刑事手続の諸権利
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33〜39条の位置づけ(時間の流れに並ぶ道具)
31条の具体化
結論33〜39条は、31条が求める手続の適正を、刑事手続の具体的な道具として書き込んだ条文です。
条文他の人権の条文は短く抽象的ですが、33〜39条には、令状・弁護人・証人・自白といった具体的な言葉が並びます。
注意31条が正面から問われるのに比べ、33〜39条が答案で問われる頻度は高くありません。
刑事訴訟法で、どの権利がどの条文に根拠を持つかを見通すための権利の地図として押さえます。
31条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
時間の流れで並べる

結論33〜39条は、手続の時間の流れに沿って並んでいます。
注意36条だけは、この流れの外にあります。
手続の段階ではなく、刑罰そのものの中身を絶対的に禁止する条文だからです。
被疑者の権利・被告人の権利という、立場ごとに分ける整理もあります。
33条(逮捕の令状主義)
刑事手続の最初の場面は、捕まる場面です。
逮捕には、どのような歯止めがかけられているのでしょうか。
原則と例外
結論逮捕には、原則として裁判官の発する令状(逮捕状)が必要です。
- 例外:現行犯として逮捕される場合は、令状が要りません。
条文令状には、理由となっている犯罪を明示しなければなりません。
理由現行犯は、目の前で罪が行われていて、誰の目にも犯罪が明らかです。
間違って逮捕するおそれが少ないので、令状が要りません。
なぜ裁判官の令状が要るのか
結論逮捕する捜査機関ではなく、事件と関わりのない第三者である裁判官が、逮捕の理由を事前に審査します。
これが、司法権によるコントロールです。
理由それぞれ、恣意的な逮捕を防ぐためです。
- 事前審査:捜査機関が自分で決めて自分で実行する一体化が、恣意的な逮捕を生むからです。
- 犯罪の明示:何の罪で逮捕するかを先に決めさせ、理由を後からこじつけさせないためです。
33条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
34条(弁護人依頼権と勾留理由開示)
逮捕の次は、身柄を拘束されている間の場面です。
拘束されている人には、どのような権利が保障されているのでしょうか。
前段:弁護人依頼権
結論前段は、身柄を拘束された人に、弁護人依頼権を保障しています。
形式的に頼めればよいのではなく、実質的な弁護を受ける権利と解されています。
理由弁護人と実際に会って話ができなければ、頼める権利があっても意味がないからです。
注意この中身は、刑事訴訟法39条1項の接見交通権として具体化されています。
後段:勾留理由開示請求権
結論正当な理由がなければ拘禁されず、要求があれば、その理由を公開の法廷で示さなければなりません(勾留理由開示請求権)。
理由なぜ拘禁されているかを、本人にだけ伝えるのでは足りないからです。
公開の法廷なら、外部の目が入ります。
注意中身は、刑事訴訟法82条で具体化されています。
身柄拘束のない被疑者
結論34条前段は、「抑留又は拘禁」という身柄拘束が前提です。
憲法には、身柄拘束のない被疑者の弁護人依頼権の規定がありません。
注意刑事訴訟法では、身柄拘束のない場合も含め、すべての被疑者に弁護人依頼権が認められています。
この憲法と刑事訴訟法のズレは、短答で狙われやすい点です。
34条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
34条前段と37条3項(2つの弁護人依頼権)
34条前段は、身柄を拘束された人の弁護人依頼権でした。
では、37条3項にも同じ名前の権利があるのは、なぜでしょうか。

