刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#91

被告人勾留と保釈

印刷用PDFを開く

第4章 公判手続 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

導入:起訴されたあとも拘置所にいるのか

起訴後も拘置所に留まる被告人と保証金を挟んで外に出る被告人を並べた導入板 図:起訴後も拘置所に留まる被告人と保証金を挟んで外に出る被告人を並べた導入板

前回は、事件をまとめて裁くか分けて裁くか、そして審理が止まったり引き継がれたりする場面を見ました。今日は視点を変えて、被告人自身の身柄がどう扱われるかに入っていきます。起訴された。裁判は何か月も続くこともありますよね。そのあいだずっと拘置所にいるんですか。それとも、保証金を払えば出られるんですか。両方あり得ます。起訴されたあとも身柄の拘束、つまり勾留は続きます。ただし、起訴されたあとだけに使える保釈という制度があって、条件を満たせば外に出られます。ただ、払えば必ず出られるわけではありません。今日は、起訴されたあとの勾留がそれ以前とどう違うのか、そして保釈がいつ認められ、いつ取り消されるのかを見ていきます。

被告人勾留とは何か——同じ勾留のバトンが渡る

被疑者勾留から被告人勾留へバトンが渡るイメージを示す板 図:被疑者勾留から被告人勾留へバトンが渡るイメージを示す板

まず復習です。前の章で見た被疑者勾留の要件を、思い出せますか?罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があって、住居不定・罪証隠滅のおそれ・逃亡のおそれのどれかがあるとき、でした。実は、この60条1項は被告人勾留の条文そのもので、被疑者勾留の場面では、前の章で見た207条1項の授権で、これを被疑者にも読み替えて使っています。つまり、勾留の目的と要件そのものは、被疑者段階でも被告人段階でも変わりません。逃亡と罪証隠滅を防ぐための身体拘束という点で、同じ制度が続いているんです。イメージとしては、同じバトンが渡されると考えてください。捜査段階では、検察官が請求して初めて、裁判官がこのバトンを動かします。起訴という合図で、バトンは裁判所の側に渡り、そこから先は、請求がなくても裁判所が自分の判断で、より長い区間を走ります。バトンは1本のまま、何が動かすきっかけになるかと、走る区間の長さだけが変わるんです。周りの仕組みも、前の章で見たものがほとんど同じ規定で働きます。弁護人以外との面会を止める接見等禁止、勾留の理由を公開の法廷で示させる勾留理由の開示、理由や必要が無くなった勾留を終わらせる取消し、勾留を残したまま親族に預けるなどして一時的に外へ出す執行停止です。

被告人勾留と被疑者勾留の5つの違い

逮捕前置検察官の請求期間接見指定保釈の可否の5項目で被告人勾留と被疑者勾留を対比する表

目的と要件が同じ一方で、走者が変わることで変わる部分があります。5つに整理します。1つ目、逮捕前置。被疑者勾留は逮捕が前提として必要ですが、被告人勾留は起訴の時点ですでに慎重な手続を経ているので、逮捕前置は要りません。2つ目、検察官からの請求。被疑者勾留は検察官の請求が必要ですが、被告人勾留は裁判所が職権で判断できるので、請求は要りません。3つ目、期間です。被疑者勾留は原則10日、延長してもさらに10日まで、あわせて最長20日ですが、被告人勾留は起訴の日から2か月プラス1か月ごとの更新と、走る区間がぐっと長くなります。ここは次で深掘りします。4つ目、接見指定です。捜査機関は、公訴提起前に限り、弁護人等との接見の日時や場所、時間を、捜査の必要から指定できます。起訴されたあとは、起訴された事件については、この接見指定はもう使えません。接見交通権の回で見たとおり、未起訴の余罪で身柄を拘束されているときだけは別です。ちなみに、さっきの接見等禁止は、これとは別の制度で、被疑者・被告人どちらの段階でも働きます。

