憲法ゼロから憲法#79

立法不作為と国家賠償

問い:権利を使うのに必要な法律を国会が作らないとき、その人はどの形の訴えで救済を求められるのか。立法が違憲なら、国会議員の立法行為(立法不作為を含む)は直ちに国家賠償法1条1項の「違法」になるのか。判例は、違法となる場合をどう述べてきたのか。

骨組み

  1. 1問題の所在(学説):立法不作為=憲法上の権利の実現に法律が必要なのに、国会がその法律を作らないこと(典型=在外国民の国政選挙の投票)→ 救済として国家賠償請求訴訟が考えられる。権利を侵害する法律を作った立法の作為も同じく国賠で争える。どちらも勝つには立法行為が国家賠償法1条1項の「違法」であることが要る
  2. 2訴えの形(学説・判例):立法不作為が違憲であること自体の確認(具体的な選挙・審査での地位や違法の確認とは別の、抽象的な違憲確認)=一般に否定される(学説・理由=権力分立・実効性に乏しい)。判例は何の確認を求めるかで分ける:平17=改正前の公選法が違法であることの確認は過去の法律関係の確認で却下/次回の選挙で投票できる地位の確認は認容。令4=次回の国民審査で審査権の行使をさせないことが違法であることの確認を適法・認容。国賠請求も認められる
  3. 3国家賠償法1条1項(条文):(法律の定めるところにより賠償を求めることができる)を受けた法律。公権力の行使に当る公務員が、職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたとき → 国又は公共団体が賠償。判例は国会議員の立法行為をこの規定に当てはめ、「違法」となるかを判断している
  4. 4違憲性と違法性の区別(判例 最判昭60・11・21 在宅投票制廃止事件):違法か=国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したか。立法の内容の違憲性とは区別 → 違憲でも直ちに違法とはならない。理由=立法の当否は国民の政治的評価にゆだねる・議員は原則として国民全体への政治的責任にとどまる(の免責もその趣旨)
  5. 5昭60の例外の定式(判例):立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、違法の評価を受けない。当てはめ=在宅投票制度を命ずる明文が無い・は選挙の具体的決定を原則として国会の裁量に任せる → 例外に当たる余地なし・請求棄却(第一小法廷)。基本書の評価=国賠で争う途を事実上閉ざすような判決
  6. 6在外国民選挙権事件(判例 最大判平17・9・14):権利を違法に侵害することが明白な場合や、権利行使の機会の確保に立法措置が必要不可欠でそれが明白なのに国会が正当な理由なく長期にわたって怠る場合など → 例外的に違法。昭60とは「異なる趣旨をいうものではない」(実質的な判例変更とみる見解が有力=基本書)。昭59の法案が廃案の後10年以上何もせず → 違法・過失も否定できない → 各5000円認容
  7. 7女性再婚禁止期間違憲判決(判例 最大判平27・12・16):100日超過部分は平成20年当時・に違反(100日以内は合憲)。違法の評価を受けることがある場合=規定の違憲が明白なのに国会が正当な理由なく長期にわたって改廃等を怠る場合など。国会にとって明白とはいえない → 違法でない・国賠は棄却=違憲でも賠償なし
  8. 8在外国民審査権訴訟(判例 最大判令4・5・25):平27の定式に「そして」で、立法措置が必要不可欠で明白なのに正当な理由なく長期に怠るときは例外的な場合に当たる、と続ける。法案の提出は一度も無いが、検討の契機があったのに、平成18年の公選法改正・平成19年の国民投票法の制定から平成29年の国民審査まで約10年何もせず → 違法・各5000円認容
  9. 9整理と答案(学説):基本書の私見のまとめ=①明白性(権利侵害が明白/立法措置が必要不可欠で明白)+②正当な理由なき長期の懈怠(改正・廃止・定立)→ 違法。答案はまず違憲を論じ、違法は別に論じる。判例はいずれも「場合など」=例示
立法の内容は違憲。では国賠法上も違法か違憲性・必要性が明白か権利侵害が明白/立法措置が必要不可欠でそれが明白違法の評価を受けない(基本書の整理では)平27=国会にとって明白とはいえないいいえはい正当な理由なく長期にわたって怠ったか改廃・定立の立法措置違法の評価を受けないいいえはい例外的に、違法の評価を受ける平17・令4=各5000円認容
判例は例示:どの判決も「場合など」と述べ、2段の要件として並べてはいない。この図は基本書が判例を整理した形(基本書が「私見」と明記したまとめ)で、令4の言い回し(平27の定式に「そして」で平17の後半を続ける)と構造が合う。違憲かどうかは、この前に別に論じる(項目4)。
判決法廷違憲の判断国家賠償項目
在宅投票制廃止事件(最判昭60・11・21)第一小法廷判断せず(違法に当たらないとして、その余の点(違憲性を含む)は判断するまでもなく棄却)棄却:例外的場合に当たる余地なし4・5
在外国民選挙権事件(最大判平17・9・14)大法廷①改正前の公選法が本件選挙(平成8年)当時、在外国民の投票を全く認めていなかったこと(国賠の基礎はこちら)②公選法附則8項のうち在外選挙の対象を比例代表選出議員の選挙に限る部分(遅くとも本判決言渡し後に初めて行われる総選挙・通常選挙の時点で)。どちらも・・・ただし書に違反認容:各5000円2・6
女性再婚禁止期間違憲判決(最大判平27・12・16)大法廷100日超過部分が・に違反棄却:国会にとって明白とはいえない7
在外国民審査権訴訟(最大判令4・5・25)大法廷国民審査法が在外国民に審査権の行使を全く認めていないことが・・に違反認容:各5000円2・8

