刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#12

会話傍受と秘密録音

印刷用PDFを開く

骨格相手が知らないうちの録音は、許されるか

  • 1 2つの場面:①会話の外の第三者が録る=傍受(誰も知らない)/②会話の当事者が録る=秘密録音(相手だけが知らない)。どちらも「強制処分か → その先」の2段で問うが、通る道が違う。
  • 2 傍受の入口:強制処分。判例=電話傍受は通信の秘密→ひいてはプライバシーを侵害。学説の整理=通信の秘密+私的領域に侵入されない権利の2本立て。口頭の会話も後者で強制処分(解説書)。
  • 3 傍受の根拠:電気通信=222条の3+通信傍受法。口頭の会話を傍受する規定は無い(立法は見送り)→ 残る道は既存の検証許可状。
  • 4 平11決定:電話傍受は、憲法上の6要件を満たし、対象の特定に資する記載のある検証許可状なら、当時の法律上もできた(本件は対象を限定し、条件も付けていた)。事後通知・不服申立てが無い弱点は認めつつ、押し切った。
  • 5 会話傍受:事後通知・不服申立てが無い。加えて侵害が通信傍受より相当に大きく、そのため特定・立会い・遮断・スポットも難しい → 検証としても行えず、違法と考えられる(解説書の検討。最高裁の判断は無い)。
  • 6 秘密録音の入口:通信傍受法の「傍受」ではない。私人の録音は最高裁が事情を示して違法でないとした(捜査機関は判断なし)。多数説=相手は会話の秘密性を委ねた(放棄)→ 任意処分。
  • 7 その先:千葉地判=原則違法・相当な限度で許容/東京地判=著しく不当な点があるか。どちらも事案の録音は適法。
  • 8 天秤(解説書の整理):左=会話の自由を含むプライバシー等の侵害の程度(①録音方法 ②会話の内容 ③対象者の対応)/右=❶重大性 ❷嫌疑 ❸証拠の重要性(撮影と同じ)。見合う必要性があれば相当。

⚠ 会話傍受を違法とした判例は無い(解説書の検討)/放棄=録音に同意したことではない(委ねたのは、話し相手に聞かれることの秘密性)/千葉地判も録音は適法とした/平11が過去の判例とされるのは、電話傍受を検証許可状で行う点について

2つの場面:入口から別の道

外の第三者が録る傍受は強制処分で、法律の根拠が問題になります。会話の当事者が録る秘密録音は、多数説では任意処分で、録り方が適法かが問題になります。

  • 場面①:ある部屋でXとYが話しています。外にいる第三者Zが、装置で聞いて録音します。XもYも気づいていません。
  • 場面②:Xと話しているY自身が、Xに知らせずに録音します。
① 傍受(誰も知らない)② 秘密録音(相手だけが知らない)
録音する人会話の外にいる第三者Z会話の当事者Y自身
気づいていない人XもYもXだけ
入口:強制処分か強制処分(第2節)多数説は任意処分(第6節)
その先法律の根拠はあるか(第3〜5節)任意処分として適法か(第7・8節)
結論の向き口頭の会話なら違法(解説書の検討)事情しだいで適法になりうる

傍受の入口:強制処分か

傍受は強制処分です。電気通信なら通信の秘密と私的領域、口頭の会話でも私的領域に侵入されない権利を、実質的に侵害・制約するから、と説明されます(2本立ては学説の整理、口頭の会話は解説書の見方)。

