憲法ゼロから憲法#67

内閣の組織と内閣総理大臣の権限——なぜ「首長」なのか

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第4章 統治 #67/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

今日の地図(保存版)

今日の地図(前回=行政権と控除説/議院内閣制/今日の5つ=①合議体②首長の趣旨③総理の権限4つ④国務大臣・文民⑤総辞職) 図:今日の地図

  • 前回=行政権と控除説
  • 議院内閣制
  • 今日の5つ=①合議体②首長の趣旨③総理の権限4つ④国務大臣・文民⑤総辞職

その前に、前回の内容を一つ確認させてください。行政権とは何か、という問いに、前回はどう答えましたか。引き算でしか定義できない、という話でした。控除説です。立法権と司法権を除いた、残りの作用でしたね。そして、その行政権を持つのは、内閣だと決まっていました。前回、控除説を見ました。では、内閣を誰が動かしているのでしょうか?それが、今日のテーマなんですね。今日は、五つの切り口で見ていきます。一つ目、内閣は合議体だということ。二つ目、総理の地位——なぜ「首長」と呼ばれるのか。三つ目、総理の権限が四つあること。任免・訴追同意・代表・指揮監督です。四つ目、国務大臣と文民規制。五つ目、内閣の総辞職です。

特に三つ目の指揮監督権は、冒頭の謎を解く、今日いちばんの山場です。では、まず内閣という組織の姿から見ていきましょう。

内閣は合議体、そして総理はなぜ「首長」なのか

総理の選任フロー(国会が指名67条1項→天皇が任命6条1項) 図:総理の選任フロー(国会が指名67条1項→天皇が任命6条1項)

内閣の姿を、条文で確認しましょう。

条文日本国憲法 66条

日本国憲法 第六十六条 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。

内閣は、複数の人間からなる合議体です。国会議員の中から、国会が指名します。六十七条一項です。その指名を受けて、天皇が任命します。六条一項です。国会が指名し、天皇が任命する。混同しないでください。さて、今の条文で、もう一つ大事な言葉に気づきましたか。ここが、今日いちばん大事な一語です。

同輩中の首席と首長(明治憲法=各大臣が天皇に単独責任55条/日本国憲法=内閣が国会に連帯責任66条3項) 図:同輩中の首席と首長

  • 明治憲法=各大臣が天皇に単独責任55条
  • 日本国憲法=内閣が国会に連帯責任66条3項

明治憲法のもとで、総理は「同輩中の首席」と呼ばれていました。仲間の中の一番目、という意味です。ほかの大臣と対等でした。これに対して、日本国憲法は、総理を「首長」としました。ほかの国務大臣より、一段高い地位、という意味です。そこが、今日いちばんの急所です。単なる呼称の変更ではありません。なぜ一段高くしたのか、明治憲法の責任の仕組みと比べると分かります。明治憲法では、各国務大臣が天皇に対して単独で責任を負っていました。五十五条です。一人の大臣の失敗が、その大臣一人の問題だった、ということです。ほかの大臣や内閣全体は、無傷でいられました。

身近な例で考えてみましょう。小さな飲食店で、複数の料理人が対等な立場で働いていたとします。誰か一人が、食材の管理に失敗したとします。店の看板や、ほかの料理人の評判までは傷つきません。ところが、この店が大きくなって、総料理長を置く体制に変えます。総料理長は、スタッフの採用や配置換えを一人で決める、強い人事権を持ちます。その代わり、店の看板に傷がつくミスが起きたら、どうなりますか。もう、一人の料理人の失敗では済まなくなりますね。総料理長を含めた、店全体の信用の問題になります。強い人事権を持たせたのは、店を一枚岩にして看板を守るためでした。

日本国憲法は、内閣を国会に対して連帯責任を負わせる仕組みにしました。六十六条三項の、連帯責任です。もう一度、条文を見てください。「国会に対し連帯して責任を負ふ」とありましたね。でも、寄せ集めの集団に連帯責任だけを課しても、機能しません。実際に一体性がなければ、責任の取りようがないからです。内閣の一体性を確保し、連帯責任を実効化するために——総理を「首長」とし、強力な権限を与えた。これが、これから見ていく総理の権限すべてに共通する、一本の理由です。暗記でなく、この筋道で理解してください。では、その権限を一つずつ見ていきましょう。

