憲法ゼロから憲法#50

選挙権と選挙の基本原則

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15条1項の読み方

15条1項のよくある誤読(全公務員を選挙で選ぶ権利)と正しい読み方(選定・罷免の手続が直接または間接に国民の意思に基づくこと)の対比表

15条1項は何を求めているか

結論15条1項は、全公務員を選挙で選ぶ権利を定めた条文ではありません。

すべての公務員の選定・罷免の手続が、直接または間接に国民の意思に基づいて定められていることを求める条文です。

理由字義どおりに読むと、現実と矛盾するからです。

  • 選定:裁判官も省庁の職員も、選挙では選ばれていません。
  • 罷免:国民が直接罷免できる公務員は、最高裁の裁判官などごく一部です。

具体例省庁の職員は試験で採用されますが、その試験制度を作ったのは国会です。

国会議員は国民の選挙で選ばれているので、間接的に国民の意思につながっています。

注意この読み方は、第9節の複選制と、第12節の直接選挙の判定基準でも使います。

15条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。

選挙権の性質(二元説)

15条1項は、公務員の選定・罷免が国民の意思に基づくことを求めています。
では、その中心にある選挙権は、どのような性質の権利なのでしょうか。

二元説の2つの顔(権利の顔=制限は難しい方向に働く/公務の顔=一定の者の排除を正当化し、突き詰めれば強制投票制にも伸びる)の対比表

二元説

定義選挙権は、権利であるとともに公務でもあるとする考え方です(二元説・通説)。

  • 公務:国のために果たす仕事という意味です。

注意「両方の顔がある」と覚えるだけでは足りません。

どちらの顔をどこまで強く見るかで、制限の許され方が変わります。

公務の顔が働く場面

結論公務の顔は、2つの方向に働きます。

  • 欠格:一定の者の選挙権を制限することを、正当化する方向に働きます。
  • 強制投票制:突き詰めれば、棄権に制裁を科す制度すら理論上は正当化できる、という見解が出てきます(第10節)。

公職選挙法11条1項の欠格

結論拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまでの者などは、選挙権も被選挙権も持ちません(2号・3号)。

理由選挙権が公務でもあるという一面から、必要な最小限の範囲で認められる制約だと説明されます。

選挙という公務を公正に担えない者を、あらかじめ除外できるという理屈です。

具体例4号と5号の対象は、次のとおりです。

  • 4号:公職にある間の汚職の罪です。
  • 5号:選挙や投票そのものに関わる罪です(選挙犯罪者)。

注意次の3点に気をつけます。

  • 事実上の理由ではない:刑務所にいて投票所に行けないから、という話ではありません。制度として外す、法的な正当化の枠組みです。
  • 1号「削除」:かつて成年被後見人の選挙権を制限していました。違憲とする裁判所の判断を受けて法律が改正され、番号を残して中身だけ削られました。成年被後見人や破産者を制限する規定は、現在はありません。
  • 拘禁刑:懲役と禁錮が一本化された、新しい呼び方です。以前の条文は「禁錮以上」でしたが、現在の制度は拘禁刑で語ります。

11条(選挙権及び被選挙権を有しない者)|公職選挙法 第二章 選挙権及び被選挙権(9〜11条の2)1項:次に掲げる者は、選挙権及び被選挙権を有しない。一 削除二 拘禁刑以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者三 拘禁刑以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者(刑の執行猶予中の者を除く。)四 公職にある間に犯した刑法(明治四十年法律第四十五号)第百九十七条から第百九十七条の四までの罪又は公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律(平成十二年法律第百三十号)第一条の罪により刑に処せられ、その執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた者でその執行を終わり若しくはその執行の免除を受けた日から五年を経過しないもの又はその刑の執行猶予中の者五 法律で定めるところにより行われる選挙、投票及び国民審査に関する犯罪により拘禁刑に処せられその刑の執行猶予中の者

選挙権の制限(在外国民選挙権事件)

公務の顔は、一定の者の選挙権の制限を正当化する方向に働きます。
では、選挙権そのものを制限してよいかという場面で、最高裁はどちらの顔を強く見たのでしょうか。

在外国民選挙権事件

事案国外に住む日本国民には、かつて投票の制度そのものがありませんでした。

その後制度はできましたが、しばらくは比例代表の選挙にしか投票できませんでした。

この状況が、裁判で争われました(大法廷の判決)。

結論最高裁は、選挙権を重く位置づけたうえで、極めて厳格な枠組みを示しました。

  • 位置づけ:選挙権は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として、議会制民主主義の根幹を成すものです。
  • 原則:選挙権又はその行使を制限することは、原則として許されません。制限するには、やむを得ないと認められる事由が必要です。
  • やむを得ない事由:制限をしなければ、選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難と認められる場合でない限り、ありません。
  • 不作為:国が選挙権の行使を可能にするための所要の措置を執らないという不作為で選挙権を行使できない場合も、同様です。
  • 結果:国は在外投票の制度を改めるよう求められ、損害賠償も命じられました。

