GPS捜査とエックス線検査
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骨格見るだけ・付けるだけの捜査は、どの段で違法になるのか
- 1 2つの問い:問1=強制処分か(重要な権利・利益への実質的な侵害・制約か)→ 強制なら 問2=三重の縛り(①法定主義 ②令状主義 ③比例原則=任意にもかかる)のどの段で崩れるか。2つの捜査は、どちらも違法。崩れる段が違う(GPSを法定主義の段とするのは答案での構成)。
- 2 エックス線・問1:射影で中身の形状・材質、ときに品目まで分かる → 荷送人・荷受人のプライバシー等を大きく侵害 → 検証としての性質を有する強制処分。
- 業者は荷物を占有しているだけ。中身の利益を持つのは荷送人・荷受人 → 業者の承諾で任意処分とするのは困難(解説書)。
- 3 エックス線・問2:検証という受け皿はある → 検証許可状を取れたのに取らなかった → 令状主義の段で違法。覚醒剤の証拠能力は肯定。
- 4 GPS・問1:任意説(分かるのは位置だけ・尾行と同じ)を退けた。継続的・網羅的な把握を必然的に伴う(プライバシー侵害)/所持品に秘かに装着(=私的領域への侵入)→ 35条は「準ずる私的領域」にも及ぶ → 強制の処分・令状が要る。
- 5 GPS・問2:検証に似るが、捉えきれない性質もある。令状を出しても ①関係のない行動の過剰な把握を抑えられない ②事前に令状を示せず、代わる仕組みも無い → 解消策を選ぶのは第一次的には立法府 → 令状の発付に「疑義」・立法が「望ましい」。
- 答案では「許す規定が無い=強制処分法定主義の段で違法」と構成する(解説書の検討)。
- 6 別の観点:刑事免責のように、強制処分かを問わず法律で定めるべき処分もありうる(解説書の読み)。
⚠ 判決は「法定主義違反」とも「令状があっても絶対にできない」とも言っていない(補足意見は令状の余地を残す)/判決は装着と継続的・網羅的把握の両方を挙げて本件の手法を強制処分とした=片方だけの場合は判断していない
2つの問い:強制処分か、強制ならどの段で崩れるか
まず強制処分かを確かめ、強制処分なら三重の縛りを上から順に当てます。2つの捜査は、どちらも違法ですが、崩れる段が違います(GPSの段は答案での構成)。
- 問1の物差し(学説の定式):強制処分かどうかは、重要な権利・利益を実質的に侵害・制約するかで、類型的に判断します。
- 類型的に:その手法そのものの性質で決めます。この事件で捜査の必要性が大きかったかは、問1に入れません。
- この回の2つの判例は、この定式の言葉を使っていません。判決の言葉は、各節で区別して書きます。
- 問2の三重の縛り:強制処分には、次の3つがかかります。①②は強制処分と判定されて加わるもの、③は任意処分にもかかるものです。
| 縛り | 問われること |
|---|---|
| ① 強制処分法定主義 | その処分を許す条文があるか(197条1項ただし書。どんな強制処分を認めるかは、国会が法律で決める) |
| ② 令状主義 | 裁判官の令状を取り、処分を受ける者に示したか |
| ③ 比例原則 | 必要性に見合った、相当なやり方か |
エックス線検査・問1:見るだけでも強制処分
荷物を開けず、検査後は通常の配達に戻した検査でも、中身の形・材質、ときに品目まで分かりうるので、検証としての性質を有する強制処分です。
事実宅配便荷物のエックス線検査事件(最決平21・9・28)
- 警察は、覚醒剤密売の疑いで、ある会社を内偵していました。宅配便業者の営業所に照会すると、会社の事務所に短期間に多くの荷物が届き、伝票に不審な記載があると分かりました。
- 営業所長の承諾を得て、事務所あての荷物を5回、1個ずつ借り受け、空港内の税関でエックス線検査をしました。2回目以降、細かい固形物が均等に詰まった袋の射影が見えました。
- 荷物は検査後に営業所へ戻され、通常どおり配達されました。荷送人・荷受人の承諾は得ていません。
- 射影の写真なども資料にして捜索差押許可状が出され、その捜索で覚醒剤などが見つかりました。
(1) 押収ではなく、検証にあたる
- 検証:捜査機関が、見る・聞くといった五官の働きで、物や場所の状態を確かめる処分です。写真の撮影も同じ性質です。検証も強制処分になりえます。
- 射影:エックス線を当てて、中の物の形が透けて見える画像です。
| 押収 | 検証 | |
|---|---|---|
| どんな処分か | 物の占有を取得する処分 | 物の性質・形状・状態を認識する処分 |
| すること | 物を持って行く | 見る・記録する(占有は取らない) |
