刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#35

別件逮捕・勾留②余罪の取調べと第二次逮捕

刑事訴訟法の復習ノートを1ページで通して読む(この回から)→

問い:別件で適法に勾留している被疑者に、本件(余罪)をどこまで取り調べてよいか。その取調べで得た自白は、本件での第二次逮捕・勾留にどう響くか。

骨組み

  1. 1位置と呼び名:別件逮捕・勾留の3段=①第一次の適法性 ②余罪取調べの限界 ③第二次逮捕・勾留の可否(②③がこの回)。拘束の理由の事件=本罪、それ以外=余罪(別件=本罪・本件=余罪)
  2. 2拘束は適法・取調べは別:従来の別件基準説は、第一次勾留は適法としつつ余罪取調べだけを違法として事後抑制を図ってきた → 拘束が適法でも、専ら本件ばかり聞けば取調べが違法になりうる。この議論が取調べ受忍義務と結びつく
  3. 3取調べ受忍義務:取調室への出頭と、出頭後に自由に退去できない義務。実務=肯定(ただし書の反対解釈)/学説の通説=否定(黙秘権の侵害につながる)。反論(解説書が紹介)=受忍義務を認めても直ちに黙秘権の侵害にはならない
  4. 4論拠の振り分け(過去問の見解文):肯定=反対解釈・出頭滞留の義務≠供述の義務/否定=実質的に供述を強いる・当事者主義(被疑者は主体)・逮捕勾留は公判への出頭確保のため(取調べは目的外)・ただし書は注意規定
  5. 5限定説:受忍義務は本罪だけ → 受忍義務を負わせた余罪取調べは違法。適法になるのは①余罪の被疑事実②余罪にも供述拒否権・弁護人選任権③余罪は受忍義務がないことを告げた上で④任意に供述した場合
  6. 6密接関連の例外(限定説の中):余罪が本罪と密接な関連+本罪の捜査に重要な意味 → 本罪の取調べの一環=受忍義務を負わせても許される。例=死体遺棄と殺人・覚醒剤の使用と所持・多数にわたる窃盗
  7. 7非限定説:受忍義務は余罪にも → 受忍義務を課した余罪取調べも適法。根拠=ただし書から限定説の制限を読み取れない。捜査実務の立場とされる。批判=嫌疑が極めて薄い余罪まで
  8. 8実体喪失と「取調べだけ違法」:実体喪失説では、拘束期間が専ら本件に使われれば実体喪失=勾留が違法。実体喪失までいかない比較的短時間の本件の取調べの繰り返しでも、新しい本件基準説からは余罪取調べだけ違法の余地(起訴・不起訴の決定に向けた捜査として必要性を欠く)。理由は別:従来の別件基準説の「取調べだけ違法」(項目2・5)のほうは受忍義務の範囲、新しい本件基準説のほうは起訴・不起訴に向けた捜査の必要性
  9. 9第一次が適法なら:第二次は逮捕・勾留の理由と必要性がある限り適法
  10. 10第一次が違法なら(本件基準説で違法/実体喪失説で喪失時点から違法):第二次は蒸し返し → 再逮捕・再勾留の禁止から原則違法。例外は犯罪が極めて重大で、それまでの捜査と無関係に客観的証拠が新たに発見されたような場合に限られる、と解説書はみる
  11. 11第一次は適法・余罪取調べだけ違法なら:その自白調書の証拠能力は否定(解説書。どの根拠で否定するかは自白法則の趣旨のとり方で動く)→ 第二次の理由を認めた証拠が自白調書のみなら違法/自白調書以外の証拠でも理由が認められれば適法
  12. 12別件の処分結果:満期日に起訴できなかった(嫌疑不十分・起訴猶予)というだけで、事後的に勾留が違法になることはどの見解でもない

