがある場合には、2号の要件を満たすことはない」
- 「罪証隠滅の対象は、責任を軽くする事情までで、正当防衛の主張は対象外」(違法性・責任を阻却する事実も対象)
92号② 隠滅の方法:第三者を使う場合も学説
- 罪証隠滅行為は、被疑者が自ら実行する場合に限られない。第三者と通じて行う場合(第三者に命じ・指示して、その第三者にさせる場合など)も含む。
- 共犯事件は単独事件より一般に認められやすく、組織的な犯罪はさらに認められやすい(働きかける手段・相手が増える)。
2人組のひったくりで1人だけ逮捕、もう1人は所在不明 → 釈放すれば供述をすり合わせる余地があり、単独犯より2号は認められやすい方向。
出題罪証隠滅行為には、被疑者が第三者に命じ・指示してさせる場合も含まれる(○)
- 「罪証隠滅行為は、被疑者が自らこれを実行する場合に限られる」
102号③④ 現実的可能性と主観的可能性学説
- ③現実的可能性(客観面)が無ければならない。乏しい典型:被害者が警察官である、釈放後に被害者に接触するのが困難である。
- ④主観的可能性(隠滅の意図)も無ければならない。肯定されやすいのは、重大事案で厳罰が予想される場合、否認していて被害者等に働きかけるおそれがある場合。
- だから、隠滅しようという意図だけでは足りず、隠滅行為をしたら効果が生じうる状況が要る。逆に、否認は④の手がかりの1つにすぎず、否認だけで2号にはならない。
- おそれがどのくらい大きいか(程度)は、必要性の段でも効く。解説書は、必要性の判断では有無だけでなく程度まで考慮するとする(項目12・13)。
交番前で制止した警察官を突き飛ばした公務執行妨害 → 被害者は警察官で、口裏合わせを持ちかけるのは現実には難しい。③が乏しく、2号のおそれは認めにくい方向。
出題主観的に隠滅の意図があれば足り、罪証隠滅の効果が生じ得ることは要らない(×)
- 「『罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある』といえるためには、被疑者において主観的に証拠を隠滅しようという意図があれば足り、罪証隠滅の効果が生じ得るものであることは必要ではない」
- 「否認している以上、2号のおそれは当然に認められる」
113号 逃亡のおそれ学説
- 解説書の整理:まず生活状況(単身か、無職・不安定な職か、暴力団等の不良交友)を見て、次に処罰を免れる目的をうかがわせる事情(重大事案、前科前歴で厳罰が予想される)を見る。
- 勤務の安定は判断を左右する:同じ会社に長く勤める人と、短期間で勤務先を転々とする人とでは、判断に差が出る。
- 罪責が重大であることは、逃亡のおそれを肯定する方向に働く。同種前科も肯定する方向に考慮できる。
| 高い方向 | 低い方向 | |
|---|---|---|
| 生活状況 | 単身で、勤務先を転々としている | 家族と同居し、長く同じ会社に勤めている |
| 処罰を免れる目的 | 実刑が見込まれる重大事件・前科がある | 罰金で終わる見込みの軽い事件 |
刑の執行を終えて1か月で、同種の住居侵入・窃盗 → 前科は逃亡のおそれを肯定する方向の事情として考慮できる(結論は生活状況と合わせて)。
出題服役の前科を、逃亡のおそれを肯定する方向の事情として考慮できる(○)
出題勤務状況の違いで逃亡のおそれの判断に差は生じず、同種前科を肯定方向に考慮することは許されない(×)
- 「相当年数同じ会社に勤務している被疑者と、日雇として短期間で勤務先を転々と変えている被疑者を比較した場合、逃亡のおそれの判断に差異は生じない」
- 「被疑者に同種前科があることを、逃亡のおそれを肯定する方向に考慮することは許されない」
- 「重大事件なら逃亡のおそれは当然にある」(処罰を免れる目的をうかがわせる事情の1つで、生活状況と合わせて見る)
12勾留の必要性()条文学説
- :勾留の理由又は勾留の必要がなくなつたときは、裁判所は、検察官、勾留されている被告人若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消さなければならない。
- 理由と必要を並べ、必要がなくなれば取り消す以上、勾留を請求した時点でも必要性が要件と考えられている。
