憲法ゼロから憲法#47

特別の犠牲と正当な補償

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29条3項の趣旨(なぜ正当な補償が要るか)

29条3項の2つの問い

結論29条3項の中心になる問いは、次の2つです。

  • 補償の要否:補償が要る境目は、特別の犠牲にあたるかどうかです。
  • 補償の額:「正当な補償」の額は、原則として時価の全額です。

29条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)3項:私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

収用

定義収用とは、公共のために、持ち主の同意がなくても、国や自治体が財産を強制的に取り上げることです。

注意話し合いで売り買いするのとは違います。

同意がなくても取り上げられるので、埋め合わせが要るかが問題になります。

補償が要る2つの理由

結論3項が「正当な補償」を求める理由は、2つあります。

理由2つの理由は、次のとおりです。

  • 財産価値の保障:1項が財産権を保障する以上、財産の経済的な価値も保障の対象に含まれます。価値の裏づけがなければ、財産権の保障は意味を失います。
  • 平等原則:公共のための収用で、利益を受けるのは社会全体ですが、損失を負うのはその人ひとりです。その損失を、税金というかたちで国民全体で分担します。

具体例市が図書館を増築するため、隣の個人の月極駐車場を収用する場合です。

補償なしなら、住民全体が得をして、持ち主だけが土地を失います。

注意2つのうち、より大事なのは平等原則です。

この後の論点(特別の犠牲・補償の額・支払時期・補償規定が無い場合)は、すべてこの考え方でつながっています。

「公共のために用ひる」の意味

3項は、私有財産を「公共のために用ひる」ことを認めています。
では、収用した財産が結果として特定の人に渡る場合も、「公共のため」といえるのでしょうか。

公共のために用ひる

定義公共のために用ひるとは、不特定多数の人の利益のために、私有財産を収用したりすることです。

宅地買収計画取消請求事件

宅地買収計画取消請求事件の関係図(国が旧所有者から宅地を買収し、特定の耕作者へ売り渡す/旧所有者が買収の公共性を争った)

事案戦後、自作農創設特別措置法(自創法)に基づき、国が農地改革のために土地を買収していました。

ある宅地も買収され、そこを耕作していた特定の4人に売り渡される予定でした。

もとの持ち主は、特定の個人の利益になるだけで、公共のためとはいえないと主張しました。

結論最高裁は、買収の公共性は否定されないとしました。

理由特定の者に売り渡されるとしても、それは「農地改革を目的とする公共の福祉の為の必要に基いて制定された自創法の運用による当然の結果に外ならない」からです。

収用の目的が公共的である限り、財産が誰に渡るかという結果だけで、公共性を否定することはできません。

注意この判決が見ているのは、法律そのものの目的です。

法律の目的自体が、特定の人に利益を与えることに向いているなら、公共のために用いるとはいえません。

宅地買収計画取消請求事件最高裁判所第二小法廷判決「公共のために用ひる」の意義「自創法により買収された農地、宅地、建物等が買収申請人である特定の者に売渡されるとしても、それは農地改革を目的とする公共の福祉の為の必要に基いて制定された自創法の運用による当然の結果に外ならないのであるから、この事象のみを捉えて本件買収の公共性を否定する論旨は自創法の目的を正解しないに出た独自の見解であつて採用できない。」

補償の要否(特別の犠牲)

収用が公共のためであれば、財産を用いることは許されます。
では、どのような場合に、補償が必要になるのでしょうか。

形式・実質二要件説(通説)

定義補償が必要になる場面の判断基準を、特別の犠牲といいます。

結論通説は、次の2つの要件を総合して判断します(形式・実質二要件説)。

  • 形式的要件:侵害の対象が、広く一般の人か、特定の個人や集団に絞られているか。
  • 実質的要件:侵害が、財産権に内在する社会的な制約として受忍限度内か、それを超えて財産権の本質的な中身を侵すほど強いか。

