事件単位の原則・一罪一逮捕一勾留
問い:逮捕・勾留は、何を単位にかかり、同じ事件で何回できるか。
骨組み
- 1事件単位の原則(通説):逮捕・勾留の効力は、その基礎となっている被疑事実にのみ及び、それ以外の事実(余罪)には及ばない。人単位説(効力はその人の身体に及ぶ)は採られない
- 2根拠=令状主義:令状は犯罪を明示()・逮捕状に罪名・被疑事実の要旨()→ 裁判官は被疑事実を単位に審査する → 拘束できる範囲も事件単位
- 3要件の判断に余罪を入れない:勾留の理由・必要はその被疑事実についてだけ考える。余罪の捜査の必要で勾留を続けられない。ただし余罪が密接に関連する場合などは例外的に考慮できる
- 4二重逮捕・二重勾留:別の被疑事実なら、同時に重ねて逮捕・勾留できる(逮捕中・勾留中でも別事実で逮捕できる)。別の被疑事実で繰り返すこともできる
- 5逮捕前置主義×事件単位:「前三条の規定による勾留の請求」→ 勾留の前に逮捕。趣旨=短い逮捕の間に捜査を尽くさせ、なお必要なときだけ勾留。逮捕を経たかはその事件について見る(人を拘束していればよい、ではない)
- 6被疑事実の同一性:逮捕時と勾留時の被疑事実は同一が原則。一言一句同じでなくてよい=細部が詰まった・同じ事実の罪名の評価が変わった(傷害→強盗致傷など)だけなら、その罪名で勾留請求できる
- 7同一性を欠くB事実が出たとき:①B事実だけで勾留(切替)=不可 ②B事実で逮捕し直して勾留請求=可 ③A+B事実で勾留(理由の付加)=可。③の前提=A事実で適法に勾留できること。理由=被疑者に不利益がない(逮捕し直させるとかえって拘束が長い)
- 8一罪一逮捕一勾留の原則:同一の被疑事実につき逮捕・勾留は原則1回(一罪一勾留とも。例外として許される場合もある)。中身=再逮捕・再勾留の禁止(繰り返し)+重複逮捕・重複勾留の禁止(同時)。趣旨=期間制限()の潜脱を防ぐ
- 9「一罪」の単位(通説):実体法上の罪数。住居侵入+窃盗(牽連犯=科刑上一罪・後段)を分けて、住居侵入で勾留→窃盗で勾留、は許されない
色の札は出どころ:条文 判例 学説。条文番号は押すと条文、丸い札(出題)は押すと過去問の肢と正答が出ます。この回は判例を扱わない=骨組みは条文と解説書の通説・一般的な考え方(講義用の解説の整理も一部含む)。
理由の線を分けて覚える。行1〜4と行8の定義=「裁判官は被疑事実を単位に審査する(令状主義)」から。行5・6=逮捕前置主義の趣旨「短い逮捕の間に捜査を尽くさせる」×事件単位から(行7の③だけは「被疑者に不利益がない」が理由)。行8の「1回」の趣旨=期間制限の潜脱を防ぐ。行9(一罪=実体法上の罪数)=1個の刑罰権・分割は実質的な蒸し返しのおそれ。前置主義を「審査を2回受けさせるため」と説明しない(解説書が退ける見解・項目5)。
| 重ねて拘束する | 同時に | 繰り返し(順に) |
|---|---|---|
| 別の被疑事実 | 二重逮捕・二重勾留=できる(項目4) | できる(項目4) |
| 同一の被疑事実 | 重複逮捕・重複勾留の禁止(項目8) | 再逮捕・再勾留の禁止(項目8) |
1事件単位の原則学説
- 定義:逮捕・勾留の効力は、逮捕・勾留の基礎となっている被疑事実にのみ及び、それ以外の事実には及ばない。
- 基礎となっている被疑事実=令状に書かれたその事件。それ以外の事実=余罪。
- 位置づけ:現在の通説で、実務でも認められている。
| 事件単位の原則 | 人単位説 | |
|---|---|---|
| 効力の範囲 | 基礎となっている被疑事実にのみ | その人の身体に及ぶ |
| 余罪 | 効力は及ばない | 及ぶ(どの事件でも拘束できる) |
| 採否 | 通説・実務 | 採られていない |
人単位説がとれない理由:裁判官が審査していない事件についてまで拘束することになる。
出題見解Ⅰ(包括一罪のb事件にも効力が及ぶ)なら、a事件に罪証隠滅のおそれが無くても、b事件にあれば権利保釈は認められない(○)
出題見解Ⅰ(包括一罪のb事件にも効力が及ぶ)なら、a事件に罪証隠滅のおそれが無くても、併合罪のc事件にあれば権利保釈は認められない(×)
