刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#32

再逮捕・再勾留①禁止の原則と例外

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第2章 捜査 ⑱/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

一旦釈放したあとの話

前回末尾の予告一旦釈放されたあとに同じ事件でまた逮捕勾留できるかを正面から受け取る導入板

前回、最後に予告したことを、覚えていますか。一旦釈放されたあとに、同じ事件でまた逮捕・勾留できるか、という話です。今日はその中身を渡します。多くの人が、そう感じます。でも、話はそんなに単純ではありません。前回、期間の制限を分割で潜脱できてしまう、という話をしましたね。今日はその同じ心配が、時間の方向で出てきます。一旦釈放して、また逮捕する。これを無制限に認めると、期間の制限は同じように意味を失います。だから、原則は禁止です。ただ、それでも一定の場合には、例外的に認められます。今日は、その原則と例外を、順番に渡していきます。

原則は禁止——なぜ再逮捕・再勾留はだめなのか

逮捕72時間勾留原則10日プラス延長10日という期間制限を釈放と再逮捕の繰り返しで無視できてしまう構造板

まず、原則の中身から見ていきます。一度釈放した被疑者を、同一の被疑事実について、再び逮捕・勾留することは、原則として許されません。前に確認した、身体拘束期間の上限を思い出してください。もし再逮捕・再勾留を無制限に認めると、どうなるか考えてみましょう。期間が切れたら釈放し、翌日また同じ被疑事実で逮捕して同じだけ拘束する。これを繰り返せば、事実上、拘束に終わりが無くなってしまいます。ルールを実質的に無視してすり抜けること、これを「潜脱」と呼びました。再逮捕・再勾留禁止の原則も、この潜脱を防ぐための原則です。

前回、同一の被疑事実を蒸し返さないことだと言いました。その蒸し返しを禁止する場面が、今日扱う「一旦釈放されたあとの再逮捕・再勾留」です。

例外を許す条文上の根拠——199条3項と規則142条1項8号

逮捕状請求時に同一の犯罪事実で前の逮捕状の請求発付を通知記載する義務が再逮捕を条文の前提にしていることを示す板

完全に禁止、というわけではありません。釈放したあとで、新しい証拠が見つかることもあります。一律に禁止すると、捜査の実態に合いません。条文にも、その手がかりがあります。

条文刑事訴訟法第199条第3項

刑事訴訟法第199条第3項 検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。

検察官や司法警察員は、同一の犯罪事実で前に逮捕状の請求か発付があったら、その旨を裁判所に通知しなければなりません。この条文は、同一の犯罪事実についてもう一度逮捕状を請求する場面がありうることを、そもそも前提にしています。もう1つ、同じ発想の条文があります。

条文刑事訴訟規則第142条第1項第8号

刑事訴訟規則第142条第1項第8号 同一の犯罪事実又は現に捜査中である他の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨及びその犯罪事実

逮捕状請求書には、同一の犯罪事実で前に逮捕状の請求か発付があったなら、その旨とその犯罪事実を記載しなければなりません。この2つの条文は、同一の被疑事実について再逮捕がありうることを、条文自体が前提にしていると理解できます。これが、通説が挙げる根拠です。実は、再勾留については、明文の規定がありません。再勾留も認められないわけではありません。逮捕が適法に再度認められる以上、その先の勾留への発展も、法は許容していると読めます。しかも、再逮捕を認めながら、再勾留だけ認めない合理的な理由もありません。だから、再勾留についても、再逮捕と同様に、例外的に認められると考えられています。

例外を認める物差し——比較衡量

再逮捕再勾留の必要性の程度と被疑者が被る不利益の程度とを比較衡量する判断枠組みの板

ここで、図書館の話をします。人気の本には、「1回2週間まで」という借用期間の上限があります。もし、返却した直後に、同じ利用者がすぐまたその本を借りられるなら、どうなりますか。実質的にはずっと借りていることになって、2週間という上限が意味を失います。だから、同じ本をすぐまた借りることは、原則禁止です。ただ、返却後に、その本にまだ確認したい重要な書き込みが見つかった、という事情が生じたらどうでしょう。その場合、図書館は何を見て判断すべきでしょうか。その人がこれまでどれだけ長く借りていたか、それと、もう一度借りる必要がどれくらい高いか、その両方だと思います。再逮捕・再勾留も、同じ2つの要素を天秤にかけます。