被疑者勾留には保釈という弁が付いていませんが、被告人勾留には付きます。この最後の違いが、今日の後半のテーマにそのままつながります。

勾留期間と更新——60条2項の深掘り

60条2項の原則2か月と更新1回の枠を89条1号3号4号6号だけ枠が外れる形で示す板

条文刑事訴訟法第60条第1項

刑事訴訟法第60条第1項 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。一 被告人が定まつた住居を有しないとき。二 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。三 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

条文刑事訴訟法第60条第2項

刑事訴訟法第60条第2項 勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。

2項をよく見てください。原則は、起訴の日から2か月、そして継続の必要があれば1か月ごとに更新できます。ただし更新は原則1回だけ。つまり通じて3か月が枠です。裁判の審理には時間がかかるので、区間が長くなるのは自然な話です。ただ、但書があります。89条1号、3号、4号、6号のどれかに当たる場合は、更新回数の制限が外れます。この4つの号は、あとで権利保釈の除外事由として同じ番号で出てきます。重い罪、常習犯、罪証隠滅のおそれ、氏名住居不明といった事情がある被告人については、更新に上限を設けず、判決が出るまで拘束を続けられるということです。

更新の制限が外れる号と、保釈が拒まれる号が、同じ番号なんです。そこは条文の作り方として覚えておくと、あとの権利保釈のところが楽になります。同じ事情が「長く拘束してよい理由」にも「保釈を拒む理由」にもなっている、という関係です。

起訴での自動切替えと判断主体

同一事実での起訴なら勾留質問なしで切替えその他の起訴なら職権判断と勾留質問ありに分かれるフロー

バトンが渡るとき、いつも同じようにスムーズに渡るわけではありません。被疑者勾留の基礎になっていた事実と同じ事実で起訴された場合は、特段の手続なしで、公訴提起と同時に被告人勾留に切り替わります。理由は2つの条文の組合せです。208条1項は、勾留の請求から10日以内に起訴しないなら直ちに釈放せよ、と定めています。裏を返せば、期間内に起訴すれば釈放しなくてよい。そして60条2項は、被告人勾留の期間を公訴提起の日から数えます。だから、起訴の日からそのまま被告人勾留として続く、と読めるんです。だから、この場合は61条の勾留質問、つまり裁判官が本人に会って疑いの中身を告げ、言い分を聴く手続を、やり直しません。前の章で見たとおり、被疑者勾留のときに一度済ませているからです。ただし、自動でパスされない場面もあります。①被疑事実と別の事実で起訴する場合、②在宅のまま起訴する場合、③逮捕後に被疑者勾留をせず直ちに起訴する場合、④すでに別件で被告人勾留されている人について、その余罪の方は逮捕・勾留の手続を経ないまま起訴する場合です。この4つでは、裁判所・裁判官が職権で勾留するかを判断し、そのときに勾留質問を行います。

たとえばCさんが、知人を殴ってけがをさせた傷害の疑いで逮捕・勾留され、その傷害で起訴されたとします。同じ事実なので、バトンは自動でパスされます。これに対して、第4章の最初の回で見た、コンビニで万引きをして、逮捕されないまま窃盗で起訴されたAさんのような人を裁判所が勾留するなら、渡すバトンがそもそもありません。②の在宅起訴にあたり、勾留質問から始めることになります。誰が勾留に関する処分を判断するかも、被疑者段階とは違います。そこも押さえておきましょう。

条文刑事訴訟法第280条

刑事訴訟法第280条 公訴の提起があつた後第一回の公判期日までは、勾留に関する処分は、裁判官がこれを行う。

第1回公判期日より前は、これから審理を担当する裁判体には入っていない別の裁判官が、職権で勾留に関する処分を行います。これは予断排除の原則、つまり事件の中身を先に知ってしまった裁判官が審理そのものを担当しないための仕組みです。第1回公判期日のあとは、実際に審理する裁判所自身が判断します。この主体の切り替わりは、これから見る保釈でも共通のルールです。

