部分社会の法理——一つの理論が壊れていく過程
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第4章 統治 #72/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
「あたる」のに、なぜ団体は別に扱われるのか
図:今日の一本道
- かつての有力説=部分社会の法理・団体を一括りにして対象外とする
- 今日の通説=理由を示さない一律排除を否定〔32条・特別権力関係論〕
- 最高裁自身も政党で一部修正・地方議会で判例変更
- 団体=大学・政党・労働組合・地方議会〔国の機関ではない〕
大学の中の処分でも、政党の中の処分でも、地方議会の中の懲罰でも——争いの中身だけを見れば、法律上の争訟の2要件を満たすことがあります。具体的な権利義務の争いで、法令の適用で終局的に解決できる。要件を満たしている——それでも、司法権の限界にあたるのではないか、という問題があります。前回見た、性質上の限界——自律権・裁量・統治行為——に、もう一つ加わります。今日のテーマ、団体の内部事項です。要件を満たしていても限界にあたるのは、問いが違うからです。2つの要件は、裁判所が扱える形の争いか、という問いでした。限界は、扱える形でも、裁判所が決めてよい事柄か、という問いです。
では、団体の場合、なぜ止まるのか。大学には学則があり、政党には党の規約があり、議会には議会のルールがあります。そのルールを作り、それに沿って自分たちで決める——法は、その仕組みを認めています。そこに裁判所がいちいち立ち入れば、その仕組み自体が、成り立たなくなります。今日見ていく団体は、大学、政党、労働組合、そして地方議会です。地方議会は、国会と同じ「議院」ではありません。国会そのものの内部規律は、前回見た自律権の話でした。地方議会は、国とは別の団体——今日は、この4つを見ていきます。ここで、今日の一本道を確認しておきましょう。かつては、これらの団体をひとまとめにして「一括で対象外」とする考え方が有力でした。でも、この考え方は、今日の通説によって否定されています。
そして最高裁自身も、政党の判決で一部修正し、地方議会の判決で判例を変更しました。まずは、その「一括で対象外」という考え方から見ていきましょう。
部分社会の法理——かつての有力説
図:部分社会の法理とは
- 団体を「一般市民社会とは異なる、特殊な部分社会」と見る
- 学説の定式=一般市民法秩序と直接関連しない、純然たる内部紛争は対象外
- 判決文の言葉=一般市民法秩序と直接の関係を有しない、内部的な問題
- 似ているが、別の言い回し
まず、かつて有力だった考え方を見てみましょう。大学や政党のような団体を、一般市民社会とは別の——自律的な法規範を持つ「特殊な部分社会」だと見ます。教室の中に、もう一つ小さな社会があるイメージに近いです。そして、その内部で起きる——「一般市民法秩序と直接関連しない、純然たる内部紛争」は、司法審査の対象から除外される。一般市民社会というのは、団体の外の、ふつうの社会のことです。その社会を規律している法のルール全体が、一般市民法秩序です。この考え方を、部分社会の法理といいます。ここで、注意してほしいことがあります。「一般市民法秩序と直接関連しない、純然たる内部紛争」——これは、学説がまとめた定式です。
判決文がそのまま使っている言葉ではありません。判決文が実際に使うのは、もう少し違う言い回しです。「一般市民法秩序と直接の関係を有しない、内部的な問題」。これから見る判決には、こちらの言葉が出てきます。この後、判決文を読むたびに、この言い回しを確認してください。
なぜ、この考え方は否定されたのか
図:なぜ、この考え方は否定されたのか
- 根拠=法秩序の多元性
- 批判=憲法上の根拠を示さず一般的・包括的に対象から外す
- 特別権力関係論が装いを新たに戻ってきたもの
- 裁判を受ける権利(32条)とも衝突する
一見、もっともらしく見えます。団体には、自分たちのルールで動く自由がある——この発想自体は、間違っていません。この発想の根拠は、法秩序の多元性と呼ばれます。国の法律だけがルールのすべてではなく、団体ごとに、その団体なりの法規範がある、という考え方です。では、学級会を思い浮かべてください。クラスの学級会が、ルールを守らなかった生徒について——「今日の号令係は、B君にする」と決めたとします。教室の中だけで完結する話だからです。でも、もし学級会が「Aさんは、今学期はもう教室に入れない」と決めたら、どうでしょうか。
