刑事訴訟法 ゼロから刑事訴訟法#28

伝聞例外の総論と供述書面(321・322)

伝聞例外の総論と供述書面(321条・322条)を扱う回。土台=必要性と信用性の情況的保障の2軸、321条1項の逆ピラミッド(1号裁判官〜3号警察官)、322条の自白・弁解の扱いを押さえる。

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第4章 公判・証拠法 ⑤/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

1. 例外は2段構えの「2段目」 〔短答・論文共通〕

前回の地図を思い出しましょう。言葉の証拠が出たら、まず「内容の真実性を問題にしない使い方」かを問います。そうであれば非伝聞として、そのまま証拠にできます。しかし伝聞でも、それで終わりではありません。

2段構えの思考フロー(非伝聞→伝聞例外の順で検討) 図:非伝聞でも伝聞例外でも救えない証拠だけが排除される、2段構えの検討順序。

320条1項を見てください。「321条から328条を除いては」とあります。そこが2段構えの、2段目です。非伝聞でダメでも、例外で救えるかを検討します。

【条文】刑事訴訟法320条1項(伝聞法則) 第321条乃至第328条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。

2. 例外が許される理由——2つの鍵 〔短答・論文共通〕

なぜ、原則ダメなものを例外的にOKにできるのか。伝聞がダメな理由は、反対尋問でチェックできないからでした。その裏返しとして、チェックできなくても許せる事情が2つあります。

例外を許す2つの根拠(必要性+信用性の情況的保障) 図:例外が認められる根拠は「必要性」と「信用性の情況的保障」の2軸。

  • 必要性:その供述を使わないと真相が分からない、つまりもう反対尋問のために呼べないなどの事情。
  • 信用性の情況的保障:反対尋問の代わりになる信用の担保。嘘が入りにくい特別な状況や経緯のこと。

この2つが揃えば、例外として救います。合鍵が2本なければ扉が開かない、という感覚です。

3. 供述書面は「誰の言葉か」で分ける 〔短答知識〕

書面の例外に入ります。最初の分かれ道は誰が述べたことかです。

書面を「被告人以外」か「被告人本人」かで分岐する図 図:被告人以外の者の供述書面→321条、被告人本人の供述書面→322条。

  • 被告人以外の人の言葉 → 321条
  • 被告人本人の言葉 → 322条

なお、書面には2種類あります。本人が自分で書いた供述書と、本人以外が聞き取った供述録取書(調書)です。調書には本人の署名押印が必要です。聞き取った人が勝手に書いたかもしれない、という二重のまた聞きを防ぐためです。

4. 321条1項1号——裁判官の前なら要件は最も緩い 〔短答・論文共通〕

321条1項は、信用の強さで3段階になっています。まず1号。裁判官の前で述べた調書(裁面調書)です。公判が始まる前などに作られます。

321条1項1号の条文カード 図:321条1項1号の条文。裁判官の前でした供述の書面。

作ったのが中立な裁判官であるため、無理な誘導の恐れがなく信用が最も強いです。弁護人が立ち会い質問の機会もある。だから要件は最も緩い。

要件は2つのいずれかです。

  • 供述不能:死亡、所在不明など。
  • 前の供述と異なった供述:法廷で話が変われば前の調書を出せる。

ここがポイントです。特信性は要りません。不一致だけで、即使えます。

5. 321条1項2号——検察官の前ならもう一押し要る 〔短答・論文共通〕

次は2号。検察官の前の調書(検面調書)です。法律家ですが捜査側の当事者でもあるため、信用は裁判官と警察官の中間です。

321条1項2号の条文カード 図:321条1項2号の条文。「相反するか若しくは実質的に異なった供述」と「特別の情況」が要件。

まず、供述不能なら使えます(1号と同じ)。問題は法廷で話が変わったときです。

条文上は「前の供述と相反するか若しくは実質的に異なった供述」とあります。正反対だけでなく、結論がずれる程度の食い違いも含みます。

そして1号との違いとして、不一致のときはもう一つ条件が要ります。それが相対的特信情況です。前の調書の方が今の証言より信用できる、という特別な事情です。「相対的」とは、2つを見比べた上での評価という意味です。

