憲法ゼロから憲法#58

権力分立と政党

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権力分立の中身(区別・分離・抑制と均衡)

3つの動詞

権力分立の3段階(区別=仕事の性質で立法・行政・司法に分ける→分離=別々の機関に担当させる→抑制と均衡=互いに止め合う力を持たせる)

定義権力分立は、次の3つの動詞でできています。

  • 区別:国家の仕事を、性質によって立法・行政・司法に分けます。
  • 分離:その3つの仕事を、別々の機関に担当させます。
  • 抑制と均衡:各機関に、互いに相手の行為を止める力を持たせます。

結論3段がそろって、初めて権力分立と呼べます。

注意区別しただけでは足りません。

仕事の種類を分けても、同じ人が担当したら意味がないからです。

分業との違い

結論抑制と均衡が抜けると、それはただの分業です。

  • 分業:一方が他方に指示するだけの、一方通行の関係です。
  • 権力分立:国会・内閣・裁判所が、互いに相手の行為を止める力を持ちます。

理由仕事を分けただけの分業には、相手を止める手段がないからです。

具体例会社で企画部が計画を立て、営業部が売るのは分業です。

営業部が計画にない方法で強引に売り込んでも、企画部には止める権限がありません。

権力分立の目的(国民の自由を守る)

権力分立は、区別・分離・抑制と均衡の3段でできています。
では、なぜそこまでして、止め合う仕組みを作るのでしょうか。

目的と手段

結論権力分立の目的は、ただ一つ、国民の自由を守ることです。

理由人権保障という目的のために、統治のしくみという手段が用意されています。

権力分立は、その手段の中心にある仕組みです。

具体例法律を作る・実行する・判断する機関が、全部同じだったとします。

気に入らない相手を狙って法律を作り、自分で捕まえ、自分で有罪と決められます。

分けてあれば、法律を作った機関と判断する機関が別なので、そこで止まります。

フランス人権宣言16条

結論フランス革命のときの人権宣言16条は、次の趣旨を言い切っています。

権利が守られる保証も無く、権力も分けられていない社会は、そもそも憲法を持っていない。

理由権利を守る仕組みと権力を分ける仕組みがそろって、初めて憲法と呼べるからです。

それだけ、権力分立は自由を守るために不可欠だと考えられています。

権力分立の3つの性格(自由主義的・消極的・懐疑的)

権力分立の目的は、国民の自由を守ることです。
この目的から、権力分立にはどのような性格が出てくるのでしょうか。

3つの性格

定義権力分立には、次の3つの性格があります。

  • 自由主義的:守っているのは、国民の自由そのものです。
  • 消極的:何かを実現する原理ではなく、させないための原理です。
  • 懐疑的:権力は、放っておけば必ず濫用される、という前提に立ちます。

理由3つとも、権力を疑い、自由を守るという姿勢から出ています。

消極的(国民主権との違い)

結論国民主権と権力分立は、働く場面が違います。

  • 国民主権:誰が国の決定権を持つかを、積極的に決める原理です。
  • 権力分立:決めた力が暴走しないよう、止める原理です。

懐疑的

結論権力を持った人の自浄作用を信じず、外側から仕組みで縛ります。

性善説ではなく、性悪説に近い発想です。

政治的中立性

権力分立は、権力を疑って国民の自由を守る原理です。
では、権力分立があれば、その国は民主的だといえるのでしょうか。

民主主義とは別の原理

政治的中立性(権力分立の有無×民主主義の有無:日本国憲法=あり・あり/明治憲法と外見的立憲主義期のドイツ=あり・なし/絶対王政=なし・なし)

結論権力分立は、民主主義とは別の原理で、政治的に中立な道具です。

形だけなら、民主的でない体制にも載せることができます。

具体例明治憲法にも、帝国議会・内閣・裁判所という区分けはありました。

外見的立憲主義の体制のドイツでも、権力の区分けの形式だけは整えられていました。

注意明治憲法が、立憲主義的だったという意味ではありません。

権力を分けるという形だけが、そこにあったということです。

民主的な国との分かれ目

結論分かれ目は、形ではなく、実質が伴っているかどうかです。

  • 止める力:分けた権力が、本当に互いを止める力を持っているか。
  • 目的:その目的が、本当に国民の自由を守ることに向いているか。

日本国憲法の三権(41条・65条・76条)