  • 物差し:強制処分かどうかは、重要な権利・利益を実質的に侵害・制約するかで、類型的に判断します(学説の定式)。
    • 強制処分なら法律の特別の定めが要り、原則として令状も要ります。任意処分なら、特別の根拠規定も令状も要りません(197条1項本文。ただし第8節の比例原則がかかります)。
  • 傍受:会話の当事者の、どちらの同意も得ずに、会話を聞き取ることです。
  • 判例(平11決定):電話傍受は「通信の秘密を侵害し、ひいては、個人のプライバシーを侵害する強制処分」です。
  • 2本立て(いまの学説の一般的な整理):通信の傍受は、次の2つを侵害するので強制処分とされます。
    • 通信の秘密(憲法21条2項):電話やメールのような通信を守る権利です。
    • 私的領域に侵入されない権利:プライバシーが強く保護されるべき場所・空間に、踏み込まれない権利です。GPS捜査の大法廷判決が、憲法35条の保障に含まれるとしました。
    • 例:組事務所の固定電話を、通話のどちらにも知らせずに聞いて録る → 通信の秘密と私的領域の両方を侵害する強制処分です。いまは通信傍受法の手続によるしかありません。

21条(抜粋)|日本国憲法 第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)2項:検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

通信の秘密(憲法21条2項)私的領域に侵入されない権利
電気通信の傍受(電話・メールなど)実質的に侵害・制約する実質的に侵害・制約する
口頭の会話の傍受(肉声)問題にならない(電気通信ではないため)実質的に侵害・制約する
  • 口頭の会話:通信の秘密が使えなくても、私的領域に侵入されない権利が残るので、強制処分です(解説書の見方)。
    • 例:同じ事務所の応接室の会話を、窓の外から高感度マイクで拾う → 電話ではないので通信の秘密は外れます。それでも室内の会話を密かに聞くので、私的領域への侵入として強制処分です。
  • 例外:ただし、誰でも聞ける公共の場所で、周りに丸聞こえの大声で話す会話は、プライバシーが強く保護されるべき会話とはいえず、任意処分の場合もある、とされます(解説書の留保つきの見方)。
    • 撮影で見た「受忍せざるを得ない場所」と似た考え方です(ノートの整理)。解説書は、場所に加えて、周りに聞こえる話し方かどうかも挙げています。
    • 例:駅前広場で、周りに聞こえる大声で取引の段取りを話すのを録る → 任意処分の方向です(解説書も「場合もあろう」と留保)。自宅の居間の会話を外から集音器で拾うのとは、正反対の場面です。

傍受の根拠:口頭の会話を傍受する規定が無い

電気通信の傍受には222条の3と通信傍受法という根拠があります。口頭の会話の傍受を定めた規定は無いので、残る道は、既存の検証許可状に乗れるかです。

電気通信の傍受口頭の会話の傍受
認める条文222条の3+通信傍受法無い
結論法律の定めに従って実施できる専用の規定が無い → 強制処分法定主義(197条1項ただし書)にかかる。既存の検証で行えるかが残る(第4・5節)
  • 強制処分法定主義:法律に特別の定めがない強制処分はできない、という原則です(197条1項ただし書)。傍受は強制処分(第2節)なので、行うには法律の根拠が要ります。

197条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)1項:捜査については、その目的を達するため必要な取調べをすることができる。ただし、強制の処分は、この法律に特別の定めのある場合でなければ、これをすることができない。

  • 222条の3:電話などの電気通信を、当事者の同意なく傍受する強制処分は、「別に法律で定める」とする規定です。その法律が通信傍受法です。
    • 番号の注意:古い教科書の「222条の2」は、番号が変わる前の表記です。今の222条の2は、電磁的記録提供命令などに違反した者の罰則で、傍受とは関係ありません。
      • 例:「傍受の根拠は222条の2」は改正前の番号 → 傍受を別の法律に任せる規定は、今は222条の3です。

222条の3|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)通信の当事者のいずれの同意も得ないで電気通信の傍受を行う強制の処分については、別に法律で定めるところによる。

  • 通信傍受法の「通信」:電話その他の電気通信に限られます(2条1項)。部屋に盗聴器を仕掛けて肉声を聞く捜査は、この法律の外です。
    • 例:「会話の傍受も、通信傍受法の傍受令状を取ればできる」は誤り → 同法の「通信」は電気通信に限られます。室内の肉声は対象外です。

