民法ゼロから民法#21

被保佐人は、原則ぜんぶ自由——制限されるのは、書いてある十個だけ

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第1章 民法総則 ⑯/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

今日の地図——前回、「制限される」と言った、その中身は

四人の比較板の三人目を濃くした地図+今日の問い(決められた行為とは何か/「向きが逆」はあと二か所ある)

  • 四人の比較板の三人目を濃くした地図
  • 今日の問い(決められた行為とは何か/「向きが逆」はあと二か所ある)

前回の最後を振り返っておきましょう。決められた行為だけが制限されるとも言いました。ここで一つ確認させてください。前回の言い方でいう、制限される行為とは何でしょうか?分からなくても大丈夫です。まずは地図から確認しましょう。以前、四人の札を並べましたね。あのとき、もう一つの軸も置きました。「原則の向き」です。今日扱う人は——逆側です。原則、ぜんぶ自由。今日の問いは二つです。一つ目。決められた行為とは具体的に何なのか。二つ目。この「向きが逆」は——今日あと二か所出てきます。守る側の権限と、同意をもらえなかったとき。それがどう逆なのか。

今日はそこまで見ていきましょう。

要件——「著しく不十分」+審判

要件の三段板(①事理を弁識する能力が著しく不十分/②本人・検察官を含む請求/③保佐開始の審判)+成年被後見人の「欠く常況」との程度差+一字違い注記(被保佐人=本人のほう/保佐人=守る側) 図:要件の三段板

  • ①事理を弁識する能力が著しく不十分
  • ②本人・検察官を含む請求
  • ③保佐開始の審判
  • 成年被後見人の「欠く常況」との程度差
  • 一字違い注記(被保佐人=本人のほう/保佐人=守る側)

この人は被保佐人と呼ばれます。名前がつくには、条件が三つそろわないといけません。まずこの条文です。

条文民法11条

民法 第十一条(保佐開始の審判) 精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判をすることができる。ただし、第七条に規定する原因がある者については、この限りでない。

そこが一つ目の大事な違いです。「欠く常況」は、判断する力がいつもの状態として無いという意味でした。「著しく不十分」は——弱ってはいるけれど——無いわけではないという意味です。この一言が今日の話に、そのままつながります。二つ目は請求です。この条文にも、たくさんの人が並んでいますね。今日も注目してほしいのは「本人」と「検察官」です。判断する力が著しく不十分であっても——本人が自分から、この審判を請求できます。検察官は前回と同じ理由です。三つ目は、家庭裁判所の保佐開始の審判です。家庭裁判所が下す、判断のことです。どれだけ判断する力が弱っていても——審判が無ければ、被保佐人にはなりません。

この三つがそろって、はじめて——被保佐人となります。ここで一つ確認しておきます。「被保佐人」——「被」の字が入っているほうが本人のほうです。「保佐人」——「被」の字が入っていないほうが守る側です。迷ったら——「本人のほう」「守る側」と言い換えて聞いてください。

山場——制限されるのは、書いてある十個だけ

3分岐の効果板(十個のどれかに当たる→同意が要る/13条2項の審判があった行為→同上/それ以外→単独で自由)+「同意」という言葉がはっきり出る条文だという注記 図:3分岐の効果板

  • 十個のどれかに当たる→同意が要る
  • 13条2項の審判があった行為→同上
  • それ以外→単独で自由
  • 「同意」という言葉がはっきり出る条文だという注記

では、ここから今日の話に入ります。被保佐人が一人で契約をしました。どうなるのでしょうか。今日は違います。この条文を見てください。

条文民法13条1項(1/2)

民法 第十三条(保佐人の同意を要する行為等)第一項 一号から五号 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。 一 元本を領収し、又は利用すること。 二 借財又は保証をすること。 三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。 四 訴訟行為をすること。 五 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。

条文民法13条1項(2/2)

民法 第十三条第一項 六号から十号 六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。 七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。 八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。 九 第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。 十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。

前回の九条とは、ここが違います。この条文には——最初から「同意」という言葉が、はっきり出てきます。でも、大事なのは数ではありません。この条文の書き方そのものです。「次に掲げる行為をするには」——つまり——同意が要るのは、この十個の行為だけです。逆に言えば——この十個に載っていない行為は——原則、一人で自由にできます。前の二人は原則、ぜんぶ制限で、例外だけ自由でした。被保佐人は——原則、ぜんぶ自由で、この十個だけが制限されます。お弁当はこの十個に、そもそも載っていません。だから、そもそも制限の対象外なんです。