出題見解Ⅱ(b事件に効力が及ばない)なら、a事件に罪証隠滅のおそれが無ければ、b事件・c事件にあっても、それを理由に権利保釈は否定されない(○)
- 勾留の効力が及ばない併合罪の余罪の事情を、その勾留の判断(権利保釈の除外事由)の理由にする形
- 「逮捕・勾留はその人の身体を拘束するものだから、効力は余罪にも及ぶ」(人単位説の形)
2根拠=令状主義条文
- :「理由となつてゐる犯罪を明示する令状」によらなければ逮捕されない。
- :逮捕状には罪名・被疑事実の要旨などを書き、裁判官が記名押印する。勾留状の記載は(被疑者の勾留にはで準用)。
- 逮捕・勾留をするには被疑事実が必要で、裁判官は「その被疑事実について拘束する理由と必要があるか」を審査する(「この人を拘束してよいか」ではない)。
- 審査の単位が事件 → 拘束できる範囲の単位も事件。ずれると、裁判官が審査した意味がなくなる=事件単位の原則は令状主義の趣旨からも支えられる。
3要件の判断に余罪を入れない学説
- 事件単位の原則から、逮捕・勾留の要件を考えるときは当該被疑事実についてのみ考慮し、別の被疑事実(余罪)を考慮することは認められない。
- もっとも、余罪が当該被疑事実と密接に関連する場合などは、例外的に考慮することも認められている。
- 過去問の正答から:勾留の基礎の事実(窃盗・詐欺)について勾留の理由・必要がなくなったら、余罪(詐欺・窃盗)の捜査の必要を理由に勾留を続けることは許されない。
- 区別:勾留の延長を請求するとき、別の捜査で分かった事情でも、勾留の被疑事実に関連する事情なら示すことができる。これは基礎の事実そのものの事情で(入手経路が別の捜査だっただけ)、余罪を例外的に考慮する話ではない。
窃盗で勾留中、窃盗の勾留の理由・必要がなくなった。別に詐欺の疑いがあり、その捜査が終わっていない → 詐欺の捜査の必要を理由に、窃盗の勾留を続けることはできない(詐欺で身柄を拘束するなら、詐欺で逮捕から)。
出題勾留の理由・必要がなくなった後、余罪の捜査の必要を理由に勾留を続けることは許されない(○)
出題見解Ⅲ(理由とされた被疑事実以外の事実のみに基づいてはならない)では、強盗の勾留延長請求に、別の捜査で分かった事情は強盗に関連するとしても示せない(×)
- 勾留の被疑事実に関連する事情でも、別の被疑事実の捜査から判明したものは「示すことはできない」とする形(基礎の事実に関する事情なら、どの捜査で分かったものでも示せる=余罪の考慮ではない)
- 余罪の捜査が必要なら、勾留の基礎の事実で理由・必要が消えても勾留を続けられる、とする形
4二重逮捕・二重勾留学説
- 事件単位の原則からの帰結:同じ人を別の被疑事実で同時に逮捕・勾留すること(二重逮捕・勾留)も、別の被疑事実で繰り返すことも認められる。
- 理由:A事件の拘束とB事件の拘束は令状ごとに分かれて、独立に効力を持つ。A事件の審査とB事件の審査は別の手続=同じ人に2つの拘束が重なっても矛盾しない。
| 令状 | 裁判官が審査した事件 | |
|---|---|---|
| A事件の拘束 | 令状① | A事件 |
| B事件の拘束 | 令状②(①と独立) | B事件 |
覚醒剤の譲渡で逮捕されている間に、別の日の宝石の窃盗が分かった → 逮捕中でも、窃盗の事実で逮捕できる。
出題逮捕されている間でも、別の事実で逮捕できる(○)
- 「別の被疑事実で勾留中の人を、さらに別の事実で勾留することは禁止される」(禁止されるのは同一の被疑事実で重ねる場合=項目8。この回の用語(解説書)では別事実=二重勾留、同一事実=重複勾留。名前ではなく、別の事実か同一の事実かで見る)
- 「ある事実で逮捕・勾留中の被疑者は、その拘束が終わるまで別の事実で逮捕できない」
5逮捕前置主義×事件単位条文学説
- 条文:の「前三条の規定による勾留の請求」=〜(逮捕後の手続)→ 被疑者を勾留するには、先に必ず逮捕がなされていなければならない=逮捕前置主義。
- 趣旨(解説書の採る考え方):捜査の初めは嫌疑も拘束の必要も浮動的 → いきなり長い勾留を認めず、まず短い逮捕を先行させ、その期間内に捜査を尽くしたうえで、なお長い拘束が必要なときに限り勾留=被疑者の人身の保護。