総理の権限ア・イ——任免権と訴追同意権

総理の権限と内閣の権限、決め方の違い(総理=単独で行使/内閣=閣議決定が必要) 図:総理の権限と内閣の権限、決め方の違い(総理=単独で行使/内閣=閣議決定が必要)

権限を見ていく前に、大事な区別を立てておきます。総理個人の権限と、内閣という合議体の権限を混ぜないでください。総理は一人の人間なので、権限を単独で行使できます。これに対して、内閣の権限は閣議決定を経る必要があります。サークルの合宿で、たとえてみましょう。行き先そのものを変える決定は、メンバー全員で話し合いますよね。それが、内閣の閣議決定に近い感覚です。一方、当日の集合時間の連絡や部屋割りの調整は——幹事が一人で決めてLINEを送れます。それが、総理の単独権限に近い感覚です。この区別を、頭に置いてください。これから見る四つのうち、任免権と訴追同意権は、総理が単独で行使できます。残る代表権と指揮監督権は、そこがまさに問題になります。今日の山場は、そこです。

まず、一つ目——国務大臣の任免権です。

条文日本国憲法 68条

日本国憲法 第六十八条 内閣総理大臣は、国務大臣を任命する。但し、その過半数は、国会議員の中から選ばれなければならない。 内閣総理大臣は、任意に国務大臣を罷免することができる。

総理の任免権(任命=過半数は国会議員・68条1項但書/認証は天皇・7条5号は形式的行為/罷免=「任意に」・理由を問わず総理の一存/いずれも単独で行使) 図:総理の任免権

  • 任命=過半数は国会議員・68条1項但書
  • 認証は天皇・7条5号は形式的行為
  • 罷免=「任意に」・理由を問わず総理の一存
  • いずれも単独で行使

残りは、国会議員でなくても構いません。「任意に」とあります。理由を問わず、総理の一存で辞めさせられます。誰を大臣にするか、誰を辞めさせるか、総理が独占的に決められます。なぜ、ここまで強い人事権を与えたのか、分かりますか。首長の趣旨を、具体的な権限として実装したものです。なお、任命の認証は天皇が行います。七条五号です。ただし、これは形式的な行為にすぎません。実質を決めるのは総理です。次に、二つ目——国務大臣の訴追に関する同意権です。

条文日本国憲法 75条

日本国憲法 第七十五条 国務大臣は、その在任中、内閣総理大臣の同意がなければ、訴追されない。但し、これがため、訴追の権利は、害されない。

七十五条の訴追同意権(対象は訴追=起訴・逮捕勾留は対象外/六十四条の訴追=裁判官弾劾の申立てとは別/但書=同意が無いあいだ、公訴時効の進行が停止) 図:七十五条の訴追同意権

  • 対象は訴追=起訴・逮捕勾留は対象外
  • 六十四条の訴追=裁判官弾劾の申立てとは別
  • 但書=同意が無いあいだ、公訴時効の進行が停止

「逮捕されない」と読んでしまうと、大きな罠にはまります。よく間違えられます。条文をよく見てください。対象は「訴追」です。起訴のことです。検察が、裁判にかけることを指します。逮捕や勾留は、訴追には当たりません。具体的な場面で確認しましょう。検察が、ある国務大臣を汚職の疑いで起訴しようとする場面では——総理の同意が要ります。一方、警察がその大臣を現行犯で逮捕する場面では——七十五条の対象外です。総理の同意は要りません。六十四条の訴追は——裁判官を弾劾裁判にかけてほしい、という申立てのことでした。同じ二文字でも、条文が違えば指す行為が違います。七十五条の訴追は、検察官による起訴です。

訴追で大臣の職務が止まると、内閣という一枚岩に穴があくからです。検察の判断で内閣が揺さぶられないように、という説明もされます。次に、ただし書きも確認しておきましょう。「訴追の権利は、害されない」とあります。もし、同意が無いあいだも時効が進み続けるとしたら——退任したときには、時効が完成してしまっているかもしれません。それでは、訴追の権利は守られません。だから、ただし書きは、総理の同意が無いあいだ——公訴時効の進行が停止するという趣旨です。その国務大臣が地位を退けば、時効はまた進み始めます。訴える権利そのものは、消えないように守られています。