両方を満たす(特定の個人や集団に対し、受忍限度を超えて本質的な中身を侵す)とき、特別の犠牲にあたり、補償が必要です。

理由特定の誰かにだけ重い負担が集中しているときこそ、平等原則が働くべき場面だからです。

財産権を持つ人なら誰もが甘受すべき一般的な制約なら、その人だけが特別に損をしているわけではありません。

特別の犠牲にあたる例・あたらない例

具体例境目は、次のように分かれます。

  • あたる:送電線を敷設するため、特定の一区画の土地を全面的に収用する場合です。特定の個人から所有権そのものを奪う、強度の侵害だからです。
  • あたらない:全国一律の建築基準法の耐震基準で、新築する建物の構造に制約がかかる場合です。不特定多数にかかる一般的な制約で、建物の安全性に照らせば受忍限度内だからです。

実質要件説(有力説)

通説は、対象が一般か特定かという形式的要件を、判断に組み込みます。
これに対して、形式的要件を退ける見解は、何を基準に補償の要否を決めるのでしょうか。

実質要件説の3類型

定義実質要件説は、一般か特定かの区別を相対的なものとして退け、侵害の中身だけを見る見解です。

結論侵害の中身によって、次の3つに分けます。

  • 剥奪:財産権の剥奪や、それと同程度に強い侵害です。当然、補償が必要です。
  • 内在的制約:その程度に至らない侵害のうち、財産権に内在する制約による制限です。補償は不要です。
  • 偶然の制限:ほかの公益目的のために、偶然に課される制限です。補償が必要です。

理由対象が狭まるほど、一般か特定かの線は揺れるからです。

具体例それぞれの例は、次のとおりです。

  • 剥奪:道路建設のために、土地を全面的に収用する場合です。
  • 内在的制約:ため池条例事件です。ため池の堤とうを使う行為は、そもそも財産権の行使の範囲に入っていないので、奪われたものがありません。
  • 偶然の制限:近くで遺跡が見つかり、史跡の指定で、発掘調査のため一定期間工事が制限される場合です。遺跡の保護という、ほかの公益目的による制限です。

どちらの説を採るか

結論通説は、形式・実質二要件説です。

理由平等原則が問うのは、特定の誰かだけが損をしていないかです。

その問いに正面から答えるのは、対象の広さを最初に見る二要件説だからです。

注意実質要件説が指摘した、線引きの難しさは残ります。

対象が特定か一般かで迷う場面では、侵害の中身の強さを見て補います。

答案ではどちらの立場でもかまいませんが、通説の二要件説のほうが書きやすいです。

制限の可否と補償の要否(29条2項と3項の二段構え)

特別の犠牲は、補償が要るかを判断する基準です。
では、財産権を制限してよいかという2項の判断とは、どう関係するのでしょうか。

29条2項と3項の二段構え(2項の段階=規制がそもそも許されるか・合憲か/3項の段階=補償が必要か・特別の犠牲にあたるか)

二段階の判断

結論通説は、2項と3項を二段階で考えます。

  • 2項の段階:その規制が、そもそも許されるか(合憲か)を判断します。
  • 3項の段階:補償が必要か(特別の犠牲にあたるか)を判断します。

具体例工場の有害物質の排出を規制する法律ができた場合です。

  • 2項:規制の目的や、手段の必要性・合理性を検討し、合憲かを判断します。
  • 3項:合憲でも、操業停止が特定の事業者にだけ受忍限度を超える負担を強いるなら、補償が問題になりえます。

注意2項に照らして規制が合憲でも、それだけで3項の補償が不要になるわけではありません。

2項の判断で使う視点(人権の性質・重要性、規制の態様・程度、立法の目的)は、補償が要るかを測る道具ではありません。

29条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:財産権は、これを侵してはならない。2項:財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

正当な補償の中身(完全補償説と相当補償説)

補償が要るかは、特別の犠牲にあたるかで決まります。
では、補償が必要なとき、「正当な補償」とはいくらを払うことなのでしょうか。

完全補償説(通説)

定義完全補償説とは、客観的な市場価格の全額を補償すべきだとする考え方です。

結論通説は、完全補償説です。

理由補償額が市場価格を下回ると、差額はその人だけが負担することになります。

それでは、損失を国民全体で分担する平等原則を貫けません。

具体例時価3,200万円の商店用地が公共事業のために収用されると、3,200万円がそのまま全額支払われるべきです。

注意「客観的な市場価格」は、先祖代々の土地だという思い入れなど、主観的な事情を含みません。

主観的な価値まで含めると、算定そのものができなくなるからです。

相当補償説

定義相当補償説とは、時価より安くても、きちんとした根拠に基づいて算出した金額なら、「正当な補償」として足りるとする立場です。

農地買収対価事件(相当補償説)

