憲法とは何か
問い:憲法は誰を縛り、なぜほかの法より強いのか。
骨組み
- 1名宛人(=その法が向けられ、縛る相手。):尊重擁護義務を負うのは天皇又は摂政・国務大臣・国会議員・裁判官その他の公務員。国民は挙がっていない → 憲法は主として国家権力を名宛人とする(国民の義務の規定もあるので「主として」)
- 2人権規範と授権規範(学説):人権規範(主に第3章)=目的/授権規範(第4章以下)=手段。権限を分けて授けるのは人権保障を確実にするため。明文は無い=解釈
- 3形式的意味(学説):「憲法」という名の成文の法典か。中身は見ない
- 4実質的意味(学説):固有の意味=統治の基本を定めた法(いかなる時代のいかなる国家にも)。近代的意味(=立憲的意味)=固有の意味のうち、権力を制限して人権保障を目的とするもの
- 5当てはめ:日本国憲法=全ての意味に当たる。イギリス=形式的意味はない、固有・近代的意味はある
- 6分類:日本国憲法=成文・硬性・民定(明治憲法=欽定)。改正の発議は各議院の総議員の3分の2以上()
- 7近代的意味の憲法の特質(学説):自由の基礎法=制限規範(表裏)→ だから最高法規
- 8最高法規性:形式的=/実質的=。形式的の根拠=実質的・硬性・授権規範。硬性の根拠も実質的
色の札は出どころ:条文 学説。条文番号は押すと条文が出ます。
1憲法の名宛人()条文学説
- :天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
- 列挙に国民は挙がっていない=意図的に国民を除いたと解される → 憲法の名宛人が国家権力であることの現れ。
- 対比:法律の多くは国民を名宛人として国民の自由を制限する。憲法は国家権力を名宛人として国家権力を制限する。
- ただし国民の義務の規定はある:前段(保護する子女に普通教育を受けさせる義務)・(勤労の義務)・(納税の義務)。国民に義務を課すには法律が要り、これらは法律で課しうる義務のうち特に重要なものを列挙したにとどまると解されている。
納税はが国民の義務と定める。ただし実際に税を払う義務の中身は法律(税法)が決める=国民に義務を課すには法律が要る。だからに国民が入っていないことと、国民の義務の規定があることは両立する。
- 「は、国民にも憲法尊重擁護義務を課している」
- 「の義務を負う者は公務員に限られ、天皇は含まれない」(天皇・摂政から列挙が始まる)
- 「日本国憲法は、国民に義務を課す規定を置いていない」(・・)
- 「子は、普通教育を受ける義務を負う」(義務を負うのは保護する側=子女に受けさせる義務)
2人権規範と授権規範学説
| 人権規範 | 授権規範 | |
|---|---|---|
| 何をする条文か | 個人の人権を保障する | 国家機関に権限を授ける |
| 置き場所 | 主に第3章 | 第4章以下 |
| 例 | (表現の自由) | (国会=唯一の立法機関)・(行政権は内閣)・(司法権は裁判所) |
| 関係 | 目的 | 手段(目的に奉仕する) |
- なぜ授権規範まで置くか:立法・行政・司法を国会・内閣・裁判所に分けて授け、互いに抑制させて暴走しにくくする(権力分立)→ 人権の保障を確実にするため。
- 目的と手段の関係は明文には無い。解釈であり、学説上ほぼ異論がない。
立法・行政・裁判の権限をすべて1つの機関が持てば、作った法律を自分で執行し、自分で裁くので、行き過ぎを止める者がいない。3つに分けて授けるのは、人権を守るための仕掛け。
- 「人権規範と授権規範の関係は、憲法の明文で定められている」
- 「授権規範が目的で、人権規範はその手段である」(逆)
3形式的意味の憲法学説
- 形式的意味の憲法=「憲法」という名でよばれる成文の法典。判定は①成文法か ②タイトルか、の形式面だけ。
- 人権が全く保障されていない国でも、「憲法」という題の成文法があれば、形式的意味の憲法をもつ。
- これに対し実質的意味の憲法=特定の内容をもった法(中身で見る)。固有の意味と近代的意味がある(第4項)。
- この「形式的/実質的」は、最高法規性の「形式的/実質的」(第8項)とは別の区別。
人権規定が一つも無いが「〇〇国憲法」という題名の成文法典を持つ国 → 形式的意味の憲法を持つ。
出題形式的意味の憲法は人権保障の規定を含むかどうかを問わない(○)形式的意味=憲法典、実質的意味=存在形式を問わず内容で憲法とされるもの(○)形式・実質の区別は、憲法典に書かれる内容と本来の憲法の内容のずれに注意を促す(○)
- 「形式的意味の憲法といえるかは、人権保障規定を備えているかで判断する」
4固有の意味と近代的(立憲的)意味学説
- 固有の意味の憲法=国の統治システムの基本を定めた法。いかなる時代のいかなる国家にも存在する(成文か、不文・慣習法かを問わない)。
