刑事訴訟法 ゼロから刑事訴訟法#22

訴因変更の可否(公訴事実の同一性)

訴因変更の可否(公訴事実の同一性)を扱う回です。外枠は312条1項の「公訴事実の同一性を害しない限度」であり、広義の同一性は単一性または狭義の同一性(基本的事実同一説・決め手は非両立性)のいずれかで足ります。さらに訴因変更命令(312条2項)の形成力否定と命令義務の例外までを押さえます。

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第3章 公訴 ④/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

1. 「要否」と「可否」はどう違う?——2段階の問い 〔短答・論文共通〕

「要否」と「可否」は別次元の問いです。混同すると答案の構成が崩れるため、最初に整理します。

  • 要否(前回・第3章③):証拠と訴因がズレたとき、このまま認定するために変更手続が「必要か」という問い。
  • 可否(今回・第3章④):変えるとして、その変更が「許されるか」という問い。

思考の順番は「まず要否 → 変更が必要なら次に可否」です。可否を欠けば、その訴因変更はできず、別事件として起訴し直すしかありません。

要否と可否の2段階の問い(板書) 図:要否(変更が必要か)と可否(変更が許されるか)の2段階を示す板書

可否の根拠条文は312条1項です。

【条文】刑事訴訟法312条1項(訴因変更) 裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。

「公訴事実の同一性を害しない限度」が訴因変更の外枠です。検察官がどれだけ変えたくても、この枠の外には変えられません。逆に枠の中であれば、裁判所は許さなければならない(義務)です。これは当事者主義の現れです。

刑事訴訟法312条1項(訴因変更) 図:312条1項の条文カード(公訴事実の同一性を害しない限度)

2. 「公訴事実の同一性」を2枚のレンズに分解 〔論文〕

条文には「公訴事実の同一性」としか書かれていませんが、判例・通説はこれを2つに分解して判断します。「同じ1個の出来事を指しているか」を2つの角度で見るためです。

レンズ名称判断軸
法律のレンズ単一性実体法上1個の罪か
常識のレンズ狭義の同一性基本的事実関係が社会通念上同一か
2枚の合計広義の同一性単一性 または 狭義の同一性のいずれか

重要なのは、どちらか1枚でいいという点です。どちらか1枚で「同じ出来事」と映れば訴因変更できます。変えられないのは、2枚とも別物のときだけです。

広義の同一性の構造(板書) 図:広義の同一性=単一性または狭義の同一性(2枚のレンズ)の構造

3. 単一性——「法律のレンズ」で1個の罪か 〔短答・論文共通〕

単一性は、刑法の罪数論で判断します。法律で見て1個の罪なら「ひとかたまり」として同じ枠に入ります。

単一に入るもの:

  • 単純一罪(例:殺人1件)
  • 科刑上一罪(観念的競合・牽連犯)——例えば、住居侵入して強盗した場合、住居侵入と強盗は手段と目的の関係にある牽連犯で科刑上一罪です。

単一に入らないもの:

  • 併合罪・単純数罪——バラバラの複数の罪で、原則として訴因変更できません。

単一性の表(単純一罪・科刑上一罪・非単一) 図:単一性の判断(単純一罪・科刑上一罪が単一、併合罪・数罪は非単一)

例: 強盗の訴因に手段の住居侵入を追加したい場合、両者は牽連犯(科刑上一罪)なので単一性あり、追加・変更できます。

4. 狭義の同一性——「常識のレンズ」と非両立性 〔論文〕

法律上は別々の罪でも、常識で見て同じ出来事かを問うのが狭義の同一性です。

定義(基本的事実同一説): 両訴因の基本的事実関係が社会通念上同一であるか。

判断の決め手は非両立性です。

一方の訴因が認められれば、他方の訴因は認められない関係

——これが非両立です。両方が同時に成立しないということは、歴史上、どちらか1つの出来事しか起きていないことを意味します。検察官はその1個の出来事に2通りの見立てをぶつけているだけです。だから「同じ事件」として訴因変更を認めます。

狭義の同一性と非両立性(板書) 図:狭義の同一性の判定——非両立性が決め手(同じ1個の出来事の裏表)

この考え方を認めたリーディングケースが、最判昭和29年5月14日です。

〔最判昭29・5・14〕窃盗と賍物牙保(背広1着) 1着の背広について、窃盗の訴因から盗品牙保(賍物牙保)の訴因への変更が許されるか。 判旨:両訴因は同じ背広1着に関するもので、被告人の所為が窃盗か、事後の賍物牙保かの差異にすぎない。基本的事実関係を同じくするから、公訴事実の同一性がある。

自分で盗んだなら他人が盗んだ物を買い取ってはいません。非両立だから同一性あり、訴因変更できます。

最判昭和29年5月14日(窃盗と賍物牙保) 図:最判昭29・5・14——背広1着を素材に非両立性で同一性を認めた判例カード

非両立の他の例:

  • 窃盗と詐欺(同じ指輪を、こっそり盗むかだまし取るか)
  • 横領と窃盗(自分が預かっている物は盗めない)
  • 日付違い(同じ物を返しもせず再び盗むのはほぼ不可能)

5. 判定フロー——「二重に無関係」のときだけ変えられない 〔論文〕

2枚のレンズを判定の順番に整理します。論文では狭義の同一性(常識のレンズ)から先に書くと流れやすいです。

  1. ステップ1(常識のレンズ): 両訴因は非両立か? → YES → 狭義の同一性あり → 変更できる
  2. ステップ2(法律のレンズ): 実体法上1個の罪か? → YES → 単一性あり → 変更できる
  3. 両方 NO → 同一性なし → 変更できない

「事実として全く別物で、かつ法律的にも別の罪」のときだけ変更できません。何かしら繋がれば広く変更を認める構造です。

判定フロー(板書) 図:公訴事実の同一性の判定フロー——狭義→単一性の順に検討

6. 訴因変更命令——裁判所が検察官に変更を促す 〔短答・論文共通〕

次に、検察官が自発的に訴因を変えない場面で、裁判所が命令できるかの問題です。

場面: 裁判所が証拠を見て「強盗は無理だが恐喝なら成立する」と確信した。このまま強盗で無罪にするしかないのか。

根拠条文は312条2項です。

【条文】刑事訴訟法312条2項(訴因変更命令) 裁判所は、審理の経過に鑑み適当と認めるときは、訴因又は罰条を追加又は変更すべきことを命ずることができる。

刑事訴訟法312条2項(訴因変更命令) 図:312条2項の条文カード(訴因変更命令)

これは当事者主義の例外にあたる職権主義的な規定です。趣旨は真実発見です。

手順: いきなり命令するのではなく、まず求釈明(「恐喝の可能性がありますが変えませんか」と促す)を行います。それでも変えなければ初めて命令できます。

訴因変更命令の手順(板書) 図:訴因変更命令の手順——求釈明→なお変えなければ命令へ

7. 命令しても訴因は変わらない——形成力の否定 〔論文〕

命令によって訴因が自動的に変わるかという問題を形成力の問題といいます。

判例の結論:形成力を否定。

命令を受けた後、検察官が改めて変更請求して初めて訴因が変わります。これを認めたのが最大判昭和40年4月28日(大法廷判決)です。

〔最大判昭40・4・28〕変更命令の形成力否定 日本の刑事裁判は当事者主義的訴訟構造をとる。訴因の設定と変更は検察官の専権であり、裁判所が命令によって直接訴因を変えることはできない。

最大判昭和40年4月28日(変更命令の形成力否定) 図:最大判昭40・4・28——当事者主義的訴訟構造から形成力を否定した判例カード

裁判所が命令できても、カードを切る(訴因を変える)のは検察官だけです。

形成力否定(板書) 図:形成力否定——命令後も変更請求権は検察官の専権

8. 命令する義務はある?——原則なし・例外あり 〔短答・論文共通〕

「できる」という文言ですから、原則として裁判所に命令の義務はありません。検察官が変えないなら、そのまま無罪等にしてよい(当事者主義)。

ただし、例外的に命令義務が生じる場合があります。最決昭和43年11月26日が示した2条件です。

〔最決昭43・11・26〕変更命令の義務 ①被告人が有罪であることが証拠上明らか、かつ②その罪が相当重大であるとき——例外的に、訴因変更を促し、または命ずる義務が生じる。

最決昭和43年11月26日(変更命令の義務) 図:最決昭43・11・26——2条件(証拠上明らか+相当重大)で命令義務が生じる判例カード

命令義務の例外(板書) 図:命令義務の原則なし・例外2条件の板書

義務があるのに命令せず無罪にした場合:審理不尽(379条の相対的控訴理由)として控訴審で破棄されえます。

9. 伏線回収——「公訴事実の同一性」は一事不再理の範囲 〔短答・論文共通〕

一事不再理の客観的範囲も、この公訴事実の同一性で決まります。

結論: 一事不再理効は、公訴事実の同一性の及ぶ範囲に及びます。

同一性の範囲内の事実については、検察官は前の裁判で訴因変更して処罰を求めることができました。被告人から見れば、その範囲は処罰の危険にさらされていました。一度その危険をくぐって確定した以上、蒸し返せません。

一事不再理の範囲(板書) 図:一事不再理の客観的範囲=公訴事実の同一性が及ぶ範囲

なお、常習一罪の一部だけ起訴する「一罪の一部起訴」は、訴追の裁量という別の論点で後の回に扱います。


短答ひっかけ

  • 要否と可否は同じか → 別の問いです。要否は変更が「必要か」、可否は変更が「許されるか」。思考の順番は要否が先です。
  • 同一性の判断は単一性と狭義の同一性の両方が必要か → どちらか一方で足ります。両方必要ではありません。変えられないのは両方とも「別」のときだけです。
  • 罪名が違えば必ず別事件で変更できないか → 罪名の違いは決め手ではありません。非両立であれば狭義の同一性が認められ、訴因変更できます(最判昭29・5・14)。
  • 変更命令を出せばそれで訴因は変わるか → 変わりません。命令に形成力はなく(最大判昭40・4・28)、検察官が改めて変更請求して初めて変わります。
  • 裁判所は常に変更命令を出す義務があるか → 原則として義務はありません。例外的に証拠上明らかな有罪+相当重大という2条件がそろったときだけ義務が生じます(最決昭43・11・26)。

