刑事訴訟法 ゼロから刑事訴訟法#29

伝聞③ 特信文書・伝聞供述・同意・弾劾・再伝聞

伝聞例外の残りを一枚の地図にまとめ伝聞法則を完結させる回。324条(伝聞供述)・323条(特信文書)・326条(同意)・327条(合意書面)・328条(弾劾証拠)・再伝聞・写真・録音までを体系的に整理する。

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第4章 公判・証拠法 ⑥/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

1. 残りの例外を一枚の地図に 〔短答・論文共通〕

前回の2軸(必要性+信用性の情況的保障)が「端まで振れた先」に、残りの例外が並んでいます。信用性の担保が極端に強ければ特信文書(323条)、反対尋問権を本人が手放せば同意(326条)、中身の真実性を問題にしないなら弾劾(328条)と整理できます。バラバラな暗記ではなく、前回の軸の延長線上にすべてあります。

伝聞法則の2軸と残りの例外の全体像 図:前回の2軸(必要性・信用性の情況的保障)が端まで振れた先に残りの例外が並ぶ

320条の「321条から328条を除いては」という範囲に注意してください。323条も324条も328条も、すべてこの「321から328」の中に含まれます。「324まで」と縮めないようにしましょう。

【条文】刑事訴訟法320条(伝聞証拠禁止の原則) 第三百二十条 公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることは、第321条から第328条までに規定する場合を除いては、これをすることができない。

伝聞法則全体の地図(保存版) 図:320条から328条の全体像を一枚で俯瞰する地図

2. また聞き証言は「準用」でスライド 〔短答・論文共通〕

324条は、証人が法廷で他人の言葉を引用する「また聞き証言」を規律します。紙の調書ではなく口頭ですが、中身は書面と同じ伝聞です。そのため処理はシンプルで、書面の例外ルールをそのまま流用(準用)します。

準用先を選ぶ基準は一つだけです。引用された「元の発言者が誰か」によって決まります。

  • 被告人の供述を内容とするもの → 324条1項で322条を準用(「俺がやった」の型。任意性があれば証拠)
  • 被告人以外の供述を内容とするもの → 324条2項で321条1項3号を準用(「Vがあいつだと言っていた」の型。最も厳しい3号の要件=不能+不可欠+絶対的特信)

324条(伝聞供述)の条文カード 図:324条全文カード。準用先は「誰の発言か」で決まる

324条の取り違え注意点 図:被告人の言葉か・そうでないかで準用先が変わる。取り違え注意のまとめ

3号が厳しい理由は、被害者本人を呼べばよいからです。呼べる状況がある限り証拠にできません。なお、被告人本人が法廷で他人の言葉を引用する場合は明文規定がなく、学説上の議論があります。防御権から柔軟に解する説などがありますが、試験では「明文なし」と押さえれば十分です。

324条の図解(板書) 図:「誰の発言か」で準用先が変わる324条の構造

3. 戸籍・カルテは無条件に近い——特信文書 〔短答・論文共通〕

323条は「特に信用すべき情況で作られる書面」を類型的に定め、作成者の出頭も要件も事実上不要で証拠にできます。前回の2軸で言えば、信用性の担保が極端に強いからです。

戸籍やカルテは毎日機械的に淡々と作られます。嘘を仕込む余地がほぼなく、後から都合よく書き換えられるものでもありません。裁判のために後から作る文書とは逆で、日常の機械的な記録ほど類型的に信用性が高いと言えます。

323条の条文カード 図:323条全文カード。3つの類型それぞれの要件

3つの類型は以下のとおりです。

類型具体例
1号公務員が職務上作成した書面戸籍謄本・登記事項証明書
2号業務の通常の過程で作成した書面カルテ・レジ記録
3号前2号に準じ特に信用すべき情況の書面受け皿条項

323条の3類型(板書) 図:公務文書・業務文書・その他の3類型の整理

323条の3類型まとめ図 図:3類型の共通点(機械的・日常的な記録)が「無条件に近い」根拠

4. 当事者が同意すれば要件いらず——326条 〔短答・論文共通〕

326条は実務で最もよく使われる規定です。検察官と被告人が同意した書面は、321条以下の厳しい要件を満たさなくても証拠にできます。

伝聞法則は反対尋問権を守るルールですが、その権利の持ち主自身が「反対尋問しなくていい」と認めるなら、禁止する理由がなくなります。これが同意の論理的根拠です。

【条文】刑事訴訟法326条(同意による証拠) 第三百二十六条 検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述は、その書面が作成され又は供述のされたときの情況を考慮し相当と認めるときに限り、第321条乃至第324条の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。 ② 被告人が出頭しないでも審理することができる場合において、被告人が出頭しないときは、前項の同意があつたものとみなす。ただし、代理人又は弁護人が出頭したときは、この限りでない。

