勾留から出る道具——勾留理由開示・取消し・準抗告・執行停止
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第2章 捜査 ⑯/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
勾留状が出たら、あとは待つしかない?
図:前回の勾留期間の延長と接見等禁止を受けて勾留から出るための道具を問う導入板
前回は、勾留の期間がどう延びて、接見等禁止でどう縛られるか、を見ました。今日は、その先を見ます。違います。弁護人には、身柄を取り戻すために打てる手が、4つあります。その前に、1つだけ確かめさせてください。逮捕されたことに不服があるとき、被疑者は何ができましたか?逮捕には、争う手段がありません。でも、勾留にはあります。この違いが、今日、効いてきます。
決定が出る前にできること
図:勾留決定前に検察官と裁判官に働きかける2つの動きと今日扱う4つの道具の地図板
実は、決定が出る前にも、できることがあります。逮捕された人は、すぐに検察官のところへ送られ、検察官が裁判官に勾留を請求します。この請求の前と、請求のあとの決定の前、2つの場面で働きかけができます。1つは、検察官に対して、「勾留を請求しないでほしい」と伝えることです。もう1つは、裁判官に対して、「勾留を認めないでほしい」と伝えることです。例えば、身元を引き受ける人がいること、定まった住居があること、逃げる心配が薄いことを、資料や意見書にまとめて提出します。一度決定が出てしまうと、使える道具はもっと限られてきます。では、決定が出たあとに使える4つの道具を、順番に見ていきましょう。1つ目は、決定の理由を知る道具。2つ目は、決定の後に事情が変わったことを理由にする道具。3つ目は、決定した時点の判断そのものの誤りを争う道具。4つ目は、効力を残したまま一時的に外へ出す道具です。
理由を知る——勾留理由開示
図:憲法34条後段の公開の法廷で理由を示す仕組みを図にした勾留理由開示の板
まず、憲法の条文を見ます。
条文日本国憲法第34条
日本国憲法第34条 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
この後段を具体化した制度が、勾留理由開示です。
条文刑事訴訟法第82条(被疑者への準用=207条1項)
刑事訴訟法第82条第1項〜第3項 第1項 勾留されている被告人は、裁判所に勾留の理由の開示を請求することができる。 第2項 勾留されている被告人の弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹その他利害関係人も、前項の請求をすることができる。 第3項 前二項の請求は、保釈、勾留の執行停止若しくは勾留の取消があつたとき、又は勾留状の効力が消滅したときは、その効力を失う。
前に見た207条1項の授権で、被告人の規定を被疑者にも使えます。弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹、その他の利害関係人も請求できます。裁判官と裁判所書記官が列席し、被疑者と弁護人が出席する、公開の法廷です。そこで裁判官が勾留の理由を告げ、検察官・被疑者・弁護人・請求者が意見を述べられます。違います。そこが、誤解しやすいところです。この場は、不服申立てそのものではありません。理由を知って、意見を述べる場です。決定を取り消すかどうかは、別の道具、3つ目に見る準抗告の話になります。
理由が分からなければ、何を争えばいいかも分かりません。まず理由を知る、というのがこの道具の役目です。違います。刑訴法86条で、同じ勾留について開示を求められるのは、最初の一回だけと決まっています。それから、もう1つ注意点があります。この請求は、「勾留されている」ことが前提です。釈放されたあとには、請求できません。
事後の変化を理由に——勾留の取消し

2つ目は、決定の後に事情が変わったことを理由にする道具です。
条文刑事訴訟法第87条(被疑者への準用=207条1項)
刑事訴訟法第87条第1項・第2項 第1項 勾留の理由又は勾留の必要がなくなつたときは、裁判所は、検察官、勾留されている被告人若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消さなければならない。 第2項 第82条第3項の規定は、前項の請求についてこれを準用する。
そこが、この道具の核心です。決定した時点では、理由も必要性もそろっていました。前に、87条の「必要がなくなったら取り消す」という書き方から、勾留の必要性を読みました。今日は、その取消しを、使う側から見ます。例えば、決定の後で、身元を引き受ける人が現れた、とします。決定した時点の判断が間違っていた、とは言いません。あくまで、その後の変化を理由に、将来に向けて効力を失わせます。検察官、勾留されている被疑者、その弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹、そして裁判官の職権でもできます。
請求が無くても、裁判官が自分の判断で取り消すこともできます。関連して、不当に長い拘禁が続いているときも、91条で、取り消す義務があります。(保釈の選択肢は、被疑者には、まだありません。)
決定そのものの誤りを争う——準抗告

