刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#34

別件逮捕・勾留①別件基準説と本件基準説

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問い:本件で逮捕できるだけの証拠が無いので、証拠の揃った別件で逮捕・勾留し、その間に本件を取り調べた。別件での第一次逮捕・勾留そのものは適法か。

骨組み

  1. 1別件逮捕・勾留とは:本件で逮捕できる証拠が無い → 本件を取り調べる目的で、証拠の揃った別件で逮捕・勾留 → その拘束期間を利用して本件を捜査。検討は3段=①第一次逮捕・勾留の適法性(この回)②余罪取調べの限界 ③第二次逮捕・勾留の可否
  2. 2入口:別件そのものに理由・必要性が無ければ、どの説でも違法=別件逮捕として論じるまでもない。逮捕=理由(罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由・)+必要性(ただし書・刑訴規則143条の3)/勾留=理由(相当な理由+各号)+必要性(の「勾留の必要」)
  3. 3別件基準説(実務の大勢):別件に理由と必要性があれば第一次は適法。本件に使う意図は令状審査に直接影響しない。批判=身体拘束の濫用という脱法的本質を無視
  4. 4本件基準説(学説の多数):別件に理由・必要性があっても、拘束を本件の捜査のために利用する意図があれば違法(予備R7の見解文は「専ら又は主として」と限定)。予備R7の定式なら、並行して聞いただけでは違法にならないことがある/本件に理由・必要性があっても別件で逮捕すれば違法
  5. 5本件基準説の根拠:①令状主義の潜脱(審査は別件だけ)②身体拘束期間の潜脱(第一次で本件を捜査し、さらに本件で第二次まで)。性格=請求の時点で却下する事前抑制
  6. 6本件基準説への批判:①裁判官が意図を見抜くのは容易でない ②客観的に理由・必要性があるのに主観で違法とする根拠が明らかでない
  7. 7最決昭52・8・9:別件に理由と必要性があったことは明らか。別件と本件は一連の密接な関連 → 本件も聞いたのは別件について当然しなければならない取調 → 専ら本件目的で別件に名を借りたとはいえない → 第一次・第二次とも適法とした原判決を是認
  8. 8実体喪失説(実務でも有力):拘束期間が専ら本件の捜査(過去問の見解文は「主として」)に使われると、別件の勾留としての実体を失う → 実質は本件の拘束=令状主義違反で違法。並行して聞いただけでは足りない。5つの事情を総合
  9. 9実体喪失説の効果:喪失の時点から違法(一部違法)。事後抑制=勾留取消し(・=条文の割り当ては教材に記述なし)・延長しない・第二次の請求を却下・自白調書の証拠能力を否定
  10. 10新しい本件基準説・新しい別件基準説:実体喪失の考え方を両側から主張するもの。前者=本件基準説の立場から主張される実体喪失説(勾留期間=起訴・不起訴の決定に向けた捜査の期間)。後者=別件基準説に立ちつつ、実体喪失で別件の理由・必要性が失われるとする(東京地決平12・11・13=内容は解説書の紹介による・全文未確認)。結論に大差は無いとされる

色の札は出どころ:条文 判例 学説。条文番号は押すと条文、丸い札(出題)は押すと過去問の肢と正答が出ます。

主語を分けて覚える。別件基準説=実務の大勢。本件基準説=学説の多数。実体喪失説=実務でも有力。最決昭52・8・9 は学説の名前を使っていない。

別件基準説本件基準説実体喪失説
見るもの別件の理由・必要性拘束を本件の捜査のために利用する意図(予備R7の見解文は「専ら又は主として」と限定)実際の客観的な捜査状況(意図も総合する事情の1つ)
いつ判断請求の時点請求の時点=事前抑制後から=事後抑制
違法になる範囲別件の要件を欠くときだけ(新しい別件基準説は項目10)第一次逮捕・勾留が違法喪失の時点から先
向けられる批判・弱み濫用の脱法的本質を無視意図を見抜くのは容易でない/主観で違法とする根拠が不明請求の時点では止められない
過去問の見解文の目印「要件が備わっている限り適法」「意図は直接には影響しない」「意図があれば違法・請求を却下」「名を借りて」「利用されるに至った場合には、それ以降」