2条(定義)(抜粋)|犯罪捜査のための通信傍受に関する法律 第一章 総則(1〜2条)1項:この法律において「通信」とは、電話その他の電気通信であって、その伝送路の全部若しくは一部が有線(有線以外の方式で電波その他の電磁波を送り、又は受けるための電気的設備に附属する有線を除く。)であるもの又はその伝送路に交換設備があるものをいう。2項:この法律において「傍受」とは、現に行われている他人間の通信について、その内容を知るため、当該通信の当事者のいずれの同意も得ないで、これを受けることをいう。

  • 立法は見送り:2016年(平成28年)の改正の際、会話の傍受を立法で認めるべきかも議論されました。しかし、引き続き検討が必要だとして見送られました。「作らないと決めた」のではなく、結論を先送りした状態です。

平11決定:電話傍受は検証許可状でできた

最高裁は、電話傍受を強制処分としたうえで、憲法上の6要件を満たす場合に、対象の特定に資する適切な記載がある検証許可状によれば、当時の法律上も実施できたとしました。

  • 前提:本件の傍受が行われた平成6年当時、通信傍受法はまだありませんでした(同法の制定は平成11年・施行は平成12年。決定は制定の後ですが、判断したのは平成6年当時の法律です)。電話傍受を直接定めた法律が無い中で、令状を取って行えたかが問われました。
  • 争点の形:弁護人は、電話傍受は法律に定めのない強制処分なので、強制処分法定主義(197条1項ただし書)に反し、憲法にも反すると主張しました。
  • 最高裁の2段の答え
    • 憲法の段:一定の要件(下の6つ)の下なら、憲法上全く許されないものではない。
    • 法律の段:電話傍受を直接の目的とする令状は無かったが、検証許可状で実施できた(理由は第5節の表)。
  • 検証:捜査機関が、五官の作用で対象の存否・性質・状態・内容などを認識し、記録に残す処分です。令状は検証許可状です。
    • 検証は刑訴法に定めのある強制処分です(218条1項)。電話傍受を検証許可状で行えるなら、197条1項ただし書の「特別の定め」がある、という筋です。ただし最高裁は、検証の性質に加えて、事前審査・特定・条件の付加なども理由にしています(第5節の表)。

事実電話傍受の事件(最決平11・12・16)

  • 暴力団が、組事務所のあるマンションの一室の電話で覚醒剤の注文を受け、客を別の場所に行かせて渡していました。受付役と受渡し役は別人で、特定できませんでした。
  • 警察官が裁判官に請求し、検証許可状が出ました。対象は電話2台、取引に関する通話内容に限り、2日間・各日夕方5時から夜11時までと限定されていました。
  • 許可状は、地方公務員2名を立ち会わせ、通話をスピーカーで聞いて録音し、対象外と思われる通話は立会人に直ちに分配器の電源スイッチを切らせる、という方法を定めていました。警察官は、その制限を守って実施しました。

(1) 憲法上許される6つの要件

  1. 犯罪が重大であること
  2. 被疑者が罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があること
  3. その電話で、被疑事実に関連する通話が行われる蓋然性があること
  4. 電話傍受以外の方法では、重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難なこと
  5. 侵害される利益の内容・程度を慎重に考慮しても、なお真にやむを得ないこと
  6. 法律の定める手続に従うこと
  • 覚えるのは形:「重大性・嫌疑・蓋然性・補充性・やむを得ないこと・手続」の並びです。補充性=ほかの方法では著しく困難なこと(④)です。
    • 決定は①〜④を「…著しく困難であるなどの事情」という形で書いています。6つに数えるのは解説書の整理です。