理由最高裁は、選挙権そのものを制限してよいかという核心の場面で、権利の顔を強く選びました。

公務の顔を強く見れば、公務を担える者だけに選挙権を絞る発想も成り立つはずですが、それを採りませんでした。

注意この枠組みは、よくある言い方より狭いものです。

  • よくある言い方:「やむを得ない事由があれば制限してよい」「必要最小限度の制限ならよい」。
  • 最高裁の基準:その制限を外したら選挙の公正がもう保てない、というところまで行かないと制限できません。

公務の顔は受刑者の欠格のような場面を正当化しますが、選挙権そのものの制限はほとんど許されません。

在外国民選挙権事件選挙権制限の審査枠組み国民の代表者である議員を選挙によって選定する国民の権利は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として、議会制民主主義の根幹を成すものであり、民主国家においては、一定の年齢に達した国民のすべてに平等に与えられるべきものである。

選挙権の実質的保障

選挙権の制限は、ほとんど許されません。
では、制限さえしなければ、選挙権は保障されたといえるのでしょうか。

実質的保障

結論15条1項は、名簿に名前があることだけでなく、その一票を実際に投じられる状態まで整えることを求めていると解されます。

名簿上の資格があるだけでは足りず、実際に投票する手段が確保されて初めて、選挙権の保障は満たされます。

具体例体が不自由で、投票所まで一人ではたどり着けない有権者です。

そのまま放置すれば、実質的には選挙権を行使できていないのと変わりません。

注意15条1項は、厳格な審査の枠組み(第3節)と実質的な保障の二段構えで、選挙権を守っています。

選挙の五原則

選挙権がどう守られるかを見てきました。
では、選挙そのものは、どのような原則で行われるべきでしょうか。

選挙の五原則と、それぞれが否定する対立概念(制限選挙/複数選挙・等級選挙/投票先が明らかにされる選挙/間接選挙・複選制/強制投票制)の表

結論五原則は、名前だけ並べても意味が立ちません。

それぞれが何を否定するために立ったかという、対立概念とセットで押さえます。

普通選挙

五原則の1つ目は、普通選挙です。
普通選挙は、何を要件にしないことを求めるのでしょうか。

普通選挙の狭義(財力を要件にしない)と広義(教育・性別も要件にしない)、15条3項は広義であることと、男子普通選挙から女性の選挙権までの歴史の表

狭義と広義

定義普通選挙には、2つの意味があります。

  • 狭義:財力(財産や納税額)を、選挙権の要件にしない制度です。
  • 広義:財力に加え、教育や性別なども要件にしない制度です。

結論15条3項の「普通選挙」は、広義です。

条文44条ただし書が並べる事由(人種・信条・性別・社会的身分・門地・教育・財産・収入)は、広義の普通選挙が排除しようとする事由と対応しています。

15条3項と44条ただし書が、セットで広義を支えています。

理由狭義にとどまると、性別を理由に選挙権を制限する制度が残ってしまうからです。

財力の壁から性別の壁まで越えてきた歴史の積み重ねがあるので、広義で読まれています。

  • 明治憲法の時代:当初、選挙権には納税額の条件がありました(制限選挙)。
  • 男子普通選挙:一定の年齢以上の男性に選挙権が認められました。
  • 戦後:初めて女性にも選挙権が認められ、広義の普通選挙が実現しました。

15条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)3項:公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。

44条|第四章 国会(41〜64条)両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によつて差別してはならない。

「成年者」の年齢

結論15条3項の「成年者」にあたる年齢は、法律に委ねられています。

公職選挙法は、18歳以上と定めています。

注意役割分担に気をつけます。

  • 法律:誰が成年者か(年齢)を決めます。
  • 憲法:成年者による普通選挙という原則そのものを要求しています。

9条(選挙権)|公職選挙法 第二章 選挙権及び被選挙権(9〜11条の2)1項:日本国民で年齢満十八年以上の者は、衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有する。

