刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#35

別件逮捕・勾留②余罪の取調べと第二次逮捕

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拘束は適法でも、聞ける内容に限りはあるか

別件で適法に拘束している被疑者に、別の事件のことをどこまで聞けるかが、この回の問いです。

  • 別件逮捕・勾留:捜査機関が本当に調べたい事件(本件)とは別の事件(別件)を名目にして、被疑者を逮捕・勾留することです。
  • 本罪と余罪:逮捕・勾留の理由になっている事件を本罪、それ以外の事件を余罪と呼びます。
    • 別件逮捕・勾留の場面では、別件が本罪、本件が余罪にあたります。

(1) 3段階の検討順序

別件逮捕・勾留は、次の3段階の順で検討します。2段目と3段目がこの回の範囲です。

段階何を検討するか
1段目別件での第一次逮捕・勾留そのものが適法か
2段目その拘束の間に、本件(余罪)を取り調べることがどこまで許されるか
3段目その後、本件について第二次逮捕・勾留ができるか
  • 2段目と3段目のつながり:2段目で取調べが違法と評価されると、そこで得た自白が、3段目の第二次拘束を支えられなくなる場合があります。

(2) 甲と乙の事案

この回は、2人の被疑者で確かめます。どちらも第一次拘束は適法だったという前提で検討します。

第一次拘束(別件=本罪)無免許運転で逮捕・勾留置き引きで逮捕・勾留
余罪への関わり勾留3日目、警察官に「ほかに何かしていないか」と聞かれ、倉庫放火について言い淀んだ勾留2日目、余罪の有無を確認され、放火への関与を否認した
その後の取調べ4日目から放火の取調べを本格化。4日目〜9日目の6日間、本罪は1日15分程度、余罪は連日2〜3時間以後、放火については一切取り調べていない
自白9日目に放火の自白調書が作られた自白は無い
別件の処分(満期日)無免許運転で略式命令置き引きで起訴猶予

拘束は適法・取調べは別(従来の別件基準説の発想)

拘束が適法かという問題と、その間の取調べが適法かという問題を、分けて考える発想があります。

  • 別件基準説:別件そのものに逮捕・勾留の理由と必要性があるかだけを見て、第一次拘束の適法性を判断する説です。
  • そのうえでの筋:この説に立っても、拘束そのものは適法としつつ、その間の取調べだけを別に違法と評価して、事後的に手当てをしようとする考え方があります。
  • つながる先:「拘束は適法でも、取調べは別」という発想が、取調べ受忍義務の議論に直結します。
    • 核心は、取調べに、拘束された事件の範囲を超える限界があるかどうかです。

取調べ受忍義務(実務と学説の対立)

余罪の取調べの限界を考える出発点は、取調べ受忍義務があるかどうかです。

  • 取調べ受忍義務:逮捕・勾留中の被疑者が、取調室に出頭し、出頭した後も自由には退去できないという義務です。
    • 例:これを認めると、勾留中の甲が取調べの途中で「もう帰ります」と言っても、取調室を出られません。
  • 198条1項ただし書の反対解釈:ただし書は、逮捕・勾留されていない被疑者なら、出頭を拒み、いつでも退去できると定めています。
    • 裏返すと、逮捕・勾留されている被疑者には、その権利が及ばないとも読めます。
実務学説(通説)
立場受忍義務を肯定(おおむね)受忍義務を否定
根拠198条1項ただし書の反対解釈受忍義務を認めると、供述を強いられているのと同じ状態になり、黙秘権の実質的な保障が損なわれる
条文の読み方逮捕・勾留中の被疑者は、取調室から自由に退去できない198条1項は在宅の被疑者を想定した規定で、逮捕・勾留中の被疑者に義務を負わせる根拠までは含まない
反論受忍義務を認めても、直ちに黙秘権の侵害にはならない。出頭にとどまる義務と、話す義務は別だから
  • 次の問題:受忍義務を認める立場に立ったとして、その義務は本罪だけに及ぶのか、余罪にも及ぶのか。ここで学説が分かれます(第4節・第5節)。

198条(抜粋)刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。

限定説(受忍義務は本罪だけ)

受忍義務を、拘束の理由になった事件に限る考え方です。

  • 限定説:取調べ受忍義務は、拘束の理由になった事件、つまり本罪についてのみ認められる、という説です。
  • なぜ本罪だけか:受忍義務は、裁判官の審査を経た拘束に伴うものだからです。
    • 甲の令状に書かれているのは無免許運転だけです。放火には、裁判官の審査が及んでいません。
    • だから、審査の及んでいない余罪にまでは、受忍義務を広げません。
  • 目印(部屋の点検契約):契約書(令状)に書かれているのは「101号室」(本罪)だけです。書かれていない「102号室」(余罪)までは、点検の権利が及びません。