なぜですか。教育を受ける権利、そのものに関わってくるからです。ここに、部分社会の法理の弱点があります。部分社会の法理は、この2つを区別しません。憲法上の根拠を示すこともなく、団体の中のことを一般的・包括的に、司法審査から外してしまいます。号令係の話も、教室に入れない話も、区別せずに、まとめて「内輪の話」にしてしまう。この発想、実はどこかで聞いたことがありませんか。特別権力関係論——国と特別な関係にある公務員や被収容者には——法律の根拠なく人権を制限でき、裁判所の審査も及ばない、という理論でした。
部分社会の法理は、特別権力関係論が——装いを新たに戻ってきたようなもの——そう批判されています。もう一つ、見過ごせない条文があります。
条文日本国憲法 32条
日本国憲法 第三十二条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
32条です。何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪われない。特別権力関係論への批判と、この32条——2つの理由から——今日の通説は、部分社会の法理を否定しています。
図:通説の判断枠組み
- ①団体の目的・性質・機能=強制加入か任意加入か
- ②自律性を支える憲法上の根拠=地方議会93条・大学23条・政党21条1項・労働組合28条
- ③紛争や争われている権利の性質/対象になるか、なるとしてどこまで審査するかを個別に判断する
一括りにはしません。団体ごとに、3つのことを見ます。一つ目、団体の目的・性質・機能です。強制的に加入させられる団体か、それとも自分の意思で入った団体か。学級会と、趣味のサークルでは、話が違いそうですね。二つ目、その団体の自律性を支える、憲法上の根拠です。大学なら23条——学問の自由から出てくる、大学の自治です。政党なら21条1項の結社の自由、労働組合なら28条の労働基本権。そして地方議会なら93条。これは今日、出席停止の判決で正面から使います。23条・21条・28条は、すでに見てきた条文ですね。今日は、この対応があることだけ押さえてください。三つ目、争われている権利の性質です。
この3つを考慮して——対象になるかどうかだけでなく、対象になるとして、どこまで審査するのか。ここまで、個別具体的に判断します。ここが、今日いちばん大事な形です。この後見る、政党の判決と、地方議会のある判決は——この「どこまで」の部分がなければ説明できません。ちなみに、この団体の内部事項という論点は、論文でも問われます。最高裁が、この一括りの理論をどう扱ってきたか——時系列で見ていきます。
大学の内部紛争——同じ日、逆の結論
図:大学の内部紛争
- 同じ大学・同じ日に出された2つの判決
- 片方は単位不認定、片方は専攻科修了不認定
- 同じ大学の事件、逆の結論
- 一つの判例として語らない
まずは、大学です。同じ日に出された、2つの判決を見ます。しかも、同じ大学が舞台です。片方は対象外、もう片方は対象——結論が逆になります。だからこそ、一つの判例として語らないでください。まったく別の事件です。一つ目、単位の不認定が争われた事件です。
判例最高裁判所第三小法廷判決・昭和52年3月15日
富山大学単位不認定事件 「一般市民社会とは異なる特殊な部分社会を形成している」以上、「一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題は…司法審査の対象から除かれるべきもの」である。単位の授与(認定)という行為は「…卒業の要件をなすものではあるが、当然に一般市民法秩序と直接の関係を有するものでないことは明らか」であり、「他にそれが一般市民法秩序と直接の関係を有するものであることを肯認するに足りる特段の事情のない限り、純然たる大学内部の問題として…司法審査の対象にはならない」。
学説の定式とは、少し違う言い方でしたね。単位を認定しないことは、卒業の要件ではあるけれど——それだけでは、一般市民法秩序と直接の関係を持つとは言えない、としています。号令係のレベルの話に近いです。ただし、留保があります。「特段の事情のない限り」です。判決自身が、手がかりを残しています。ある授業科目の単位を取ること自体が、一般市民法上、何かの資格要件になっている場合もある——そう認めているんです。「単位認定は絶対に対象外」ではありません。この留保を忘れないでください。では、同じ日のもう一つの事件です。専攻科の修了が認定されなかった事件です。
