刑事訴訟法 ゼロから刑事訴訟法#25

証拠裁判主義と厳格な証明

証拠裁判主義(317条)と厳格な証明を扱う回。厳格な証明=証拠能力+適式な証拠調べであること、証拠能力(入口の資格)と証明力(中身の信用性)の峻別、証拠能力の3つの関門(自然的関連性・法律的関連性・証拠禁止)、悪性格証拠排除法則と例外(故意・手口の同一性)までを押さえる。

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第4章 公判・証拠法 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

1. 証拠裁判主義——事実は証拠で決める 〔短答・論文共通〕

証拠法の出発点は刑事訴訟法317条です。

【条文】刑事訴訟法317条(証拠裁判主義) 事実の認定は、証拠による。

これが証拠裁判主義です。歴史的には、火の中を歩かせて火傷の有無で裁く「火審」や、水に沈めて浮沈で裁く「水審」、決闘の勝敗で裁く方法など、いわゆる神明裁判が行われていました。証拠裁判主義はそれを否定し、理性的な手続で事実を認定することを宣言するものです。

ただし「証拠があればよい」というわけではありません。刑罰権の存否を左右する重要な事実については、厳格な証明が要求されます。

317条の条文と証拠裁判主義の意義(板書) 図:刑事訴訟法317条の全文カード

2. 刑事はなぜ証拠に厳しいのか 〔短答・論文共通〕

民事訴訟と刑事訴訟では、証拠の扱いが大きく異なります。

民事刑事
制限の程度ほぼ制限なし(当事者の出した物を自由に使える)厳しい制限あり
主な制限なし(形式的真実主義)違法収集証拠の排除・伝聞禁止など
根拠・目的当事者自治人権保障・冤罪防止

刑事と民事の違い(板書) 図:証拠制限——民事はゆるく、刑事は厳しい

刑事が特に厳しい理由は、強い国家権力から個人の人権を守り、冤罪を防ぐためです。この「証拠を絞る」機能を担うのが証拠能力です。

3. 厳格な証明と自由な証明 〔短答・論文共通〕

厳格な証明とは、気合いの問題ではなく、手続の問題です。次の2条件を同時に満たす証明をいいます。

  1. 証拠能力のある証拠を使うこと
  2. 法廷で適式な証拠調べ(朗読・尋問・展示など正式な手続)を経ること

この2点セットが厳格な証明です。逆に、これらの条件のいずれかを欠く証明を自由な証明といいます。自由な証明は、証拠能力のない資料でも、裁判官が法廷外で読んだ書類でも使えます。

陸上の世界記録に例えると、公認の計測器・公認の大会で記録しなければ公式記録として認められません。それ以外は「参考記録」にすぎない。犯行事実の認定は、世界記録と同じ厳格さで行われます。

厳格な証明と自由な証明の対比表 図:厳格な証明 vs 自由な証明——2つの条件

4. 厳格な証明が要る事実——被告人に有利でも 〔論文の骨格〕

厳格な証明が必要な事実は、刑罰権の存否・範囲を画する事実です。具体的には次の3種類があります。

  • 主要事実:犯罪そのものに関わる事実(殺意などの主観も含む)
  • 間接事実:主要事実を推認させる事実(現場にいた、血が付いていたなど)
  • 補助事実:証拠の信用性に関わる事実(目撃者の視力・現場の明るさなど)

ここで重要な論点があります。検察官が犯罪を立証するときに厳格な証明が要ることは当然です。では、被告人が自分に有利な事実(正当防衛など違法性阻却事由の存在)を主張するときはどうでしょうか。

通説・判例は「被告人に有利な事実も厳格な証明を要する」とします。

根拠となるのは条文の文言です。

【条文】刑事訴訟法321条1項3号(抜粋) 犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。

「ある」こと(犯罪の存在)の証明も「ない」こと(不存在・阻却事由)の証明も、「存否」の一語で同列に扱われています。

【条文】刑事訴訟法322条1項(抜粋) 被告人の供述を録取した書面……不利益な事実の承認を内容とするもの……又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。