電話傍受を検証としてできるとした決定最高裁判所決定強制処分性と合憲となる要件電話傍受は、通信の秘密を侵害し、ひいては、個人のプライバシーを侵害する強制処分である一定の要件の下では、捜査の手段として憲法上全く許されないものではない重大な犯罪に係る被疑事件について、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があり、かつ、当該電話により被疑事実に関連する通話の行われる蓋然性があるとともに、電話傍受以外の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの事情が存する場合において、電話傍受により侵害される利益の内容、程度を慎重に考慮した上で、なお電話傍受を行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるときには、法律の定める手続に従ってこれを行うことも憲法上許されると解するのが相当である。検証としての性質と結論電話傍受は、通話内容を聴覚により認識し、それを記録するという点で、五官の作用によって対象の存否、性質、状態、内容等を認識、保全する検証としての性質をも有するということができる。対象の特定に資する適切な記載がある検証許可状により電話傍受を実施することは、本件当時においても法律上許されていたものと解するのが相当である。

会話傍受は、検証許可状でもできない

平11の理由は、電話なら成り立ちました。口頭の会話では、事後通知・不服申立てが無いことに加えて侵害がずっと大きく、そのため特定・立会い・遮断も難しいので、検証として行うこともできず違法と考えられます(解説書の検討)。

平11が挙げた理由(電話傍受)口頭の会話の傍受では(解説書の検討)
① 検証としての性質:耳で聞き取って記録する残る(会話傍受も検証の性質を持つ)
② 裁判官の事前審査:資料で要件を満たすか事前に審査できる(解説書は論じていない)
③ 対象の特定:令状に、傍受すべき通話・電話回線・実施の方法と場所・期間をできる限り限定して書く装置のある場所の会話すべてが入るので、特定しにくい
④ 条件の付加:身体検査の条件の規定を準用し、第三者の立会いと対象外の通話の遮断を条件にできる立会人を置きにくく、関係ない会話だけ選んで遮断するのも難しい
⑤ スポットモニタリング:対象か分からない通話も、判断に必要な限度で聞ける(129条)できるかが問題になる=満たすのが一層難しい条件の1つ(解説書は、それ以上の理由は述べていません)
弱点:事後通知・不服申立ての規定が無い(最高裁も「問題があることは否定し難い」)同じく無い
—加えて、侵害が通信傍受より相当に大きい
  • ④を準用できる理由:218条9項は、もともと身体検査について、裁判官が条件を付けられるとする規定です。条件を付けることは、強制処分の範囲・程度を狭める方向に働くので、身体検査令状以外の検証許可状にも準用できる、と最高裁は述べました。
    • 条文は今の218条9項です。決定が引いたときは5項でした。

218条(抜粋)|刑事訴訟法 第二編 第一審 第一章 捜査(189〜246条)9項:裁判官は、身体の検査に関し、適当と認める条件を付することができる。

  • ⑤の根拠:129条は、検証のために「その他必要な処分」ができるとしています。対象の通話か判断するために、その判断に必要な限度で傍受することが、これに含まれる、と解しました(決定は129条とだけ書いています。捜査機関がする検証には、222条1項が129条を準用します)。
    • 例:通話が世間話から始まり、取引の話か分からない → 判断に必要な限度で聞くのは「必要な処分」。途中で家族の無関係な連絡と分かったのに最後まで聞き続ければ、その限度を超えます。

129条|刑事訴訟法 第一編 総則 第十章 検証(128〜142条)検証については、身体の検査、死体の解剖、墳墓の発掘、物の破壊その他必要な処分をすることができる。

