刑事訴訟法 ゼロから刑事訴訟法#23

訴訟条件

訴訟条件=実体審判の適法要件で、欠ければ形式裁判で打ち切ることを扱う回。出口(管轄違い・公訴棄却・免訴)と一事不再理の関係、公訴時効、親告罪の告訴欠缺、訴因基準説までを押さえる。

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第3章 公訴 ⑤/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

0. 訴訟条件とは——中身を裁く前の「入口チェック(門番)」

  • 定義=実体審理及び実体判決(実体的審判)の適法要件。裁判所が「有罪か無罪か」という中身(実体)を判断するために、あらかじめ備わっていなければならない条件。
  • (※民訴では「訴訟要件」、刑事では「訴訟条件」と呼ぶ。)
  • 審理は2段階
    • 形式審理=適正手続の有無の審理(起訴は正しいか/被告人は生きているか/時効は過ぎていないか)。
    • 実体審理=訴因事実の有無の審理(本当に犯人か)。
  • 形式審理が門番、実体審理が本編。門番を通って初めて中身に進める。

1. 欠けたらどうなる——形式裁判で打ち切り(ゲートキーパー機能)

  • 欠缺(足りない)→ 実体審理は打切り → 形式裁判(門前払い/中身は一切裁かない)。
  • 充足(揃う)→ 実体審理が継続 → 実体裁判(有罪・無罪)。
  • 🔴 民訴用語との違い(混乱ポイント)
    • 民事の棄却=中身を審理した結果「言い分に理由なし(負け)」=実体判決/民事の却下=門前払い(形式判決)。
    • 刑事の「公訴棄却」=門前払い(形式裁判)。同じ「棄却」でも中身が逆。民事の棄却感覚で読むと取り違える。

2. 🔴 打ち切り裁判の3つの出口(本回の心臓部)

違いは「落ちた理由の根の深さ」。それが一事不再理(再起訴できるか)に直結する。

出口(条文)何が問題か(根の深さ)形式一事不再理代表例
管轄違い(329)担当裁判所が違う(会場が違う=隣のビル/一番浅い)判決なし殺人を簡裁に/無関係な土地の裁判所
公訴棄却(338)手続が無効(要判断/記入が無効=直せる)判決なし338四=包括:親告罪の告訴なし・訴因不特定・起訴状一本主義違反
公訴棄却(339)手続が無効(明白/争いようがない)決定なし被告人死亡(四)・公訴取消し(三)・謄本不到達(一)
免訴(337)公訴権が消滅(イベント自体が終了/一番深い)判決あり寄り337=①確定判決②刑の廃止③大赦④時効完成

条文(e-Gov 現行XML 逐語)

  • 329条:被告事件が裁判所の管轄に属しないときは、判決で管轄違の言渡をしなければならない。但し、第二百六十六条第二号の規定により地方裁判所の審判に付された事件については、管轄違の言渡をすることはできない。
    • 土地管轄の特則(331条)=被告人の申立てがなければ言渡せない/証拠調べ開始後は申立て不可(瑕疵の治癒)。
  • 338条(判決):左の場合には、判決で公訴を棄却しなければならない。一 被告人に対して裁判権を有しないとき。二 第三百四十条の規定に違反して公訴が提起されたとき。三 公訴の提起があつた事件について、更に同一裁判所に公訴が提起されたとき。四 公訴提起の手続がその規定に違反したため無効であるとき。
    • 🔴 338条4号=包括規定(受け皿):親告罪の告訴なし・訴因不特定・起訴状一本主義違反など、手続のミスは最終的にここに帰着。答案で「公訴提起が無効」と書くときの根拠。
  • 339条(決定):左の場合には、決定で公訴を棄却しなければならない。一 第二百七十一条第二項の規定により公訴の提起がその効力を失つたとき。二 起訴状に記載された事実が真実であつても、何らの罪となるべき事実を包含していないとき。三 公訴が取り消されたとき。四 被告人が死亡し、又は被告人たる法人が存続しなくなつたとき。五 第十条又は第十一条の規定により審判してはならないとき。/前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
  • 337条(免訴):左の場合には、判決で免訴の言渡をしなければならない。一 確定判決を経たとき。二 犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。三 大赦があつたとき。四 時効が完成したとき。
  • 判決と決定の別:338=手続が無効かの慎重な判断が要る=口頭弁論を経る判決/339=事実として明白(死亡・取消し)=口頭弁論不要の決定。