- 事件単位と組み合わせる:逮捕を経たかは今回勾留したいその事件について見る。別の事件で身柄を拘束されていても、その事件で逮捕を経ていなければ前置主義を満たさない(その事件について、短い逮捕の間に捜査を尽くす段階を踏んでいない)。
| 前置主義の趣旨の説明 | 解説書の評価 |
|---|---|
| 短い逮捕の間に捜査を尽くさせ、なお必要なときだけ勾留 | 採る |
| 逮捕時・勾留時の2度の司法審査で慎重を期す | 退ける:現行犯逮捕では2度の司法審査を欠く/逮捕と勾留の期間の長短を説明できない |
| 逮捕は勾留審査のため裁判官に引致する手段(逮捕中は捜査せず速やかに引致) | 退ける:速やかな引致を求める規定は無い/逮捕の期間の捜査は当然予定されている |
窃盗で逮捕中の被疑者について、別の傷害だけでいきなり勾留請求はできない。身柄がすでに警察にあっても、傷害については逮捕を経ていない。
- 「被疑者の身柄が別の事件で拘束されていれば、どの事件でも逮捕を経ずに勾留請求できる」(基準は人ではなく事件)
- 前置主義の趣旨を「逮捕と勾留で2度の司法審査を受けさせること」とする形(解説書が退ける見解)
6被疑事実の同一性学説
- 原則:逮捕時の被疑事実と勾留時の被疑事実は同一でなければならない(前置主義の趣旨から)。理由=別の事実で逮捕していたのでは、長い拘束である勾留が必要かを判断しかねる。
- 一言一句同じでなくてよい:捜査が進んで事実の細部がはっきりしただけなら同じ事件(講義用の解説の一つは、公訴事実の同一性の判断に準じ、基本的事実関係が同一ならよいと整理する)。
- 過去問の正答から:逮捕中に、同一の事実が別の罪に当たると分かったときは、改めた罪名で勾留を請求できる=傷害で逮捕 → 強盗目的と分かり強盗致傷で勾留請求/恐喝・傷害で逮捕 → 強盗致傷で勾留請求/強盗で逮捕 → 恐喝に評価を改めて勾留請求。
駅前のひったくりの犯行時刻が、逮捕のときは「19時ごろ」、後で「19時5分」と分かった → 同じ事件のまま勾留請求できる。同じ行為が「殴った(傷害)」から「奪うために殴った(強盗致傷)」に評価が変わっても同じ。
出題同一の事実の罪名が変わっただけなら、新しい罪名(強盗致傷)で勾留請求できる(○)
出題見解Ⅰ(逮捕と勾留の被疑事実は同一)では、強盗で逮捕し恐喝に評価を改めても、恐喝の事実で勾留請求はできない(×)
- 「逮捕の罪名と違う罪名では、同一の事実でも勾留請求できない」(評価替えは同一性を失わない)
7同一性を欠くB事実が出たとき学説
- 例:A事実=駅前のひったくりで逮捕。その後、同一性を欠くB事実=別の日に別の店でした万引きが分かった。
| やり方 | 中身 | 可否と理由 |
|---|---|---|
| ①勾留の切替 | A事実の逮捕 → B事実だけで勾留請求 | 不可:B事実について逮捕が先行していない(A事実の逮捕の効力はBに及ばない)=逮捕時と勾留時の被疑事実が同一でない |
| ②再逮捕による勾留 | B事実で逮捕し直し → B事実で勾留請求(A事実で勾留できないなら、いったん釈放して) | 可:B事実についても逮捕が先に置かれる |
| ③理由の付加 | A事実の逮捕のまま、A+B事実で勾留請求 | 可(一般的な考え方):前提=A事実で逮捕が先行し適法に勾留できること |
- ①が不可なのは、B事実を誰も審査しないからではない。B事実で勾留を請求すれば、勾留の段階で裁判官はB事実も審査する。欠けているのはB事実についての逮捕の先行。
- ③の理由:A事実で適法に勾留できるなら、B事実を足しても被疑者に不利益はない。逆にB事実でも逮捕し直せと求めると、かえって拘束期間が長くなり不利益。=B事実について前置主義を満たすからではなく、不利益がないから許される。
- ②より③が有利な中身(解説書は「かえって拘束期間が長くなる」と言うだけ。たとえば):B事実で逮捕し直すと、B事実の逮捕について時間制限が新たに進む(司法警察員の逮捕なら、身体を拘束された時から72時間以内に勾留請求=・)。③はA事実の逮捕のまま勾留に進むので、その上乗せが無い。
- A事実の疑いが消えてA事実では勾留できないとき:③は使えない(A+Bの形をとっても実質はBへの切替)→ ②に戻る。
