憲法ゼロから憲法#68

内閣の権限——違憲だと思う法律も、執行しなければならないのか

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第4章 統治 #68/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

今日の地図(保存版)

今日の地図(前回=総理は首長・内閣の明示の意思に反しない限り閣議決定なしでも指導助言/今日=①73条の全体像②1号=論証45③2号3号=条約④4〜7号⑤73条以外8つ) 図:今日の地図

  • 前回=総理は首長・内閣の明示の意思に反しない限り閣議決定なしでも指導助言
  • 今日=①73条の全体像②1号=論証45③2号3号=条約④4〜7号⑤73条以外8つ

その前に、一つだけ思い出してみてください。前回、内閣総理大臣を言い表した一語を覚えていますか?「首長」、です。総理大臣は内閣の首長である、と。そして「首長」だからこそ——閣議で方針を決めていなくても、総理は行政各部に指導や助言を与えられました。では、その内閣は、具体的に何ができるのでしょうか。それが、今日のテーマなんですね。今日は、大きく五つの切り口で見ていきます。一つ目、七十三条の全体像です。内閣の仕事は、一般の行政事務に加えて、七つの列挙が上乗せされる、という構造です。二つ目、一号——法律の誠実な執行と国務の総理。ここで、違憲だと思う法律も内閣は執行しなければならないのか、という問いに答えます。三つ目、二号と三号——外交関係の処理と条約の締結。今日いちばん分量の多いところです。四つ目、四号から七号——官吏・予算・政令・恩赦。五つ目、七十三条以外に定められた、内閣のその他の権限です。

特に三つ目の条約のところは、二つの山場を含みます。まずは、七十三条そのものから見ていきましょう。

七十三条の全体像——一般の行政事務に、七つが上乗せされる

73条の全体像(柱書=一般行政事務の外/1号法律の執行と国務の総理/2号外交関係の処理/3号条約の締結/4号官吏の事務掌理/5号予算の作成・国会提出/6号政令の制定/7号恩赦の決定) 図:73条の全体像

  • 柱書=一般行政事務の外
  • 1号法律の執行と国務の総理
  • 2号外交関係の処理
  • 3号条約の締結
  • 4号官吏の事務掌理
  • 5号予算の作成・国会提出
  • 6号政令の制定
  • 7号恩赦の決定

まず、内閣の権限がまとまって書かれている条文を、丸ごと見てみましょう。

条文日本国憲法 73条

日本国憲法 第七十三条 内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。 一 法律を誠実に執行し、国務を総理すること。 二 外交関係を処理すること。 三 条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。 四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。 五 予算を作成して国会に提出すること。 六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。 七 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を決定すること。

柱書に注目してください。「他の一般行政事務の外」とあります。内閣は、そもそも行政権を持つ機関として、日々のさまざまな行政の仕事を担っています。そこに、この条文が挙げる七つの仕事が、上乗せされる、という構造です。一般的な行政の仕事に加えて、この七つは、憲法が名指しで内閣の役割だと定めている、ということです。中身を、先に一覧で確認しておきましょう。一号、法律の誠実な執行と国務の総理。二号、外交関係の処理。三号、条約の締結。四号、官吏に関する事務の掌理。五号、予算の作成と国会提出。六号、政令の制定。七号、恩赦の決定。

覚えるというより、条文のどこに書いてあるか、答えられれば十分です。中身は、これから一つずつ見ていきます。まずは一号からです。

一号——法律の誠実な執行と国務の総理・違憲だと思う法律も執行するのか

73条1号(法律を誠実に執行し、国務を総理すること/権限であると同時に義務でもある) 図:73条1号

  • 法律を誠実に執行し、国務を総理すること
  • 権限であると同時に義務でもある

一号を、もう一度見てください。「法律を誠実に執行し、国務を総理すること」。ここから、内閣には法律を誠実に執行する権限があるだけでなく——執行をやめるという選択肢は認められない、義務としての性格も帯びる、と理解されています。ここで、一つ聞かせてください。もしあなたが総理大臣で、ある法律を「これは憲法違反だ」と思ったとします。それでも、その法律を執行しますか。九十九条の、憲法尊重擁護義務ですね。権限であると同時に義務でもある、という一号の性格が、ここで試されます。結論から言うと、内閣はやはり執行義務を免れません。これが通説です。