6. なぜ「供述不能」では特信性が要らないのか 〔論文の骨格〕

よく問われる論点です。検面調書には供述不能と不一致の2つの場合があります。では供述不能のとき、特信性は要るでしょうか。

判例は要らないとします。理由は2つです。

  • 条文の構造:不一致の後ろにだけ特信性の文言があります。供述不能の方には書いていません。反対解釈です。
  • 比較の相手がない:相対的特信は今の証言と比べる話でした。比べる相手の法廷証言がなければ、そもそも比較できません。

7. 321条1項3号——警察官の前は要件が最も厳しい 〔短答・論文共通〕

最後は3号。警察官の前の調書(員面調書)です。取調べには誘導や圧力の恐れがあるため、信用の担保が一番弱い。だから要件も最も厳しくなります。

321条1項3号の条文カード 図:321条1項3号の条文。3つ全部が必要。

3つ全部が必要です。

  • 供述不能:本人がもう呼べない。
  • 不可欠:その証拠なしには裁けない。
  • 絶対的特信情況:比べる相手なし。その書面単体で、嘘の入りようがない状況だったといえること。

2号は2枚を見比べる(相対的)、3号は1枚だけで信用できると示す(絶対的)という違いがあります。

そして3号の決定的な特徴:不一致だけでは絶対に救えません。本人が法廷に来て話せるなら、たとえ証言を覆しても員面調書は入らない。ここが最重要の試験ポイントです。

8. 3段階を1枚に——逆ピラミッド 〔短答・論文共通〕

3段階を1枚の表でまとめます。上から、裁判官・検察官・警察官。逆ピラミッドです。

3段階の要件比較表(裁判官・検察官・警察官) 図:321条1項の3段階。信用の担保が弱いほど必要性を高く要求する逆ピラミッド。

担保が弱い書面ほど必要性を高く要求します。裁判官は要件が1つ、検察官はもう一つ特信性を足す、警察官は3つ全部揃えないと開かない、という仕組みです。軸さえ分かれば要件は自分で導けます。

9. 「供述不能」って死亡だけ? 〔短答知識〕

供述不能の共通要件を深めます。条文の事由は「死亡・精神若しくは身体の故障・所在不明・国外にいるとき」です。

供述不能の範囲(例示列挙) 図:供述不能の事由は例示列挙と解する(記憶喪失・証言拒否なども準ずる場合がある)。

条文には書いていませんが、通説・判例はこれらを例示と読み、死亡と同じくらい証言が取れない場合も含めます。供述不能は必要性を測る物差しだからです。ただし安易には認めません。記憶が曖昧なら思い出させる、拒否なら付き添い・ついたて・期日変更を試す、手を尽くしてなお無理なときだけ認めます。

10. 検察が証人を追い出したら?——供述不能の作出 〔短答・論文共通〕

供述不能に関する重要な判例があります。

供述不能を作出した事案(強制送還と最判平7・6・20) 図:最三小判平7・6・20。検察側の強制送還による供述不能の作出に関する判断。

外国人が捜査で検面調書を取られた後、強制送還されて国外に帰された。検察は「国外にいるから供述不能だ、検面調書を使わせろ」と請求しましたが、最高裁は次のように制限しました。

手続的正義の観点から公正さを欠くとき、その調書は証拠にできない、と。

反対尋問を封じる目的でわざと送還した場合、あるいは裁判所が証人尋問を決定していたのにそれを無視して送り返した場合は、フェアでない。だから例外で救わない、という判断です。

11. 被告人本人の調書は別ルート——322条 〔短答・論文共通〕

述べたのが被告人本人の場合は322条の別ルートになります。

322条の条文カード 図:322条1項の条文。被告人の供述書面の伝聞例外要件。

被告人の供述は内容で2つに分けます。

  • 自白(自分に不利益な事実の承認):要件は任意性だけ。自分からわざわざ嘘で不利を言う人はいない、という経験則から信用できるとされます。
  • 弁解(自分に有利な供述):自分を守る嘘の動機があるため、特信情況が必要です。

また、条文の但書に注意が必要です。「不利益な事実の承認」は自白でなくても、319条の自白法則に準じて任意性が要ります。

【条文】刑事訴訟法322条1項(被告人の供述書面) 被告人が作成した供述書又は被告人の供述を録取した書面で被告人の署名若しくは押印のあるものは、その供述が被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるとき、又は特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限り、これを証拠とすることができる。但し、被告人に不利益な事実の承認を内容とする書面は、その承認が自白でない場合においても、第319条の規定に準じ、任意にされたものでない疑があると認めるときは、これを証拠とすることができない。