保釈とは何か——重しを預けて陸に上がる

港に停泊したままの勾留という船と保証金という重しを預けて上陸する被告人のイメージ板

ここから保釈です。保釈は、被疑者段階には無い制度で、起訴されたあとの被告人勾留だけに認められます。保釈を、こう考えてください。勾留という船は、ずっと港に停泊したままです。保釈は、その船を出港させる、つまり勾留そのものをやめる制度ではありません。保証金という重しを港に置いていけば、しばらく陸に上がってよい、という許可です。約束を破れば重しは取り上げられ、また船に戻されます。条文上は、保釈は勾留の執行を一時停止する制度と位置づけられます。勾留という裁判そのものは形の上では残ったままなので、保釈中も勾留の効力は続いていますし、実刑判決が宣告された瞬間には、この「陸に上がる許可」自体が当然に切れます。ここはあとで、取消しとの対比で詳しく見ます。では、その許可の出し方に3つの段階があります。

権利保釈——原則、請求があれば許す

権利保釈の原則と89条各号の除外事由という6枚の踏み板を示す板 図:権利保釈の原則と89条各号の除外事由という6枚の踏み板を示す板

権利保釈で保釈を拒める理由の中に「逃亡のおそれ」が入っているかどうか、このあとの条文を一緒に読んで確認しましょう。その前に、なぜ保釈が原則なのかを押さえておきます。被告人は、まだ有罪と決まっていない人です。無罪推定の原則が働いていますし、自分の裁判に備えて弁護人と打ち合わせるにも、外にいるほうがずっと動きやすい。だから、拘束を続ける特別な理由が無い限り、請求があれば出す。これが89条の出発点です。

条文刑事訴訟法第89条

刑事訴訟法第89条 保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。一 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるとき。二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える拘禁刑に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。三 被告人が常習として長期三年以上の拘禁刑に当たる罪を犯したものであるとき。四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。

これが権利保釈です。原則、請求があれば必ず許さなければなりません。ただし6つの除外事由があります。踏み板のようなものだと考えてください。原則としては誰でも上がれる階段ですが、6枚のうちどれかを踏んでしまうと、その踏み板からは上がれなくなります。1号は重い罪、2号は前科、3号は常習犯、4号は罪証隠滅のおそれ、5号は被害者への加害・畏怖、6号は氏名住居不明です。「逃亡のおそれ」は、この6つのどこにも入っていません。これが89条の引っかけです。保釈と聞くと逃亡のおそれをまず思い浮かべますが、権利保釈の除外事由には無いんです。なぜ入っていないのか。逃亡は、保証金という重しで防ぐ仕組みになっているからです。逃げれば重しを取り上げられる、その圧力で出頭を確保する。だから逃亡のおそれは除外事由にせず、保証金の額や、次に見る裁量保釈の判断の中で考えるんです。

勾留の基礎になっている事実を基準に判断します。たとえば4号の罪証隠滅のおそれなら、起訴された事件について証拠を隠す可能性があるかどうかで見るということです。さっきのCさんで考えます。傷害の罪は、法定刑の下限が1年より軽いので、1号の重い罪には当たりません。前科も無く、住まいも決まっていて、証拠もそろっているなら、6枚のどれも踏みません。多少逃げそうな気配があっても、裁判所は保釈を許さなければなりません。ところが、Cさんが逮捕される前に、殴った場面を見ていた友人に、警察には何も見ていないと言え、と繰り返し電話していたらどうでしょう。これは4号の罪証隠滅のおそれに当たりえます。そうなると、権利保釈の階段からは上がれません。