  • 侵害が大きい中身:装置を置いた場所の会話すべてが聞かれます(通信傍受なら、その通信だけ)。設置のために、住居などに密かに立ち入ることもあります。
  • 事後通知・不服申立て:事後通知=傍受が終わった後に、聞かれた当事者に傍受したことを知らせること。不服申立て=当事者が、その処分を違法・不当だとして、取消しなどを裁判所に求める手続。どちらも無いと、聞かれた本人は、傍受されたことをすぐに知る機会も、処分そのものを争う手続もありません。
  • 結論の組み立て(解説書):次の3つを重ねて、検証として行うこともできず、違法と考えるべき、とされます。
    • (a) 事後通知・不服申立てが無く、適正さを担保できない。
    • (b) 私的領域に侵入されない権利への侵害が、通信傍受より相当に大きい(上の「侵害が大きい中身」)。
    • (c) (b)のため(場所の会話すべてが入り、密かな立入りも伴うため)、平11が求めた特定・立会人・遮断・スポットモニタリングの条件を満たすのが一層難しい。
    • 事後通知の欠如そのものは、最高裁が電話傍受で「許されなかったとまで解するのは相当でない」とした点です(下の判旨)。解説書は、これに侵害の大きさと条件の困難を重ねて結論を出しています。
    • 例:組事務所の応接室に盗聴器を仕掛ける → 来客や家族の会話まで全部入り、設置のために密かに立ち入り、立会人も室内に置けず、関係ない会話だけ切るのも難しい。平11の条件を満たしにくい典型です。
    • 主語に注意:会話傍受を最高裁が判断した例はありません。
      • 例:「平11があるから、検証許可状を取れば室内の会話傍受もできる」は誤り → 平11は電話傍受についての判断です。会話傍受には判例が無く、解説書は否定します。

電話傍受を検証としてできるとした決定最高裁判所決定最高裁自身が認めた弱点もっとも、検証許可状による場合、法律や規則上、通話当事者に対する事後通知の措置や通話当事者からの不服申立ては規定されておらず、その点に問題があることは否定し難いが、電話傍受は、これを行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合に限り、かつ、前述のような手続に従うことによって初めて実施され得ることなどを考慮すると、右の点を理由に検証許可状による電話傍受が許されなかったとまで解するのは相当でない。

  • 反対意見(元原裁判官):関係ない通話の選別的な聴取を「必要な処分」に含めるのは不合理で、事後の告知・不服申立ての規定も無いので、検証として行うことは許されない → 証拠能力を否定すべき、としました。
  • 平11の今の位置づけ:今は電気通信の傍受は通信傍受法によるしかなく、検証許可状で行うことは許されないと考えられています。その点では過去の判例です。ただし判断の基準は、解説書も会話傍受を考えるときに借りています。

秘密録音の入口:放棄で任意処分

秘密録音は通信傍受法の「傍受」に当たりません。多数説は、相手は会話の秘密性を話し相手に委ねて放棄しているので、強制処分で守るほどの侵害は無いとして、任意処分と考えます。

  • 秘密録音:会話の一方の当事者が、相手の同意を得ないで、秘密に録音することです。対面に限らず、電話でも同じです。
  • 傍受との線引き:通信傍受法の「傍受」は、他人間の通信を、当事者のいずれの同意も得ないで受けることです(2条2項)。当事者Y自身が録るのは、これに当たらず、場面①の強制処分の枠には乗りません。

(1) 私人の録音と、捜査機関の録音

私人が秘密録音した場合捜査機関が秘密録音した場合
最高裁の判断事情を示して「違法ではない」とした(2件)判断を示していない
根拠最決昭56・11・20(新聞記者)/最決平12・7・12(詐欺の被害を受けたと考えた人)まだ無い
  • 事情つきの判断:どちらも、録音テープの証拠能力を争う主張に答えた判断です。「右のような事情のもとに」「このような場合に」と、事情を限って違法ではないとしました。
  • 平12の決定は、上告趣意が引いた先例についても、「判示の事情の下では違法ではないとするにとどまり」と読んでいます。「私人の録音は一般に適法」と覚えないようにします。

事実私人が録音した2つの事件

  • 昭56:検事総長を名乗る偽電話の録音を、被告人が報道してもらうために新聞記者に聞かせました。記者は、取材の結果を正確に残すため、その再生音と、再生の前に交わした会話を録音しました。電話での会話の録音もあり、被告人は録音されることを未必的に認めていました。
  • 平12:被告人から詐欺の被害を受けたと考えた人が、被告人の説明を怪しみ、後日の証拠にするため、被告人との会話を録音しました。

