容ぼうの撮影
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骨格承諾も令状もない撮影は、許されるか
- 1 出発点:無令状の撮影を名指しで認めた条文は218条4項(身体の拘束を受けている被疑者)だけ。強制処分なら法定主義・令状主義にかかる → まず強制か任意か。
- 2 京都府学連事件:憲法13条から「みだりに容ぼう等を撮影されない自由」を認め、許される場合の基準(現行犯性・必要性と緊急性・相当な方法)を示して本件撮影を適法とした。強制か任意かは明言していない。
- 3 2段で判断:入口=強制処分か(撮られる側の場所で類型的に)→ 任意処分なら、その先=その撮り方は適法か(個別具体的に)。
- 4 入口:公道・誰でも入れる店=「受忍せざるを得ない場所」→ 任意処分/自宅の中を密かに撮る=私的領域への侵入 → 強制処分(解説書の読みと検討)。強制なら検証許可状が考えられるが、事前に示せず困難。
- 5 その先(判例):平20決定から読み取る3つ=①合理的な理由 ②必要な限度 ③撮影方法の相当性。①は現行犯性 → 相当高度の蓋然性 → 合理的な理由と広がり、②の「緊急性」は言及されなくなった。
- 6 その先(学説):任意捜査として比例原則の天秤で判断(左=具体的な撮影方法/右=重大性・嫌疑・証拠の重要性など)。解説書が平20決定から読み取る③撮影方法の相当性と、比例原則の相当性は別物。
- 7 その先で効くもの:事件の重さ(入口では考えない)・写真かビデオか(入口では区別の必要が乏しい)・撮影時間の長さ(解説書の立場。反対の考え方もある)。
⚠ 京都府学連事件は「自由を認めただけ」ではない/平20決定が強制か任意かを判断した部分は無い(任意処分は解説書の読み)/「3要件」は決定の言葉ではない/撮影方法の相当性と比例原則の相当性は別物/類型的判断で外すのは捜査の必要性(撮影で見るのは、私的領域に密かに入り込むか)
出発点:無令状の撮影を名指しで認めた条文は1つ
承諾も令状もない撮影を名指しで認めた条文は、218条4項だけです。強制処分には法律の定めと令状が要り、無令状を法律が認めるのはこの4項と逮捕の現場での検証(220条)くらいです。だから、それ以外の撮影は、まず強制か任意かが問題になります。
- 撮影の法的性質:写真撮影は検証の性質を持つ、とされています(解説書)。検証=目・耳などの五官の作用で、場所・物・身体の状態を認識する処分です。
- 強制処分として撮るなら、原則として、検証として検証許可状(218条1項)が要ります。
- 実況見分:刑訴法の語ではありません。犯罪捜査規範(国家公安委員会規則)が「任意捜査」の章に置く、犯罪の現場などの場所・身体・物を見分する活動です。検証と違い、令状によらず任意捜査として行います。調書には、できる限り写真を添付します。
| 実務でとられる方法(解説書の整理) | 中身 |
|---|---|
| ① 任意捜査として撮る | 相手の同意・承諾を得る/同意の要らない公道などの公共の場所で撮る |
| ② 令状を得て撮る | 同意が得られないときは、検証または捜索・差押えとして令状を得る |
| ③ すでにある画像を押収する | 領置(任意に提出された物・遺留物)または差押え |
- 問題になる場面:承諾も令状もない撮影です。表は実務の扱いの整理です。表①の公道での撮影も含め、承諾も令状もない撮影が強制処分か、任意処分なら適法か、がこの回の問いです。
- 原則(218条1項):検証には、裁判官の発する令状が要ります。
- 例外(218条4項):身体の拘束を受けている被疑者は、裸にしない限り、令状なしで写真を撮れます。逮捕・勾留されている被疑者が対象です。
- 例:勾留中の被疑者を、留置施設で着衣のまま正面と横から撮る → 218条4項で令状は要りません。背中の入れ墨を撮るために上半身を裸にするなら4項の外です(身体の検査として身体検査令状の問題)。
- 例:「被疑者なら令状なしで撮れる」は誤り → 4項は身体の拘束を受けている被疑者だけです。任意で事情を聴いているだけの被疑者を承諾なく撮るなら、任意処分として許されるかの問題になります。
- 例外(220条1項2号・3項):被疑者を逮捕する場合は、逮捕の現場での検証に令状が要りません。撮影を名指しした条文ではありません。