日用品の話の理由は後ほど確認しましょう。今日、まず押さえてほしいのは——この十個「だけ」が同意を必要とする、ということです。

十個を、五つの束で

十個の一覧板・五つの束(①財産の元手/②他人に委ねる・争いを終わらせる/③一度きり/④生活の土台/⑤他人の財産に及ぶ) 図:十個の一覧板・五つの束

  • ①財産の元手
  • ②他人に委ねる・争いを終わらせる
  • ③一度きり
  • ④生活の土台
  • ⑤他人の財産に及ぶ

この十個、丸ごと覚える必要はありません。大事なのは、「なぜこの十個なのか」という理由です。理由で五つの束に分けてみましょう。一つ目の束。財産の元手そのものが動く行為です。元本の受け取りや利用。借財や保証。重要な財産の得喪。利用は、元手を人に貸すなど、動かして使うことです。二つ目の束。他人に判断を委ねたり——争いを終わらせたりする行為です。訴訟行為。贈与や和解、仲裁合意。五号が三つを一つの号にまとめています。贈与は、見返りなしに財産が出ていく行為です。三つ目の束。一度きりで、取り返しがつかない行為です。相続の承認や放棄。遺産の分割。贈与の拒絶や遺贈の放棄も、ここです。

四つ目の束。生活の土台に長く効く行為です。新築、改築、増築、大修繕。それから、法律で決まった期間を超える賃貸借です。そして五つ目の束。他人の財産にまで及ぶ行為です。これは十号のことです。このあと、お母さんと子どもの場面でじっくり扱います。数字ではなく、この五つの理由で覚えてください。

山場——一号の境目:元本と、果実

元本と果実の対比板(貸していた百万円が返ってきた=要同意/その利息三万円だけを受け取った=要らない)+理由(財産の土台が動くか実りだけを受け取るか) 図:元本と果実の対比板

  • 貸していた百万円が返ってきた=要同意
  • その利息三万円だけを受け取った=要らない
  • 理由(財産の土台が動くか実りだけを受け取るか)

では、一つ目の束から境目を確かめておきましょう。お父さんが友人に、百万円を貸していたとします。その百万円が返ってきたので、受け取りました。これは一号の、「元本を領収する」にあたります。保佐人の同意が要ります。ここが今日、最初の境目です。じっくり考えてみましょう。この百万円、実は返ってくる前から——「百万円を返してもらう権利」という、財産の形で持っていました。現金の百万円が手元に入る、代わりに——「返してもらう権利」という財産は、消えて無くなります。財産の土台そのものが動いています。だから、保佐人の同意が要るんです。

あのときは「単に権利を得る」にあたるかどうかの話でした。条文は違いますが、財産が入れ替わるという見方は同じです。では、同じお金でも——その百万円に付いた利息、三万円だけを受け取ったとしたら、どうでしょうか。実は、これは同意が要りません。利息は、元手からは離れた実りです。元本という財産の土台には、手をつけていません。それに——もし、賃料や利息を受け取るたびに、同意が要るとしたら——毎月の暮らしが回らなくなります。

山場——四号の境目:訴える側と、訴えられる側

訴える側/訴えられる側の対比板(自分から裁判を起こす=要同意/訴えられた側として応じる=要らない)+理由(攻めの決断か守るだけの行動か) 図:訴える側/訴えられる側の対比板

  • 自分から裁判を起こす=要同意
  • 訴えられた側として応じる=要らない
  • 理由(攻めの決断か守るだけの行動か)

もう一つ、境目を見ておきましょう。二つ目の束、訴訟行為です。お父さんが、貸したお金を返してほしいと——自分から裁判を起こしたとします。保佐人の同意が要ります。では、逆の場合を見てみましょう。お父さんが隣人から——境界線について訴えを起こされました。それに応じる場合は、どうでしょうか。実は、こちらは同意が要りません。別に条文があります。

