憲法ゼロから憲法#48

適正手続とは何か

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18条前段(奴隷的拘束からの自由)

奴隷的拘束

定義奴隷的拘束とは、人が人として扱われているとは言えないほど、身体の自由を奪われている状態です。

結論前段の禁止には、例外が一切ありません(絶対的禁止)。

どんな重い犯罪の処罰であっても、奴隷的拘束は許されません。

理由奴隷的拘束は、人を人格を持つ主体ではなく、単なる道具として扱う状態だからです。

どんな理由があっても、人を道具として扱ってよい場合はありません。

具体例該当するかどうかは、自由な意思を奪っているかで分かれます。

  • 該当する:狭い場所に閉じ込め、逃げられないようにして、意思に関わりなく働かせ続ける状態です。
  • 該当しない:厳しい仕事や訓練でも、本人が納得して選んだものです。

注意刑罰だから許される、という理屈は前段には通じません。

18条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。

18条後段(意に反する苦役と拘禁刑)

18条前段は、例外の無い絶対的禁止です。
では、同じ条文の後段は、どこまで禁止しているのでしょうか。

意に反する苦役

18条の前段と後段の非対称性(前段=絶対的禁止・例外は一切なし/後段=相対的禁止・犯罪に因る処罰の場合は許されうる)

定義苦役とは、本人が望んでいなくても、無理やり働かされる場面を幅広く指す言葉です。

結論後段は、犯罪による処罰の場合には、意に反する苦役を科してよいと読めます(相対的禁止)。

条文後段にだけ、「犯罪に因る処罰の場合を除いては」という言葉があります。

この非対称性は、条文の文言そのものから出ています。

具体例徴兵制のもとで戦地に送られることも、意に反する苦役にあたります。

懲役・禁錮から拘禁刑へ

拘禁刑は単なる名称変更ではない(作業の位置づけ=旧・懲役は刑の内容そのもの/現行・拘禁刑は三項の裁量的な処遇)

定義かつての刑罰は、2つに分かれていました。

  • 懲役:作業を義務づける刑罰です。
  • 禁錮:作業を義務づけない刑罰です。

結論今は、この2つが拘禁刑に統合されています。

名前だけでなく、条文の作りそのものが変わりました。

条文刑法12条の作りは、次のとおりです。

  • 2項:刑事施設に拘置することだけを定めています。
  • 3項:作業は、改善更生のために「行わせ……ることができる」と定めています。

理由作業をさせるかは、改善更生に必要かどうかを個別に判断して決めます。

以前は、作業をすること自体が、刑の内容として当然についてきました。

注意「できる」は、受刑者が作業を自由に拒めるという意味ではありません。

  • 拒んだ場合:正当な理由なく拒めば、遵守すべき事項に反した扱いを受けます。
  • 苦役性:強制されること自体はなお残るので、苦役性はいまも問題であり続けます。

12条|刑法 第一編 総則 第二章 刑(9〜21条)1項:拘禁刑は、無期及び有期とし、有期拘禁刑は、一月以上二十年以下とする。2項:拘禁刑は、刑事施設に拘置する。3項:拘禁刑に処せられた者には、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる。

拘禁刑と「犯罪に因る処罰の場合」

結論拘禁刑は、「犯罪に因る処罰の場合」にあたります。

作業を行わせても、後段の例外の中の話です。

理由有罪判決にもとづいて執行される刑だからです。

非常災害時の従事命令

結論非常災害のときに救援活動への従事を命じられても、通説は後段違反とは考えません。

条文消防法・災害対策基本法・災害救助法などが、こうした従事命令を定めています。

理由差し迫った人命救助という、公益上の必要性が強く働くからです。

緊急性の高さが、例外を正当化します。

注意犯罪処罰による例外とは、別の理由づけによる許容です。

  • 緊急性の無い労役:差し迫った必要の無い労役の強制は、意に反する苦役として後段の問題になりえます。

31条の保障内容(4つの保障)

18条は、身体拘束と労役という特定の場面を、絶対的または相対的に禁止する条文です。
では、生命や自由を奪う場面全般について、31条は何を保障しているのでしょうか。

31条の趣旨

結論31条の趣旨は、国家が人の生命や自由を奪う場面で、権力の恣意を防ぐことです。

条文文言のうえでは、手続が法律で定まっていることしか要求していないように読めます。

31条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

4つの保障

31条の4つの保障(法定×適正と実体×手続の掛け合わせ=①実体の法定〈罪刑法定主義〉②実体の適正〈内容の明確性〉③手続の法定④手続の適正〈告知と聴聞など〉)

