憲法ゼロから憲法#51

議員定数不均衡と投票価値の平等

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定数不均衡の判断枠組み(4段階)

結論最高裁は、定数不均衡を次の4段階で判断します。

  • 一段目:較差が大きすぎれば、違憲状態になります(目安は2倍超)。
  • 二段目:合理的期間が経過して、初めて違憲になります。
  • 三段目:違憲になるのは、定数配分規定の全体です。
  • 四段目:事情判決の法理により、選挙は無効にせず、違法の宣言にとどめます。

注意違憲状態と違憲は別の言葉です。

混ぜると、以後の判例が読めなくなります。

この4段階は、定数不均衡のために最高裁が積み上げた専用の枠組みです。

較差の測り方

4段階の一段目は、較差の大きさを問います。
では、較差とは何と何の比なのでしょうか。

較差の測り方の設例表(X区72万人・定数3とY区24万人・定数2で較差2倍/X区を90万人にすると較差2.5倍・0.4票)

較差と1票の重さ

定義較差とは、議員1人あたりの有権者数の比です。

有権者数だけの比でも、定数だけの比でもありません。

  • 議員1人あたりの有権者数:有権者数を定数で割った数です。
  • 1票の重さ:定数を有権者数で割った数で、議員1人あたりの有権者数の逆数です。

具体例どちらで比を取っても、同じ数字になります。

  • X区72万人・定数3、Y区24万人・定数2:24万人と12万人で、較差は2倍です。X区の一票は0.5票分です。
  • X区を90万人にした場合:30万人と12万人で、較差は2.5倍です。X区の一票は0.4票分です。

投票価値の平等の根拠(14条1項)

較差が大きいと、軽い側の一票は効き目が小さくなります。
では、一票の重みの平等は、どの条文から出てくるのでしょうか。

15条1項と14条1項の区別

結論一票の重みの足場は、15条1項ではなく14条1項です。

14条1項は、形式的に一人一票を揃えるだけではありません。

各投票が選挙結果に対して持つ影響力の平等まで保障している、と読まれます。

条文2つの条文は、問うている中身が違います。

  • 15条1項:選挙権そのもの(持っているか・実際に使えるか)です。
  • 14条1項:持っている一票がどれだけ効くか(投票価値の平等)です。

具体例較差2.5倍のX区の有権者は、選挙権は持っています。

それでも、その一票は0.4票分しか効きません。

注意一票の重みを15条1項から導くのは誤りです。

14条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

15条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。

一段目:なぜ2倍か(違憲状態)

一票の重みの平等は、14条1項が保障しています。
では、較差がどこまで広がると、投票価値の平等に反するのでしょうか。

2倍という線の出どころ

定義複数選挙とは、特定の有権者に2票以上を認める制度です。

一人一票の原則を破るものです。

結論較差が2倍を超えると、違憲状態になります(通説の目安)。

条文47条は、選挙に関する事項を法律で定めるとしています。

この条文は、行政区画や地域のまとまりなど、非人口的な要素の考慮も認めている、と読まれます。

理由2倍の線は、次の順で導かれます。

  • 上げ足:投票価値の平等を貫くなら、人口比例主義を徹底すべきです。
  • 下げ足:47条により非人口的な要素も考慮できるので、ある程度の較差はやむを得ません。
  • 2倍超:重い側の有権者が2票以上を持つのと同じになり、複数選挙を認めたのと同じ結果になります。平等選挙の本質が壊れます。

47条|第四章 国会(41〜64条)選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。

「2倍」と最高裁の言葉

受験生が使う「較差2倍」(通説の目安の線)と、最高裁の言葉「一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度」(評価の言葉)の対比表

結論2倍は、通説が理屈から逆算して引いた目安の線です。

理由最高裁は、判決文で2倍という数値基準を立てていません。

使うのは、「一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度」という評価の言葉です。

注意「最高裁は2倍と言っている」とは言いません。

二段目:合理的期間論(違憲状態から違憲へ)