(2) 学説:放棄による任意処分

  • 強制処分説もあります。
  • 多数説:秘密録音が相手のプライバシー・人格権を多かれ少なかれ侵害することは否定できません。それでも、相手は会話の秘密性を一方当事者の支配に委ねて放棄しているので、強制処分で守るほどの「重要な権利・利益への実質的な侵害・制約」とまではいえない → 任意処分です。
    • 例:「秘密録音が任意処分なのは、相手が録音に同意したとみなされるから」は誤り → 相手は録音に同意していません。委ねたのは、話し相手に聞かれることについての秘密性です。
録音されることこの相手に話を聞かれること
Xは認めたか認めていない(録音に同意していない)認めた(Yを選んで話した時点で)
どう扱うか録音されない利益は残る → その先の適法性(第8節の左の皿)で量る秘密性を委ねた=放棄 → 任意処分と説明される理由
  • 中身はもう渡っている:Xが選んで話した時点で、話の中身はYの頭の中にあります。渡っていないのは「録音されること」だけです。
    • 例:Yがあとで、話の中身をこっそり手帳に書き留めた → Xが引き受けた範囲です。その手帳が録音機だったら、声も言い方もそのまま残り、ここで話が変わります。千葉地判は、まさにこの点を理由に、放棄の見方を録音には及ぼしませんでした(第7節)。
  • その先が残る:放棄で片づくのは入口(強制か任意か)だけです。任意処分として適法かを、もう1段判断します。

その先:任意処分として適法か

千葉地判は原則違法とし、相当と認められる限度でだけ許します。東京地判は、事情を総合して著しく不当な点があるかで決めます。出発点は違いますが、どちらも事案の録音を適法としました。

事実千葉地判の事案

  • 捜索差押えに来た警察官と、立ち会った被告人が交わす会話を、そばにいた別の警察官が、被告人に気づかれないように録音しました。
  • 目的は、被害者が録音していた脅迫電話の声と、被告人の声を比べることでした。
  • 話し相手も録音した者も捜査機関の側で、被告人は警察官相手と分かって話していました。判決は、捜査機関を会話の一方の当事者とみて、「捜査機関が対話の相手方の知らないうちに」録音した事案として判断しています(解説書も秘密録音の裁判例として扱います。被告人から見れば、話し相手の側に録られた場面です)。
千葉地判平3・3・29東京地判平2・7・26
放棄の見方覚えて人に話す場合の話で、録音には及ばない会話の秘密性を放棄し、相手の支配下に委ねた
出発点原則として違法原則違法とはしない
判断の基準録音の経緯・内容・目的・必要性、侵害される法益と公共の利益との権衡などを考え、相当と認められる限度でのみ許容録音の目的・対象・手段方法・会話の内容・会話時の状況などを総合し、手続に著しく不当な点があるか
事案で考えた事情嫌疑が濃く録音が証拠として必要/相手は警察官と知って会話/内容は捜索差押えの立会いに関することだけ/強制・偽計なし相手は捜索差押えに来た警察官と知って会話/挑発・欺罔・偽計・誘導などで無理に話させていない
結論例外的に相当と認めて許容=適法適法
  • 千葉地判の理由の順:放棄が当てはまるのは、相手が中身を覚えて他に漏らす場合です。機械で正確に録られ、声の同一性の証拠に使われうると知っていれば、当然拒むと予想されます。その機会を与えずに録れば、プライバシー・人格権を多かれ少なかれ侵害します。まして刑事裁判の資料にするのは、司法の廉潔性の観点からも慎重であるべきだ、としました。
    • 権衡:釣り合いのことです。
    • 司法の廉潔性:裁判所が、違法・不公正な手段で得た証拠を安易に使わず、裁判の公正さと信頼を保つことです。
    • 位置づけ:千葉地判は、令状なしの録音を、相当と認められる限度で許容しました(強制処分なら法律の根拠と令状が要るので、強制処分としては扱っていないと読めます。評釈にも同じ読みがあります)。解説書も千葉地判を、任意処分としての適法性の裁判例として並べています。
      • 放棄を否定しても、それだけで強制処分になるわけではありません。強制処分かは、重要な権利・利益の実質的な侵害・制約まで達するかで決まるからです。千葉地判では、放棄を録音に及ぼさなかったことが、入口ではなくその先の出発点(原則違法)に効いている、と読めます(ノートの見方)。
  • 東京地判の理由:盗聴と違い、話し手は相手に聞かれることは認めていて、会話の秘密性を放棄している、とみました。
  • 結論の差:考え方は固まっていませんが、どちらによっても最終的な結論に大差は無いだろう、と解説書はみています。基準の言葉に「必要性」があるのは千葉地判だけです。
  • 基準の違いで変わること(ノートの見方。判決の言葉の上での違いです。解説書は、結論には大差がないだろうとみています):
    • 千葉地判:「相当と認められる限度においてのみ」許容 → 相当と認められなければ違法です。適法にするには、相当といえる事情が要ります。
    • 東京地判:「著しく不当な点があるか否かを考慮して」決める → 著しく不当な点が無ければ適法の側と読めます(出発点について、解説書は「原則違法との判断を示さなかった」と書くだけで、原則適法とは書いていません)。違法の線を「著しく」不当に置く言葉なので、千葉地判より違法になりにくい書き方です。
    • 例(理屈の上の境目):相当とまではいえないが、著しく不当ともいえない録音 → 千葉地判の基準なら違法、東京地判の基準なら適法の側に入ります。2つの事案では、どちらも録音は適法とされました。