論文で書く規範:再逮捕・再勾留の判断枠組み——比較衡量 再逮捕・再勾留の必要性の程度と、被疑者が被る不利益の程度とを比較衡量する。 (通説(199条3項・規則142条1項8号を条文上の根拠とする解釈))

特に重要な要素は、①先行した勾留期間の長さです。長く拘束されていた人ほど、もう一度拘束することの負担は大きくなります。重要な要素は3つです。②犯罪の重大性。③新しく発見された証拠の重要性。④逃亡・罪証隠滅のおそれの程度です。さっき見たとおり、捜査の必要は、あとから変わります。でも、もう一度拘束される側には、蒸し返しの不利益があります。どちらか一方だけでは決められないので、両方を天秤にかけます。原則は禁止。それでも、この天秤で必要性が不利益を上回るときだけ、例外として認めます。

【判例】交番等爆弾再逮捕・再勾留事件

過激派の連続爆弾事件で5事実まとめて勾留した後釈放し1事実だけ再逮捕再勾留を求めた事案の板

この物差しを実際に使った裁判例を見ます。過激派による連続爆弾事件で、被疑者が爆発物取締罰則違反の5件の事実で逮捕され、20日間勾留されました。しかし、嫌疑が不十分として、一旦釈放されます。その後、共犯者の供述から、そのうち1件の事実について、被疑者を再逮捕しました。裁判所が考慮するとしたのは、6つの事情でした。事案の軽重、検察官の意図、釈放後にどんな事情の変化があったか、先行した勾留がどれだけの期間だったか、その期間中に捜査がどこまで進んだか、そしてその他の諸般の事情、という6つです。その上で、裁判所はこう述べました。

判例東京地方裁判所決定〔判例タイムズ276号286頁〕

東京地方裁判所の決定——蒸し返しでない場合の再勾留 社会通念上捜査機関に強制捜査を断念させることが首肯し難く、また身柄拘束の不当なむしかえしでないと認められる場合に限るとすべきであると思われる。

一罪一逮捕一勾留の原則が禁止したいことは、同一の被疑事実の不当な蒸し返しです。「首肯しがたい」は、納得しがたい、という意味です。捜査をあきらめさせるのは納得できないほど必要性が高く、しかも不当な蒸し返しでもない。この2つがそろわない限り、再勾留は認められません。決め手になったのは、3つの事情です。まず、先行した勾留は、それぞれ別の犯罪として成立する5つの事実、全体を対象にしていました。それに対して、釈放後に再逮捕したのは、そのうちの1つの事実だけです。次に、対象になったのは、爆発物の使用という事実でした。爆発物取締罰則1条を見ると、法定刑は死刑、無期拘禁刑、または7年以上の拘禁刑と定められていて、それだけ重い犯罪だということです。

そして、共犯者の供述という、重要な新証拠も見つかっていました。この3つを踏まえて、必要性の程度が不利益の程度を上回ると判断され、例外的に再勾留が認められました。

再勾留の期間論点——20日を超えてよいか

先行した20日間の勾留に再勾留の期間を足すと通じて20日を超えるがそれを許容する立場と反対説の板

そこに再勾留を認めると、どうなりますか。同じ被疑事実全体で見て、通じて20日を超える拘束になります。ここに、もう1つの論点があります。期間制限を守るための原則に、例外を認める。その例外が、期間制限そのものを破ってよいのか、という緊張関係です。1つは、20日を超える拘束は認められず、勾留請求を却下すべきだ、という見解です。東京地決は、例外自体はより一層厳しく絞りつつ、それでも慎重に判断して再度の勾留を許すべき事案であれば、その勾留期間は、当初の勾留と同様に解すべきだ、としました。先行した勾留期間は、後の勾留期間の延長や取消しの判断で重視されるにとどまる、としています。例外の入口をいっそう厳しく絞り、先に拘束した日数は延長や取消しの判断で重く見る。だから、期間を足しても不当な蒸し返しにはならない、という理屈です。