- 逃亡・罪証隠滅のおそれは勾留ではすでに「理由」に入っている=必要性は、逮捕の必要性とは中身が違う。
- 理由が認められれば、必要性も多くは肯定される。ただし、罪証隠滅・逃亡のおそれの程度がそれほど大きくないとき、勾留による被疑者の不利益等を考慮して否定されうる=諸事情を総合考慮して、勾留が実質的に相当か。
- 解説書:必要性の判断では、罪証隠滅・逃亡のおそれの「有無」だけでなく「程度」まで考慮する(程度は罪証隠滅だけでなく逃亡のおそれにもかかる)。
| 必要性が否定されうる例 | 必要性が認められやすい例 | |
|---|---|---|
| 事案 | 初犯・被害額数百円の万引き・被害品は返還済み。起訴猶予か罰金の見込み | 同僚と共謀した伝票の書換え。事情を知る経理担当者と毎日同じ職場 |
| おそれの程度 | 大きくない | 大きい(証拠にも関係者にも手が届く) |
| 被疑者の不利益 | 10日の勾留で派遣契約を切られる | 同じく会社員としての不利益はある |
| 必要性 | 否定される方向 | 認められやすい |
- 「勾留の理由があれば、勾留の必要性も当然に認められる」
- 「勾留の必要性は、勾留の取消しの場面だけの問題で、勾留を請求した時点では問われない」
13罪証隠滅の現実的可能性の程度(最一小決平26・11・17)判例
- 準抗告=裁判官がした勾留などの裁判に不服がある者が、その取消し・変更を求める手続()。この事件では、勾留請求の却下に不服な検察官が申し立てた。
- 被疑事実:朝8時台、京都市営地下鉄の走行中の車両内で、13歳の女子中学生の太腿付近等をスカートの上から触った(迷惑行為防止条例違反)。
| 順 | 誰が | 判断 |
|---|---|---|
| 原々審 | 勾留請求を受けた裁判官 | 勾留の必要性がないとして勾留請求を却下 |
| 原決定 | 検察官の準抗告を受けた京都地裁 | 罪体(犯罪事実そのもの。重要な情状事実と区別していう語)について罪証隠滅の相当な理由ありとし、必要性も肯定(却下を取り消して勾留) |
| 最高裁 | 被疑者側の特別抗告 | 抗告の趣意はの抗告理由に当たらない → 職権で調査 → 原決定を取り消し、準抗告を棄却(却下が維持された) |
- 原決定の言い分(最高裁の決定が引くもの):
- 被疑者と被害少女の供述が真っ向から対立しており、被害少女の被害状況についての供述内容が極めて重要であること、被害少女に対する現実的な働きかけの可能性もあることからすると、被疑者が被害少女に働きかけるなどして、罪体について罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があると認められる
- 最高裁:
- 被疑者は、前科前歴がない会社員であり、原決定によっても逃亡のおそれが否定されていることなどに照らせば、本件において勾留の必要性の判断を左右する要素は、罪証隠滅の現実的可能性の程度と考えられ、原々審が、勾留の理由があることを前提に勾留の必要性を否定したのは、この可能性が低いと判断したものと考えられる。
- 本件事案の性質に加え、本件が京都市内の中心部を走る朝の通勤通学時間帯の地下鉄車両内で発生したもので、被疑者が被害少女に接触する可能性が高いことを示すような具体的な事情がうかがわれないことからすると、原々審の上記判断が不合理であるとはいえないところ、原決定の説示をみても、被害少女に対する現実的な働きかけの可能性もあるというのみで、その可能性の程度について原々審と異なる判断をした理由が何ら示されていない。
- 勾留の必要性を否定した原々審の裁判を取り消して、勾留を認めた原決定には、刑訴法60条1項、426条の解釈適用を誤った違法があり
- 「勾留の理由があることを前提に」は、最高裁が原々審の判断をそう読んだもの(原々審自身の判示は決定に出てこない)。最高裁は2号のおそれを否定していない。
- 審査の形:原々審の判断が不合理といえるかを問うた。原々審の判断が不合理とはいえないのに、可能性の程度について異なる判断をした理由を示さないまま取り消した点が、・の解釈適用の誤りとされた。
- 決定は「本件において」と断った事例判断。痴漢の事件なら勾留できない、と決めたものではない。