色の札は出どころ:条文 判例 学説。条文番号は押すと条文、丸い札(出題)は押すと過去問の肢と正答が出ます。

主語を分けて覚える。受忍義務=実務は肯定・学説の通説は否定。その義務の範囲の争い=限定説(本罪だけ)/非限定説(余罪にも・捜査実務の立場とされる)。限定説・非限定説は、受忍義務を認める立場に立ったうえでの範囲の争い。受忍義務を否定する立場について、講義解説は、取調べは任意処分の性質を帯びるので余罪も聞けるが、微罪で拘束して本命の罪を攻め立てるような令状主義の潜脱は違法(令状主義潜脱説)、と整理する。

説の名前の対応(解説書)。解説書は、実体喪失説と、それを本件基準説・別件基準説の両側から主張する新しい本件基準説・新しい別件基準説を、②余罪取調べの限界の見出しの下で扱う(余罪取調べの実態から勾留の違法を判断する説だから)。項目8・10で単に「実体喪失説」というときは、どちらの側からでも共通する「実体を失った時点から勾留が違法」の部分を指す。

説第一次の勾留が違法になるのは勾留は適法のまま、余罪取調べだけ違法になるか
本件基準説本件の捜査のために利用する意図があれば(請求の時点で)—
実体喪失説拘束期間が専ら本件の捜査に使われ、実体を失った時点から—(下の2行を見る)
新しい本件基準説
(本件基準説の立場からの実体喪失説)
別件の起訴・不起訴の決定に向けた捜査を続ける必要が無いのに、本件のために勾留を続ける余地あり:実体喪失に至らない比較的短時間の本件の取調べの繰り返しでも、起訴・不起訴の決定に向けた捜査として必要性を欠けば(項目8)
新しい別件基準説
(別件基準説に立ちつつ実体喪失を認める)
実体喪失で別件の理由と必要性が失われる解説書は「余罪取調べが違法になるにとどまらず」勾留も違法、と書く
従来の別件基準説別件の理由・必要性を欠くときだけあり:受忍義務の範囲で決まる(限定説=告知なしは違法/非限定説=適法。項目5〜7)
本件で第二次逮捕・勾留を請求第一次逮捕・勾留は違法か本件基準説で違法/実体喪失説で喪失の時点から違法原則違法蒸し返し=再逮捕・再勾留の禁止はいいいえ(第一次は適法)余罪取調べは違法か限定説で告知が無い/新しい本件基準説で必要性を欠く理由・必要性があれば適法いいえはい(自白調書の証拠能力は否定)理由の証拠は自白調書のみか第二次逮捕・勾留の理由を認めた証拠違法理由が無くなるはいいいえ適法自白調書以外の証拠で理由が認められる(必要性も要る)
解説書の整理(第一次の3説 → 余罪取調べ → 第二次)を、第二次を判断する順に並べたもの。2段目の「違法」は、別件基準説に立って限定説をとる場合と、新しい本件基準説の場合。非限定説では受忍義務を課した余罪取調べも適法なので、2段目は「いいえ」に進む。1段目の例外(極めて重大な犯罪で、無関係に新しい客観的証拠が出た場合など)は項目10。別件そのものに理由・必要性が無い場合も第一次は違法だが、解説書は当然のこととして別件逮捕・勾留の問題としては扱わない。

1位置と呼び名学説

  • 別件逮捕・勾留は3段で検討する:①別件での第一次逮捕・勾留の適法性 ②その拘束の間に本件(余罪)を取り調べることがどこまで許されるか ③その後、本件で第二次逮捕・勾留ができるか。
  • 本罪=逮捕・勾留の理由になっている事件。余罪=それ以外の事件。別件逮捕・勾留では、拘束の名目の別件が本罪、実際に調べたい本件が余罪。
  • ②と③はつながる:②で取調べが違法とされると、そこで得た自白が③の第二次を支えられなくなることがある(項目11)。