「名を借りて」は過去問の見解文での目印。最決昭52・8・9 も判断の部分で「名を借り」の語を使う(最高裁自身の言葉。決定が要約した弁護人の主張には、この語は無い)。決定は学説の名前は使っていない。この決定をどの説に位置づけるかは、教材に記述なし(項目7)。

過去問では、見解Ⅰ・Ⅱの割り当てが年度で入れ替わる(予備R2=Ⅰ別件基準説・Ⅱ本件基準説、予備R7=Ⅰ本件基準説・Ⅱ別件基準説。Ⅲはどちらも実体喪失説)。番号ではなく文言で見分ける。過去問では、要件が備わらない本件をA事実、要件が備わっている別件をB事実と呼ぶ。

①第一次の適法性(この回) ③第二次の可否 第一次逮捕・勾留(名目=別件) 第二次(本件) 3段:①第一次の適法性 ②余罪取調べの限界 ③第二次の可否 請求の時点 実体を失った時点 別件基準説:別件の理由・必要性があれば適法 本件基準説:利用する意図なら請求を却下 (事前抑制) 実体喪失説: ここから先が違法(事後抑制)
第一次の適法性を、別件基準説・本件基準説は請求の時点で決める。実体喪失説は、実際に拘束がどう使われたかを見て、実体を失った時点から先を違法とする。②余罪取調べの限界は、第一次の拘束の間の本件の取調べがどこまで許されるかの問題で、図の区間の上では①と重なる(実体喪失説は、その取調べを含む捜査状況から勾留の違法を後から判断する)。
別件で逮捕・勾留を請求(その間に本件も取り調べたい)別件に理由・必要性があるか逮捕=199条・規則143条の3/勾留=60条1項・87条1項違法どの説でも。別件逮捕の論点以前いいえはい本件の捜査に利用する意図か本件基準説だけが問う(予備R7の見解文は「専ら又は主として」と限定)違法請求を却下(事前抑制)はいいいえ(別件基準説はここを問わない)第一次逮捕・勾留は適法その後の使われ方は実体喪失説・余罪取調べの限界で
請求の時点での判断。別件基準説は1段目だけで決める。本件基準説は2段目で意図を問う。実体喪失説は請求の時点では判断せず、適法に始まった拘束が途中で実体を失ったかを後から見る(項目8)。

1別件逮捕・勾留とは

  • 定義の要素:①本件で逮捕できるだけの証拠が無い ②本件を取り調べる目的 ③証拠の揃った別件で逮捕・勾留 ④その身体拘束期間を利用して本件を捜査(主に取調べ)。
  • 定義の「目的」は手法を説明する言葉で、目的の程度(専ら・主として)までは言っていない。その目的をどう扱うか(見ない/意図で決める/実際の使われ方で決める)で、項目3以下の説が分かれる(本件基準説=本件の捜査に利用する意図なら違法。予備R7の見解文は「専ら又は主として」と限定)。
  • 典型の経過=別件での第一次逮捕・勾留 → その間の本件の取調べと自白 → 自白を資料にした本件での第二次逮捕・勾留。検討もこの順の3段。
  • 1段目が適法でも、2段目の取調べが行き過ぎれば、そこが違法になりうる=3段は別々の問題として順に検討する(ただし実体喪失説は、取調べを含む捜査の実態から1段目の勾留の違法を判断する=項目8)。
呼び方何か余罪取調べの文脈では過去問では
別件拘束の名目(証拠が揃っている)本罪B事実
本件実際に調べたい事件(証拠が足りない)余罪A事実

第一次の被疑事実は別件なので、余罪取調べの文脈では「別件=本罪」「本件=余罪」と呼び名が入れ替わる。

2入口:別件そのものの理由・必要性条文

  • 別件そのものに逮捕・勾留の理由・必要性が無ければ、どの説から見ても違法。ただの要件を欠く事案で、別件逮捕・勾留として論じる必要は無い。
  • 学説が対立するのは、別件自体は要件を満たして適法に見える場合。
  • 逮捕の理由=被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由()。逮捕の必要性=裁判官は「明らかに逮捕の必要がない」と認めるときは逮捕状を発しない(ただし書)。
  • 勾留の理由=罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由+各号のどれか。勾留の必要性=が「勾留の必要がなくなつたとき」の取消しを定める(必要性の中身はこの回の教材に記述なし)。被疑者の勾留では、請求を受けた裁判官がにより裁判所と同じ権限で判断する。
  • 逃亡・罪証隠滅のおそれの置き場所:逮捕では刑訴規則143条の3が必要性の判断材料に挙げる。勾留では各号(住居不定・罪証隠滅・逃亡)=勾留の理由の側に入る。