被告人の有利な事実についての供述は、簡単に証拠にできないということでもあります。被告人に有利な事実も「証拠能力のある証拠+適式な証拠調べ」を経なければ、信頼できる無罪認定ができないからです。

有利不利を問わず厳格な証明が要る(板書) 図:被告人有利の事実でも厳格な証明——321条1項3号・322条1項の根拠

321条1項3号の条文カード 図:刑事訴訟法321条1項3号——「存否」の文言確認

322条1項の条文カード 図:刑事訴訟法322条1項——被告人の供述書面の証拠能力

5. 事実の分類——証明のターゲット 〔短答・論文共通〕

事実には3種類あります。殺人事件を例に整理します。

種類内容
主要事実犯罪そのものに関わる事実(主観も含む)AがVを刺して死なせた(殺意)
間接事実主要事実を推認させる事実。情況証拠の中身Aが直前に現場にいた、服にVの血がついていた
補助事実証拠の信用性に効く事実目撃者の視力が2.0、現場は明るかった

補助事実を使って証拠の信用性を崩すことを弾劾といいます(例:「目撃者は被告人と仲が悪い」)。

事実の分類(板書) 図:主要事実・間接事実・補助事実の3分類

6. 証拠の分類——証明の手段 〔短答・論文共通〕

証拠にも3種類の分け方があります。

① 直接証拠と間接証拠(情況証拠)

種類内容
直接証拠主要事実を推論なしに直接証明するもの自白・犯行の目撃証言・犯行の映像
間接証拠(情況証拠)間接事実を証明し、主要事実を推認させるもの現場にいたという証言・凶器の鑑定書

② 供述証拠と非供述証拠(物証)

人が話した証拠(供述証拠)か、物の証拠か、という分け方もあります。この区別は伝聞法則(第27回)で重要になります。伝聞禁止のルールは供述証拠だけの問題です。

証拠の分類(板書) 図:直接証拠・間接証拠(情況証拠)・供述証拠・非供述証拠の関係

7. 立証の構造——一本道と積み上げ 〔短答・論文共通〕

証拠で事実を組み立てる構造を図で確認します。ゴールは「AがVを刺した」という主要事実です。

  • 左のルート(直接証拠の一本道):自白でダイレクトに犯行を示す。下を補助事実(自白と傷の向きが一致→医師の診断書)で支える。
  • 右のルート(間接証拠の積み上げ):現場にいたという間接事実を積み上げ(目撃証言+目撃者の視力という補助事実で支える)。

どちらも「下から事実を支える」構造で成り立っています。

立証の構造図(図解) 図:直接証拠の一本道と間接証拠の積み上げ——下から補助事実で支える

8. 証拠能力と証明力——入口と中身 〔論文の骨格〕

よく混同される2つの概念を峻別します。

証拠能力証明力
意味法廷に上げてよい資格上がった後、どれだけ信じられるか
決め手法律のルール(裁判官に裁量なし)裁判官の自由な判断(318条)
典型的な制限伝聞証拠・違法収集証拠は原則排除弱い証拠でも法廷に上げること自体は可

コンサートに例えると、チケットがなければ会場に入れません(証拠能力=入場資格)。どれだけ熱心なファンでも資格のない者は門前払いです。会場に入ったあとの席の良し悪し・演奏の良し悪し(証明力)は、入った後の話です。

【条文】刑事訴訟法318条(自由心証主義) 証拠の証明力は、裁判官の自由な判断に委ねる。

証明力は裁判官の自由ですが、証拠能力は法律で固定されています。伝聞禁止や違法収集証拠排除は、法のルールであって裁判官が自由に決めるものではありません。これが峻別の意味です。

証拠能力と証明力の峻別(板書) 図:証拠能力(入口・法のルール)と証明力(中身・裁判官の自由)の峻別

318条の条文カード 図:刑事訴訟法318条——自由心証主義の全文

9. 関連性——証拠能力の3つの関門 〔短答・論文共通〕

法廷に上がるには、3つの関門があります。

関門① 自然的関連性

その証拠で、犯人らしさが論理的に少しでも上がるか、というフィルターです。例えば「被告人は猫を飼っている」という事実は、殺人事件と論理的なつながりがありません。刑事訴訟規則189条1項により、必要がない証拠は却下できます。