出題逮捕していない事実を、逮捕した事実に併せて勾留請求できる=両方について理由・必要があれば両罪で勾留状を発付できる(○)
出題見解Ⅰ(逮捕と勾留の被疑事実は同一)では、逮捕の後、別に判明した別の事実のみを理由に勾留請求はできない(○)
- 「A事実の逮捕が先行していれば、A+B事実で勾留できる」(前提は、A事実で適法に勾留できること)
- 「理由の付加が許されるのは、A事実の逮捕でB事実についても逮捕前置主義が満たされるから」
- ①が不可の理由を「B事実は誰も審査していないから」とする形
- 見分け方を「逮捕と勾留のどこかで審査を経ているか」とする形(①も勾留段階でB事実が審査される=①と③を区別できない)
8一罪一逮捕一勾留の原則学説
- 定義:逮捕状・勾留状の請求には被疑事実が必要で、裁判官は被疑事実を単位に審査する(令状主義・事件単位の原則)→ 同一の被疑事実につき逮捕・勾留は1回しか認められない。
- なぜ「1回」までか(同じ事実でもう一度審査を受ければよい、とならない理由)は、次の趣旨=期間制限から。
- 原則であって例外がある:同一の事実で再び逮捕することが許される場合もある(は、同一の犯罪事実で前に逮捕状の請求・発付があったときの通知を定める)。重複逮捕・重複勾留の禁止にも例外が認められると考えられている。
- 別名:実際には逮捕ではなく勾留が問題になることが多いので「一罪一勾留の原則」ともいう。
- 趣旨(講義用の解説の説明):勾留は請求の日から10日()、延長は通じて10日まで()。1個の犯罪を分けて繰り返し逮捕・勾留すれば、この上限を実質的に無視できる=期間制限の潜脱を防ぐ。
| 中身 | 場面 | 目印 |
|---|---|---|
| 再逮捕・再勾留の禁止 | 同一の被疑事実で、逮捕・勾留を繰り返す | 蒸し返し |
| 重複逮捕・重複勾留の禁止 | 同一の被疑事実で、同時に複数の逮捕・勾留 | 同時の重複 |
傷害で勾留中に、同じ行為が強盗目的だったと分かった → 同じ行為の強盗致傷で、別に逮捕を重ねることはできない(同一の事実=重複逮捕)。
出題同一の窃盗の事実で、釈放後に再び逮捕することが許される場合もある=原則には例外がある(○)
出題傷害で勾留した後に強盗目的の供述が出れば、傷害の勾留中に同一事実の強盗致傷で逮捕しても適法(×)
- 「被疑者が強盗目的を供述したなら、傷害の勾留中に強盗致傷で逮捕しても適法」(罪名が変わっても同一の事実)
- 同一の事実で重ねる場合と別の事実で重ねる場合の取り違え(同一の事実=禁止/別の事実=できる。解説書の用語では前者が重複勾留、後者が二重勾留)
9「一罪」の単位と住居侵入+窃盗条文学説
- 「一罪」は実体法上の罪数(刑法上1個の犯罪として扱われる単位)で考えるのが通説。
- 住居侵入と窃盗:侵入は盗むための手段、盗みが目的 → 牽連犯=科刑上一罪(後段)。
- 住居侵入だけで逮捕・勾留し、終わった直後に窃盗で改めて逮捕・勾留する=1個の罪の分割=許されない。住居侵入と窃盗は、まとめて1回の逮捕・勾留で扱う。
- 過去問の正答から:住居侵入で現行犯逮捕した被疑者について、検察官は住居侵入・窃盗の被疑事実で勾留を請求できる=1個の罪を1回の勾留でまとめて扱う。講義用の解説はこれを「理由の付加など」で対応すると書くが、解説書のいう理由の付加(項目7=同一性を欠くB事実を足す場面)に当たるかは、教材に直接の記述が無い。
- 対比:科刑上一罪(牽連犯など=刑のうえで1個として扱う)は1個として数える/併合罪は別々の罪=別の事件(項目1の出題)。
出題見解Ⅱ(一罪は1回)からは、1個の強盗を暴行と窃盗に分け、暴行で逮捕・勾留した後に窃盗で逮捕状を請求することはできない(○)
出題住居侵入で逮捕 → 一罪の関係にある窃盗を併せ、住居侵入・窃盗で勾留請求できる(○)
出題見解Ⅱ(一罪は1回)からは、強盗の勾留請求が却下された後に、牽連犯の住居侵入で逮捕状を請求できる(×)
- 牽連犯の一部(住居侵入)なら、残りの部分で逮捕・勾留した後でも改めて逮捕状を請求できる、とする形
- 「住居侵入と窃盗は別の罪名だから、別々に逮捕・勾留してよい」(罪名ではなく実体法上の罪数で数える)