以下の例で使う2人(例のための設定)。

甲乙
第一次(別件=本罪)無免許運転で逮捕・勾留置き引きで逮捕・勾留
本件(余罪)倉庫放火同じ倉庫放火
拘束中の取調べ3日目に放火の話になり言葉に詰まる。4日目〜9日目:無免許運転は1日15分程度、放火は連日2〜3時間。限定説の①〜③の告知は無い2日目に放火への関与を一度だけ確かめられ、否認。以後、放火は聞いていない
自白9日目に放火の自白調書無い
満期日の別件の処分略式命令の請求(略式起訴=検察官の請求で、簡易裁判所が公判前に罰金・科料を科す・)起訴猶予

2拘束は適法・取調べは別(従来の別件基準説)学説

  • 別件基準説=別件に理由と必要性があれば第一次は適法。従来の別件基準説は、第一次勾留は適法としつつ、余罪取調べを違法とすることで事後抑制を図ってきた(解説書)。
  • だから、拘束の適法性と、その間の取調べの適法性は別の問題。拘束が適法でも、専ら本件ばかり取り調べれば、本件の取調べが違法となりうる。
  • その議論は、拘束中の被疑者に取調べ受忍義務があるかという問題と結びつけて論じられてきた(項目3以下)。
  • さらに進んで、別件基準説に立ちつつ、余罪取調べが違法になるにとどまらず、実体喪失によって別件の理由と必要性が失われ勾留も違法になるとする見解がある(新しい別件基準説・東京地決平12・11・13=内容は解説書の紹介による)。

出題別件基準説では、拘束が適法なら、専ら本件を取り調べ別件を全く取り調べなくても、本件の取調べが違法となることはない(×)

この肢は、別件基準説の説明の形をとりながら、拘束中の取調べの評価(余罪取調べの限界)を問うもの。×の理由は、拘束の適法性とは別に取調べが違法になりうること。

×にされやすい形
  • 別件基準説では、拘束が適法である以上、専ら本件を取り調べても本件の取調べが違法となることはない、とする形(予備R7-16-イ)

3取調べ受忍義務(実務と通説)条文学説

  • ただし書:被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。
  • 実務:この反対解釈から、逮捕・勾留されている被疑者には出頭義務および取調べ受忍義務(取調べ室への出頭と、出頭後に自由に退去できない義務)があると考えられている。
  • 学説の通説:そうした扱いは黙秘権の侵害につながる → 逮捕・勾留されている被疑者も出頭を拒め、出頭後に自由に退去できる。
  • 通説への反論:受忍義務を認めることが直ちに黙秘権の侵害につながるわけではない。実務では今後も受忍義務が否定されることはないだろうとの予想もある(解説書)。
  • 受忍義務は話す義務ではない。受忍義務を認める立場でも、取調べの前には「自己の意思に反して供述をする必要がない」旨を告げる()。
  • 過去問は、「身体の拘束を受けている被疑者に取調べのために出頭し滞留する義務があると解することは、直ちに被疑者からその意思に反して供述することを拒否する自由を奪うことを意味するものではない」を○としている(予備H30 は、だからに違反しない、と続けて○)。どちらの問題も、問題文に「判例がある場合には、それに照らして考える」とある。この文は、接見指定()についての最大判平11・3・24の一節とほぼ同じ文言。
  • しかし、身体の拘束を受けている被疑者に取調べのために出頭し、滞留する義務があると解することが、直ちに被疑者からその意思に反して供述することを拒否する自由を奪うことを意味するものでないことは明らかであるから、この点についての所論は、前提を欠き、採用することができない。
  • 上告理由は、を根拠に受忍義務は無く、ただし書が受忍義務を定めているとすると違憲だ(だから取調べは接見を制限する理由にならない)、と主張した。同判決は、出頭・滞留の義務を認めることが直ちに供述拒否の自由を奪うことにはならないとして、そのつながりを退けたもの。受忍義務があると判断したのではない。講義解説が、最高裁の明確なリーディングケースは無く、下級審の判例や実務の運用はおおむね肯定説で動いているとするのは、受忍義務そのものの有無についての記述で、この判決とは食い違わない。
  • 同じ中身が3か所に出る:解説書=通説への反論(直ちに黙秘権の侵害にはならない)/予備R3・R8=義務あり(肯定)の論拠(項目4)/予備H30・R4=○の肢。どれも「受忍義務を認めても、供述を拒む自由は奪わない」という同じ向き。
実務学説の通説
受忍義務肯定否定
根拠ただし書の反対解釈黙秘権の侵害につながる
拘束中の被疑者は出頭を拒めず、出頭後も自由に退去できない出頭を拒め、出頭後も自由に退去できる