条文民事訴訟法32条1項

民事訴訟法 第三十二条(被保佐人、被補助人及び法定代理人の訴訟行為の特則)第一項 被保佐人、被補助人(訴訟行為をすることにつきその補助人の同意を得ることを要するものに限る。次項及び第四十条第四項において同じ。)又は後見人その他の法定代理人が相手方の提起した訴え又は上訴について訴訟行為をするには、保佐人若しくは保佐監督人、補助人若しくは補助監督人又は後見監督人の同意その他の授権を要しない

民事訴訟法という別の法律です。なぜ分かれるのか考えてみましょう。自分から裁判を起こすのは——費用も、時間も、負ける危険も、自分の判断で背負いにいく行動です。だから、保佐人の目を通します。では、訴えられた側はどうでしょうか。しかも、もし応じることにも同意が要るとしたら——保佐人の同意を待っている間に——反論する機会そのものを失いかねません。訴えを起こした隣人のほうも——手続きが宙に浮いて困ってしまいます。応じる行為そのものは、新しく危険を背負いに行く行動ではありません。攻めか守りか——ここが四号の境目です。

十号——近年の改正で、一つ足された

母子の関係図(A=母・被保佐人がB=子・未成年者の法定代理人としてC=相手方から貸金の返済を受け取る)+十号にあたるという注記 図:母子の関係図

  • A=母・被保佐人がB=子・未成年者の法定代理人としてC=相手方から貸金の返済を受け取る
  • 十号にあたるという注記

最後の束、五つ目に進みましょう。他人の財産にまで及ぶ行為です。こういう場面を考えてみましょう。被保佐人であるお母さんが——自分の未成年の子どもの法定代理人として——子どもが貸していたお金を、代わりに受け取りました。子どもの財産です。実は、これも保佐人の同意が要ります。もう一度、さきほどの条文の最後、十号を見てみましょう。「前各号に掲げる行為を——制限行為能力者の法定代理人としてすること」。今の場面は——一号の「元本を領収する」を——お母さんが、子どもの法定代理人としてしています。だから、十号にあたるんです。

この号が無いと、どうなるか考えてみてください。「自分の財産じゃない、子どもの財産だから」という形で——保護の外側に逃げられてしまいます。だから、十号でその抜け道をふさいであるんです。もう一つ、この条文には大事な括弧書きがあります。この十号の中に——他の制限を受けている人たちの名前も——まとめて書かれているんです。この条文自身が——「制限行為能力者」という言葉の定義をしているんです。ちなみに、この十号——実は、近年の改正で新しく足された条文です。もし、手元に古い問題集があったら——この十号は載っていない、可能性があります。

日用品は、ここでも外れている

13条1項ただし書=9条ただし書を引くという条文の作り+成年被後見人にとっての「例外の例外」と被保佐人にとっての「そもそも十個に無い行為」の対比 図:13条1項ただし書

  • 9条ただし書を引くという条文の作り
  • 成年被後見人にとっての「例外の例外」と被保佐人にとっての「そもそも十個に無い行為」の対比

さて、十個の話が一段落したところで——条文のただし書に戻りましょう。さっきの十三条一項、もう一度末尾を見てください。「ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない」。前回の条文が、そのままここでも引かれています。「日用品の購入その他日常生活に関する行為」——この枠組みは、前回渡したあの理解が、そのまま使えます。ただ、ここで一つ確認しておきたいことがあります。前回の成年被後見人にとって——日用品の購入は、「例外の例外」でした。では、今日の被保佐人にとってはどうでしょうか。だから、日用品の購入は——「例外の例外」ではなく——そもそも、十個に載っていない行為の一種なんです。

冒頭のお弁当の話——「理由がまったく違うんです」と言いましたね。ここで、その伏線を回収しておきました。

山場——十個の外側にも、足せる

十個のリストの外側に広げる審判の図(枠の外に矢印で「同意を要する旨の審判で追加」)+設例(五万円を超える買い物には同意を要する)+「以外」という条文の言葉の強調 図:十個のリストの外側に広げる審判の図

  • 枠の外に矢印で「同意を要する旨の審判で追加」
  • 設例(五万円を超える買い物には同意を要する)
  • 「以外」という条文の言葉の強調

ここまでの十個、実は——全ての被保佐人に共通する行為です。でも、人によっては——この十個には載っていない、固有の弱点があることもあります。ここで一つ聞いてみます。十個の外側にある行為には——絶対に同意は、いらないのでしょうか?でも、実は——外側にも広げられる審判があります。この条文です。