短答ひっかかり(板書) 図:短答ひっかけ5問のまとめ板書

📝 論文の型

〔規範〕

訴因変更は、公訴事実の同一性を害しない限度において許される(312条1項)。公訴事実の同一性(広義)は、公訴事実の単一性または狭義の同一性のいずれかが認められれば足りる。単一性は実体法上一罪と評価されるかにより判断する。狭義の同一性は、両訴因の基本的事実関係が社会通念上同一であるかにより判断し、その判断にあたっては、一方の訴因が認められれば他方の訴因が認められない関係(非両立性)にあるかを考慮する。両訴因が非両立であれば、歴史的事実としては一個の事実であるから、基本的事実関係を同じくし、公訴事実の同一性が認められる。

〔復元キー〕

①枠=公訴事実の同一性を害しない限度で訴因変更可(312条1項)→②広義=単一性(実体法上一罪)or 狭義の同一性のいずれか→③狭義の同一性=基本的事実関係が社会通念上同一か(基本的事実同一説)→④判断補助=非両立性(一方成立なら他方不成立)→歴史的事実は一個

〔フル論証〕

訴因変更は、公訴事実の同一性を害しない限度において許される(312条1項)。公訴事実の同一性(広義)は、公訴事実の単一性または狭義の同一性のいずれかが認められれば足りる。単一性は実体法上一罪と評価されるかにより判断する。狭義の同一性は、両訴因の基本的事実関係が社会通念上同一であるかにより判断し、その判断にあたっては、一方の訴因が認められれば他方の訴因が認められない関係(非両立性)にあるかを考慮する。両訴因が非両立であれば、歴史的事実としては一個の事実であるから、基本的事実関係を同じくし、公訴事実の同一性が認められる。

〔事例〕「甲所有の背広一着を窃取した」という窃盗の訴因から、「同一の背広を盗品と知りながら有償で譲り受けた」という盗品等有償譲受けの訴因への変更を請求。

〔問題提起〕 窃盗の訴因から盗品等有償譲受けの訴因への変更は、公訴事実の同一性を害しないか。

〔あてはめ〕 両訴因は同一の背広一着に関し、自ら窃取したか事後に有償で譲り受けたかの差異にすぎない。両者は一方が成立すれば他方は成立しえない非両立の関係にあり、歴史的事実としては一個の事実をとらえたものである。よって基本的事実関係を同じくし狭義の同一性が認められ、公訴事実の同一性を害せず、訴因変更は許される(最判昭29・5・14参照)。

論文の型——可否の規範(図解) 図:訴因変更の可否(公訴事実の同一性)の論文規範カード

論文の型——可否のあてはめ(図解) 図:訴因変更の可否の論文の型(答案の構成)

今日の地図(保存版)

  • 可否の外枠:公訴事実の同一性を害しない限度(312条1項)。この枠内なら裁判所は許さなければならない(義務)。
  • 広義の同一性:単一性(法律のレンズ)または狭義の同一性(常識のレンズ)のいずれかで足りる。
  • 単一性:実体法上一罪(単純一罪・科刑上一罪は単一、併合罪・数罪は非単一)。
  • 狭義の同一性:基本的事実関係が社会通念上同一か(基本的事実同一説)。判断の決め手は非両立性
  • 非両立性:一方が成立すれば他方は成立しない → 歴史的事実は一個 → 同一事件 → 同一性あり(最判昭29・5・14)。
  • 訴因変更命令(312条2項):裁判所が「できる」規定で、当事者主義の例外。手順は求釈明→命令。
  • 形成力否定:命令によって訴因は変わらない。検察官の変更請求があって初めて変わる(最大判昭40・4・28・当事者主義的訴訟構造)。
  • 命令義務の例外:証拠上明らかな有罪+相当重大のとき例外的に義務あり(最決昭43・11・26)。義務違反は審理不尽(379条)。
  • 一事不再理の客観的範囲:公訴事実の同一性の及ぶ範囲に及ぶ。

今日の地図(板書) 図:今日の地図——可否・命令・一事不再理の接続を示す保存版板書

今日の地図(まとめ板書) 図:この回全体のまとめ板書

次回は #23「訴訟条件」。時効が完成したら・親告罪の告訴がなかったら、裁判所はどう裁くのか。管轄違い・公訴棄却・免訴の3出口を押さえます。

参照条文

  • 刑事訴訟法312条1項(訴因変更)
  • 刑事訴訟法312条2項(訴因変更命令)

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