裁量保釈——それでも裁判所が出してよいと判断する

除外事由に当たった被告人にも90条の考慮事情を通じて裁判所が手を差し伸べる図 図:除外事由に当たった被告人にも90条の考慮事情を通じて裁判所が手を差し伸べる図

条文刑事訴訟法第90条

刑事訴訟法第90条 裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。

89条の除外事由に当たって権利保釈が使えない場合でも、これで終わりではありません。裁判所は、逃亡や罪証隠滅のおそれの程度に加えて、拘束が続くことで被告人が受ける健康上・経済上・社会生活上・防御準備上の不利益の程度、その他の事情を考慮して、適当と認めれば、職権で保釈を許すことができます。ここが裁量保釈です。職権保釈とも呼ばれます。さっき出てきた「逃亡のおそれ」は、ここで初めて条文上の考慮要素として登場します。除外事由に当たった被告人にも、裁判所がこの物差しで判断して、手を差し伸べる余地がある段階だとイメージしてください。さっきのCさんで言えば、口止めの電話で4号に当たっても、それで終わりではありません。たとえば、持病の治療を続けなければならない、一人で親の介護を担っている、といった事情があれば、口止めのおそれがどの程度かと、拘束が続く不利益とを比べたうえで、裁判所が職権で保釈を許すことがあり得ます。

義務的保釈——拘禁が不当に長引いたときの義務

権利保釈除外事由裁量保釈義務的保釈を一本の階段として重ねる保釈の全体構造板 図:権利保釈除外事由裁量保釈義務的保釈を一本の階段として重ねる保釈の全体構造板

条文刑事訴訟法第91条第1項

刑事訴訟法第91条第1項 勾留による拘禁が不当に長くなつたときは、裁判所は、第八十八条に規定する者の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消し、又は保釈を許さなければならない。

裁量保釈が「出してもよい」だったのに対して、91条は「出さなければならない」です。勾留による拘禁が不当に長くなったときは、裁判所は、請求または職権で、勾留を取り消すか、保釈を許すか、どちらかをしなければなりません。有罪と決まっていない人を、裁判が長引いたからといっていつまでも閉じ込めておけば、刑罰を先に科しているのと変わらなくなるからです。このうち保釈を許すほうが義務的保釈です。一本の階段として整理できます。1段目、原則として誰でも上がれる階段が権利保釈です。ただし6枚の踏み板があって、踏むと上がれなくなります。それでも、裁判所が事情を見て手を差し伸べれば上がれるのが裁量保釈です。そして、長く足止めされ過ぎた人には、裁判所が手を差し伸べる義務がある、それが義務的保釈です。原則、例外、例外への手当て、そのさらに手当て、という一本の流れで押さえてください。冒頭の問いに戻ると、保証金を払えば必ず出られるわけではなく、この階段のどこで止まるかで決まります。そして、出られたとしても、勾留そのものは続いています。

保釈における余罪の考慮

起訴されていない余罪を理由に不許可にはできないが一資料としてなら考慮できるという線引きの板

もう一つ、細かい実務の論点があります。起訴されていない余罪そのものを、勾留の理由と同じように扱って保釈を拒むことは許されません。それをすると、起訴もしていない事件について実質的に別件で勾留しているのと同じことになってしまうからです。余罪がまったく考慮されないわけではありません。余罪を、89条4号の罪証隠滅のおそれを推測するための一つの資料として考慮することは許されます。裁量保釈のほうでも、諸般の事情の一つとして余罪を考慮することが認められています。理由そのものにはできないけれど、判断材料の一つにはなる、という線引きです。この当てはめの細かさは、論文で問われる典型論点でもあります。

Cさんに、起訴されていない別の暴行の疑いもあったとします。その暴行を罰するために閉じ込めておく、という理由で保釈を拒むことはできません。でも、その別の件でも目撃者に口止めをしていた形跡があれば、今回の傷害でも証拠を隠しそうだと推し量る材料にはなります。余罪は拒む理由ではなく、4号を判断する材料として使う、ということです。

保釈の手続——請求から釈放まで

請求検察官の意見聴取保証金額の決定納付執行という保釈手続の時系列フロー 図:請求検察官の意見聴取保証金額の決定納付執行という保釈手続の時系列フロー

保釈が許されるまでの手続を、時系列で見ていきます。まず請求権者です。

条文刑事訴訟法第88条第1項

刑事訴訟法第88条第1項 勾留されている被告人又はその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹は、保釈の請求をすることができる。

被告人本人のほか、弁護人・法定代理人・保佐人・配偶者・直系親族・兄弟姉妹が請求できます。弁護人などは、被告人本人の意思に反してでも、独立して請求できます。請求を受けた裁判所は、許可・却下のどちらの決定をするときも、必ず検察官の意見を聴きます。