- 例:窃盗の現行犯人を逮捕した直後に、その場で荒らされた室内を撮る → 逮捕の現場での検証(220条)で、令状は要りません。翌日、別の場所の室内を撮るなら、逮捕の現場ではないので220条は使えません。
- 例外(218条4項):身体の拘束を受けている被疑者は、裸にしない限り、令状なしで写真を撮れます。逮捕・勾留されている被疑者が対象です。
218条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、捜索、電磁的記録提供命令又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。4項:身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、第一項の令状によることを要しない。
- だから問いになる:強制処分法定主義(197条1項ただし書)により、法律に定めのない強制処分はできません。それ以外の無令状の撮影が許されるには、任意処分だといえなければなりません。
- 任意処分=強制処分に当たらない処分です(任意捜査=任意処分による捜査)。本人の同意が無くても任意処分になりえ、令状は要りませんが、適法かは別に判断します(第3節)。強制処分かどうかの物差しは第4節です。
京都府学連事件:自由を認め、許される場合も示した
最高裁は、憲法13条から「みだりに容ぼう等を撮影されない自由」を認めたうえで、承諾も令状もない撮影が許される場合の基準を示し、本件撮影を適法としました。決めていないのは、それが強制処分か任意処分かという分類です。
| 認めたもの | 示したもの | 決めていないもの |
|---|---|---|
| みだりに容ぼう・姿態を撮影されない自由(13条から導く、個人の私生活上の自由の1つ) | 同意も令状もない撮影が許される場合:①現に犯罪が行われ、または行われた後間がない ②証拠保全の必要性・緊急性 ③一般的に許容される限度を超えない相当な方法 | その撮影が強制処分か、任意処分か(明言していない) |
事実京都府学連事件(最大判昭44・12・24)
- 学生の集団行進が、公安委員会の許可の条件(四列縦隊)と、警察署長が付けた条件(車道の東側端を進行)に外形上違反する状態で進んでいました。
- 違反の状況を確認する職務に就いていた巡査が、これを現認し、歩道から先頭部分の行進状況を撮影しました。
- 撮影の適法性は、被告人の公務執行妨害が成立するか(撮影が刑法95条1項で保護される職務行為か)の前提として争われました。
- 自由にも限界:公共の福祉のため必要があれば、相当の制限を受けます。犯罪捜査のための撮影に第三者が写り込んでも、許される場合があります。
- 例:速度違反の自動撮影で、運転者の隣の同乗者も写った → 運転者の近くにいて除外できないので、違憲ではありません(自動速度監視装置の事件・最判昭61・2・14)。
- 例:事件と無関係な通行人を狙って撮り続ける → 除外できない写り込みではありません。撮影方法の相当性を欠く方向です(第6節(2))。
- 本件の結論:現に犯罪が行われている場面で、状況が刻々と変わる集団行動なので必要性・緊急性があり、方法も相当 → 行進者の意思に反していても、適法な職務執行とされました。
- 例:「自由を認めただけで、撮影が許されるかは判断していない」は誤り → 許される場合の基準を示し、本件の撮影を適法としました。
- 条文との関係:判旨は、218条(当時の2項・現在の4項)のような場合のほかにも、許される場合があるとしました。
- 残った問い:分類を明言しなかったので、明文の無い無令状の撮影を許すことが、第1節の強制処分法定主義・令状主義とどう整合するのかは残りました。平20決定も分類を明言していません。入口で、私的領域に侵入する撮影は強制処分(無令状なら違法)、侵入しない撮影は任意処分と振り分け、その先で適法性を判断する2段の整理(第3節)は、この問いへの解説書の答えです。
京都府学連事件最高裁判所大法廷判決認めたもの個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法一三条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。許される場合身体の拘束を受けている被疑者の写真撮影を規定した刑訴法二一八条二項のような場合のほか、次のような場合には、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容ぼう等の撮影が許容されるものと解すべきである。すなわち、現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合であつて、しかも証拠保全の必要性および緊急性があり、かつその撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるときである。
