会話傍受と秘密録音——相手が知らないうちに録音する
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第2章 捜査 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
傍受の法的性質——通信の秘密と私的領域

まず、場面①、第三者が外から聞いて録音する場合から、見ていきましょう。会話の当事者、どちらの同意も得ずに傍受することは、通信を使う手段なら、「通信の秘密」を、実質的に侵害・制約します。それに加えて、「私的領域に侵入されない権利」も、実質的に侵害・制約します。口頭の会話は、電気通信ではないので、通信の秘密は、問題になりません。でも、私的領域に侵入されない権利のほうは、そのまま、問題になります。会話を、密かに聞き取られない利益は、通信を使うかどうかに、関係なく、認められます。

そこは、例外があります。駅前の広場で、周囲に丸聞こえの大声で話しているXの会話を、録音する場合を考えてみてください。プライバシーが強く保護されるべき会話とはいえないなら、私的領域への侵入といえない場合もあります。「場所」の物差しは、音の場面でも、そのまま生きています。
穴——条文がない、それは選択の結果

では、この強制処分を、法律は、認めているんでしょうか。電気通信の傍受については、すでに条文があります。
条文刑訴法222条の3(※教科書の222条の2)
刑事訴訟法第222条の3 通信の当事者のいずれの同意も得ないで電気通信の傍受を行う強制の処分については、別に法律で定めるところによる。
もし手元の教科書に222条の2とあったら、それは、番号が変わる前の表記です。いま六法でその番号を引くと、傍受とは関係のない、罰則の規定が出てきます。傍受を法律に任せると決めているのは、いまは222条の3です。この条文が指す「法律」が、通信傍受法です。要件や手続の中身は、また別の回にまとめます。今日は、この条文の位置づけだけ、押さえてください。ここが、今日の穴です。電気通信によらない口頭の会話の傍受は、通信傍受法の規制の外にあります。認める条文が、ありません。前回までに渡した、強制処分法定主義——法律に定めがない強制処分は、できない。この原則が、初めて、「できない」という結論を出します。
ただし、これで終わりにする前に、1つ、確認しておきたいことがあります。この「条文が無い」は、たまたま、誰も作っていない、というわけではありません。新たに立法によって、会話の傍受を認めるべきかどうかも、実は、議論されました。でも、引き続き検討が必要だとして、見送られています。だとすると、気になりませんか。犯罪が防げなくなるのでは、と。その不都合は、本当にあります。だからこそ、立法が必要だ、というところで、議論が止まっています。今日は、この宙ぶらりんを、抱えたまま進みます。
検証許可状を取れば?——電話傍受を認めた先例
図:覚醒剤密売の捜査で検証許可状により電話傍受が実施された事案の構図
検証許可状を取る——それも、自然な発想です。検証は、前回出てきた、目や耳で感じ取ったことを、記録に残す処分でしたね。この問いも、前回、1度、聞きましたよね。あのときは、令状を見せた瞬間に密かに撮れなくなる、で終わりました。でも、今回は、違います。実は、最高裁が、実際に、検証許可状で電話傍受を認めた前例があります。通信傍受法ができる前の事件です。覚醒剤の密売事件で、警察が、検証許可状によって、電話を傍受しました。
判例最高裁判所第三小法廷決定・平成11年12月16日(刑集53巻9号1327頁・百選31)
電話傍受を検証としてできるとした決定——強制処分性と検証としての性質 電話傍受は、通信の秘密を侵害し、ひいては、個人のプライバシーを侵害する強制処分である 一定の要件の下では、捜査の手段として憲法上全く許されないものではない 重大な犯罪に係る被疑事件について、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる十分な理由があり、かつ、当該電話により被疑事実に関連する通話の行われる蓋然性があるとともに、電話傍受以外の方法によってはその罪に関する重要かつ必要な証拠を得ることが著しく困難であるなどの事情が存する場合において、電話傍受により侵害される利益の内容、程度を慎重に考慮した上で、なお電話傍受を行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められるときには、法律の定める手続に従ってこれを行うことも憲法上許されると解するのが相当である。 電話傍受は、通話内容を聴覚により認識し、それを記録するという点で、五官の作用によって対象の存否、性質、状態、内容等を認識、保全する検証としての性質をも有するということができる。 対象の特定に資する適切な記載がある検証許可状により電話傍受を実施することは、本件当時においても法律上許されていたものと解するのが相当である。