平等選挙

普通選挙は、誰に選挙権を与えるかの原則です。
では、与えられた一票どうしは、どのように平等でなければならないのでしょうか。

複数選挙(特定の有権者だけ二票以上)と等級選挙(等級ごとに代表者数を配分)の対比と、平等選挙は数だけでなく重みの平等まで求めることを示す表

平等選挙

定義平等選挙とは、一人一票を原則とする制度です。

条文根拠は、14条1項の法の下の平等と、44条ただし書です(44条は第6節)。

具体例対立概念は、次の2つです。

  • 複数選挙:特定の有権者に、二票以上を認める制度です(例:不動産を持つ人は二票)。
  • 等級選挙:有権者を等級ごとに分け、等級ごとに代表者を選出する制度です(例:貴族の枠と平民の枠)。

注意平等選挙は、一人一票という数の平等だけでなく、一票が持つ重みの平等まで踏み込む原則です。

等級選挙では、各等級で一人一票でも、等級ごとの定数の配分に偏りがあれば不平等になるからです。

14条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

秘密選挙

平等選挙は、一票の数と重みの平等を求めます。
では、誰に投票したかの秘密は、どこまで守られるのでしょうか。

15条4項の前段と後段

定義秘密選挙とは、誰に一票を入れたかが、外から分からないようにする選挙です。

条文15条4項は、前段と後段で別のことを定めています。

  • 前段:誰に投票したかという、投票の秘密そのものを守ります(秘密選挙の根拠)。
  • 後段:その選択について、公的にも私的にも責任を問われません(選挙人の無答責)。

注意秘密を守る規定と、責任を問われない規定を混同しないでください。

15条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)4項:すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない。選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。

投票の秘密に関する判例

事案当選や選挙の効力を争う訴訟の中で、選挙権のない者や代理投票をした者の投票が問題になりました(小法廷の判決)。

結論選挙権のない者又はいわゆる代理投票をした者の投票についても、それが誰に対してなされたかは、議員の当選の効力を定める手続において、取り調べてはならないとされました。

理由「選挙権が無いから調べてよい」という理屈を認めると、調査がほかの正当な投票者の秘密にまで巻き添えで及ぶ危険があるからです。

注意「選挙権が無い人なら、誰に投票したか聞いてよい」という直感は外れます。

短答でよく問われる点です。

投票の秘密最高裁判所判決選挙権が無い人の投票にも及ぶしかし、本件のように選挙権のない者又はいわゆる代理投票をした者の投票についても、その投票が何人に対しなされたかは、議員の当選の効力を定める手続において、取り調べてはならないことは、既に当裁判所の判例の趣旨とするところであるから、……原審が本件無効投票が何人に対してなされたかを確定しなかつたからといつて、違法であるとすることはできない。

直接選挙

秘密選挙は、投票の中身を守る原則です。
では、投じられた一票と、選ばれる人との間には、何が挟まってはならないのでしょうか。

間接選挙(中間選挙人が代表を選ぶ・国会議員には許容)と複選制(議員が別の被選議員に選挙させる・許されない)のしくみと理由の対比表

直接選挙と対立概念

定義直接選挙とは、有権者が投じた一票が、そのまま代表者を決めるしくみです。

  • 間接選挙:有権者がまず中間選挙人を選び、中間選挙人が代表者を選ぶ制度です。
  • 複選制:議員が、別の被選挙人に選挙させる制度です。

具体例アメリカの大統領選挙(有権者が選挙人団を選び、選挙人団が大統領を選ぶ)は、間接選挙の代表例です。

複選制の例は、地方議会の議員がそのまま国会議員を選ぶしくみです。

憲法の明文

結論憲法が明文で直接選挙を求めているのは、地方公共団体の長と地方議会の議員だけです(93条2項)。

国会議員の選挙には、明文の規定がありません。

93条|第八章 地方自治(92〜95条)2項:地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。

国会議員の選挙で許されるか

結論通説は、国会議員について、間接選挙は許容されるが、複選制は許されないとします。

理由15条1項の読み方(第1節)を当てはめると、違いが分かります。

  • 間接選挙:中間選挙人は、その選挙のためだけに選ばれた存在で、ほかの仕事がありません。
  • 複選制:選ぶ側の議員は、本来の別の仕事のために選ばれています。国民の意思とのつながりが一段弱くなります。

直接選挙が確かめたいのは、有権者の意思と選ばれる人との間に、余計な判断が挟まっていないかです。

注意国会による内閣総理大臣の指名は、複選制ではありません。

内閣総理大臣は、国民の選挙で選ばれると定められておらず、選挙制度の話ではないからです。

自由選挙

直接選挙までは、明文や条文の読み方から導かれる原則でした。
では、明文の無い「投票しない自由」は、憲法上どう扱われるのでしょうか。

自由選挙

定義自由選挙とは、投票しない自由を認め、棄権に制裁を科さない制度です。

結論憲法に明文の規定はありませんが、通説は、自由選挙も憲法上の要請だと解しています。

理由通説は、二元説の権利の顔を優先して、自由選挙を要請します。

在外国民選挙権事件で最高裁が権利の顔で答えたのと、同じ向きです。

強制投票制(対立見解)