大学に置かれる、学部の課程の上の課程です。修了が認められなければ、そこで学んだこと自体が形になりません。
判例最高裁判所第三小法廷判決・昭和52年3月15日(同日・別事件)
専攻科修了不認定事件 「国公立の大学において…専攻科修了の認定をしないことは、実質的にみて、一般市民としての学生の国公立大学の利用を拒否することにほかならない」のであり、学生が「一般市民として有する公の施設を利用する権利を侵害するもの」というべきである。
この判決に、部分社会の語は出てきません。単位の話とは、入り口からして違います。「公の施設を利用する権利」という、別の道から入っています。専攻科の修了を認めない——それは、大学そのものを利用させない、教室に入れない話に近いんです。単位の不認定は、対象外。専攻科修了の不認定は、対象。ここまでで、部分社会の法理が壊れ始めているのが、見えてきましたか。一括りの理論では、この2つの結論の違いを説明できませんもんね。次は、政党です。
共産党袴田事件——審査しない、ではなく
図:共産党袴田事件——二段階の審査
- 政党が党員に除名処分
- 内部的な問題にとどまれば審判権は及ばない
- 権利利益を侵害する場合でも、審査は手続面のみ
- 「審査しない」ではなく「範囲を絞って審査する」
政党の内部処分も、同じように争われてきました。共産党袴田事件ですね。政党の内部のことは政党に任せる、というだけでは済まない——今日、その中身に入ります。事案は、党員に対する除名処分の効力が争われたものです。
判例最高裁判所第三小法廷判決・昭和63年12月20日
共産党袴田事件 政党は、任意に結成される政治結社であり、「議会制民主主義を支える上においてきわめて重要な存在」であるから、政党には「高度の自主性と自律性を与えて自主的に組織運営をなしうる自由を保障しなければならない」。政党が党員に対してした処分が一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り、裁判所の審判権は及ばない。「右処分が一般市民としての権利利益を侵害する場合であつても」、特段の事情のない限り、当該政党の規範に照らし「適正な手続に則つてされたか否かによつて決すべきであり、その審理も右の点に限られる」。
ここまでは、政党の自律性を強く尊重する話に聞こえます。でも、この判決には、二段階の審査があります。一段階目。内部的な問題にとどまる限り、審判権は及びません。二段階目です。処分が、一般市民としての権利利益を侵害する場合はどうか。そこが、今日の勝負どころです。少し考えてみてください。専攻科修了の認定のときは、全面的に審査していましたね。では、政党の処分で、権利利益が侵害される場合、裁判所は何を審査するでしょうか。全面的に審査するわけではありません。もう一度、判決の言葉を見てください。その政党のルールに照らして、手続きが適正だったかどうか——そこだけを審理します。
踏み込みません。政党は議会制民主主義を支える結社——その自主性は、21条1項の結社の自由が支えています。誰を党員として残すかという中身まで裁判所が決めれば、その自主性が失われる。だから、見るのは決め方までなんです。通常の部分社会の法理なら、権利利益を侵害する以上、全面的に審査するはずです。でも政党では、審査の範囲が、手続面だけに絞られます。ここが一部修正です。「審査しない」ではなく「範囲を絞って審査する」——ここを取り違えないでください。
愛知県議会事件——発言取消命令
図:愛知県議会事件——発言取消命令
- 県議会議員の発言に議長が取消しを命じた
- 議事録原本には発言が全て記載されている
- 取り消されたのは配布用の会議録だけ
ここから、地方議会に舞台を移します。3つの判決を見ていきます。まず、県議会議員の発言をめぐる事件です。ある県議会議員の発言について、議長が取消しを命じました。そこは正確に見る必要があります。議事録の原本には、発言はすべて記載されたままでした。取消しの対象になったのは、住民に配布する用の会議録だけです。この点を、事案の核として押さえてください。この事件で、最高裁はまず、一般論を述べています。
判例最高裁判所第一小法廷判決・平成30年4月26日