較差が2倍を超えると、違憲状態になります。
では、違憲状態になれば、直ちに違憲なのでしょうか。

なぜ直ちに違憲としないか

結論違憲状態から、是正のための合理的期間を経過して、初めて違憲になります。

その期間を超えて放置したときに、違憲に格上げされます。

理由直ちに違憲とすると、常に違憲の選挙しかできなくなるからです。

  • 人口の変動:国勢調査のたびに、較差は動きます。
  • 法改正の時間:是正の法改正にも、時間がかかります。

注意違憲状態と違憲の違いは、較差の程度の差ではありません。

時間の経過があったかという、別の軸での区別です。

三段目:なぜ全体が違憲になるか

合理的期間が経過すると、違憲になります。
では、違憲になるのは、較差が大きい選挙区の配分だけなのでしょうか。

定数配分の仕組みのフロー(総定数を先に決める→各選挙区に配分する→一つ動かせば他が動く→定数配分規定全体が違憲)

定数配分規定の全体

結論較差が大きい選挙区だけでなく、定数配分規定の全体が違憲になります。

理由定数配分は、まず総定数を決めてから、各選挙区に配分する仕組みだからです。

ある選挙区の定数を1増やせば、どこかを1減らさなければなりません。

一つの選挙区を動かせば、必ず他の選挙区に跳ね返るので、そこだけを切り出せないのです。

四段目:事情判決の法理

定数配分規定の全体が違憲なら、その規定で行われた選挙は無効になるはずです。
では、最高裁は選挙の効力をどう扱ったのでしょうか。

違憲なのに選挙は有効になる理由の対比表(本来は選挙全体が無効のはず/実際は定数配分規定は違憲・選挙は違法と宣言するにとどめる、国政が著しく混乱するため)

選挙を無効にしない理由

結論事情判決の法理により、選挙は無効にしません。

定数配分規定は違憲、当該選挙は違法と宣言するにとどめます。

理由選挙を無効にすると、国政が著しく混乱するからです。

  • 議員:選ばれた議員がいなくなります。
  • 法律:その議員たちが作った法律の効力も、不安定になります。

注意主語の違いに気をつけます。

違憲と言われているのは定数配分規定で、選挙そのものは違法としか言われていません。

だから、違憲と判断されても、選挙は有効のままです。

条文上の足場(類推適用ではない)

事情判決の法理の組み立て表(公選法219条1項が行訴法31条の準用を明文で除外/それでも31条前段に含まれる一般的な法の基本原則を援用/直接適用でも類推適用でもない)

結論最高裁は、行訴法31条を直接適用も類推適用もしていません。

条文が体現する一般的な法の基本原則を援用しました。

  • 足場:事情判決は、行政事件訴訟法31条1項に定めがあります。
  • 壁:選挙訴訟では、公職選挙法219条1項が、31条の準用を明文で除外しています。
  • 最高裁:31条1項前段の事情判決には、「一般的な法の基本原則に基づくものとして理解すべき要素」も含まれている、としました。

理由219条1項が封じたのは、31条という条文を当てはめることです。

条文の外にある法の一般原則までは、封じていません。

注意「行訴法31条を類推適用した」と書くのは不正確です。

判決は、ふつうの公選法違反の選挙については、この原則による回避も認めていません。

選挙が憲法に違反する規定に基づき、法改正なしに是正できない場面だから、原則の適用に余地があるとしたのです。

最初に違憲と言った判決最高裁判所大法廷判決選挙の効力行政事件訴訟法三十一条一項前段の規定については、一般的な法の基本原則に基づくものとして理解すべき要素も含まれていると解すべきである。

31条|行政事件訴訟法 第二章 抗告訴訟 第一節 取消訴訟(8〜35条)1項:取消訴訟については、処分又は裁決が違法ではあるが、これを取り消すことにより公の利益に著しい障害を生ずる場合において、原告の受ける損害の程度、その損害の賠償又は防止の程度及び方法その他一切の事情を考慮したうえ、処分又は裁決を取り消すことが公共の福祉に適合しないと認めるときは、裁判所は、請求を棄却することができる。この場合には、当該判決の主文において、処分又は裁決が違法であることを宣言しなければならない。

