議員定数不均衡——投票価値の平等
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第3章 人権各論 #51/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
較差の測り方——手を動かして確かめる
図:較差の測り方
- 設例①X区72万人定数3・Y区24万人定数2で較差2倍
- 設例②X区90万人に差し替えて較差2.5倍・0.4票
較差という言葉が、これから、何度も出てきます。最初に、この言葉が、何と何の比なのか、手を動かして、確かめておきましょう。二つの選挙区を、想像してください。X区と、Y区です。X区の有権者数は、72万人。定数は、3人。Y区の有権者数は、24万人。定数は、2人。では、定数だけ、比べると、どうですか。どちらも、較差の答えでは、ありません。較差を測るには、もう一段、手順が要ります。議員1人あたりの、有権者数を、先に、出してください。Y区は、どうですか。この、二つの数を、比べてください。これが、較差です。議員1人あたりの、有権者数の比です。
もう一つ、確かめておきましょう。Y区の有権者を、1票、としたとき、X区の有権者の、一票の重さは、何票分に、なりますか。X区の一票は、0.5票分です。この1票の重さは、定数を、有権者数で、割った数——さっきの、逆数です。議員1人あたりの有権者数と、1票の重さは、どちらで比を取っても、同じ数字に、なります。では、もう一段、進めてみましょう。今度は、X区の有権者数だけ、90万人に、差し替えます。議員1人あたりの、有権者数は、いくつに、なりますか。Y区は、12万人のままです。較差は、いくつに、なりますか。
Y区を1票としたときの、X区の一票の重さは。較差が2.5倍のとき、一票が、軽いほうの——X区の有権者は、0.4票しか、持っていないことになります。これで、この先、判例が較差4.99倍と言っても、何を計算した数字か、自分の選挙区でも、確かめられますね。実在の選挙区の、具体的な数字は、今日は、扱いません。改正のたびに、変わってしまうからです。判例が扱った較差は、その判例の事実として、このあと、確認していきます。
投票価値の平等と、十四条一項
図:十五条一項と十四条一項の違い
- 選挙権そのものは十五条一項
- 一票の重みは十四条一項
さて、この一票の重みという考え方、どの条文から、出てくると、思いますか。十五条一項だと思ったところが、実は、最初の落とし穴です。十五条一項が、保障しているのは、前回、確かめたとおり、選挙権そのもの——持っているか、実際に使えるか、です。一票の重みは、別の条文から、出てきます。一票の重みの足場は、十四条一項です。法の下の平等。
条文日本国憲法 14条1項
日本国憲法 第十四条第一項 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
平等の回では、名前だけ、挙げていました。今日、そこに、中身を、入れます。十四条一項は、形式的に、一人一票を、揃えるだけでなく、各投票が、選挙結果に対して持つ、影響力の平等まで、保障している、と読まれます。さっきのX区の有権者で、確かめましょう。選挙権は、ちゃんと、持っています。それでも、その一票は、0.4票分しか、効きません。選挙権そのものは、十五条一項。持っている一票が、どれだけ効くかは、十四条一項。この二つを、条文レベルで、区別してください。それでは、いよいよ、今日、最も重い、なぜに、入ります。なぜ、2倍、なのか。
一段目——なぜ2倍か
図:なぜ2倍か
- 人口比例主義が上げ足・47条の非人口的要素が下げ足
- 2倍超は複数選挙と同じ結果
まず、上げ足から、考えてみましょう。投票価値の平等を、とことん貫くなら、どんな配分に、するべきだと、思いますか。人口比例主義を、徹底すべき、と考えられます。では、次に、下げ足です。四十七条を、見てみましょう。
条文日本国憲法 47条
日本国憲法 第四十七条 選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。
この条文は、人口以外の要素——行政区画や、地域のまとまりなど、非人口的な要素も、考慮に入れることを、認めている、と読まれます。ある程度の較差は、やむを得ない、ということに、なります。ここで、前回の道具を、思い出してください。複数選挙、覚えていますか。較差が、2倍を超えると、何が起きるか。軽い側の一票を、基準にすれば、重い側の有権者は、二票以上を、持っているのと、同じことに、なります。逆から見れば、Y区の有権者は、X区の有権者の、2.5倍の、力を持っている、ということに、なります。較差が2倍を超えると、複数選挙を、認めたのと、同じ結果になり、平等選挙の、本質が、壊れます。これが、2倍という線の、出どころです。