権力分立は、形だけでなく実質が伴って初めて意味を持ちます。
では、日本国憲法は、どの条文で権力を分けているのでしょうか。

三権の根拠条文

結論3つの条文が、区別と分離(3つの動詞のうち2つ目まで)を実現しています。

条文3つの権限を、3つの機関に与えています。

  • 41条:立法権は国会に属します。
  • 65条:行政権は内閣に属します。
  • 76条1項:司法権は裁判所に属します。

41条|第四章 国会(41〜64条)国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。

65条|第五章 内閣(65〜75条)行政権は、内閣に属する。

76条|第六章 司法(76〜82条)1項:すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。

抑制と均衡の表れ

条文抑制と均衡の一端は、次の条文に表れています。

  • 66条3項:内閣は、国会に対し連帯して責任を負います(内閣が国会から見張られる仕組み)。
  • 76条3項:裁判官の独立を定めています(司法権の独立)。

66条|第五章 内閣(65〜75条)3項:内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。

76条|第六章 司法(76〜82条)3項:すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

3つの機関の性格

機関×権限×性格の一覧表(国会=立法権・民主主義/内閣=行政権・福祉主義/裁判所=司法権・自由主義と個人主義)

結論3つの機関は、それぞれ違う原理を背負っています。

理由それぞれ、次の役割から性格が決まります。

  • 国会:選挙で選ばれた代表の集まりなので、民主主義の性格を強く持ちます。
  • 内閣:国民の暮らしを支える仕事を、実際に引き受けて動かすので、福祉主義と呼ばれます。
  • 裁判所:多数決では動かず、一人ひとりの人権を個別の事件の中で守ります。

注意権力分立全体の目的である自由主義を、いちばん強く担うのは裁判所です。

フランス型とアメリカ型

日本国憲法は、3つの権限を3つの機関に分けています。
では、分けられた三権は、いつも対等なのでしょうか。

2つの型

フランス型(議会中心の立法権優位型・違憲審査権は否定)とアメリカ型(三権対等型・違憲審査権は肯定)の対比と、日本国憲法の位置

結論型によって、違憲審査権の有無が決まります。

理由それぞれ、次の理由によります。

  • フランス型:国民を代表する議会がいちばん強い立場に立つので、議会の作った法律を裁判所がひっくり返せません。
  • アメリカ型:三権が対等に向き合うので、裁判所にも法律を違憲と判断する力が認められます。

日本国憲法の型

定義終審裁判所とは、そこより上に争う先が無い、最後の裁判所です。

結論日本国憲法は、両方の性質を部分的に持ち、どちらかといえばアメリカ型に近いといわれます。

条文型の要素は、次の条文に表れています。

  • 41条・66条3項:国会を国権の最高機関とし、内閣は国会に連帯責任を負います(フランス型に近い要素)。
  • 81条:違憲審査権を認めています。

理由違憲審査権を持っている以上、アメリカ型に近いといえるからです。

注意フランス型とも、アメリカ型とも言い切りません。

「どちらかといえば」という言い方が、いちばん正確です。

81条|第六章 司法(76〜82条)最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

権力分立の現代的変容

権力分立の仕組みは、18世紀に作られたものです。
今も、同じ形のまま効いているのでしょうか。

3つの現象

定義権力分立の現代的変容として、次の3つの現象があります。

  • 行政国家現象:行政に力が集まり、国の基本政策を事実上主導するようになります。
  • 政党国家現象:政党が、国家意思の形成を事実上主導します(第8節)。
  • 司法国家現象:違憲審査制が整えられ、裁判所が国会・内閣の活動を事後的にチェックします。

理由行政国家現象は、国が国民の生活を支える仕事を、たくさん引き受けるようになって起きました。

その結果、国の基本的な政策を、事実上、行政が中心になって決める場面が増えました。

具体例福祉、経済対策、災害対応など、専門知識と素早い判断が必要な仕事です。

主眼の移動(行政権の抑制)

憲法の設計と実際の姿(設計=国会・内閣・裁判所の均等な三本の線/実際=内閣に力が集中し、憲法に規定のない政党の線が加わる)