事案農地改革で、国が農地を買い上げるとき、もとの持ち主に支払う対価が争われました。

対価は、田は賃貸価格の40倍、畑は48倍を超えない額と、法律で一律に定められていました。

この額は、当時の市場での取引価格を大きく下回るものでした。

結論最高裁は、相当補償説に立ち、この対価を正当な補償と認めました。

理由正当な補償とは、「その当時の経済状態において成立することを考えられる価格に基き、合理的に算出された相当な額」をいうからです。

「必しも常にかかる価格と完全に一致することを要するものでない」と述べています。

注意同じ農地改革でも、第2節の宅地買収計画取消請求事件とは争点が違います。

  • 宅地買収計画取消請求事件:買収そのものが公共のためといえるか。
  • 農地買収対価事件:国がもとの持ち主に払う対価の額が正当か。

農地買収対価事件(農地改革)最高裁判所大法廷判決相当補償説「憲法二九条三項にいうところの財産権を公共の用に供する場合の正当な補償とは、その当時の経済状態において成立することを考えられる価格に基き、合理的に算出された相当な額をいうのであつて、必しも常にかかる価格と完全に一致することを要するものでないと解するを相当とする。」

土地収用補償金請求事件(完全補償説)

事案土地収用法に基づく、都市計画事業のための収用で、補償金が争われました。

結論最高裁は、完全補償説に立ちました。

理由土地収用法の補償は、「完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償」をすべきだからです。

金銭で補償するときは、「被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償」が要るとしています。

土地収用補償金請求事件最高裁判所第一小法廷判決完全補償説「土地収用法における損失の補償は、……完全な補償、すなわち、収用の前後を通じて被収用者の財産価値を等しくならしめるような補償をなすべきであり、金銭をもつて補償する場合には、被収用者が近傍において被収用地と同等の代替地等を取得することをうるに足りる金額の補償を要するものというべく」

2つの判例の関係

結論原則は完全補償説で、農地改革の判例は特殊な事情に基づく例外です。

理由農地改革は、戦後の占領政策のもとで進められた、極めて特殊な国策でした。

  • 改革の中身:一部の地主だけが土地を持つ戦前からの状態を、一律に根本から作り替える改革です。
  • 対価の上限:田は40倍・畑は48倍と一律に定めたことも、この特殊な国策のもとで初めて成り立ちます。

注意2つの判例の違いは、判例変更ではありません。

農地改革の判例は、限定して理解します。

答案では、完全補償説を原則として書き、農地改革の判例を「特殊な事情に基づく限定的な判例」と位置づけます。

補償の支払時期

正当な補償の額は、原則として時価の全額です。
では、補償は、財産を収用するのと同時に支払わなければならないのでしょうか。

食糧管理法違反事件

事案食糧管理法に基づき、政府が農家から米を買い上げる制度で、代金が供出の後に支払われました。

これが憲法違反にあたるかが争われました。

結論補償が財産の供与と同時に履行される必要はないとされました。

理由「憲法は『正当な補償』と規定しているだけであつて、補償の時期についてはすこしも言明していない」からです。

3項の文言も「正当な補償の下に」とあるだけで、支払いの時期には触れていません。

食糧管理法違反事件最高裁判所大法廷判決補償の支払時期「憲法は『正当な補償』と規定しているだけであつて、補償の時期についてはすこしも言明していないのであるから、補償か財産の供与と交換的に同時に履行さるべきことについては、憲法の保障するところではないと言わなければならない。」

事業認定処分取消請求事件(緊急裁決)

