立法不作為と国家賠償——国会が「作らなかったこと」を争う
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第4章 統治 #79/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
問題の所在——「法律が無い」せいで権利が使えない
図:問題の所在
- 憲法上の権利を実現するために法律が必要なのに、国会がその法律を作らない場面がある
- 典型例=海外に住む日本人が、国政選挙で投票するための法整備を国会が行わない場合
- 作為の場合(権利を侵害する法律を作った場合)も同じ土俵=勝つには立法行為が「違法」でなければならない
憲法上の権利を実現するために、法律が必要な場面があります。ところが、その法律を国会が作らない、ということがあります。典型例が、海外に住む日本人が、国政選挙で投票するための法整備です。選挙権は憲法で保障されていますが、実際に投票するには、公職選挙法のような手続の法律が必要です。この仕組みを国会が作らなければ、権利は絵に描いた餅のままです。こうした立法の不作為で権利の実現が妨げられている人が、救済を求める方法の一つが、国会の立法不作為を理由とする国家賠償請求訴訟です。もう一つ、確認しておきたいことがあります。今の話は、国会が「作らなかった」場合でした。逆に、国会が権利を侵害する法律を「作った」場合もありますよね。
そちらも、同じ土俵で扱えます。権利が侵害されている人が、その法律を制定した行為——立法の作為を理由に、国家賠償請求訴訟を起こすこともできます。そして作為でも不作為でも、勝つためには同じ一点が必要になります。その立法行為が、国家賠償法一条一項の言う「違法」だと言えること。これです。では、国会議員の立法行為は、どんな場合に国家賠償法上「違法」となるのか。これが、今日を最後まで貫く問いです。
どの訴訟で争うのか——訴訟類型の選別
図:訴訟類型の選別
- 違憲確認訴訟=不可〔通説〕。理由は①権力分立②実効性がない
- 国家賠償請求訴訟=可〔判例〕。お金の請求という具体的な権利義務の争いにすることで、付随的審査制の枠に乗る
- 本当に欲しいのは法律。この回で追うのは、実際に判例が積み重なってきた国家賠償請求のルート=迂回路
この「違法」の話に入る前に、一つ確認させてください。思い出してください。裁判所が違憲かどうかを審査できるのは、どんな形の争いのときでしたか?裁判所が違憲審査をできるのは、具体的な権利や利益をめぐる争いのときだけ。これが付随的審査制でした。今日の話は、この付随的審査制と深く関わってきます。まず、代表的な選択肢を二つ見てみましょう。一つは、違憲確認訴訟です。「この立法不作為は違憲だ」と、裁判所に確認してもらう訴訟です。ところが、この訴訟は通説上、できないとされています。理由は二つあります。一つ目は権力分立です。裁判所が「違憲だから立法せよ」と国会に命じることになってしまいます。
もう一つの理由は、実効性がないことです。仮に違憲だと確認されても、それだけでは国民の権利に、直ちに何も起きません。ここで注意してほしいことがあります。これは通説の考え方であって、判例がこの訴訟を否定したわけではありません。この違いは覚えておいてください。では、もう一つの選択肢はどうでしょうか。国家賠償請求訴訟です。こちらは、公権力の行使について公務員に故意または過失があり、それが違法だと評価できれば、認められます。お金の請求は、具体的な権利義務をめぐる争いです。だから、付随的審査制の枠に、きちんと乗ります。
ただ、ここではっきりさせておきたいことがあります。本当に欲しいのは、法律です。お金ではありません。具体的な法律関係の確認を求める形なら、道はあります。実際、在外国民の事件では「投票できる地位にあることの確認」が認められました。ただ、立法不作為そのものを違憲だと確認する形は通説上難しく、要件の積み重ねが判例として残っているのは国家賠償のルートです。国家賠償請求訴訟は、いわば迂回路です。この必然性を、まず持っておいてください。
国家賠償法1条1項——勝つために要るもの
図:国家賠償法1条1項
- 成立要件(①〜⑤)
- ①公権力の行使にあたる公務員が
- ②その職務を行うについて
- ③故意又は過失によって
- ④違法に
- ⑤他人に損害を加えたとき/今日の争点は④「違法」の一点
では、迂回路の中身を見ていきましょう。国家賠償請求訴訟で条文になるのが、国家賠償法一条一項です。
条文国家賠償法 1条1項
国家賠償法1条1項 国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
この条文は、制定された昭和二十二年から、一度も改正されていません。だから、この表記のままです。中身を分解してみましょう。要件は五つあります。一つ、公権力の行使にあたる公務員が。二つ、その職務を行うについて、三つ、故意又は過失によって。四つ、違法に。五つ、他人に損害を加えたとき。ただ、今日じっくり見るのは、この中の一点だけです。四つ目の「違法に」です。一つ目から三つ目、それに五つ目には、今日は立ち入りません。この条文そのものと、公務員個人が直接には責任を負わないことは、以前、国家賠償請求権を扱ったときに見ました。そのとき確認したとおり、憲法十七条は、法律があって初めて動く権利です。それを具体化する法律が、この国家賠償法です。