| エックス線検査は | あたらない(照射は中を認識するだけ) | あたる(外から光線を当て、中を見て認識する) |
- 押収との区別:エックス線は荷物の占有を取らず、中を認識するだけなので、押収ではなく検証にあたります。この区別は解説書の整理です。決定は「検証としての性質を有する強制処分」と言うだけです。
(2) 何を暴いたか
- 最高裁の判断:射影で、中身の形状や材質が分かります。中身によっては、品目まで相当程度具体的に特定できます。
- だから、荷送人・荷受人の、中身に対するプライバシー等を大きく侵害します。
- よって、検証としての性質を有する強制処分にあたります。
- 目印:エックス線では、開けたか・持ち去ったかではなく、「何を暴いたか」が決め手でした。
- 例:「封も切らず、荷物も返したのだから任意処分」は誤り → 外から中身の形・材質、ときに品目まで分かる以上、占有を取得しなくても(押収でなくても)強制処分になります。
- 例:業者に荷物の重さと大きさを量らせ、伝票を写させただけ → 中身の形・材質・品目は分かりません。判決が強制処分とした理由が欠ける方向に動きます(この場面を判断した判例はありません)。
宅配便荷物のエックス線検査事件最高裁判所決定エックス線検査は検証としての強制処分本件エックス線検査は、荷送人の依頼に基づき宅配便業者の運送過程下にある荷物について、捜査機関が、捜査目的を達成するため、荷送人や荷受人の承諾を得ることなく、これに外部からエックス線を照射して内容物の射影を観察したものであるが、その射影によって荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができる上、内容物によってはその品目等を相当程度具体的に特定することも可能であって、荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵害するものであるから、検証としての性質を有する強制処分に当たるものと解される。
(3) 「承諾」は誰のものか:占有と権利のズレ
- 前提:本件で承諾したのは業者だけで、荷送人・荷受人は承諾していません。そこで、業者の承諾で任意処分といえるかが問われます。
| 承諾 | 荷物を占有しているか | 中身のプライバシーの利益を持つか | |
|---|---|---|---|
| 宅配便業者 | あり(荷物を貸した) | している(一時的に預かっているだけ) | 持っていない(中身を委ねられていない) |
| 荷送人・荷受人 | なし | していない | 持っている(荷送人=封をして預けた/荷受人=宛先) |
- 解説書の整理:中身のプライバシーを期待しているのは荷送人・荷受人です。だから、業者の承諾で任意処分とするのは困難だ、とします。
- 判決は、この点を独立には論じていません。強制処分の判断の中で「荷送人や荷受人の承諾を得ることなく」と書いています。
- 例:「荷物を預かる業者がよいと言ったのだから任意処分」とは言いにくい → 業者は運んでいるだけです。
- 例:一方、証拠能力の判断では、業者の承諾が出てきます → 荷物を現実に占有・管理する業者の承諾を得て、検査の対象も絞っていたので、令状主義を潜脱する意図があったとはいえない、とされました(第3節)。
- 信書に準ずる(解説書が紹介する学説):荷物は封をされ、中を見られない前提で預けられています。通信の秘密のように保護の必要が高い、とします。
- 信書:特定の人から特定の人へ宛てた、中身を読まれない前提の手紙です。
エックス線検査・問2:令状主義の段で違法
検証という受け皿があるので、法定主義はクリアします。検証許可状を取れたのに取らなかったので、令状主義の段で違法です。
- ① 法定主義:検証は、令状によりできる処分として定められています(218条1項)。→ クリア
218条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、捜索、電磁的記録提供命令又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。
- ② 令状主義:検証許可状の発付を得ることが可能だったのに、得ずに行った → 違法
- 示す相手:110条を、222条1項が捜査機関の検証に準用しています。誰に示すかを判決は述べていません。解説書は、荷送人か荷受人のどちらかに事前に示す必要があろう、とします。
宅配便荷物のエックス線検査事件最高裁判所決定検証許可状を得ずに行った違法本件エックス線検査については検証許可状の発付を得ることが可能だったのであって、検証許可状によることなくこれを行った本件エックス線検査は、違法であるといわざるを得ない。