関門② 法律的関連性

論理的には役立つが、裁判官の判断を誤らせる危険がある証拠を政策的に排除します。典型は伝聞証拠(人から聞いた話)です。人から聞いた話は過信されやすいため、原則として証拠にできません(刑事訴訟法320条。中身は第27回で扱います)。

関門③ 証拠禁止

拷問で得た自白や、違法な捜索で得た証拠物は手続が違法なため弾きます(違法収集証拠排除法則。後続回で本格的に扱います)。

自然的関連性と法律的関連性が揃って、「法的な関連性がある」といいます。

関連性の3つの関門(板書) 図:証拠能力の3関門——自然的関連性・法律的関連性・証拠禁止

覚えるポイント — 関門の整理

  • 関門①(自然的関連性):論理的な役立ちがあるか
  • 関門②(法律的関連性):誤判防止の観点で政策的に排除するか(伝聞・違法収集が典型)
  • 関門③(証拠禁止):手続の違法を理由とした排除

10. 前科は証拠にできるか——悪性格証拠 〔論文の骨格〕

証拠能力の論点で最重要のヤマが悪性格証拠排除法則です。「昔やったから今回もやった」という推論——つまり被告人の前科を有罪の証拠にできるか、という問題です。

原則:禁止。悪性格を理由に犯行を推認することは偏見を招き、誤った判断につながります。

前科と悪性格証拠排除法則(図解) 図:前科の証拠使用——原則禁止、例外の2類型

前科の種類によって、どの関門で弾かれるかが変わります。

前科の種類内容弾かれる関門
異種前科今回の犯罪と異なる種類の前科①自然的関連性なし(論理的つながりがない)
同種前科今回と同じ種類の前科原則:②法律的関連性なし(偏見の危険)

例外——同種前科でも使える2つの場合

  1. 故意の証明:行為自体はすでに証明済みで、「わざとか、うっかりか」が争われている場合。同じ手口で詐欺を繰り返しているという前科は、故意を強く推認させます。「性格が悪い」という一般的な推認ではなく、故意という具体的な争点に対応する証明です。

  2. 犯人の同一性(手口の顕著な特徴がある場合):犯行手口に際立った特徴があり、前科の手口と相当程度類似する場合。採用面接で例えると「前に辞めたから、また辞める」は偏見ですが、「同じ独特なやり方でトラブルを起こした」は性格でなくやり方(手口)の一致です。

覚えるポイント — 悪性格証拠の例外

  • 原則:前科は証拠にできない(偏見・誤判の危険)
  • 例外①:故意の証明(行為は証明済み・わざとかどうかが争点)
  • 例外②:犯人の同一性(際立った手口の相当程度の類似)

前科の例外の整理(板書) 図:悪性格証拠の排除と例外2類型(故意・手口の同一性)


短答ひっかけ

  • 「厳格な証明」は「気合いを入れた証明」ではない——証拠能力のある証拠+適式な証拠調べという手続の問題。
  • 被告人に有利な事実(違法性阻却事由・責任阻却事由)でも厳格な証明が要る——条文の「存否」(321条1項3号等)が根拠。自由な証明で足りるという誤解に注意。
  • 証拠能力は裁判官の自由な判断によらない——318条の自由心証主義は証明力(中身)のみの話。証拠能力は法律で固定されたルール。
  • 異種前科は自然的関連性(関門①)がない、同種前科は原則 法律的関連性(関門②)がない——弾かれる関門が違うことを意識する。
  • 同種前科の例外①(故意の証明)と例外②(犯人の同一性)を混同しない——例外②「顕著な特徴+相当程度の類似」は同一性の枠組みであり、故意立証では要件にならない。

📝 論文の型

厳格な証明か自由な証明か(証明の方式)