条文刑事訴訟法第92条第1項

刑事訴訟法第92条第1項 裁判所は、保釈を許す決定又は保釈の請求を却下する決定をするには、検察官の意見を聴かなければならない。

どちらの結論であっても、必ず聴かなければなりません。保釈を許す決定をする場合には、保証金の額を必ず定めます。

条文刑事訴訟法第93条第1項

刑事訴訟法第93条第1項 保釈を許す場合には、保証金額を定めなければならない。

条文刑事訴訟法第93条第2項

刑事訴訟法第93条第2項 保証金額は、犯罪の性質及び情状、証拠の証明力並びに被告人の性格及び資産を考慮して、被告人の出頭を保証するに足りる相当な金額でなければならない。

条文刑事訴訟法第93条第3項

刑事訴訟法第93条第3項 保釈を許す場合には、被告人の住居を制限し、その他適当と認める条件を付することができる。

保証金額は、犯罪の性質や情状、証拠の証明力、被告人の性格や資産を考慮して、出頭を保証するに足りる金額でなければなりません。金額に加えて、住居の制限などの条件を付けることもできます。そして、決定が出ても、すぐに釈放されるわけではありません。

条文刑事訴訟法第94条第1項

刑事訴訟法第94条第1項 保釈を許す決定は、保証金の納付があつた後でなければ、これを執行することができない。

保証金を実際に納付したあとでなければ、決定を執行できません。つまり、お金を用意して初めて、陸に上がる許可が実行されるということです。

保釈の取消しと没取・失効との対比

96条の裁判所の判断を要する取消しと343条の判決宣告で当然に生じる失効を対比する板

保釈が始まったあと、それが終わる場面が2つあります。1つは取消しです。

条文刑事訴訟法第96条第1項

刑事訴訟法第96条第1項 裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、検察官の請求により、又は職権で、決定で、保釈又は勾留の執行停止を取り消すことができる。一 被告人が、召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき。二 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。三 被告人が罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。四 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき。五 被告人が、正当な理由がなく前条第一項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をしたとき。六 被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき。

条文刑事訴訟法第96条第2項

刑事訴訟法第96条第2項 前項の規定により保釈を取り消す場合には、裁判所は、決定で、保証金の全部又は一部を没取することができる。

召喚を受けて正当な理由なく出頭しない、逃亡またはそのおそれ、罪証隠滅またはそのおそれ、加害・畏怖行為、条件違反などがあると、検察官の請求または職権で、裁判所が決定で保釈を取り消せます。前の章で見た87条の取消しは勾留そのものを終わらせましたが、ここで消えるのは保釈だけで、勾留は残ります。取り消す場合には、保証金の全部または一部を没取、つまり取り上げて国のものにすることもできます。約束を破れば、重しは取り上げられ、また船に戻される、というさっきの話がここに当たります。判決の宣告があれば、裁判所の判断を挟まず、保釈が当然に切れる場面もあります。それが失効です。

条文刑事訴訟法第343条第1項

刑事訴訟法第343条第1項 拘禁刑以上の刑に処する判決の宣告があつたときは、保釈又は勾留の執行停止は、その効力を失う。

拘禁刑以上の実刑判決の宣告があったときは、保釈は当然に効力を失います。取消しとの違いは、ここです。取消しは、裁判所が事由の有無を判断して、決定という形で行う処分です。失効は、判決の宣告という事実さえあれば、裁判所の判断を挟まず当然に生じます。さらに343条は、89条の権利保釈の適用そのものも排除します。実刑判決が出たあとは、権利として保釈を求めることはできなくなるということです。

令和5年改正の逃亡防止措置——保証金だけでは防げなかった逃亡

監督者制度報告命令不出頭罪位置測定端末を施行済みと未施行に分けて示す板 図:監督者制度報告命令不出頭罪位置測定端末を施行済みと未施行に分けて示す板

最後に、比較的新しい改正の話です。保証金を積んでいても、実際に逃げられてしまう保釈中の逃亡事案が相次いだことを受けて、令和5年に法律が改正されました。改正で導入された仕組みをいくつか見ます。1つ目は監督者制度です。