ポイントは、後半です。電話傍受は、聴覚で内容を認識して記録する、という点で、検証としての性質も持つ——最高裁は、そう言っています。だから、一定の要件のもとでなら、検証許可状による電話傍受も、法律上許されていた、と結論しました。
図:最高裁が示した憲法上許される要件を並べた一覧板
最高裁は、憲法上、電話傍受が許されるための条件も、まとめて示しました。1つめ、犯罪が重大であること。2つめ、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる、十分な理由があること。3つめ、その電話で、被疑事実に関する通話が行われる、蓋然性があること。4つめ、電話傍受以外の方法では、重要な証拠を得ることが著しく困難なこと。5つめ、侵害される利益を慎重に考慮しても、なお、真にやむを得ないと言えること。6つめ、法律の定める手続に従うこと。6つを丸ごと覚える必要は、ありません。覚えてほしいのは、「重大性、嫌疑、蓋然性、ほかに手が無いこと、それでもやむを得ないこと、法律の手続」という、この形だけです。
中身の細かい要件は、通信傍受法の回に、まとめて渡します。今日、持ち帰ってほしいのは、この考え方の骨組みです。
なぜ検証許可状で許されたか——そして今は過去の判例
図:検証許可状で電話傍受が許された4つの理由とスポットモニタリングの根拠を示す一覧板
最高裁が挙げた理由は、4つあります。1つめ、電話傍受は、検証としての性質を持つこと。2つめ、裁判官が、事前に要件を審査できること。3つめ、検証許可状に、傍受すべき場所や、電話回線、実施の方法や期間を、できる限り限定することで、対象をかなり特定できること。4つめ、身体検査令状について、裁判官が条件を付けられる、というルールを準用して、捜査機関以外の第三者を立ち会わせ、対象外の通話を、速やかに遮断する措置を、条件として付けられること。いまは218条9項です。ただし、この決定が引いたときは、5項でした。ここも、番号が動いている条文です。
実際、この事件でも、立会人がついて、対象外の通話は、スイッチを切って遮断していました。傍受すべき通話にあたるか、明らかでない通話でも、判断に必要な限度で、傍受することができます。
条文刑訴法129条
刑事訴訟法第129条 検証については、身体の検査、死体の解剖、墳墓の発掘、物の破壊その他必要な処分をすることができる。
この「必要な処分」に、今の判断のための傍受が含まれる、というのが、最高裁の理由づけです。俗に、スポットモニタリングと呼ばれます。ここまでが、検証許可状で電話傍受が許されていた、理由です。ただ、これは、もう、現在の話ではありません。いまは、電気通信を傍受するなら、通信傍受法の手続に乗るしかありません。検証許可状という道は、もう使えない。そういう理解が、定着しています。法律が整備されたことで、この判例が使える場面は、通り過ぎてしまいました。
それでも会話傍受はできない——3層の理由
図:会話傍受は検証許可状の枠組みを援用してもできず3段の結論で違法に至ることを示す図
だとすると、さっきの決定の考え方を借りて、会話傍受も、検証としてできないか——そう聞きたくなりませんか。答えは、できません。そして、その理由は、1つではなく、3つ、重なっています。1つめ、最高裁自身が、認めた弱点です。
判例最高裁判所第三小法廷決定・平成11年12月16日(刑集53巻9号1327頁・百選31)
同じ決定の続き——最高裁自身が認めた弱点 もっとも、検証許可状による場合、法律や規則上、通話当事者に対する事後通知の措置や通話当事者からの不服申立ては規定されておらず、その点に問題があることは否定し難いが、電話傍受は、これを行うことが犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合に限り、かつ、前述のような手続に従うことによって初めて実施され得ることなどを考慮すると、右の点を理由に検証許可状による電話傍受が許されなかったとまで解するのは相当でない。