愛知県議会事件——一般論 「裁判所法3条1項にいう一切の法律上の争訟とは,あらゆる法律上の係争を意味するものではなく,その中には事柄の特質上自律的な法規範を有する団体の内部規律の問題として自治的措置に任せるのを適当とするものがある。そして,普通地方公共団体の議会における法律上の係争については,一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り,その自主的,自律的な解決に委ねるのを適当とし,裁判所の司法審査の対象とはならないと解するのが相当である」。
ここまでは、これまで見てきた枠組みと同じです。問題は、発言の取消命令が、その内部規律の問題にとどまるかどうかでした。そこで最高裁は、地方自治法を読みにいきます。議長に発言の取消しを命じる権限を認めた条文です。次に読む判決文の「同法」は、この地方自治法のことです。
判例最高裁判所第一小法廷判決・平成30年4月26日
愛知県議会事件——あてはめ 「同法は,議員の議事における発言に関しては,議長に当該発言の取消しを命ずるなどの権限を認め,もって議会が当該発言をめぐる議場における秩序の維持等に関する係争を自主的,自律的に解決することを前提としているものと解される」。……「県議会議員に対して議事における発言が配布用会議録に記載される権利利益を付与したものということはできない。したがって,県議会議長により取消しを命じられた発言が配布用会議録に掲載されないことをもって,当該発言の取消命令の適否が一般市民法秩序と直接の関係を有するものと認めることはできず,その適否は県議会における内部的な問題としてその自主的,自律的な解決に委ねられるべきものというべきである」。……「以上によれば,県議会議長の県議会議員に対する発言の取消命令の適否は,司法審査の対象とはならないと解するのが相当である」。
ただ、ここは理由まで押さえてください。二つあります。一つは、発言そのものは、原本に残っているからです。記録として残す仕組みは、そのまま保たれています。もう一つは、会議録をどう作り、どこまで配るか——これは、議会が自分たちで決める、議事の運営そのものだからです。法は、議員一人ひとりに、配布用に載せろと言える権利までは与えていません。掲示用の議事録から、一文が消えた——号令係を外されるより、さらに手前の話です。だから、取消命令の適否は、内部的な問題にとどまり——司法審査の対象にはなりません。では、この判決が決めたのは、どこまででしょうか。
決まったのは、配布用の会議録に載るかどうかだけです。議員の身分や、議員としての活動そのものを止める処分——このあと見る出席停止や除名は、また別の話になります。それともう一つ。この一般論の中で、実は、後で見る大事な判決が引用されています。地方議会について、部分社会の法理を最初に採用した判決です。出席停止の判決のところで、詳しく見ましょう。
名張市議会事件——入口と本案
図:名張市議会事件——入口と本案
- 議会運営委員会が議員へ厳重注意処分/通知書を新聞記者のいる議長室で朗読・交付/議員は名誉を傷つけられたとして国家賠償を請求
- ①訴えは適法
- ②議会の自律的判断を尊重し違法性なし
次は、少し複雑な事件です。ある議員が、公務の視察旅行を欠席しました。それを理由に、議会運営委員会が、その議員に厳重注意処分を行いました。厳重注意は、地方自治法が定める懲罰ではなく、この議会の要綱にもとづく措置です。判決自身も、特段の法的効力を持つものではない、と述べています。そして、この処分の通知書を、市議会議長が——新聞記者のいる議長室で、朗読して交付しました。名誉を傷つけられたとして、国家賠償を求めて訴えました。ここで、判決は二段構えで答えています。
判例最高裁判所第一小法廷判決・平成31年2月14日
名張市議会事件 「これは,私法上の権利利益の侵害を理由とする国家賠償請求であり,その性質上,法令の適用による終局的な解決に適しないものとはいえないから,本件訴えは,裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たり,適法というべきである」。……「普通地方公共団体の議会は,地方自治の本旨に基づき自律的な法規範を有するものであり,議会の議員に対する懲罰その他の措置については,議会の内部規律の問題にとどまる限り,その自律的な判断に委ねるのが適当である……。そして,このことは,上記の措置が私法上の権利利益を侵害することを理由とする国家賠償請求の当否を判断する場合であっても,異なることはないというべきである。」「したがって,普通地方公共団体の議会の議員に対する懲罰その他の措置が当該議員の私法上の権利利益を侵害することを理由とする国家賠償請求の当否を判断するに当たっては,当該措置が議会の内部規律の問題にとどまる限り,議会の自律的な判断を尊重し,これを前提として請求の当否を判断すべきものと解するのが相当である」。