219条(抜粋)|公職選挙法 第十五章 争訟(202〜220条)1項:この章(第二百十条第一項を除く。)に規定する訴訟については、行政事件訴訟法第四十三条の規定にかかわらず、同法第十三条、第十九条から第二十一条まで、第二十五条から第二十九条まで、第三十一条及び第三十四条の規定は、準用せず……

将来効判決

定義将来効判決とは、選挙を無効としつつ、無効の効力が生じる時期を将来の一定の時点に遅らせる判決です。

結論事情判決の代案として、議論されています。

理由それまでに国会に是正させるので、事情判決よりも強い警告になります。

注意「違憲だが有効」以外にも、選択肢が実際に議論されています。

統治行為論が使えない理由

定数不均衡は、国会が作った選挙制度の当否を争う、政治的な問題です。
では、なぜ裁判所は、統治行為論で判断を避けないのでしょうか。

統治行為論の前提(最終的には国民の政治的判断に委ねる)と、定数不均衡の主張(その土台である一票の重みが壊れている)の対比表

前提が欠けている

結論定数不均衡には、統治行為論は使えません。

理由統治行為論の土台は、最終的には国民の政治的判断に委ねるという民主政治の原理です。

定数不均衡の主張は、その土台である一票の重みそのものが壊れている、という主張です。

国民の判断に委ねようにも、その前提が欠けているのです。

注意ある法理を持ち出す前に、その法理が立つ前提を確認します。

最初に違憲とした判決(衆議院・中選挙区制)

4段階を理由とともに見てきました。
では、この4段階を最初に丸ごと立てた判決は、どう判断したのでしょうか。

1つの判決の中にある4段階のフロー(較差4.99倍=違憲状態→8年余の不作為で合理的期間の経過=違憲→不可分の一体で定数配分規定全体が違憲→事情判決の法理で選挙は有効のまま)

4段階を立てた判決

定義中選挙区制とは、1つの選挙区から2人以上の議員を選ぶ、当時の衆議院の制度です。

事案中選挙区制のもとの衆議院議員選挙で、較差は4.99倍でした。

較差は、8年余りにわたって是正されないままでした。

選挙区の選挙人が、選挙の無効を求めて訴えました。

結論4段階すべてを判断し、違憲としつつ、選挙は無効にしませんでした。

  • 一段目:較差は、一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度に達し、違憲状態です。
  • 二段目:合理的期間内における是正がされなかったので、違憲です。
  • 三段目:定数配分規定は、全体として違憲の瑕疵を帯びるとしました。
  • 四段目:請求は棄却し、主文で選挙は違法と宣言しました。

理由判決は、各段階を次のように述べました。

  • 投票価値の平等:憲法は、人口数と議員定数との比率の平等を最も重要かつ基本的な基準とすることを要求しています。国会は、これと調和する範囲で、公正かつ効果的な代表という他の目的も考慮できます。
  • 違憲の推定:較差がとうてい考えられない程度に達すれば、国会の合理的裁量の限界を超えると推定されます。正当化すべき特段の理由が示されない限り、憲法違反と判断するほかはありません。
  • 全体の違憲:各選挙区の定数配分は、相互に有機的な関連を持ち、不可分の一体をなすからです。
  • 選挙の効力:行訴法31条1項前段には、一般的な法の基本原則に基づくものとして理解すべき要素も含まれているからです。

注意この判決の言葉は「人口数と議員定数との比率の平等」で、通説はこれを人口比例主義と呼びます。

言い方は判決ごとに違い、参議院の判決は人口比例主義という言葉を判決自身が使っています。

この判決が判断したのは、衆議院の定数配分だけです。

最初に違憲と言った判決最高裁判所大法廷判決違憲の範囲各選挙区の議員定数の配分は、相互に有機的な関連を有し、不可分の一体をなすものと考えられるから、本件議員定数配分規定は、全体として違憲の瑕疵を帯びるものと解するのが相当である。投票価値の平等投票価値の平等について、憲法は、議員定数の配分において人口数と議員定数との比率の平等を最も重要かつ基本的な基準とすることを要求している。もっとも、国会は、これと調和する範囲で、公正かつ効果的な代表という他の政策的目的を考慮することもできる。