3つ目は、決定した時点の判断そのものが誤っていた、と主張する道具です。
条文刑事訴訟法第429条(各号の全体・抗告との関係は別の回で扱います)
刑事訴訟法第429条第1項第2号・第2項 裁判官が次に掲げる裁判をした場合において、不服がある者は、簡易裁判所の裁判官がした裁判に対しては管轄地方裁判所に、その他の裁判官がした裁判に対してはその裁判官所属の裁判所にその裁判の取消し又は変更を請求することができる。 二 勾留、保釈、押収(電磁的記録提供命令(第百二条の二第一項第一号イに掲げる方法による提供を命ずるものに限る。)を含む。)、押収物の還付、電磁的記録提供命令(同号ロに掲げる方法による提供を命ずるものに限る。)又は第百二十三条の二第一項(第五百十三条第十項において読み替えて準用する場合を含む。)の規定による複写に関する裁判 第2項 第420条第3項の規定は、前項の請求について準用する。
前に、逮捕にはこの429条1項の列挙が無いと学びました。ここで、その中身を見ます。2号に、「勾留」が挙がっています。勾留状発付の決定、延長を認める決定、それらの請求を却下する決定、どれにも使えます。429条3項で、合議体、つまり複数の裁判官が決定します。単独の裁判官の判断を、別の合議体が審査します。決定した本人ではない、別の目で見直す仕組みです。1つだけ、使えない場合があります。犯罪の嫌疑がないこと自体を直接の理由にする準抗告は、できません。裁判所がした決定への不服申立てを、抗告と言います。裁判官がした裁判には、抗告ではなく、この準抗告を使います。その抗告には、犯罪の嫌疑がないことを理由にはできない、という制限があります。カードの2項が、この制限を準抗告にも準用しています。
嫌疑の有無は、本案の裁判、つまり有罪か無罪かを決める裁判で審判すべき事項だから、というのが理由です。429条の各号の全体と、抗告との関係は、別の回で扱います。今日は、この2号だけ、しっかり押さえてください。
取消しと準抗告、何が違うのか

何が気になりますか。そこが、今日いちばん強く持って帰ってほしい区別です。もう一度、並べて見ましょう。取消しは、決定した時点の判断は正しかった、という前提です。その後、理由か必要性が消えたことを理由にします。準抗告は、決定した時点の判断そのものが誤っていた、と主張します。事後の変化は関係ありません。取消しは「今」から見て、準抗告は「決定したあの時」から見ます。では、1つ質問です。身元引受人が現れて釈放を求めるのは、どちらの道具でしょうか?決定した時点の判断が誤っていた、という話ではありません。だから、準抗告ではなく、取消しを使います。
資料の見落としなら、決定した時点の判断自体を問題にしています。だから、準抗告になります。この2つを混同するのは、とてもよくある間違いです。争う対象の時点で見分けてください。
効力を残したまま一時的に外へ出す——勾留の執行停止

4つ目は、争うのではなく、一時的に外へ出す道具です。
条文刑事訴訟法第95条第1項前段(被疑者への準用=207条1項)
刑事訴訟法第95条第1項前段 裁判所は、適当と認めるときは、決定で、勾留されている被告人を親族、保護団体その他の者に委託し、又は被告人の住居を制限して、勾留の執行を停止することができる。
取消しは、勾留そのものの効力を失わせます。執行停止は、勾留の効力を残したまま、一時的に身柄だけを外へ出します。例えば、手術のため数日だけ入院が必要になった、とします。親族に委託したり、住居を病院に制限したりして、その間だけ執行を停止します。停止事由が終わったら、再び勾留されます。勾留そのものは、一度も終わっていません。ここが、注意点です。これは裁判所の職権による措置です。弁護人ができるのは、「職権を発動してほしい」と申立てをすることだけです。請求する権利、とまでは言えません。
接見等禁止の決定に不服があるとき
図:接見等禁止決定そのものへの準抗告と一部解除の申立てという決定後の対応だけを示す板
あの決定が出た後、弁護人ができる対応も、ここで触れておきます。1つは、この決定そのものに不服があるとして準抗告をすることです。接見等禁止の決定も、この準抗告の対象に入ります。81条の接見等禁止は、勾留されている人に付ける決定です。だから、「勾留に関する裁判」に入ります。もう1つは、一部だけ解除してほしいと申立てることです。例えば、両親との面会だけは認めてほしい、配偶者からの手紙だけは読ませてほしい、といった形です。これも職権発動を促す申立てで、裁判所が適当と認めれば認められます。
被疑者には保釈が無い

保釈は、ニュースでもよく聞く言葉ですが、今日ここまで道具としては一度も数えていません。この条文を見てください。もう一度、前々回に見た207条1項を見ます。
条文刑事訴訟法第207条第1項
刑事訴訟法第207条第1項 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
被疑者を勾留する裁判官には、保釈を認める権限が無い、という意味です。保釈が使えるのは、起訴されたあとの被告人だけです。理由開示、取消し、準抗告、執行停止、この4つが、被疑者段階では保釈の代わりの役割を担っています。保釈の中身と、近年の改正で加わった逃亡を防ぐ仕組みは、別の回で扱います。今日は、「被疑者には保釈が無い」という一点だけ、覚えてください。
今日の4つの道具・次回への橋
図:決定前の働きかけ理由開示取消し準抗告執行停止を争う時点で並べた今日のまとめ一覧板
今日の内容を振り返ります。決定が出る前は、検察官と裁判官に働きかけます。決定のあとは、4つです。理由を知る開示、事後の変化を理由にする取消し、決定した時点の誤りを争う準抗告、効力を残したまま一時的に外へ出す執行停止です。決定後の事情の変化か、決定したあの時の判断そのものか、で見分けてください。ただ、勾留にはもう1つ、大事な前提があります。1つの事件ごとに勾留を数える、という前提です。そこを崩すと、期間の制限そのものが意味を失います。
参照条文
- 日本国憲法第34条
- 刑事訴訟法第82条(被疑者への準用=207条1項)
- 刑事訴訟法第87条(被疑者への準用=207条1項)
- 刑事訴訟法第429条(各号の全体・抗告との関係は別の回で扱います)
- 刑事訴訟法第95条第1項前段(被疑者への準用=207条1項)
- 刑事訴訟法第207条第1項