別件の窃盗が単純な事案で罪証隠滅のおそれも無く、被疑者に定まった住居と職業があり、任意出頭にも応じている → 本件目的かどうか以前に、明らかに逮捕の必要がないとされ、逮捕状は出ない(刑訴規則143条の3)。「別件逮捕だから違法」と書く必要は無い。

×にされやすい形
  • 逃亡・罪証隠滅のおそれを、勾留でも「必要性」の中身とする形(勾留では各号=理由の側)

3別件基準説学説

  • 主語=実務の大勢。別件に逮捕・勾留の理由と必要性があれば、第一次逮捕・勾留は適法。
  • 見るのは令状審査の段階の話:本件の取調べに使う意図は、別件による逮捕・勾留の適法性に直接には影響しない。
  • ただし、拘束中の本件の取調べがどう扱われるか(余罪取調べの限界)は別の問題=この説でも、専ら本件ばかり取り調べれば、本件の取調べが違法となりうる。
  • 批判:捜査機関による身体拘束の濫用という脱法的本質(問題の本質)を無視する考えだ。

出題別件基準説には「身体拘束の濫用という(脱法的)本質を無視する」との批判がある(○)

出題別件基準説では、拘束が適法なら、専ら本件を取り調べ別件を全く取り調べなくても、本件の取調べが違法となることはない(×)

×にされやすい形
  • 別件基準説では、拘束が適法である以上、専ら本件の取調べが行われ別件の取調べが全く行われなくても、本件の取調べが違法となることはない、とする形(予備R7-16-イ)
  • 「濫用の本質を無視」という批判を本件基準説・実体喪失説に向ける形

4本件基準説(定式とその帰結)学説

  • 主語=学説の多数。別件に理由・必要性があっても、捜査機関が拘束を本件の捜査のために利用する意図があれば違法(解説書の定式・程度の語なし)。予備R7の見解文は、これを「専ら又は主として本件の捜査に利用する意図」と限定した形で出す。
  • 教材ごとの言い方:解説書「本件の捜査のために利用する意図」(程度の語なし)/講義解説「専ら本件について取り調べる目的」/予備R2の見解文「別件に名を借りて実質的には本件の取調べを行う意図」。どれも、請求の時点で見た拘束のねらいを問う。予備R7は「専ら又は主として」の限定つきの形で出し、下の帰結(並行なら違法にならないことがある)を○にしている。
  • 予備R7の見解文の「専ら又は主として」の限定のもとでは、別件の取調べと並行して本件も取り調べた、というだけなら違法にならないことがある。
  • 本件に逮捕・勾留の理由と必要性が備わっていても、本件を取り調べる意図で別件で逮捕・勾留すれば違法のまま(本件の証拠があるなら、本件で令状を取るべき)。

別件の取調べを毎日きちんと行い、合間に本件も少し聞いた → 予備R7の見解文の定式(専ら又は主として利用する意図)なら、主として本件に利用する意図とはいえない方向に働き、違法とはいえない余地がある(解説書の定式=程度の語なし、では、本件の捜査に利用する意図があると認められる以上、違法となる方向)。

出題本件基準説でも、別件と並行して本件を取り調べた場合、拘束が違法にならないことがある(○)

出題本件基準説からは、本件に理由・必要性が備わっていれば、本件を取り調べる意図で別件により逮捕・勾留しても適法(×)

×にされやすい形
  • 本件について逮捕・勾留の理由と必要性が備わっていれば、本件を取り調べる意図で別件により逮捕・勾留しても適法、とする形(予備R2-19-ウ)
  • 本件基準説なら、拘束中に本件を少しでも聞けば違法、とする形

5本件基準説の根拠と事前抑制学説

根拠中身
①令状主義の潜脱実質は本件での逮捕・勾留なのに、裁判官が審査したのは別件だけ
②身体拘束期間の潜脱第一次の期間中に本件を捜査し、さらに本件で第二次逮捕・勾留を認めれば、本件について以下の厳格な期間制限をすり抜ける
  • 性格:第一次の請求の時点で、裁判官が意図を見抜いて請求を却下する=事前抑制(潜脱の事前防止)を重視する立場。