理由を、順番に組み立てていきましょう。

論証45(1/3)——①99条との緊張・②国会が唯一の立法機関(①99条=憲法尊重擁護義務との緊張/②41条後段=国会がすでに合憲だと判断して制定) 図:論証45

  • 1/3
  • ——①99条との緊張・②国会が唯一の立法機関(①99条=憲法尊重擁護義務との緊張/②41条後段=国会がすでに合憲だと判断して制定)

一段目。総理も国務大臣も、憲法を尊重し擁護する立場にあります。九十九条です。だから、自分が違憲だと判じた法律まで実行に移すのはおかしいのではないか、という発想が生まれます。二段目。ここで、法律を作っているのは誰か、考えてみましょう。四十一条後段は、国会を「唯一の立法機関」と位置づけています。国会が法律を作るとき、その法律が憲法に反していないかは、当然すでに検討されています。

論証45(2/3)——③ここが核心(合憲性の最終判断は内閣に配分されていない/国会が唯一の立法機関として既に合憲と判断) 図:論証45

  • 2/3
  • ——③ここが核心(合憲性の最終判断は内閣に配分されていない/国会が唯一の立法機関として既に合憲と判断)

三段目。ここが核心です。合憲かどうかを最終的に見極める役目は、内閣の側には割り振られていません。仮に内閣の目に違憲と映る法律であっても——それを成立させたのは、唯一の立法機関である国会です。内閣の一存で、その判断をひっくり返せるとしたら——国会に与えられた地位そのものが崩れてしまいます。これが、結論を支えている理由です。

論証45(3/3)——④最高裁が違憲と判断した場合・⑤結論の固さ(④81条=終局的な違憲審査権→執行義務が外れる/⑤通説ほど固くはない「妥当」水準) 図:論証45

  • 3/3
  • ——④最高裁が違憲と判断した場合・⑤結論の固さ(④81条=終局的な違憲審査権→執行義務が外れる/⑤通説ほど固くはない「妥当」水準)

四段目は、最高裁が違憲だと判断した場合です。最高裁は、法律が違憲かどうかを終局的に判断する権限を持ちます。根拠は八十一条です。法律や命令などが憲法に適合するかしないかを、終局的に決める裁判所を最高裁だと定めています。くわしくは違憲審査制の回で扱います。今日は、八十一条だと分かれば十分です。一方、最高裁の判断は、司法権が下す終局的な判断です。国会のように「これから作る」段階の判断ではありません。だから、最高裁が違憲と示した法律について——内閣が執行する義務は、そこで外れると考えられています。五段目の結論の固さは、少し違います。通説として固まっている、という強さではありません。そう解するのが妥当だろう、という水準の結論です。

ですから、ここは「例外がある」という向きまで押さえておけば十分です。ここまでを、五段でまとめておきましょう。

論文で書く規範:一号——違憲だと思う法律も、内閣は執行しなければならないのか 内閣は、自ら違憲だと判断した法律であっても、執行義務を免れない。四十一条後段が国会を「唯一の立法機関」と位置づけ、国会がすでに合憲だと判断して制定している以上、合憲性を最終的に見極める役目は内閣の側には配分されていないからである。もっとも、最高裁判所が違憲だと判断した法律については、この執行義務を免れると解される。 (規範(41条後段の趣旨から通説で立てる。答案の書き方は論文シリーズで扱う))