出題拘束中の被疑者に出頭・滞留義務があると解しても、直ちに供述拒否の自由を奪うことにはならない(○)

×にされやすい形
  • 実務と学説の通説を入れ替える形(受忍義務を肯定するのは実務、否定するのが学説の通説)
  • 受忍義務を、質問に答える義務(供述の義務)と同じものとする形

4論拠の振り分け(肯定・否定)学説

  • 過去問は、Ⅰ=義務あり(肯定)・Ⅱ=義務なし(否定)の見解に、論拠を振り分けさせる形で出る(予備R3-17=学生の発言をⅠ・Ⅱに振り分ける組合せ問題、予備R8-25=「Ⅰ(4)」のような組合せの正誤を数える問題)。正答と肢の中身から確定する振り分けは次のとおり(予備R8-25 の正答は「4個正しい」だけで、どれが誤りかは肢の中身で決まる)。下の札の(○)は、その振り分けが正答どおりであること。
肯定(義務あり)の論拠否定(義務なし)の論拠
ただし書を反対解釈すべきただし書は、出頭拒否・退去を認めることが逮捕・勾留の効力自体を失わせないことを注意的に定めたもの
出頭・滞留を義務付けることは、直ちに供述を義務付けることを意味しない/直ちに供述拒否の自由を奪わない供述の義務は無いといっても、実質的には供述を強いるのと異ならない=黙秘権を侵す
当事者主義:被疑者は捜査の客体ではなく、捜査機関と相対立する一方当事者・主体的な存在
逮捕・勾留は将来の公判への出頭を確保するため=取調べは逮捕・勾留の目的に含まれない
  • 見分け方:条文の文言から義務を引き出す(反対解釈)か、義務と供述を切り離すなら肯定。被疑者の地位・拘束の目的・黙秘権から義務を否定し、ただし書を注意規定と読むなら否定。講義解説は否定説の条文の読み方として、はもともと在宅の被疑者への出頭要求の規定で、「除いては」は注意書きにすぎない、と説明する(ただし書を注意的な規定と読む点で、表の右上の論拠と同じ向き)。

出題出頭拒否・退去を定めたただし書を反対解釈すべき → 義務あり(Ⅰ)の論拠(○)

出題出頭・滞留の義務付けは直ちに供述の義務付け(供述拒否の自由を奪うこと)ではない → 義務あり(Ⅰ)の論拠(○)

出題供述の義務は無いといっても実質的に供述を強いる=黙秘権を侵す → 義務なし(Ⅱ)の論拠

出題当事者主義(被疑者は一方当事者・主体的な存在)と整合 → 義務なし(Ⅱ)の論拠(○)

出題逮捕・勾留は将来の公判への出頭を確保するため → 義務なし(Ⅱ)の論拠

出題「取調べは逮捕・勾留の目的に含まれない」を義務あり(Ⅰ)の論拠とする(×)

出題ただし書は逮捕・勾留の効力を失わせないことの注意規定 → 義務なし(Ⅱ)の論拠(○)

×にされやすい形
  • 「取調べは逮捕・勾留の目的に含まれない」を、義務を認める見解の論拠とする形(予備R8-25-ア。否定の論拠)
  • 「出頭・滞留の義務付けは供述の義務付けではない」を否定の論拠とする形(肯定の論拠=通説への反論)