条文民法13条2項

民法 第十三条第二項 家庭裁判所は、第十一条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により、被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。

そこが今日、一番注意してほしい言葉です。「以外」——つまり、十個の外側です。具体例で見てみましょう。お父さんが投資の話に弱かったとします。そこで保佐人が、家庭裁判所に頼みます。「五万円を超える買い物には、同意を要するという審判を出してください」。でも、家庭裁判所が認めれば——この行為も、同意が要る対象に加わります。十個のリストは、保佐が必要な人全員に共通する——いわば、最低限のガードレールです。でも、人によっては、その外側にその人固有の弱点があります。ここで一つだけ、開けておきます。実は——同じ十個のリストを、まったく逆向きに使う人が——この先出てきます。

今日はそこまでにしておきます。

山場——同意してくれないとき、本人が家庭裁判所に行ける

保佐人が正当な理由なく同意しない場合のフロー(保佐人が同意しない→本人が家裁に請求→同意に代わる許可)+未成年者・成年被後見人にはこの仕組みが無いという注記 図:保佐人が正当な理由なく同意しない場合のフロー

  • 保佐人が同意しない→本人が家裁に請求→同意に代わる許可
  • 未成年者・成年被後見人にはこの仕組みが無いという注記

さて、ここまで保佐人の同意が要る場面を見てきました。では、もし保佐人が同意してくれなかったら、どうなるでしょうか。実は、まだ手立てがあります。お父さんが施設に入るために——自宅を売りたいと考えたとします。でも、保佐人がなかなか同意してくれません。実は、ここでお父さん自身が——家庭裁判所に行くことができます。この条文です。

条文民法13条3項

民法 第十三条第三項 保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。

ただし、条件があります。保佐人が本人の利益を害する、おそれが無いのに——それでも同意しないときです。そのときは家庭裁判所が——保佐人の同意に代わる許可を出してくれます。考えてみてください。保佐人の同意が絶対条件なだけの仕組みだったら——保佐人が理由なく渋るだけで——お父さんの生活が止まってしまいます。それは保護ではなく——支配になってしまいます。だから、この逃げ道が用意されているんです。実は——この仕組み、未成年者にも——前回の成年被後見人にもありません。未成年者の条文にも、成年被後見人の条文にも——対応する規定は無いんです。なぜだと思いますか。

うーん……前の二人は、判断する力がほとんど無いから——保護者の判断に、そのまま頼るしかないんですかね。判断力が著しく不十分、止まりのこの人だからこそ——保護者の拒否に対して、逃げ道を持たせても——仕組みが成り立つんです。ここも、向きが逆です。保護者の同意が、行き止まりではありません。

取消権は、ここで生まれる

帰結板(十個の行為または13条2項の対象行為→同意/許可を得ずにした→取り消すことができる)+120条1項(保佐人が取消権者にあたる)の呼び戻し 図:帰結板

  • 十個の行為または13条2項の対象行為→同意
  • 許可を得ずにした→取り消すことができる
  • 120条1項(保佐人が取消権者にあたる)の呼び戻し

では、ここまでのまとめとして——同意が無かった場合、どうなるかを確認しておきましょう。

条文民法13条4項

民法 第十三条第四項 保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる

だから、冒頭の自宅の契約——あれは、三号の「不動産その他重要な財産に関する権利の得喪」にあたります。保佐人の同意が無かったので——取り消すことができます。ちなみに、誰が取り消せるかは——前々回、未成年者のところで見た、あの条文がそのまま使えます。今日の場合は、保佐人がそこにあたります。

山場——保佐人には、代理権が無い

四つの道具の板・三枚目(同意権○・取消権○・追認権○・代理権×=当然には無い)+前回の「同意権が最初から無い」形との対比 図:四つの道具の板・三枚目

  • 同意権○・取消権○・追認権○・代理権×=当然には無い
  • 前回の「同意権が最初から無い」形との対比

さて、ここまでは同意という道具の話でした。ここで、視点を変えてみましょう。守る側——保佐人が持っている道具を確かめます。その前に、この人は誰が選ぶのかを見ておきましょう。保佐人は家庭裁判所が職権で選任します。十二条と八百七十六条の二です。ちなみに成年後見人の選任は八百四十三条です。似た制度なのに条文番号が違うので、そこは混同しないでください。では、道具を一つずつ確かめましょう。同意権は——今日、ずっと見てきたとおりあります。取消権も——さきほど確認した百二十条一項であります。追認権も——取り消せる行為を、あとから確定させるあの権利です。あります。