身近な例で確認(サークルの規約=総会が承認済み・会長は実行役/学生課が規約を無効と判定した場合だけ従わなくてよい) 図:身近な例で確認

  • サークルの規約=総会が承認済み・会長は実行役
  • 学生課が規約を無効と判定した場合だけ従わなくてよい

四十一条後段の趣旨から、解釈で組み立てた結論です。ここで、身近な例で確認しておきましょう。大学のサークルを思い浮かべてください。サークルの規約は、サークル総会がすでに審査して承認したものです。会長は、日々の運営でその規約を実行する立場にあります。勝手にその規約を無視して運営することはできません。規約の中身が適切かどうかは、もう総会が検討して承認済みだからです。ただし、例外があります。大学の学生課が「その規約は大学の規則に反していて無効だ」と正式に判定した場合は、話が別です。もう会長は、その規約に従わなくてもよいのです。ここが、最高裁の違憲判断と対応する部分です。

「国務を総理する」とは(国政全体が調和して進むよう舵取り/重要政策の企画立案・省庁間の調整を含む) 図:「国務を総理する」とは

  • 国政全体が調和して進むよう舵取り
  • 重要政策の企画立案・省庁間の調整を含む

もう一つ、一号には大事な言葉があります。「国務を総理する」という部分です。内閣が国政全体を見渡し、物事がばらばらに進まないよう舵取りをする働きです。そう理解されています。重要な政策の方向性を練ったり、省庁間の調整を担ったりすることも、ここに含まれます。この一号だけで、内閣の役割の土台がかなり見えてきます。止めてよいのは、最高裁が違憲だと示したときだけです。では、二号と三号——外交と条約に進みましょう。今日、いちばん分量の多いところです。

二号・三号——外交関係の処理と条約の締結

73条2号3号(2号=外交関係の処理/3号=条約の締結・ただし書き=事前または事後の国会承認) 図:73条2号3号

  • 2号=外交関係の処理
  • 3号=条約の締結・ただし書き=事前または事後の国会承認

二号は、外交関係の処理。三号は、条約の締結です。今日の分量の中心は、三号——条約のほうです。条約とは、国家同士が文書のかたちで結ぶ合意のことをいいます。国際法上の権利や義務を、新たに生み出したり書き換えたりするものです。背景には、二つの事情があります。一つは、外交という営みが、歴史的に政府の専権とされてきたこと。もう一つは、実際に相手国との折衝という実務を担ううえで——内閣がもっとも適した組織だということです。ただし、条約を結ぶ権限が内閣にあるといっても——それだけで手続が完結するわけではありません。

国会の承認(73条3号ただし書=事前または事後/61条=衆議院の優越/趣旨=民主的コントロール) 図:国会の承認

  • 73条3号ただし書=事前または事後
  • 61条=衆議院の優越
  • 趣旨=民主的コントロール

三号のただし書きを見てください。「事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする」とあります。しかもこの承認手続には、衆議院の優越が働きます。六十一条です。予算のときと同じ枠組みが、ここにも及びます。参議院と議決が食い違っても、両院協議会でまとまらなければ——衆議院の議決が、そのまま国会の議決になる仕組みでしたね。条約が結ばれると、その影響は国民生活の隅々にまで及びうるからです。だからこそ、国民を代表する国会からのチェックを利かせる必要があります。これが、民主的コントロールという考え方です。

ここで、承認が要る「条約」の範囲を確認しておきましょう。名前が「条約」でなくても——国家間で文書のかたちで交わされた合意であれば、原則としてすべて三号の対象に入ります。

国会承認が不要な2類型(①技術的・細目的な協定②条約が委任した事項についての行政協定/いずれも73条3号の対象外) 図:国会承認が不要な2類型

  • ①技術的・細目的な協定②条約が委任した事項についての行政協定
  • いずれも73条3号の対象外

ただし、二つの例外があります。一つ目は、既存の条約を実行に移すための、技術的・細目的な取り決めにとどまる協定。二つ目は、行政協定です。条約が「この範囲は政府同士で決めてよい」と具体的に委ねた事項について結ばれるものです。本体の条約が「実施の細かい手続は、あとで政府どうしで決めてよい」と委ねていたとします。その委任に基づいて結ばれる取り決めが、行政協定です。委任があるかどうかです。一つ目には、そういう委任はありません。実務の細かな取り決めまで一つずつ国会にかけていては、外交が動かなくなるからです。この二種類は、原則として三号の対象からは外れます。国会の承認は要りません。