5限定説(受忍義務は本罪だけ)学説

  • 受忍義務を認める立場に立ったうえで、その義務は本罪についてのみ認められるとする見解。余罪には受忍義務が無い → 受忍義務を負わせたような余罪の取調べは許されず、違法。
  • 余罪の取調べが適法になるのは、被疑者に①余罪の被疑事実、②余罪についても供述拒否権および弁護人選任権があること、③余罪の取調べについては受忍義務がないこと(いつでも退去してよい)を告げた上で、④それでもなお被疑者が任意に供述した場合。さもなくば違法。
  • ②は、取調べ前の供述拒否権の告知()と、被疑者がいつでも弁護人を選任できること()を、余罪についても知らせるもの。
  • 解説書は限定説の理由づけを書いていない。講義解説は、ほぼ対応する立場を「事件単位説」と呼び(例外は任意処分として行う場合・軽微な余罪・密接な関連・拘束中に発覚した場合など、解説書より広い)、逮捕・勾留の効力は令状記載の事件に限られ、余罪にまで義務を認めると令状の無い事件で強制的に取り調べることになる、と説明する。
拘束中の被疑者に余罪を取り調べた(限定説で判断)密接関連の例外にあたるか本罪と密接な関連+本罪の捜査に重要な意味(項目6)適法本罪の取調べの一環はいいいえ①〜③を告げたか①余罪の被疑事実 ②余罪にも供述拒否権・弁護人選任権 ③余罪は受忍義務なし違法受忍義務を負わせた余罪取調べいいえはいそれでも任意に供述したか違法いいえはい適法
限定説での余罪取調べの判断(解説書の要件を判断の順に並べたもの)。非限定説ではこれらの問いを置かず、受忍義務を課した余罪取調べも適法(項目7)。

甲:4日目からの放火の取調べで①〜③はどれも告げていない → 甲が実際に話していても、④「告げた上で任意に供述した」の前提が欠ける → 限定説では4日目以降の余罪取調べは違法(無免許運転と放火に密接な関連も無い=項目6)。

×にされやすい形
  • 限定説では、余罪の取調べは一切できない、とする形(告げた上での任意の供述なら適法・密接関連の例外もある)
  • 告知が無くても、被疑者が自分から話したのなら限定説でも適法、とする形

6密接関連の例外学説判例

  • 限定説でも、余罪が本罪と密接な関連を有し、かつ余罪の取調べが本罪の捜査を進めていく上で重要な意味をもつ場合は、本罪についての取調べの一環と考えられる → 受忍義務を負わせた余罪取調べも許される(解説書)。
  • 解説書の例=死体遺棄と殺人、覚醒剤の使用と所持、多数にわたる窃盗(余罪を解明することで、本罪の全体的な犯罪計画や意図が明らかになる場合)。
  • 最決昭52・8・9 も「一連の密接な関連」という語を使うが、判断したのは、第一次逮捕・勾留が専ら本件を取り調べる目的で別件に名を借りたものか(と、罪名を小出しにして各別に請求したものか、第二次が実質的に同一の被疑事実での再逮捕・再勾留か)。「本件」「別件」の取調べに違法の点はないとした原判決も是認した。受忍義務の範囲や、限定説の例外を判断したものではない。
  • 「別件」中の恐喝未遂と「本件」とは社会的事実として一連の密接な関連があり、「別件」の捜査として事件当時の被告人の行動状況について被告人を取調べることは、他面においては「本件」の捜査ともなるのであるから、…それは、専ら「本件」のためにする取調というべきではなく、「別件」について当然しなければならない取調をしたものにほかならない。

覚醒剤の所持で勾留中に、その覚醒剤を使ったかを聞く → 使用の解明は所持の入手の経緯や目的の解明に直結 → 本罪の取調べの一環として、受忍義務を負わせても許される。
甲(無免許運転で勾留中に倉庫放火)→ 一方を調べても他方の計画や意図は見えない → 例外にあたらない。