110条|刑事訴訟法 第一編 総則 第九章 押収、捜索等(99〜127条)差押状又は捜索状は、処分を受ける者にこれを示さなければならない。
- ③ 比例原則:②で違法が決まるので、立ち入りません。
- 前提:証拠能力(証拠として使える資格):判例は、令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、証拠として許すことが将来の違法捜査の抑制の見地から相当でないときに、これを否定します。違法な捜査から得た(関連性がある)証拠でも、違法が重大でなければ使えます。
- 証拠は使えた:覚醒剤などは、違法な検査と関連性がある証拠とされました。それでも、次の事情から重大な違法とまではいえないとし、証拠の重要性なども総合して、証拠能力を肯定しました。
- 嫌疑が高まり、検査の実質的な必要性があった。業者の承諾を得て、対象を限定する配慮もしていた(潜脱の意図があったとはいえない)。
- 覚醒剤は、司法審査を経て出た令状による捜索で見つかった。令状の発付には、エックス線以外の資料も出ていた。これも、証拠を集めた過程に重大な違法があるとまではいえない事情の1つとして挙げられています。
GPS捜査・問1:位置だけでも強制処分か
最高裁は任意説を退け、継続的・網羅的な把握と、所持品への秘かな装着による私的領域への侵入を挙げて、令状が要る強制の処分としました。
事実GPS捜査事件(最大判平29・3・15)
- 被告人が複数の共犯者と犯したと疑われた窃盗事件で、組織性の有無・程度や被告人の役割を含む全容を解明するための捜査でした。
- 警察は、平成25年5月下旬から12月上旬までの約6か月半、被告人・共犯者のほか、被告人の知人女性も使う蓋然性があった車など合計19台に、承諾も令状もなくGPS端末を取り付けました。
- その所在を検索して、移動状況を把握し続けました。
(1) 装着型と、会社から位置情報を得る方法
この回の事案は、車に直接取り付ける装着型です。ほかに、携帯電話会社などに令状を示して位置情報を取得する方法も、実務で行われています。
| 装着型(この回の事案) | 携帯電話会社などを通じて取得する方法 | |
|---|---|---|
| 処分を受ける者 | その車を使う本人 | 通信会社 |
| 令状を示す相手 | 本人 | 通信会社 |
| 事前に令状を示すと | 本人に気づかれ、目的を達せられない | 本人には知られない |
- 車に何も付けない方法も令状で行われています。「装着が無ければ任意処分」とは言えません。
- 装着型の「事前に示せない」は、第5節(2)の理由②につながります。
(2) 任意説と、原判決の評価
| 任意説の主張 | 中身 |
|---|---|
| ① 分かるのは所在位置だけ | 端末を付けた車が、いま、どこにあるか |
| ② 尾行と似た情報にすぎない | 公道で尾行すれば、同じように分かる |
| ③ だから、侵害は無い | 重要な権利・利益への実質的な侵害・制約は無い |
- 原判決(控訴審):取れる情報は車の位置に限られるなどとして、プライバシー侵害の程度は必ずしも大きくないとしました。強制の処分として無令状が違法と解する余地がないわけではないとしても、重大な違法は無いとしました。
- 最高裁は、この説示(侵害の程度の評価を含む)を是認しませんでした(有罪の結論は維持)。
- 当たっている部分(解説書の評価):GPS捜査は、公共の場所での行動を把握することも目的にしています。私的領域だけを狙った捜査ではありません。
(3) 最高裁の判断:強制の処分、令状が要る
判決の理由は(1)(2)の2段落です。それを①〜④に区切って見ます(区切りは解説書のもの)。
- ① 逐一の把握:時々刻々の位置情報を検索するので、プライバシーが強く守られるべき場所も含め、車と使用者の所在と移動状況を逐一把握できます。
- ② 2つの性質
- 個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴う → プライバシーを侵害しうる。
- 機器を個人の所持品に秘かに装着して行う → 肉眼やカメラと違い、公権力による私的領域への侵入を伴う。
- 例:侵入を「私有地に入ること」に限って読まない → 判決が侵入としたのは、所持品(車)に機器を秘かに装着する点です。どこで取り付けたかは、理由にしていません。
| 積み上がり方 | 見えるもの | 判決の言葉 |
|---|---|---|
| 点(1回の位置情報) | その瞬間、どこにいるか | 時々刻々の位置情報 |