定義実体とは、何を犯罪とし、どんな刑罰を科すかという中身のことです。

結論通説は、31条から4つの保障を読み取ります。

「法定か、適正か」と「実体か、手続か」の2つの軸を掛け合わせると、4つのマスが埋まります。

理由どれが欠けても、恣意を防げないからです。

  • ④手続の適正:告知も弁解の機会も無く処罰を決める手続が法律で定まっていても、恣意そのものです。
  • ①実体の法定:何が犯罪かが法律で決まっていなければ、権力が後から犯罪だと言い出せます。
  • ②実体の適正:「けしからぬ行為をした者は罰する」のような曖昧な規定は、権力の都合のいいように使われます。

注意4つは、互いに補い合って初めて機能する仕組みです。

明確性の原則

定義実体の中身が明確でなければならないという要求を、明確性の原則と呼びます。

結論①実体の法定(罪刑法定主義)と②実体の適正の、両方から出てくる原則です。

③だけを31条の保障と見る見解

結論31条が直接保障するのは③手続の法定だけだ、と読む見解もあります。

それでも、4つとも憲法上保障されているという結論には、争いがありません。

理由31条の文言は、手続についてしか語っていないからです。

注意この見解も、①②④は31条以外の憲法の条項が保障していると解します。

争いがあるのは、どの条文が根拠かという点だけです。

31条を具体化した規定

結論憲法は、31条が求める適正な手続を、より具体的な規定にも書き込んでいます。

具体例令状主義、弁護人依頼権、住居の不可侵、拷問と残虐な刑罰の禁止、公平な裁判所の裁判を受ける権利です。

告知と聴聞(第三者所有物没収事件)

31条は、手続が法律で定まっているだけでなく、その中身が適正であることも要求します。
では、31条が直接要求する適正な手続の中核は何でしょうか。

告知と聴聞

定義適正な手続の中核は、次の2つです。

  • 告知:何をしようとしているかを、知らせることです。
  • 聴聞:言い分を聞くこと(弁解・防禦)です。

結論告知と聴聞は、④手続の適正の中核部分にあたります。

理由この最低限の機会さえあれば、恣意的な処分は防げるからです。

知らされていなければ、反論のしようがありません。

反論の機会が無ければ、間違った処分でも誰も気づけないまま確定してしまいます。

第三者所有物没収事件(告知・聴聞の機会)

第三者所有物没収事件の事案の構造(国が被告人を密輸出の罪で起訴し、第三者の所有する貨物を告知なく没収した)

定義付加刑とは、主となる刑に付け加えて科される刑のことです。

事案被告人は、韓国向けに密輸出をしようとしていました。

  • 船:被告人自身の所有物で、没収は問題になりません。
  • 貨物:被告人ではない第三者の所有物でしたが、関税法の規定で被告人への付加刑として没収されました。
  • 第三者:訴訟の当事者ではなく、告知も弁解の機会も一切ありませんでした。

結論所有者に告知、弁解、防禦の機会を与えずに所有権を奪うことは、著しく不合理で、憲法の容認しないところだとしました。

この没収は、31条と29条に違反すると判断しました。

理由機会を与えずに没収することは、適正な法律手続によらないで、財産権を侵害する制裁を科することにほかならないからです。

注意手続の不備という1つの欠陥が、31条と29条の2つの条文に同時に触れています。

正当な手続なく財産を奪う制裁は、財産権の侵害でもあるからです。

第三者所有物没収事件最高裁判所大法廷判決告知と聴聞の機会第三者の所有物を没収する場合において、その没収に関して当該所有者に対し、何ら告知、弁解、防禦の機会を与えることなく、その所有権を奪うことは、著しく不合理であつて、憲法の容認しないところであるといわなければならない。……所有物を没収せられる第三者についても、告知、弁解、防禦の機会を与えることが必要であつて、これなくして第三者の所有物を没収することは、適正な法律手続によらないで、財産権を侵害する制裁を科するに外ならないからである。……前記関税法一一八条一項によつて第三者の所有物を没収することは、憲法三一条、二九条に違反するものと断ぜざるをえない。

29条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:財産権は、これを侵してはならない。

第三者所有物没収事件(被告人の上告適格)

定義ここでいう上告とは、最高裁に、判決が憲法や法律に反していないかを審査してもらうことです。

結論被告人は、第三者の所有物の没収についても、違憲を理由に上告できるとしました(上告適格)。

これと矛盾する従来の判例は、変更しました。

理由理由は2つです。

  • 付加刑:没収は被告人に対する付加刑なので、被告人が違憲を争えるのは当然です。
  • 利害関係:被告人も、物の占有を奪われ、所有権を奪われた第三者から賠償請求権などを行使される危険があります。

注意第三者は訴訟の当事者ではないので、被告人も争えないなら、誰も没収の違憲を主張できなくなります。

第三者所有物没収事件最高裁判所大法廷判決被告人の上告適格かかる没収の言渡を受けた被告人は、たとえ第三者の所有物に関する場合であつても、被告人に対する附加刑である以上、没収の裁判の違憲を理由として上告をなしうることは、当然である。のみならず、被告人としても没収に係る物の占有権を剥奪され、またはこれが使用、収益をなしえない状態におかれ、更には所有権を剥奪された第三者から賠償請求権等を行使される危険に曝される等、利害関係を有することが明らかであるから、上告によりこれが救済を求めることができるものと解すべきである。これと矛盾する……判例は、これを変更するを相当と認める。