結論同じ弁護人依頼権でも、手続のどの段階を保障しているかが違います。
条文37条3項は、被告人が自ら弁護人を依頼できないときは、国が付すと定めています(国選弁護人)。
注意時間の流れに置くと、2か所にある理由が分かります。
37条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)3項:刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
35条(捜索・押収の令状主義とGPS捜査)
拘束の次は、住居や持ち物を調べられる場面です。
捜索・押収には、どのような歯止めがあり、その保護はどこまで及ぶのでしょうか。
原則と例外
結論住居・書類・所持品への侵入・捜索・押収には、原則として、捜索する場所と押収する物を明示した令状が必要です。
- 例外:33条の場合(現行犯逮捕の場合)は、令状が要りません。
条文2項により、捜索・押収は、各別の令状で行わなければなりません。
理由捜査機関の判断だけで住居に手を出させないためです(33条と同じ、司法権によるコントロール)。
各別の令状を求めるのは、範囲をあいまいにさせないためです。
35条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。2項:捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
GPS捜査事件
事案捜査機関が、複数の車両にGPS端末をひそかに取り付け、半年以上、位置情報を継続的に把握していました。
住居や持ち物を直接調べたわけではありません。
結論最高裁は、35条の保護対象を、条文の3つの列挙に限りませんでした。
- 保障対象:「住居、書類及び所持品」に限らず、これらに準ずる私的領域に「侵入」されない権利も含まれます。
- GPS捜査:特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たり、令状がなければ行えません。
理由GPS捜査は、機器を所持品にひそかに装着し、個人の意思を制圧して私的領域に侵入する捜査手法だからです。
気づかれないまま、継続的・網羅的に私生活の動きを把握できます。
注意肉眼での尾行や、公道での撮影とは違います。
プライバシー権の定義そのものではなく、35条の保護対象の広がりとして押さえます。
GPS捜査事件最高裁判所大法廷判決三十五条の保護対象憲法三五条は、「住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利」を規定しているところ、この規定の保障対象には、「住居、書類及び所持品」に限らずこれらに準ずる私的領域に「侵入」されることのない権利が含まれるものと解するのが相当である。……個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手法であるGPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、刑訴法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる……令状がなければ行うことのできない処分と解すべきである。
37条(公平な裁判所・迅速な公開裁判・証人審問権)
調べられた次は、裁かれる場面です。
37条は、裁判の場面でどのような保障を置いているのでしょうか。
1項:公平な裁判所の迅速な公開裁判
定義公平な裁判所とは、構成その他において偏頗のおそれのない裁判所です(大法廷の判決)。
結論個々の事件で法律の誤解や事実の誤認があり、被告人に不利益な裁判がされても、それだけで37条違反の裁判にはなりません。
理由判断の中身の正しさまで37条が保障すると、あらゆる判決の誤りが憲法違反になってしまうからです。
具体例その事件の被害者と古くから親しい人が、裁判官として座っている場合は、構成が偏っています。
注意37条1項が問うのは、裁判所の構成の中立性に限られます。
判決の中身の正しさとは別の話です。
公平な裁判所の意味最高裁判所大法廷判決同条の「公平なる裁判所の裁判」というのは構成其他において偏頗の惧なき裁判所の裁判という意味である。かかる裁判所の裁判である以上個々の事件において法律の誤解又は事実の誤認等により偶被告人に不利益な裁判がなされてもそれが一々同条に触れる違憲の裁判になるというものではない……
2項:証人審問権・証人喚問権
結論被告人には、証人をめぐる2つの権利があります。
- 証人審問権:すべての証人に対して、審問する機会が充分に与えられます。
- 証人喚問権:公費で、強制的手続により、自分のために証人を求めることができます。
理由不利な証人の話だけが、一方的に通らないようにするためです。
37条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。2項:刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
38条1項(自己負罪拒否特権)
裁判の中でも、供述と自白の場面は特に大きな意味を持ちます。
38条1項は、供述について何を保障しているのでしょうか。

結論38条1項は、自己に不利益な供述を強要されない権利を、憲法のレベルで保障しています。
理由理由は2つです。
- 歴史への反省:かつての刑事司法は、拷問で自白を引き出すことに頼りすぎ、真実が二の次になりました。
- 手続の適正:31条が求める手続の適正の一部でもあります。
注意憲法の言葉が自己負罪拒否特権、刑事訴訟法の言葉が黙秘権です。
この2つを混同しないようにします。
38条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
38条2項・3項(自白法則と補強法則)
38条1項は、供述を強要されない権利でした。
では、得られた自白そのものは、どのように扱われるのでしょうか。

結論憲法は、自白の証拠能力と証明力を、あえて制限しています。
理由自白だけで有罪にできると、無実の人にも自白させようとする動機が生まれるからです。
取調べる側にとって、自白は一番手っ取り早い証拠になってしまいます。
38条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)2項:強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。3項:何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
行政手続と35条(川崎民商事件)
33〜38条は、いずれも刑事手続の中の保障でした。
では、税務調査のような行政手続にも、35条は及ぶのでしょうか。