傍受された後、本人に知らせる手続も、本人が不服を申し立てる手続も、検証許可状には、備わっていません。ただし、続きを読んでください。最高裁は、この弱点を理由に、電話の傍受まで許されなかったとは言えない、と続けています。だから、この1つめは、それだけでは決め手になりません。決め手になるのは、次の2つと、重なったときです。2つめ、会話傍受は、通信傍受より、侵害が相当に大きいことです。理由は、2つあります。1つ、傍受装置が置かれた場所の、会話すべてが、聞かれてしまいます。通信傍受なら、その通信だけです。
もう1つ、装置を設置するために、住居などに、密かに立ち入ることもあります。だから、私的領域に侵入されない権利への食い込み方が、通信の傍受とは、比べものになりません。3つめ、だからこそ、検証許可状で許されるための要件を満たすのが、一層、難しくなります。装置を置いた部屋の、どこまでが対象なのか、特定しにくい。立会人を、その場に置きにくい。対象外の会話だけを、選んで遮断するのも、通話より、はるかに難しい。事後通知が無い、侵害が大きい、要件も満たしにくい——3つが重なって、検証許可状の枠組みは、援用できません。
強制処分にあたる。認める条文が無い。既存の令状の器も、使えない。この3段の結論に、なります。今日、いちばん深いところは、ここまでです。
秘密録音——もう1つの入口
図:誰も知らない録音と相手だけが知らない録音の違いを対比する図
ここで、場面を、②に戻します。Xと話しているY自身が、Xに知らせず、録音している場面でしたね。答え合わせをしましょう。①と②、何が違うか、言葉にできますか。①は「誰も知らない」。②は「相手だけが知らない」。この違いが、結論を、反転させます。②のような、会話の一方当事者が、相手の同意を得ないで、秘密に録音する場合、まず、該当性から確認しましょう。この録音は、電話やメールのような、通信ではありません。対面での会話です。だから、通信の秘密は、問題になりません。
私人による秘密録音——捜査機関はまだ決めていない

もう1本、確認しておきたいことがあります。秘密録音をする側が、私人の場合です。新聞記者が、取材のために、相手との会話を秘密に録音した事件と、詐欺の被害者が、被告人との会話を秘密に録音した事件——どちらも、最高裁は、適法と認めています。しかし、秘密録音をする側が、捜査機関である場合について、最高裁は、判断を示していません。覚えていますか。前回、京都府学連事件が、「自由」は認めたけれど、強制か任意かは、決めていなかった、という話。今日、同じ型が、もう1度、出てきました。「最高裁が、まだ決めていない場所がある」——これが、2回目です。
学説と「放棄」の理屈
図:録音への同意と話を聞かれることについての秘密性を分けて示す放棄の二段切り分け図
では、捜査機関による秘密録音は、どう説明されるのか。ここは、学説の出番です。強制処分だと考える見解も、あります。でも、多数の見解は、違う結論を採ります。秘密録音が、相手方のプライバシーや人格権を、多かれ少なかれ侵害することは、否定できません。それでも、相手方は、会話の秘密性を、一方当事者の支配に委ねて、放棄していると認められる——そう説明します。その同意・承諾の話の、まさに応用です。だから、強制処分として保護すべきほどの、重要な権利・利益への実質的な侵害・制約とまでは、認められない——任意処分になる、と結論します。
同意や承諾があれば任意処分になる、という話をしましたよね。あのときの放棄は、「同意していたから」の放棄でした。今回は、同意していないのに、放棄が認められます。ここが、今日、いちばん誤解されやすいところです。放棄しているのは、「録音への同意」ではありません。「この人に話を聞かれること」についての、秘密性です。話す相手を選んだ時点で、内容は、もう、その相手に渡っています。渡っていないのは、「録音されること」だけです。場面②で、確かめてみましょう。Xは、Yを選んで、話しました。その時点で、中身は、もうYの頭の中にあります。