色の札は出どころ:条文 判例 学説。条文番号は押すと条文が出ます(押せるのは日本国憲法の条文だけ。国家賠償法・公職選挙法・民法・最高裁判所裁判官国民審査法の条文番号は文字のまま)。最判=最高裁判所小法廷の判決、最大判=大法廷の判決。判決の引用は原文どおりの表記。1〜3が問題の所在・訴えの形・国家賠償法、4〜5が昭和60年判決、6〜8がその後の3判決、9が整理。

1問題の所在学説

  • 立法不作為:憲法上の権利を実現するのに法律が必要なのに、国会がその法律を作らないこと。典型は、国外に住む日本国民(在外国民)が国政選挙で投票するための法整備を、国会が行わない場合。
  • 救済の手段として、立法不作為を理由とする国家賠償請求訴訟が考えられる(基本書)。
  • 立法の作為(権利を侵害する法律を作った場合)も、その法律を制定した行為を理由に国賠で争える。
  • 作為でも不作為でも、原告が勝つには、その立法行為が国家賠償法1条1項の「違法」に当たることが要る → 問いは「国会議員の立法行為は、いつ違法になるか」。
×にされやすい形
  • 「国家賠償請求訴訟で争えるのは立法不作為だけで、権利を侵害する法律を作った立法の作為は対象にならない」(作為も同じく国賠で争える。判決も「立法行為又は立法不作為」と書く)

2訴えの形判例学説

  • 違憲審査は、具体的な権利や利益をめぐる争いの中で行われる(付随的審査制)。そこで、どの形の訴えなら裁判所に取り上げてもらえるかが問題になる。
  • 立法不作為が違憲であること自体の確認を求める違憲確認訴訟=一般に否定される(学説)。理由=権力分立・実効性に乏しい。ここで「抽象的な」と呼ぶのは、下の平17・令4のように具体的な選挙・国民審査での地位や違法を確認する訴えと区別するため。
  • 確認の利益=その確認を求めることが、現に存する法律上の紛争の解決のために適切かつ必要か(判決の言葉では「有効適切な手段」か)。認められなければ訴えは不適法(却下)。
  • 判例は「確認なら何でも可」でも「確認は一切不可」でもなく、何の確認を求めるかで分けている(下の表)。
  • 本件の主位的確認請求に係る訴えのうち,本件改正前の公職選挙法が別紙当事者目録1記載の上告人らに衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法であることの確認を求める訴えは,過去の法律関係の確認を求めるものであり,この確認を求めることが現に存する法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために適切かつ必要な場合であるとはいえないから,確認の利益が認められず,不適法である。
  • 選挙権は,これを行使することができなければ意味がないものといわざるを得ず,侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のものであるから,その権利の重要性にかんがみると,具体的な選挙につき選挙権を行使する権利の有無につき争いがある場合にこれを有することの確認を求める訴えについては,それが有効適切な手段であると認められる限り,確認の利益を肯定すべきものである。
  • 平17が地位確認を認容した根拠(判決):上の理由で確認の利益を肯定したうえで、附則8項のうち在外選挙の対象を比例代表選出議員の選挙に限る部分は違憲で無効だから、次回の選挙で在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票できる地位にある、とした。
  • 令4が違法確認の訴えを有効適切な手段とした理由(判決):①審査権の基本的な内容等が憲法上一義的に定められており、行使できない事態が生ずれば憲法上の権利に係る法的地位に現実の危険が生じている ②侵害を受けた後に争っても権利行使の実質を回復できない ③確認判決が確定すれば、国会で違憲の判断が尊重されると解される(・参照)。そう解しても、国会の立法における裁量権等に不当に影響を及ぼすことになるとは考え難い、とした。
  • 加えて、国民審査法が在外国民に審査権の行使を全く認めていないことが違憲であることを理由として、国が個々の在外国民に対して次回の国民審査の機会に審査権の行使をさせないことが違法であると主張され、この点につき争いがある場合に、その違法であることを確認する判決が確定したときには、国会において、裁判所がした上記の違憲である旨の判断が尊重されるものと解されること(憲法81条、99条参照)も踏まえると、当該確認判決を求める訴えは、上記の争いを解決するために有効適切な手段であると認められる。