定義強制投票制とは、正当な理由のない棄権に制裁を科す制度です。

結論選挙権の公務としての一面を押し出せば、強制投票制すら正当化できる、という対立見解があります。

理由「選挙権は公務でもある」という理屈の延長線上にあります。

  • 欠格:公務だから、担えない人を外せます(第2節)。
  • 強制投票制:裏返すと、公務だから、担わない人に制裁を科してよいことになります。

注意同じ「公務の顔」が、除外にも義務づけにも伸びます。

通説は踏みとどまりますが、公務の顔を突き詰めれば、別の答えも理屈のうえでは成り立ちます。

この分岐が、二元説が実際に動かすものの最終形です。

選挙制度の類型

ここまでは、選挙が従うべき原則でした。
では、実際の選挙制度には、どのような型があり、それぞれ何が長所・短所なのでしょうか。

選挙区

定義選挙区は、定数で2つに分かれます。

  • 小選挙区:定数が1人の選挙区です。
  • 大選挙区:定数が2人以上の選挙区です。

条文選挙区や投票の方法は、法律で定めます(47条)。

47条|第四章 国会(41〜64条)選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

選挙の方法(三類型)

多数代表制・少数代表制・比例代表制を、典型・死票・政局の安定で比べた表

定義選挙の方法は、3つの型に分かれます。

  • 多数代表制:選挙区の多数派から選出する方式です(典型は小選挙区)。
  • 少数代表制:少数派からも選出できる方式です(典型は大選挙区)。
  • 比例代表制:投票数に比例して議席を配分する、政党中心の方式です。
  • 死票:当選しなかった候補者への票(結果に反映されなかった票)です。

結論死票の多さと政局の安定は、シーソーの両端の関係にあります。

  • 多数代表制:死票は多いですが、二大政党化が進みやすく、政局は安定しやすくなります。
  • 比例代表制:民意を忠実に反映し死票は減りますが、小党が分立しやすく、政局は不安定になりやすくなります。
  • 少数代表制:両端の中間に位置づきます。

具体例10万票のうち3万票を得た政党を考えます。

  • 小選挙区:その候補が敗れれば、3万票はまるごと死票です。
  • 比例代表:全体の3割を取ったので、議席もその割合に応じて配られます。

現行の選挙制度と非拘束名簿式

選挙制度の型は、死票と政局の安定のバランスで比べられます。
では、現行の衆議院・参議院の制度はどうなっていて、非拘束名簿式は憲法に反しないのでしょうか。

現行の衆議院(小選挙区+全国11ブロックの拘束名簿式比例代表・並立制)と参議院(都道府県を基本とした選挙区+全国1ブロックの非拘束名簿式比例代表)の比較表

拘束名簿式と非拘束名簿式

定義2つの名簿式は、投票用紙と当選人の決まり方が違います。

  • 拘束名簿式(衆議院):投票用紙には政党名だけを書き、政党への投票だけが有効です。当選人は、政党が事前に作成した名簿の順位どおりに決まります。
  • 非拘束名簿式(参議院):投票用紙には、政党名でも候補者名でも書けます。候補者への投票も所属政党の得票として計算され、この総得票数で政党の議席数が決まります。そのうえで、候補者ごとの得票数で名簿の中の順位が決まります。

注意候補者個人は支持したいが、所属政党は支持したくない、という有権者の一票も、その政党の得票として扱われます。

非拘束名簿式比例代表訴訟

事案非拘束名簿式について、2つの点が争われました(大法廷の判決)。

  • 選挙権:候補者名を書いたのに政党への投票とされるのは、選挙権の侵害ではないか。
  • 直接選挙:当選人が投票の結果で自動的に決まらず、直接選挙の要請に反しないか。

結論最高裁は、どちらも合憲と判断しました。

  • 選挙権:名簿式比例代表制は政党本位の選挙制度であり、政党の選択という意味を持たない投票を認めない制度です。候補者個人には投票したいが政党には投票したくない、という投票意思が認められないことをもって、15条に違反するとまではいえません。
  • 票の数え方:名簿登載者は政党に所属する者という立場で候補者になっているので、候補者名の票を政党の票として数えることには合理性が認められ、国会の裁量権の限界を超えません。
  • 直接選挙:投票の結果すなわち選挙人の総意により当選人が決定される点で、候補者個人を直接選択して投票する方式と異なるところはありません。