合理的期間の起点(同じ較差でも結論が分かれる)

最初に違憲とした判決の後、国会は法改正をしました。
では、その後の判決は、同じような較差で同じ結論になったのでしょうか。

較差・結論・合理的期間の起点を並べた表(最初に違憲とした判決4.99倍=違憲/その次3.94倍=違憲状態・直前の改正で2.92倍まで縮小/さらにその次4.40倍=違憲・前の選挙の時点で既に違憲状態)

違憲状態にとどまった判決

事案法改正で較差は一度2.92倍まで縮まりましたが、その後の選挙で3.94倍に広がりました。

結論違憲状態にとどまり、違憲とはされませんでした。

理由直前の法改正で、較差を大きく縮めた実績がありました。

そのため、まだ合理的期間の内側だと評価されました。

違憲とされた判決

事案その次の選挙で、較差は4.40倍に広がりました。

結論違憲とされましたが、事情判決にとどめられ、選挙は有効のままでした。

理由本件選挙の較差は、既に先の総選挙の時点で、憲法の要求に合致しない状態に至っていました。

それにもかかわらず、合理的期間内における是正がされなかったからです。

注意合理的期間の時計は、今の選挙からではなく、較差が違憲状態に達した時点から測り始めます。

同じような較差でも、時計の起点次第で結論が分かれます。

前の選挙の時点で、既に違憲状態だった最高裁判所大法廷判決時計の起点の判決本件選挙当時における選挙区間の較差は、既に先の総選挙の時点において、憲法の要求するところに合致しない状態に至っていたものというべきであり、それにもかかわらず、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったものと認めざるをえない。

最初に違憲と言った判決最高裁判所大法廷判決合理的期間の経過前記規定は、憲法の要求するところに合致しない状態になっていたにもかかわらず、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったものと認めざるをえない。

小選挙区制と1人別枠方式

合理的期間論は、中選挙区制のもとで積み上げられました。
では、選挙制度が小選挙区制に変わった後、較差はどう判断されたのでしょうか。

1人別枠方式の配分の仕組み(総定数のうち小選挙区の議席数→各都道府県に人口に関係なくまず1議席→残りを人口比例で配分)

1人別枠方式

定義1人別枠方式とは、小選挙区制の導入時に採られた議席の配分方法です。

  • まず:各都道府県に、人口とは関係なく一律に1議席を配ります。
  • 残り:残りの議席を、人口比例で各都道府県に配分します。

注意この配分方法自体が、導入した時点で既に較差2倍超を生んでいました。

導入直後の判決

導入直後の2判決の表(最初の判決2.309倍・合憲・人口の少ない県への配慮は立法裁量の範囲内/その次の判決2.171倍・合憲・1人別枠方式それ自体の合理性も肯定)

結論導入直後の2つの判決は、較差2倍超でも、どちらも合憲でした。

1人別枠方式そのものも、なお合憲とされました。

理由選挙制度は47条が法律に委ねているので、立法裁量がもともと広いからです。

人口の少ない県への配慮も、その範囲内だと評価されました。

転回点の判決(1人別枠方式の合理性の喪失)

導入直後は、1人別枠方式も合憲とされました。
では、合憲だった制度が、なぜ後から評価を変えられたのでしょうか。

1人別枠方式の位置づけの対比表(導入直後の判決まで=急激な減少への配慮から採られた方策・合憲/転回点の判決=合理性には時間的な限界があり合理性を失った・違憲状態で合理的期間の経過は否定)