| 線 | 移動の軌跡 | 所在と移動状況を逐一把握 |
| 生活パターン | いつ、どこへ通っているかまで | 行動を継続的、網羅的に把握 |
- ③ 憲法35条の射程:35条が文言で守るのは「住居、書類及び所持品」です。判決は、保障の対象に、これらに準ずる私的領域に「侵入」されない権利も含まれるとしました。
- 判決は、何が「準ずる私的領域」に当たるかを列挙していません。本件で侵入とされたのは、所持品(車)に機器を秘かに装着する点です(②)。
35条|日本国憲法 第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。2項:捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
- ④ 結論:合理的に推認される意思に反して私的領域に侵入する捜査手法なので、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、強制の処分にあたります。
- 現行犯人逮捕のように令状なしで許される事情も認めにくいので、令状がなければ行えない処分です。
- 参照した決定(④のカッコ=最決昭51・3・16):強制手段とは「有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段」だとした決定です。
- 気づいていない相手でも:判決は、合理的に推認される意思に反して私的領域に侵入することを、意思の制圧と言いました。昭51が有形力の有無で決めないとしたことと合わせると、抵抗を力で抑えていなくてもよい、と読めます(ノートの読み)。
- 「重要な法的利益」は判決の言葉です。「重要な権利・利益」は、この決定などから学説が組み立てた言い方です。
GPS捜査事件最高裁判所大法廷判決判示①② 逐一の把握と、私的領域への侵入①GPS捜査は、対象車両の時々刻々の位置情報を検索し、把握すべく行われるものであるが、その性質上、公道上のもののみならず、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所や空間に関わるものも含めて、対象車両及びその使用者の所在と移動状況を逐一把握することを可能にする。②このような捜査手法は、個人の行動を継続的、網羅的に把握することを必然的に伴うから、個人のプライバシーを侵害し得るものであり、また、そのような侵害を可能とする機器を個人の所持品に秘かに装着することによって行う点において、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりするような手法とは異なり、公権力による私的領域への侵入を伴うものというべきである。判示③④ 憲法35条の射程と、「強制の処分」③憲法35条は、『住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利』を規定しているところ、この規定の保障対象には、『住居、書類及び所持品』に限らずこれらに準ずる私的領域に『侵入』されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。④そうすると、前記のとおり、個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる(最高裁昭和50年(あ)第146号同51年3月16日第三小法廷決定・刑集30巻2号187頁参照)とともに、一般的には、現行犯人逮捕等の令状を要しないものとされている処分と同視すべき事情があると認めるのも困難であるから、令状がなければ行うことのできない処分と解すべきである。
(4) 尾行と何が違うか:判決が挙げた2つの要素
| 判決が挙げた要素 | GPS捜査(本件) | 尾行・肉眼・カメラとの関係 |
|---|---|---|
| 継続的・網羅的な把握 | 必然的に伴う → プライバシーを侵害しうる | 判決は対比していない。尾行と同視できない理由として、解説書が重視する |
| 所持品への秘かな装着 | 私的領域への侵入を伴う | 判決が明示した違い(肉眼で把握・カメラで撮影する手法とは異なる) |
- 任意説が崩れる所:公道の行動の把握という目的は同じでも、継続的・網羅的な把握によって、私的領域の行動まで容易に分かります。だから尾行と同視できない、と解説書は読みます。
- 判決は手法の性質で判断:「その性質上」「必然的に伴う」と述べ、本件の期間の長さを理由にしていません。
- 例:装着型GPSを、尾行を補うために2日だけ使った → 判決は手法の性質で強制処分としたので、期間が短くても判断は動きにくい方向です(短期間を判断した判例はありません)。