ここで、もう一段、深くします。この2倍は、通説が、この理屈から、逆算して引いた、目安の線です。最高裁が、判決文の中で、2倍という数値基準を、立てているわけでは、ありません。
図:「2倍」と最高裁の言葉(通説の目安と最高裁の評価的表現の違い)
最高裁が、実際に使う言葉は、一般的に合理性を有するものとは、とうてい考えられない程度、という、評価の言葉です。受験生が、短答で使う2倍と、判決文の言葉は、別のものです。ここを、混ぜないことが、実力差になります。この後、実際の判決を見るときも、判決文が、数字で切っているわけではない、ということを、思い出してください。
二段目——合理的期間論
図:なぜ直ちに違憲としないか
- 人口変動は不可避・法改正には時間がかかる
- 違憲状態から合理的期間の経過で違憲へ
較差が、2倍を超えたら、直ちに、違憲でしょうか。なぜ、直ちに、違憲としないのか。考えてみてください。国勢調査のたびに、較差は、動きます。もし、較差が2倍を超えた、瞬間に、違憲だとしたら、どうなると、思いますか。法改正にも、時間が、かかります。常に、違憲の選挙しか、できなくなって、しまいます。そこで、違憲状態、という一段階を、置きます。そこから、是正のための、合理的な期間を、国会に、与えます。その猶予を超えて、放置して、初めて、違憲に、格上げされます。この違いは、程度の差では、ありません。時間の経過が、あったかどうか、という、別の軸での、区別です。
ここが、この回で、最も大事な、区別です。しっかり、押さえてください。
三段目——なぜ全体が違憲になるのか
図:なぜ全体が違憲になるか
- 総定数を先に決め各選挙区に配分する仕組み
- 一箇所を動かせば他が動く
違憲になった、として、どの範囲が、違憲に、なるんでしょうか。実は、較差が大きい選挙区だけ、では、ありません。定数配分規定の、全体が、違憲になります。理由を、考えてみましょう。定数配分は、まず、総定数——決まった椅子の数を、決めてから、各選挙区に、配分する、仕組みです。では、ある選挙区の定数を、1増やしたいと、思ったとき、どうなりますか。一つの選挙区を、動かせば、必ず、他の選挙区に、跳ね返ります。だから、この選挙区だけが、おかしい、と、切り出すことが、できません。配分の設計全体が、違憲になります。
この、全体が違憲になる、という結論が、次の問いに、つながります。全体が違憲な規定で、行われた選挙は、無効に、なるでしょうか?いよいよ、今日、最大の山場です。
四段目——事情判決の法理
図:違憲なのに選挙は有効
- 本来は選挙全体が無効のはず
- 実際は定数配分規定は違憲・選挙は違法と宣言するにとどめる
定数配分規定の、全体が、違憲だとすると、素直に考えれば、その規定で行われた選挙は、全体が、無効になるはずです。ですが、もし、選挙を無効にしたら、何が、起きると思いますか。選ばれた議員が、いなくなります。その議員たちが、既に作った法律も、効力が、不安定になります。国政が、著しく混乱する。だから、最高裁は、別の道具を、使います。事情判決の法理、です。この法理を使い、定数配分規定は違憲、当該選挙は違法、と、宣言するだけに、とどめます。ここで、よく見てほしいのが、主語の違いです。違憲と、言われているのは、定数配分規定であって、選挙そのものは、違法としか、言われていません。
ここを、分けないと、この矛盾は、最後まで、解けません。ここで、もう一段、深く、見ていきましょう。
図:類推適用ではなく法の一般原則
- 公選法219条1項が31条の準用を除外
- それでも一般的な法の基本原則を援用
この法理の、条文上の足場が、行政事件訴訟法三十一条です。
条文行政事件訴訟法 31条1項
行政事件訴訟法 第三十一条第一項 取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができる。この場合には、当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならない。
ただ、ここで、注意が、必要です。選挙訴訟には、この三十一条を、使えないようにする、規定が、あります。その規定が、公職選挙法二百十九条一項です。選挙の効力を争う訴訟で、行政事件訴訟法の、どの規定を使うかは、公職選挙法が、決めています。訴訟の仕組みそのものは、後の回で、扱います。
条文公職選挙法 219条1項(抜粋)
公職選挙法 第二百十九条第一項(抜粋) この章(第二百十条第一項を除く。)に規定する訴訟については、行政事件訴訟法第四十三条の規定にかかわらず、同法第十三条、第十九条から第二十一条まで、第二十五条から第二十九条まで、第三十一条及び第三十四条の規定は、準用せず……