事案
事案事業者が提出した所得税の確定申告に、過少申告の疑いが出ました。
- 調査:税務署の職員が、売上帳・仕入帳などの帳簿を見せるよう求めました。
- 起訴:事業者は拒否し、旧所得税法の検査拒否の罰則で起訴されました。
- 主張:令状なしに帳簿を見せろと迫るのは、35条・38条1項に違反すると主張しました。
35条の入口
結論刑事責任追及を目的とする手続でないという理由のみで、その手続の一切の強制が当然に35条の保障の枠外にあると判断することは相当ではないとされました。
理由国が私的な領域に強制的に踏み込む危うさは、手続の名前が刑事か行政かで消えないからです。
注意原審は、35条・38条1項は刑事手続の規定で、行政手続にはそもそも及ばないと判断していました。
最高裁は、この「及ばない」という考え方を正面から否定しました。
結論は合憲(4つの理由)
結論この検査は、あらかじめ裁判官の令状によることを一般的要件としなくても、35条の法意に反しないとされました。
理由最高裁は、次の4つを総合して判断しました。
- 目的:所得税を公平・確実に集めるための手続で、刑事責任の追及が目的ではありません。
- 作用:刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を、一般的には持ちません。
- 強制の程度:罰則による間接的な強制にとどまり、直接の物理的な強制ではありません。
- 必要性:税を公平・確実に集めるには、実効性のある検査制度が不可欠です。
行政手続と38条1項(税務調査と犯則調査)
川崎民商事件は、35条について入口を開きつつ、違反しないとしました。
38条1項については、どのような基準で、どこまで及ぶとしたのでしょうか。
川崎民商事件(38条1項の射程)
結論38条1項の保障は、純然たる刑事手続以外でも、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には、ひとしく及ぶとされました。
ただし、所得税法上の検査・質問は、この基準に当たらないとされました。
理由この検査の性質は、35条について述べたとおりだからです。
そのため、「自己に不利益な供述」を強要するものとはいえません。
川崎民商事件最高裁判所大法廷判決三十五条の入口憲法三五条一項の規定は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制について、それが司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であるが、当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。しかしながら……旧所得税法七〇条一〇号、六三条に規定する検査は、あらかじめ裁判官の発する令状によることをその一般的要件としないからといつて、これを憲法三五条の法意に反するものとすることはできず……三十八条一項の射程憲法三八条一項の法意が、何人も自己の刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障したものであると解すべきことは……右規定による保障は、純然たる刑事手続においてばかりではなく、それ以外の手続においても、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には、ひとしく及ぶものと解するのを相当とする。しかし、旧所得税法七〇条一〇号、一二号、六三条の検査、質問の性質が上述のようなものである以上、右各規定そのものが憲法三八条一項にいう「自己に不利益な供述」を強要するものとすることはできず……
国税犯則取締法上の質問調査
結論犯則調査の手続には、38条1項の供述拒否権の保障が及ぶとされました(小法廷の判決)。
理由実質的に、租税犯の捜査に近い性質を持つからです。
- 機能:実質的には租税犯の捜査としての機能を営むものです。
- その後の流れ:犯則事件は告発で刑事手続に移り、質問顛末書などの資料も、捜査・訴追の証拠資料として使うことが予定されています。
注意保障が及ぶことと、供述拒否権を告知しなければならないことは別の問題です。
38条1項は告知を義務づけておらず、告知を要するかは、手続の趣旨・目的等で決める立法政策の問題です。
犯則調査事件最高裁判所判決保障が及ぶ理由……右調査の対象となる犯則事件は……告発により被疑事件となつて刑事手続に移行し、告発前の右調査手続において得られた質問顛末書等の資料も、右被疑事件についての捜査及び訴追の証拠資料として利用されることが予定されている……告知までは求められない憲法三八条一項は供述拒否権の告知を義務づけるものではなく、右規定による保障の及ぶ手続について供述拒否権の告知を要するものとすべきかどうかは、その手続の趣旨・目的等により決められるべき立法政策の問題と解される……
同じ基準で結論が分かれる理由

結論分かれ目は、その調査が犯罪の疑いをきっかけに始まる手続かどうかです。
同じ基準を当てても、出発点が違うので結論が逆になります。
注意答案では、「実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続か」という判決の言葉で書きます。
33〜39条の論点の中で、この分かれ目は答案で書かされる例外です。
国税犯則取締法の現在
結論国税犯則取締法は、2018年に廃止されました。
犯則事件の調査・処分の仕組みは、国税通則法の中の一つの章に移されています。
注意この判例を語るときは、当時の法律名で呼んで構いません。
ただし、今もある法律のように扱うのは不正確です。
31条との違い(「行政手続にも及ぶか」の2つの問い)
「行政手続にも及ぶか」という問いは、35条・38条1項だけでなく、31条にもあります。
同じ形の問いでも、何が違うのでしょうか。