(1) 余罪の取調べが適法になる条件

限定説では、受忍義務を負わせずに、本人の意思で話してもらう形なら、余罪も取り調べられます。

  • 限定説の規範:取調べ受忍義務は、逮捕・勾留の基礎となった事件(本罪)についてのみ認められる。余罪について受忍義務を負わせた取調べは、①余罪の被疑事実、②余罪についても供述拒否権および弁護人選任権があること、③余罪の取調べについては受忍義務がないこと、を告げた上で、④被疑者が任意に供述した場合でなければ違法となる。
条件中身
①余罪の被疑事実を告げるこれから何の事件について聞くのかを明らかにする
②供述拒否権・弁護人選任権を告げる余罪についても、話したくないことは話さなくてよいこと、弁護人を頼めることを知らせる(198条2項・30条1項に対応)
③受忍義務がないことを告げる余罪の取調べは、拒んで席を立ってよいとはっきり告げる
④任意に供述した①〜③を告げた上で、それでも被疑者が自分の意思で話した場合だけ、適法になる
  • 198条2項:取調べの前に、被疑者に「自分の意思に反して供述する必要はない」と告げなければなりません。
  • 30条1項:被疑者は、いつでも弁護人を選任できます。

(2) 例外:密接関連の例外

限定説でも、余罪と本罪が深く結びついているときは、受忍義務を負わせて余罪を取り調べられます。

  • 密接関連の例外:余罪が本罪と密接な関連を持ち、余罪の取調べが本罪の捜査を進める上で重要な意味を持つ場合には、本罪の取調べの一環として、受忍義務を負わせた余罪取調べも許されます。
    • 密接な関連:片方を調べれば、もう片方の解明にも直結してしまう関係です。
  • 目印(配管):101号室と102号室が同じ配管でつながっていれば、101号室を点検すると102号室の状態も見えてしまいます。102号室を見ることも、101号室の点検の一環と扱えます。
  • 最高裁の決定:別件のうち恐喝未遂と、本件(強盗強姦、強盗殺人、死体遺棄)とが、社会的事実として一連の密接な関連があった事案です。
    • 別件の取調べが、同時に本件の取調べになっても適法と判断しました。
    • 脅迫状を届けた恐喝未遂を調べれば、その人が事件当日どこで何をしていたかが分かります。それがそのまま、殺人の捜査にもなります。

(3) 甲へのあてはめ

  • 告知:4日目に放火の取調べを本格化させた際、①〜③の告知はどれもされていません
    • 告知を欠く以上、④「任意に供述した」という条件そのものが整っていないと評価されます。甲が実際に話していても、結論は変わりません。
  • 密接関連:無免許運転と倉庫放火は、社会的事実として関連がありません。無免許運転をしていた事実は、放火の犯行計画や機会の解明に役立たないからです。
    • だから、密接関連の例外も使えません。
  • 結論:限定説に立てば、甲に対する4日目以降の余罪取調べは違法です。

非限定説(受忍義務は本罪・余罪を区別しない)

限定説と逆に、受忍義務を余罪にも及ぼす考え方です。

  • 非限定説:受忍義務は、本罪と余罪を区別せず認められる、という説です。
    • 根拠:198条1項ただし書からは、限定説が読み取るような「本罪に限る」という制限までは読み取れないからです。
    • 目印:101号室も102号室も、区別せず点検できる契約(建物全体の契約)だと考えます。
  • 立場:捜査の実務の立場とされています。
  • 批判嫌疑がほとんど無い余罪まで、受忍義務を負わせて聞いてよいとするのは、行き過ぎだという批判があります。
限定説非限定説
受忍義務が及ぶ範囲本罪だけ本罪も余罪も
余罪を取り調べる条件①〜③の告知+④任意の供述(例外:密接関連)告知の有無は問題にならない
甲の4日目以降の余罪取調べ違法適法
  • 押さえる点:どちらの説に立つかで、甲の取調べの評価が正反対に分かれます。

第二次逮捕・勾留(第一次拘束の適法性で分かれる)

3段目は、本件(放火)について、改めて逮捕・勾留できるかです。まず、第一次拘束が適法だったかで出発点が変わります。

第一次拘束が適法だった場合第一次拘束が違法だった場合
第一次拘束の中身別件の拘束として適法別件を名目に、実質は本件で拘束していた=本件も拘束済み
第二次逮捕・勾留の意味本件についての新しい拘束同じ事件での二度目の拘束蒸し返し
判断通常の要件を、改めて満たせばよい再逮捕・再勾留禁止の原則がかかり、原則違法

(1) 第一次拘束が適法だった場合

  • 判断:逮捕・勾留の理由と必要性があれば、第二次逮捕・勾留も適法です。
    • 逮捕の理由(199条1項):被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があることです。
    • 勾留の理由・必要性(60条1項・207条1項):60条1項は被告人の勾留の規定です。207条1項で、勾留請求を受けた裁判官が裁判所と同じ権限を持つので、被疑者の勾留にも使われます。
      • 60条1項の理由:罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があり、住居不定・罪証隠滅のおそれ・逃亡のおそれのいずれかにあたることです。