つまり、選挙訴訟では、三十一条を、直接にも、類推にも、使えないはずです。最高裁がここで使った手が、一段、深い操作です。最高裁は、三十一条一項前段が定める事情判決には、一般的な法の基本原則に基づくものとして、理解すべき要素も、含まれている、としました。条文の奥にある、考え方を、借りてきた、ということです。行訴三十一条を、類推適用した、と、言い切ってしまうのは、正確ではありません。条文の直接適用でも、類推適用でも、なく、条文が体現する、一般原則を、援用した、というのが、正確な、言い方です。違うのは、封じられている範囲です。二百十九条一項が封じたのは、三十一条という条文を、当てはめること。条文の外にある、法の一般原則までは、封じていません。
⭐ 論文で書く規範:事情判決の法理——定数配分規定の違憲判断と選挙の効力 定数配分規定が憲法に違反する場合であっても、公職選挙法219条1項が行政事件訴訟法31条の準用を明文で除外している以上、同条を直接に適用することはできない。 もっとも、同条1項前段の定める事情判決には、「一般的な法の基本原則」に基づくものとして理解すべき要素も含まれており、選挙の効力を無効としないまま、定数配分規定が憲法に違反する旨を判決の主文で宣言するにとどめることも許される。 (論文で使う場合の骨格。答案の書き方は論文シリーズで扱う)
もう一つ、触れておきたいことが、あります。事情判決以外にも、代案が、議論されています。将来効判決、というものです。選挙を、無効とはしつつ、その無効の効力が、発生する時期を、将来の一定の時点に、遅らせる、という考え方です。事情判決よりも、強い警告になります。違憲だが有効、という結論以外にも、選択肢が、実際に議論されている、ということを、知っておいてください。以上で、4段階が、すべて、揃いました。最初に立てた矛盾、もう一度、言葉にできますか?これで、今日の1問、半分、解けました。ここから先は、この4段階が、実際の判例の中で、どう働くかを、見ていきます。
統治行為論が使えない理由
図:統治行為論が使えない理由
- 統治行為論の前提は国民の政治的判断に委ねる土台
- 定数不均衡はその土台自体が壊れているという主張
一つ、寄り道を、しておきます。定数不均衡は、国会が作った、選挙制度の当否を、争う問題です。高度に政治的だから、裁判所は、判断しない——統治行為論を、使えそうに、見えます。なぜ、統治行為論が、使えないのか、考えてみましょう。統治行為論は、何を、土台にしていますか。最終的には、国民の政治的判断に、委ねる、という、民主政治の原理です。ですが、定数不均衡の主張は、その土台そのもの——一票の重みが、壊れている、という主張です。国民の政治的判断に、委ねよう、と言うための、前提が、そもそも、欠けています。ここは、覚える論点というより、論理の型として、覚えてください。ある法理を、持ち出す前に、その法理が、立っている前提を、確認する——この作法は、他の論点でも、使えます。
最初に違憲と言った判決——枠組みの原型
図:4段階が一つの判決の中にある
- 較差4.99倍→違憲状態
- 8年余の不作為→違憲
- 不可分の一体→全体が違憲
- 事情判決の法理→選挙は有効
ここから、実際の判例を、見ていきます。最初に、この4段階を、丸ごと立てた判決が、あります。衆議院の、中選挙区制——前回見た小選挙区とは違い、一つの選挙区から、二人以上の議員を選ぶ、当時の制度です。その時代の選挙で、較差は、4.99倍でした。まず、この判決は、投票価値の平等について、大きな枠組みを、示しました。
判例最大判昭和51年4月14日(衆議院・議員定数不均衡訴訟/較差4.99倍)
最初に違憲と言った判決・投票価値の平等 投票価値の平等について、憲法は、議員定数の配分において人口数と議員定数との比率の平等を最も重要かつ基本的な基準とすることを要求している。もっとも、国会は、これと調和する範囲で、公正かつ効果的な代表という他の政策的目的を考慮することもできる。 ……較差が、一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度に達しているときは、もはや国会の合理的裁量の限界を超えているものと推定されるべきものであり、このような不平等を正当化すべき特段の理由が示されない限り、憲法違反と判断するほかはない。