同じ「違法であることの確認」でも、平17で却下されたのは改正前の公選法が本件選挙のときに違法だったという過去の法律関係の確認、令4で認容されたのは次回の国民審査で審査権を行使させないことが違法であることの確認。

求める内容扱い出どころ
立法不作為が違憲であること自体の確認(具体的な選挙・審査での地位や違法の確認ではないもの)一般に否定される(権力分立・実効性に乏しい)学説
改正前の公職選挙法が違法であることの確認却下:過去の法律関係の確認=確認の利益なし平17
改正後の公職選挙法が違法であることの確認却下:予備的請求(下の地位確認)の方がより適切な訴え平17
次回の選挙で、在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票できる地位にあることの確認適法・認容(公法上の当事者訴訟のうち公法上の法律関係に関する確認の訴え)平17
(予備的請求)次回の国民審査で、国外に住所を有することをもって審査権の行使をさせないことが違法であることの確認適法・認容(同じく公法上の法律関係に関する確認の訴え)令4
(主位的請求)次回の国民審査で審査権を行使できる地位にあることの確認原審は却下。最高裁は確認の訴えとしては有効適切(却下は誤り)としたが、国民審査法の解釈ではその地位にあるとはいえず請求は理由なし。不利益変更禁止の原則により附帯上告を棄却するにとどめた(原審の却下が残る)令4
国家賠償請求訴えとして認められ、違法かどうかが判断される判例(項目4〜8)
×にされやすい形
  • 「在外国民選挙権事件で、最高裁は、改正前の公職選挙法が選挙権の行使を認めていない点で違法であることの確認を求める訴えを適法とした」(過去の法律関係の確認=確認の利益なし・不適法として却下)
  • 「在外国民選挙権事件で、最高裁は、確認請求をすべて退け、国家賠償だけを認めた」(次回の選挙で投票できる地位にあることの確認は認容)
  • 「在外国民審査権訴訟で、最高裁は、確認判決では国会が動かず実効性が無いとして、違法確認の訴えを不適法とした」(適法・認容。確定すれば国会が違憲判断を尊重すると解されることも理由)
  • 「判例は、立法不作為に関する違法確認の訴えを、何の確認を求めるかを問わず適法としている」(平17は改正前の公選法についての違法確認=過去の法律関係の確認を却下。次回の選挙・審査についての確認は適法)

3国家賠償法1条1項条文判例

  • :何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。→ この「法律」が国家賠償法。
  • 国家賠償法1条1項:国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
  • 表記は「当る」「よつて」(制定時のまま改正されていない)。
  • 判例は、国会議員の立法行為(立法不作為を含む)をこの規定に当てはめたうえで、それが「違法」となるかを判断している(項目4〜8)。
  • 過失について:平17は、例外的な場合に当たる著しい不作為については「過失の存在を否定することはできない」とした(項目6)。