出題本件基準説は、身体拘束期間の潜脱に対する事前防止を重視する立場(○)

×にされやすい形
  • 期間の潜脱を、第一次の時点で本件に期間制限が及ばないこと自体とする形(筋は「第一次で本件を捜査し、さらに本件で第二次」の2段)
  • 事前抑制を実体喪失説の性格とする形(実体喪失説は事後抑制)

6本件基準説への批判学説

  • ①逮捕・勾留の請求を審査する裁判官が、捜査機関の意図を見抜くのは容易でない(意図・目的をまず調べるのは実際的でない)。
  • ②別件に客観的には理由・必要性が十分あるのに、意図という主観的な事情で違法とする根拠が明らかでない。
  • 本件基準説に立つと、意図は、本件の捜査状況・別件で逮捕する必要性・取調べの状況など、客観的な事情から推知することになる(講義解説)。
  • 判断の場面:本件基準説がねらうのは請求の時点での却下(事前抑制)。ただ、拘束が始まった後に第一次の適法性を判断する場面でも、意図があったと認められれば第一次の逮捕は違法とされる(解説書の事例検討)。意図を推知する材料に取調べの状況を挙げるのは講義解説(上の項目)。

出題本件基準説には、裁判官が捜査機関の意図・目的を審査するのは容易でないとの批判がある(○)

出題実体喪失説には、裁判官がまず捜査機関の意図を調べるのは実際的でないとの批判がある(×)

×にされやすい形
  • 「意図を審査するのは実際的でない」という批判を実体喪失説に向ける形(予備R2-19-オ)。実体喪失説は請求の時点で意図を審査しない(後から客観的な捜査状況を見る)

7最決昭52・8・9(別件と本件が密接に関連した事案)判例

  1. 窃盗・暴行・恐喝未遂(別件)で逮捕・勾留。勾留は延長(第一次)
  2. 第一次の間、強盗強姦殺人・死体遺棄(本件)についても取り調べたことがうかがわれる。その間、別件の捜査と並行して本件の客観的な証拠を集める
  3. 満了の日に窃盗・暴行と、勾留中に判明した余罪を起訴(起訴後の勾留が続く)。恐喝未遂は処分留保=起訴も不起訴もしないまま勾留期間が満了(のちに第二次の満了の日に本件と一緒に起訴)
  4. 起訴後の勾留について保釈が許可され、釈放された直後、本件で逮捕・勾留(第二次)
  • 弁護人の主張(決定の要約):第一次は専ら、逮捕状を請求するだけの証拠の揃っていない本件について取調をする目的で、証拠の揃っている軽微な犯罪である別件の罪名で逮捕、勾留したもの。
  • 最高裁は、第一次逮捕の時点でも捜査官が本件の嫌疑を抱いて捜査を進めていたことは否定しえないとしたうえで、それでも第一次の適法を認めた(原判決を是認)。理由は次の2つ=①別件に理由と必要性があったことは明らか ②別件(恐喝未遂)と本件は一連の密接な関連があり、本件にも関わる取調べは別件について当然しなければならない取調だった。
  • 第一次逮捕・勾留は、その基礎となつた被疑事実について逮捕・勾留の理由と必要性があつたことは明らかである。
  • そして、「別件」中の恐喝未遂と「本件」とは社会的事実として一連の密接な関連があり、「別件」の捜査として事件当時の被告人の行動状況について被告人を取調べることは、他面においては「本件」の捜査ともなるのであるから、第一次逮捕・勾留中に「別件」のみならず「本件」についても被告人を取調べているとしても、それは、専ら「本件」のためにする取調というべきではなく、「別件」について当然しなければならない取調をしたものにほかならない。
  • それ故、第一次逮捕・勾留は、専ら、いまだ証拠の揃つていない「本件」について被告人を取調べる目的で、証拠の揃つている「別件」の逮捕・勾留に名を借り、その身柄の拘束を利用して、「本件」について逮捕・勾留して取調べるのと同様な効果を得ることをねらいとしたものである、とすることはできない。
  • 第二次について:
  • …両者は併合罪の関係にあり、各事件ごとに身柄拘束の理由と必要性について司法審査を受けるべきものであるから、一般に各別の事件として逮捕・勾留の請求が許されるのである。
  • …専ら、逮捕・勾留の期間の制限を免れるため罪名を小出しにして逮捕・勾留を繰り返す意図のもとに、各別に請求したものとすることはできない。
  • …第二次逮捕・勾留が第一次逮捕・勾留の被疑事実と実質的に同一の被疑事実について再逮捕・再勾留をしたものではないことは明らかである。
  • 結論:第一次・起訴後の勾留・第二次はいずれも適法で、その間の取調べにも違法は無いとした原判決の判断を是認(上告棄却)。
  • 決定は「別件基準説」「本件基準説」という学説の名前を使っていない。「名を借り」は本件基準説の見解文(予備R2)と同じ語だが、弁護人の主張(決定の要約)には無く、判断の部分で最高裁自身が使った言葉。この決定をどの説に位置づけるかは、教材に記述なし。

