刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#31

事件単位の原則・一罪一逮捕一勾留

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第2章 捜査 ⑰/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

事件ごとに数える、その中身

前回末尾で予告した1つの事件ごとに勾留を数えるという前提の中身を受け取る導入板 図:前回末尾で予告した1つの事件ごとに勾留を数えるという前提の中身を受け取る導入板

前回は、勾留から出るための4つの道具を見ました。その最後に、もう1つ大事な前提がある、と言いました。今日は、その「事件ごと」の中身を渡します。なぜそうなるのか、今日ではっきりさせます。答えを先に言うと、裁判官は人ではなく事件ごとに審査するので、拘束もその事件の範囲でしかできないからです。

効力はどこまで及ぶか——事件単位の原則

逮捕勾留の効力はその被疑事実にしか及ばずどの事件でも拘束を続けてよいとする対立する人単位説を対比した板

まず、定義から見ます。逮捕・勾留の効力は、その逮捕・勾留の基礎になっている被疑事実にだけ、及びます。それ以外の事実、つまり余罪には、効力は及びません。これを、事件単位の原則と呼びます。別の考え方も、あります。「一度身柄を拘束したら、その人自体を拘束しているのだから、どの事件でも取調べや拘束を続けてよい」という考え方です。これを、人単位説と呼びます。気持ちはわかります。でも、現在は、この人単位説は採られていません。通説・実務は、事件単位です。人単位説がとれないのは、裁判官が審査していない事件まで、拘束することになるからです。

なぜ事件単位なのか——令状主義からの帰結

憲法33条の令状主義と逮捕状の記載事項から裁判官の審査単位が事件であることを導く板

手がかりは、すでに見た2つの条文にあります。まず、憲法の条文をもう一度見ましょう。

条文日本国憲法第33条

日本国憲法第33条——令状主義 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

令状には、「この犯罪について」と、犯罪を明示しなければなりません。前に見た条文も、もう一度見ましょう。

条文刑事訴訟法第200条第1項

刑事訴訟法第200条第1項 逮捕状には、被疑者の氏名及び住居、罪名、被疑事実の要旨、引致すべき官公署その他の場所、有効期間及びその期間経過後は逮捕をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。

令状には、特定の被疑事実を書きます。裁判官が審査するのは、「その人を拘束してよいか」ではなく、「その被疑事実について、拘束する理由と必要性があるか」です。審査の単位が事件である以上、拘束できる範囲の単位も、事件でなければ理屈が通りません。事件単位の原則は、令状主義から導かれる帰結です。

あてはめ——拘束は事件ごとに独立する

A事件B事件C事件の拘束を令状ごとに独立して並べ勾留中でも別事件では重ねて拘束できることを示す関係図

例えば、A事件で勾留されている被疑者を、別のB事件でも重ねて逮捕・勾留することができます。「二重」という言葉に引っかかりますね。でも、違法な二重拘束ではありません。A事件の拘束と、B事件の拘束は、それぞれ令状ごとに分かれて、独立に効力を持ちます。A事件について審査したことと、B事件について審査したことは、別の手続です。これが、事件単位の原則の、最初のあてはめです。

逮捕前置主義との組み合わせ——どの事件で逮捕されていればよいか

207条1項の全文カードと判断基準は人ではなく事件であることを示し被疑事実の同一性を基本的事実関係で判定する板

ここで、もう1つの道具を呼び戻します。前に見た条文を、もう一度見ましょう。

条文刑事訴訟法第207条第1項

刑事訴訟法第207条第1項 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。

これを、事件単位の原則と組み合わせてみます。判断基準は、あくまで「事件」です。被疑者が別の事件で身柄拘束中でも、今回勾留したいその事件自体について逮捕の手続を経ていなければ、逮捕前置主義を満たしません。逮捕前置主義が求めているのは、今回の事件そのものについて、逮捕の段階の審査を先に経ていること、だからです。そこは誤解しやすいところです。「人」ではなく、「事件」を基準にします。そこまでは求められません。一言一句同一でなくても、「基本的事実関係」が同一であればよい、とされます。例えば、犯行の時間や場所に多少のズレがあっても、骨格の部分が同じなら、同一の事件として扱えます。たとえば、駅前でのひったくりの犯行時刻が、最初は「19時ごろ」とされていて、後で「19時5分」とわかっても、同じ事件として扱われます。起訴状の内容を変える訴因変更ができる範囲、つまり「公訴事実の同一性」という判断基準に準じる考え方です。起訴状に書かれた事件の中身が、どこまで同じとみなせるかという基準です。この言葉の中身は、別の章でしっかり扱います。刑事訴訟の構造を見た回に、312条の条文カードで出てきた言葉です。今日の範囲では、骨格が同じかどうか、それだけで判断できれば足ります。

被疑事実の同一性を欠くとき——3つのパターン

A事実の逮捕を起点に勾留の切替は不可再逮捕による勾留と理由の付加は可という3本の矢印の整理板

ここで、1つ質問です。たとえば、A事実をこの駅前のひったくり、B事実を別の日の、別の店での万引きだとします。A事実で逮捕したあと、いきなり無関係なB事実だけで勾留請求できるでしょうか。事件単位の原則からすると、B事実は別の事件だから、逮捕前置主義を満たさない、つまりできない、と思います。これを、3つのパターンで確かめます。1つ目。A事実の逮捕から、B事実だけで勾留請求する「勾留の切替」。これは、不可です。B事実については、逮捕の審査を、誰もしていません。それなのに、B事実で拘束していることになります。審査した範囲と、拘束する範囲がずれています。だから、事件単位の原則に反しますし、B事実について逮捕前置主義も満たしません。