七十五条と五十条の対比(七十五条=総理の同意・対象は起訴/五十条=議院の許諾・対象は逮捕) 図:七十五条と五十条の対比

  • 七十五条=総理の同意・対象は起訴
  • 五十条=議院の許諾・対象は逮捕

もう一つ、混同しやすい制度があります。国会議員の不逮捕特権——五十条です。以前、扱いましたね。大臣が同時に国会議員でもある場合、この五十条も別に働きます。七十五条は、総理の同意を要件に、訴追だけを対象にします。五十条は、議院の許諾を要件に、逮捕を対象にします。名前は似ていますが、まったくの別物です。国務大臣であり、かつ国会議員でもある人には——両方が別々に及びます。では、三つ目の権限——内閣の代表権に進みましょう。

総理の権限ウ——内閣の代表権

七十二条の文構造(権限の主体は内閣/総理の役割は代表するだけ) 図:七十二条の文構造(権限の主体は内閣/総理の役割は代表するだけ)

条文日本国憲法 72条

日本国憲法 第七十二条 内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並びに行政各部を指揮監督する。

この条文には、少し注意が要る読み方があります。「内閣を代表して」という部分が、どこまでかかるか、です。議案を国会に提出する部分だけだと、そう読みたくなりますよね。ですが、通説は違います。「内閣を代表して」は、報告し、指揮監督する部分にもかかります。行政権を持つのは内閣であって、総理個人ではないからです。七十二条だけが総理個人に権限を移すと読むと、内閣が合議体であること自体と食い違います。ここが持つ意味を、考えてみましょう。議案提出・報告・指揮監督という、権限そのものの持ち主は誰でしょうか。

この三つの権限の主体は、内閣という合議体です。総理は、それらについて内閣を「代表する」立場にとどまります。ここを読み違えると、次の話の出発点が崩れます。もし「総理個人に指揮監督権がある」と読んでしまうと——明文の根拠が、既にあることになってしまいます。七十二条は、内閣の権限を対外的に体現する規定です。総理個人への授権規定ではありません。むしろ、合議体である内閣の意思を一つにまとめて外に出す——ここにも、一体性という同じ狙いが出ています。なお、総理は、法律や政令にも連署します。七十四条です。これは、法律の成立要件ではなく、執行責任の所在を明確にする規定でした。別の回で扱っています。今日は、代表権の理解を、次の話に持ち越します。

冒頭の謎に、ここでようやく戻ります。

総理の権限エ——行政各部の指揮監督権

ここまでの整理(七十二条の権限の主体は内閣/内閣法六条=閣議決定した方針が要る/方針が無いときは?) 図:ここまでの整理

  • 七十二条の権限の主体は内閣
  • 内閣法六条=閣議決定した方針が要る
  • 方針が無いときは?

今確認したとおり、七十二条は総理個人に指揮監督権を与えていません。では、内閣が指揮監督する手続を、法律で見てみましょう。

条文内閣法 6条

内閣法 第六条 内閣総理大臣は、閣議にかけて決定した方針に基いて、行政各部を指揮監督する。

冒頭で見た条文と、同じ内容です。もう一度考えてください。方針が無い場合、条文はどうなっていますか。もし、あなたが総理大臣だったとします。方針が無いとき、行政各部に何も指示できないと思いますか?うーん……何もできない、と読むのが素直な気もします。でも、それだと機動的に動けなくて、困りそうです。ここを埋めるのが、今日いちばんの山場です。論証44と呼ばれる筋道です。

論証44の3段(①明文なし②首長・一体性・連帯責任の趣旨③指導助言の権限あり) 図:論証44の3段(①明文なし②首長・一体性・連帯責任の趣旨③指導助言の権限あり)

論理を、三段階で組み立てます。一段目。内閣法六条は、方針がある場合の要件しか定めていません。方針が無い場合の明文は、どこにもありません。二段目。さっき見た六十六条の趣旨に戻ります。六十六条一項は、総理を「首長」としました。それは、内閣の一体性を確保し——六十六条三項の連帯責任を強化するためでした。三段目。この趣旨に照らすと、どうなるか。閣議で方針が決まっていなくても——内閣の明示の意思に反しない限り——総理は行政各部へ、指導や助言という形で指示を出せる、と考えます。線が『明示の意思に反しない限り』に引かれるのも、同じ理由です。内閣の決めた意思に逆らう指示は、一体性そのものを壊してしまうからです。