- 近代的意味の憲法(=立憲的意味の憲法。同じもの)=固有の意味の憲法のうち、近代市民革命の自由主義に基づき、国家権力を制限して国民の人権を保障することを目的とする法。
- フランス人権宣言16条(権利の保障が確保されず、権力分立が定められていない社会は、憲法をもたない)の「憲法」は、この意味。
- 2つは並んだ別物ではなく、包含の関係:近代的意味の憲法は、固有の意味の憲法でもある。
| 権力が一人に集中し、人権の規定が無い国 | 人権を保障し、権力を分けて互いに抑制させる国 | |
|---|---|---|
| 固有の意味の憲法 | ある | ある |
| 近代的意味の憲法 | ない | ある |
議会があり、法律に議会の承認が要っても、権利は君主が恩恵として与えたものにすぎず法律で容易に制限できる、という仕組みなら、見せかけの立憲主義(外見的立憲主義)にとどまる → 流れ図の2つ目の問いで「いいえ」=近代的意味の憲法とはいえない。明治憲法はこう評価される。
出題全ての国家が持つ権力の組織・構造としての憲法=固有の意味の憲法(○)人権宣言16条の「憲法」=立憲的意味(近代的意味)の憲法(○)固有の意味の憲法とは近代前の憲法を指す(×)国会法・公職選挙法の一部の規定も実質的意味の憲法として憲法法源になる(○)人権宣言16条の一節は固有の意味の憲法の趣旨を示したもの(×)固有の意味と立憲的意味の区別は内容に着目したもので、存在形式とは無関係(○)近代立憲主義は1215年のマグナカルタによって確立された(×)人権宣言によれば「憲法」というには権力の分立が定められていれば足りる(×)
- 「固有の意味の憲法は、近代市民革命後の国家にのみ存在する」
- 「近代的意味の憲法と立憲的意味の憲法は、別の概念である」(同じもの)
- 「法律の制定に議会の議決が要る国であれば、立憲的意味の憲法をもつ」(基準は人権保障を目的に権力を制限しているか)
5日本国憲法とイギリスへの当てはめ学説
| 形式的意味 | 固有の意味 | 近代的意味 | |
|---|---|---|---|
| 日本国憲法 | ある | ある | ある |
| イギリス | ない | ある | ある |
- 日本国憲法:題名+成文(形式的意味)、以下・以下・以下で統治の基本(固有の意味)、第3章で人権保障(近代的意味)→ 全てに当たる。各意味は互いに矛盾しない。
- イギリス:「憲法」というタイトルの成文の法典は無い → 形式的意味の憲法はない。しかし統治の基本を定める法も、人権保障を目的とする法も、慣習法やいくつかの法律の形で存在する → 固有の意味・近代的意味の憲法はある。
出題イギリスには王位継承・人身保護についての成文の法規範が存在しない(×)日本国憲法は形式的意味の憲法に該当する日本国憲法は立憲的意味(近代的意味)の憲法に該当する
- 「日本国憲法は近代的意味の憲法であるから、固有の意味の憲法には当たらない」
- 「イギリスには憲法が存在しない」(無いのは形式的意味の憲法だけ)
6憲法の分類(成文・硬性・民定)条文学説
| 軸 | 分類 | 日本国憲法 |
|---|---|---|
| 成文法で定められているか | 成文(=形式的意味の憲法)/不文 | 成文 |
| 改正の手続 | 硬性=通常の法律の制定より厳格な手続/軟性=法律の制定と同じ手続 | 硬性() |
| 誰が制定したか | 民定=国民/欽定=君主 | 民定(明治憲法は欽定) |
- ここでいう成文憲法=成文法で定められた憲法、すなわち形式的意味の憲法。イギリスは憲法の中身を慣習法やいくつかの法律の形で持つが、「憲法」という題の成文の法典が無い → 不文憲法。
- 近代的意味の憲法は通常、成文(社会契約を文書にしておくのが望ましい)であり、通常、硬性である。
- 法律は出席議員の過半数で足りるのに、改正には総議員の3分の2以上+国民投票が要る → だから硬性。:各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議 → 国民の承認=特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行われる投票で、その過半数の賛成。
| 場面 | 数える母数 | 必要な数 | 条文 |
|---|---|---|---|
| 議事を開き議決する(定足数) | 総議員 | 3分の1以上の出席 | |
| 議事の議決(法律案も) | 出席議員 | 過半数 | ・ |
| 衆議院の再可決 | 出席議員 | 3分の2以上 | |
| 改正の発議 | 各議院の総議員 | 3分の2以上 | |
| 改正の承認 | 国民の投票 | 過半数 |
同じ「3分の2以上」でも、衆議院の再可決は出席議員で数え、改正の発議は総議員で数える。出席者の少ない日でも、発議には総議員の3分の2以上の賛成が要る。