国会議員の立法行為が「公権力の行使」にあたるかどうかは、争われていません。立法行為が公権力の行使にあたること自体は、当然の前提とされています。争いはすべて、その行為をどんなときに「違法」と評価するか、この一点に集中しています。この後見る三つの判例は、すべてこの「違法」の中身を、少しずつ動かしてきた歴史です。
在宅投票制廃止事件——違憲性と違法性は区別される
図:在宅投票制廃止事件の事案
- 公職選挙法上の在宅投票制度が廃止され、その後も設ける法改正がされなかった
- 身体の障害で投票所に行けなかった原告が、廃止と立法不作為は憲法15条1項などに違反し違法だとして、国に精神的損害の賠償を求めた
最初の判例です。在宅投票制廃止事件を見ましょう。かつて公職選挙法には、自宅で投票できる在宅投票制度がありました。ところが、この制度は不正利用が問題になり、廃止されてしまいました。その後、国会は、在宅投票制度を復活させる法改正を、長い間しませんでした。身体の障害のために投票所に行けず、選挙権を行使できなかった人が、この廃止と、その後の立法の不作為は、憲法十五条一項などに違反して違法だとして、国に精神的な損害の賠償を求めました。最高裁は、ここでとても大事な原則を示しました。
判例最高裁判所第一小法廷判決・昭和60年11月21日
在宅投票制廃止事件——違憲性と違法性の区別 国家賠償法一条一項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである。したがつて、国会議員の立法行為(立法不作為を含む。以下同じ。)が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であつて、当該立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反する廉があるとしても、その故に国会議員の立法行為が直ちに違法の評価を受けるものではない。
いちばん大事なのは、その真ん中です。「国会議員の立法過程における行動が、個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題」です。違法性は、ここだけを見る、という意味です。前半と後半、それぞれ大事な意味があります。前半は、違憲性と違法性を区別するという原則そのものです。立法の中身が憲法に違反していたとしても、それだけで立法行為が違法だとは、直ちには言えません。違憲なら当然に違法にもなる、と感じるのが自然です。でも、ここには理由があります。
図:なぜ2枚看板になるのか
- 違憲審査=規定が憲法に合っているかを見る
- 国賠の違法=公務員がやったことが職務上の法的義務に反するかを見る
- 同じ「ダメ」でも、憲法に対してダメと、賠償責任を負うほどダメは別の物差し
ここは、少し丁寧に考えてみましょう。看板が二枚、別々に掛かっている、と思ってください。一枚は違憲審査の看板、もう一枚は国家賠償の看板。掛かっている看板が違えば、当てるものも違います。違憲審査は、その規定が憲法に合っているかどうかを見ます。一方、国賠法上の違法は、さっき読んだとおり、公務員の行動が、職務上の法的義務に違背したかどうかを見ます。身近なところで言えば、学校の校則です。校則の中身が、生徒の権利を行き過ぎて縛っていないか——これは、決まりそのものを見る問いです。それとは別に、その校則を直さないままにした学校側が、目の前の生徒に償わなければならないほどのことをしたのか——こちらは、決めた側の行動を見る問いです。
同じ「ダメ」という評価でも、憲法に対してダメだということと、被害を受けた人に対して賠償責任を負うほどダメだということは、別の物差しなんです。これが、今日いちばんの土台になる考え方です。そのうえで、後半の部分が定式です。
判例最高裁判所第一小法廷判決・昭和60年11月21日
在宅投票制廃止事件——例外的な場合の定式 ……国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法一条一項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。
図:在宅投票制廃止事件の定式
- 立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているのに、国会があえてその立法を行うという、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、違法の評価を受けない
- 結論の要約に注意=「絶対にできない」ではなく「この判決のあと、立法不作為で国が負ける道はほぼ無くなった」
「一義的な文言に違反」というのは、条文の読み方そのものが、憲法に真っ向から反している場合を指します。しかも「あえて」その立法を行った、とまで言える場合です。ここで、結論の受け止め方に気をつけてほしいことがあります。この判例のことを「立法不作為では絶対に国家賠償できない」とまとめてしまう人がいます。そう言い切ってしまうのは、正確ではありません。この判例は、立法不作為を争う道を事実上閉ざした、というくらいの強さです。「絶対にできない」と「事実上、道がほとんど無い」は、同じではありません。答案で効きます。「立法不作為では国家賠償はできない」と書き切ってしまうと、それは誤りになります。判例が狭くしたのは道の幅であって、道そのものを無くしたわけではありません。