Yがあとで、こっそり手帳に書き留めていたとしても、「聞かれた」こと自体は、変わりません。変わるのは、その手帳が、録音機だったときです。この二段の切り分けができれば、「同意していないのに放棄」という、一見おかしな話が、筋の通った説明になります。もう1つ、前回までの言い方に、戻しておきます。「本人が、自分から委ねているなら、そもそも、奪われていない」。この物差しは、今日も、そのままです。物差しは変わらず、委ねた中身だけが、違っていました。終わりません。入口を抜けても、その先が、残ります。前回と同じ、二段構えです。
任意処分としての適法性——裁判例が割れている
図:裁判例が採る2つの枠組みの違いを対比する図
任意処分としての適法性は、下級審の判断が、割れています。
判例千葉地方裁判所判決・平成3年3月29日(判時1384号141頁・百選9)
秘密録音をめぐる裁判例①——原則違法・例外的に許容 このような録音を刑事裁判の資料とすることは司法の廉潔性の観点からも慎重でなければならない 捜査機関が対話の相手方の知らないうちにその会話を録音することは、原則として違法であり、ただ録音の経緯、内容、目的、必要性、侵害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況のもとで相当と認められる限度においてのみ、許容される
1つは、原則違法・例外的に許容、という考え方です。捜査機関による秘密録音は、原則として違法。ただし、録音の経緯や、目的、必要性と、侵害される利益との権衡を考えて、具体的な状況のもとで相当と認められる限度でだけ、許される、とします。「権衡」は、前回出てきた「釣り合い」と、同じ言葉です。この厳しさには、理由があります。いまの判決の、書き出しです。「司法の廉潔性」です。裁判所が、相手の知らないうちに録音した会話を、裁判の資料として使う。それ自体が、裁判の公正さを、傷つけかねない。だから、まず違法の側に置いて、許される場合を、絞っていきます。
判例東京地方裁判所判決・平成2年7月26日(判時1358号151頁)
秘密録音をめぐる裁判例②——原則違法とは言わない 対話者の一方が相手方の同意を得ないでした会話の録音は、それにより録音に同意しなかった対話者の人格権がある程度侵害されるおそれを生じさせることは否定できないが、いわゆる盗聴の場合とは異なり、対話者は相手方に対する関係では自己の会話を聞かれることを認めており、会話の秘密性を放棄しその会話内容を相手方の支配下に委ねたものと見得るのであるから、右会話録音の適法性については、録音の目的、対象、手段方法、対象となる会話の内容、会話時の状況等の諸事情を総合し、その手続に著しく不当な点があるか否かを考慮してこれを決めるのが相当である。
もう1つは、原則違法とは言わない考え方です。対話者は、相手に会話を聞かれることは、認めています。だから、録音の目的や対象、方法、内容、状況を総合して、手続に著しく不当な点があるかどうかで、決める、とします。ただ、この2つ、最終的な結論には、大差がありません。
なぜ大差ないか——そして「会話の自由」

なぜ大差ないか——ここが、大事です。どちらの枠組みも、使っている材料は、同じです。録音の目的、方法、会話の内容、対象者の状況、必要性。違うのは、その材料を、どちらから数え始めるか、だけです。原則違法から出発するか、個別の事情から出発するか。どちらの型で書いても構いません。それより大事なのは、考慮要素を、落とさないことです。学説にも、同じように、2つの立場があります。原則適法・例外的違法、そして、原則違法・例外的適法。後者の根拠が、この回の、隠れた主役です。「会話の自由」です。親しい人々との間で、気を遣わずに、ざっくばらんに話すことができる自由——これが、個人の私生活にとって、重要な価値を持ちます。
少し、想像してみてください。親しい相手と、くだけた話をしているとき、「この会話は、録音されているかもしれない」と、常に思っていなければならないとしたら、今までと同じように、話せますか。そう身構えたままでいるのが当たり前になれば、いま言った会話の自由も、それを支えている期待も、痩せていきます。ただし、この見解でも、利益考量によって、例外的に適法になる場合は、認めます。結局、さっきの裁判例と、同じ判断枠組みに戻ります。
比例原則の天秤——前回との対比