3. なぜ免訴と公訴棄却で分かれる——一事不再理に直結

  • 免訴=「公訴権が消滅した終わりの判断」=有罪・無罪と並ぶ終局=もう蒸し返せない(一事不再理あり寄り)。
  • 管轄違い・公訴棄却=「手続がダメなだけ」=まだ中身のリスク(二重の危険=憲法39条)をくぐっていない → 直せば再起訴できる(一事不再理なし)。
  • 無罪との違い:免訴は中身を見ていない(タイムオーバー/終了済み)。無罪はシロと判断した実体裁判。
  • ※ 免訴の法的性質(形式裁判説/実体裁判説)と一事不再理の本論は 第5章 裁判・救済で本格解説(本回は所在に一言)。

4. 公訴時効(337条4号の中身=免訴の代表例)

意義・根拠

  • 意義=犯罪が終わってから一定期間で、国が起訴する権利(公訴権)を失う制度。完成後に起訴したら 免訴(337四)
  • 根拠(学説・決定打なし):実体法説(時の経過で可罰性が薄れる)/訴訟法説(証拠の散逸)/競合説(両方)/新訴訟法説(長期間放置した事実状態の尊重)。

🔴 期間(250条・拘禁刑化後の現行=旧「懲役/禁錮」表記は改正前)

  • 時効なし:人を死亡させた罪で死刑にあたるもの(殺人罪・強盗殺人罪 等)=平成22年改正で廃止。永久に追及。
  • ① 人を死亡させた罪(拘禁刑に当たるもの)=250条1項:無期拘禁刑=30年/長期20年の拘禁刑(傷害致死 等)=20年/それ以外(前2号以外)=10年
  • ② 人を死亡させていない罪(上記以外)=250条2項:死刑(人は死亡せず・現住建造物放火等)=25年/無期拘禁刑=15年/長期15年以上の拘禁刑=10年/長期15年未満の拘禁刑(窃盗・詐欺=ニュースの「時効7年」)=7年/長期10年未満の拘禁刑(横領・恐喝)=5年/長期5年未満の拘禁刑・罰金=3年/拘留・科料=1年
  • ※ 性犯罪の特則(250条3項4項=令和5年改正)=不同意性交等罪等の期間延長+被害者が18歳未満なら18歳まで時効の進行を加算。

起算点(253①)・初日算入(55①但書)

  • 刑訴253条1項「時効は、犯罪行為が終つた時から進行する。」
  • タイプで「終わり」が変わる(判例は被害者保護で起算点を遅らせる傾向):
    • 結果犯(殺人)=結果(死亡)発生時から/継続犯(監禁)=解放した時から/包括一罪(常習窃盗)=最後の1件が終わった時から。
    • (※結果的加重犯=重い結果発生時/観念的競合=最も重い罪を基準に最終結果発生時/牽連犯=ケースバイケース。細目は時効の深掘り回。)
  • 初日算入(55①但書)=民法は初日不算入だが、時効は初日を1日として算入する特則。

停止(254・255)

  • 刑訴254条1項「時効は、当該事件についてした公訴の提起によつてその進行を停止し、管轄違又は公訴棄却の裁判が確定した時からその進行を始める。」/2項「共犯の一人に対してした公訴の提起による時効の停止は、他の共犯に対してその効力を有する。」
  • 🔴 逮捕では止まらない=止めるには起訴が必要。
  • 止まる範囲:主観的=共犯の一人への起訴で他の共犯も停止(254②・一網打尽)/客観的=公訴事実の同一性が及ぶ範囲(#22 とつながる)。
  • ※ 起訴の瑕疵(謄本不送達・訴因不特定)でも、検察官の訴追意思の表明があるため一旦は停止=判例。

5. 🔴 欠けた起訴は直せるか——瑕疵の治癒(追完×/訴因変更○)

親告罪で告訴がないのに起訴した(338四で公訴棄却すべき状態)。後から救えるか:

① 告訴の追完(後から告訴をもらう)② 非親告罪への訴因変更(罪名を変える)
結論判例=否定(×)判例=肯定(○)=最大判昭29・9・8
イメージ足りない書類を「後から1枚足す」そもそも「書類のいらない入場枠」に変える
理由検察官の重大なミスを後出しで直すのは安易すぎる/一度棄却→再起訴の間に、被告人が示談で告訴を取り消すチャンスを残すべき公訴事実の同一性の範囲内なら訴因変更でき、それで起訴の瑕疵は治癒される(裁判は続行)
  • 🔴 ツボ:同じ「告訴なし起訴の救済」でも、①追完は× / ②訴因変更は○ = 出口が逆。
  • 追完の学説=積極説(訴訟経済)/消極説(瑕疵重大・被告人の告訴取消し機会=有力)/限定的消極説(冒頭手続まで・被告人の同意があれば肯定)。判例は消極説(最大判昭53・12・17)。