13条|日本国憲法 第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
判断の流れ:入口とその先の2段
まず、撮影が強制処分かを撮られる側の場所で類型的に決めます(入口)。任意処分なら、次に、その撮り方が適法かを個別具体的に判断します(その先)。
| 段 | 問うこと | 何で決まるか | 結論 |
|---|---|---|---|
| 入口:該当性 | 強制処分か、任意処分か | 撮られる側が私的領域にいるか(類型的) | 私的領域に侵入する方法で撮る(典型=自宅の中を密かに)→ 強制処分(無令状なら違法)/受忍せざるを得ない場所で撮る → 任意処分・その先へ |
| その先:適法性 | 任意処分として適法か | 判例=合理的な理由・必要な限度・相当な方法/学説=比例原則(個別具体的) | 満たせば適法/欠ければ適法とはいえない方向 |
| どちらの段で効くか | 入口 | その先 |
|---|---|---|
| 撮られる側の場所 | 効く(ここで決まる) | 効く(平20決定は適法とした理由の中でも挙げた) |
| 事件の重さ・捜査の必要性 | 効かない | 効く(右の皿) |
| 写真か、ビデオか | 区別する必要は乏しい | 効く(ビデオは侵害が大きい) |
| 撮影時間の長さ | 効かない(解説書の立場。反対の考え方もある) | 効く(生活状況が分かるほどの長期は相当性を欠く方向) |
- 類型的:重要な権利・利益への実質的な侵害・制約があるかを、刑訴法が類型的に定める強制処分と同視しうる性質かで、捜査の必要性(事件の重さ・嫌疑の強さ)を入れずに判断することです(物差しは第4節)。これに対し、その先は事件ごとの事情を比べる個別具体的な判断です。
- 類型的に判断する、で外すもの:捜査の必要性です。撮影では、撮られる側が私的領域にいるか、そこへ密かに入り込む撮り方か、を見ます。写真かビデオか・撮影時間の長さは、入口では効かないとされます(解説書)。
- 例:「連続殺人の犯人を急いで特定しなければならないから、自宅の中を密かに撮っても任意処分」は誤り → 事件の重さ・必要性は入口では考えません。効くのは、任意処分と決まった後です。
- 平20決定の読み方:撮影について決定が職権で述べたのは、適法とした理由の一続きの判示です。そこから入口(任意処分)とその先(3つの要件)の2段を読み取るのは、解説書の読みです。
- 撮影時間の別の考え方:長く撮るほど情報が集まり、私的領域への侵入と同視できれば強制処分、という考え方もありえます。解説書は、類型的に判断するなら私的領域かどうかが決め手で、時間の長さは適法性の側で考慮すべきだ、とします(さいたま地判平30・5・10 を参照)。
- 例:「公道でも何か月も撮れば強制処分」と書くなら、解説書の立場と違うことを踏まえます → 解説書の立場では、公道は公道のままで、長さは相当性で効きます。
入口:線は「場所」で引かれる
撮られる人が、他人から見られることを受忍せざるを得ない場所にいれば任意処分、プライバシーの正当な期待が立つ私的領域で密かに撮れば強制処分、と考えられています(解説書の読みと検討)。
事実防犯ビデオの人物との同一性を確かめた事件(最決平20・4・15)
- 強盗殺人などの事件で、ATMの防犯ビデオに被害者とは別人が写っていました。被告人が関わっている疑いが生じました。
- 警察官は、被告人宅近くに停めた捜査車両の中や、付近に借りたマンションの部屋から、公道を歩く被告人をビデオ撮影しました。
- 防犯ビデオの人物の腕時計と同じかを確かめるため、パチンコ店の店長に頼んで店内の防犯カメラで、または警察官が小型カメラで、店内の被告人を撮影しました。
- 画像は、専門家が同一性を判断する資料になりました。
- 物差し(学説の定式):強制処分かどうかは、重要な権利・利益への実質的な侵害・制約があるかで判断します。