4違憲性と違法性の区別判例

  • 事案(最判昭60・11・21 在宅投票制廃止事件):歩行が著しく困難な選挙人が投票所に行かずに投票できる在宅投票制度があったが、昭和26年の統一地方選挙で悪用され、選挙無効・当選無効の争訟が続出 → 国会は昭和27年の改正で制度を廃止し、その後も設けなかった。歩行困難で担架等によらなければ投票所に行けなくなった原告が、昭和43〜47年の8回の選挙で投票できず、廃止と不作為はなどに違反するとして、国家賠償法1条1項に基づき精神的損害の賠償を求めた。
  • 国家賠償法一条一項は、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに、国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものである。
  • したがつて、国会議員の立法行為(立法不作為を含む。以下同じ。)が同項の適用上違法となるかどうかは、国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であつて、当該立法の内容の違憲性の問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容が憲法の規定に違反する廉があるとしても、その故に国会議員の立法行為が直ちに違法の評価を受けるものではない。
  • 区別する理由(判決):議会制民主主義の下では、立法行為の内容にわたる実体的側面は議員各自の政治的判断に任せ、その当否は国民の自由な言論・選挙による政治的評価にゆだねるのが相当。憲法の解釈にも国民の間に多様な見解があり、議員はそれを立法過程に反映させる立場にある。
  • 憲法五一条が、「両議院の議員は、議院で行つた演説、討論又は表決について、院外で責任を問はれない。」と規定し、国会議員の発言・表決につきその法的責任を免除しているのも、国会議員の立法過程における行動は政治的責任の対象とするにとどめるのが国民の代表者による政治の実現を期するという目的にかなうものである、との考慮によるのである。
  • 違憲審査との違い(判決):裁判所が法律の合憲性を判断するのは、既に成立している法律の効力についての判断。そこから、立法過程の国会議員の行動(立法行為)が当然に法的評価に親しむことにはならない。
  • 昭60自身は、立法の内容が違憲かどうかは判断していない(違法の評価を受けないとして、その余の点は判断するまでもなく棄却)。
  • 平27・令4も、違法性は違憲性と区別され、立法過程の行動の評価は「原則として国民の政治的判断に委ねられるべき事柄」と述べて、この区別を引き継いでいる。

ある法律が裁判で違憲と判断されても、それだけで国が賠償責任を負うわけではない。賠償には、国会議員の立法行為が個別の国民に対する職務上の法的義務に違背した(=違法)と言えることが別に要る(項目7の平27がその例)。

出題最高裁は判例を変更し、法律が違憲なら国賠法上も違法とする立場を採った(×)法律が違憲なら、立法活動の当否にかかわらず立法行為は国賠法上も違法(×)空欄A=国賠法上の違法と立法内容の違憲性は区別される

×にされやすい形
  • 「立法の内容が憲法に違反するときは、国会議員の立法行為は当然に国家賠償法1条1項の適用上違法となる」(違憲性とは区別され、直ちに違法の評価を受けるものではない)
  • 「在宅投票制廃止事件は、制度の廃止という立法の作為だけを判断し、立法不作為は判断の対象外とした」(立法行為は「立法不作為を含む」。廃止行為とその後の不作為をまとめて判断)

5昭60の例外の定式と当てはめ判例学説

  • 以上のとおりであるから、国会議員は、立法に関しては、原則として、国民全体に対する関係で政治的責任を負うにとどまり、個別の国民の権利に対応した関係での法的義務を負うものではないというべきであつて、国会議員の立法行為は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているにもかかわらず国会があえて当該立法を行うというごとき、容易に想定し難いような例外的な場合でない限り、国家賠償法一条一項の規定の適用上、違法の評価を受けないものといわなければならない。
  • 「一義的な文言」=憲法の文言が一つの意味にしか読めないこと。その憲法の文言に違反するのに、国会があえて立法する場合が例として挙がる。
  • 形は「〜でない限り、違法の評価を受けない」という否定の形。例外の余地は残している。
  • 当てはめ(判決):
  • 憲法には在宅投票制度の設置を積極的に命ずる明文の規定が存しないばかりでなく、かえつて、その四七条は「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。」と規定しているのであつて、これが投票の方法その他選挙に関する事項の具体的決定を原則として立法府である国会の裁量的権限に任せる趣旨であることは、当裁判所の判例とするところである
  • そうすると、在宅投票制度を廃止しその後前記八回の選挙までにこれを復活しなかつた本件立法行為につき、これが前示の例外的場合に当たると解すべき余地はなく、結局、本件立法行為は国家賠償法一条一項の適用上違法の評価を受けるものではないといわざるを得ない。
  • 結論:上告棄却(請求棄却の原審を結論において是認)。第一小法廷・全員一致。
  • 評価(基本書):立法行為を理由に国賠で争う途を事実上閉ざすような判決。ただし判決は例外の余地を残しており、のちに平17・令4で認容例が出た。