ところが、ここで注意が要ります。

条文日本国憲法 98条

日本国憲法 第九十八条 この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。 日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。

でも、九十八条二項が使う「条約」は、範囲が違います。ここでの「条約」には、いま国会承認の対象から外した二種類の取り決めまで含まれます。九十八条二項では、広い意味で理解されています。三号では狭く、九十八条二項では広い。同じ「条約」という語が、条文番号によって違う範囲を指すんです。

「条約」の範囲、73条3号と98条2項(73条3号=狭義・技術的協定と行政協定を含まない/98条2項=広義・両方を含む) 図:「条約」の範囲、73条3号と98条2項

  • 73条3号=狭義・技術的協定と行政協定を含まない
  • 98条2項=広義・両方を含む

二つの条文は、そもそも聞いていることが違うからです。三号は、条約を結ぶのに内閣の一存でどこまでやってよいか、という問いです。どこから国会の統制を及ぼすべきか、という国内の権限配分の線引きです。九十八条二項は、日本が国際社会に対して負っている約束の話です。それを誠実に守るべきか、という遵守義務の対象を定める規定です。機能そのものが違うので、範囲が違って当たり前なんです。ここで、身近な例で確認しておきましょう。部活の新入生歓迎イベントを思い浮かべてください。会場や日程、予算といった大枠を決めるときは、部長は顧問の承認を得る必要があります。

でも、当日の席順や進行の細かい割り振りまで——いちいち顧問の承認を求めていたら、現場が回りません。ただし、この席順は部長の一存で決めたという細かい取り決めであっても——いったん相手、他の部やゲストと約束した以上、部として守らなければなりません。これが、三号と九十八条二項の関係に対応します。条文番号を言わずに「条約は」とだけ語ると、この区別がつかなくなります。答案でも、必ず条番号を添えてください。では、承認を欠いたまま条約が結ばれてしまったら、どうなるのか。今日、二つ目の山場に進みましょう。

国会の承認を欠く条約はどうなるか——事後の承認・条約修正権・締結の手続

論証46(1/3)——①国内法的無効・②国際法的効力は対立(①国会不承認の条約は国内法的に無効/②相手国の信頼保護を理由になお有効とする見解も) 図:論証46

  • 1/3
  • ——①国内法的無効・②国際法的効力は対立(①国会不承認の条約は国内法的に無効/②相手国の信頼保護を理由になお有効とする見解も)

たとえば、内閣が条約を結んだあとで、国会に承認を求めたとします。ところが、国会がこれを認めなかったとしましょう。まず、国内法のレベルでは、この条約は効力を持ちません。ここは動きません。問題は、国際法のレベルでの扱いです。条約の相手国が抱く信頼は、保護されるべきだという理由から——国際法上はなお有効だ、と考える立場もあります。

論証46(2/3)——③条件付無効説の条件(承認権規定の意味が諸外国にも周知の要件と解される場合には相手国の信頼は保護に値しない→国際法上も無効) 図:論証46

  • 2/3
  • ——③条件付無効説の条件(承認権規定の意味が諸外国にも周知の要件と解される場合には相手国の信頼は保護に値しない→国際法上も無効)

でも、ここで一歩踏み込んで考えてみましょう。そもそも国会の承認が必要だという憲法上のルールの中身が——相手国を含む諸外国のあいだで、広く知れ渡っている場合には、どうでしょうか。それなら、相手国の信頼を、特別に持ち出す必要はないはずです。手続を経ていないかもしれないと分かったうえで、条約を結んでいたことになるからです。そのときは、国際法の世界でも無効と扱ってよい。こうした、条件つきで無効を認めていく立場が、条件付無効説と呼ばれます。これが、妥当だと評価されています。

