再逮捕・再勾留②常習一罪と同時処理・重複勾留
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第2章 捜査 ⑱/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
同じ賭博を何度でも逮捕できるとしたら

一罪一逮捕一勾留の原則を、2回前に、渡しました。住居侵入と窃盗のように、実体法上1個の犯罪なら、分割して逮捕・勾留できません。今日は、その難しい場合を渡します。賭博を繰り返す常習犯を想像してください。行為は何度もありますが、刑法上はまとめて「一罪」とされます。常習賭博罪は、賭博を繰り返す習癖のある人を罰する規定です。何回賭けても、その習癖の現れとして、まとめて1個の罪になります。そこが、今日の出発点です。「一罪」をどこまでの範囲で数えるか、その基準を見ていきます。先に答えを言っておきます。常習犯は、原則として、行為ごとに分けて逮捕・勾留することはできません。ただし、最初の逮捕・勾留の時点でまとめて処理できなかった行為なら、話が変わります。
「一罪」をどこで数えるか——2つの立場

あります。1つは、逮捕状・勾留状に書かれた被疑事実を単位にする考え方です。この立場では、常習犯でも、行為ごとに何度でも逮捕・勾留できることになります。もう1つは、実体法、つまり刑法上の罪数を単位にする考え方です。こちらが、通説です。根拠は2つです。1つ目は、実体法上1個の犯罪には、国が処罰できる権利、つまり刑罰権も、1個しか発生しません。その1個の刑罰権を実現するのが逮捕・勾留である以上、これも1回しか使えない、という理屈です。逮捕・勾留は、その1個の刑罰権を実現するための手段です。同じ1個の罪で何度も逮捕・勾留できるとすると、処罰は1回なのに、身柄の拘束だけが何度も繰り返され、法律が決めた拘束期間の上限が意味を失ってしまいます。
2つ目は、実体法上の一罪をいくつかに切り分けて身柄を取り直せるなら、結局は、前回見た蒸し返しと同じことが起きてしまうからです。通説の立場からは、常習犯も実体法上一罪ですから、行為ごとに逮捕・勾留することは許されません。
通説を徹底すると、困ったことになる

ただ、この通説をそのまま徹底すると、困ったことが起こります。この被疑者が起訴され、そのあと保釈された場面を考えます。保釈は起訴後の制度で、勾留の効力は残したまま、身柄だけを外に出します。だとすると、保釈中に、この人が、同じ常習としてまた賭博をしたら、どうなるでしょうか。その行為も、同じ常習賭博という一罪の一部だから、もう勾留されている事実と重なってしまいます。通説をそのまま当てはめると、それは重複逮捕・重複勾留になって、許されない、ということになります。通説を機械的に当てはめるだけでは、正当な捜査の必要にまで応えられません。この不都合を解消する道具が必要になります。
「同時処理の可能性」という切り口

多数説が立てる基準が、「同時処理の可能性」です。検察官は、当初の逮捕・勾留の時点で、まとめて処理できたはずの被疑事実については、まとめて処理する義務を負います。これが、同時処理義務です。逆に、同時処理の可能性がなかった被疑事実には、その義務を負わせられません。だから、一罪一勾留の原則は及ばず、新しく発覚した事実で逮捕・勾留することも許されます。判断を明確にするため、有力な考え方があります。当初の逮捕・勾留より前からあった行為なら、その時点で当然に処理できたはずだ、という割り切り方です。会社の督促に例えるとわかりやすいです。同じ取引先への未払い代金を、まとめて一度だけ督促できるルールがあるとします。督促した時点で実は他にも未払いがあったのに、それを黙って後から二度目の督促に分けるのは、ルールの抜け道です。
「その時点で存在し、把握できたはずだったか」、それが線引きの一点です。
モデル事案で確かめる

具体的な場面で確かめます。ある被疑者が、常習として、賭博を繰り返していました。警察がその一部の行為を把握して逮捕し、20日間勾留したのち、起訴・保釈されました。2つの場面を分けます。1つ目。保釈のあと、新しく賭博行為に及んだ場合。2つ目。保釈のあと、実は逮捕・勾留より前に行われていた別の賭博行為が、新たに発覚した場合。2つの場面で、結論は違います。分かれ目は、さっきの一点、「当初の逮捕・勾留の時点で、その行為が存在していたか」です。1つ目の行為は、まだありませんでした。2つ目の行為は、その時点で既にありました。だから、結論が分かれます。
あてはめ①——保釈後の新しい行為なら再逮捕できる

1つ目の場面、保釈後の新しい行為から見ます。この行為は、当初の逮捕・勾留の時点では、まだ発生していません。同時処理の可能性がそもそもなかったことになります。この新しい行為で、再逮捕・再勾留することが許されます。
あてはめ②——前の行為なら原則適用、でも例外がある

次に、2つ目の場面、逮捕・勾留より前の行為を見ます。だから、原則としては、重複逮捕・重複勾留の禁止が適用されます。いえ、ここに、例外があります。再逮捕・再勾留の必要性の程度と、被疑者が被る不利益の程度とを、比較衡量します。重複逮捕・重複勾留の禁止にも、同じ比較衡量の枠組みで例外が認められます。「前の行為なら直ちに可能性あり」と時点だけで線を引くと、捜査機関が当初は知りようのなかった行為まで、一律に締め出してしまいます。その取りこぼしを、ここで拾い直すためです。先行した勾留期間の長さ、犯罪の重大性、被疑者が実際に逃亡や罪証隠滅を図った事実の有無、この場面では、この3つを見ます。前回の要素のうち、逃亡・罪証隠滅については、おそれの程度ではなく、実際に図った事実があるかで見ます。
例えば、軽い犯罪であれば、そのためにもう一度身柄を拘束する必要性は、小さく評価されます。モデル事案で言えば、最初の勾留が20日間めいっぱい続いていたなら、被疑者の不利益は大きいです。しかも賭博という比較的軽い罪なら、もう一度拘束する必要性は小さく評価されます。逆に、保釈中に証拠を隠そうと動いていた事実があれば、必要性の側が重くなります。
仙台地決の結末——別の理由で勾留が取り消された