- 撮影されない自由は、プライバシーないし人格権の1つと理解できます。ただ、それが「重要な権利・利益」に当たるかは、さらに検討が要ります(解説書)。
- 解説書が入口で「重要な権利・利益」として据えるのは、私的領域に侵入されない権利です。私的領域に侵入する方法で撮れば、この権利が害され、強制処分と考えられます。
- 公道などは、平20決定のいう「容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所」です。解説書は、これを私的領域ではないと読みます。だから、そこで承諾なく撮っても、この権利への実質的な侵害・制約はなく、任意処分です(解説書)。
- それでも、撮影されない自由の侵害・制約そのものは、公道でも認められます(解説書)。その大きさは、入口ではなく、その先(第7節の左の皿)で量ります。
- 私的領域:プライバシーが強く保護されるべき場所・空間です(GPS捜査の大法廷判決の言葉)。撮影では、他人から行動を見られないというプライバシーの正当な期待ができる場所かを見ます。自宅が典型です。
- 見るのは撮られる側がいる場所です。撮る側がどこにいたかではありません。
- 例:平20決定では、警察官は借りたマンションの部屋という人目の無い場所から撮りましたが、撮られた被告人は公道を歩いていました → 基準は撮られる側の場所です。
- 例:逆に、撮る側が公道に立っていても、カーテンの開いた居間の中の人を撮れば、撮られる側は私的領域にいます(解説書の考え方の当てはめ)。
- 例(近い判例):GPS捜査の大法廷判決は、GPS捜査を、機器を個人の所持品に秘かに装着して行う点で、公道上の所在を肉眼で把握したりカメラで撮影したりする手法とは異なり、私的領域への侵入を伴う、としました(その前に、行動を継続的・網羅的に把握することを必然的に伴うのでプライバシーを侵害し得る、とも述べています)。
- 見るのは撮られる側がいる場所です。撮る側がどこにいたかではありません。
| 撮られる場所 | ① 駅前の広い通り | ② 誰でも入れる店の中 | ③ 自宅の窓の内側 |
|---|---|---|---|
| どんな場所か | 受忍せざるを得ない場所(私的領域ではない) | 受忍せざるを得ない場所(私的領域ではない) | プライバシーの正当な期待が立つ私的領域 |
| 結論 | 任意処分 | 任意処分 | 密かに撮れば強制処分 |
| 根拠 | 平20決定の言葉からの解説書の読み | 同左 | 解説書の検討(解説書は判例を挙げていない) |
- ①②:撮られた場所が私的領域でない以上、守るべき重要な権利・利益は害されていない。だから決定は任意処分と見た、と読めます(決定に明言は無い)。
- ③:自宅の中の人を密かに撮るのは、私的領域に侵入されない権利への実質的な侵害・制約で、強制処分と考えられます。そうなら、無令状の撮影は違法です。
- 「密かに」の位置:解説書の基準は「私的領域に侵入する方法での撮影」です。自宅の中を望遠レンズなどで密かに撮るのは、その典型として検討された場面です。本人が気づく形で自宅の中を撮る場合が強制か任意かを、解説書は論じていません。この回でも扱いません。
- 例:同じ店でも、施錠された個室トイレの中を撮る → 見られないという期待が立つ空間で、強制処分の方向に動きます(解説書の考え方の当てはめ)。
- 類型的に判断する:捜査の必要性の大小は関係しません。重大事件だから任意処分、とはなりません。
防犯ビデオの人物との同一性を確かめるためのビデオ撮影最高裁判所決定「受忍せざるを得ない場所」いずれも、通常、人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるものである。
入口で強制処分なら:検証許可状の壁
写真撮影は検証の性質を持つので、検証許可状を取ることが考えられます。しかし令状は処分を受ける者に示す必要があり、密かに撮るなら、この道は困難です(解説書)。
- 令状の提示:差押状・捜索状は、処分を受ける者に示さなければなりません(110条)。222条1項が、これを捜査機関の検証にも準用します。
- 困難な理由:密かに撮る場合は、事前に令状を示せません。示せば、気づかれずに撮るという目的を果たせません。
- 例:住人の立会いのもとで室内の状況を撮影する → 検証許可状を示してから撮れます。
- 例:住人に気づかれずに室内の様子を撮りたい → 先に示せば目的を果たせないので、検証許可状で撮るのは困難です。