反対する意見もあります。結局、法定期間の超過を認めるもので、例外を認める意味が乏しい、という批判です。この対立には、決着がついていません。持ち帰るのは、期間制限を守る原則の例外が、期間制限そのものとどう緊張するか、という視点です。

もう1つの場面へ——先行する逮捕が違法だったら

ここまでは適法な釈放を前提にしていたが逮捕そのものが違法だった場合はどうなるかという分岐板

ここまでは、「適法に」釈放されたあとの話でした。先行する逮捕そのものが違法だったために釈放された場合です。この場合、同一の被疑事実で再逮捕・再勾留できるでしょうか。今度は、さっき渡した比較衡量の物差しが、そのまま使えるか、一度考えてみてください。思い出してください。逮捕にどんな違法があると、勾留請求そのものが却下されましたか?令状主義の精神に反するような重大な違法があれば、勾留請求は却下される、という判断枠組みでした。任意同行と言いながら実質逮捕していた場合など、4つの典型でした。その「重大な違法」の判断が、ここでも土台になります。

違法逮捕後の再逮捕——通説と2つの違法の程度

手続選択を誤ったにすぎない軽い違法と嫌疑が極めて薄いなど重大な違法とで再逮捕の可否が分かれる板

学説には、違法の程度を問わず、再逮捕を一切認めない、という見解もあります。通説は違います。犯人を逃すわけにはいかないという捜査の要請と、人権保障・将来の違法捜査の抑止という要請を調整する必要がある、と考えます。だから、違法の程度を問わず一切不可とするのは妥当でなく、例外的な場合に再逮捕を認めます。被疑者が被る不利益の程度と、再逮捕・再勾留の必要性の程度を比較衡量します。図書館の例でいえば、貸出手続そのものに不備があった場合を考えてみましょう。貸出カードの種類を間違えて出しただけ、つまり実は正規のカードも持っていた場合と、そもそも貸出手続を一切通さずに持ち出した場合、この2つは同じ扱いでしょうか。

前者はうっかりミス、後者は明らかな無断持ち出しなので、重さが違う気がします。違法の程度によって、2つに整理できます。1つ目は、逮捕の種類を選ぶところでミスがあっただけの場合です。現行犯逮捕でいくべきところを緊急逮捕にした、あるいはその逆、というケースです。前に見たとおり、要件を満たさない現行犯逮捕は、それだけで勾留請求が却下される重大な違法でした。ですが、ここで軽い側に入るのは、選んだ手続とは別の逮捕手続なら、実際には要件を満たしていた場合です。再逮捕を許すかどうかは、この違いで決まります。この場合は、被疑者が被る不利益の程度が大きいとまではいえません。比較衡量の結果、必要性の程度に照らして、例外的に再逮捕・再勾留が認められうります。

2つ目。違法の程度が極めて重大な場合です。嫌疑が極めて薄いのに逮捕した、検察官送致までの制限時間を遵守しなかった、といった場合です。この場合は、被疑者が被る不利益の程度が非常に大きく、再逮捕は認められません。捜査機関に、「違法に逮捕して、バレたら釈放し、正規の手続でやり直せばよい」という発想を許すことになります。それでは、前に確認した、将来の違法捜査の抑止という要請が働かなくなってしまいます。