×にされやすい形
  • 「最決昭52・8・9 は、限定説の密接関連の例外を認めた」とする形(判断したのは第一次が別件に名を借りたものか)
  • 密接な関連さえあれば足りる、とする形(本罪の捜査を進める上で重要な意味も要る)

7非限定説(受忍義務は余罪にも)学説

  • 受忍義務は本罪のみならず余罪についても認められるとする見解 → 余罪について受忍義務を課した取調べをしても適法。
  • 根拠:ただし書から、限定説がいうような制限を読み取ることができない。
  • 位置づけ:捜査実務の立場とされる。
  • 批判:嫌疑が極めて薄い余罪についてまで受忍義務を課して取調べを認めるのは妥当でない。
  • 非限定説で不要になるのは限定説の①〜③の告知。取調べ前の供述拒否権の告知()は、どの取調べでも要る。
限定説非限定説
受忍義務の範囲本罪だけ本罪も余罪も
余罪の取調べ①〜③を告げた上の任意の供述なら適法(密接関連なら受忍義務を負わせても可)受忍義務を課しても適法
甲の4日目以降違法適法
向けられる批判(解説書に記述なし)嫌疑が極めて薄い余罪にまで及ぶ
×にされやすい形
  • 非限定説を「学説の通説」とする形(捜査実務の立場とされる。学説の通説は受忍義務そのものを否定する)
  • 非限定説なら供述拒否権の告知も要らない、とする形

8実体喪失と「取調べだけ違法」学説

  • 解説書は、実体喪失説と、それを両側から主張する新しい本件基準説・新しい別件基準説を、②余罪取調べの限界の見出しの下で扱う(余罪取調べの実態から勾留の違法を判断する説だから)。説の対応は骨組みの下の表。
  • 実体喪失:拘束期間が専ら本件(余罪)の捜査に使われるに至れば、別件の勾留としての実体を失い、その時点から勾留が違法(5つの事情を総合=意図・本罪と余罪それぞれの取調べの程度・両罪の関係・取調べの態様と供述の自発性・捜査全般の進行状況)。
  • 取調べだけ違法:実体喪失説の中では、本件基準説の立場から主張される実体喪失説(新しい本件基準説)からは、実体を喪失しているとまではいえない比較的短時間の本件の取調べを繰り返したような場合でも、勾留は違法といえなくても、違法な余罪取調べと評価する余地がある。
  • その理由(従来の別件基準説の「取調べだけ違法」=受忍義務の範囲〔項目5〕とは別の理由):この見解は勾留期間を、逃亡・罪証隠滅を防いだ状態で、拘束の理由とされた被疑事実について起訴・不起訴の決定に向けた捜査をする期間と捉える → その捜査として必要性を欠く余罪取調べも違法と評価される。
  • 勾留が実体を失っていない(適法)としても、別件基準説からは、余罪取調べの適否を別途検討する(限定説・非限定説)。実体喪失の検討と余罪取調べの検討は、1つの事案で続けて論じられる。
1日の取調べの配分(長さは目安) 別件(本罪) 本件(余罪) 例A:甲の4日目〜9日目 別件15分程度 → 実体喪失説では、実体を失ったと評価されうる → そう評価すればその時点から勾留が違法・第二次は原則違法 例B:別件の取調べを毎日続け、本件は20分ほど → 実体は失わない=勾留は違法とまではいえない → 新しい本件基準説:必要性を欠く本件の取調べ だけが違法と評価される余地 取調べの時間 → 本件 連日2〜3時間 別件の取調べ
甲のように拘束期間の大半を本件に使えば、実体喪失説では、「取調べだけ違法」ではなく、実体喪失そのもの(勾留が違法)を問う事情になる。実体喪失を問わない従来の別件基準説では、勾留は適法のまま余罪取調べの適否を見る(項目5〜7)。「取調べだけ違法」の余地は、実体喪失までいかない短時間の取調べの繰り返し(例B)の場面。