ここを、絶対に取り違えないでください。「法律上の争訟にあたらない」わけではありません。訴えは、きちんと受理されています。求めているのは、お金の賠償です。名誉を傷つけられたという、私法上の権利利益の侵害を理由にした請求——具体的な権利義務の争いだという第1要件は、明らかにクリアします。判決が確かめたのは、その先です。性質上、法令の適用で終局的に解決できるか、という第2要件のほうです。本案——つまり中身の判断で、負けています。措置が議会の内部規律の問題にとどまる限り、議会の自律的な判断を尊重する。そう述べたうえで、国家賠償法上の違法性を否定しました。
入口の話と、中身の話は、別の階層です。以前見た、門前払いの話——法律上の争訟にあたるかどうかの話と、混同しないでください。開いた入口の先で、議会の自律性が、判断材料として効いてくる——それが今回の形です。さて、ここで少し、前回の内容を思い出してください。前回、統治行為論の適用範囲を絞ったこと、覚えていますか?「他の理論で説明できるなら使わない」という話でしたね。一括りの理論に頼らず、個別に見ていく、という発想でした。今日、ここまで見てきた大学と政党の判例も、実は同じ発想でした。今日いちばんの更新点が、ここにあります。
出席停止——最高裁が判例を変えた場所
図:従来の判例——山北村議会事件
- 部分社会の法理に立脚
- 出席停止のような懲罰は「議員の権利行使の一時的制限に過ぎない」として対象外
- ただし除名処分は「議員の身分の喪失に関する重大事項で、単なる内部規律の問題に止らない」として、当時から対象
舞台は、また地方議会です。ある議員が、本会議での発言を理由に、議決によって23日間の出席停止という懲罰を受けました。この議員は、出席停止の取消しと——減額された議員報酬、27万8300円あまりの支払いを求めて、出訴しました。まず、従来の判例を見てみましょう。名前は、山北村議会事件といいます。この判決は、部分社会の法理に立って、出席停止のような懲罰について——「議員の権利行使の一時的制限に過ぎない」として、対象外としていました。ただし、これには例外がありました。除名処分です。この判決自身が、除名については——「議員の身分の喪失に関する重大事項で、単なる内部規律の問題に止らない」として——当時から審査の対象としていました。
これを、必ず覚えておいてください。除名は、最初から対象だったんです。では、この従来の判例を、最高裁が自分で変えた判決を見てみましょう。
判例最高裁判所大法廷判決・令和2年11月25日
岩沼市議会事件 出席停止の懲罰を科されると,議員は「議事に参与して議決に加わるなどの議員としての中核的な活動をすることができ」ず,「住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たすことができなくなる」。このような出席停止の懲罰の性質や議員活動に対する制約の程度に照らすと,「これが議員の権利行使の一時的制限にすぎないものとして,その適否が専ら議会の自主的,自律的な解決に委ねられるべきであるということはできない」。そうすると,出席停止の懲罰は,議会の自律的な権能に基づいてされたものとして,議会に一定の裁量が認められるべきであるものの,裁判所は,常にその適否を判断することができるというべきである。したがって,普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は,司法審査の対象となるというべきである。
図:岩沼市議会事件——最高裁が踏み込んだ理由
- 出席停止=「議事に参与して議決に加わる」議員としての中核的な活動ができない
- 「住民の負託を受けた議員としての責務」を十分に果たせなくなる
- だから「権利行使の一時的制限にすぎない」として議会に委ねきることはできない
- 議会に一定の裁量は認められる
- もっとも裁判所は常にその適否を判断できる
出席停止のあいだ、議事に参加できず、議決にも加われません。それは、住民から選ばれた議員としての責務を、果たせなくなることを意味します。号令係を外される程度の話ではありません。だから最高裁は、山北村議会事件の言い回しを、名指しで否定しました。「議員の権利行使の一時的制限にすぎないものとして……ということはできない」。そして、こう続けます。議会に一定の裁量は認められるものの——裁判所は、常にその適否を判断することができる。結論として、出席停止の懲罰の適否は、司法審査の対象となる、としました。判決は、地方議会という制度そのものの土台に、理由を求めています。