  • 【コア規範】(逐語暗記は太字だけ)厳格な証明とは証拠能力のある証拠を適式な証拠調べを経て行う証明をいい、自由な証明はそれ以外。刑罰権の存否及びその範囲を画する事実(犯罪事実たる主要事実・これを推認させる間接事実等)は誤判防止の要請から厳格な証明による。また法が犯罪事実の「存否」の証明という文言を用いること(321条1項3号等)から、被告人に有利な事実(違法性阻却事由・責任阻却事由等)も同じく厳格な証明を要する。

  • 【復元キー】 ①定義=厳格=証拠能力+適式な証拠調べ/自由=それ以外 → ②対象=刑罰権の存否・範囲を画する事実は厳格(誤判防止) → ③有利事実も=「存否」の文言(321①三号等)→ 阻却事由も厳格。

  • 【フル論証】 厳格な証明とは、証拠能力のある証拠を、適式な証拠調べを経て行う証明をいい、自由な証明とは、それ以外の証明をいう。そして、刑罰権の存否及びその範囲を画する事実(犯罪事実たる主要事実・これを推認させる間接事実等)は、誤判防止の要請が強く働くから、厳格な証明によらなければならない。また、刑事訴訟法が「犯罪事実の存否の証明」という文言を用いていること(321条1項3号等)からすれば、被告人に有利な事実(違法性阻却事由・責任阻却事由等の不存在に対応する事実)についても、同じく厳格な証明を要すると解する。

  • 【事例】 被告人が公訴事実につき正当防衛(違法性阻却事由)の成立を主張した。

  • 【問題提起】 被告人に有利な事実の証明は、自由な証明で足りるか、それとも厳格な証明を要するか。

  • 【あてはめ】 正当防衛の成否は犯罪の成立を左右し、刑罰権の存否を画する事実にほかならない。被告人に有利な方向で問題となる場合でも、刑事訴訟法は犯罪事実の「存否」の証明を区別なく扱うから自由な証明では足りない。よって裁判所は証拠能力のある証拠を適式な証拠調べにかけ、厳格な証明により正当防衛の成否を認定すべきである。

論文の型——規範カード(図解) 図:厳格な証明の論文規範——定義・対象・有利事実の3ステップ

論文の型——答案カード(図解) 図:厳格な証明の答案の型——事例・問題提起・規範・あてはめ

今日の地図(保存版)

  • 証拠裁判主義(317条):事実の認定は証拠による。歴史的に神明裁判を否定。重要な事実は厳格な証明が要る。
  • 厳格な証明=①証拠能力のある証拠+②適式な証拠調べ。それ以外は自由な証明。
  • 厳格な証明の対象:刑罰権の存否・範囲を画する事実(主要事実・間接事実・補助事実)。被告人に有利な事実(阻却事由)も同様(321条1項3号等の「存否」が根拠)。
  • 事実の3分類:主要事実・間接事実(情況証拠)・補助事実(弾劾含む)。
  • 証拠の分類:直接証拠vs間接証拠(情況証拠)/供述証拠vs非供述証拠(物証)。
  • 証拠能力vs証明力の峻別:入口の資格(法のルール)と中身の信用性(318条・裁判官の自由)を混同しない。
  • 証拠能力の3関門:①自然的関連性(論理的役立ち)→②法律的関連性(誤判防止の政策的排除・伝聞320条等)→③証拠禁止(違法収集等)。
  • 悪性格証拠排除法則:前科は原則証拠にできない。例外は①故意の証明・②犯人の同一性(手口の顕著な特徴・相当程度の類似)の2つ。

次回は #26「自由心証主義・挙証責任・証明の程度」。証拠能力(入口)を通った証拠を裁判官がどう評価するか——出力サイドの証拠法総論を扱います。

参照条文

  • 刑事訴訟法317条(証拠裁判主義)
  • 刑事訴訟法321条1項3号(抜粋)
  • 刑事訴訟法322条1項(抜粋)
  • 刑事訴訟法318条(自由心証主義)

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