ここが今日、最後の山場です。保佐人には——代理権が当然にはありません。前回とは逆です。この人にはまず、代理権が無いところから始まります。必要な場合は、審判で個別に与えられます。この条文です。

条文民法876条の4第1項・第2項

民法 第八百七十六条の四(保佐人に代理権を付与する旨の審判) 家庭裁判所は、第十一条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求によって、被保佐人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。 2 本人以外の者の請求によって前項の審判をするには、本人の同意がなければならない。

全部をまとめて渡すのでは、ありません。具体例で見てみましょう。お父さんが入院したとします。保佐人が代わりに、入院費を支払いたいと思いました。できません。まず、代理権を付与する旨の審判が要ります。この人は——だいたい自分で決められる人です。もし保佐人が勝手に、代理で決められたら——本人の決める力を、そのまま横から取ってしまいます。もう一つ、大事な点があります。二項を見てください。「本人以外の者の請求によって……本人の同意がなければならない」。代理権を持たせる、その入り口にまで——本人の意思が組み込まれています。

前回、四つの道具のうち——成年被後見人には、同意権だけが無いという形でした。今日は、代理権だけが最初から無いという形です。ここが今日、最大の弁別点です。

登記/審判の取消し

三つの審判が後見登記等ファイルに記録される図(保佐開始の審判/同意を要する旨の審判/代理権付与の審判)+審判の取消しフロー(原因が消滅→請求→保佐開始の審判の取消し) 図:三つの審判が後見登記等ファイルに記録される図

  • 保佐開始の審判
  • 同意を要する旨の審判
  • 代理権付与の審判
  • 審判の取消しフロー(原因が消滅→請求→保佐開始の審判の取消し)

最後に、二つ確認しておきましょう。一つ目は、登記です。前回、この審判のことを——「外から見える札」と呼びましたね。今日は、その中身をもう一段進めます。今日、出てきた審判は実は三種類ありました。保佐開始の審判。同意を要する旨の審判。そして——さっきの、代理権を付与する旨の審判です。三種類とも——法務局の後見登記等ファイルに記録されます。今日は三種類なんです。もう一つ、確認しておきましょう。判断する力が戻ったら、どうなるでしょうか。実は、それだけでは終わりません。この条文です。

条文民法14条1項

民法 第十四条(保佐開始の審判等の取消し)第一項 第十一条本文に規定する原因が消滅したときは、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判を取り消さなければならない

前回と同じで——審判で、始まり、審判で、終わります。「札」は、実際の判断能力とは別に動いているんです。

今日の地図(保存版)

まとめ板(三つの場所で同じ向き:制限の範囲=十個だけ/保護者の権限=代理権は当然には無い/同意をもらえないとき=本人が家裁に行ける)+「本人に、決める力を、残す」という一文 図:まとめ板

  • 三つの場所で同じ向き:制限の範囲=十個だけ
  • 保護者の権限=代理権は当然には無い
  • 同意をもらえないとき=本人が家裁に行ける
  • 「本人に、決める力を、残す」という一文

今日、見てきたことを一つにまとめましょう。今日、「向きが逆」という言葉が——三つの場所に出てきました。原則、ぜんぶ自由。条文に書いてある——十個だけが制限されます。代理権は当然にはありません。必要な場面だけ、審判で個別に与えられます。保佐人が、正当な理由なく同意しないときは——本人が家庭裁判所に行けます。実は、一つの向きを向いています。制限する範囲を絞り込むこと。代理という形で、決める力を奪わないこと。保護者の拒否で、本人の生活を止めないこと。この制度は——取り上げる制度ではなく——足りないところにだけ、そっと手を添える制度なんです。さて、次の人にも——同じ十個のリストが出てきます。

同じ十個のリストを——今度は逆から使う人がいます。どう逆になるのか。

参照条文

  • 民法11条
  • 民法13条1項(1/2)
  • 民法13条1項(2/2)
  • 民事訴訟法32条1項
  • 民法13条2項
  • 民法13条3項
  • 民法13条4項
  • 民法876条の4第1項・第2項
  • 民法14条1項

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