- 片方だけの場合:判決は、両方を挙げて本件の手法を強制処分としただけです。装着の無い長期の監視については判断していません。
- 例:被疑者のスマートフォンに無断で位置を送るプログラムを入れ、数か月追跡した → 所持品に秘かに仕組みを組み込み、継続的・網羅的に把握する点で、装着型と同じ要素がそろいます。強制処分とみる方向です(判例はありません)。
- 撮影の時間との関係:公道上での容ぼうの撮影(人の顔や姿を撮る捜査)でも、撮る時間の長さが強制処分かどうかに効くかが議論されています。解説書は、類型的に判断するなら撮影対象が私的領域かどうかが重要で、時間の長さは「強制処分か」ではなく「適法か」(任意処分とされたうえで、比例原則で判断する段)で効く、とします。長時間なら私的領域への侵入と同視できる、という考え方もありうると解説書自身が書いています。
- 例:捜査員が交代で6か月半、車を尾行し続けた → 装着はありません。判例はこの場合を判断していません。この撮影の議論を当てはめると、適法性の問題とする考え方と、私的領域への侵入と同視しうるとする考え方があり、言い切れません。
GPS捜査・問2:令状を取ればよいのか
最高裁は、GPS捜査は検証に似るが捉えきれない性質もあり、令状で行うにも2つの問題が残るとして、今の令状を発付することには疑義がある、立法的な措置が望ましい、としました。
(1) 検証と同様の性質、しかし捉えきれない
| GPS捜査のどの部分か | 検証との関係 |
|---|---|
| 画面の表示を読み取り、車の所在・移動状況を把握する部分 | 検証と同様の性質 |
| 車にGPS端末を取り付けて、所在の検索を行う部分 | 検証では捉えきれない性質 |
- 捉えきれないのは、取り付けて検索する部分:画面を読み取る部分は、検証(五官で状態を確かめる)と同じです。端末を付けて所在を検索し続ける部分が、検証の枠からはみ出します。
- 例:「検証は物に手を加えられないから、GPSは検証に収まらない」は誤り → 検証では「物の破壊その他必要な処分」もできます(129条。捜査では222条1項で準用)。判決が問題にしたのは、端末を付けて所在を検索し続ける点です。
- エックス線との違い:エックス線検査は、検証としての性質を有する強制処分とされました。GPS捜査は、検証と同様の性質を持ちつつ、捉えきれない性質もあるとされました。
GPS捜査事件最高裁判所大法廷判決検証と同様の性質、しかし捉えきれないGPS捜査は、情報機器の画面表示を読み取って対象車両の所在と移動状況を把握する点では刑訴法上の『検証』と同様の性質を有するものの、対象車両にGPS端末を取り付けることにより対象車両及びその使用者の所在の検索を行う点において、『検証』では捉えきれない性質を有することも否定し難い。
(2) 令状を出しても残る2つの問題
判決は、検証では捉えきれないと述べたのに続けて、「仮に」検証許可状を、あるいはそれと併せて捜索許可状を取って行うとしても、次の2つの問題が残る、とします。
- 理由① 関係のない行動まで把握してしまう:取り付ける車と罪名を特定しただけでは、被疑事実と関係のない行動の過剰な把握を抑えられません。
- 令状の審査を求める趣旨を満たせないおそれがある、としました。審査は、相手が受け入れるべき範囲を事前に絞るためのもの、と解説書は説明します。
- 19台には、知人女性が使う蓋然性のある車も入っていました。把握は被疑者本人に限られません(ノートの補足)。
- 理由② 事前に令状を示せない:強制の処分では、手続の公正を担保するため、原則として事前に令状を示すことが求められます(222条1項・110条)。
- GPS捜査は、知られず秘かに行わなければ意味がないので、事前の呈示は想定できません。
- 呈示に代わる公正の担保の手段も、仕組みとして確保されていません。
| 理由 | 電話傍受(平11決定・検証許可状で認められた) | GPS捜査 |
|---|---|---|
| ① 範囲を絞れるか | 回線・期間などを限定して書けた。対象か分からない通話は、捜査機関が判断に必要な限度で聞けた(129条の「必要な処分」) | 網羅的に集めるので、その場で関連性を選別できない(解説書の分析) |
| ② 公正の担保 | 裁判官が許可状に第三者の立会いと対象外の通話の遮断を条件に付けた(身体検査の条件の規定=今の218条9項の準用。範囲を縮める条件)。事後通知・不服申立てが無い問題は認めつつ、許した | 事前呈示は想定できず、代わる仕組みも無い |