出題空欄B=立法行為が違法となるのは一義的な文言違反などの例外的場合に限る

×にされやすい形
  • 「在宅投票制廃止事件により、立法不作為を理由とする国家賠償は一切認められないことになった」(「容易に想定し難いような例外的な場合でない限り」=例外の余地は残す)
  • 「『憲法の一義的な文言に違反』とは、問題の法律の条文が一つの意味にしか読めないことをいう」(一義的なのは憲法の文言)
  • 「在宅投票制廃止事件は、最高裁判所大法廷の判決である」(第一小法廷。平17・平27・令4が大法廷)
  • 「在宅投票制廃止事件は、憲法には在宅投票制度を設けよとの明文があるが、その違反は一義的とまではいえないとした」(明文の規定が存しない・で国会の裁量)

6在外国民選挙権事件判例学説

  • 事案(最大判平17・9・14):国外に住んでいて国内に住所の無い日本国民(在外国民)は、選挙人名簿に登録されないため、本件選挙(平成8年10月20日の衆議院議員総選挙)当時の公職選挙法では国政選挙で全く投票できなかった。その後、平成10年の改正で在外選挙制度が創設されたが、当分の間は衆議院・参議院の比例代表選出議員の選挙に限るとされた(附則8項)。原告らは、確認請求とあわせて、国会が公職選挙法の改正を怠ったために投票できなかったとして、国に1人5万円の損害賠償を求めた。
  • 違憲性と違法性を区別する点は昭60と同じ(「立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべき」)。
  • 立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるものというべきである。
  • 文言上、「正当な理由なく長期にわたって」が付くのは後半(立法措置が必要不可欠で明白な場合)だけ。前半(権利侵害が明白な場合)には付いていない。
  • 「場合などには」=例示の形。違法となるのがこの2つに限られるとは述べていない。
  • 最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁は,以上と異なる趣旨をいうものではない。
  • 定式の違い:昭60は、立法の内容が憲法の一義的な文言に違反しているのに国会があえて立法する「というごとき」場合を例に挙げた。平17は、権利侵害が明白な場合と、立法措置が必要不可欠でそれが明白なのに正当な理由なく長期にわたって怠る場合を挙げた。
  • 評価(基本書):最高裁は判例変更ではないとの立場だが、実質的な判例変更ととらえる見解が有力。昭60を国賠で争う途を事実上閉ざすような判決とみたうえで、平17はその途を若干拡大した(態度を若干軟化させた)とみる。
  • 在外国民であった上告人らも国政選挙において投票をする機会を与えられることを憲法上保障されていたのであり,この権利行使の機会を確保するためには,在外選挙制度を設けるなどの立法措置を執ることが必要不可欠であったにもかかわらず,前記事実関係によれば,昭和59年に在外国民の投票を可能にするための法律案が閣議決定されて国会に提出されたものの,同法律案が廃案となった後本件選挙の実施に至るまで10年以上の長きにわたって何らの立法措置も執られなかったのであるから,このような著しい不作為は上記の例外的な場合に当たり,このような場合においては,過失の存在を否定することはできない。
  • 賠償額:違憲と判断されたことで精神的損害は相当程度回復されることなどを総合して、慰謝料各5000円(請求は各5万円)。泉徳治裁判官は国賠の部分に反対意見。

出題空欄D=権利侵害が明白な場合や長期の立法懈怠では立法行為も違法となる権利を違法に侵害することが明白でも、立法行為が国賠法上違法となることはない(×)