326条の条文カード 図:326条全文カード。「相当と認めるときに限り」と裁判所の相当性チェックが残る点に注意

覚えるポイント — 326条の2つの注意点

  • 同意さえあれば常に証拠になるわけではなく、裁判所の相当性チェックが残る(326条1項「相当と認めるときに限り」)
  • 2項の擬制同意(みなし同意)は、被告人が出頭せず弁護人も出頭しない場合のみ

同意の法的性質については学説の対立があります。

学説内容帰結
通説(反対尋問権放棄説)同意=反対尋問権そのものの放棄原則として後から証人を呼べない
実務・有力説(訴訟行為説)同意は訴訟行為にすぎず反対尋問権は放棄していない後から証人尋問が可能・同意後も信用性を争える

326条の板書(図解) 図:同意による証拠と相当性チェックの仕組み

326条の法的性質(板書) 図:同意の法的性質(放棄説vs訴訟行為説)と帰結の比較

5. 合意書面は「予約録音」——327条 〔短答知識〕

326条と名前が似た制度として327条(合意書面)があります。両者は異なります。

  • 326条:すでにある調書に対して「証拠にしてよい」と同意する
  • 327条:まだない証言を双方の合意で書面にまとめる(呼べばこう証言するはず、という内容を事前に書面化して証人尋問を省略する)

【条文】刑事訴訟法327条(合意書面) 第三百二十七条 検察官及び被告人又は弁護人が合意の上、ある事実の供述として書面を作成し又は供述録取書に署名押印したときは、裁判所は、その書面又は録取書を証拠とすることができる。ただし、証明力を争うことを妨げない。

327条の条文カード 図:327条全文カード。主語は「裁判所は」、末尾「証明力を争うことを妨げない」の2点が重要

覚えるポイント — 327条の2つの落とし穴

  • 主語は「裁判所は」(検察官や被告人ではない)
  • 証明力を争うことを妨げない」——中身を争う道は残っている

327条の板書(図解) 図:326条と327条の違い(既存への同意 vs 新規書面の合意作成)

6. 弾劾証拠は「そもそも非伝聞」——328条 〔論文の骨格〕

弾劾証拠(328条)は、321条から327条とは目的が根本的に異なります。これまでの例外は犯罪事実を証明するためのものでしたが、328条は中身の真実性を問題にしません。

弾劾証拠は「この証人は以前に逆のことを言っていた。だから今の証言は信用できない」という使い方をします。発言の中身が本当かはどうでもよく、「そういう発言があった」という事実だけを使います。

中身の真実性を問題にしないということは、そもそも伝聞ではありません。328条は、自己矛盾供述による信用性の減殺(証明力を争うこと)がそもそも非伝聞であることを注意的に確認した規定です。新しい例外を作ったわけではありません。

【条文】刑事訴訟法328条(弾劾証拠) 第三百二十八条 第321条乃至第324条の規定により証拠とすることができない書面又は供述であつても、公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述の証明力を争うためには、これを証拠とすることができる。

328条の条文カード 図:328条全文カード。「証明力を争うため」が核心

328条の説明(板書) 図:328条が「そもそも非伝聞」である理由の説明

328条の証明力の図解 図:証拠能力(証拠として使えるか)と証明力(どれだけ信用できるか)の区別

7. 弾劾の3類型——増強はダメ 〔論文の骨格〕

「争う」に当たるかどうかで3類型に分かれます。

類型内容328条で可否
減殺証拠証明力を弱める(前と真逆の供述)○ 可
回復証拠一度弱められた信用を元に戻す○ 可
増強証拠最初から証明力を強める(前も同じだから間違いなく本当)✕ 不可

増強証拠がダメな理由は2つです。第一に、328条は「争う」ための条文であり、「争う」はマイナスにすることを意味します。プラスに補強することは含まれません。第二に、増強を許すと「前も赤だから本当に赤」という形で実質的に事実の証拠になり、伝聞法則の抜け道になります。増強したい場合は321条等の正規ルートを使う必要があります。

328条の3類型まとめ(表) 図:減殺・回復・増強の3類型と可否の一覧表

328条の3類型まとめ(板書) 図:3類型のうち増強だけが不可である理由

8. 弾劾できるのは「自分の前言」だけ 〔論文の骨格〕

弾劾証拠の許容範囲についての重要な論点があります。

事例: 証人Xが法廷で「Aが刺した」と証言。これを崩したい弁護側が、別人Yの調書「犯人はBだ」を弾劾証拠として使おうとする。

Yの調書を使うには、Yの「Bだ」が本当だと信じる必要があります。結局、Yの話の中身が本当かどうかが問題になる——つまり実質証拠です。これでは「非伝聞」という前提が崩れます。使えるのはX自身の自己矛盾供述だけです。これを限定説といいます。