ただ、いま見ている、この判決は、別の言い方を、しています。人口数と議員定数との、比率の平等。これが、この判決の言葉です。これを通説は、人口比例主義と、呼んでいます。言い方は、判決ごとに、違います。この後で見る参議院の判決は、人口比例主義という言葉を、判決自身が、使っています。大事なのは、言葉より、中身のほうです。公正かつ効果的な代表という、他の目的も、認めています。そして、較差が、この評価の言葉に、達しているとき、違憲状態に、なります。この選挙のとき、実は、較差は、8年余りにわたって、是正されないままでした。
判例最大判昭和51年4月14日(衆議院・議員定数不均衡訴訟)
最初に違憲と言った判決・合理的期間の経過 前記規定は、憲法の要求するところに合致しない状態になっていたにもかかわらず、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったものと認めざるをえない。
そして、三段目です。
判例最大判昭和51年4月14日(衆議院・議員定数不均衡訴訟)
最初に違憲と言った判決・違憲の範囲 各選挙区の議員定数の配分は、相互に有機的な関連を有し、不可分の一体をなすものと考えられるから、本件議員定数配分規定は、全体として違憲の瑕疵を帯びるものと解するのが相当である。
そして、最後、四段目です。
判例最大判昭和51年4月14日(衆議院・議員定数不均衡訴訟)
最初に違憲と言った判決・選挙の効力 行政事件訴訟法三十一条一項前段の規定については、一般的な法の基本原則に基づくものとして理解すべき要素も含まれていると解すべきである。
だから、この後、見ていく判決も、今、何段目の話をしているか、で整理すれば、迷いません。物差しは、いつも、同じです。ただし、この判決が判断したのは、衆議院の、定数配分だけです。参議院にも当てはまるかは、この判決は、答えていません。参議院は、違う条件で、判断されてきました。後半で、確かめます。
時計の起点——同じ較差でも結論が分かれる
図:同じような較差でも結論が分かれる
この判決の後、国会は、法改正をしました。較差は、一度、2.92倍まで、縮まります。ところが、その後の選挙で、また、較差が、3.94倍まで、広がってしまいました。この選挙が、争われた判決を、見てみましょう。この判決は、違憲状態、にとどまりました。違憲までは、いっていません。直前の法改正で、一度、較差を、大きく縮めた、実績があったからです。その実績が、まだ、合理的期間の内側だと、評価されました。ところが、その次の選挙で、較差は、四・四倍まで、また、広がります。この判決は、どうなったと、思いますか?違憲、とされました。理由が、面白いんです。この判決は、前の選挙の時点で、既に、違憲状態だったことを、理由に、挙げています。
判例最大判昭和60年7月17日(衆議院・議員定数不均衡訴訟/較差4.40倍・昭51判決の枠組み文言を借用した要旨)
前の選挙の時点で、既に違憲状態だった——時計の起点の判決 本件選挙当時における選挙区間の較差は、既に先の総選挙の時点において、憲法の要求するところに合致しない状態に至っていたものというべきであり、それにもかかわらず、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったものと認めざるをえない。
合理的期間の時計は、較差が広がった、今の選挙から、測るのでは、ありません。較差が、違憲状態に達した、その時点から、測り始めます。同じような較差でも、この、時計の起点次第で、結論が、分かれます。この選挙も、事情判決にとどめられ、選挙自体は、有効のまま、続きました。
小選挙区制と、1人別枠方式
図:1人別枠方式の仕組み(各都道府県にまず1議席・残りを人口比例で配分)
ここで、選挙制度が、大きく変わります。平成の改正で、中選挙区制が廃止され、小選挙区制が、導入されました。このとき、1人別枠方式、という配分方法が、採られました。各都道府県に、まず、1議席を、配ります。人口とは、関係なく、一律にです。残りの議席を、人口比例で、各都道府県に、配分します。人口の少ない県にも、まず、1議席が、確保されます。ただ、この配分方法自体が、導入した時点で、既に、較差2倍超を、生んでいました。それでも、この直後の判決は、どちらも、合憲、でした。
図:導入直後はなぜ合憲だったか
ここで出てくるのが、立法裁量です。国会に、どれだけ判断を委ねるか、という変数でした。選挙制度については、四十七条が、法律に委ねています。だから、この裁量の広さは、もともと、大きい。人口の少ない県への配慮も、その範囲内だと、評価されました。1人別枠方式そのものも、なお、合憲、とされています。この評価は、次の判決で、大きく変わります。
転回点——合憲だった制度が、違憲状態になる
図:合憲だった制度がなぜ評価を変えられたか
この判決が、転回点です。まず、1人別枠方式の、位置づけを、見直しました。
判例最大判平成23年3月23日(衆議院・1人別枠方式訴訟/較差2.304倍)