同じ地下鉄の事件でも、被疑者と被害少女が毎朝同じ駅から同じ車両に乗り、互いの学校・勤務先を知っている → 「接触する可能性が高いことを示す具体的な事情」に当たりうる=必要性を肯定する方向に動く。
- 「最高裁は、罪証隠滅のおそれ(2号)が無いとして勾留を認めなかった」(理由ありを前提に、必要性の段で程度を見た)
- 「最高裁は、罪証隠滅の可能性が抽象的なものでは足りないと判示した」(決定の言葉ではない。決定は事例判断+原決定の理由不提示の指摘)
- 「最高裁は、特別抗告の理由を認めて原決定を取り消した」(抗告理由には当たらないとし、職権で判断した)
- 「最高裁は、被疑者と被害少女の供述が真っ向から対立していると認定した」(原決定の言葉)
14勾留質問()条文学説
- :被告人の勾留は、被告人に対し被告事件を告げこれに関する陳述を聴いた後でなければ、これをすることができない。但し、被告人が逃亡した場合は、この限りでない。被疑者の勾留にもで使う。
- 勾留質問なしに勾留状は出せない。被疑者を裁判所に連れて来させ、裁判官が直接面談する。被疑者にとっては告知・弁解・防御の機会。
- 検察官・弁護人に立会権は無く、非公開。立ち会うのは裁判所書記官(刑事訴訟規則69条)。
- 勾留質問は勾留の裁判の手続。勾留期間の延長の裁判をするときに、被疑事件を告げ陳述を聴く手続を行わなければならない、という定めは無い。
- 解説書:裁判官は、勾留の要件と同時に、先行する逮捕手続の適法性も審理する(刑事訴訟規則148条1項参照=勾留の請求には、逮捕・引致・送致する手続・送致を受けた各年月日時が書かれた逮捕状などを資料として出す)。逮捕の違法がすべて勾留に響くわけではない。解説書は、違法が重大であれば勾留請求は却下されうるとする(軽微な違法では却下しない)。
出題勾留の裁判をするには、逃亡した場合を除き、被疑事件を告げ陳述を聴く手続を行わなければならない(○)
出題勾留期間の延長の裁判でも、逃亡した場合を除き、被疑事件を告げ陳述を聴く手続を行わなければならない(×)
出題裁判官が勾留質問をする場合、弁護人は立会いを求めることができる(×)
- 「裁判官が、検察官からの勾留請求を受け、被疑者に対し勾留質問をする場合、弁護人は立会いを求めることができる」
- 「裁判官は、勾留期間の延長の裁判をするに当たり、被疑者に被疑事件を告げこれに関する陳述を聴く手続を行わなければならない」
15勾留質問での告知と教示(〜)条文
- :前項の裁判官は、勾留を請求された被疑者に被疑事件を告げる際に、被疑者に対し、弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を告げなければならない。ただし、被疑者に弁護人があるときは、この限りでない。
- 条件(弁護人がいないとき)がかかるのは告知そのもの。すでに弁護人を選任していれば、選任権を告げる必要は無い。
- :選任権を告げるときは、弁護士、弁護士法人又は弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができる旨とその申出先を教示。:選任の請求には資力申告書を出す旨、資力が基準額以上ならあらかじめ弁護士会に選任の申出をしていなければならない旨を教示。
- 裁判官が、被疑者の国選弁護人を裁判官に請求できると告げるのは、勾留を請求された段階。逮捕されているだけの段階で、裁判官が国選弁護人を付けるのではない。
| 逮捕直後(・) | 勾留質問(・) | |
|---|---|---|
| 主体 | 検察官・司法警察員 | 裁判官が直接 |
| 告げること | 犯罪事実の要旨・弁護人選任権(国選は勾留請求後に頼める旨を教示=・) | 被疑事件・弁護人選任権・国選の選任請求権 |
| 聴くこと | 弁解の機会 | 陳述を聴く |
| いつ | 逮捕の後 | 勾留状を出す前 |
理由を告げられ、弁護人を頼める、という型は憲(理由を直ちに告げられ、直ちに弁護人に依頼する権利)と同じ。
出題すでに弁護人を選任している被疑者には、弁護人選任権を告げる必要はない(○)
出題弁護人を選任済みの被疑者にも、勾留の際に弁護人選任権を告げる必要がある(×)