さて、ここで一つ考えてみてください。この定式は、かなり狭い例外でした。次に見る判例で、この道は広がったと思いますか、それとも変わらなかったと思いますか。その予想を、次で確かめましょう。
在外国民選挙権事件——道を若干拡大する
図:在外国民選挙権事件の事案と要件
- 事案/衆議院議員選挙のとき、国外に居住していたため選挙権を行使できなかった原告らが、国に精神的損害の賠償を求めた/違法となる場合
- ①権利を違法に侵害することが明白な場合
- ②権利行使の機会確保に立法措置が必要不可欠で明白なのに、国会が正当な理由なく長期にわたって怠る場合
二つ目の判例です。在外国民選挙権事件を見ましょう。衆議院議員選挙のとき、国外に住んでいたために、当時の公職選挙法では選挙権を行使できなかった人たちがいました。この原告らが、国に精神的な損害の賠償などを求めました。最高裁は、こう判示しています。
判例最高裁判所大法廷判決・平成17年9月14日
在外国民選挙権事件 ……立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるものというべきである。
厳しいままだろうという予想は、良い勘でしたが外れました。ここが今日のおもしろいところです。二つの条件を見てください。一つ目は、権利を違法に侵害することが明白な場合。二つ目は、権利行使の機会を確保するために立法措置が必要不可欠で、それが明白なのに、国会が正当な理由なく長期にわたって怠る場合です。在宅投票の言い方とのこの違いが、今日いちばんの変化です。一点で言い切りましょう。在宅投票の「一義的な文言に違反」は、条文の読み方の話です。憲法に書かれている言葉に真っ向から反しているかどうか、という話でした。在外の二つ目の条件は、立法措置が必要不可欠かどうか、つまり、権利を使わせるために法律が要るかどうか、という話に軸が移っています。
だからこそ、これまで正面から扱いにくかった立法不作為も、正面から入ってくるようになりました。この事件では、賠償が認められました。国は、賠償を命じられています。満たしたのは、二つ目の条件です。一度は法案が出されながら成立せず、その後も長い間、何の措置もとられませんでした。だから「正当な理由なく長期にわたって怠った」と評価されたんです。ただし、無条件にではありません。さっきの二つの条件を満たしたときだけです。ここは、両方の見方を持っておいてほしいところです。最高裁自身は、在宅投票の判決と「異なる趣旨をいうものではない」という立場をとっています。判例を変えたとは言っていません。
ただ、実質的には判例を変更したのだと捉える見解も有力です。どちらか一方だけを正解にしないでください。
図:在宅投票と在外の差
- 在宅投票制廃止事件=軸は一義的な文言に違反しているか〔条文の読み方〕
- 在外国民選挙権事件=軸は権利行使に立法措置が必要不可欠か〔必要性〕
- 判例変更かどうか=最高裁は否定するが、実質的な判例変更ととらえる見解も有力
二つだけ、範囲を確認しておきます。在外国民の選挙権そのものの合憲性は、以前すでに扱いました。今日は、あくまで国家賠償の要件論だけを見ます。もう一つ、最高裁の裁判官に対する国民審査でも、在外の人に投票を認めなかったことが憲法違反だと判断された、別の事件があります。そちらでも、今日と同じ枠組みが使われています。
女性再婚禁止期間違憲訴訟——明白性の要件に「長期」が加わる
図:女性再婚禁止期間違憲訴訟の判旨
- 法律の規定が権利利益を合理的な理由なく制約し憲法違反であることが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたって改廃を怠る場合は違法
- 読み取るべき変化=在外の①〔明白性〕にも「長期」の要件が上乗せされた
三つ目の判例に入る前に、思い出してほしい事件があります。女性の再婚禁止期間を定めていた規定を、憲法違反だと判断した事件を覚えていますか。実はあの事件、国を訴える訴訟の形もとっていました。規定は違憲だと判断されました。では、賠償は認められたと思いますか。認められたのかどうかは、判旨を見てから確かめましょう。まず、この事件で示された規範を見てみましょう。
判例最高裁判所大法廷判決・平成27年12月16日
女性再婚禁止期間違憲訴訟——要件 もっとも,法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては,国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして,例外的に,その立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けることがあるというべきである。
そこに気づけたのはすごいです。在外国民選挙権事件と似ているようで少し違う、というところが、この判例で読み取るべき変化です。在外のときの一つ目の条件、権利侵害が明白な場合には、時間の要件は付いていませんでした。ところが、この判例は、その一つ目の条件にも、正当な理由なく長期にわたって改廃を怠る、という要件を上乗せしました。在外の枠組みを、そのまま維持したのではありません。より狭く絞ったんです。そのうえで、結論を確認しましょう。この事件では、再婚禁止期間のうち、百日を超える部分を、憲法十四条一項と二十四条二項に違反するとして、違憲だと判断しました。