合理性の時間的な限界

事案小選挙区制のもとの選挙で、較差は2.304倍でした。

結論違憲状態としましたが、違憲とはしませんでした(合理的期間の経過は否定)。

1人別枠方式は、その合理性を失っていたとしました。

理由判決は、1人別枠方式を次のように位置づけました。

  • 目的:人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮から、国政の安定性・連続性を確保するために採られた方策です。
  • 限界:その合理性には、おのずから時間的な限界があります。新しい選挙制度が定着し、安定した運用がされるようになった段階で、合理性は失われます。
  • 本件:制度導入からすでに相当の期間が経過していました。

合理的期間の経過を否定したのは、国会がこの問題を認識し、是正に取り組み始めるのに必要な時間を考慮したためです。

注意こうした配慮を一般に激変緩和と呼びますが、判決自身の言葉ではありません。

較差は前の判決より小さくても、違憲状態とされています。

転回点の判決最高裁判所大法廷判決一人別枠方式の位置づけ1人別枠方式は、人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮から、国政の安定性・連続性を確保するために採られた方策であり、その合理性には、おのずから時間的な限界がある。新しい選挙制度が定着し、安定した運用がされるようになった段階においては、その合理性は失われる。合理性の喪失本件選挙が施行された時点においては、上記の制度導入からすでに相当の期間が経過しており、1人別枠方式は、その合理性を失っていたものというべきである。

1人別枠方式の廃止後(違憲状態が続いて合憲へ)

転回点の判決を受け、国会は1人別枠方式を廃止する法改正に踏み出しました。
では、その後の選挙について、判決はどう評価したのでしょうか。

1人別枠方式廃止後の3判決の表(廃止後最初の選挙2.425倍・違憲状態・廃止の法改正を一応評価/その次の選挙2.129倍・違憲状態/決着の判決2倍未満・合憲・是正の努力が実り較差も2倍未満に)

3つの判決

結論違憲状態が続いた末に、ようやく合憲になりました。

  • 廃止後最初の選挙:解散のため旧規定のまま行われ、違憲状態です。廃止の法改正を一応評価し、合理的期間の経過は否定されました。
  • その次の選挙:較差はまだ2倍を超え、違憲状態です。法改正のあとも、国会が較差をさらに縮める見直しを続けていたことを考慮しました。
  • その次の選挙:較差が2倍未満に収まり、合憲です。是正の努力が実り、較差も収まったと評価されました。

注意個別の較差を覚えるより、合理的期間の経過をなぜ否定し続けたかで押さえます。

各判決は、前の判決に対する国会の対応への評価になっています。

参議院の判断枠組み(なぜ緩やかだったか)

ここまでは、衆議院の判例でした。
では、参議院は、衆議院と同じ基準で判断されてきたのでしょうか。

衆議院と参議院の違憲になる条件の対比表(衆議院=著しい不平等状態+合理的期間の経過/参議院=著しい不平等状態+相当期間の継続・より緩い、緩さを支える理由=都道府県代表的性格と半数改選による偶数制約)

相当期間の継続

事案参議院議員選挙で、較差は5.26倍でした。

結論合憲としました。

較差は、到底看過することができない程度の不平等に達していないと判断されました。

条文46条は、参議院議員の任期を6年とし、3年ごとに半数を改選すると定めています。

理由判決は、参議院の違憲判断の枠組みを次のように示しました。

  • 一段目:較差が到底看過することができない程度の著しい不平等状態に至ることです。
  • 二段目:それが、憲法上要求される相当期間継続して是正されなかったことです。

注意衆議院の「合理的期間」より、参議院の「相当期間」のほうが緩い言葉です。

参議院の違憲判断枠組み最高裁判所大法廷判決参議院はなぜ緩いか参議院議員の選挙については、その較差が到底看過することができない程度の著しい不平等状態に至り、かつ、それが憲法上要求される相当期間継続して是正されなかった場合に、初めて憲法に違反するものと解すべきである。

46条|第四章 国会(41〜64条)参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。

緩さを支えた2つの理由

結論参議院の緩さは、2つの具体的な理由に支えられていました。

  • 都道府県代表的性格:参議院議員には、都道府県の代表という性格があるとされてきました。
  • 偶数制約:半数ずつ改選するので(46条)、各選挙区の定数は必ず偶数になります。定数を偶数のまま細かく調整するのは難しく、衆議院より調整の幅が狭くなります。