6. 訴訟条件は何を基準に判断する——訴因基準説(通説)

  • 錯綜事例=検察官の訴因は「脅迫罪(告訴不要)」/審理した裁判官の心証は「名誉毀損罪(告訴必要)」・告訴なし。打ち切る?続ける?
  • 通説=訴因基準説:訴訟条件の存否は訴因を基準に判断する。訴因が「脅迫=告訴不要」なら訴訟条件は満たす→打ち切らず実体審理へ。
  • 理由:実体審判の対象が訴因である以上(訴因対象説=#20)、その入口の合格条件も訴因を基準にするのが筋。
  • (続行後、裁判所が「脅迫では無罪」を避けたければ、検察官に訴因変更を促す=求釈明。変更されて初めて「名誉毀損の告訴があるか」をチェック。)
  • +告訴前の親告罪の捜査=原則OK(告訴は訴訟条件であって捜査の条件ではない・189②)。ただし告訴の見込みが皆無なら捜査も不可。
  • +非類型的訴訟条件(条文にない打ち切り)=迅速裁判違反(憲37①・高田事件 最大判昭47・12・20=免訴)/公訴権濫用(338④類推=#19既出)。

📝 論文の型|訴訟条件を欠く場合の処理

  • 【コア規範】(逐語暗記は太字だけ)訴訟条件とは実体審判(実体審理及び実体判決)の適法要件をいう。欠ける場合、裁判所は実体判断に入らず形式裁判で手続を打ち切る。すなわち管轄違いの判決(329条)、公訴棄却(判決=338条/決定=339条)、免訴の判決(337条)による。訴訟条件の存否は、実体審判の対象が訴因である以上、訴因を基準に判断する(訴因基準説)。
  • 【復元キー】①意義=実体審判の適法要件(欠けたら実体判断に入らない)→②効果=形式裁判で打切り→③種類=管轄違い329/公訴棄却338・339/免訴337→④判断基準=訴因基準説(審判対象が訴因だから)→⑤親告罪の告訴欠缺=338④だが同一性内なら訴因変更で治癒(追完は不可)。
  • 【フル論証】訴訟条件とは、実体審理及び実体判決(実体的審判)の適法要件をいう。訴訟条件を欠く場合、裁判所は有罪・無罪の実体判断に入らず、形式裁判によって手続を打ち切らなければならない。すなわち、管轄に属しないときは管轄違いの判決(329条)、公訴提起の手続が規定に違反して無効であるとき等は公訴棄却(判決=338条/決定=339条)、確定判決・刑の廃止・大赦・時効完成のときは免訴の判決(337条)による。そして、訴訟条件の存否は、実体審判の対象が訴因である以上、訴因を基準に判断する(訴因基準説)。
  • 【事例】親告罪である器物損壊罪について被害者の告訴がないまま起訴。公判係属中、公訴事実の同一性の範囲内で告訴を要しない罪への訴因変更を請求した。
  • 【問題提起】告訴を欠く本件起訴に訴訟条件があるか、どの形式裁判で打ち切るべきか。訴因変更で瑕疵は治癒されるか。
  • 【あてはめ】親告罪につき告訴を欠く起訴は公訴提起の手続が規定に違反し無効で、本来は338条4号により公訴棄却すべきである。もっとも公訴事実の同一性の範囲内であれば非親告罪への訴因変更が認められ、告訴を欠く瑕疵は治癒される(最大判昭29・9・8)。なお後から告訴を得る告訴の追完は判例上認められない。

つまずきポイント Q&A

  • Q. 免訴と無罪はどちらも処罰されないのに、なぜ区別するの? A. 無罪は中身を裁いた結果シロ(実体裁判)。免訴は中身を見ず、公訴権が消えたから打ち切る(形式裁判)。一事不再理の扱いも違う。
  • Q. なぜ公訴棄却は判決と決定の2つがあるの? A. 手続が無効かどうか「もめる」ものは慎重に判決(338・口頭弁論)。被告人死亡など「明白」なものは即決の決定(339)。
  • Q. 殺人の時効は何年? A. 時効なし(人を死亡させた死刑にあたる罪=平22改正で廃止)。
  • Q. 逮捕したら時効は止まる? A. 止まらない。止めるには起訴が必要(254①)。

次回予告

第4章 公判に入る(公判手続の流れ)。第2章で名前だけ出た起訴状一本主義(256条6項・予断排除)を、次回 全文カードで本格解説。

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