別件が本件と無関係な万引きで、勾留中の取調べの大半が本件だったら → 「別件について当然しなければならない取調」という評価の土台(密接な関連)が崩れ、専ら本件のための取調べと見られる方向に動く(結論は事案全体による)。

×にされやすい形
  • 「最高裁は、第一次逮捕・勾留中に本件を取り調べたことを理由に、違法とした」
  • 「最高裁は、本件基準説を採ると明示した」(学説の名前は使っていない)
  • 第二次を、第一次と実質的に同一の被疑事実での再逮捕・再勾留とする形(決定の理由=第一次中の捜査が専ら本件に利用されたものでないことは既に述べたとおり。併合罪=一般に各別に請求できる。小出しの意図が無いとした理由=本件の証拠は第一次の後に初めて揃った)

8実体喪失説学説

  • 解説書はこの説を②余罪取調べの限界の見出しの下で扱う(余罪取調べの実態から勾留の違法を判断する説だから)。
  • 主語=実務でも有力。出発点=勾留期間の定めは、身体拘束を不必要に長くしないための期間制限 → 第一次勾留中は、別件(本罪)について適正な処分をするための捜査をすべき。
  • 拘束期間が専ら本件(余罪)の捜査(過去問の見解文は「主として」)に使われるに至ったら、別件の勾留としての実体を失い、実質は本件のための拘束。
  • 本件は司法審査を受けていない → 令状主義に反して違法。その間の本件の取調べも、違法な拘束を利用したものとして違法。
  • 別件の取調べと並行して本件も取り調べた、というだけで常に違法になるのではない。
  • 実体を失ったかは、次の5つを総合して決める(解説書が実体喪失説の判断方法として挙げるもの):①捜査機関の意図 ②本罪・余罪それぞれの取調べの程度 ③余罪と本罪の関係(法定刑の軽重・密接な関連性の有無など)④取調べの態様・供述の自発性 ⑤捜査全般の進行状況。
  • 意図も5つの1つとして見るが、意図だけで決めない(意図で決める本件基準説との違い)。
別件で適法に勾留。その間に本件も取り調べた専ら(主として)本件捜査に使われたか5つの事情を総合(意図・取調べの程度・罪の関係・態様と自発性・進行状況)勾留は違法でない並行して聞いただけでは足りないいいえはい(実体を失った)その時点から先の拘束が違法令状主義違反。その間の本件の取調べも違法
実体喪失説の判断。別件として適法に始まった勾留を、実際の使われ方から後で評価する。「いいえ」でも、本件の取調べそのものが許されるかは余罪取調べの限界として別に問題になる。
勾留中の取調べ別件の取調べ本件の取調べ評価
例①(10日間)毎日2時間最終日に30分並行して聞いただけ=実体を失ったとはいえない
例②(4日目〜9日目)1日15分程度連日2〜3時間実体を失った可能性=認められればその時点から先が違法

出題実体喪失説では、別件と並行して本件を取り調べれば、別件による逮捕・勾留は常に違法となる(×)

×にされやすい形
  • 実体喪失説では、別件と並行して本件を取り調べれば、別件による逮捕・勾留は常に違法となる、とする形(予備R2-19-エ)
  • 5つの事情を、判例が示した要件として覚える形

