刑事訴訟法 ゼロから刑事訴訟法#8

逮捕(令状主義・通常/現行犯・準現行犯/緊急)

逮捕の全体像を令状主義から整理する回。通常逮捕(相当な理由+逮捕の必要性)、現行犯・準現行犯逮捕(明白性ゆえ令状不要)、緊急逮捕(重罪・直ちに令状請求とその合憲性)を押さえる。

⬇ 印刷用PDF

第2章 捜査 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

0. 令状主義(逮捕の大原則)

  • 【条文】日本国憲法33条

    何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない

    • 逮捕=身体を直接拘束する強制処分の代表。原則、中立な裁判官(=司法官憲)の事前審査(令状)が必要。
    • 憲法が明文で認める唯一の例外が現行犯(明白性が高く誤認のおそれが小さい)。

1. 通常逮捕(199条)=逮捕の理由 + 逮捕の必要性

  • 【条文】刑訴199条1項

    検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(…)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。

  • 【条文】刑訴199条2項

    裁判官は、…検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、…警部以上の者に限る。)の請求により、前項の逮捕状を発する。ただし、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。

  • 逮捕の理由=「相当な理由」(相当な嫌疑)。② 逮捕の必要性=逃亡・罪証隠滅のおそれ。
  • 【条文】刑訴規則143条の3(逮捕の必要性の中身)

    …被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。

  • 短答ポイント:請求権者=検察官・指定司法警察員(警部以上)司法巡査は請求できない

2. 現行犯逮捕(212条1項・213条)=明白性で令状不要

  • 【条文】刑訴212条1項:現に罪を行い、又は現に罪を行い終つた者を現行犯人とする。
  • 【条文】刑訴213条:現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる(私人逮捕可)。
    • 私人が逮捕したら直ちに検察官・司法警察職員へ引き渡す(214条)。
  • 令状不要の根拠=犯罪・犯人の明白性(逮捕者が現認でき誤認逮捕のおそれが小さい)。
  • 現行犯逮捕にも逮捕の必要性は要るとするのが多数(程度に争い・「不要」と断言しない)。

3. 準現行犯(212条2項)=各号該当 +「間がない」

  • 柱書:左の各号の一にあたる者が、罪を行い終つてから間がないと明らかに認められるときは、現行犯人とみなす
    • 1号 犯人として追呼/2号 贓物・兇器その他の物を所持/3号 身体・被服に犯罪の顕著な証跡/4号 誰何されて逃走しようとする。
  • 要件=①各号のいずれか該当 + ②時間的・場所的接着性(=明白性の担保)。
  • 【判例】最決平8・1・29(和光大学事件・第三小法廷決定/刑集50巻1号1頁・百選15)

    (職務質問からの一連の状況の下で)212条2項2号ないし4号に当たる者が「罪を行い終つてから間がない」と明らかに認められるときにされたものとして、準現行犯逮捕は適法。

    • 犯行約1時間40分後・現場から約4km。各号該当事実と相まって接着性・明白性を肯定。※数値は事案の事実で基準値ではない

4. 緊急逮捕(210条)=重罪・十分な理由・緊急性・直ちに令状(★論文)

  • 【条文】刑訴210条1項

    検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

    • ※ 2025-06-01施行の拘禁刑化後の現行表記=「長期三年以上の拘禁刑」(旧「懲役若しくは禁錮」は不可)。嫌疑=「十分な理由」(「充分」でない)。
    • 嫌疑の程度は通常逮捕(相当な理由)より高い
  • 【判例】最大判昭30・12・14(緊急逮捕の合憲性・大法廷/刑集9巻13号2760頁)

    厳格な制約の下に、罪状の重い一定の犯罪についてのみ、緊急已むを得ない場合に限り、逮捕後直ちに裁判官の審査を受けて逮捕状の発行を求めることを条件として被疑者の逮捕を認めることは、憲法33条規定の趣旨に反するものではない