ところが、賠償は認められませんでした。国家賠償請求は、棄却されています。最高裁は、その理由を、判決文でこう述べています。
判例最高裁判所大法廷判決・平成27年12月16日
女性再婚禁止期間違憲訴訟——結論 以上によれば,上記当時においては本件規定のうち100日超過部分が憲法に違反するものとなってはいたものの,これを国家賠償法1条1項の適用の観点からみた場合には,憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反することが明白であるにもかかわらず国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等の立法措置を怠っていたと評価することはできない。したがって,本件立法不作為は,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないというべきである。
理由はこうです。この規定については、以前すでに、最高裁が別の事件で、直ちにその立法不作為が違法となるような、例外的な場合にあたるとは解する余地がない、と判断していました。ここで効いてくるのが、「明白」を誰の側から見て測るか、です。国会の側からです。最高裁自身が、この規定は例外的な場合にあたる余地は無い、と言っていたのですから、国会の側で違憲だと分かっていたはずだ、とは言えません。だから、問題になった時点で、この規定が憲法に違反すると言えることが、国会にとって明白だったとまでは言えない、とされました。
違憲という結論と、賠償という結論が、ここで初めてはっきり分かれました。
図:違憲でも国家賠償は別
- 民法733条1項〔当時〕の100日を超える部分=違憲〔14条1項・24条2項〕
- 国家賠償請求=棄却〔明白性の要件を満たさない〕
- 違憲でも、賠償は別=「違憲と違法は別」が結論の形で実証される
この結果を、最初に立てた原則と、結び付けておきましょう。立法の中身が違憲であることと、国会議員の立法行為が国賠法上違法であることは、別の評価だと言いましたね。あのときは、まだ理屈の話でした。この事件で、その理屈が、結論の形で実際に起きています。違憲でも、賠償が認められないことがある。今日の一問にも、そのままつながる話です。ここで、短答で問われる小さな知識も確認しておきましょう。在宅投票制廃止事件は、実は小法廷の判決です。今見た在外国民選挙権事件と、女性再婚禁止期間違憲訴訟は、どちらも大法廷の判決です。
判決を出した法廷の種類も、短答で問われることがあるので、覚えておいてください。ここまでで、三つの判例が出そろいました。まとめに入りましょう。
まとめ——論証56
図:論証56
三つの判例をまとめると、答案でそのまま使える形になります。
⭐ 論文で書く規範:論証56 立法不作為と国賠法上の違法性 国会議員の立法行為が国家賠償法一条一項の規定の適用上違法の評価を受けるのは、立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害することが明白な場合、あるいはその権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であることが明白な場合に限られる。ただし、そのいずれかにあたるだけでは足りず、国会が正当な理由なく長期にわたって、その改廃その他の所要の立法措置を怠ったと言えることも欠かせない。 (論証56(規範・判例の集積で立てる))
二つの部分、それぞれの役割を分けて持っておいてください。一つ目は、そもそも国会が動くべき場面かどうか。明白性の関門です。二つ目は、動くべきなのに動かなかったと言えるほど、時間が経ったかどうか。時間の関門です。最後に、答案での使い方を確認しておきましょう。立法不作為を争う問題では、まず違憲かどうかの話——本体を論じます。そのうえで、国賠法上の違法性は、もう一段のハードルとして、別に論じます。違憲の結論を、そのまま賠償の結論に流し込まない。今日いちばん持ち帰ってほしいのは、この一言です。ただ、一票の格差のときの「違法」は、選挙という行為そのものが法に反していたか、という評価です。だから違法と言われても、選挙の効力はそのまま維持されました。今日の「違法」は、国が賠償責任を負うかどうかの話です。同じ言葉でも、測っているものが違います。
今日の地図(保存版)
図:今日の到達点
- 憲法訴訟パート4本の到達点
- 対象→判断するかしないか→違憲の言い方と効力→作らなかった場合
- 裁判所が法律を憲法で測る道具が一通り揃った
最後に、憲法訴訟のパート全体を、一度振り返っておきましょう。何を対象に審査するのか。審査するかしないか、どう避けるか。違憲の言い方と、その効力。そして今日、国会が作らなかった場合を見ました。これで、裁判所が法律を憲法で測る道具が、一通り揃いました。ここまでは、裁判所が国家権力を法で縛る仕組みの話でした。では、国が使うお金は、誰が、何によって縛るのでしょうか。そこは、また、じっくり見ていきましょう。
参照条文
- 国家賠償法 1条1項