9実体喪失説の効果:時点から違法・事後抑制学説条文

  • 実体を失ったと認められる時点から違法=第一次勾留は全部ではなく一部が違法。
  • 現実の客観的な捜査状況を踏まえて後から違法と判断する=事後抑制を重視。請求の時点で止める事前抑制はできない。
いつならどう抑えるか
第一次勾留の執行中勾留を取り消して釈放(教材は「勾留取消しにより釈放する」とだけ書き、条文の割り当ては教材に記述なし。手がかりの条文=・)
延長の前延長を認めず釈放
本件で第二次の請求第二次逮捕・勾留の請求を却下
起訴された後の公判自白調書の証拠能力を否定
  • :勾留の理由又は勾留の必要がなくなったときは、裁判所は、請求により又は職権で、決定で勾留を取り消さなければならない。主語は裁判所・対象は被告人 → (勾留の請求を受けた裁判官は、裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。保釈は除く)で被疑者の勾留にも使う、と読める(条文の文言から。教材はこの割り当てを書いていない)。
  • 別件の勾留の満期に、別件を嫌疑不十分・起訴猶予として起訴しなかった場合:起訴できなかった、というだけで、あとから勾留が違法になることは無い(どの見解でも)。
×にされやすい形
  • 実体喪失説では、第一次勾留が最初から全部違法になる、とする形
  • 「別件で起訴できなかった以上、勾留は違法だった」とする形

10新しい本件基準説・新しい別件基準説学説判例

  • 位置づけ:実体喪失説を本件基準説の立場から主張するものが「新しい本件基準説」。別件基準説に立ちつつ、実体喪失による勾留の違法を認める見解が「新しい別件基準説」。どちらも、請求の時点ではなく、拘束の実際の使われ方から勾留の違法を判断する点で実体喪失の考え方をとる。
新しい本件基準説新しい別件基準説
何か本件基準説の立場から主張される実体喪失説。本件基準説の立場ではあるが、意図を重視して請求の時点で止める(事前抑制)元の本件基準説とは一線を画す(意図だけでなく実際の使われ方を見る)別件基準説に立ちつつ、実体喪失で勾留の違法まで認める
勾留期間の理解逃亡・罪証隠滅を防いだ状態で、拘束の理由とされた被疑事実について起訴・不起訴の決定に向けた捜査をする期間―
何が違法か捜査機関が、別件(拘束の理由とされた被疑事実)について起訴・不起訴の決定に向けた捜査を続ける必要が無いのに、本件のために別件の勾留を続けること=実質は本件による勾留で違法余罪取調べが違法になるだけでなく、実体喪失で別件の理由と必要性が失われる → 勾留が違法
裁判例―東京地決平12・11・13(判タ1067号283頁。内容は解説書の紹介による・全文未確認)
  • 新しい本件基準説は、勾留の違法と余罪取調べだけの違法を分ける:実体を失ったとまではいえない、比較的短時間の本件の取調べを繰り返した場合 → 勾留は違法でなくても、起訴・不起訴の決定に向けた捜査として必要性を欠く余罪取調べは違法と評価される余地がある。
  • 前者はあくまで本件を基準に(実質は本件による勾留になっていないか)、後者はあくまで別件を基準に(別件の理由・必要性がまだ残っているか)勾留の違法を判断する。この違いはあるが、結論に大差は無いとされている。
  • 実体喪失説は、勾留期間を「その被疑事実について起訴・不起訴の決定に向けた捜査をする期間」と捉える考えと整合する。

別件の捜査は順調に進んでいるが、毎日20分ずつ本件の取調べを続けた → 拘束の中身はなお別件なので勾留は違法とまではいえない。それでも、本件の取調べが必要性を欠けば、取調べだけが違法とされる余地がある。

出題実体喪失説は、勾留期間を起訴・不起訴の決定に向けた捜査期間と捉える考えと整合しない(×)

×にされやすい形
  • 実体喪失説は、勾留期間を起訴・不起訴の決定に向けた捜査期間と捉える考えと整合しない、とする形(予備R7-16-ウ)
  • 新しい本件基準説では、必要性を欠く本件の取調べがあれば、それだけで勾留も違法になる、とする形(勾留の違法と取調べの違法は分かれる)

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