110条|刑事訴訟法 第一編 総則 第九章 押収、捜索等(99〜127条)差押状又は捜索状は、処分を受ける者にこれを示さなければならない。
その先(判例):合理的な理由・必要な限度・相当な方法
平20決定は、合理的な理由・必要な限度・受忍せざるを得ない場所を挙げて、「必要な範囲において、かつ、相当な方法によって」行われた撮影として適法としました。解説書は、ここから3つの要件を読み取ります。
| 要件(解説書の読み) | 意味 | 平20決定の事案 |
|---|---|---|
| ① 撮影する合理的な理由 | その人を撮影する合理的な理由がある | 被告人が犯人である疑いを持つ合理的な理由があった |
| ② 目的を達するため必要な限度 | 捜査の目的のためにその撮影が必要である(その限度) | 犯人の特定という重要な判断に必要な証拠資料を得るため |
| ③ 撮影方法の相当性 | 撮影の必要性という目的と、撮影方法という手段が釣り合う | 決定は「相当な方法」と結論する直前に、受忍せざるを得ない場所での撮影であることを挙げた |
- 決定は「要件」とは言っていません。3つの形は、判示から「適法と判断しているといえよう」と読む解説書の整理です。
- ②と③の違い(ノートの整理):②は、その映像を得ることが捜査の目的(平20では犯人の特定)に必要か(必要な対象・場面に限られているか)を見ます。③は、その必要に対して撮り方が釣り合っているか、を見ます。
- 例:犯人の特定のため、疑いのある本人の容ぼうを撮る必要があっても、長期間にわたって本人をズームアップして監視・追跡すれば、撮り方が必要に釣り合わず、③を欠く方向です(解説書が③を欠く例に挙げる撮り方。第6節(2))。
- 漫然と続ける・無関係な人まで撮る、のように範囲の行き過ぎに見える撮り方も、解説書は③の例に挙げます。②の「限度」と③の行き過ぎの境目を、解説書は示していません。このノートは、撮り方(続け方・巻き込み方)の行き過ぎを③で扱います。
- ①合理的な理由:平20決定の言葉は「被告人が犯人である疑いを持つ合理的な理由」で、それがあったと認めた事案です。解説書は①を「撮影する合理的な理由」と広げて読みます(第6節(1)「解説書の整理」)。
- 例:平20決定と同じく公道で密かにビデオ撮影したが、疑いの根拠は「あの人が怪しい」という匿名の電話1本だけだった → 犯人だと疑う合理的な理由が欠ける方向に動きます。
防犯ビデオの人物との同一性を確かめるためのビデオ撮影最高裁判所決定適法とした理由捜査機関において被告人が犯人である疑いを持つ合理的な理由が存在していたものと認められ、かつ、前記各ビデオ撮影は、強盗殺人等事件の捜査に関し、防犯ビデオに写っていた人物の容ぼう、体型等と被告人の容ぼう、体型等との同一性の有無という犯人の特定のための重要な判断に必要な証拠資料を入手するため、これに必要な限度において、公道上を歩いている被告人の容ぼう等を撮影し、あるいは不特定多数の客が集まるパチンコ店内において被告人の容ぼう等を撮影したものであり、いずれも、通常、人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるものである。以上からすれば、これらのビデオ撮影は、捜査目的を達成するため、必要な範囲において、かつ、相当な方法によって行われたものといえ、捜査活動として適法なものというべきである。
(1) 4段の展開:①の欄が広がった
| 段 | 裁判例 | 想定する場面 | ① | ② | ③ |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 京都府学連事件・自動速度監視装置の事件(最高裁) | A:犯行中・犯行直後の人を撮る | 現行犯または準現行犯人性 | 証拠保全の必要性・緊急性 | 撮影方法の相当性 |
| 2 | 山谷ビデオカメラ事件(東京高判昭63・4・1) | B:犯罪が予測される場所で、前もってカメラを回す | 当該現場で犯罪が発生する相当高度の蓋然性 | あらかじめ証拠保全の手段・方法をとっておく必要性・緊急性 | 同上 |
| 3 | 屋外駐車場の不審火事件(東京地判平17・6・2) | C:罪を犯したと疑う人を、その自宅前の公道などで撮る | 罪を犯したと考えられる合理的な理由 | 捜査の目的を達するための撮影の必要性・緊急性 | 同上 |