定義緊急裁決とは、公共用地の取得に関する特別措置法の制度です。

まず仮の補償金を先に支払い、あとで確定した補償額との差額を清算します。

結論最高裁は、緊急裁決の制度を合憲としました。

理由「憲法二十九条三項は、補償の時期については何ら規定していない」からです。

食糧管理法違反事件の判例を、そのまま引用しています。

注意支払いの時期が無限定に自由というわけではありません。

支払いが著しく遅れた場合には、その遅れによる損害を埋め合わせる必要が出てくることもありえます。

事業認定処分取消請求事件最高裁判所第一小法廷判決緊急裁決と補償の時期「憲法二十九条三項は、補償の時期については何ら規定していないのであるから、補償が私人の財産の供与に先立ち又はこれと同時に履行されるべきことを保障するものではないと解すべきである。」

補償規定を欠く法律(河川附近地制限令事件)

補償の額と時期は、3項から導かれます。
では、特別の犠牲を課す法律に、補償の規定が置かれていない場合はどうなるのでしょうか。

河川附近地制限令事件の関係図(県知事が河川附近地を指定して使用を制限/砂利採取業者が無許可で採取して起訴され、制限令の無効を主張)

河川附近地制限令事件

事案名取川の堤防の外側にある民有地を借りて、砂利採取業を営んでいた人がいました。

その土地が河川附近地に指定され、県知事の許可が無いと砂利を採れなくなりました。

無許可で採取を続けて起訴され、補償規定の無い制限令の規定は3項に反して無効だと主張しました。

結論最高裁は、制限令の規定を違憲無効とはしませんでした。

  • 受忍の範囲:一般的な河川附近地の制限としては、通常、受忍すべき範囲だとしました。
  • 直接請求の余地:被告人も「その損失を具体的に主張立証して、別途、直接憲法二九条三項を根拠にして、補償請求をする余地が全くないわけではない」としました。
  • 有罪:無許可での採取は犯罪なので、有罪の判決は維持されました。

理由一般には受忍すべき制限でも、その人にだけ特別に重い損失が出ることはありえます。

それを具体的に示せれば、特別の犠牲といえる余地が残ります。

河川附近地制限令事件最高裁判所大法廷判決三項を直接の根拠にした請求「本件被告人も、その損失を具体的に主張立証して、別途、直接憲法二九条三項を根拠にして、補償請求をする余地が全くないわけではないから、……同令四条二号およびこの制限違反について罰則を定めた同令一〇条の各規定を直ちに違憲無効の規定と解すべきではない。」

補償規定が無いときの2つの問い

法律に補償規定がない場合の2つの問いの表(①請求の可否=3項を直接根拠に請求できる/②法律の効力=判例・通説は無効ではない、有力説は違憲無効)

結論判例・通説は、3項を直接の根拠に補償を請求でき、補償規定を欠く法律も無効ではないとします(有効説)。

3項を直接の根拠に請求できるということは、3項がそれだけで具体的な権利を定めているという意味です。

理由それぞれの答えの理由は、次のとおりです。

  • 請求の可否:3項自体が、「正当な補償の下に……用ひることができる」という直接の請求根拠を定めているからです。
  • 法律の効力:3項を直接の根拠に請求できるなら、法律に規定が無くても救済の道は確保されているからです。

注意補償規定を欠く法律は違憲無効だとする見解も、有力に主張されています。

「請求できるから法律は有効だ」とすると、立法する側が補償の要否を十分に検討しなくても済んでしまうからです。

予防接種禍(谷間の問題)

ここまでは、財産権への侵害を前提にしてきました。
では、公共のために生命や身体が侵害されたときは、どのように救済されるのでしょうか。

予防接種禍という谷間の表(29条3項=財産権への侵害が前提で生命・身体の被害には届かない/17条・国家賠償法=公務員の故意・過失が前提でその証明は容易でない)

谷間

定義谷間とは、「生命・身体への適法な侵害」が、憲法が予定する救済制度のどちらにも収まらない問題です。

  • 29条3項:適法な財産権の侵害を前提にした規定です。
  • 17条・国家賠償法:違法な公務員の行為を前提にし、故意や過失が要件です。

具体例予防接種法に基づき広く義務づけられた予防接種で、ごく一部の人に脳炎や脳症などの重い副反応が生じる場合です。

統計上ごくまれに、しかし避けられない形で生じ、死亡に至ることもあります。

注意接種を実施した公務員に故意や過失があったといえるかは、簡単ではありません。

17条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。

予防接種禍事件・第一審(29条3項の類推適用)