- 立会人の役割:対象外と思われる通話を遮断することです。関連する通話かを判断して聞いたのは、捜査機関です。
- 事前呈示の扱い:平11の多数意見は、事前に示せない点を正面から論じていません(反対意見は、事前に示せないのはやむを得ないとしつつ、事後の告知と不服申立ての規定が無いので、検証としては許されないとしました)。GPS判決も、平11と比べていません。
- 分かれ目の読み方(解説書の分析):電話はその場で関連性を判断しやすく、位置情報は網羅的に集めて後から分析するしかない。この差が、異なる判断になった理由だろう、とします。
- 条件を選ぶのは誰か(2つを並べたときの読み。判決は平11に触れていません):
- 電話傍受では、裁判官が事件ごとに許可状に条件を付け、それで許されました(平11)。
- GPSでは、最高裁は、事件ごとに裁判官が条件を選ばなければ認められないような強制の処分は、197条1項ただし書の趣旨に沿わない、としました(下の(3))。
- 判決が問題にしたのは、2つの問題を解消するには令状に様々な条件を付す必要があり、それを事件ごとに多様な選択肢の中から裁判官が選ぶことになる点です。
- 条件を選ぶ側から見た違い:平11は、範囲を縮める条件(218条9項の準用)を付けて許しました(事後通知などの欠如は問題と認めつつ)。GPSでは、呈示に代わる担保が無いことを「問題が残る」とし、解消策(実施可能期間の限定・立会い・事後の通知など)を令状の条件としてどう選ぶか(=「多様な選択肢」)を、第一次的に立法府に委ねました。
- 判決は、平11との差を説明していません。解説書は、差を関連性の判断のしやすさで説明しており(上の「分かれ目の読み方」)、条件を選ぶ点には触れていません。
GPS捜査事件最高裁判所大法廷判決令状を発付しても無理がある2つの理由GPS端末を取り付けるべき車両及び罪名を特定しただけでは被疑事実と関係のない使用者の行動の過剰な把握を抑制することができず、裁判官による令状請求の審査を要することとされている趣旨を満たすことができないおそれがある。GPS捜査は、被疑者らに知られず秘かに行うのでなければ意味がなく、事前の令状呈示を行うことは想定できない。刑訴法上の各種強制の処分については、手続の公正の担保の趣旨から原則として事前の令状呈示が求められており(同法222条1項,110条),他の手段で同趣旨が図られ得るのであれば事前の令状呈示が絶対的な要請であるとは解されないとしても,これに代わる公正の担保の手段が仕組みとして確保されていないのでは,適正手続の保障という観点から問題が残る。
(3) 判決の結論:3つの層
- (a) 判示の芯:GPS捜査は、令状がなければ行えない強制の処分です(第4節④)。
- (b) 原判決への応答:原判決は、GPS捜査が強制処分法定主義に反し、令状の有無を問わず適法に実施できないと解することも到底できない、と述べていました。最高裁は、令状実務への影響を考えて、この点も検討しました。
- 2つの問題の解消策(期間の限定・第三者の立会い・事後の通知など)を選ぶのは、197条1項ただし書の趣旨(強制処分の中身は国会が法律で決める)から、第一次的には立法府です。
- 事件ごとに裁判官が条件を選ばなければ是認できない強制の処分は、同項ただし書の趣旨に沿わない、としました。
- だから、今の令状を発付することには「疑義」がある。立法的な措置が講じられることが「望ましい」。
- 答案での組み方(解説書の設問の検討):GPS捜査は強制処分 → 現行法に許す規定が無い → 強制処分法定主義に反し違法、と組みます。既存の検証では困難とする理由は、解説書は(2)の分析(関連性をその場で選別できない・事前に示せず代わる仕組みも無い)に求めます。判決が述べたのは「令状が要る」「今の令状の発付には疑義」までです。
- なぜ令状主義でなく法定主義の段か(ノートの読み):2つの問題は令状主義の段の問題に見えますが、判決はこれを、今ある令状が197条1項ただし書の「特別の定」に当たるかという問いの中で論じました(法定主義違反とまでは言っていません)。
- 例:「最高裁は、令状があってもGPS捜査は絶対にできないと判断した」は誤り → 法廷意見は令状の発付に「疑義」、立法が「望ましい」まで。下の補足意見は令状の余地を残しています。
GPS捜査事件最高裁判所大法廷判決立法的な措置が望ましい以上のとおり,GPS捜査について,刑訴法197条1項ただし書の『この法律に特別の定のある場合』に当たるとして同法が規定する令状を発付することには疑義がある。GPS捜査が今後も広く用いられ得る有力な捜査手法であるとすれば,その特質に着目して憲法,刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい。