事件の帰結

結論最高裁は、貨物の没収を取り消しました。

没収されたのは、被告人自身の船だけです。

理由持ち主に機会を与えなかったことが、決め手でした。

行政手続にも及ぶのか(成田新法事件)

31条が直接要求する適正な手続の中核は、告知と聴聞です。
では、文言上は刑罰を科す手続の規定である31条は、行政手続にも及ぶのでしょうか。

成田新法事件(入口)

定義この事件の法律は、規制の対象を工作物と呼んでいます(建物もこれにあたります)。

事案新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法にもとづく命令が争われました。

  • 命令:空港建設に反対する団体が所有する建物(工作物)について、大臣が使用禁止を命じました。
  • 禁止された使い方:多数の破壊活動者が集まる場所、爆発物や火炎びんなどの製造・保管の場所、航空機の航行の妨害に使うことです。
  • 主張:法律に事前の告知・弁解・防禦の機会を与える規定が無く、31条違反だと主張しました(集会の自由・財産権などとあわせて)。

結論31条の保障は、直接には刑事手続に関するものです。

しかし行政手続は、刑事手続でないという理由だけで、すべてが当然に31条の保障の枠外にあるとは言えないとしました。

理由31条が防ごうとしている権力の恣意の危険は、刑事手続の中だけにあるものではないからです。

国や役所が国民の権利を一方的に制限する場面にも、同じ危険があります。

注意「及びうる」ことと、「実際に何を要求するか」は別の問題です。

成田新法事件最高裁判所大法廷判決行政手続への入口憲法三一条の定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものであるが、行政手続については、それが刑事手続ではないとの理由のみで、そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。

及ぶとして何を要求するのか(総合較量と結論)

成田新法事件は、行政手続も31条の保障の枠外ではないとしました。
では、保障が及ぶ場合、事前の告知・弁解・防御の機会は常に必要なのでしょうか。

入口・中身・結論の三段(①入口=刑事手続でないという理由だけでは枠外にならない→②中身=機会を与えるかは権利利益と公益の総合較量で決まる→③結論=この事件では機会がなくても31条の法意に反しない)

成田新法事件(総合較量と結論)

結論機会を与えるかどうかは、総合較量して決めるもので、常に必ず必要とするものではないとしました。

次の2つを比べます。

  • 制限を受ける側:行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度です。
  • 公益の側:行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等です。

理由行政手続は、刑事手続と性質に差異があり、行政目的に応じて多種多様だからです。

具体例この事件のあてはめは、次のとおりです。

  • 不利益:団体が建物を使えなくなることです。
  • 公益:新しい空港の安全確保という、高度で緊急な国家的必要性です。
  • 帰結:公益が優越し、事前の機会を与える規定がなくても、31条の法意に反しないとされました。

注意公益の必要性がそれほど高くなければ、較量が逆に傾き、機会を与えないと違憲になる可能性もあります。

結論を暗記するのではなく、較量の使い方を理解する論点です。

成田新法事件最高裁判所大法廷判決総合較量と結論しかしながら、同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても、一般に、行政手続は、刑事手続とその性質においておのずから差異があり、また、行政目的に応じて多種多様であるから、行政処分の相手方に事前の告知、弁解、防御の機会を与えるかどうかは、行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度、行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって、常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である。……を総合較量すれば、右命令をするに当たり、その相手方に対し事前に告知、弁解、防御の機会を与える旨の規定がなくても、本法三条一項が憲法三一条の法意に反するものということはできない。

二段構えの区別

注意この二段は、1つの問い(保障が及ぶか)の中で、入口と中身を分けたものです。

29条の「制限の可否」と「補償の要否」という、別々の問いの二段とは別物です。

その後の立法(行政手続法と残る問題)

成田新法事件は、行政手続での機会の要否を総合較量に委ねました。
その後、立法によって何が変わり、何が残ったのでしょうか。

行政手続法

結論成田新法事件のあと、行政手続法が制定されました。

不利益な処分をするときは、原則として、聴聞または弁明の機会を与えなければなりません。

具体例営業の許可を取り消すような場面でも、原則として、この機会が必要になります。

適用除外と残る問題

結論行政手続法には、適用が除外される手続も定められています。

  • 特別の定め:他の法律に特別の定めがある場合です。
  • 手続の類型:一定の類型の手続です。

理由分野ごとの事情に応じて、既に別のルールが用意されている場合があるからです。

具体例犯罪の捜査として行われる処分は、刑事訴訟法という専用の手続があるので、対象から外されています。

注意適用除外の手続に31条の保障が及ぶかは、なお問題として残っています。

今も、答えが1つに定まっていません。

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