📝 論文の型|現行犯・準現行犯逮捕の適法性

  • 【コア規範】(逐語暗記=太字キーワード)現行犯逮捕(212①)が令状なしで許されるのは、犯罪と犯人が逮捕者にとって明白で誤認逮捕のおそれが小さいから。準現行犯逮捕(212②)は、同項各号の一に該当し、かつ「罪を行い終つてから間がない」と明らかに認められる時間的・場所的接着性を要する。
  • 【復元キー】①無令状逮捕の根拠=犯罪・犯人の明白性(誤認のおそれ小) → ②現行犯(212I)=現に罪を行い/現に行い終わった者 → ③準現行犯(212II)=各号該当+「間がない」明白性(時間的・場所的接着) → ④現行犯逮捕にも逮捕の必要性(逃亡・罪証隠滅)を要するのが多数。
  • 【フル論証】現行犯逮捕(212条1項)が令状なしで許されるのは、犯罪と犯人が逮捕者にとって明白であり、誤認逮捕のおそれが小さいからである。準現行犯(212条2項)は、同項各号の事由のいずれかに該当し、かつ「罪を行い終つてから間がない」と明らかに認められる時間的・場所的接着性を要する。現行犯逮捕においても、逮捕の必要性(逃亡・罪証隠滅のおそれ)を要するとするのが多数である。
  • 【事例】職務質問から逃走した者を約1時間40分後・約4km先で逮捕。
  • 【問題提起】令状なしの準現行犯逮捕(212条2項)として適法か。
  • 【あてはめ】誰何逃走(4号)・証跡(3号)等の各号事情と、職質からの一連の追跡という接着性を評価(和光大学・最決平8・1・29)。

📝 論文の型|緊急逮捕の合憲性

  • 【コア規範】(逐語暗記=太字キーワード)緊急逮捕(210条)は、死刑・無期・長期3年以上の拘禁刑にあたる罪につき罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由があり、急速を要し裁判官の逮捕状を求めることができないときに、理由を告げて逮捕し、逮捕後直ちに逮捕状を請求するもの。重罪限定・高度の嫌疑・緊急性という厳格な要件と逮捕後直ちの司法審査を条件とする以上、令状主義(憲33)の趣旨に反せず合憲〔最大判昭30・12・14〕。
  • 【復元キー】①問題=逮捕後に令状を求める緊急逮捕は令状主義(憲33)に反しないか → ②要件が厳格=重罪・十分な嫌疑・急速を要し令状を求める余裕なし → ③逮捕後直ちに逮捕状請求=事後ながら司法審査が必ず働く → ④全体として令状主義の趣旨を満たし合憲。
  • 【フル論証】緊急逮捕(210条)は、死刑・無期・長期3年以上の拘禁刑にあたる重い罪につき罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由があり、急速を要し裁判官の逮捕状を求めることができない場合に、理由を告げて逮捕し、逮捕後直ちに逮捕状を請求する(発せられなければ直ちに釈放する)ものである。このように、重罪限定・高度の嫌疑・緊急性という厳格な要件と、逮捕後直ちの司法審査を条件とする以上、令状主義(憲法33条)の趣旨に反せず合憲である(最大判昭30・12・14)。
  • 【事例】重大事件の被疑者を令状を待たず逮捕、直後に令状請求。
  • 【問題提起】逮捕後に令状を求める緊急逮捕は令状主義(憲33)に反しないか。
  • 【あてはめ】対象犯罪の重大性・十分な嫌疑・緊急性・直ちの令状請求の各要件を一つずつ充足判定。

短答ひっかけ

  • 逮捕状を請求できるのは? → 検察官・警部以上の司法警察員司法巡査は不可
  • 現行犯は警察官しか逮捕できない? → 。何人でも可(213)。私人は直ちに引渡し(214)。
  • 緊急逮捕は軽い罪でも? → 不可。死刑・無期・長期3年以上の拘禁刑の重罪に限る。
  • 緊急逮捕は令状なしだから違憲? → 合憲(直後に令状請求の厳格要件=最大判昭30・12・14)。
  • 現行犯なら逮捕の必要性は不要? → 不要と断言しない(多数は必要・程度に争い)。

→ 次回:勾留(要件・期間・逮捕前置主義)。

参照条文

  • 日本国憲法33条
  • 刑訴199条1項
  • 刑訴199条2項
  • 刑訴規則143条の3(逮捕の必要性の中身)
  • 刑訴212条1項
  • 刑訴213条
  • 刑訴210条1項

刑事訴訟法 全体ロードマップへ →