捜査機関の秘密録音を原則違法としつつ例外的に許容した判決千葉地方裁判所判決原則違法・例外的に許容このような録音を刑事裁判の資料とすることは司法の廉潔性の観点からも慎重でなければならない捜査機関が対話の相手方の知らないうちにその会話を録音することは、原則として違法であり、ただ録音の経緯、内容、目的、必要性、侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容される

会話の秘密性の放棄から適法性を考えた判決東京地方裁判所判決原則違法とは言わない対話者の一方が相手方の同意を得ないでした会話の録音は、それにより録音に同意しなかった対話者の人格権がある程度侵害されるおそれを生じさせることは否定できないが、いわゆる盗聴の場合とは異なり、対話者は相手方に対する関係では自己の会話を聞かれることを認めており、会話の秘密性を放棄しその会話内容を相手方の支配下に委ねたものと見得るのであるから、右会話録音の適法性については、録音の目的、対象、手段方法、対象となる会話の内容、会話時の状況等の諸事情を総合し、その手続に著しく不当な点があるか否かを考慮してこれを決めるのが相当である。

(1) 学説の2つの立場と「会話の自由」

  • 原則適法・例外的に違法とする説と、原則違法・例外的に適法とする説があります。
    • 解説書の並べ方では、どちらも、任意処分としての適法性の出発点をどちらに置くかの違いです。
    • 解説書は、原則適法説の根拠を述べていません。出発点の向きは東京地判(原則違法とはしない)と近い、とみることはできます(ノートの見方)。ただ解説書は、両者を同じ枠組みとは書いていません。
  • 原則違法説の根拠=会話の自由:私的な会話を自由にできることは、私生活にとって重要な価値を持ち、プライバシーの一内容をなす、とします。解説書は「親しい人と気を遣わずざっくばらんに話せる自由」と言い換えています。
録音を気にせず話せるとき常に録音を覚悟しなければならないとき
話し方気を遣わず、ざっくばらんに話せる身構えて、いつもと同じようには話せない
何が損なわれるかなし会話の自由と、プライバシーへの期待
  • この説でも例外はある:録音の必要性と侵害の程度を比べ、例外的に適法になる場合を認めます。千葉地判と同じ判断枠組みとみてよい、と解説書は書いています。

天秤とあてはめ

任意処分としての相当性は、会話の自由を含むプライバシー・人格権の侵害・制約の程度(左の皿)と、捜査の必要性(右の皿)を比べて判断します(解説書の整理)。解説書は、この天秤をどちらの説の道具とも書いていません(左の皿の「会話の自由」は、原則違法説が根拠に挙げる利益です)。裁判例2つについては、結論に大差はないとみています。