結論自由が脅かされる場所が動けば、見張る先も動きます。

いま権力分立の主眼は、行政権の抑制に移っています。

理由警戒すべき相手が、次のように変わったからです。

  • 18世紀:王様のような、一人の絶対的な権力者を警戒して作られました。
  • 現在:いちばん力を持っているのは、行政です。

注意憲法が引いた線と、実際に効いている線はずれています。

憲法が線を引いていない政党も、実際には仕組みの中にいます。

政党(憲法に書かれていないのに中心にいる)

権力分立の主眼を動かしたもう一つの変化が、政党国家現象です。
では、憲法に名前の無い政党は、憲法とどう関わっているのでしょうか。

政党国家現象

結論対立の軸は、国会対内閣から与党対野党に移っています。

理由国会と内閣は、実質的には、多数派の政党によって一体化しているからです。

注意政党は、憲法のどこにも書かれていません。

それでも、実際に国家の意思を動かす、いちばんの主体になっています。

憲法と政党の4段階

政党と憲法の4段階(①敵視→②無視→③承認・合法化〈日本はここ〉→④憲法への編入〈例:ドイツ基本法21条〉)

結論日本は、③承認・合法化の段階にあります。

理由③には当たり、④には当たらないからです。

  • ③に当たる:政治資金規正法・公職選挙法・政党助成法は、政党の存在を当然の前提として作られています。
  • ④に当たらない:日本国憲法には、政党という言葉そのものが出てきません。ドイツの憲法のように、政党についての条文を持つわけではありません。

具体例①と②は、次のような段階です。

  • ①敵視:市民革命の直後のフランスでは、結社の自由そのものが認められていませんでした。
  • ②無視:選挙も議会の運営も、政党ではなく、一人ひとりの議員を単位にします。

政党を作る自由の根拠

結論政党を作り、加入し、活動する自由の根拠は、結社の自由(21条1項)です。

注意政党への直接の規定はなくても、条文としての根拠はあります。

21条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

政党の二面性

政党の二つの顔(私的団体としての顔=結社の自由に基づく任意団体・自主性と自律性の尊重/公的な性格を持つ顔=国家の意思形成に事実上深く関わる・特別の規制がありうる)

結論この二つの顔が、政党を法律で扱うときの、いちばんの難しさになります。

具体例特別の規制の例は、党内の組織や運営を民主的に行うよう求める法律です。

注意公的な性格を持つといっても、政党は国家機関そのものではありません。

八幡製鉄事件(政党の公的性格)

定義議会制民主主義とは、国民が選んだ代表が集まる議会を通じて、国のことを決めていく仕組みです。

事案ある製鉄会社が、自由民主党に政治資金を寄付しました。

その寄付が、会社の目的の範囲内かどうかが争われました。

結論判決は、政党について次のように述べました。

  • 規定の不在:憲法は政党について規定するところがなく、特別の地位を与えてはいません。
  • 当然の予定:憲法は、政党の存在を当然に予定しているものというべきです。
  • 不可欠の要素:政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素です。
  • 最も有力な媒体:政党は国民の政治意思を形成する最も有力な媒体です。

理由憲法の定める議会制民主主義は、政党を無視しては、到底その円滑な運用を期待できないからです。

政党は、国民一人ひとりの意思をまとめて国政に反映させる役割を担っています。

注意この判決は、会社の政治献金を法人の人権として見る場面でも使われます。

ここで押さえるのは、政党について述べた部分です。

八幡製鉄事件政党の公的性格の根拠以上の理は、会社が政党に政治資金を寄附する場合においても同様である。憲法は政党について規定するところがなく、これに特別の地位を与えてはいないのであるが、憲法の定める議会制民主主義は政党を無視しては到底その円滑な運用を期待することはできないのであるから、憲法は、政党の存在を当然に予定しているものというべきであり、政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素なのである。

二面性から出る結論

結論二面性から、いつも同じ結論が出るとは限りません。

  • 規制の方向:公的な性格を強調すれば、特別な規制が必要だという結論に向かいそうです。
  • 自主性の方向:共産党袴田事件は、公的な性格を理由にしながら、政党の自主性・自律性を強く尊重すべきだと述べました。

注意私的団体だから自主性、公的だから規制と、単純には割り切れません。

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