大事な歯止めです。あとで境界を確認しましょう。

論文で書く規範:行政各部への指揮監督権——閣議決定した方針が無い場合 内閣法六条は、方針がある場合の要件しか定めていない。 しかし、六十六条一項は総理を「首長」とし、内閣の一体性と六十六条三項の連帯責任を強めている。その趣旨からすれば、方針が決まっていない場面であっても、内閣の明示の意思に反しない限り、総理は行政各部に指導・助言といった指示を与える権限をもつ。 (規範(判例=ロッキード事件と同旨)。答案の書き方は論文シリーズで扱う)

この結論と同じ判例があります。ロッキード事件と呼ばれる、最高裁大法廷の判決です。

判例最高裁判所大法廷判決・平成7年2月22日・刑集49巻2号1頁

ロッキード事件(丸紅ルート)①——事案 ある総合商社の社長が、航空機メーカーの意向を受け、内閣総理大臣に対し、同社製旅客機の選定購入を運輸大臣を通じて勧奨するよう依頼した。総理には、謝礼として現金五億円が渡された。この事件では、贈った側の刑事責任が問われ、その前提として総理の職務権限が争われた。争点は、この働きかけが総理の職務権限に属する行為かどうかである。

ここで問題になったのが、まさに今日のテーマです。閣議決定を経ずに行われた働きかけが、総理の職務権限に含まれるのか。

ロッキード事件の関係図(丸紅→総理へ依頼と現金五億円/総理→運輸大臣へ働きかけ/運輸大臣→全日空へ勧奨) 図:ロッキード事件の関係図

  • 丸紅→総理へ依頼と現金五億円
  • 総理→運輸大臣へ働きかけ
  • 運輸大臣→全日空へ勧奨

図で見ると、お金と働きかけが順番に流れていますね。丸紅から総理へ、総理から運輸大臣へ、運輸大臣から全日空へ。この連鎖の中の、総理から運輸大臣への働きかけが争われました。

判例判旨・多数意見

ロッキード事件(丸紅ルート)②——総理の地位(判旨) 内閣総理大臣は、憲法上、行政権を行使する内閣の首長として(六六条)、国務大臣の任免権(六八条)、内閣を代表して行政各部を指揮監督する職務権限(七二条)を有するなど、内閣を統率し、行政各部を統轄調整する地位にあるものである。

首長、任免権、指揮監督する職務権限。今日見た内容と同じです。最高裁は、この地位を確認したうえで、次の結論に進みます。

判例判旨・多数意見

ロッキード事件(丸紅ルート)③——閣議決定が無い場合の要件(判旨) 内閣総理大臣が行政各部に対し指揮監督権を行使するためには、閣議にかけて決定した方針が存在することを要するが、閣議にかけて決定した方針が存在しない場合においても、内閣総理大臣の右のような地位及び権限に照らすと、流動的で多様な行政需要に遅滞なく対応するため——

判例判旨・多数意見

ロッキード事件(丸紅ルート)④——結論(判旨) 内閣総理大臣は、少なくとも、内閣の明示の意思に反しない限り、行政各部に対し、随時、その所掌事務について一定の方向で処理するよう指導、助言等の指示を与える権限を有するものと解するのが相当である。

判例も、同じ結論に達しています。行政の現場は、日々いろいろなことが起きる、という意味です。閣議は、そのたびに開催できるものではありません。方針が無いときに総理が一切動けないと、行政の機動性が失われます。この実質的な理由は、一体性・連帯責任という趣旨と根っこでつながっています。結論として、最高裁は、総理の働きかけを職務権限に属する行為と認めました。ここで、境界を確認しておきましょう。この権限には歯止めがあります。具体例で見てみましょう。ある感染症対策で、総理が主任の大臣に病床確保を急いでほしいと言ったとします。