京都事件の後日談——緊急逮捕から72時間

京都恐喝未遂事件の勾留請求却下のあと釈放緊急逮捕当初の逮捕から72時間以内の再度の勾留請求という時系列板

今の整理を、実際の事件で確かめます。被害者の供述だけを頼りにした現行犯逮捕が、違法とされた事件でした。実はこの事件では、そのあと勾留請求も却下されています。ここには、続きがあるとされています。勾留請求が却下されたあと、被疑者は一旦釈放されました。いえ、さらに続きがあります。その後、同一の被疑事実で、捜査機関が緊急逮捕した、とされています。そして、違法とされた当初の現行犯逮捕から72時間以内に、再度の勾留請求をした、とされています。認められた、とされています。当初の逮捕は違法でしたが、その違法が軽く、再逮捕の必要性が被疑者の不利益を上回ると判断された、というのがその内容です。

あてはめ——なぜ再逮捕・再勾留が認められたか

逮捕手続の種類の選択を誤ったにすぎないことと当初の違法逮捕から72時間以内であることが決め手になった板

3つの理由があります。1つ目。裁判所は、緊急逮捕の要件が実質的には満たされていた、と判断しました。緊急逮捕をすべきところを、誤って現行犯逮捕した、というケースです。逮捕の実質的な要件は満たされていたのに、手続の選び方だけを誤ったにすぎません。2つ目。被疑者の身体拘束が、当初の違法な逮捕の時点から数えても、72時間以内に勾留請求されていました。だから、被疑者が被る不利益の程度が、大きいとまではいえません。3つ目。恐喝未遂という重大な犯罪で、被疑者は犯行を否認していて、逃亡・罪証隠滅のおそれも認められました。だから、再逮捕・再勾留の必要性の程度は、大きいといえます。

とくに、手続選択の誤りにとどまることと、時間の制限が守られていたこと。この2つが、不利益を小さく見る決め手になりました。

実務の時間制限配慮——48時間ではなく72時間

逮捕からの48時間ではなく当初の違法逮捕の時点から起算した72時間以内に勾留請求する実務の配慮を並べた板

ここは、数字を混同しやすいところです。逆に思い出してみましょう。204条の、48時間以内というルールの話です。でも、この事件で使われているのは、その48時間ではありません。当初の、違法とされた逮捕の時点から起算して、203条・205条の72時間以内に勾留請求する、という数え方です。実務では、送致を受けた検察官や検察事務官が、逮捕手続の選択の誤りなどの違法を発見した場合、勾留請求の前に、一旦被疑者を釈放して、改めて通常逮捕や緊急逮捕で逮捕し直す例があります。そこで、当初の時点から数えることで、被疑者の拘束時間がかえって長くならないよう配慮しています。

被疑者の不利益を、逮捕し直す前の時点から通しで測る、という発想です。

今日持ち帰ること・次回への橋

適法釈放後の比較衡量と違法逮捕後の比較衡量という2つの場面を同じ物差しで整理した今日の一覧板

今日の内容を振り返ります。1つ目。一旦釈放した被疑者を、同一の被疑事実で再逮捕・再勾留することは、原則禁止です。期間制限の潜脱を防ぐためです。2つ目。199条3項と規則142条1項8号を根拠に、例外的に認められることがあります。判断の物差しは、再逮捕・再勾留の必要性の程度と、被疑者が被る不利益の程度との、比較衡量という天秤です。3つ目。先行する逮捕が違法だった場合です。さっき考えてもらった問いです。違法な逮捕のあとでも、比較衡量の物差しは、そのまま使えますか?使えます。ただ、違法が手続選択の誤りにとどまるか、極めて重大かで、天秤に乗せる重さが変わるんでしたね。物差しは同じ。変わるのは、重さの見立てです。これで、一旦釈放したあとの再逮捕・再勾留について、原則と例外がつながりました。今日見たのは、同じ被疑事実についての話でした。次は、実際には複数の被疑事実があるのに、実体法上は1個の犯罪として扱われる場合に、「一罪」をどう数えるかに進みます。

参照条文

  • 刑事訴訟法第199条第3項
  • 刑事訴訟規則第142条第1項第8号

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