条文日本国憲法 93条
日本国憲法 第九十三条 ①地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置する。 ②地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
議会の議員は、住民が直接選挙で選びます。93条2項です。その議員を、議決の場から締め出す——それは、住民の負託そのものを軽く扱うことになります。ただ、ここで一つ確かめておきましょう。93条は、さっき、何の根拠として出てきましたか。議会の自治を支える、憲法上の根拠、でしたね。ところが今は、同じ93条が、逆の向きで効いています。議会が自分たちで決められるのは、住民が直接選んだ議員の集まりだからです。その同じ理由が、議員を議決の場から締め出すときには、裁判所が入る理由になります。何が争われているかで、同じ条文の効き方が変わります。では、山北村議会事件と岩沼市議会事件を、並べてみましょう。
図:出席停止——山北村と岩沼の対比
- 山北村議会事件=出席停止は対象外、除名は対象
- 岩沼市議会事件=出席停止は対象(判例変更)、除名は対象(変わらず)
- 変わったのは、出席停止だけ
変わったのは、出席停止だけです。除名処分は、山北村議会事件の時点から、ずっと審査の対象でした。そこは、絶対に取り違えないでください。
6つの判決を、まとめる
図:判例のまとめ①——大学と政党
- 大学=単位不認定は対象外・専攻科修了不認定は対象
- 政党の処分=内部的な問題にとどまれば対象外・権利利益を侵害する場合は対象、ただし手続面のみ
ここまで見てきた6つの判決を、団体ごとに整理しましょう。大学は、2つに割れました。単位の不認定は対象外、専攻科修了の不認定は対象です。政党の処分は、内部的な問題にとどまれば対象外。権利利益を侵害する場合は対象ですが、審査は手続面だけです。次は、地方議会です。
図:判例のまとめ②——地方議会
- 発言取消命令=対象外
- 厳重注意処分=対象、ただし議会の自律的判断を前提
- 出席停止=対象、令和の判例変更・議会に一定の裁量
- 除名処分=対象、変更前から一貫
発言の取消命令は、対象外でした。厳重注意処分は、訴えは適法、そのうえで議会の自律的判断を前提に判断されます。出席停止は、対象——これが判例変更の中身でしたね。除名処分は、変更前から、ずっと対象でした。「地方議会だから」で、一括りにはできません。
今日の地図(保存版)
図:今日の到達点
- ①部分社会の法理——理由を示さない一括排除は否定された
- ②通説は団体ごとに、対象になるか・どこまで審査するかを個別に判断
- ③最高裁も、大学・政党・地方議会でこれを実演してみせた
- ④変わったのは出席停止だけ——除名は一貫して対象
今日の内容を、まとめておきましょう。一つ目。かつては、部分社会の法理という考え方が有力でした。団体を一括りにして、内部紛争は司法審査の対象から外す、という考え方です。だから、特別権力関係論の焼き直しだと批判され、32条とも衝突していました。二つ目。今日の通説は、団体ごとに、3つの手がかりで個別に判断します。団体の目的・性質、自律性を支える憲法上の根拠、そして争われている権利の性質——この3つです。そのうえで、対象になるかだけでなく、どこまで審査するかまで問います。三つ目。最高裁自身も、この個別具体性を、実際にやってみせました。大学は、同じ日に、結論が2つに割れました。
政党は、対象外ではなく、審査の範囲を手続面に絞る一部修正がされました。地方議会は、出席停止について、最高裁自身が判例を変更しました。除名は、判例変更の前から一貫して審査の対象です。変わったのは、出席停止だけでした。覚えるべきは、「部分社会だから裁けない」という結論ではありません。団体の性質と、支える条文と、争われている権利を見て、個別に組み立てる、という手つきそのものです。裁判所が、何を裁けるかは、これで見えてきました。では、その裁判所自身は、誰から、どう守られているのでしょうか。次に見ていく話です。
それでは、また、お会いしましょう。
参照条文
- 日本国憲法 32条
- 日本国憲法 93条