| 4 | 平20決定(最高裁) | C | 合理的な理由 | 必要な限度(「緊急性」への言及なし) | 相当な方法 |
- 第2段の読み替え:東京高裁は、第1段の要件を、具体的な事案に即して許される要件を示したものにすぎず、それを欠けば一切許されない趣旨ではない、としました。第1段の当時から、①②が常に必要かには疑問が示されていました(解説書)。
- 例:路上の犯罪がたびたび起きる場所に街頭カメラを据え、犯行前から録画し続ける → 現行犯性は無くても、①その場所で犯罪が起きる相当高度の蓋然性、②前もって証拠保全の手段をとる必要性・緊急性、③相当な方法があれば許される(第2段の考え方)。
- 第3段:①は、犯罪発生の高度の蓋然性までは要らず、罪を犯したと考えられる合理的な理由で足りる、としました。②必要性・緊急性と③相当性は要ります。
- 例:駐車場で不審火が続き、近くに住む人物に疑いが向いた。その人の自宅前の公道も撮る → その場所で犯罪が起きる高度の蓋然性までは言えなくても、その人が罪を犯したと考えられる合理的な理由があれば、①を満たすという考え方です。
- 第4段の最高裁の言葉:京都府学連事件と自動速度監視装置の事件は、撮影が現行犯等の場合のほかは許されない、という趣旨まで判示したものではない、としました。
- 例:「現行犯の場面でなければ撮影は違法」は誤り → 第4段の最高裁は、先例がそこまで判示していないと明言しました。
- 解説書の整理:現行犯性や高度の蓋然性は、「合理的な理由」を事案に応じて示したものにすぎない。そう考えると、犯人以外の者を撮る場合でも、撮影の合理的な理由があれば適法となりうる、とします。
- 緊急性:決定は触れず、触れなかった理由も述べていません。解説書は、緊急性は必要性が特に高いことを示すものにすぎず、不可欠の要件ではない、と評価します。
- 例:「緊急性が無いから違法」も誤り → 平20決定は緊急性に触れずに適法としました。急ぐ事情は、必要性を強める事情として使います。
- 解説書の結論:許される範囲は第1段 → 第4段と広がり、第4段の基準が最も汎用性がある、とします。③撮影方法の相当性は、どの段にもあります。
防犯ビデオの人物との同一性を確かめるためのビデオ撮影最高裁判所決定先例の読み方所論引用の各判例(……)は、所論のいうように、警察官による人の容ぼう等の撮影が、現に犯罪が行われ又は行われた後間がないと認められる場合のほかは許されないという趣旨まで判示したものではないから、前提を欠き……
(2) ③撮影方法の相当性を欠きやすい例(解説書が挙げる例)
- 必要がないのに、漫然と撮影を続ける
- 情報が集まり、生活状況が分かるほど長期間撮影する
- 事件と無関係な通行人・車まで撮影する(以上、さいたま地判平30・5・10)
- 長期間、特定の人をズームアップして監視・追跡する(大阪地判平6・4・27)
その先(学説):比例原則の天秤
学説は一般に、これらの撮影を任意捜査と理解し、比例原則で相当性を判断します。天秤に何を乗せるかは、解説書の整理です。
- 判例と学説の主語を分ける:最高裁は任意捜査と明言せず、3つの事情を挙げて適法としました。比例原則で説明するのは学説で、解説書の設問の検討も天秤で当てはめています(第8節)。
- 解説書の読みでは、判例の3つの要件も学説の比例原則も、任意処分と決まった後の適法性の判断です。解説書の天秤では、撮影方法の不相当は左の皿を重くする事情として扱われます。天秤で出す結論としての相当性は、判例の③撮影方法の相当性とは別物とされます(第7節(1))。
- 比例原則:権利・利益の侵害・制約の程度と、捜査の必要性を比べ、その権衡(釣り合い)を見ます。釣り合っているという判断の結論を、相当性と呼びます。
| 左の皿:撮影されない自由の侵害・制約の程度 | 右の皿:捜査の必要性 |
|---|---|
| ① 具体的な撮影方法(執拗か・明らかに必要の無い場面まで撮るか) | ❶ 犯罪の重大性/❷ その時点の嫌疑の程度/❸ 証拠としての撮影の重要性(代わりの手段が無ければさらに大きい) など |
- 左の皿:公道での撮影でも、私的領域の侵害は無いものの、撮影されない自由の侵害・制約はあります。撮影方法が不相当だと、その程度が大きくなります。
- 結論の出し方:侵害・制約の程度に見合うだけの必要性があれば、相当=適法です。左の皿が重いのに、右の皿がそれに見合わなければ違法です。
(1) 2つの「相当性」を混同しない