転回点の判決・一人別枠方式の位置づけ 1人別枠方式は、人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮から、国政の安定性・連続性を確保するために採られた方策であり、その合理性には、おのずから時間的な限界がある。新しい選挙制度が定着し、安定した運用がされるようになった段階においては、その合理性は失われる。
人口の少ない地方への配慮という点で、合理性が、ずっと続くわけではない、ということです。こうした配慮のことを、一般に、激変緩和と、呼びますが、これは、判決自身が、使った言葉では、ありません。この判決の時点では、
判例最大判平成23年3月23日(衆議院・1人別枠方式訴訟)
転回点の判決・合理性の喪失 本件選挙が施行された時点においては、上記の制度導入からすでに相当の期間が経過しており、1人別枠方式は、その合理性を失っていたものというべきである。
ただ、面白いのは、ここからです。較差は、2.304倍でした。それでも、この判決は、違憲状態、としました。違憲までは、行っていません。合理的期間の経過は、否定されました。理由は、国会が、この問題を、認識して、是正に取り組み始めるのに、必要な時間を、考慮したためです。激変緩和措置は、いつまでも続く理由には、なりません。この判決を受けて、国会は、動き始めます。
決着——違憲状態が続いて、ようやく合憲へ
図:違憲状態が続いてようやく合憲へ
転回点の判決を受け、国会は、1人別枠方式を、廃止する、法律改正に、踏み出しました。ただ、解散のため、次の選挙は、旧規定のまま、実施されてしまいます。この選挙が、争われた判決は、どうなったと、思いますか?この判決は、1人別枠方式廃止の、法改正を、一応、評価しました。だから、合理的期間の経過は、否定されています。その次の選挙でも、較差は、まだ、2倍を超えていました。この判決も、違憲状態です。法改正のあとも、国会が、較差をさらに縮めるための、見直しを、続けていたことを、考慮したためです。そして、次の選挙では、ついに、較差が、2倍未満に、収まります。
この判決は、合憲、とされました。是正の努力が実り、較差も、2倍未満に、収まっている、と評価されました。この一連の流れ自体が、教材です。個別の較差の数字を、覚えなくても、合理的期間の経過を、なぜ否定し続けたか、という、一本の流れで、説明できます。ここまでが、衆議院の、小選挙区制の、判例史です。次は、参議院に、移ります。
参議院はなぜ、緩やかだったのか
図:衆議院と参議院——違憲になる条件の違い
- 合理的期間と相当期間
- 都道府県代表的性格と偶数制約という2つの理由
ここまで、衆議院の話を、してきました。参議院は、実は、かなり違う、基準で、判断されてきました。まず、違憲になる条件、そのものが、衆議院と、違います。衆議院は、著しい不平等状態に加えて、合理的期間の経過が、必要でした。参議院は、著しい不平等状態に加えて、相当期間の継続が、必要です。相当期間のほうが、緩い言葉です。ある判決を、見てみましょう。較差は、5.26倍でした。
判例最大判昭和58年4月27日(参議院・参議院議員定数訴訟/較差5.26倍)
参議院の違憲判断枠組み——参議院はなぜ緩いか 参議院議員の選挙については、その較差が到底看過することができない程度の著しい不平等状態に至り、かつ、それが憲法上要求される相当期間継続して是正されなかった場合に、初めて憲法に違反するものと解すべきである。
到底看過することができない、程度の不平等に、達していない、と、判断されました。衆議院なら通らない数字が通る——ここが、参議院の、緩さです。参議院だから、で、終わらせず、理由を、見ていきましょう。理由は、二つ、あります。一つ目。参議院議員には、都道府県代表的な性格があると、されてきました。二つ目は、もう少し、具体的な、理由です。四十六条を、見てみましょう。
条文日本国憲法 46条
日本国憲法 第四十六条 参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。
この仕組みから、各選挙区の定数は、必ず、偶数でなければ、いけません。偶数でなければならないのは、半分ずつ、改選するからです。定数が奇数だと、半分に、きれいに、分けられません。だから、各選挙区の定数は、必ず、偶数にする、必要があります。定数を、偶数のまま、細かく、調整することは、難しいんです。1つずつしか動かせない衆議院より、調整の幅が、狭くなります。都道府県代表的性格と、偶数制約——この二つの、具体的な理由が、参議院の緩さを、支えていました。参議院だから、で、終わらせないで、ください。
図:緩さを認めた時代の2判決