出題弁護人がない被疑者には、弁護人選任権と国選弁護人の選任請求権を告げなければならない(○)
関連逮捕状による逮捕と勾留のどちらも、重い事件なら、裁判官は身体拘束中いつでも国選弁護人を付せる(×)
関連逮捕状による逮捕と勾留のどちらも、令状執行後直ちに犯罪事実の要旨・弁護人選任権を告げ、弁解の機会を与えなければならない(×)
- 「裁判官は、勾留の請求を受けて被疑者に被疑事件を告げる際、被疑者が既に弁護人を選任している場合でも、弁護人選任権を告げる必要がある」
- 「弁護人がいなければ国選の手続を教える。選任権そのものは弁護人がいても告げる」(ただし書は告知そのものにかかる)
16勾留状か、直ちに釈放を命じるか()条文判例
- :裁判官は、第一項の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。ただし、勾留の理由がないと認めるとき、及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは、勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。
- 勾留請求を退ける裁判を勾留請求の却下という(項目13の原々審)。却下するときは、このただし書のとおり、勾留状を発しないで直ちに釈放を命じる。
- 期限は「速やかに」で、勾留の請求を受けた時から何時間以内に裁判する、という時間の数字は無い。
- 条文の言葉は「勾留の理由がないと認めるとき」で「必要」の語は無いが、解説書は必要性が無いときも勾留できないとし、最決平26・11・17も、必要性が無いとして勾留請求を却下した原々審の判断を是認した(項目13)。
- 遅れた勾留請求:遅延がやむを得ない事由に基づく正当なものと認められなければ勾留状は出せず()、このときも裁判官が釈放を命じる。
| 条文 | 誰が | 何を |
|---|---|---|
| ・ | 捜査機関(司法警察員・検察官) | 時間の制限を守れなければ、自ら直ちに釈放 |
| ただし書 | 裁判官 | 勾留状を発しないで、直ちに釈放を命じる |
出題裁判官は、勾留の請求を受けた時から24時間以内に勾留の裁判をしなければならない(×)
- 「裁判官は、勾留の請求を受けた時から24時間以内に勾留の裁判をしなければならない」
- 「勾留の理由が無いとき、裁判官は検察官に被疑者の釈放を求める」(裁判官が自ら釈放を命じる)
17勾留の場所条文学説
- どこに勾留するかは、裁判官が勾留状に「勾留すべき刑事施設」として書く(・で準用)。代替収容のときは、勾留状に留置施設名を書く(例:「○○警察署留置施設に勾留する」)。場所も、勾留の裁判への準抗告で争える(2号=下の最後の行)。
- 原則:刑事訴訟法の規定により勾留される者は刑事施設(拘置所)に収容する(刑事収容施設法3条3号)。
- 例外:刑事施設に収容することに代えて、留置施設(都道府県警察に置かれる。同法14条)に留置できる(同法15条1項)。この収容のしかたを代替収容といい、その留置施設を代用刑事施設と呼ぶ。
- 実務:拘置所が少ないこともあって、ほとんどが警察の留置施設に収容される。取調べをする側が身柄も管理すると自白の強要を招く、との批判=かつての代用監獄問題。
- 手当ての1つ:留置担当官は、その留置施設に留置されている者の事件の捜査に従事できない(刑事収容施設法16条3項)。
- 被疑者の弁護人は、勾留場所を警察署の留置施設から拘置所に変更することを求めて、準抗告をすることができる(2号は「勾留…に関する裁判」を挙げる)。
| 原則 | 実務の多く | |
|---|---|---|
| 施設 | 刑事施設(拘置所) | 警察の留置施設(代用刑事施設) |
| 根拠 | 刑事収容施設法3条 | 同法15条1項(刑事施設に代えて留置) |
| 管理 | 法務省 | 警察(都道府県警察に置かれる) |
出題勾留場所を留置施設から拘置所に変更することを求めて準抗告ができる(○)
- 「勾留された被疑者は、法律上、原則として警察の留置施設に収容される」(原則は刑事施設)
- 「勾留の場所は、弁護人が不服を申し立てて争うことはできない」