乙:放火に触れたのは2日目の一度の確認だけで、否認の後は聞いていない → 勾留は実体を失っていない。

×にされやすい形
  • 実体喪失説に立ちながら、本件の取調べに拘束期間の大半を使った事案を、「勾留は適法・取調べだけ違法の余地」(新しい本件基準説の短時間型)で止める形(実体喪失説では、実体喪失=勾留の違法を正面から問う事情)
  • 実体喪失説の中で、「実体喪失に至らない短時間の取調べの繰り返しでも、取調べだけ違法の余地」を実体喪失説一般(新しい別件基準説を含む)の主張とする形(解説書が挙げるのは、本件基準説の立場から主張される実体喪失説=新しい本件基準説)。なお、従来の別件基準説でも、限定説なら勾留は適法のまま余罪取調べが違法になる(項目2・5)=これは別の理由

9第一次が適法なら:理由と必要性があれば第二次も適法条文判例

  • 第一次逮捕・勾留が適法なら、逮捕・勾留の理由と必要性がある限り、本件での第二次逮捕・勾留も適法(解説書)。本件についての新しい拘束として、通常の要件を改めて満たせばよい。
  • 逮捕=理由(罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由・)+必要性(明らかに逮捕の必要がないときは逮捕状を発しない・ただし書)。勾留=理由(相当な理由+各号)+必要性(の「勾留の必要」)。被疑者の勾留にはで使う。
  • 最決昭52・8・9 は、第一次が適法とされた事案で、本件での第二次逮捕・勾留も適法とした原判決を是認した(1つ目は、罪名を小出しにして各別に請求したものかを判断した部分):
  • …両者は併合罪の関係にあり、各事件ごとに身柄拘束の理由と必要性について司法審査を受けるべきものであるから、一般に各別の事件として逮捕・勾留の請求が許されるのである。
  • また、「別件」についての第一次逮捕・勾留中の捜査が、専ら「本件」の被疑事実に利用されたものでないことはすでに述べたとおりであるから、第二次逮捕・勾留が第一次逮捕・勾留の被疑事実と実質的に同一の被疑事実について再逮捕・再勾留をしたものではないことは明らかである。
×にされやすい形
  • 別件で一度拘束した以上、本件での第二次はつねに再逮捕・再勾留として原則違法、とする形(第一次が適法なら、本件についての新しい拘束)

10第一次が違法なら:蒸し返し=原則違法学説

  • 第一次が違法=別件を名目に、実質は本件で拘束していた → 本件ではすでに一度拘束が行われた → 本件での第二次は逮捕・勾留の蒸し返し → 再逮捕・再勾留の禁止から原則として違法。
  • 第一次が違法になる道(解説書の整理):本件基準説=本件の捜査に利用する意図があれば第一次が違法/実体喪失説(新しい本件基準説・新しい別件基準説のどちらの側からでも)=実体を喪失した時点から違法 → どちらも第二次は再逮捕・再勾留の禁止の枝へ。別件そのものに逮捕・勾留の理由・必要性が無ければ第一次はどの説でも違法だが、解説書はそれを当然のこととして、わざわざ別件逮捕・勾留の問題としては論じない。
  • 例外を認める余地はあるが、違法な第一次による被疑者側の不利益の程度は大きいので、犯罪が極めて重大で、それまでの捜査と無関係に客観的な証拠が新たに発見されたような、再逮捕・再勾留の必要性の程度が極めて大きい場合に限られるのではないか、と解説書はみる(著者の見込みの書き方)。

甲で、実体喪失説に立ち、6日間の配分から4日目以降の勾留が実体を失ったと評価する → 放火での第二次は原則違法。例外に向かうのは、放火が極めて重大で、取調べと無関係に第三者から現場の映像が出てきたような場合。自白をもとに集めた証拠しか無ければ、例外には向かわない。