  • 第7節との関係(ノートの見方):天秤(両方の皿を比べること)そのものは、解説書はどちらの説にも、どちらの裁判例にも結び付けていません。裁判例2つで違うのは、比べた結果のどこに違法の線を引くかです。「見合わなければ違法」(下の比例原則)と引く点で、千葉地判と解説書は同じです(千葉地判はさらに出発点を原則違法に置きます)。東京地判は、言葉どおりに読むと、著しく不当な点があるときに違法で、不当でも著しくなければ違法にならないと読めます。ただし東京地判の基準の言葉には「必要性」が無く、右の皿を同じように乗せるかは、解説書が引く基準の言葉からは読めません。
  • 比例原則:任意処分でも、何をしてもよいわけではありません。侵害・制約の程度と捜査の必要性の釣り合い(権衡)を見る考え方です。侵害・制約の程度に見合うだけの必要性があれば相当=適法、見合わなければ違法です。
    • 例:「任意処分だから適法」は誤り → 任意処分でも、天秤で相当性を欠けば違法です。両方の皿に事実を乗せて、はじめて向きが決まります。
左の皿:侵害・制約の程度右の皿:捜査の必要性
撮影① 具体的な撮影方法❶ 犯罪の重大性/❷ 嫌疑の程度/❸ 証拠の重要性(代替手段の不存在) など
秘密録音会話の自由を含むプライバシー・人格権の侵害・制約の程度:① 具体的な録音方法/② 会話の内容/③ 対象者の対応 など撮影と同じ❶❷❸ など
左の皿の要素侵害・制約が大きくなる/小さくなる場合
① 具体的な録音方法強制・挑発・欺罔・偽計を使えば大きい
② 会話の内容会話の自由が期待される状況や、プライバシー・人格権に関わる内容なら大きい
③ 対象者の対応状況を分かったうえで、自分から話しているなら小さい
  • 4つの手口(強制・挑発・欺罔・偽計):強制=無理やり言わせる/挑発=けしかけて言わせる/欺罔・偽計=嘘や仕掛けで思い違いをさせて言わせる。身分を隠すのは偽計です。
  • 裁判例の事情との対応(ノートの整理):手段方法 → ①、会話の内容・会話の自由が期待される状況か → ②、警察官と知って自分から話したか → ③、嫌疑・必要性 → 右の皿。

(1) あてはめ:解説書の天秤で、千葉地判の事案を量る

  • 左の皿(軽い):強制・偽計などは使われていません(判決。解説書の検討は挑発・欺罔も無いとします)。内容は立会いに関する用件だけで、会話の自由が問題になる場面ではありません。相手は警察官と分かって、自分から話しています。
    • 例(事実を1つ変える):警察官が身分を伏せ、仲間のふりをして近づき、脅迫電話の件を自分から持ちかけて話させながら録音した → ①録音方法(偽計)と③対象者の対応が重くなります。必要性が極めて大きい例外でない限り、違法の方向です(判例は無く、解説書の見方)。
    • 例(事実を1つ変える):身分を明かした事情聴取の途中で、相手が事件と関係なく家族の病状や私生活の悩みを話し出したのを、捜査官が録音していると告げずに録り続けた → ②会話の内容は重くなる方向です(③自分から話している点は、小さい側に残ります)。
  • 右の皿(重い):❷嫌疑が濃く、❸声を照らし合わせるのに録音が証拠として必要でした(判決が挙げた事情)。解説書の設問の検討は、❶公務員への職務強要で重大、❸代わりの手段も無い、と加えます。
  • 結論:侵害の程度に見合う必要性があるので相当性が認められ、適法と考えられます(判決も例外的に許容)。

刑事訴訟法 全体ロードマップへ →

刑事訴訟法 の復習ノートを1ページで通して読む →