論文で書く規範:国会の事後の承認を欠く条約の効力 条約が国会の承認を得られなかったとき、その条約は国内法的には無効である。国際法上の効力については、相手国の信頼を保護すべきだとして有効とする見解もある。しかし、承認権を定めた規定の意味が国際的に広く知られた要件と受け止められている場合には、相手国の信頼はもはや保護に値しない。したがって、その場合には国際法上も無効となる(条件付無効説)。もっとも、日本国憲法では承認を要する「条約」(七十三条三号)の範囲そのものが定まっていないため、この説に立っても、国際法上はなお有効にとどまる場面が多い。 (規範(通説で立てる。答案の書き方は論文シリーズで扱う))

論証46(3/3)——④日本国憲法での帰結(73条3号の「条約」の範囲そのものが不明確→周知の要件と言い切れない→実際は多くが国際法上なお有効) 図:論証46

  • 3/3
  • ——④日本国憲法での帰結(73条3号の「条約」の範囲そのものが不明確→周知の要件と言い切れない→実際は多くが国際法上なお有効)

条件を満たせば無効、という結論だけで話を終えてはいけません。ここが、今日いちばん間違えやすいところです。日本国憲法のもとでは、そもそも国会の承認を要する「条約」の範囲そのものがはっきりしていません。範囲があいまいであれば、相手国にも十分知られているはずだ、という判定もぶれてしまいます。結果として、条件付無効説を採用しても——実際には、国会の承認を欠く条約の大半は、国際法上なお有効だ、という着地になりやすいんです。ここは、二段階の流れをセットで押さえてください。結論だけを切り取ると、逆向きの説明になってしまいます。

もう一つの身近な例(部内承認なしの約束・相手が内規を知っていれば守られなくてよい/知らなければ有効・範囲が曖昧なら有効側に転びやすい) 図:もう一つの身近な例

  • 部内承認なしの約束・相手が内規を知っていれば守られなくてよい
  • 知らなければ有効・範囲が曖昧なら有効側に転びやすい

もう一度、身近な例で確認しましょう。学校対抗の交渉ごとを思い浮かべてください。あるチームの主将が、外部のチームと約束を交わすには、部内の承認が要るという内規があるとします。主将が承認なしに結んだ約束を、守ってもらえなくてもおかしくありません。相手チームは、無理を承知で約束していたことになるからです。逆に、相手チームがその内規の存在をまったく知らなかったのなら——相手の信頼は保護に値し、対外的にはなお有効なままにしておくべきでしょう。範囲が曖昧なら、相手チームに知っていたはずだと言い切ることは難しくなります。

日本国憲法のもとでの条約が、まさにこの状態にあります。続いて、もう一つ確認しておきたい論点があります。国会の条約修正権です。

国会の条約修正権(修正は許容する見解が有力/効果は内閣への再交渉義務にとどまる) 図:国会の条約修正権(修正は許容する見解が有力/効果は内閣への再交渉義務にとどまる)

条約にも国会からの民主的コントロールを及ぼすべきだ、という憲法の趣旨に照らせば——修正も認めてよいとする見解が有力です。修正できることと、条約が書き換わることは別です。条約は相手国との合意で成り立つものなので——国会が修正したからといって、条約の文言そのものが自動的に書き換わるわけではありません。実際の効果は、内閣に対して、相手国と改めて交渉をやり直すよう義務づけるところにとどまります。そう理解されています。ここも、混同しないでください。最後に、条約を結ぶ手続そのものを確認しておきましょう。

条約締結の手続(内閣が交渉→全権委員が調印・署名→内閣が批准→天皇が認証・7条8号/国会の承認・73条3号ただし書と61条/天皇が公布・7条1号) 図:条約締結の手続