理由直接選挙かどうかは、投じられた票と当選の決定との間に、選挙人以外の者の意思が介在するかで見分けます。

非拘束名簿式では、政党の得票数も名簿内の順位も、すべて投票の結果から決まります。

得票数が同じ候補者の順位を選挙長のくじで決める場合も、当選人の決定に選挙人以外の者の意思が介在するものではないとされました。

注意合憲とされたのは、「名簿式なら何でもよい」からではなく、この基準を通ったからです。

仮に、投票後に政党が名簿の順位を動かせるしくみなら、有権者以外の意思が入り込み、直接選挙の要請に反することになります。

非拘束名簿式比例代表訴訟非拘束名簿式の合憲性・政党を選択する制度名簿式比例代表制は、各名簿届出政党等の得票数に応じて議席が配分される政党本位の選挙制度であり、本件非拘束名簿式比例代表制も、各参議院名簿届出政党等の得票数に基づきその当選人数を決定する選挙制度であるから、本件改正前の拘束名簿式比例代表制と同様に、政党本位の名簿式比例代表制であることに変わりはない。……名簿式比例代表制は、政党の選択という意味を持たない投票を認めない制度であるから、本件非拘束名簿式比例代表制の下において、参議院名簿登載者個人には投票したいが、その者の所属する参議院名簿届出政党等には投票したくないという投票意思が認められないことをもって、国民の選挙権を侵害し、憲法十五条に違反するものとまでいうことはできない。非拘束名簿式の合憲性・直接選挙の判定基準……投票の結果すなわち選挙人の総意により当選人が決定される点において、選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異なるところはない。

43条|第四章 国会(41〜64条)1項:両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。

外国人の選挙権

選挙権は、国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利です。
では、日本国民ではない外国人に、選挙権は認められるのでしょうか。

外国人の人権の3つの層(憲法が保障する層=政治活動の自由/憲法が禁止する層=国政選挙権/立法政策に委ねられる層=地方選挙権)と、地方選挙権がどこに入るかを示す図

国政選挙権

結論外国人には、国政選挙権は憲法上保障されていません。

それだけでなく、法律で与えることも許されません。

理由国民主権は、国の政治のあり方を最終的に決める力が国民にある、という原理です。

主権者である国民の外にいる人に、法律で国政の選挙権を与えることはできません。

地方選挙権

結論地方選挙権も、憲法上は保障されません。

しかし、永住者などに法律で地方選挙権を与えることは、憲法上禁止されていないと考えられます。

理由国政と地方とでは、国民主権原理とのかかわりの程度に差があるからです。

  • 国政:外交や国防を担います。
  • 地方:住民の日常生活に密接な公共的事務を担います。
  • 地方自治の保障:憲法は、第八章で地方自治を制度として保障しています。

定住外国人地方参政権訴訟

結論判例も、2段構えで判断しました(小法廷の判決)。

  • 93条2項の「住民」:地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するので、外国人に地方選挙の権利を保障したものではありません。
  • 法律による付与:永住者等で、居住する地方公共団体と特段に緊密な関係を持つに至った者に、法律で地方選挙権を付与することは、憲法上禁止されているものではないとされました。
  • 立法政策:付与するかどうかは専ら国の立法政策にかかわる事柄で、付与しなくても違憲の問題は生じません。

理由第八章の地方自治の規定は、住民の日常生活に密接な公共的事務を、その地方の住民の意思に基づいて地方公共団体が処理するという政治形態を、憲法上の制度として保障しようとする趣旨と解されるからです。

注意次の2点に気をつけます。

  • 3つの層:地方選挙権は、保障も禁止もされない立法政策に委ねられる層(真ん中)にあります。「憲法上保障されていない」ことと「法律で与えたら違憲」は同じではありません。
  • 傍論:法律による付与を禁止しないとした部分は、判決の結論そのものではなく傍論です。事件の結論に必須ではないので先例としての拘束力は弱いとされますが、最高裁の考え方の表明として、実務では重く受け止められています。

定住外国人地方参政権訴訟結論と傍論憲法九十三条二項にいう「住民」とは、地方公共団体の区域内に住所を有する日本国民を意味するものと解するのが相当であり、右規定は、我が国に在留する外国人に対して、地方公共団体の長、その議会の議員等の選挙の権利を保障したものということはできない。

93条|第八章 地方自治(92〜95条)2項:地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。

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