12. 書面そのものが正確なら——321条3項 〔短答知識〕

これまでは供述の信用性で勝負しました。しかし書面そのものが正確な場合もあります。警察官が作る実況見分調書がその例です。

321条3項の条文カード 図:321条3項の条文。真正作成供述があれば証拠とできる。

事故現場の距離や位置を測って図にする記録は、記憶よりも書面が正確です。一年後に「だいたい三メートル」と言うより、その場で測ったメモの方が確実です。だから要件は供述不能などではなく、作った警察官が法廷に来て「これは私が作り、中身も現場の通りだ」と証言する(真正作成供述)ことで証拠になります。

なお、実況見分も条文上の検証調書に含まれます。鑑定書も同じ扱いで321条4項です。

📝 論文の型|検察官面前調書の証拠能力(321条1項2号) 〔論文〕

  • 【コア規範】(逐語暗記は太字だけ)検面調書(被告人以外の者の供述録取書)は伝聞証拠(320条1項)だが、321条1項2号の要件で伝聞例外となる。すなわち①供述者が死亡・所在不明・国外在住等のため供述することができないとき(供述不能)、または②公判で前の供述と相反するか実質的に異なった供述をし(不一致)、かつ前の供述を信用すべき特別の情況(相対的特信情況)が存するときに、証拠能力が認められる。
  • 【復元キー】①出発=検面調書は伝聞(320①)→321条1項2号で例外→②前段=供述不能(死亡・所在不明・国外在住等)→③後段=不一致(相反 or 実質的に異なる)+相対的特信情況→④特信情況=外部的事情から前の供述を信用すべき特別の情況。
  • 【フル論証】検察官面前調書(被告人以外の者の供述録取書)は、伝聞証拠(320条1項)にあたるが、321条1項2号の要件を満たせば、伝聞例外として証拠能力が認められる。すなわち、①供述者が死亡・所在不明・国外在住等のため供述することができないとき(供述不能)、または②供述者が公判で前の供述と相反するか若しくは実質的に異なった供述をし(不一致)、かつ、公判の供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況(相対的特信情況)が存するときに、これを証拠とすることができる。
  • 【事例】目撃者Wは検察官に「被告人が被害者を刺すのを見た」と供述し検面調書が作成されたが、公判ではWが「よく覚えていない、見ていないかもしれない」と供述を覆した。
  • 【問題提起】Wの検面調書を、被告人の有罪認定の証拠とすることができるか(321条1項2号後段)。
  • 【あてはめ】Wは公判廷で供述しているから供述不能(前段)ではない。もっとも検面では「刺すのを見た」と明言したのに公判で「見ていないかもしれない」とトーンダウンしており、結論を異にする=実質的に異なった供述(不一致)にあたる。そのうえで検面調書作成時の状況(記憶の新鮮な時期に具体的・詳細に供述した等の外部的事情)から前の供述を信用すべき特別の情況が認められれば、相対的特信情況を肯定でき、検面調書を証拠とできる。

今日の地図(保存版)

伝聞例外の要件一覧(全体地図) 図:伝聞例外の要件一覧。必要性と信用性の情況的保障の配合による整理。

  • 裁判所の記録は無条件(321条2項)。
  • 被告人の自白は任意性、弁解は特信情況(322条)。
  • 第三者の調書は321条1項の3段階:1号(裁判官)は供述不能か不一致、2号(検察官)はそれに相対的特信情況を加える、3号(警察官)は供述不能・不可欠・絶対的特信の3つ全部。
  • 実況見分や鑑定書は真正作成供述(321条3項・4項)。

全部が必要性と信用性の担保の配合です。

まとめと次回予告 〔まとめ〕

伝聞例外の鍵は必要性と信用性の情況的保障の2つです。その配合が321条以下の要件です。第三者の調書は逆ピラミッド。裁判官は緩く、警察官は最も厳しい。最重要は検面と員面の違いでした。被告人本人は322条の別ルート。自白は任意性、弁解は特信情況です。

さて、伝聞例外にはまだ続きがあります。また聞きの証言それ自体(伝聞供述)、戸籍やカルテなどの特信文書(323条)、さらに証言を弾劾する使い方(328条)。証人の信用を崩すための証拠です。伝聞、ラストです。

参照条文

  • 刑事訴訟法320条1項(伝聞法則)
  • 刑事訴訟法322条1項(被告人の供述書面)

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