×にされやすい形
  • 「在外国民選挙権事件で、最高裁は、在宅投票制廃止事件の判決を変更すると明示した」(「以上と異なる趣旨をいうものではない」。判例変更とみるのは有力な見解の評価)
  • 「在外国民選挙権事件は、国会議員の立法行為が違法となるのは、上の2つの場合に限られるとした」(「場合などには」=例示)
  • 「在外国民選挙権事件は、権利侵害が明白な場合にも、国会が正当な理由なく長期にわたって怠ったことを要するとした」(判決の文言では「長期にわたって」が付くのは後半だけ)
  • 「在外国民選挙権事件は、立法不作為の違法を認めたが、国会議員に過失が無いとして賠償を否定した」(過失の存在を否定することはできない=各5000円認容)

7女性再婚禁止期間違憲判決判例学説

  • 事案(最大判平27・12・16):原告は平成20年3月に離婚し、同年10月に再婚した。女性に6箇月の再婚禁止期間を定める民法733条1項のために、再婚が望んだ時期より遅れたとして、規定を改廃しなかった立法不作為の違法を理由に、国家賠償法1条1項に基づき165万円などを求めた。
  • よって,本件規定のうち100日の再婚禁止期間を設ける部分は,憲法14条1項にも,憲法24条2項にも違反するものではない。
  • 以上の次第で,本件規定のうち100日超過部分が憲法24条2項にいう両性の本質的平等に立脚したものでなくなっていたことも明らかであり,上記当時において,同部分は,憲法14条1項に違反するとともに,憲法24条2項にも違反するに至っていたというべきである。
  • 違憲とされたのは100日超過部分だけ。しかも「上記当時」(平成20年当時)において違反するに至っていた、という時点つきの判断。
  • もっとも,法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては,国会議員の立法過程における行動が上記職務上の法的義務に違反したものとして,例外的に,その立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けることがあるというべきである
  • 判決は昭60・平17を「参照」として引いてこの定式を述べている。文言は「違法の評価を受ける」ではなく「受けることがある」。基本書は、平27を、権利侵害が明白な場合(平17の前半)についても長期にわたる改廃の懈怠を要求したもの、と読む(基本書の読み。判決自身が要件を加えると述べたわけではない)。
  • 「明白」でないとした理由(判決が挙げた4点):
判決が挙げた事情
①違憲になった経緯昭和22年の民法改正当時は100日超過部分も含め一定の合理性があった。その後の医療や科学技術の発達・社会状況の変化で、100日超過部分の合理性を説明することが困難になった
②平成7年の判決第三小法廷が、733条を改廃しないことが違法となる例外的な場合に当たると解する余地はないと判断していた → 国会議員が、改廃は基本的に立法政策に委ねられると受け止めたとしてもやむを得ない
③法制審議会の改正案再婚禁止期間を100日に短縮する案が示されたが、100日超過部分が違憲であることを前提とした議論の結果とはうかがわれない
④立法裁量婚姻及び家族に関する具体的な制度の構築は、第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねられる
  • 婚姻及び家族に関する事項については,その具体的な制度の構築が第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねられる事柄であることに照らせば,平成7年判決がされた後も,本件規定のうち100日超過部分については違憲の問題が生ずるとの司法判断がされてこなかった状況の下において,我が国における医療や科学技術の発達及び社会状況の変化等に伴い,平成20年当時において,本件規定のうち100日超過部分が憲法14条1項及び24条2項に違反するものとなっていたことが,国会にとって明白であったということは困難である。
  • したがって,本件立法不作為は,国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものではないというべきである。
  • 結論:上告棄却(国賠請求は棄却)。山浦善樹裁判官の反対意見あり。違憲と違法が別だという区別(項目4)が、結論の形で分かれた例。

違憲になったのは、医療などの発達で後から合理性を説明できなくなったため。規定がある時点で違憲になっていても、それが国会にとって明白になっていたかは別に見る(平27では、先行する平成7年の判決などがあり、明白とはいえないとされた)。

×にされやすい形
  • 「再婚禁止期間の規定が違憲と判断されたので、国家賠償請求も認容された」(違憲だが、違法の評価は受けない=棄却)
  • 「6箇月の再婚禁止期間の全体が違憲とされた」(100日超過部分だけ。100日以内の部分は違反しない)
  • 「違憲が明白かどうかは、裁判所から見て判断される」(「国会にとって明白であった」か)
  • 「国賠が棄却された理由は、平成7年に最高裁が同じ規定について判断していたことだけである」(医療等の発達による違憲化・法制審の案・立法裁量もあわせて挙げる)
  • 「再婚禁止期間違憲判決は、最高裁判所小法廷の判決である」(大法廷)