注意「参議院だから」で終わらせず、この2つの理由で説明します。

緩さを認めた時代の2判決

緩さを認めた時代の2判決の表(5.26倍=合憲・著しい不平等状態が生じていたとまでは言えず②は未検討/6.59倍=違憲状態・著しい不平等状態は認めるが相当期間の継続は認められず)

結論較差が6倍を超えても、違憲状態止まりでした。

  • 5.26倍の判決:著しい不平等状態に至っていないとして、合憲です(相当期間は検討していません)。
  • 6.59倍の判決:著しい不平等状態は認めましたが、相当期間の継続までは認められず、違憲状態です。

注意衆議院よりも、はるかに緩い基準が続いていました。

参議院の厳格化と合区

参議院の緩さは、都道府県代表的性格と偶数制約に支えられていました。
では、この緩さは、その後も維持されたのでしょうか。

参議院の4判決の表(緩さの理由が崩れた判決5.00倍・違憲状態/その次4.77倍・違憲状態・抜本的な見直しに取り組み始めたことを評価/合区後の判決3.08倍〈改正時2.97倍〉・合憲/さらにその次3倍・合憲・合区後の状態を維持)

緩さの理由が崩れた判決

事案参議院議員選挙で、較差は5.00倍でした。

結論違憲状態としましたが、違憲とはしませんでした。

理由判決は、次のように述べました。

  • 投票価値の平等:参議院議員の選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。
  • 違憲の否定:国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず、定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。

注意5.26倍が合憲で、5.00倍が違憲状態になりました。

較差が広がったのではなく、参議院に認められてきた緩さのほうが削られたのです。

これが参議院の判例の分水嶺です。

緩さの理由が崩れた判決最高裁判所大法廷判決投票価値の平等の後退は見いだし難い参議院議員の選挙制度のあり方は、国民の意思を公正かつ効果的に国政に反映させるという目標との関連において投票価値の平等の要請と調和するように定められるべきものであるが、参議院議員の選挙であること自体から、直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。なお違憲状態にとどまる本件選挙当時、上記の較差が生じたことについては、国会の裁量権の限界を超えるものとはいえず、本件定数配分規定が憲法に違反するに至っていたということはできない。

その次の判決

事案較差は4.77倍でした。

結論違憲状態で、違憲とはしませんでした。

理由国会が、選挙制度の抜本的な見直しに取り組み始めていたことを評価したからです。

注意言葉は「相当期間」でも、国会が動き出しているかを見る点は、衆議院と共通です。

合区後の判決

定義合区とは、隣り合う2つの県を、1つの選挙区にまとめる仕組みです。

事案参議院の創設以来初めて、合区を実施したうえで選挙が行われました。

較差は、数十年にわたり5倍前後だった状態から、3.08倍(改正時2.97倍)に縮小しました。

結論合憲とされました。

その次の判決も、較差3倍で、合区後の状態が維持されたと評価され、合憲です。

合区で較差が動いた最高裁判所大法廷判決合区後の判決本件選挙は、参議院の創設以来初めて、二つの県を一つの選挙区とする合区を実施した上で行われたものであり、これにより、較差は数十年にわたり5倍前後で推移していた状態から大きく縮小した。

衆議院と参議院の対比

衆議院と参議院の判例を、それぞれ見てきました。
では、両者は何が同じで、何が違うのでしょうか。

衆議院と参議院の対比表(二段目の言葉=衆議院は合理的期間・参議院は相当期間でより緩い/一段目の許容度=衆議院は目安2倍前後・参議院はかつて5倍前後で合区で縮小)

結論同じ4段階の枠組みを使いながら、言葉と許容度が違います。

理由違いの理由は、衆議院と参議院の制度の違いにあります。

注意判例は年表として暗記するより、最高裁と国会の往復として読みます。

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