予防接種の被害は、29条3項にも17条にもきれいに収まりません。
この谷間を、第一審の東京地裁はどのように埋めたのでしょうか。

第一審の構成

事案種痘などの予防接種の副反応で、死亡したり重い後遺障害を負ったりした62人の被害児をめぐって、本人や家族らが国に損害賠償や損失補償を求めました。

結論生命・身体に特別の犠牲が課された場合にも、29条3項を類推適用して、国に正当な補償を請求できるとしました。

理由財産上の犠牲と、生命・身体への犠牲とで、後者だけを不利に扱うべき理由はないからです。

注意言葉の使い分けに気をつけます。

  • 判決の言葉:類推適用です。
  • 学説の呼び名:財産より重い生命・身体が保護されないのはおかしい、という当然さを強調する構成として、勿論解釈と呼ばれます。

予防接種禍事件・第一審東京地方裁判所判決三項の類推適用判断枠組み:財産上の犠牲と、生命・身体への犠牲とで、後者だけを不利に扱うべき理由はない、とした(要約)結論:生命・身体に特別の犠牲が課せられた場合にも、憲法二十九条三項を類推適用して、国に正当な補償を請求できる、とした(要約)

第一審の構成への批判

注意この構成には、根本的な批判がありました。

お金さえ払えば、国は公共のためという理由で、人の命や健康まで取り上げてよいことになる、という批判です。

財産権の収用と同じ枠組みで語ることに、危うさがあります。

予防接種禍事件・控訴審(17条・国家賠償法へ)

第一審は、29条3項を生命・身体の被害に及ぼしました。
では、控訴審の東京高裁は、なぜ構成を変え、何によって救済したのでしょうか。

控訴審の転換の流れ(3項構成を否定=3項は適法・意図的な侵害が対象で重い副反応は違法な侵害→厚生大臣の過失を認定=禁忌該当者を識別する体制の不備→17条・国家賠償法による請求を広く認めた)

3項構成の否定

定義禁忌該当者とは、接種してはいけない体質の人です。

結論控訴審は、第一審の3項構成を退けました。

3項を「公権力の行使が適法か違法かを問わず、特別の犠牲が結果として生ずれば損失補償を命じた規定」と解することはできないとしました。

理由3項は、財産権を法に基づいて適法かつ意図的に侵害する場合を対象とする規定だからです。

  • 適法性:予防接種の制度そのものは、法に基づく適法なものです。しかし重い副反応は法が容認していない被害なので、違法な侵害です。
  • 消去法:憲法は、17条(違法な公権力の行使による損害)・29条3項(適法な財産権の侵害)・40条(適法な刑事手続による身体の拘束)で、埋め合わせを体系的に定めています。適法な侵害でない以上3項の射程に入らず、残るのは17条です。
  • 根源的な批判:3項構成には、「子供は財産なのか」という批判もありました。

注意控訴審は、類推解釈によっても、勿論解釈によっても、3項を生命・身体の被害に及ぼすことはできないとしました。

第一審が使った構成を、両方とも否定したことになります。

予防接種禍事件・控訴審東京高等裁判所判決三項構成の否定「憲法二九条三項を、公権力の行使が適法か違法かを問わず、特別の犠牲が結果として生ずれば損失補償を命じた規定と解した上、予防接種被害も同様に特別の犠牲と観念し得るが故に、損失補償請求ができると解釈することはできないものといわなければならない。」

40条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。

国家賠償による救済

結論控訴審は、厚生大臣の過失を認め、17条・国家賠償法1条に基づく国家賠償請求を広く認めました。

理由厚生大臣が、禁忌該当者を的確に見分けて除外するための、十分な措置をとらなかったからです。

接種を担当する医師に対し、十分な予診の体制や情報提供の仕組みを整えていなかったことを、具体的に認定しました。

注意被害を受けた子どもたちの一部について、原判決を取り消して、新たに国家賠償請求を認めています。

財産権の枠組みだけでは、生命・身体の被害をうまく救済できないことを示した事件です。

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