2つ目。A事実の逮捕のあと、B事実についても改めて逮捕して、B事実で勾留請求する「再逮捕による勾留」。これは、可です。B事実についても、きちんと審査を経ています。3つ目。A事実の逮捕のあと、勾留請求の段階で、A事実とB事実を併せて勾留の理由にする「理由の付加」。これも、可です。2つ目は、もう一度逮捕の手続をやり直します。3つ目は、A事実の逮捕がすでに適法に先行しているので、そこにB事実を付け加えるだけです。A事実については、すでに審査が済んでいます。そこにB事実を足しても、被疑者に不利益はありません。しかも、B事実も勾留請求に書くので、勾留の段階で裁判官がB事実も審査します。逮捕前置主義は、A事実の逮捕で満たされています。

B事実で改めて逮捕すると、そこからまた期間が動き出して、拘束期間がかえって長くなります。B事実でもう一度逮捕すると、逮捕の時計、上限の72時間が、ゼロから数え直しになります。理由の付加なら、拘束期間は短く済みます。A事実の逮捕のまま勾留に進めるので、その72時間の上乗せがありません。なぜ勾留の切替はだめで、再逮捕と理由の付加はよいのか。その事件について、逮捕と勾留のどこかで審査を経ているか、そして被疑者に不利益がないか、この2点で見分けてください。

一罪一逮捕一勾留の原則——なぜ1回しか許されないか

1個の犯罪を分割して繰り返し逮捕勾留すると期間制限が潜脱されるという構造を示す板 図:1個の犯罪を分割して繰り返し逮捕勾留すると期間制限が潜脱されるという構造を示す板

ここで、少し思い出してください。前回までに確認した、勾留の期間の上限、原則何日でしたか?原則10日、延長でさらに10日、でした。その期間の上限を、事件を分割することで実質的に無視できてしまう。それを防ぐのが、これから見る原則です。令状主義・事件単位の原則から、もう1つの結論が出ます。同一の被疑事実については、逮捕・勾留は1回しか認められません。逮捕状・勾留状の請求には被疑事実が必要で、被疑事実を単位に裁判官が審査します。さっきの「審査の単位、イコール拘束できる範囲の単位」という話の、今度は回数の方向です。

実務では勾留が問題になることが多いので、「一罪一勾留の原則」とも呼ばれます。実体法、つまり刑法上、1個の犯罪とされる行為を分割して繰り返し逮捕・勾留すると、さっき確認した期間の制限を、実質的に無視して長期間拘束できてしまいます。ルールを実質的に無視してすり抜けること、これを「潜脱」と言います。この潜脱を防ぐのが、一罪一逮捕一勾留の趣旨です。中身は2つです。1つは、同一の被疑事実を蒸し返さない、再逮捕・再勾留の禁止です。もう1つは、同一の被疑事実で、同時に複数の逮捕・勾留をしない、重複逮捕・重複勾留の禁止です。

さっきの二重勾留は、別々の事件の拘束が重なる話でした。こちらは、同じ事件で拘束を2回重ねる話で、だから禁止です。

具体例で確かめる——1個の犯罪を分割できない

住居侵入と窃盗が科刑上一罪として1個の犯罪にまとまり分割して逮捕勾留するとだめなやり方になる関係図

具体例で確かめます。人の家に侵入して、物を盗んだ、とします。この2つは、手段と目的の関係にあります。刑法上は、まとめて「1個の犯罪」として扱われます。中身は、「刑法上、まとめて1つの犯罪として扱われる」ということだけです。この「1個の犯罪」の範囲は、刑法から借りてきます。では、このケースで、だめなやり方を見ましょう。住居侵入だけで先に逮捕・勾留し、その期間が終わった直後に、窃盗で改めて逮捕・勾留する。住居侵入で勾留が延長込みで20日、続けて窃盗でまた20日。1個の犯罪なのに、勾留だけで合わせて40日になってしまいます。期間の制限を、すり抜けることになります。住居侵入の逮捕・勾留の期間中に、窃盗の疑いもすでにわかっていたはずです。

1つは、最初から住居侵入と窃盗をまとめて、1回の逮捕・勾留で処理することです。もう1つは、さっき見た「理由の付加」で対応することです。住居侵入の逮捕が先行していれば、勾留請求の段階で窃盗の事実を付け加えられます。審査した範囲を超えて拘束しない、という1つの考え方が、3つの形で出てきただけです。ちなみに、実際には数個の被疑事実があるのに、刑法上はまとめて「一罪」とされるもっと難しい場合もあります。その場合の「一罪」の基準は、別の回で見ていきます。

3つの柱・次回への橋

事件単位の原則逮捕前置主義との組み合わせ一罪一逮捕一勾留の3本を審査した範囲を超えて拘束しないという1本の考え方でまとめた板

今日の内容を振り返ります。1つ目。逮捕・勾留の効力は、その事件だけに及びます。事件単位の原則です。2つ目。逮捕前置主義と組み合わせると、判断基準は「事件」になります。被疑事実の同一性を欠くときは、切替は不可、再逮捕と理由の付加は可です。3つ目。同一の被疑事実は、逮捕・勾留は1回だけ。一罪一逮捕一勾留の原則です。これで、逮捕・勾留の効力がどこまで及ぶか、一通りつながりました。一旦釈放されたあとに、同じ事件でまた逮捕・勾留できるか。再逮捕・再勾留の禁止と、それが例外的に許される場合を見ます。

参照条文

  • 日本国憲法第33条
  • 刑事訴訟法第200条第1項
  • 刑事訴訟法第207条第1項

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