乙で、本件基準説に立ち、置き引きでの拘束を放火の捜査に利用する意図があったと評価する → 第一次は違法=名目は置き引き、実質は放火で拘束していた(この説は捜査機関の意図で判断するので、拘束中に放火を聞いた回数そのものは要件ではない)→ 放火での第二次は蒸し返しとして原則違法。「乙には自白が無いから、客観的な証拠さえあれば第二次は適法」と言えるのは、第一次が適法だった場合だけ。

×にされやすい形
  • 第一次が違法でも、本件の客観的な証拠があれば第二次は適法、とする形(原則違法・例外は極めて限られる)
  • 例外を「重大な犯罪」でありさえすれば認める形(解説書が挙げる例は、犯罪が「極めて重大」で、それまでの捜査と無関係に新たな客観的証拠が発見されたような場合)

11余罪取調べだけ違法なら:自白調書と第二次学説

  • 第一次勾留は適法だが、余罪取調べのみ違法と考える場合 → それで得られた自白調書の証拠能力は否定される(解説書。どの根拠で否定するかは自白法則の趣旨のとり方で動く=証拠法の問題)。
  • 第二次逮捕・勾留の理由を認めた証拠が自白調書のみ → 第二次は理由のないものとなる → 違法。
  • 当該自白調書以外の証拠でも逮捕・勾留の理由が認められる → 適法(必要性は別に要る)。
  • 新しい本件基準説で余罪取調べを違法と考える場合も同じ:第二次を認めた証拠が自白調書のみなら第二次も違法、自白調書の証拠能力も否定(解説書)。
余罪取調べ \ 第二次の理由を認めた証拠自白調書のみ自白調書以外でも理由あり
違法(限定説で告知なし/新しい本件基準説で必要性を欠く)違法適法
適法(非限定説/密接関連の例外/限定説で告知の上の任意供述)適法適法

甲(実体喪失を問わず第一次は適法と見る従来の別件基準説に立ち、限定説をとった場合):9日目の自白調書は使えない。放火現場のライターから、自白と無関係に先に甲の指紋が出ていれば → 自白調書を除いても理由が認められ、第二次は適法(必要性もあれば)。理由が自白調書だけなら違法。
乙:自白調書がそもそも無い → 第二次は防犯カメラ映像のような自白に由来しない証拠で決まる(第一次が適法だった場合。違法なら項目10)。

×にされやすい形
  • 余罪取調べが違法なら、第二次はつねに違法、とする形(自白調書以外の証拠で理由が認められれば適法)
  • 従来の別件基準説で、限定説の告知が無かったこと(余罪取調べの違法)だけを理由に、第一次の勾留まで遡って違法になる、とする形(この説では勾留は適法のまま、取調べだけが違法。勾留の違法は、実体喪失を認める立場で実体を失ったかとして別に問う=項目8)

12別件の処分結果は響かない学説条文

  • 第一次勾留の満期日に別件を起訴できなかった(嫌疑不十分・起訴猶予)というだけの理由で、事後的に勾留が違法になることはない。いずれの見解でも同じ(解説書)。
  • 起訴猶予=犯人の性格・年齢・境遇、犯罪の軽重・情状・犯罪後の情況により訴追を必要としないとき、公訴を提起しないこと()。
  • 実体喪失説は事後の捜査状況から勾留の違法を判断するが、そこで見るのは拘束の使われ方であって、別件の処分結果そのものではない。

乙の置き引きが満期日に起訴猶予になった → それだけで第一次勾留が遡って違法になることはない。

×にされやすい形
  • 「別件で起訴できなかった以上、第一次勾留は違法だった」とする形

刑事訴訟法 全体ロードマップへ →

刑事訴訟法 の復習ノートを1ページで通して読む(この回から)→