| 撮影方法の相当性 | 比例原則の相当性 | |
|---|---|---|
| 何を比べるか | 撮影の必要性という目的と、撮影方法という手段 | 権利・利益の侵害・制約の程度と、捜査の必要性全体 |
| 位置づけ | 解説書が平20決定から読み取る3つの要件の1つ(③) | 天秤で判断した結論(釣り合っているか) |
- 2つの関係:解説書は、左の皿に①具体的な撮影方法を置き、それが不相当(執拗・明らかに不要な場面まで撮る)だと侵害の程度が大きくなる=左の皿が重くなる、とします。③で比べるのは撮影の必要性(目的)と撮影方法(手段)で、比例原則で比べるのは侵害の程度と、重大性・嫌疑・証拠の重要性を合わせた捜査の必要性全体です。
- ③の「撮影の必要性」:解説書は、その中身を重大性・嫌疑などに分けて示していません。③は、その必要に対して撮り方が行き過ぎていないかを見る1要素です。比例原則では、❶重大性・❷嫌疑・❸証拠の重要性などを右の皿に明示して量ります。
- ③と天秤の関係(ノートの整理):解説書は、天秤の左の皿の撮影方法が不相当なら、左の皿が重くなり「もう一方の捜査の必要性が大きくなければ、権衡がとれない」とします。判例の③を欠いた場合に天秤の結論がどうなるかは、解説書は論じていません。解説書が平20決定から読み取る3つの要件の形で書くなら、解説書は3つがそろえば適法とまとめているので、③を欠けば適法とはいえない方向に働きます。学説の天秤で書くなら、撮り方の不相当は左の皿を重くする事情の1つです(③とは別の評価)。答案では、どちらの枠組みで書くかを決めて、その中で判断します(第8節)。
- 例:「要件③の撮影方法が相当だから、比例原則上も相当」とだけ書くのは不十分 → 比べるものが違います。比例原則では、撮影されない自由の侵害の程度と、重大性・嫌疑・証拠の重要性を含む必要性全体を比べます。
- 例:左の皿の①撮影方法が執拗でも不要な場面まででもなく、侵害の程度が大きくない → それでも、右の皿(❶重大性・❷嫌疑・❸重要性)と比べて初めて相当かが決まります(設問の検討もこの順で当てはめます)。③撮影方法の相当性を満たすことと、比例原則上の相当性は別に判断します(ノートの整理)。
あてはめ:平20決定の事案を2段で解く
公道・パチンコ店での撮影は、入口で任意処分、その先で侵害が大きくなく必要性が大きいので、相当=適法となります(解説書の設問の検討による当てはめ。判例の判断そのものではない)。
- 天秤で解く理由:この節は解説書の設問の検討に沿って、学説の比例原則で当てはめます。判例から解説書が読み取る3つの要件の形で書くなら、①合理的な理由・②必要な限度・③撮影方法の相当性を順に確かめます(第6節)。
- 入口:公道とパチンコ店の中は、受忍せざるを得ない場所で、私的領域ではありません → 任意処分。
- その先:比例原則の天秤に事実を乗せます。
| 皿 | 要素 | 事実と評価 |
|---|---|---|
| 左(大きいとはいえない) | ① 撮影方法 | 気づかれないように撮っているが、執拗とも、明らかに不要な場面まで撮ったともいえない |
| 右(大きい) | ❶ 重大性 | 強盗殺人という重大な事件 |
| 〃 | ❷ 嫌疑 | 被告人には相応の嫌疑がある |
| 〃 | ❸ 証拠の重要性 | 防犯ビデオの人物との同一性を確かめるのに、撮影で得る証拠は欠かせない |
- ビデオである必要性:防犯ビデオの人物と容ぼう・体型を精密に突き合わせるには、静止画では足りず、続いた映像が要ります。だからビデオという方法も正当化されます。
- 例:顔の同一性だけを確かめたいなら、数枚の写真で足ります → 音声まで入るビデオで長く撮れば、左の皿が重くなります。歩き方や体の動きの癖まで照らし合わせる必要があるなら、ビデオの必要性が認められる方向です。
- 結論:侵害の程度に見合う必要性があり、比例原則上の相当性が認められる → 適法と考えられます。
- 例:被疑者宅の玄関前の公道にカメラを据え、数か月にわたって出入りを全部記録した → 解説書の立場では、公道なので入口は任意処分のまま。ただ、生活状況が分かるほどの長期の撮影なので、左の皿が重くなり、違法の方向に動きます。
- 例:同じ撮り方でも、少額の万引きで嫌疑も薄い人物なら、❶重大性・❷嫌疑が小さく、右の皿は軽くなります。本人の顔写真がすでにあって同一性を確かめられるなら、❸撮影の重要性も下がります。