出題ドイツ基本法は改正が容易で繰り返し改正されてきた軟性憲法である(×)日本国憲法は硬性憲法に該当する
- 「憲法改正の発議には、各議院の出席議員の3分の2以上の賛成を要する」
- 「改正の承認は、国会の定める選挙の際に行われる投票では行えない」
- 「明治憲法は民定憲法、日本国憲法は欽定憲法である」(逆)
- 「成文憲法は、形式的意味の憲法とは異なる」(成文憲法=形式的意味の憲法)
- 「近代的意味の憲法は、必ず成文憲法・硬性憲法である」(通常。イギリスは成文の憲法典を持たない)
7近代的意味の憲法の3つの特質学説
- 自由の基礎法:国民の権利・自由を守る=自由を基礎づけるための法。核心は個人の尊重(前段「すべて国民は、個人として尊重される」)。
- 制限規範:自由の基礎法であることは、同時に国家権力を制限する法であることを意味する(表裏)。国家権力は暴走しうるので、自由を守るには権力を縛っておく必要がある。
- 最高法規:最高の価値をもつ個人の自由を保障する自由の基礎法だから、最高に尊重されるべき法となる。中身は形式・実質の2つの意味(第8項)。
「制限規範」は、ここでは条文を分ける名前(それは人権規範と授権規範)としては使わず、憲法全体の特質の名前として使う。並びは「自由の基礎法=制限規範」が横並び(同じことの裏表)で、そこから最高法規が出る。3つを一直線の段階とは見ない。
8形式的最高法規性と実質的最高法規性条文学説
- 形式的最高法規性=憲法が国法秩序の中で最も強い形式的効力をもち、他の法規範と矛盾すれば憲法が優先すること。:この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
- 参考(国法秩序の構造):憲法 → 法律 → 命令 → 処分 の順に形式的効力がある(処分には行政行為や判決も含む)。法律と命令の上下までが定めているのではない。
- の列挙に条約は無い。条約は(誠実に遵守することを必要とする)。列挙に無いことから、条約が憲法に優るとは言えない(条約と憲法の優劣は別の論点)。
- 実質的最高法規性=憲法が、人権を保障する自由の基礎法なので、最高に尊重されるべき法であること。:この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
- は、の形式的最高法規性の根拠が実質的最高法規性にあることを明らかにする趣旨と解するのが支配的な通説(置き場所違いの無意味な規定とみる見解は、きわめて少数)。
- 形式的最高法規性は3方向から導かれる:①実質的最高法規性()②硬性憲法()③授権規範。ただし②の硬性そのものも①から出る(硬性憲法であることの根拠もまた実質的最高法規性と解されている)→ だから①が一番上。③の授権規範は①を経ずにへ。
- 硬性憲法から:法律が憲法に優先するなら、法律の制定という簡単な手続で憲法を事実上改正できてしまい、が無意味になる → 硬性である以上、当然に憲法が優先する。
- 授権規範から:国家権力は憲法の授権によって初めてつくられた → 授権規範である憲法に反する法律・命令等は、自らの存立の基盤に反するので当然に無効。
- 違憲かどうかを決める権限:=最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。
法律が憲法に優先するとしたら、国会は過半数で「表現の自由を廃止する法律」を作るだけで、の手続を踏まずにを事実上消せてしまう。それではが空文になる。
出題憲法は授権するのみで授権されない→法の段階構造から最高規範性が導かれる(○)内容が他の法規範と質的に異なることから導く最高法規性=実質的最高法規性(○)法令の合憲性を議会が最終判断する制度も、憲法の形式的優位性と矛盾しない(○)形式的優位性の実質的根拠を示すため、第10章に99条(尊重擁護義務)を置いた(×)最高法規性は硬性憲法としての形式的効力に求められ、基本価値とは関係がない(×)97条は憲法の最高法規性を実質的に根拠付けるものと見ることができる(○)
- 「形式的最高法規性を定めるのは、実質的最高法規性を示すのは」(逆)
- 「は最高法規性と関係のない規定と解するのが通説」
- 「硬性憲法であることの根拠は、形式的最高法規性にある」(根拠は実質的最高法規性。形式的最高法規性は硬性から導かれる側)
- 「は、憲法に反する条約の効力を否定している」(列挙に条約は無い。ただし、だから条約が憲法に優るということにもならない=優劣は別の論点)
- 「違憲と判断された法律は、一般的に効力を失い、初めから無かったことになる」(違憲判決の効力はその事件に限って及ぶ=個別的効力説・通説。その事件ではその法律を適用しないが、条文は国会が改廃するまで法令集に残る)