この後の、判決も、見ておきましょう。次の判決では、較差は、6.59倍まで、広がりました。この判決も、著しい不平等状態は、認めましたが、違憲とまでは、断じられませんでした。相当期間の継続までは、認められませんでした。較差6倍を超えても、まだ、違憲状態止まり。衆議院よりも、はるかに、緩い基準が、続いていました。
参議院の厳格化と、合区
図:緩さが崩れ合区で決着する
さきほど、参議院が緩やかだった理由を、二つ、挙げました。覚えていますか?その理由は、この後、大きく崩れます。ある判決で、較差は、五倍でした。この判決は、それまでとは、違う言い方を、します。
判例最大判平成24年10月17日(参議院・参議院議員定数訴訟/較差5.00倍)
緩さの理由が崩れた判決・投票価値の平等の後退は見いだし難い 参議院議員の選挙制度のあり方は、国民の意思を公正かつ効果的に国政に反映させるという目標との関連において投票価値の平等の要請と調和するように定められるべきものであるが、参議院議員の選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。
この判決は、較差を、違憲状態、と、しました。5.26倍が合憲で、この五倍が違憲状態——そこが、この判決の、意味です。較差が広がったのでは、ありません。参議院に認められてきた、緩さのほうが、削られました。
判例最大判平成24年10月17日(参議院・参議院議員定数訴訟)
緩さの理由が崩れた判決・なお違憲状態にとどまる 本件選挙当時、上記の較差が生じたことについては、国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。
これが、参議院の判例史の、分水嶺です。その次の判決でも、較差は4.77倍。同じく、違憲状態。違憲まで、行っていません。国会が、選挙制度の、抜本的な見直しに、取り組み始めていたことを、評価したからです。言葉は、相当期間ですが、国会が動き出しているかを見る、という点は、共通です。ここで、国会は、ある、大きな制度変更を、行います。その変更が、合区です。隣り合う二つの県を、一つの選挙区に、まとめる、仕組みです。参議院の創設以来、初めての、合区でした。この合区を経た選挙が、争われた判決を、見てみましょう。
判例最大判平成29年9月27日(参議院・参議院議員定数訴訟/較差3.08倍〔改正時2.97倍〕)
合区で較差が動いた——合区後の判決 本件選挙は、参議院の創設以来初めて、二つの県を一つの選挙区とする合区を実施した上で行われたものであり、これにより、較差は数十年にわたり5倍前後で推移していた状態から大きく縮小した。
この判決は、合憲、とされました。その次の判決でも、較差は3倍。合区後の状態が、維持されたことが、評価され、合憲、とされています。これが、参議院の、一本の物語です。
図:衆議院と参議院——同じ4段階、違う言葉(②の言葉と①の許容度の対比)
最後に、衆議院と、参議院を、並べて、整理しておきましょう。二段目の言葉——衆議院は、合理的期間。参議院は、相当期間。参議院のほうが、緩い、言葉です。一段目の許容度——衆議院は、目安が、2倍前後。参議院は、かつて、5倍前後まで、許容されていました。同じ、4段階の枠組みを、使いながら、言葉と、許容度が、違います。理由は、制度の違いに、あります。それでは、今日の内容を、まとめましょう。
今日の答え、そして、次回へ
図:今日の答え
- 最初の矛盾は主語の違いで回収
- 4段階の総復習
- 衆参の対比
- 次回は被選挙権
今日の1問は、これでした。一人一票は、どこまで崩れたら、違憲か。そして、違憲だと言いながら、なぜ、その選挙は、有効なままなのか。答えは、4段階に、ありました。較差が、2倍を超えると、違憲状態。そこから、合理的期間が、経過して、初めて、違憲。違憲になると、定数配分規定の、全体が、違憲になります。そして、事情判決の法理を使い、規定は違憲、選挙は違法、と、宣言するに、とどめました。この4段階は、最初に違憲と言った判決、一つの判決の中に、丸ごと現れていました。以降の判決も、すべて、この物差しで、読むことができます。
各判決は、前の判決に対する、国会の対応への、評価に、なっています。最高裁と、国会の、往復——そういう、一つの物語として、読んでください。同じ4段階を、使いながら、言葉と、許容度が、違いました。参議院の緩さを、支えていた理由が、崩れ、合区という制度変更を経て、較差が、縮んでいく過程も、見てきました。今日、扱ったのは、選ぶ側——一票の重みの話でした。
参照条文
- 日本国憲法 14条1項
- 日本国憲法 47条
- 行政事件訴訟法 31条1項
- 公職選挙法 219条1項(抜粋)
- 日本国憲法 46条