この指示は、許されます。内閣の意思に反していないからです。では、こういう場合はどうでしょうか。閣議で、今年度はある政策で進める、と正式に決定されていたとします。それなのに、総理が独断で正反対の政策を進めるよう指示したとします。この場合は、指導・助言の権限の範囲外になります。

内閣法六条と論証44の法的な強さの違い(六条=法的義務・主任大臣は従う義務/論証44=事実上の指示にとどまる) 図:内閣法六条と論証44の法的な強さの違い

  • 六条=法的義務・主任大臣は従う義務
  • 論証44=事実上の指示にとどまる

もう一つ、深めておきたい点があります。内閣法六条による指揮監督と、論証44が導く指導・助言は性質が違います。六条の指揮監督は、法的な効果を伴います。主任の大臣は、従う法的義務を負います。これに対して、論証44の指導・助言は、事実上の指示にとどまります。方針の無い場面で総理が持つのは——指揮監督権そのものではなく、指導・助言です。同じ行政各部への指示でも、根拠が違えば強さが違うんです。ここまでが、指揮監督権の全体像です。

論文で書くときの流れ、予告ボード 図:論文で書くときの流れ、予告ボード

この論証44とロッキード事件は、論文でも問われうる題材です。事案から問題提起、規範、あてはめへとつなげる書き方があります。それは、専用の論文動画で扱います。今日は、判例が何を言っているかの理解までにしておきます。では、国務大臣と文民規制に進みましょう。

国務大臣と文民規制

国務大臣の2つのかたち(主任の大臣=行政事務を分担管理/無任所の国務大臣も可) 図:国務大臣の2つのかたち(主任の大臣=行政事務を分担管理/無任所の国務大臣も可)

国務大臣は、総理が任命し、過半数は国会議員でなければなりません。六十八条一項です。多くの国務大臣は、行政事務を分担して管理します。これを「主任の大臣」と呼びます。内閣法三条一項です。ただし、必ず事務を持つ必要があるわけでもありません。特定の分野を持たない、無任所の国務大臣も認められます。内閣法三条二項です。特定のイベントの担当大臣のような、期間限定の役職が典型です。

条文日本国憲法 66条2項

日本国憲法 第六十六条 内閣は、法律の定めるところにより、その首長たる内閣総理大臣及びその他の国務大臣でこれを組織する。 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。 内閣は、行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負ふ。

もう一度、六十六条を見てください。今度は二項に注目します。総理も、ほかの国務大臣も、全員が文民でなければなりません。

文民規制の趣旨(明治憲法=軍の統帥は天皇大権・議会大臣の関与なし→反省→文民によるシビリアンコントロール) 図:文民規制の趣旨

通説では、自衛官でない者をいいます。明治憲法まで、さかのぼる必要があります。軍の統帥、つまり作戦や用兵の指揮は、天皇大権とされていました。議会や大臣が、関与できない領域だったんです。この反省から、国会に責任を負う文民が軍事の権限を——コントロールする仕組みを採りました。なお、文民の範囲には、職業軍人の経歴を持たない者とする——厳格な見解もあります。ですが、自衛隊ができた後は、現役の自衛官でない者とする見解が——通説として定着しています。政府の統一見解は、もう少し広く外します。自衛官の職にある者に加えて——旧軍の職業軍人の経歴があり、軍国主義的な思想に深く染まっていると考えられる者も、文民ではないとしています。

試験では、通説の「自衛官でない者」を軸に、政府見解がもう一つ足していると押さえてください。

論文で書く規範:「文民」の意味 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない(六十六条二項)。「文民」とは、自衛官でない者をいう。 (規範(通説で立てる。政府統一見解はこれに旧職業軍人の一部を加える))

「文民」の中身は、学説と政府見解が積み上げた理解です。では、最後のテーマ——内閣の総辞職に進みましょう。

内閣の総辞職——3つの場合を、条文の要件で見分ける

総辞職の一覧(①70条前段=総理が欠けたとき②70条後段=総選挙後の国会召集③69条=不信任決議可決/信任決議否決後10日以内に解散なし/いずれも71条=新総理任命まで職務継続) 図:総辞職の一覧

  • ①70条前段=総理が欠けたとき②70条後段=総選挙後の国会召集③69条=不信任決議可決
  • 信任決議否決後10日以内に解散なし
  • いずれも71条=新総理任命まで職務継続