ここまでの枠組みは、常習賭博が問題になった、仙台地方裁判所の決定の事案をめぐって論じられてきたものです。実は、この事案は、一罪の基準論の手前で決着します。再逮捕の際の逮捕状請求書に、前回渡した条文に基づく記載が欠けていました。
条文刑事訴訟法第199条第3項
刑事訴訟法第199条第3項 検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。
条文刑事訴訟規則第142条第1項第8号
刑事訴訟規則第142条第1項第8号 同一の犯罪事実又は現に捜査中である他の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨及びその犯罪事実
この記載があって初めて、裁判官は、同じ事件の再逮捕だと分かり、蒸し返しでないかを審査できます。その記載がなかったため、逮捕状自体が違法で無効とされ、逮捕の前置を欠く、つまり、勾留の前に置くべき有効な逮捕が無い、ことになりました。以前見た、逮捕前置主義です。この事案では、そうなりました。ただ、逮捕に違法があれば、いつでも勾留まで止まるわけではありません。止まるのは、重大な違法のときだけです。違います。書き間違いは、手続の中身に触れません。この記載漏れは、裁判官が蒸し返しかどうかを審査する、その機会そのものを奪っています。逮捕手続に根本的な瑕疵がある場合、つまり重大な違法に当たるので、勾留も取り消されました。
一罪の基準を満たしていても、手続に重大な違法があれば、別の理由で勾留は取り消されます。
対比——実体法上は数罪なら、どうなるか

ここまでは、実体法上「一罪」とされる場合の話でした。そこが問題になった決定があります。麻薬に関する別の被疑事実で逮捕・勾留中の被疑者を、そのあと、もう1つの麻薬関係の被疑事実で勾留できるか、が争われました。いえ、社会通念上、別個独立の行為で、併合罪の関係にあります。通説の基準、実体法上の罪数からすれば、併合罪の関係にある以上、原則として、同時処理義務はありません。
判例最高裁平成30年10月31日決定(判時2406号70頁)
最高裁決定——クリーン・コントロールド・デリバリー事件 原決定が,本件勾留の被疑事実である大麻の営利目的輸入と,本件勾留請求に先立つ勾留の被疑事実である規制薬物として取得した大麻の代替物の所持との実質的同一性や,両事実が一罪関係に立つ場合との均衡等のみから,前件の勾留中に本件勾留の被疑事実に関する捜査の同時処理が義務付けられていた旨説示した点は是認できないが,いまだ同法411条を準用すべきものとまでは認められない。 (三浦守裁判官の補足意見)本件の被疑事実と前件の被疑事実とは,一連のものであって密接に関連するが,社会通念上別個独立の行為であるから,併合罪の関係にあるものと解されるところ,両事実の捜査に重なり合う部分があるといっても,本件の被疑事実の罪体や重要な情状事実については,前件の被疑事実の場合より相当幅広い捜査を行う必要があるものと考えられる。
この決定は、裁判所としての判断と、1人の裁判官の補足意見の、2段に分けて読みます。最高裁は、不服申立て自体は退けたうえで、ひとこと付け加えています。前の段階の準抗告審が、両事実の実質的同一性、つまり、2つの事実が中身としては同じ事件と言えるほど重なっている、という点などだけを理由に同時処理義務を認めた点は、是認できない、としました。もっとも、それだけで判断を取り消すまでは認められない、ともしています。ここで出てくる411条は、本来は上告審の条文で、原審に誤りがあり、取り消さなければ著しく正義に反するときに取り消せる、という規定です。これを準用すべきとまでは言えない、とは、理由づけに誤りはあっても、取り消すほどの不正義ではない、という意味です。取り消さない事情は、補足意見が挙げています。証拠や捜査の状況に加えて、被疑者がすでに釈放されて相当の日数がたっていることです。
三浦守裁判官の補足意見は、両事実が併合罪の関係にあるからこそ、あとの被疑事実には、より幅広い捜査が必要になると述べています。後の事実のほうをずっと広く調べる必要があるなら、前の事件の限られた拘束期間のうちにまとめて済ませておけ、とは言えない、という理屈です。ただし、原則として義務がない、というだけで、実質的に蒸し返しと言えるほど事情が重なっていれば、後の勾留請求が制限される場合もあります。
今日の地図(保存版)

今日の内容を振り返ります。1つ目。「一罪」をどう数えるかは、令状記載を単位にする考え方と、実体法上の罪数を単位にする通説の、2つがあります。2つ目。通説を徹底すると、保釈後の新しい賭博行為まで処理できなくなる不都合が出ます。それを解消するのが、同時処理の可能性です。3つ目。可能性があった行為には原則が及びますが、そこにも、比較衡量による例外があります。4つ目。実体法上数罪、併合罪の関係なら、そもそも「一罪」の枠外なので、原則として同時処理義務はありません。同時処理の可能性です。当初の逮捕・勾留の時点でまとめて処理できたか、という一点で線を引きます。
どこまで「蒸し返し」に当たるのか、その線引きを、場面ごとに見てきました。一罪一逮捕一勾留の原則は、同じ事件を何度も拘束の対象にすることを防ぐ道具でした。次は、別の事件を装って、本件の取調べをする、という別の潜脱のパターンを見ていきます。
参照条文
- 刑事訴訟法第199条第3項
- 刑事訴訟規則第142条第1項第8号