8在外国民審査権訴訟判例

  • 事案(最大判令4・5・25):在外国民に最高裁判所の裁判官の国民審査で審査権を行使させる制度(在外審査制度)が無く、平成29年の国民審査で審査権を行使できなかった原告らが、国家賠償を求めた(あわせて確認の訴え=項目2)。
  • 違憲:国民審査法が在外国民に審査権の行使を全く認めていないことは、・・に違反する。
  • 違法の定式:平27と同じ文言(違憲が明白なのに正当な理由なく長期にわたって改廃等を怠る場合など)を述べ、続けて——
  • そして、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するための立法措置をとることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠るときは、上記の例外的な場合に当たるものと解するのが相当である
  • 判決は昭60・平17・平27を「参照」として引く。ここでも「場合など」で、限定列挙とは述べていない。
  • 当てはめ(判決):在外審査制度の法律案が国会に提出されたことはない。しかし、平成10年の公選法改正の際に在外審査制度についての質疑があり、平17の判決→平成18年の公選法改正、平成19年の国民投票法(在外国民も投票できる)と、検討する契機があった。課題は運用上の技術的な困難にとどまる。それなのに、平成18年の公選法改正や平成19年の国民投票法の制定から平成29年国民審査の施行まで約10年の長きにわたって、所要の立法措置を何らとらなかった。
  • 以上の事情を考慮すれば、遅くとも平成29年国民審査の当時においては、在外審査制度を創設する立法措置をとることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠ったものといえる。
  • 結論:本件立法不作為は平成29年国民審査の当時において違法 → 各5000円の限度で認容した第1審の判断を相当とした。全員一致。

出題在外国民の審査権を認めない立法不作為は、当時、国賠法上違法とはいえない(×)

×にされやすい形
  • 「在外国民審査権訴訟では、在外審査制度の法律案が一度も国会に提出されていなかったので、国会が長期にわたって立法を怠ったとはいえないとされた」(法案が無くても、検討の契機があったのに約10年何もしなかったとして違法)
  • 「在外国民審査権訴訟では、国民審査法は違憲とされたが、国家賠償請求は棄却された」(違法・各5000円の限度で認容)

9整理と答案での使い方学説

  • 基本書のまとめ(囲みで「私見」と明記):①権利侵害が明白、または権利行使の機会の確保に所要の立法措置が必要不可欠でそれが明白なのに、②国会が正当な理由なく長期にわたって所要の立法措置(改正・廃止・定立)を怠る場合は、違法となる。
  • 流れ:平17は、前半(権利侵害が明白な場合)に長期の懈怠を付けていない(項目6の「後半だけに長期」はこの平17の文言の話)→ 平27は、違憲が明白な場合について、正当な理由なく長期にわたる改廃等の懈怠を付けた(基本書は、権利侵害が明白な場合にも長期の懈怠を要求したと読む)→ 令4は、平27の定式に「そして」で平17の後半(必要不可欠で明白+長期の懈怠)を続けた。だから基本書の整理は ①明白 → ②長期の懈怠 の2段になる。
  • これは判例そのものの言い回しではなく、判例を答案用に整理した形。令4の言い回し(平27の定式に「そして」で平17の後半を続ける)と構造が合う(骨組みの下の図)。
  • 判例はいずれも「場合など」と例示の形で述べる → 「この2つを満たしたときに限り違法」とは書かない。
  • 答案:まず立法の内容(立法不作為)が違憲かを論じる → そのうえで、国家賠償法1条1項の違法を、もう一段のハードルとして別に論じる。違憲の結論をそのまま賠償の結論に流し込まない。
  • 違法を認めた後の過失:平17は、例外的な場合に当たる著しい不作為なら過失の存在を否定できないとした(項目6)。
×にされやすい形
  • 「判例は、立法行為が国家賠償法上違法となるのは、明白性と長期の懈怠の2つを満たした場合に限られると判示している」(判例は「場合など」の例示。2段のまとめは基本書の私見の整理)
  • 「立法の内容が違憲と判断されれば、国家賠償法上の違法は改めて論じる必要がない」(違法は違憲と区別して別に論じる)

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