条文刑事訴訟法第98条の4第1項

刑事訴訟法第98条の4第1項 裁判所は、保釈を許し、又は勾留の執行停止をする場合において、必要と認めるときは、適当と認める者を、その同意を得て監督者として選任することができる。

条文刑事訴訟法第98条の4第3項

刑事訴訟法第98条の4第3項 監督者は、被告人の逃亡を防止し、及び公判期日への出頭を確保するために必要な監督をするものとする。

裁判所は、保釈や勾留執行停止をする際に、必要と認めれば、適当な人をその同意を得て監督者として選任できます。監督者は、被告人が逃げないよう、そして公判期日にきちんと出頭できるよう、必要な監督をします。2つ目は、生活状況の報告義務です。裁判所は、保釈中や勾留執行停止中の被告人に、住居や仕事、通学の状況など、逃亡の判断に関わる生活上の事項を報告するよう命じることができます。正当な理由なく報告しない、または虚偽の報告をすると、保釈の取消し事由になります。続いて、3つ目は出頭命令です。保釈や勾留執行停止が取り消されたのに、まだ刑事施設に収容されていない被告人に対して、検察官が出頭すべき日時・場所を指定して命じることができ、正当な理由なく応じないと2年以下の拘禁刑に処せられます。4つ目は、不出頭そのものを罰する規定です。

条文刑事訴訟法第278条の2

刑事訴訟法第278条の2 保釈又は勾留の執行停止をされた被告人が、召喚を受け正当な理由がなく公判期日に出頭しないときは、二年以下の拘禁刑に処する。

保釈や勾留執行停止をされている被告人が、召喚を受けたのに正当な理由なく公判期日に出頭しないと、2年以下の拘禁刑に処せられます。ここまでは、すでに施行されています。もう一つ、位置測定端末、いわゆるGPSによる位置情報の取得も改正に盛り込まれています。ただし、これは新しい機器やシステムの整備が必要なため、他の制度より遅れていて、今の時点ではまだ施行されていません。

今日の地図(保存版)

バトンが渡る被告人勾留と重しを預けて陸に上がる保釈という今日の道筋を一本にまとめる板

今日のまとめです。被告人勾留は、被疑者勾留と同じ目的・要件を持つ同じ勾留のバトンが、起訴を境に、検察官の請求で動く段階から、裁判所が自分の判断で動かす段階へと渡るものでした。期間は2か月プラス更新、判断主体は裁判所です。保釈は、その勾留をやめる制度ではなく、保証金という重しを預けて一時的に陸に上がる制度で、権利保釈を原則に、除外事由という例外、それに手を差し伸べる裁量保釈、さらに義務としての義務的保釈という一本の階段になっていました。取消しは裁判所の判断を要する処分、失効は実刑判決の宣告だけで当然に生じる、という違いも押さえておいてください。

逃亡のおそれは89条の6つに入らず、90条の裁量保釈の考慮要素で初めて出てきます。引っかけとしてよく出るので、忘れないでください。

参照条文

  • 刑事訴訟法第60条第1項
  • 刑事訴訟法第60条第2項
  • 刑事訴訟法第280条
  • 刑事訴訟法第89条
  • 刑事訴訟法第90条
  • 刑事訴訟法第91条第1項
  • 刑事訴訟法第88条第1項
  • 刑事訴訟法第92条第1項
  • 刑事訴訟法第93条第1項
  • 刑事訴訟法第93条第2項
  • 刑事訴訟法第93条第3項
  • 刑事訴訟法第94条第1項
  • 刑事訴訟法第96条第1項
  • 刑事訴訟法第96条第2項
  • 刑事訴訟法第343条第1項
  • 刑事訴訟法第98条の4第1項
  • 刑事訴訟法第98条の4第3項
  • 刑事訴訟法第278条の2

刑事訴訟法 全体ロードマップへ →

刑事訴訟法 の復習ノートを1ページで通して読む →