197条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:捜査については、その目的を達するため必要な取調べをすることができる。ただし、強制の処分は、この法律に特別の定めのある場合でなければ、これをすることができない。
- (c) 本件の結論:最高裁は、原判決の法令の解釈に誤りがあるとしつつ、第1審を正当とし、それを維持した原判決の結論に誤りはないとして、上告を棄却しました。
- 判決は「違法」と自分の言葉では書いていません。令状が要る処分を無令状で行ったこと、第1審の判断を正当としたことから、違法と読みます。
| 審級 | 捜査の評価 | 証拠の扱い | 結論 |
|---|---|---|---|
| 第1審 | 検証の性質を持つ強制の処分。検証許可状なし → 重大な違法 | 直接得た証拠と密接に関連する証拠を排除 | その余の証拠で有罪 |
| 原判決(控訴審) | 侵害の程度は必ずしも大きくない。無令状が違法の余地はあっても重大な違法は無い。法定主義に反するとも解せない | 第1審が排除しなかった証拠を、排除しない | 控訴棄却 |
| 最高裁 | 令状が要る強制の処分(第4節④)。原判決の説示は是認しない | 第1審の扱いを正当とする | 上告棄却 |
- 補足意見(3人の裁判官):立法までの間、裁判官の審査を受けて行うことも、全く否定されるわけではない。ただし、ごく限られた極めて重大な犯罪で、継続的・網羅的な把握が不可欠という高度の必要性がある場合に限る、としました。
答案の型:2つの捜査を同じ手順で
同じ手順で当てはめても、エックス線は令状主義、GPSは強制処分法定主義(答案での構成)と、崩れる段が違います。
- ① 権利・利益の特定:その捜査が、どんな権利・利益に触れるか。
- ② 類型的に、重要な権利・利益への実質的な侵害・制約か:事件ごとの捜査の必要性の大小は入れません。
- ③ 強制なら:許す条文があるか → あれば、令状を取ったか・示せたか。
- ④ 任意なら:比例原則で、適法かを判断します。
| 答案の型 | エックス線検査 | GPS捜査 |
|---|---|---|
| ① 権利・利益 | 荷物の中身についての、荷送人・荷受人のプライバシー | 私的領域に侵入されない権利(憲法35条) |
| ② 実質的な侵害・制約 | あり。形状・材質が分かり、品目まで特定しうる | あり。継続的・網羅的な把握+装着による侵入 |
| ③-1 法定主義 | 検証という受け皿がある | 許す規定が無い(答案での構成) |
| ③-2 令状主義 | 取れたのに取らなかった → 違反 | 答案では③-1で崩れ、ここへは進まない。判決は「令状が要る・今の令状の発付には疑義」 |
| ④ 比例原則 | 強制で違法が決まり、立ち入らない | 同左 |
| 結論 | 検証許可状によらず違法(判決)=令状主義の段(解説書) | 強制処分法定主義違反で違法(解説書の検討) |
| 証拠 | 証拠能力は肯定 | 直接得た証拠などは排除、その余の証拠で有罪 |
- 違法と証拠は別の問い:捜査が違法と決まっても、そこで得た証拠を使えるかは、違法の重大さなどから別に判断します(表の「証拠」の行)。
- 例:「違法な捜査で見つかった証拠は全部使えない」は誤り → エックス線は違法でも覚醒剤の証拠能力を肯定。GPSも、排除したのは直接得た証拠と密接に関連する証拠だけで、その余の証拠で有罪が維持されました。
法律の根拠を要する処分は、強制処分だけではない
強制処分法定主義とは別の観点から、法律の根拠が求められる処分もありうる、と解説書は読みます。
- 在宅の被疑者への出頭要求・取調べ:任意捜査と理解されていますが、刑訴法は詳しい規定を置いています。
- 刑事免責(最大判平7・2・22):明文の規定が無かった当時、検事総長らが起訴猶予を宣明したうえで、米国での嘱託証人尋問で得た供述の調書について、証拠能力を否定しました。
- 強制処分にあたるかどうかには触れていません。
- 刑事手続上重要な事項に影響する制度なので、採用するかは、必要性・公正な手続としての当否・国民の法感情からみた公正感などを慎重に考えて決めるべきだ。採用するなら対象範囲・手続要件・効果等を明文で定めるべきだ、としました。
- 例:いまは157条の2・157条の3が刑事免責を定めています → 証人は証言を拒めない代わりに、その供述とそこから得た証拠を、原則として自分の刑事事件で不利益な証拠として使われません。訴追されない制度ではありません。