結論問われている中身が違います。
- 31条:告知や弁解の機会など、手続全体が公正かという大きな網です。及ぶ場合の要求は、制限される権利と公益を比べる総合較量で決めます。
- 35条・38条1項:令状は要るか、黙っていてよいかという個別の道具です。
注意35条・38条1項の判断に、31条の総合較量を持ち込みません。
川崎民商事件は、35条では4つの理由を積み上げ、38条1項では「直接結びつく作用」の基準で判断しました。
36条(拷問・残虐な刑罰の絶対的禁止と死刑)
36条は、時間の流れの外にある条文でした。
36条は何を禁止し、死刑はその「残虐な刑罰」に当たるのでしょうか。

絶対的禁止
結論36条は、公務員による拷問と残虐な刑罰を、絶対に禁止しています。
条文「絶対に」という言葉が憲法の条文に出てくるのは、36条だけです。
理由どんな理由があっても許されない、性質そのものが違う行為だからです。
注意18条前段は、「絶対に」の文言は無くても、例外を一切認めない禁止と読まれています。
憲法が例外なき禁止を置いたのは、18条前段と36条の2か所だけです。
36条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。
18条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。
死刑は残虐な刑罰か
結論刑罰としての死刑そのものは、一般に直ちに残虐な刑罰に該当するとは考えられないとされました(死刑合憲判決)。
理由憲法自身が、死刑という制度の存在を前提にしているからです。
- 13条:生命に対する権利にも、公共の福祉に反しない限りという厳格な枠があり、立法上の制限や剥奪が予想されています。
- 31条:法律の定める適理の手続によって、生命を奪う刑罰を科せられることが定められています。
注意執行の方法が、その時代と環境で人道上残虐と認められる場合は、残虐な刑罰に当たります。
- 具体例:火あぶり、はりつけ、さらし首、釜ゆでの刑のような執行方法を定める法律は、36条に違反します。
- 切り分け:制度そのものへの判断と、執行方法への判断は分けて理解します。
- 絞首:現行の刑法は絞首で執行すると定めており、絞首という方法自体の残虐性を正面から論じた判決は別にあります。
死刑制度と三十六条最高裁判所大法廷判決憲法第十三条においては、すべて国民は個人として尊重せられ、生命に対する国民の権利については、立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする旨を規定している。しかし、同時に同条においては、公共の福祉に反しない限りという厳格な枠をはめているから……生命に対する国民の権利といえども立法上制限乃至剥奪されることを当然予想しているものといわねばならぬ。そしてさらに、憲法第三十一条によれば、国民個人の生命の尊貴といえども、法律の定める適理の手続によつて、これを奪う刑罰を科せられることが、明かに定められている。……刑罰としての死刑そのものが、一般に直ちに同条にいわゆる残虐な刑罰に該当するとは考えられない。ただ死刑といえども……その執行の方法等がその時代と環境とにおいて人道上の見地から一般に残虐性を有するものと認められる場合には、勿論これを残虐な刑罰といわねばならぬから、将来若し死刑について火あぶり、はりつけ、さらし首、釜ゆでの刑のごとき残虐な執行方法を定める法律が制定されたとするならば、その法律こそは、まさに憲法第三十六条に違反するものというべきである。
13条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
39条(事後法の禁止・二重の危険の禁止・併科)
時間の流れの最後は、裁判が終わったあとの場面です。
39条は、終わったあとの人をどのように守っているのでしょうか。
事後法の禁止
定義実行の時に適法だった行為について、あとから刑事上の責任を問わないことです(事後法の禁止・遡及処罰の禁止。前段前半)。
理由行為の時点で何が犯罪か分からなければ、安心して行動できないからです。
二重の危険の禁止
定義既に無罪とされた行為や、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問わないことです(二重の危険の禁止。前段後半・後段)。
理由同じ罪で何度も裁判にかけられると、ずっと不安定な立場に置かれるからです。
39条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。
刑事罰と追徴税の併科
事案罰金に加えて追徴税も課されることが、二重処罰に当たり39条に反するかが争われました。
結論39条は、刑罰たる罰金と追徴税とを併科することを禁止する趣旨を含むものでないとされました。
理由追徴税は、違反者の行為を犯罪とし、刑罰として課す趣旨ではなく、罰金と性質が違うからです。
- 刑罰:反社会的な行為への制裁です。
- 追徴税:申告漏れを防ぐための行政上の措置です(今の重加算税に当たります)。
追徴税と三十九条最高裁判所大法廷判決法四三条の追徴税は……納税義務違反者の行為を犯罪とし、これに対する刑罰として、これを課する趣旨でないこと明らかである。追徴税のかような性質にかんがみれば、憲法三九条の規定は刑罰たる罰金と追徴税とを併科することを禁止する趣旨を含むものでないと解するのが相当である。