この利益考量を、もう少し、具体的な形にしましょう。比例原則の天秤です。前回、撮影のときにも、出てきましたね。左の皿に乗せるのは、プライバシーや人格権が、どれだけ削られたか。そこには、さっきの会話の自由も入ります。今日は、要素が3つあります。前回は1つ、今日は3つです。1つめは、具体的な録音方法——強制や、挑発、欺罔、偽計を用いていれば、程度は大きくなります。例えば、身分を隠して話を引き出したなら、ここは大きく振れます。強制は、無理やり言わせること。挑発は、けしかけて言わせること。欺罔と偽計は、嘘や仕掛けで、思い違いをさせて言わせること。いま出した「身分を隠す」は、この偽計にあたります。
2つめ、会話の内容——会話の自由が期待される状況や、プライバシー、人格権に関わる内容なら、程度は大きくなります。例えば、家族の病気の話まで録音されていたら、そうなります。3つめ、対象者の対応——何が起きているか分かったうえで、自分から話しているなら、程度は小さく見ます。例えば、捜索に来た相手だと分かって話しているなら、そうです。右の皿には、「捜査の必要性」を乗せます。①犯罪の重大性。②嫌疑の程度。③証拠の重要性——ほかの方法で、代わりが利かないかどうかです。
⭐ 論文で書く規範:秘密録音の適法性——比例原則の天秤 左の皿=プライバシー・人格権が、どれだけ削られたか(会話の自由もここに入る)/①具体的な録音方法/②会話の内容/③対象者の対応 右の皿=捜査の必要性(①犯罪の重大性/②嫌疑の程度/③証拠の重要性〔代替手段の不存在〕) (規範(学説で立てる))
そこが、今日、いちばん見てほしいところです。右側——捜査の必要性の3つの要素は、前回の撮影と、まったく同じです。前回、撮影の左の皿は、「具体的な撮影方法」1つだけでした。今日、秘密録音の左の皿は、3つあります。手段の性質が違えば、測る軸の数も、違います。撮影は、「どう撮影したか」の1点で足りましたが、録音は、「どう録音したか」「何を録音したか」「相手がどう対応したか」——3点が、絡み合います。比例原則は、同じ形をしていて、中身だけが、手法ごとに、差し替わります。この感覚が、つかめれば、今日の天秤は、もう理解できています。
あてはめ——天秤の両側を埋める

最後に、場面②に、数値を当てはめてみましょう。Yが、Xとの会話を、秘密に録音した、あの場面です。まず、左の皿です。強制や、挑発、欺罔、偽計は、使われていません。会話の内容も、特定の用件に限られていて、会話の自由の侵害があるような場面ではありません。Xも、状況を理解して、自発的に、話しています。次に、右の皿です。重大な犯罪で、相当の嫌疑があり、声の照合には、録音が証拠として重要で、代わりが利く方法もありません。左は軽く、右は重い。天秤は、右に傾きます。比例原則の相当性が認められて、適法です。反対の場面を、2つ、挙げておきます。1つ、捜査官が身分を隠して近づき、強制や、挑発、欺罔で、発言を引き出しながら録音する場合。
もう1つ、気心の知れた相手と交わす、内輪の話——さっきの会話の自由が、損なわれたと言えるような録音のしかたをした場合です。この2つの場合、侵害・制約の程度が大きくなり、捜査の必要性が極めて大きい例外的な場合でない限り、相当性は認められず、違法になります。天秤は、いつも同じ向きに傾くわけではありません。両側を、きちんと乗せてみて、初めて分かります。
今日の地図(保存版)

今日、渡したものを、振り返りましょう。1つめ、録音には、まったく違う2つの入口がありました。誰も知らない傍受と、相手だけが知らない秘密録音——結論は、反転しました。2つめ、傍受は、強制処分にあたるのに、これを認める条文が、ありません。検証許可状という器も、使えませんでした。事後通知が無い、侵害が大きい、要件も満たしにくい——3つの理由が、重なっていました。3つめ、秘密録音は、「放棄」で、任意処分と説明されます。放棄されているのは、録音への同意ではなく、話を聞かれることについての秘密性でした。4つめ、任意処分としての適法性は、下級審で枠組みが割れますが、使っている材料は同じで、結論に、大差はありませんでした。
5つめ、比例原則の天秤は、前回と、形が同じでした。右側の必要性は、まったく同じ3つ。左側だけが、1つから3つに、増えていました。撮影と、録音——2回に分けて、渡してきました。ただ、「私的領域に侵入されない権利」という言葉は、まだ、使い切っていません。GPSを使った捜査や、X線を使った検査のように、気づかれないまま、私生活を継続的に把握する捜査にも、この権利が、関わってきます。今日は、録音に開いた、2つの入口の感覚を、持ち帰ってください。
参照条文
- 刑訴法222条の3(※教科書の222条の2)
- 刑訴法129条