(2) 第一次拘束が違法だった場合

  • 蒸し返し:本件ではすでに一度拘束が行われていたので、本件での第二次逮捕・勾留は、同じ事件の蒸し返しと考えられます。
  • 原則:再逮捕・再勾留禁止の原則により、原則として違法です。
    • 例外:それまでの拘束による被疑者の不利益がどれだけ大きくても、なお認めるべきと言えるほど、必要性の程度が極めて大きい場合に限られます。
  • 物差し:再逮捕・再勾留の必要性の程度と、被疑者が被る不利益の程度を比べる、比較衡量です。

余罪取調べだけが違法だった場合(自白調書と第二次逮捕・勾留)

第一次拘束は適法でも、その間の余罪取調べだけが違法だった場合を整理します。

  • 自白調書の証拠能力:違法な余罪取調べで得た自白調書は、証拠能力が否定されます(証拠として使えません)。
    • 理由:違法な取調べで得た証拠を、そのまま使わせるわけにはいかないからです。
  • 第二次逮捕・勾留:その理由を何が支えているかで分かれます。
    • 理由がその自白調書だけなら、理由が無くなるので違法です。
    • 自白調書を除いた残りの証拠だけで理由が足りるなら、適法です。
余罪取調べの評価 \ 第二次逮捕・勾留の理由自白調書のみ客観的な証拠あり
違法(限定説で、告知を欠く)違法(理由が無くなる)適法(自白を除いても理由が足りる)
適法(非限定説、または密接関連あり)適法(自白調書をそのまま使える)適法

(1) 甲の場合

  • 限定説:4日目以降の余罪取調べが違法なので、9日目の自白調書は証拠能力が否定されます。
    • 例えば、放火現場に残されたライターから甲の指紋が出ていれば、それは自白に頼らない客観的な証拠です。その証拠があれば、第二次逮捕・勾留は適法です。
    • そうした証拠が無く、理由が自白調書だけなら、第二次逮捕・勾留は違法です。
  • 非限定説:4日目以降の余罪取調べは適法で、自白調書もそのまま使えます。第二次逮捕・勾留は適法です。

(2) 乙の場合

  • 自白調書がそもそも無い:乙は放火への関与を否認し、その後は放火について取り調べられていません。証拠能力を問題にする自白調書が存在しません。
  • 判断:乙の第二次逮捕・勾留は、防犯カメラ映像のような、自白に由来しない客観的な証拠があるかだけで判断されます。
  • 2段目と3段目のつながり:拘束そのものが適法でも、取調べには限界があります。その限界を超えて得た自白は、次の拘束を支えられません

実体喪失説から見た余罪取調べ

勾留そのものの評価に使う物差しを、個々の取調べの評価にも使えます。

  • 実体喪失説:勾留が、本罪の勾留としての実体を保っているかで、別件逮捕・勾留の適法性を見る説です。
  • 取調べへの応用:勾留自体は実体を完全に失ったとまでは言えなくても、個々の取調べだけを見ると違法と評価される余地があります。
  • 理由:勾留の期間は、本罪の起訴・不起訴を決めるための捜査に使う前提です。その決定に向けた捜査として必要性を欠く取調べは、それ自体が違法と評価されます。

(1) 甲へのあてはめ

4日目〜9日目の6日間1日あたりの取調べ
本罪(無免許運転)15分程度
余罪(倉庫放火)連日2〜3時間
  • 考慮要素本罪と余罪、それぞれの取調べの程度が、余罪の側に大きく偏っています。
  • 評価:本罪の取調べが1日15分では、本罪の起訴・不起訴を決めるための取調べとは言えません。6日間の取調べの時間は、ほとんど余罪に使われていたことになります。
  • 結論:勾留自体が違法とまでは言えなくても、この6日間の取調べが違法と評価される余地があります。
    • この余地は、限定説・非限定説のどちらに立っても残ります

甲・乙の総合検討

ここまでの検討を、甲と乙で並べます。

(無免許運転で逮捕)(置き引きで逮捕)
余罪取調べ限定説なら違法、非限定説なら適法(告知が無く、密接関連も無い)放火について取り調べていないので、どちらの説でも問題が生じない
第二次逮捕・勾留限定説:客観的な証拠があれば適法、無ければ違法/非限定説:適法自白調書に頼れないので、防犯カメラ映像などの客観的な証拠だけで判断
実体喪失説の観点6日間の取調べの配分が余罪に偏っており、違法評価の余地が残る放火の取調べをしていないので、検討する場面自体が生じない
  • 分かれ方の違い:甲は、告知の有無・密接関連の有無・取調べの配分という具体的な事情の組合せで結論が変わります。乙は、余罪を取り調べていないという一点で、問題そのものが生じません。

(1) 別件の処分結果は響かない

  • 処分結果:満期日に、甲は無免許運転で略式命令、乙は置き引きで起訴猶予になりました。
    • 略式命令:簡易裁判所が、検察官の請求により、公判を開く前に、100万円以下の罰金または科料を科す手続です(461条)。
    • 起訴猶予:犯罪の軽重や情状などから訴追を必要としないとき、検察官が起訴しないことです(248条)。
  • 結論:別件の処分結果は、事後的に第一次拘束を違法にする事情ではありません
    • 理由:第一次拘束の適法性は、拘束していた当時の理由・必要性で判断されるからです。

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