内閣は、いつでも任意に総辞職できます。ですが、しなければならない場合が三つあります。覚えるより、条文の要件として見分けられれば十分です。

条文日本国憲法 70条

日本国憲法 第七十条 内閣総理大臣が欠けたとき、又は衆議院議員総選挙の後に初めて国会の召集があつたときは、内閣は、総辞職をしなければならない。

まず、前段です。「内閣総理大臣が欠けたとき」。死亡・国会議員たる地位の喪失・辞職が、これに当たります。

「欠けたとき」の境界(該当=死亡・国会議員の地位喪失・辞職/非該当=病気・一時的な生死不明は内閣法9条の事故で臨時代理) 図:「欠けたとき」の境界

  • 該当=死亡・国会議員の地位喪失・辞職
  • 非該当=病気・一時的な生死不明は内閣法9条の事故で臨時代理

そこが、大きな罠です。病気は「欠けたとき」に入りません。病気や一時的な生死不明の間は——内閣法九条の「事故のあるとき」に当たります。この場合は、指定された国務大臣が臨時代理を務めるだけです。内閣そのものは、存続します。「欠けた」か「事故」か、短答で狙われやすい見分けです。次に後段です。総選挙のあと、最初の召集があったとき、という要件です。それだけではありません。任期満了による総選挙でも、同じです。総選挙で衆議院の構成が変われば——その新しい衆議院のもとで、最初の召集があった時点で、内閣は総辞職します。

内閣は、衆議院に対する連帯責任の上に成り立っています。選挙で構成が変わった、新しい衆議院に対して——改めて信任を問い直す必要があるからです。次に、三つ目の場合を見てみましょう。

条文日本国憲法 69条

日本国憲法 第六十九条 内閣は、衆議院で不信任の決議案を可決し、又は信任の決議案を否決したときは、十日以内に衆議院が解散されない限り、総辞職をしなければならない

衆議院が、内閣を信任できないと表明したときの規定です。十日以内に解散されなければ、総辞職しなければなりません。参議院の問責決議のことですね。あれは、法的な効果を持ちません。総辞職につながる制度は、六十九条の衆議院不信任決議だけです。ここも、混同しないでください。最後に、いずれの場合にも共通するルールです。

条文日本国憲法 71条

日本国憲法 第七十一条 前二条の場合には、内閣は、あらたに内閣総理大臣が任命されるまで引き続きその職務を行ふ

新しい総理が任命されるまで、それまでの内閣が続けます。内閣が不在の空白を、作らないためです。行政は、一瞬たりとも止められません。三つの場合を、もう一度整理しましょう。一つ目は、総理が欠けたとき——意思決定の主体そのものがいなくなる場合。二つ目は、総選挙の後——新しい民意を、改めて問い直す場合。三つ目は、六十九条の不信任決議——衆議院からの直接の審判です。今日見てきた連帯責任という軸が、ここでも貫かれています。

内閣という組織は分かった、次はその中身

今日の到達点(①「首長」が一体性と連帯責任を強化する仕掛け②総理は単独・内閣は閣議決定という対比が論証44の土台③総辞職は3つの場合) 図:今日の到達点

今日の内容を、一つにまとめましょう。一つ目。「首長」という一語が、内閣の設計思想そのものでした。内閣を一枚岩にまとめ、国会に対する責任を全体で負わせるための仕掛けです。二つ目。総理個人の権限は単独で行使できます。内閣の権限には、閣議決定が要ります。この対比が、論証44——閣議決定が無いときの指揮監督権——の土台でした。三つ目。内閣の総辞職は、三つの場合に限られます。総理が欠けたとき、総選挙の後、そして六十九条の不信任決議です。今日の謎も、全部解けましたね。では、その内閣は具体的に何ができるのでしょうか。

次は、その列挙に進みます。それでは、また、お会いしましょう。

参照条文

  • 日本国憲法 66条
  • 日本国憲法 68条
  • 日本国憲法 75条
  • 日本国憲法 72条
  • 内閣法 6条
  • 日本国憲法 66条2項
  • 日本国憲法 70条
  • 日本国憲法 69条
  • 日本国憲法 71条

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