判例(最判平18・11・7・第三小法廷) は、許される証拠は「矛盾する供述をした、その者自身のもの」、つまり自己矛盾供述に限ると判示し、限定説を採用しています。

同判例はさらに2点を追加しています。

  • 署名押印が必要:供述録取書には供述者の署名・押印を要する(録取の段階で警察官の聞き間違い・書き間違いの危険が残るため)
  • 後の供述でも弾劾可:321条2号には「前の供述」という限定があるが、328条にはない。そのため証人尋問の後に作った調書でも弾劾に使える

弾劾証拠の限定説(板書) 図:限定説(自己矛盾供述に限る)の根拠と他人の供述では弾劾できない理由

弾劾証拠・後の供述の可否(板書) 図:「後の供述」でも弾劾に使えることの条文上の根拠(328条に「前の」という限定がない)

最判平18・11・7の事案(図解) 図:最判平18・11・7(限定説)の事案・論点・判旨の整理

📝 論文の型|弾劾証拠の許容範囲(328条) 〔論文〕

弾劾証拠の論文パターン(図解) 図:弾劾証拠の論文答案パターン(事案→問題提起→規範→あてはめ)

弾劾証拠の論文規範(図解) 図:弾劾証拠328条の論文規範カード(コア規範・復元キー)

  • 【コア規範】(逐語暗記は太字だけ)公判廷外の供述でも証明力を争うためであれば328条により証拠とできる。328条は、自己矛盾供述による信用性の減殺(証明力を争うこと)がそもそも非伝聞であることを注意的に示した規定である。よって①許容されるのは信用性を争う者の自己矛盾供述に限られ(限定説)、他人の供述で弾劾できない。②証明力を増強する証拠は「争う」に当たらず、実質証拠化(伝聞潜脱)として許されない。③供述録取書には供述者の署名・押印を要する(最判平18・11・7)。
  • 【復元キー】①原則=公判外供述も証明力を争うためなら可(328条)→②性質=自己矛盾供述による減殺はそもそも非伝聞(注意規定)→③限定説=自己矛盾供述に限る(他人の供述で弾劾不可)→④増強は不可=「争う」に当たらず実質証拠化(伝聞潜脱)→⑤供述録取書は署名・押印を要する(平18・11・7)。
  • 【フル論証】公判廷外の供述(書面・供述)であっても、証明力を争うためであれば328条により証拠とすることができる。もっとも、328条は、自己矛盾供述の存在によって供述の信用性を減殺すること(証明力を争うこと)がそもそも非伝聞であることを注意的に明らかにした規定である。したがって、①許容されるのは、信用性を争う供述をした者の自己矛盾供述に限られ(限定説)、他人の供述で弾劾することはできない。②証明力を増強する証拠は「争う」に当たらず、実質証拠化(伝聞の潜脱)となるため許されない。③供述録取書を用いる場合は、供述者の署名・押印を要する(最判平18・11・7参照)。
  • 【事例】証人Xは公判で「Aが被害者を刺した」と証言したが、捜査段階の員面調書では「Bが刺した」と供述していた。弁護人はXの証言の信用性を争うためX自身の員面調書を、併せて第三者Yの「Bが刺した」旨の調書も証拠請求した。
  • 【問題提起】Xの員面調書、及びYの調書を、328条の弾劾証拠として用いることができるか(許容される証拠の範囲)。
  • 【あてはめ】Xの員面調書は公判証言「Aが刺した」と矛盾するX自身の供述(自己矛盾供述)であり、その存在によって公判証言の信用性を減殺するから328条で証拠とできる(ただしX本人の署名・押印を要する)。他方、Yの調書はYの「Bが刺した」が真実であることを前提にしてはじめてXの証言を弾劾でき、内容の真実性が問題となる実質証拠であってX自身の自己矛盾供述ではないから、328条では用いることができない(用いるには321条1項3号の要件を満たす必要がある)。

9. 伝聞の中の伝聞——再伝聞 〔短答・論文共通〕

再伝聞(二重の伝聞)とは、伝聞の中にさらに伝聞が入る構造です。入れ子になっていますが、考え方はシンプルです。各段の伝聞をそれぞれクリアすれば全体OK、一段でも欠ければ全体アウトです(鎖の理論)。

事例での当てはめ:

被告人Aが「俺が刺した」と発言。それを聞いた参考人Xが検察官に話し、検察官がXの検面調書を作った。

  • 外側(Xの検面調書)→ 321条1項2号(検面の要件)
  • 内側(調書の中のAの自白)→ 324条1項から322条を準用

両方を満たして初めて証拠になります。どちらか欠ければ全体が使えません。

再伝聞の図解(板書) 図:再伝聞(入れ子構造)の鎖の理論

再伝聞の当てはめ(板書) 図:外側(検面調書)と内側(Aの自白)それぞれの要件のあてはめ

10. 写真・録音も「非供述か供述か」 〔短答知識〕

写真や録音も、立証する目的によって伝聞か非伝聞かが決まります。

写真・録音の振り分け表 図:写真・録音の非供述/供述の振り分けと適用条文の一覧

種類性質伝聞法則の適用適用条文
現場写真・現場録音(防犯カメラ映像、銃声の録音)機械的記録=非供述証拠適用なし
犯行再現写真(被疑者が演じて撮影)言葉の代わりに体で示した供述=供述証拠適用あり321条3項+322条1項
取調べ中の自白を録った供述録音供述証拠適用あり被告人以外→321条、被告人→322条

覚えるポイント — 犯行再現写真の署名押印は不要:写真自体は機械的な記録なので正確性が担保されているため、写真への署名押印は不要とされています。

なお、性犯罪被害者を保護するビデオリンク方式の調書は321条の2の特則があります。

短答ひっかけ

  • 320条の例外の範囲は「321条から328条」——「324条まで」と縮めないこと。323条・324条・328条はすべて328条以内に含まれる
  • 324条の準用先は「誰の発言か」で決まる——被告人の言葉なら1項・322条、被告人以外なら2項・321条1項3号
  • 326条の同意があっても裁判所の相当性チェックが残る——「同意さえあれば常に証拠になる」は誤り
  • 326条と327条の違い——326条は既存の調書への同意、327条は新規書面の合意作成
  • 328条は新しい伝聞例外ではなくそもそも非伝聞であることの注意的確認
  • 328条の弾劾に使えるのは自己矛盾供述に限る(限定説・最判平18・11・7)——他人の供述で弾劾することはできない
  • 328条の弾劾で「増強」証拠はダメ——減殺・回復はOK、増強だけ不可
  • 供述録取書を弾劾証拠に使う場合は供述者の署名・押印が必要(最判平18・11・7)
  • 328条には321条2号のような「前の」という限定がないため後の供述でも弾劾可
  • 犯行再現写真は供述証拠(体で説明した供述)——写真自体への署名押印は不要

📝 論文の型

弾劾証拠(328条)の許容範囲については第8節参照。論点は「①自己矛盾供述への限定(限定説)②増強証拠の不可③供述録取書の署名押印要件」の3点を柱とします。

今日の地図(保存版)

  • 全体構造:伝聞法則(320条)の例外は321〜328条。前回の2軸(必要性+信用性の情況的保障)が「端まで振れた先」に今回の例外が並ぶ
  • 324条(伝聞供述):また聞き証言は書面の例外ルールを準用。準用先は「誰の発言か」で決まる(被告人→322条、被告人以外→321条1項3号)
  • 323条(特信文書):戸籍・カルテなど日常の機械的記録は類型的に信用性が高いため、作成者の出頭なしに証拠にできる(1号公務文書、2号業務文書、3号その他)
  • 326条(同意):当事者が同意した書面は321条以下の要件なしに証拠になる。ただし裁判所の相当性チェックが残る。2項の擬制同意(被告人不出頭かつ弁護人不出頭のとき)に注意
  • 327条(合意書面):双方合意で証言内容を書面化し証人尋問を省略する制度。主語は「裁判所は」、「証明力を争うことを妨げない」の2点が重要
  • 328条(弾劾証拠):証明力を争うための道具。中身の真実性を問題にしない=そもそも非伝聞(注意規定)。限定説(自己矛盾供述に限る・最判平18・11・7)、増強はダメ、供述録取書には署名押印要
  • 再伝聞:入れ子を一段ずつ、各要件をクリアすれば全体OK(鎖の理論)
  • 写真・録音:機械的記録(現場写真・現場録音)は非伝聞、犯行再現写真・供述録音は供述証拠

今回の地図まとめ(保存版) 図:今回の全体地図。伝聞法則はこの回で完結

次回は #30「自白法則(319条1項・任意性)」。自白は証拠の劇薬——なぜ任意でない自白は証拠にできないのか、任意性の争い方と具体的な判例を整理します。

参照条文

  • 刑事訴訟法320条(伝聞証拠禁止の原則)
  • 刑事訴訟法326条(同意による証拠)
  • 刑事訴訟法327条(合意書面)
  • 刑事訴訟法328条(弾劾証拠)

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