  • 内閣が交渉→全権委員が調印・署名→内閣が批准→天皇が認証・7条8号
  • 国会の承認・73条3号ただし書と61条
  • 天皇が公布・7条1号

まず、内閣が相手国と交渉に入ります。次に、内閣が任命した全権委員が、調印——署名をします。そのうえで、内閣が批准することによって、締結の手続が完了するのが原則です。国としてその条約を結び切るという意思を、最後にもう一度確かめる行為です。書面によって行います。調印は、交渉担当者どうしがいったん内容に合意した、という段階です。批准は、それを国として最終的に確定させる、もう一段上の行為になります。批准書には、天皇による認証が必要になります。七条八号です。この過程のどこかで、事前または事後の国会承認を経る必要があります。三号ただし書きと六十一条ですね。もう見たとおりです。

天皇がこれを公布します。七条一号です。この一連の段取り、条約締結の流れとして押さえておいてください。この一号の論証と、いま見た条約の論証は、どちらも論文で問われうる題材です。では、四号から七号——官吏・予算・政令・恩赦に進みましょう。

四号から七号——官吏・予算・政令・恩赦

4号〜7号(4号=官吏の事務掌理・国家公務員法/5号=予算の作成・国会提出・86条の議決/6号=政令の制定/7号=恩赦の決定) 図:4号〜7号

  • 4号=官吏の事務掌理・国家公務員法
  • 5号=予算の作成・国会提出・86条の議決
  • 6号=政令の制定
  • 7号=恩赦の決定

四号は、官吏に関する事務の掌理です。どのような基準で官吏を扱うかは、法律で定めることが求められています。この基準を具体化しているのが、国家公務員法です。四号は「法律の定める基準に従ひ」とだけ言っています。その法律が、国家公務員法だ、という位置づけです。次に、五号——予算の作成と国会提出です。ここでのポイントは、予算は内閣だけが作成できる、という点です。内閣がまとめた予算は国会に提出されて、審議を経たうえで——八十六条の議決を受けて、はじめて成立します。それは、また別の回で扱います。今日は、内閣だけが作れるという点を押さえてください。次は、六号——政令の制定です。ここは、もう少し掘り下げます。

6号政令の限界(憲法を直接実施する政令は作れない/「憲法及び法律」は一体で読む/罰則は法律の委任があれば可・6号ただし書) 図:6号政令の限界

  • 憲法を直接実施する政令は作れない
  • 「憲法及び法律」は一体で読む
  • 罰則は法律の委任があれば可・6号ただし書

六号が認めているのは、憲法と法律の規定を実施するための政令です。そう単純には読みません。ここで押さえたいのは、憲法そのものを直接実施する権限は、国会だけに与えられている、という点です。政令は、あくまで法律を実施するための道具にとどまります。二つを切り離さず、一体として読みます。「憲法を実施するために作られた法律」を、さらに実施するための政令、という意味です。憲法そのものを直接実施できるのは国会だけ、という原則の裏返しだからです。国会が唯一の立法機関だ、という考え方が、ここにも顔を出しています。では、罰則はどうでしょうか。罰則は、罪刑法定主義から、法律で定めるのが原則です。ですが、法律がその範囲を具体的に委ねていれば——政令のなかで罰則を設けることもできます。六号のただし書きです。

最後に、七号——恩赦の決定です。罪を犯した者を赦す、という制度です。細かな種類や手続は、恩赦法に委ねられています。では、七十三条以外に定められた、内閣のその他の権限に進みましょう。

七十三条以外の権限——内閣が持つ、もう八つの力

73条以外の8つ、相手で束ねる(天皇へ=①助言と承認3条7条/国会へ=②召集52条53条7条2号・③衆議院解散7条3号69条・④緊急集会54条2項ただし書/裁判所へ=⑤最高裁長官指名6条2項・⑥最高裁裁判官任命79条1項・⑦下級裁判所裁判官任命80条1項本文前段/財政=⑧予備費支出87条) 図:73条以外の8つ、相手で束ねる

  • 天皇へ=①助言と承認3条7条/国会へ=②召集52条53条7条2号
  • ③衆議院解散7条3号69条
  • ④緊急集会54条2項ただし書/裁判所へ=⑤最高裁長官指名6条2項
  • ⑥最高裁裁判官任命79条1項
  • ⑦下級裁判所裁判官任命80条1項本文前段/財政=⑧予備費支出87条

七十三条以外にも、内閣の権限として重要なものが、あと八つあります。相手が誰か、で束ねると、見通しが立ちます。一つ目は天皇に向いた権限。二つ目から四つ目は国会に向いた権限です。五つ目から七つ目は裁判所に向いた権限。八つ目だけが、お金の使い方の話です。内閣の権限なのに、相手が全部、内閣の外にあるからです。行政の内側の仕事は、さっき見た七十三条が引き受けています。七十三条の外に置かれた八つは、内閣が他の機関に働きかける形の権限なんです。権力分立は、機関を切り離して終わりではありません。互いに働きかける道を持たせて、初めて釣り合います。この八つは、その道にあたります。

では、一つずつ、条番号とセットで確認していきましょう。一つ目、天皇の国事行為に対する助言と承認。三条と七条です。二つ目、国会の召集権。五十二条、五十三条、七条二号です。三つ目、衆議院の解散権。七条三号と六十九条です。今日は、解散権そのものの話として、条番号だけ押さえておきます。四つ目、緊急集会の要求権。五十四条二項ただし書きです。前に見ましたね。衆議院がいないあいだ、参議院だけで代役を務める集まりです。五つ目、最高裁判所長官の指名権。六条二項です。六つ目、最高裁判所裁判官の任命権。七十九条一項です。

長官については指名、それ以外の最高裁判所裁判官については任命と、条文の言葉が違います。七つ目、下級裁判所裁判官の任命権。八十条一項本文前段です。六つ目と七つ目は、別の権限として区別してください。六つ目は最高裁判所の裁判官を、七つ目は下級裁判所の裁判官を対象にしています。七つ目は、最高裁判所が指名した者の名簿によって、内閣が任命する形を取ります。八つ目、予備費の支出権。八十七条です。予算の不足に備えて積んでおくお金です。使ったら、あとから国会の承諾が要る、と前に見ましたね。覚えるというより、どの条文に書いてあるか、答えられれば十分です。中身の詳しい話は、それぞれの回に譲ります。

実は、今日はどれも一覧にとどめます。ただ、この中に、とりわけ重要なものが一つ残っています。それは、まとめのところで話しましょう。

内閣の権限を、一枚の地図にする

今日の到達点(①73条=7つの列挙②論証45=誰が合憲性を判断するか③「条約」の広狭=73条3号と98条2項④論証46=条件付無効説と日本国憲法の帰結⑤4〜7号・73条以外8つ) 図:今日の到達点

今日の内容を、一つにまとめましょう。一つ目。七十三条は、柱書の一般行政事務に、七つの仕事が上乗せされる構造でした。二つ目。一号——違憲だと思う法律でも、内閣は執行義務を免れません。ただし、最高裁が違憲だと判断した法律は、話が別でした。三つ目。三号の「条約」は狭く、九十八条二項の「条約」は広い。条番号を言わずに「条約」とだけ語ると、答案では区別がつかなくなります。四つ目。国会の承認を欠く条約は、国内法的には無効です。国際法的には、条件付無効説が妥当ですが——日本国憲法では「条約」の範囲があいまいなので、実際には多くの場合、なお有効という帰結になりやすい。

五つ目。四号から七号は、官吏・予算・政令・恩赦でした。六号だけは、憲法を直接実施する政令は作れない、という理由まで押さえました。内閣の権限のうち、とりわけ重要なものが一つ残っています。衆議院の解散権です。それでは、また、お会いしましょう。

参照条文

  • 日本国憲法 73条
  • 日本国憲法 98条

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